小説版きかんしゃトーマス ~Thomas The Tank Engine & Friends Novel's Story~ 作:進む夜行列車
大西部鉄道のオリバーからこんなお話を聞かされました。
それは彼が整備工場に行った時のお話です。
整備を待つまで大嫌いな路線に置かれていましたが、今は違います。
何故ならそこでかつての友達に出会ったからです。
今、その機関車は出版社で暮らしていますが、時々ソドー鉄道へとやってくるのです。
それはどんな機関車か? それはこのお話を読めば分かります。
作者より。
第5話:オリバーとアイリーン ~Oliver and Irene~
オリバーは、ダックと同じ
彼はブレーキ車のトード、客車のイザベルと一緒に本土から逃げてきたのだ。
スコットランド出身のダグラスに助けられからは、トードとイザベルと一緒にダックの支線で働いている。
ちょっとうぬぼれた時期もあったが……。今では賢くて、落ち着いた機関車に成長した。
ある日、オリバーはダックと共に機関庫で休んでいた。
ダックは相変わらず、大西部鉄道の事を言っては、オリバーによく話す。
「ふぅ、こんなにたくさん働いたのは大西部鉄道に居た以来だね」
「フフッ、全くだ。だけどこっちは車輪とピストンがガクガクしてるよ」
「オリバー、君は大西部鉄道のあの言葉を忘れたのかい? 大西部鉄道のやり方は……」
「"仕事はみんなきちんと!"だろ? ちゃんと覚えてるさ」
オリバーはそう、ダックに言い返した。
彼も大西部鉄道の誇りを持っているけど、ダックの話にはいつも呆れる寸前だった。
でも、ここのところ忙しくなってきたので、オリバーとダックは足が痛くて仕方なかった。
「もう一台機関車が居ればなぁ……」
オリバーは、そう呟いた。
───翌朝。機関士がやってきて、出発の準備をしているところに……。トップハム・ハット卿がやってきた。
「オリバー、お前の部品もだいぶ痛んできている。工場に行って修理してもらいなさい」
「でも、イザベルとダルシーの面倒は誰がするのですか……?」
「助っ人の機関車が一台やってくる。彼が彼女たちの面倒をみることになる。それにお前たちとはまた会いたいと言っておったぞ」
ダックとオリバーは、その機関車がどんなのかはわからなかった。
だがダックは、あのシティ・オブ・トルーロが手伝いにやってくるのではないかと、わくわくしながら考えていた。
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間もなく、オリバーが平たい貨車に乗せられた頃、助っ人の機関車がやってきた。
ところが、やってきたのはシティ・オブ・トルーロではなかった。
それどころか、素晴らしい機関車がやってきたのだ。
ダックとオリバーと同じ緑色で、金色の煙突が輝いている。
炭水車には、大西部鉄道の文字が描かれているではないか!
「オリバー、見ろよ!ナニー・キャッスルだ!
僕たちを手伝うためにトップハム・ハット卿が呼んだんだよ!」
ダックは興奮してオリバーに話しかける。
オリバーは、喜びのあまり言葉が出せなかった。
ナニー・キャッスルは彼らに汽笛を鳴らして、オリバーが乗っている貨車と連結する。
「ここを手伝う前に、まず君を整備工場に送ってってあげるよ」
「あ、ありがとうございます!」
オリバーはドキドキしながら、ナニー・キャッスルにお礼を言った。
……でも、内心は残念な気持ちでいっぱいだった。
ナニー・キャッスルはオリバーを乗せて、整備工場へ出発した。
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工場に着くと、やかましい音がそこらじゅうに響き渡る。
ここは本土よりちょっと小さいけど、ソドー島の中で最も大きな工場だ。
支線の機関車、本線の機関車、本土の鉄道からやってきた機関車、
古くなった貨車や客車、車輪などが整備され、心地よく彼らが仕事ができるのだ。
オリバーは、工場内のクレーンで貨車から下ろされた。
彼は、ここが嫌いだった。
なぜなら、整備が忙しくて混んでいるときに"あの路線"へ移されるのが嫌だったのだ。
しばらくして、工場長がオリバーの所にやってきた。
「ここ最近、別の鉄道の機関車たちを整備するのにちょっと忙しくてな。
整備は三日後あたりで始めることにするよ」
「えぇ!?、三日間もあの路線に居ろって言うんですか!?」
「すまないな……。3日あたりは我慢していてくれ」
「じゃあねオリバー。三日後に君を迎えに来るから、早く元気になるんだぞ」
オリバーは、ナニー・キャッスルの言葉が耳に入らなかった。
早く整備を終わらせたくて、帰りたがっていた。
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その後、オリバーはディーゼルのウェンデルに押されて、例の待避線へと移されていた。
彼は、ここの引き込み線が嫌で嫌で仕方がなかった。
そんな不安そうな顔を見たウェンデルは、オリバーを励ました。
「心配するなよオリバー! 三日も寝泊まりすれば整備されて元気になる。そうすれば、また元気に走れるさ!」
ウェンデルはそう言って、仕事に戻って行った。
しかし、オリバーの不安は、溜まる一方だ。
この引き込み線は、"待機線"と呼ばれている路線だ。
あまり使われず、線路には草が生え、線路の砂利はボロボロだ。
時々、入れ替えや他の鉄道からやってくる列車を退避させるために使われる。
