仁助と楓の婚儀が終わり、二人は晴れて夫婦となった。楓は仁助の屋敷に移り住み、楓の屋敷は住居兼病院から完全に病院へと変化した。
そもそも婚儀より前から武士達からも民人からも夫婦扱いであった為、本人達の変化はあれど周囲には殆ど変化はなかった。
婚儀の前に楓の実家に挨拶に行ったものの、出奔したいき遅れの娘のことなど知らぬ。勝手にすれば良い。と追い返され、楓より仁助が大層怒っていたようで蓬莱城の者達が戦々恐々としていた。道元や最上からすれば女だてらに医学を修め、年ごろとなっても結婚もせず、実家を出奔していたから勧誘したので当然の流れと理解していた。むしろ顕金駅と聞いて擦り寄ってきたらどうしようかと考えていたくらいである。
楓の実家は楓が男を伴い戻ってきて、結婚の挨拶だと言った時点で叩き出したので、楓が顕金駅で確固たる地位におり、相手も顕金駅の武士とは聞いていなかった。数年後その事実を知り大層慌てるが、最後まで話を聞かずに叩き出したのが悪いのである。
そんな状態であり、仁助にも親族がいないことから結納はろくに行われなかったが、仁助はどうにか色打掛を用意して楓に贈ることができた。楓も嫁入り道具も持参金もないが、病院となった楓の屋敷が嫁入り道具みたいなものである。
二人の婚儀は顕金駅で盛大に祝われることになり、2日前から蓬莱城が久手駅に入り、前日の早朝に水揚げされた魚をまだ残る雪で冷蔵しながら全速力で顕金駅へと輸送し、甲鉄城は3日前に宍道駅に行き寒しじみを生きたまま輸送した。かかった資金は普段飲み食いにしか金の使いどころのない武士達からのカンパである。駿城の行き先の都合は菖蒲が道元達に交渉した。交渉と言っても運行表があるわけでもないので、そこまで大袈裟なものではなく道元達は直ぐにのってきた。なにせ楓は顕金駅唯一の医者であるので。
このご時世の一武士の婚儀とは思えぬ程の豪華さであった。というのも唯一の医者と顕金駅脱出当初から尽力した武士であるし、何より慶事に飢えていた。初夜など決して邪魔が入らぬように最上が病院で泊まり込みをすることになった程である。
仁助と楓が結婚したことにより一つだけ問題がある。
現在の顕金駅において出産は、楓の病院で女達と楓が担当しており、楓が出産の際万が一があっては困るため、以降出産の際は経験を積ませるためにまさかの最上が呼びつけられることになった。
顕金駅には楓のみしか医者はおらず、最上、仁助しか医者の代理はいない。楓が出産する際、仁助の方が技術が下であるし、妻の一大事に仁助が冷静とは思えないので、必然的に最上も経験を積むことを要求された。
出産に立ち会う家老。異常である。
楓を確保できたのが奇跡であり、未だ医者探しは続けているが成果は出ていない。出産自体が多くはない中、そうそう切開を必要とする出産がある訳もなく、最上はただ立ち会うだけという状態であり、中々慣れないことから、出産に立ち会うと憔悴して帰宅するのが常である。
甲鉄城の時とは違い、麻酔も使えるし、器具もちゃんとしたものがある。ひと通り最上も仁助も使えるようになっているが、相手が妊婦では麻酔は使えない。
とうとう切開を要する出産があり、最上が補助に入ることになった。輸血と点滴をしながらなんとか無事に手術が成功し、母子共に無事であったが最上は燃え尽きた。その他の手術にあっては最上の方が優秀だが、こと出産に限っては仁助の方が余裕がある。補助の手は止めないものの最上はビビり倒しており、終わった頃には手術を受けた女の次にぐったりしていた。
いざというとき仁助が役に立つかわからないからと始まった立ち会いであるが、このままなら仁助の方がマシという結果であるため楓の出産まで何度も呼びつけられるのは余談である。
民人達は逞しく、以前と違い駅に食糧の余裕もあることから子作りが盛んであるため、ぽつりぽつりと出産があるのだ。
結婚から数ヶ月後、楓の妊娠報告を聞いて周囲が沸き立つ中、最上だけが血の気の引いた顔で微妙な表情をする未来が待っている。
現代の麻酔は使えるけど、あの時代感じゃ妊婦に麻酔はむりよね。
痛がる野郎を押さえつけて傷を洗浄したりするのは平気だけど、出産はなんかびびってるホモ君。
仁助の結納は一応やってますが、あれって嫁入り衣装を用意する反物とか贈ったりしてたのが、お金や保存食とかに変わったみたいなので原点回帰してますね。ただ家同士の儀式としてはできてないので結納をちゃんとしたとは言いがたいのがなんとも。
ただあの世界でだと保存食より、金か本来の反物や帯とか贈るほうが楽よね。だって保存食海の幸…。