百合エロゲー?の世界で偽狩人は生き延びる 作:レンガチェッカー
「どうかエルアラドにおぞましい淫魔をけしかける狂人の居場所を暴いてほしい。ヤツは放置などしようものならいずれ世界にけしかける災厄へ変貌を遂げるだろう」
魔女に願った。
復讐先を助けるような内容だけど。
でも未来がかかっている。
お断りされる欠陥があるとすれば忌み地とされる場所の住民が未来を欲してるかと聞かれたら首を傾げる点だ。
「__それだけじゃないでしょう?全て口にしなさい」
「……居場所を突き止められれば共に戦ってはくれないだろうか」
あまりにも図々しいお願いしてるぞ自分。
そういう体で殺されるのでは?
「それでいいの」
心臓がバクバクうるさい。
緊張感で手に変な汗出てくるし。
「悩める同胞よ、手を貸しましょう」
嘘でしょ……器が広すぎるやろ。
なんで!?
落ち着け劣化シグルド、話は終わってない。
「ありがたい。物資はできる限りこちらでも調達する……合法な物品であればだが。まぁ、国の法など魔女と結託してからではもう遅い話ではあるけども」
「助かるわ」
いやー、シグルドがポンコツですまない。
本当であればもっと前からルドルフのハウスを知っていたんだけどね。
「先走るような話になるが居場所を突き止められるまでにかかる日数を聞いても?」
1ヶ月先ですと言われると厳しい。
2度目の大規模な侵略がすでに始まるかもしれないからだ。
「国中を探すと10日くらいかしら?」
「では洞窟や荒野といった場所に場所を絞った場合は?」
「まる1日ってところね。私の鴉たちは賢くていい子達だから」
1日かぁ、それだとスムーズに……えっ!?
仕事が早すぎだろ!!
協力OKしてくれたしやっぱり人はわかりあえるんだよ。
……それはいい過ぎか。
「なら、そこにいると思われるから捜索を頼む。次に対価だ、私から差し出すものが何かあるなら言って欲しい」
「ない」
「へ?」
あっ。
「ふふ、敢えて言うことがあると……ねぇ、もし貴方の探す人物が見つかったらルーロウは連れず私一人だけ貴方についていくことくらい?」
それでも過剰火力ってもんよ。
実質エデンズリッター1人追加は有難過ぎる。
でもただ働きじゃん、とても申し訳ない。
後でお礼しないといけないじゃないか。
「参加してくれることがすでにありがたい。……エルアラドの兵士に危害を加えない前提でだが」
「そんなことしないわ。安心してちょうだい」
言ったね!
馬鹿みたいに本気で信じるよ!
お願いだから……自分からやってるけどお願い多すぎぃ!
ジリアンはママじゃないんだよ、エルアラドにガチギレしてる民だぞ。
なのにどんだけお願いするねん。
するしかないけど。
「た、頼む。いや本当にお願いします!切実に!」
「ちょっと、頭を床につけるのをやめなさい」
「はい」
「……貴方ずいぶんへん……変わり者よね」
変って言おうとしたよね!
実際そうだけどさ。
「……かもしれない」
「そう。着いてきなさい、魔女のアトリエを案内するわ」
「あぁ」
寝室?を抜けて通路を通り居間から更に移動する。
目的地へ近づくに連れて薬品の匂いがより感じられた。
「入りなさい」
「お邪魔します」
木製のドアがキィ、と音を鳴らしながら開く。
部屋を見た瞬間から圧倒的蔵書量よ。
全盛期の実家、アスフォディル家を彷彿とさせるなぁ。
少し懐かしい。
わぁ、魔女の大釜って本当にあるんだ。
「そこの椅子に座ってくれる?」
「では……」
よくわからない薬品とか何が入っているかわからない壺とかちょっと恐いけど興味が湧く。
実験台は勘弁して欲しい。
肝心のジリアンは黒い棚にあった容器の中身をレードル(小さめのお玉)で取り出し小さい金属杯のようなコップへ注ぐ。
すごい匂いがするよ、前に洗った狩装束に負けず劣らずな強さなんだけどぉ!
何かを煮詰めた何かだよ!?
