春先の朝議の場で告げられたのは驚きの内容であった。
「一週間後に小田駅を奪還することが決まりました。」
朝議に参加していた武士達が、ちらりと道元達を窺うが平然としていることから、八代駅の時と違って話はついているらしい。
小田駅とは顕金駅の西側に位置し、顕金駅のひとつ手前の駅である。顕金駅が落ちた日、甲鉄城が通常の到着時間より早く着いたのは、小田駅がカバネにのまれていたため素通りしたからである。
「神西駅、速谷駅、宍道駅、久手駅と合同で行います。小田駅は食糧生産を主産業としていました。食糧の確保はどの駅においても重要課題です。小田駅は八代駅のように縁者もおりません。合同で管理することとなります。」
「菖蒲様。合同で管理と申しましても我が駅には政のできる人員に余剰はないかと。」
来栖が意見を出す。領主代行ではないからと最上出すとも思えない。かと言って、他駅から派遣される役人と肩を並べて働ける者が他にいるとも思えない。
「それについては最上から説明します。」
「はい。来栖が言ったように顕金駅には役人の余剰などない。故に奪還については顕金駅のみで請け負い、その後の管理を他駅で行う。共同管理となるため、領主そのものは設けない。」
「それは後々利権とかで損はしないのか?」
「おっ?来栖。そういったことにも気が回るようになってきたな。今回については全く問題ない。奪還自体はうちがするからな。他駅は戦うことなく残った流民の行き場ができる。」
「…?だが奪還後は他駅に任せるのだろう。」
「間諜は入れるし時折監査はする。お前らは感覚が麻痺しているが、独力で駅を奪還できるなど異常だ。何駅か合同で死人を多数出しながら奪還するのが普通だろう。独力で駅を奪還できる戦力を保有している駅など、普通は怖いに決まってる。ましてうちに戦狂いしかいないなら、利益を誤魔化して上手いことやるかもしれんが、うちには道元様がおられるのでな。頭もある強い駅を敵にまわしたい駅などおらんよ。少なくとも共同管理の駅は戦力がそんなに高くない。最初に交わした契約を反故にしてうちの不興を買うようなことはせん。なんのために行商で余所の家老を乗せて実演してやっていたと思っている。売りやすいという利点もあるが、戦力を見せつけるためだ。速谷駅などうちの隣だぞ。やらかせば真っ先に狙われる。」
(あれ?また脅迫系統?)
(俺達が政できたらしなくていい脅迫だけどな。)
「久手駅はうちと対立しても損しかしない。久手の規模じゃ他の駅にのまれるだけだ。うちに従順な態度を示した方が利益を長く得られる。宍道駅は四方川家と縁が深いから多少は信用している。4駅中2駅はほぼうちのいいなりだ。」
((散々使っておいて多少なんだ。))
「奪還には、蓬莱城の面子と来栖と瓜生、狩方衆も突っ込む。蓬莱城のみでの奪還となる為、他駅との折衝もない。話は既についているから、お前らはいつも通りカバネを討伐するだけだ。蓬莱城が普段からあっちこっちでカバネを討伐してるから、小田駅のカバネもそうは多くない筈だ。すぐに終わるさ。」
春先に行われた奪還作戦は、最上の言った通り数日で終了した。各駅の役人や一部の民人、流民を引き入れ、蓬莱城が立ち会いの元、カバネがいないことを最終確認し、蓬莱城は要所に掃射筒を設置後撤収となった。
各駅から食糧や物資が運び込まれ急速に復興が進んだ。農業に詳しい者が音頭をとり、田畑の整備が進められた。顕金駅の蒸気鍛治ほどの専門性はないため、農業は学の無い流民でもある程度こなすことができる。各駅の役人や武士達の為にというお題目で、顕金駅から使用人が何人か移り住んだ。勿論間諜をさせる為である。
顕金駅から移り住まねばならない為、貧乏くじのようではあるが顕金駅から近く、食糧を主産業とする駅であるため間違っても飢える事はない。顕金駅の庇護下で食糧豊かな駅ならば、妥協できる範囲内である。最上の屋敷で見習いをする者は多く、良い立場は先に一人前になった者がついているため、これから再興する小田駅は身を立てるのには良い場所であるのだ。
使用人達は個人に雇われるというより、旧領主の屋敷の管理が仕事である。役人や武士達の主な仕事場であるので、細々とした雑事が発生するのだ。最上が屋敷で育てる使用人兼間諜は、噂話やら普段の仕事で見聞きすることをまとめて報告するのが仕事であり、本職の間諜のように書類を盗み見たり、忍び寄って聞き耳を立てる事は求められていない。
