百合エロゲー?の世界で偽狩人は生き延びる 作:レンガチェッカー
__収入不安定実質無職の朝は早い
エルアラド聖王国郊外、辛うじて活気がある区画の一画にある住居。
ここが実質無職の作業場である。
元は有数な錬金術の名家の嫡子、彼の仕事は近隣住民であれば知られてないことはない。
そのアコギな?商売を見ていこう。
__朝早いですね?
「朝市があるんだ。今から用意しないと売り物が出せないからな」
空が陽光で明るくなる頃、人々が街を行き交う前から名家の嫡子は動き始める。
……起こしたのは私、イルヴィナちゃんですが。
__何をしてるのですか?
「……調味料を作ってるよ。売出し用のをね」
大鍋をかき混ぜ、流れる汗を落とさないよう首に巻いているタオルで拭く。
高温多湿の中で彼は一人でかき混ぜる。
鶏ガラの匂いが充満する室内で無心に。
「質さえ確保できれば利益も出せるし錬金術で培った知識が役に立つんだ。効率が上がるとかで」
__錬金術が、ですか?
「さっきから何なのかわからないけどそうだよ。精製の時間を短くできたりとかね」
__終わったら朝ごはんですよ
「ありがとう」
__あとご飯の前に風呂入って下さい臭いです
「……すまん」
一段落ついたら朝食を摂る。
絶対に美味しいイルヴィナちゃんの作ったご飯を。
たまに一緒に用意するときもあるのだが今日はイルヴィナちゃんオンリー飯である。
__美味しいですか?
「とってもね」
__嬉しいです。
「今日はどうした?風邪でもひいたか?」
失礼なことを言うところから未だに女性との恋愛経験がないことが伺える。
だからイルヴィナちゃん以外にまともに話せる異性がいない。
朝食が終わった段階で街にちらほら人が歩き始める。
格好から商人のような業者、皿を洗い終えた実質無職も家の外へ出ていく。
「ついてくるのか?」
__はい。
「ならイルヴィナはかわいいしもう少し売上げ上がりそうだな」
__それほどでも///
笑顔で彼は市場へ向かう。
ぶっちゃけ二人で売り物を持っていくと効率がいいだけなんですけどね。
市場も早いところならもう営業してる。
『へいらっしゃい、お客さん見てってくれよ!』
『安いよーお買い得だよー!』
__結構始めている人がいますがまだ始めないのですか?
「まだ準備中だよ。持ち場に着いたばっかりだ。香料とかも上手く使ってちょっといい匂い的な演出が必要なんだ。軽く回って来るから見張り番をお願いしたい」
__了解です。……買わせるために匂いで釣るんですね
「……言い方よ。香水だって材料と時間をかければ作れるしできる手は打たないと」
少し困った様子で彼は答えた。
しかし雰囲気を作る、これは非常に効果が高そうにも思える。
しばらくして彼は戻ってきた。
ようやく商売の開始。
隣ではイルヴィナちゃんは客寄せとして頑張っている。
大変素晴らしい。
事実出店を出店してからは出だしは良くなかった。
だが、人通りが増えると品物を買いに客が立ち寄る。
「へへっ、毎度ありがとうございます」
テキパキと客を捌く。
慣れた手付きで香料、調味料をどんどん売ってしまう。
無職の男、どうも侮れない。
「……夕食の献立ですかい?確かあっちでいい魚がいつもより安く売ってますんで見に行ってやってくださいよ奥さん」
ここでさっき出店を構えた後に市場を見回ったことが繋がる。
客との会話のために市場の情報を集めていたのだ。
狡い商売かと思われたが以外とまともな商売をできていた。
その事実にイルヴィナちゃんは驚愕する。
__順調ですか?
「ちょっと良くないかも。やっぱりケダモノ共の襲撃があったからかなぁ?」
先日、市場から近い区画で淫魔の襲撃があった。
人的被害は少ないがなかったわけではない。
今日はその影響があったのだと。
先週の出来事なので売れ行きが微妙なこととの因果関係はそれこそ微妙では?
しかしまだ営業は終わっていない、最後までやらなければ結果は出ない。
ここはこれ以上言うべきことはない、ただ待つ。
いちいちインタビューをするのも商売の邪魔になるので静かにしておこう。
時間は昼過ぎ。
彼は焦っている。
「まずい、遠くに行ってくれ!」
見つめる先には乳デカな教会のシスターさんだ。
まだ他のことに気を取られ我々には気づいてはいない。
「ルクレツィア、厄介な人だよ……あぁ」
本当に危険だと口だけでなく目でも語っている。
イルヴィナちゃんは気づかれぬように一時解散のため持ち場を離れていった。
気づかれても絶対に逃げ切れる距離を確保したので一時中断することになる。
なんで今日に限っているのかなぁ……はぁ。
教会の最高戦力さんがわざわざ郊外に何のようよ?