かなり黒いよこれ!
……えっ?毒?
酒っぽいけど……毒酒かな?
え?…………飲 め ?
イルヴィナ、許してくれ。
自分はどうやらここまでのようだ。
クレセア……ごめんよ、ダメな兄ちゃんで。
「乾杯」
「……」
あぁぁぁ!どうせ凌辱ゲーの世界よ!!!
躊躇っても今更ぁ!
ジリアンさんも飲んでるし。
……あら甘い。
酒だよねこれ?
味は……多分いい?
飲むような機会がなかったし甘い以外にはなんとも……喉が熱い感覚はする。
「……お酒飲んだの初めてだったりする?」
「多分初めてだ」
「そう。もし酔ってしまったらごめんなさいね」
彼女はクスッと笑う。
そういうジョークかな?
「ゆっくり帰るさ。迷惑はかけない」
頭が熱い。
たった一杯で酔っ払った?不覚だな。
しっかり意識はある。
お願いはしたしもう帰るか。
万が一酔いが回って暴れちゃ大迷惑よ。
「__来て早々だけど私は酒に酔いやすいらしい。名残惜しいが帰らせてもらおう。捜索の件はどうか頼む」
「えぇ、任せてちょうだい」
席を立つ。
「最後に聞いてもいいかしら?」
「自分で答えられることなら構わない」
ジリアンがちょうど自分を見上げるように見ている。
赤い目、なぜか目を離せない。
「ありがとう。
……あれ?
なぜジリアンが尋ねているのに帰ろうとしているんだ?
答えないとだめじゃないか。
迷惑をかける前に帰らないと。
???
それでなんの質問だろう?
でも答えないといけない。
答えないと……、
「あぁ」
「立っていても少しつらいでしょう?そこに座るといいわ」
「……あぁ」
「ただより高いものはない、と言うし許してくれるかしらね?……さて、貴方へ聞きたいことだけど、魔女の手を借りようとしたのはどうして?」
「……ゼノバイド幹部の居場所がわからなかったから」
「質問の仕方が悪かったわ。魔女の手を借りようとした具体的な経緯は?」
「クソロリがするはずだった仕事の代役をしてほしかった」
「ルーロウ、もう出てきていいわ」
「……」
シグルド、ジリアンが入ってきたドアから人狼少女が入ってくる。
「……上手くいったみたいだな」
成功したらしいのに嬉しそうには、または安心感は彼女に見られない。
シグルドを憐れむ節すらある。
「そうね。……質問の続きよ。そのクソロリは誰のことかしら?」
「レゾフュア、死霊術師だ」
ジリアンは記憶を思い起こす。
彼の言った人物が誰か、記憶と一致した。
(あの無駄に生きることしか頭にないネクロマンサーねぇ)
ジリアンは推測する。
シグルドの評価からレゾフュアとは少なくとも友好関係ではない。
彼の標的はレゾフュアではない。
その標的はエルアラドの兵とレゾフュア、そしてシグルドがいれば確実に倒せると踏んだ。
標的は彼の言動だと召喚する淫魔が厄介で本体はそこまで脅威とならない可能性が高い。
結論は問題なし、充分対処できる範囲だと判断した。
答えをいちいち聞かないのはシグルドにかけた催眠の魔法の効果に限度があるため。
一度使えばかけ直すのに時間を要するので推測を入れる必要があった。
この魔法は無理をして行使すれば限度を上書きして続けられるが廃人化の危険性が付きまとう。
敵対者じゃない彼を廃人にするのは、たとえ貶されたものでも魔女の在り方として許されない。
次は彼が何者かである。
素性は知っているがどうにも腑に落ちない点があった。
(あと三回くらいが限度ね)
「貴方は私を罠にかけようとしてる?」
「……いや、そんなことはしない」
裏切りの線はなし。
前2つとそれだけ分かればもう解いてもいいのだが、
(あと二回。何もしないのも勿体ないわね)
「……ジリアン」
恐る恐るといった感じでルーロウが尋ねる。
「何かしら?」
「一回オレが聞いてもいいか?」
魔女にとって意外だった。
この手のことにルーロウはあまり関わらない人物だったから。
