生まれ変わったら三つ子の末っ子だった、、、 作:ただの村人
天童寺さりなは前を向く
病院。
それは病気や傷を負った者を治す機関である。基本的には医師による診断に基づき、有効的な治療法を説明。患者が納得した上での処方を施す。
通常、通院若しくは一度の処方で治療を終えることのほうが多い。しかしそうではない場合もある。
これは特殊な病を抱え、人生の全てを病室で過ごす私こと、天王寺そらの物語である。
◇ ◇ ◇
宮崎県高千穂の片田舎にある総合病院。
この病院は奥地にある医療施設ではあるものの、外観は然程汚れておらず、規模もまずまずである為この周辺に住む者の殆どが利用する。
しかし、例外として時折都内や市内からこの病院に移る者もいる。理由は様々であるが、大方の理由は重篤な病に罹り助かる見込みがないからせめて最期は長閑な場所で過ごさせたい。という身内のエゴによるものが殆どだ。
まぁ、私も特殊ではあるがその一人であった。
「せんせ、ここの病院ゲームとかないの?」
「つまらないのはわかるけど、ここは病院だらなぁ」
此処は総合病院の入院患者用に設けられた一室。周りに機械などが置いてあり、治療に専念する為の環境が整えられている。私は今病床の上に座っており、目の前には椅子に腰を下ろす白衣を見に纏った男性が此方に話しかけている。
「そんなに暇だったら早く元気になる事だな」
「せんせのいけず!」
プクッと頬を膨らませて如何にも不満があると言うことを訴える。
対面にいるのは、黒い髪に黒い瞳、穏やかそうな印象を受ける顔に、目が悪い為か眼鏡を掛けている男性。雨宮吾郎先生だ。
「せんせは私が元気になったら、ゲーム買ってくれる?」
「……あぁ、勿論だ」
「じゃあ、高いの買ってもらおっと!」
「ちょっとは遠慮しろよ」
はは、と柔らかい顔を浮かべるせんせい。
返事に少し間があったのは、私の両親の事を考えていたのだろう。
――――少し特殊だが、私は産声をあげてから今までこの病院で育ってきた。
患った病が少々厄介で、医師の目の届く所に居ないと悪化した時の対処が間に合わないからだ。
父母は私がこの病院で生誕して以来一度もお見舞いには来ていない。
「買うとしたらどんなゲームが欲しいんだ?」
「んーと、敵を倒す的な?」
「なぜ疑問系……」
――――だって仕方ないでしょ。
生まれも育ちも病室育ちなんだから。
今の何かラッパーぽいな。悪そな奴は大体友達ってか。…………殆どこの個室で育って来たから友達居ないんだった。
「まぁ、また今度考えておくんだな」
「せんせい、どっか行くの?」
「別の担当の子も見ないといけないからね」
椅子から立ち上がるせんせいに何処に行くのか聞くと、どうやら別の担当の子のところに行くみたいだ。
正直な話、少し寂しくはあるけどせんせいはまだ研修医と言う者らしいので忙しいみたいだし仕方がない。
こうやって私に時間を割いてくれてるのは凄く嬉しいし、わがままも言ってられないのである。
「また時間が空いたらくるよ」
「早く来ないと、私寝るよ?」
「はは、それは急がないとな」
軽く冗談を言い合った後、せいせいは私の頭をひと撫でしてから病室を出て行った。
今更だが、私の病気は基本的にはまだ身体に影響がない為、管も通されてなければ酸素マスクも必要ない。事情を知らない人から見れば、元気な少女なのである。
そう、私は元気な少女なのである。なので、このままじっと病室に閉じ込められるのは結構退屈なのだ。
病床の左奥に見える扉、そこに手をかける。この扉を開けば私は自由の身なのだ。
だが、少し思考を巡らす。
「うぅ、絶対せんせい怒るよね?」
基本的に患者は勝手に病室から出る事は禁止されている。治療に専念する為でもあるが、勝手に部屋に入ったりして感染症の患者と接触するのを避ける為でもあるらしい。
しかし、今私の頭の中には究極の二択がせめぎ合っている。怒られる事承知で外に出て自由を掴むか、大人しく待っておくか。
――――そう言えば、せんせいの説教ってどちらかと言うと詰めに詰められて追い込まれる感じじゃなかったっけ?