オフの日は酒浸りの人なのに普通に野外を歩いてら。
イルヴィナを同行させたのはこうなってしまえばミスだ。
教会に見つかったらあら怖い、異端審問よ。
内容は簡単、神の命を体に拷問する中で罪を認めるか認めないか白状する代物。
回答はほぼ疑惑に対しほぼYESだ
NOは実質黙秘みたいなもの。
認めることでしか開放されない、一時的に開放されるだけで死ぬのだが。
まっすぐこっちに来てるね来るな。
無理して平常を装うのは危険。
ルクレツィアの高い観察眼と直感のせいで怪しい行動は死のリスクが伴うからだ。
故にトンズラもできない。
うわ来てる来てる。
頼む素通りしろ、して下さい。
あぁ、異端審問が見える……
おっ、素通り!?
……危なかった。
本当に危なかった。
ほん__「こんにちは店主さん」
「カヒュッ!?」
振り向いて言うのやめて心臓止まるよ。
予想した通り酒臭くない、シラフだ。
ますます厄介。
「んんっ、……おや、教会の方ですかい?驚かすのはやめてくださいよ」
取り繕うな、惚けるな。
どうせバレるだけ、しょうもないことを隠してるレベルに認識してくれたら御の字。
「あらごめんなさいね」
「いえいえ。珍しいお客さん、うちの商品を見ていきます?」
「今は遠慮させていただきます。ちょっと教えてほしいことがあるだけなので」
態度からも商品に関心なし。
事情聴取かな?任意同行かなぁ?
怖いな!
「……と言いますと?」
「どこに酒場があるか知りませんか?」
今から飲むのかよ。
まだ日は沈んでないのだが?
下戸でもザルでももうちょい時間考えるよ。
せめて自分の拠点で飲め。
「今からやってる店となるとですねぇ……隣の区画に行ってもらうしかないですな。入ってすぐのところにありやす」
「隣のですか。ありがとうございます……あなたに神のご加護がありますように」
「祈って頂きありがとうございます」
酒飲みはすたすたと歩き去っていく。
ミッションコンプリート、やったぜ。
胃に悪いから来ないでほしいのだ。
///////
トラブルが解決したため彼のもとへ戻る。
なぜかやりきった感を出していた。
__彼女は誰なのですか?
「名はルクレツィア。処罰者、神の犬、リッター・マルコシアス、ブンドゥスの懐刀などと言われてるやつだ」
どうやら非常に相手にしたくない存在らしい。
イルヴィナちゃんも注意しておかねば。
__でも物騒な感じとは裏腹に悩ましい体つきでしたね。安産体型って言うんでしたっけ?
「知らんがな」
彼はその後、余った商品を片付けてまとめる。
市場はぽつぽつ引き上げる商人が出てきて活気も収まってきた。
「幸い必要な金額には到達できてるし今日は帰ろう」
__やはり教会の人達ですね。
「うん、助かった命なんだ。なるべく見つからないようにしないとね」
____はい。……ごめんなさい
「なんで謝るのさ。ほらっ、こんなときは助かったと笑っとけばいいんだよ」
……ご主人様が命令するなら仕方ないですね。
いつまでもしんみりとしてるわけにもいきませんので。
__ご覧ください、イルヴィナちゃんのメチャカワ笑顔です!
「ヨシッ!」
イルヴィナちゃんも作業に加勢しているお陰であっという間に荷物が片付く。
片付けが終わると屋敷へ歩いて戻るのだった。
帰宅後、彼は袋からお金を取り出し収益を数えていた。
しかし状況は芳しくないのか笑顔はない。
積まれる銀貨、銅貨は並の家庭で十分な程の収入だと思われるのに。
「25万とちょっと、から材料費を引いてイルヴィナのお小遣い(人件費)も引くと20万が純利……はぁ〜」
__今日の収穫はあまりよろしくなかったのでしょうか?
「そうだね、正直なところ微妙。だけど近日、商人の真似をして今日と同じだけ収益があれば問題はない」
イルヴィナちゃん換算だと全部食費と生活費と貯金に回せばそれなりのくらしができる金額。
お夕飯を超、超絶豪華にして1万くらいなのだが。
「あ、わかるよ。生きていくだけならだいぶ余裕がある。でもこの国、いつ滅ぶか本気でわからないからね、何か行動しないとガチで危険」
変な武器を作ってまで戦っている、かかったお金も馬鹿にはならない。
本人からすればかなりヤバめの状況らしい。
調査の結果、アコギな商売かはわからなかった。
かと言ってまともな商人のように気合が入っているかと言われたら不定期開催なので気合が足りてない。
だが、お得意様もちらほらいたので一定の需要を勝ち取っている。
少なくとも物売りとして悪いことをしてるわけではないのかもしれない。
知りませんが。