「……一回だけよ」
「おう、ありがとな。__シグルド、お前は教会の連中を倒す方法を知ってるか?」
ジリアンは失敗したと思った。
もっとも残り二回はオマケみたいなものだから損失はなかったのだが。
「……?倒す方法は知らない」
それはそうだ。
あまりにも規模が大きい相手だ。
空振りするに決まってる。
「……たが……もし一切の恨みや憎しみを捨て去るのなら、ないことはない……因果を越えて、明日を生きるために人間として立ち上がるのであれば一筋の光はある」
「なっ!?ふざ……ヴゥ゙……」
激昂し叫ぼうとしたが回数にカウントされることを恐れたルーロウは黙る。
「いい子ね」
気になる。
シグルドのことを考えれば彼から教会に下れとは言わない。
詳細な手段か思想の内容か。
思想は彼の贈り物に内容が刻んである。
夢物語もいいところの考えが。
(因果を越える、ね。……本当に耳が痛いし腹が立つ。私の想いをたったそれだけで捉えるなんて)
友も家族も全て焼き払われ処刑され、当の加害者を半ば赦せとシグルドは言ったのだ。
そして彼にはすでに振り切った過去がある。
赦したのかはシグルドしか知らない。
(なんで貴方は絶望せず、堕ちなかったの?)
シグルドの言動を思い出す。
愚かな彼は前に自分の生き様を暴露した。
人生を突き動かされるほどの何か、それにジリアンは少々興味を抱く。
それはきっと恐怖や欲ではない、貴い存在のはず。
もう手にすることができない何か。
(……そう)
該当し得る物事が1つあった。
シグルドのたった一人残った、しかしもう死んだ家族。
想いを託された、あるいは願われでもしたのだろう。
交わした言葉が彼を突き動かす。
悲劇と悲痛な叫びしかなかった我が身とは違う区切りのついた別れの言葉らしきもの、それがあったはず。
それが怨嗟を止め、希望を見ようと足掻く愚か者と力を持ちながらも滅ぶまで教会の嘘に囚われた人間を殺すだけな復讐者の差だったのではないか?
自身も彼もとうにその手は血に濡れている。
しかし彼が血に濡れているのは明日を掴もうと足掻くため。
恨みつらみで殺す自身とは天と地ほど異なるもの。
ほんの少し運命が違えば、復讐に囚われなかった自分がいたのかもしれない。
だがもう既に手遅れ、人を散々殺してきたのだから。
どんなことがあっても絶対に家族とは二度と巡り会えない。
死んだ家族の誰もが哀しむ。
喜んだのは敵を殺した瞬間の恐ろしい自分だけ。
(これが……罪の自覚、私の罰?)
自分にはもう手遅れだと、ここに崖っぷちで踏ん張った人間を見せつけられている。
ただひたすら心が苦しい。
枯れ果てた涙は流れず心に喪失感を刻まれるだけ。
復讐の道を歩み、死を笑ったようなやつが今になって涙を流せるなどありえない、と突きつけられる。
「……なぁジリアン、大丈夫か?なんか変だぞ」
「私は大丈夫よ。……もう彼に聞くことは無いわ」
数秒後、魔法が解けたシグルドは目を何度か瞬かせた。
「すまない。酔って意識がなかったようだ。……あのときの人狼族の君もいたのか?」
「……あっ、あぁ、久しいな」
思ったことがすぐ顔に出るルーロウ、そしてよくわかってないシグルド。
「気にしないわ。飲ませたのは私だから私の所為よ」
「次があれば気をつける。何度もになるが、どうか頼む」
「任せて頂戴、何かわかれば烏を寄越すから。あと見送りをさせてもらうわ」
「ありがとう」
魔女のアトリエを出て来た順路をただ戻る。
魔女の家を出れば恐ろしい町並みが見える。
焼き捨てられた廃墟の街。
「曲がって開けた道を行けば出られるわ」
「わかった」
「……またな」
「あぁ」
魔女と人狼に見送られシグルドは歩く。
外には誰も人はおらず、烏の鳴き声だけが反響する。
意味深長なまだ新しい血の跡を素通りして街をでていくのだった。