生まれ変わったら三つ子の末っ子だった、、、 作:ただの村人
これは少し未来の話。
ある日のアイドルイベントにて、アイドルグループB-小町のファンである男性は取材を受けていた。
「人生で好きなアイドルは誰ですか?」
「ん? 人生で好きなアイドル? 色々いると思うけどやっぱB-小町のアイは外せないよねぇ」
「一時期話題になっていましたね」
「元々オタク界隈では熱かったけど、一般に見つかった! って思ったのはあの動画からだよ」
ファンである男性はどこか懐かしむように目を瞑る。その瞼の裏には、自らがファンとして長年推してきたアイの幻影でも映し出されているのだろうか。
「あの動画?」
「ほら、三つ子の赤ちゃんが出てくるやつ。くっそなついわ、あの三つ子ももう高校生とか? 今何してんだろうね」
男性はそれだけ言い残すと、もうすぐライブが始まるからと、足早に目的の場所へと向かった。その奥で、似た顔を持った三人が笑い合っていたのを、先程のファンも記者も知る由がなかった。
◇ ◇ ◇
お母さんがアイドルに復帰してから数ヶ月、B-小町は快進撃を遂げている!――――わけではなかった。
「今月の給料2◯万円」
ソファに座るお母さんは、給料明細を見ながら少し落ち込んだ顔をしていた。ちなみに、お母さんの右側にお姉ちゃん、左側にお兄ちゃん、膝の上に私が乗っている。
「ねぇ、うちの事務所給料渋いよ……こないだ出したシングルオリコン3位とかだったよねー、中抜きエグすぎない?」
「製造から流通までやってる大手と違ってうちはただの弱小芸プロ、利益が低いのは承知の上でしょ? 今更どうしたの?」
ソファ近くに置かれたテーブルの上で、ミヤコさんがパソコンで作業しながら質問に答える。アイドルのお金事情ってあんまし分からないけど、結構大変そうってのは分かった。
「世の中結局金って事に気づいたの」
「嫌な事に気付いちゃったね……」
「だけど、この子達を良い学校に入れたり、習い事させたり色んな選択肢をあげるには私がもっと売れて、もっとバシバシ稼がなちゃダメなんだよね?」
お母さんは膝に座っていた私をゆっくり上に持ち上げると、目を合わせながらそう言った。
私に関して言えば、別に習い事とかしなくても良いんだけどね。……なんか、面倒くさそうだし。
「今のままじゃこの子達を幸せにできない、CMとか映画の仕事こないかなぁ〜」
「それも大手が……いやまずその高いアイスやめなさい」
ミヤコさんはお母さんの食べていたアイスを指差した。確かにハーゲン◯ッツって高いよね。ちなみに、私はまだ年齢的に食べれないけど抹茶が好きだったりする。
「はぁ……レッスン行ってきます! いい子にお留守番しててね」
さっきの事を気にしてるのか、お母さんは何処かしょげた様子でアイドルのレッスンへと向かっていった。私達のことを考えてくれてるのは嬉しいけど、早く元気になって欲しいなぁ。
「ねぇ、アイドルって月給100万くらい稼ぐものじゃないの?」
「ンなワケないだろ!」
お姉ちゃんがアイドルの懐事情についてお兄ちゃんに聞いたところ、お兄ちゃんはそんなわけない!と説明を始めた。
「歌唱印税もテレビ出演料もメンバーと山分け……ライブは物販が売れなきゃ余裕で赤字、そして衣装代は天引き……」
「思ってたより大変そうだね……」
「お前もか、ヒスイ」
お前もアホ側だったのか、とそんな目で見てくるのはやめて頂きたい。そもそも、アイドルについてそんなに詳しく知らない私が分かるわけないでしょ!
「取り敢えず、月100万はマジで一握り」
「アイドルって、結構大変なんだね……お姉ちゃんどうしたの?」
「オタク全員が肝臓を売って、それをアイにささげば」
急にお姉ちゃんが黙ったと思ったら、ブツブツと何かを呟いてたので聞いてみたら、内容が世紀末だった。仮に本当にそれしたとして、そんなお金貰うのは気持ち的に重くない?
「ミヤコさんは何でお母さんに営業来ないと思う?」
「それはですね……」
気になった私はパソコンで作業していたミヤコさんに尋ねる事にした。てか、普通にミヤコさんに話しかけてしまったけど、何も聞かれないし別に大丈夫だよね?
ミヤコさんからお母さんに営業が来ない理由を聞いたところ、アイドルグループ自体は束になってたった一人の芸能人と仕事を奪い合うらしい。
基本セット売りでやっと仕事が取れる状況で、単体で勝負となると結構難しいみたいだ。
……その説明の後に、グループから脱退したアイドルの末路が港区女子だったり六本木の高級飲食店と聞かされて少し怖くなった。
「アイがすごいのは私も認めてる、でもそれはアイドルという分野に限った話で芸能界ってのは一人でも戦える何かがないとやっていけない所なの」
結局は儲かる仕事って、B-小町じゃなくてお母さんにお願いしたい仕事の事だからアイドルとして一流ってだけじゃダメらしい。何か、お母さん自体の力を認めてもらえるキッカケが必要ってことかな?