過去に1度だけある怒られた記憶が頭をよぎると次第に、取っ手を掴んでた筈の手先はプルプルと震え、体は勝手に寝床の上に転がっていた。
「早く、せんせい帰ってこないかな」
結局、病床の上部に置かれている枕に顔を埋めながらせんせいの帰りを待つことにした。
外に出たい気持ちがまだ残っており、数分間は足をバタバタとしていたが、それも時間が経つと飽てきた。
目を瞑り、せんせいが帰って来たら何を話そうかと考えている内に段々と眠気が来始める。
睡魔に勝つ事はどうやら無理みたいで、そのまま身を委ねることにした。
◇ ◇ ◇
そらの病室から外に出て、長い廊下を歩きながら吾郎は目的の場所に向かっていた。病室の前に着くとドアの取っ手に手をかける。ネームプレートには『天童寺さりな』と書かれていた。
「さりなちゃん、入るよ」
「わぁ、せんせーおそい!」
吾郎を見るや否や、満面の笑みを浮かべるのはこの病室の患者である天童寺さりな。彼女は透き通るような蒼色の瞳に、長らく入院してる為か白い肌、頭にはニット帽を身につけている。
「ごめんね、別の担当の子の所に行ってたんだよ」
「ふーん」
半目にし、じっと吾郎を見つめるさりな。
これは彼女が吾郎の事を疑っている時にする仕草である。何も嘘はついて無いとしても、疑われたら目を逸らしてしまうのは人間の真理なのだろうか。吾郎はさりなの方へ数秒間は目を合わせていたものの、そっと目線を泳がせた。
「まぁ、いいや! せんせ、これ見ようよ!」
「別に良いが、良くもまぁそんなに何度も観れるもんだ」
「だってアイは私の光だらね!」
そう言いつつ、Blu-rayの入った箱を吾郎に差し出すさりな。パッケージには『B-小町⭐︎ライブ映像 Blu-ray バージョン!』と書かれている。
さっき彼女が口にした『アイ』と言う名前はさりなが好きなアイドルB-小町のセンターを務める少女の名前である。
「本当に、さりなちゃんはアイが好きだね」
「とか言って、最近せんせもハマってきたんじゃ無いの?」
「……そんな事はない」
と言うのは少し嘘である。
吾郎はさりなとライブ映像を観る中で、少しずつではあるが『アイ』に惹かれていっているのだ。恋愛とか、そう言うのではなく単純にファンとしてなのだが。
これまでの人生で趣味という物がなかった吾郎にとっては楽しみが増えるのはいい事であった。
「取り敢えず、早く観ようよ!」
待ちきれなくなったのか、Blu-rayの箱をさりなが吾郎へと渡す。吾郎は「少し落ち着け」と微笑みを浮かべながら、手に持つ箱からBlu-ray Discを手に取る。病床の左横に置いてある台にはテレビが一台、その下にDVDオーディオがあり、Blu-ray対応の文字が綴られている。そこに手元のBlu-ray Discを入れ、テレビの入力を適当なものに切り替えた。機器が古い為か、少しの時間を要した後にディスクの回る音が鳴ると、テレビには端正な顔立ちの少女達が映し出される。
少女達は先ほどの話題に出て来たBー小町というアイドルグループだ。駆け出しの為かファン数は事務所の規模に比べたら多いものの、大手と比べたらまだまだである。しかも現状、センターの『星野アイ』のファン数が圧倒的に多い為、どこかワンマンライブになっている節がある。それも、グループ自体の人気が出れば解消されるとは思うが。
――――テレビの画面には少女達が可愛い振り付けの踊りに、可愛らしく甘い歌詞を口にしながらライブをする所が映し出されている。
それをさりなは食い入るように観ていた。
「――――いいなぁ」
B-小町の映像に釘付けだったさりながふと呟く。無意識から出た言葉だからか、本人は気づいてないようだが。
さりなは病の影響で一人で歩くのも困難である。
その為か、身体を動かすことへの憧れは人一倍強いのだろう。吾郎はさりなに目をやりながら、医者として全然力に慣れていない自分を何処か腹立たしく思った。
しかし、今は治すことよりも出来るだけ症状を悪化させない事が大切なのである。さりなが侵されている病、退形成性星細胞腫は運動麻痺による脱力や感覚障害の痺れを始め、人によっては失語症や視野障害にまでかかるケースもある。今は、感覚障害の痺れしか発症していない為、さりなにはまだ治る可能性が残されているのだ。そんな期待も込めて、吾郎はさりなに言い放つ。
「さりなちゃんも退院したらアイドルになるといい」
「どうしたの急に?」
「なりたいのかと思ってね」
「…………せんせは意地悪だね」
「そんな事ないさ」
そんな事ない。と吾郎は力強くさりなを見た。彼女は幼いながら、両親の不満どころか医者である自分にも元気な姿を見せようとしている。早く良くなろうと、リバビリも頑張っている。そんな姿をみて、手助けしたいと思うのは医師ではなく一人の人間として当然のことであった。
そんなさりなが、心の何処かでアイドルになる事を夢見る事も知っている。ならば、背中を押してやるのが大人としてやるべき事なのではないだろうかと吾郎は思ったのだ。
「――――せんせは私がアイドルになったら応援してくれる?」
「その時はさりなちゃんが俺の最推しだよ」
「そっか……うん! 私頑張る!」
今までのさりなは何処か遠慮しているような、未来を諦めている節があるような事を口にしていた。しかし、今のさりなは今を生き未来に夢見る少女の目になっている。吾郎はきっとさりなはこの先どんなに辛い事があっても進んでいくのだろうと思い、自分がその背中を押せた事が何処か誇らしくもあった。
後数話は転生前の過去編をしていく感じです。
取り敢えず、せんせいとさりなちゃんとオリ主の関係性を書かないと転生後の事書けないので。