……だが、実際は工場内で置ききれない廃車や、修理前の機関車、部品取りとして置かれる機関車の倉庫として使用されるのが多いのだ。
部品取りにされる機関車たちは、オリバーをジロジロと睨んでいる。
「……こんなところに居たくないよ、まるであの時のことみたいじゃないか」
オリバーは、震えながら言った。
以前居たイングランドの鉄道の待避線で、同じような事があったからだ。
ディーゼル機関車たちは、他の蒸気機関車がスクラップにされていく姿を見ては嘲笑っていた。
オリバーの仲間も、まだ走れるのに次々とバラバラされていってしまった。
「もし、僕がトードとイザベルを連れて逃げ出していなかったら、今頃僕たちはスクラップだったかもしれない……」
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その夜、その日は凄く凍える夜だ。
冷たい風がピューピュー吹きかけ、待避線の機関車たちを震え上がらせる。
寒くて、冷たくて、煙突が凍りそうなくらいなのだ。
オリバーは辺りを見渡した、辺りは不気味なくらい、静かだった。明りが一層に見えず、真っ暗闇だ。
彼が何もないと考えつくと、ひと眠りしようとした時…… ───誰かの咳声が聞こえてきた。
「───ん? 機関車の声みたいだけど……」
また咳声がする。隣からだ。
「隣に居るのは誰だい?」
「ご、ごめんなさい。釜に誇りが入っちゃって……」
隣の機関車は、オリバーに謝った。
ところが、オリバーはその機関車を見てびっくりした。
その機関車は錆びてて色が落ちているけど、大西部鉄道のマークがかすかに見えていた。
「アイリーン……? ひょっとして君かい?」
「やっぱりオリバーだったんだ。こんなところでまた会えるなんて……」
「どうして君がここに居るんだい!? 確か君は、遊園地に引き取られたはずだろ?」
「そうだったんだけど、僕を買い取ってくれた遊園地はもう潰れちゃったんだ」
オリバーは嫌な予感がした。
「じゃあ、まさか君は…」
「うぅん、修理に出されただけだよ。」
彼女はそう答えると、オリバーはホッとした。
アイリーンは、オリバーと仲の良い友達だからだ。
「だけど、住むところが潰れたと言ったけど……。今はどうしているんだ?」
「オリバーがソドー島に行った後だよ。行くところが無くなってスクラップにされるところだった……。
でも本を出している出版社の人たちが僕をもらってくれたけど……」
「……けど? 何があったんだい?」
アイリーンは、オリバーにその後の事を話した。
彼女は、出版社に引き取られたはいいのだが……実際は過酷だった。
建物の入口に展示されたアイリーンは、雨風に曝され、ボロボロになった。
酷いことには、悪戯好きな子供にスプレーでボディに落書きされてしまうなどが多くあった。
「大西部鉄道機関車にそんなひどい扱いをするなんて!」
それを聞いたオリバーは、顔を真っ赤にして怒った。
同じ大西部鉄道仲間を酷いことをされているのは、あまり好きではないのだ。
「以前まではずっとそんな感じだったよ……。
でも、出版社のお偉いさんが「君を綺麗にしてくれる所に頼んでおいたよ」って優しく言ってくれたの。
それから僕はここに居るんだ。修理に出された頃から」
「えぇ!? 修理に出されたのはいつだい?」
「……三年前」
それを聞いてオリバーはびっくりした。
アイリーンは三年間もの間、ずっと修理されていないからだ。
それどころか、彼女の話から今年にその出版社に戻るのだが、未だに修理される気配が無かった。
待っていても作業員やウェンデルまでもが、来てくれなかった。
「それで気がついたら、僕の後ろにもう一台部品取りの機関車が来たみたいなの……」
「やれやれ、あいつまで忘れるなんて……」
オリバーは呆れかえった。
「でも、オリバーが無事でよかったって思っているんだ」
「あぁ、あの時は僕もソドー島に逃げらなかったらスクラップにされていたからね」
「出来ることなら、僕もオリバーと一緒に働きたかったなぁ……」
「何故? 君はまだ走れるだろ?」
オリバーは気になった。
アイリーンは、さっきのお話の続きを聞かせる。
「出版社の人たちがね、僕の帰りを待っているの。
今までの建物を取り壊して作り直されたけど……、
僕を置くために展示場所に看板まで作ってくれたんだって」
オリバーは残念な気持ちだったが……、
彼女を待ってくれている人たちの事を思うとどうにも出来なかったのだ。
アイリーンの顔は微笑んでいながらも、どこか寂しげだった。
オリバーは、アイリーンもソドー鉄道で働きたいと言う気持ちはあったのに気づいてしまった。
そこで彼は、自分が居るソドー鉄道の話を聞かせて、彼女を元気づけることにした。
支線やちんまり鉄道の話、トードの名案で貨車たちのボスのスクラフィーをバラバラにしてしまった話をすると、
アイリーンはクスクスと笑う。
オリバーは、初めてここの路線に来て楽しいと思ってしまった。
朝になっても、二台のおしゃべりは長く続いた。
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だが、そんな楽しい日々も終わりが近づいてきた……。
オリバーが修理される日がやってきた。
長い間アイリーンとお喋りをしていたオリバーは、朝までぐっすりと眠っていた。
昼ごろになると、オリバーは目を開けてアイリーンにさよならを言おうとした……。
ところが、隣を見てもアイリーンの姿が居なかった!