そう言えばお兄ちゃんとお姉ちゃんはヤケに静かだけど、どうしたんだろ?ふと隣を見てみると、何でか知らないけど外出用の服に着替えていた。
「ヒスイも早く着替えて!」
お姉ちゃんにそう言われて、私の分の服も渡される。ミヤコさんも、どういう事か分からないみたいだったけど、私が着替えた後にお姉ちゃんとお兄ちゃんからお母さんのライブに連れて行けと言い攻めれられていた。
可哀想とは思うけど、こっちを見ないでください。こと、お母さんの事に関しては兄姉に対して私は無力なのです。……そっとミヤコさんから目線を逸らした私は悪くないはず、と思いたい。
◇ ◇ ◇
「催促イベント! ミニライブ! 抽選でしか当たらないやつ! ママのステージ生で見るのはじめて……」
「いいですか……どうしてもって言うから連れてきましたがこんなの社長にバレたら怒られるの私なんですからね……」
そう、私たちはお母さんの生ライブに来ている。ミヤコさんがお兄ちゃんとお姉ちゃんの言葉攻めに耐えきれず折れたからだ。
今はベビーカーで参戦中なのだが、ミヤコさんから向かって左側に私達姉妹、右側にお兄ちゃんという位置。
何故、ベビーカーが二つなのかと言うとミヤコさん一人では三個のベビーカーを押すのは不可能に近いため、私とお姉ちゃんが同じベビーカーに乗る事になった。
前世を含めても、ライブ自体来るのは片手で数えられる程度。ミヤコさんには悪いが私もワクワクしてるんだよね。
「推さない、駆けない、喋らない、おしゃぶり付けて大人しくしててくださいね」
「そうだぞ、ルビー目立つことだけは絶対に駄目だからな」
「何でヒスイには言わないの!」
お兄ちゃんから注意を受けて膨れっ面のお姉ちゃん。
まって、可愛すぎる……じゃなくて、私は別にオタクではないので騒いだりしないからだと思うけど。
「とにかく、僕達はスタッフの子供としてここにいる設定、アイとの関係性を匂わせる様な事は絶対するなよ……」
「言われなくても分かってるよ、見たでしょママが落ち込んでる所……これでも私はママが心配でここに居るの、遊びに来たわけじゃないのは分かって」
お姉ちゃんは少し顔を俯かせながら今日きた理由を話した。てっきり、オタクの性で生ライブみたいだけかと思ってた。
「ごめん、お姉ちゃん! 私てっきりお姉ちゃ――――」
「バブバブ!」
「バブバブ!」
――――えっ?
それはお母さんがステージに上がってパフォーマンスを始めて間もない出来事だった。私の両隣でお兄ちゃんとお姉ちゃんが手に持つのは会場で買った赤色のサイリウム。
お母さんのイメージカラーの物もを二つ折ると、化学反応で光ったそれをブンブン振り回した。
お姉ちゃんは大方、こうなるだろうと予想してたけど、何でお兄ちゃんまで! てか、周りの視線が痛いんだけど! めっちゃ見られてるんだけど!
そんで、同じベビーカーだからお姉ちゃんの腕がバシバシ当たって痛い。
「何が心配して来たですか! 誰よりもエンジョイしてるじゃないですか!!」
「「つい本能で――!」」
「み、ミヤコさん大丈夫?」
「……ヒスイさんだけですよ、いい子なのは……」
お兄ちゃんとお姉ちゃんは無意識でやってしまったと言っていたけど、無意識であそこまで動けるもんなんだ……。後ミヤコさんに一応大丈夫か尋ねると、大丈夫と言っていたけど顔が悲壮感漂ってたから多分大丈夫じゃないんだろうなぁ。
周りに注目されながらも私たちは結局最後までライブ会場にいた。ミヤコさんはライブが終わると共にダッシュで私たちの乗っているベビーカーを車まで持って行き急ぎ目で帰宅したけど、その努力も虚しく。
「21万リツイート、転載動画も既に200万再生……赤ちゃんコンテンツはバズりやすいとはいえ……これはさすがに……」
家に着いた私たちは、お母さん、ミヤコさん、壱護さんと共にミヤコさんのスマホでSNSの確認をしたんだけど、案の定お兄ちゃんとお姉ちゃんの動画がバズっていた。
「ちょっとこい……」
あぁ、ミヤコさん。
ミヤコさんは壱護さんに首根っこを掴まれて奥の部屋へと連れて行かれた。たぶん、長い説教をされるのだろう。うちの兄姉が本当にすみません。
心の中だけでも謝っておこう。
「なるほど……コレがイイのね覚えちゃったぞ〜」
真横ではニヤリと不適な笑みを浮かべるお母さん。手に持つミヤコさんのスマホに映し出されたのは、丁度お母さんが私たちを見つけた場面の写真が貼られている掲示板。
横から覗いてみると、そこに書き込まれていたのはお母さんを称賛する様なコメントばかり。お母さんが何を覚えたのかは分からなかったけど、取り敢えず元気になったみたいなので私は一先ず安心する事にした。
今回は最初から最後まで一人称視点に挑戦しました。
やっと、赤ちゃん編も終わりだー!
と言う事で次から幼児編に入ります。
追記
誤字修正して下さった方ありがとうございます!
助かりました!