緊急の連絡手段として道元の鳩も小田駅を行き来できるようにする予定である。距離としては八代駅や宍道駅より近い為、巣箱に慣れさえすれば直ぐに行き来できるようになる。普段から行き来せねばいざという時に使えない為、使用人は訓練がてらばんばん手紙のやり取りもできる。
緊急の際直ぐに助けに行けるように、伝書鳩を訓練しますよ。という名目もあるし、そもそも共同管理のうちの一駅であることから、鳩を飛ばして咎められることもないのである。
顕金駅の隣であることから、いつ顕金駅から監査に来るかわからない為、心理的に不正もかなり難しい。監査をするのは最上を予定しているが、抑圧してばかりだと碌なことにはならないのでそこまで厳しくする予定はない。
不正なく食糧さえ生産してくれればいいのだ。
駅の運営に関わらない顕金駅が監査をするため、監査役が自分の駅の不正を見逃しただのといったことで、大きく揉めることにはならない。
最上は賄賂を受け取るようなタイプではないので、小田駅で弱味を作ったり、告発される心配は皆無である。なにせ小田駅で私腹を肥やしたとてリスクと見合わないのだ。小金稼ぎより食糧の方が大切であるので。
小田駅では長期保存可能な米や豆などの穀類作付け範囲が指定され、そこで生産される穀類をそれぞれ1割ずつ得ることになっている。残りの5割は小田駅で消費したり、立ち寄る駿城への販売用である。領主のいない小田駅は他からの流民を受け入れる予定は現状ないため、現在の住民の数であれば1割5分程度しか消費しない。残りの1割を立ち寄る駿城に売り、2割5分を備蓄に回しておくことになる。
穀類以外の農作物は、穀類の作付け指定範囲以外の畑の面積から算出した石高の1割相当を受け取る権利があり、各駅の駿城が適宜役人経由で受け取り、役人が各駅の帳簿に都度どの程度受け取り、後どの程度受け取れるかを記録していく形である。権利の1割相当の受け取りを終えれば、以降は購入という形となる。こちらは備蓄しようがないため立ち寄る駿城に積極的に売られていく。
各駅から数は少ないが、商人も移り住んだ。各駅が穀類以外の食糧を定期的に受け取りや購入に来るため、商人は駿城から農作物以外を買い付け販売することになる。
顕金駅は木材や石炭や炭、交易で得た物品、神西駅は竹製品、速谷駅は織物、宍道駅は川魚やしじみの佃煮や醸造品、久手駅は塩や干物などが集まるのだ。もとより金剛郭に割り振られた駅ごとの役割が被らないようになっているため、小田駅には各駅の物が集まることになる。駿城の整備や製鉄を主としている顕金駅は、商品が小田駅にとって日用品にならないため主産業の提供ではない。
顕金駅、神西駅、速谷駅、宍道駅、久手駅の5駅は、いざという時に備蓄の総量から1割ずつ受け取ることができる。備蓄量が安定すれば、入れ替えの際に各駅へ安価に販売されることになる。
小田駅は交易拠点となったため、数年後かなり裕福な駅となるのだがそれは余談である。
小田駅を共同管理することになり、他の4駅は形上は同盟駅、実質顕金駅の傘下となった。金剛郭が今も健在であれば、再興をして終わりであったが金剛郭なき今、出雲をまとめる必要があるのだ。現在出雲の駅で顕金駅と友誼を結びたい駅は他にもあるが、政治面における弱さがまだまだ補えていない為、急速な勢力の拡大は控えている。政治的な強さも兼ね備えていれば、出雲の駅全てを傘下に加えてもよかったのだが、現在の状況では同盟を名目とした形が精々である。
損得勘定から裏切らないとわかる駅を選んだのも、それが一番の理由である。
農家さんの一人当たりの生産量がやべえので、小田駅は凶作の年とかでなければじゃぶじゃぶ儲かります。年貢を納めるべき金剛郭もないし、領主もいないし、食糧生産が主産業の駅でなければ割といつでも食糧は貴重なのでよく売れます。
5割を各駅で分配と考えると、金剛郭あった時と変わらんやろ(江戸時代の年貢は五公五民くらい)ってなるけど、金剛郭に5割納めて残りの5割を流民含めみちみちの自駅で消費+他駅へ提供てのと大分差があります。あの世界観トラクターは無くても耕運機くらいはありそうなので、江戸時代より生産性が高い。
めちゃくちゃ食糧あるやんってなりますが、それだけ死んでるからですね。
顕金駅、八代駅、小田駅が一度カバネにやられてますから、出雲の総人口かなり減ってると思います。
さらに言えば顕金駅が狩りしたり、山の幸確保したり、久手駅に魚獲らせまくったりして駅外の物めっちゃ食ってたから、認識バグりますが大体何処も自駅の生産分じゃ民人養うのかなりキツキツです。故に奪還作戦時の顕金駅の恐喝は大分ヘイト集めてました。(道元様が)