オリバーはアイリーンを探したが、どこにもいない。
「どこに行ったんだ…?」
オリバーは段々、不安になってきた。
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やがてウェンデルが、オリバーを迎えに来た。
「よう!三日間の間、寒かったろう?
しょぼくれた顔をしてどうしたんだい?」
オリバーはウェンデルにアイリーンがどこに行ったかを話した。
「心配すんな。彼女ならお前さんが寝てる間に修理されて、
トレーラーに乗って帰ったよ。かなりの別嬪さんに見違えてな。」
ウェンデルはすぐに教えてくれた。
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それから修理を終えたオリバーは、ナニー・キャッスルに牽かれた貨車に乗って戻ってきた。
───ナニーが帰った後、機関庫でオリバーはダックにアイリーンのことを話した。
「トップハム・ハット卿に相談しようよ!」
「そうしたいのは山々なんだけど、彼女はスクラップじゃなくて修理されているから無理だよ……」
確かに、そうだった。
2台は諦めようと思ってたその時…彼らの前に誰かがやってきた。トップハム・ハット卿だ。
「おっほん!一体、何の話をしているんだね?」
「あ、あの…… 実はこの支線にも、もう一台機関車を増やしてくれませんか?」
ダックは、思いきって言う。
「うーむいきなりそう言ってもなぁダック、だがここもお前たち4台では疲れもたまるのもよくわかる。
どこかに展示してあって走れるのが居ればなぁ…」
「一台、本土に居ます! 彼女は……」
「実は君が工場に居る間に知り合いの出版社に行ってきた。
どうやらお前たちと同じ鉄道生まれの機関車を展示していたみたいだ。
ワシは彼に頼んで、ここの手伝いをしてもらう機関車を借りることになった」
「どうしてそれを知っているのですか?」
「ハッハッハッハッ! 工場長に一度、彼女を見せてもらって全てを聞いたのだよ。
アイリーンはこの鉄道で働くことになった!」
「どうもありがとうございます!」
オリバーとダックは大喜びで汽笛を鳴らして、大歓声を上げた。
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まもなくアイリーンはダックの支線が忙しい時に、出版社から手伝いにやってくることになった。
彼女もダックとオリバーと同じ大西部鉄道の美しい色に戻っていて、ちんまり鉄道の機関車たちとすぐ仲良くなった。
アイリーンはオリバーと一緒に働けるのが、何よりの嬉しかった。
みんなは「小さな大西部鉄道に可愛い機関車がやってきた」と言っている。
そして、彼女の今の機関庫でもある出版社の看板には「ソドー島の小さな大西部鉄道で働く機関車」と書かれていた。
このお話の出演は、オリバー、ダック、そしてアイリーンでした。
いかがでしたか?
今回のお話も実話に基づいたお話となっております。
今回のお話になった元ネタはドイツ出身の老兵機関車E18は、
かつて3年間もの間修理されずに放置されていた機関車であります。
この機関車は"エリエイ"という出版社から一時修理に出されたままでした。
出版社側は建物を建て直した時にE18を展示するスペースが作り、
看板にはE18のシルエットが描かれています。
そんな最中、彼の姿は未だに行方知らずとなっていました。
機関車の帰りを待つ持ち主と放置され続けた機関車……
彼が無事、修理された姿で戻ってくるのか心配でした。
しかし、時は2012年。
E18は修理を終え、奇麗な姿となって新たに新築されたエリエイ社屋にて余生を送っています。
次回は「はなびトラック~Fireworks Track~」をお楽しみに。