織斑一夏はSAO生還者   作:明月誠

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今回、教師陣がセシリアに対して黙っていることに違和感を感じるかもしれませんが、一応理由がありますのでご理解いただけたらと思います。
それと、感想いつもありがとうございます、ご指摘から、自分の考え以上の考察。全部目を通しています。
どこまで、作品に反映できるか分かりませんが、今後もよろしくお願いします。
あと、分かりずらい様でしたので、タグにホロウフラグメントを付け加えています。分かりずらくて、申し訳ありませんでした。


第八話・一夏の限界

「あはは、みっともない所見せちまったな。悪い」

「いや、気にするな。男は無暗に泣くモノではないが、きっとさっきはそんな場面であったのだろう……」

 

千冬からの入学祝を受け取った後、一夏は箒に謝罪をしていた。再会したばかりの幼馴染の目の前で泣いたのが、少し恥ずかしかったのだ。

 

「よかったな、一夏」

「あぁ。まぁ……流石に全面的に肯定はしてくれないみたいだけど、仕方ないよな」

「さすがに、全部が全部を認められる物でもなかろう」

「だな」

 

それでも、やはり嬉しかった。一夏の今の心情はそれで満たされていた。本当に、最高の姉を持てたと本気で思っている。

 

「そう言えば、一夏先ほどの件だが…」

「ん?」

「2年・3年にもSAO生還者がいるという話だ」

「あぁ」

 

箒にその話題を出され、一夏は先ほどの説明を思い出していた。

 

「お前は知っているのか?」

「どうだろうな。SAO生還者は約6000人だけど、全員の顔と名前を知っているわけじゃないしな」

 

さらに言うのであれば、彼は攻略組と呼ばれる最前線で戦う者達の一人であった。その数は、数百人程度で、常に最前線にいた分中層プレイヤーと知り合う機会も少なかった。

76層に上がってからは、システム的な不具合によりそれ以下の階層にも行けなくなったため、76層に上がったプレイヤー以外は、知り合う機会はなくなっていた。

 

「会いに行こうとは思わないのか?」

「ん~」

 

会いに行かないのかと問われ、一夏は思い悩む。しかし、答えはすぐに出ていた。

 

「止めた方がいいだろうな」

「何故だ?」

「それは……」

 

一夏は言い悩む。箒は今日一夏以外のSAO生還者を見ているのだが、彼女と自分だけしか見ていない箒にSAO生還者の実情を話すべきか悩んだからだ。

 

「俺は……多分、のほほんさんもSAO、アインクラッドでの日々に自分なりの価値を見出すことができた。けど、やっぱり全員がそうじゃない」

 

一夏は、仲間との日々を大切な物に感じた。おそらくは、本音も中層プレイヤーの仲間との日々をそう思っているに違いない。だが、全員が全員アインクラッドでの日々に価値を見出せているわけではない。

一夏のように再びVRMMOをしたいと思うものもいるが、それははっきり言って少数派と言っても良かった。

もしSAOでの出来事を忘れ、少しでも早く現実の生活を安定させようと頑張っている者がIS学園にいたとする。そんな彼らに自分が無神経に話しかける事は、相手にとっては忌まわしい過去を思い出す要因になってしまうだけだ。

 

「まぁ、不幸中の幸いって言うか、俺がSAO生還者って話はちょっと学園に流れたと思うし、話したい奴がいれば、のほほんさんみたいに話しかけてくるだろ」

 

だから、探し出すようなことはしない。そう一夏は結論付けた。

 

「そうか、すまない。安易に考えすぎたか」

「別に箒は悪くないだろ」

 

そう言い、一夏はベットにゴロンと横になった。そして、今後の事を考えていた。特に、セシリアの件である。何となくだが、まだ一悶着ありそうな気がしていならなかった。

 

「しっかし、あのクラスこれから大丈夫かよ」

「オルコットか?」

「まぁ、当面の問題はアイツだよなぁ~」

 

箒は、今日の言い争いを思い出していた。確かに、クラスが騒がしかったのもある。彼女の言ったことすべてが全く理解できなこともなかった。だが、それでも彼女がした発言はあまりにも不謹慎であった。

 

「どうする。あの高飛車な女は」

「どうもしないさ」

「なんだと!?」

 

一夏がさも当然に、何もしないと公言して箒は思わず食って掛かってしまう。

 

「お前は、あんな態度をとられて悔しくないのか!?」

「悔しくないって言ったら嘘になるけど、アイツの言ってる事も全部が全部間違いって訳じゃないしな」

「そ、それはそうかもしれないが!!」

「心配しなくても、許容範囲以上の事を言われたら、俺だって黙ってないさ」

 

だが、箒は納得ができなかった。彼女も、乙女である。自分の思い人が悪く言われる事に我慢なんてできなかったのだ。

 

「まぁ、代表候補生ってよく分からないけど、エリートなんだろう?」

「あぁ、基本的に自分の専用機が与えられる事になっている」

「うぉう。そこまでかよ」

 

箒にそう教えてもらい、さらにセシリアへの情報を付け加える。プライドの高い性格に加え、実際に実力もあり、相応の努力もしている事を。

 

「自分が努力して現在の地位にいるのに、男って言うだけでIS学園にいるのが気に入らないのかもな……」

 

もっと言えば、自分よりもゲームの話で目立っていた一夏が気に入らないか。あの、『いい気になってくだらない』と言う発言も、どちらかと言えば本音よりも一夏あてに言っている節もあった。

 

「となると、俺に突っ掛ってくる可能性があるな」

 

げんなりした様子で一夏は天井を仰ぐ。不幸中の幸いは、セシリア以外に女尊男卑の思想が強い者がいなかった事か。少なくとも、自分に表だって突っ掛ってくるものは食堂でもいなかった。

正直、すれ違いざまにでも『調子に乗るな』とボソッと言われるのを覚悟していたのだが・・・。

しかし、まだ初日だ、油断はできなかった。

 

「ん~、幸先不安だな~」

「そう言う事は思っても、軽々しく口に出すな」

 

ため息交じりで箒は一夏に注意した。

 

「箒~」

「なんだ?」

「頼りにしているぜ?」

「な!?」

 

不意打ち気味にそう言われ、箒は思わず赤面となってしまう。

 

「し、しし、仕方あるまい! 幼馴染である私がお前の面倒を見なくてはならないしな!!」

「と言うか本気で頼むぞ。俺の頼れるのって本当に箒しかいないから」

 

本音はSAO内で数回しかあっておらず、流石に頼りれるほど親しくはなかった。

そんな訳で、方や赤面な表情、もう一方は鬼気迫る表情と言うちょっと微妙な顔を見合わせた感じで、一日は終了した。

 

「あ、やべ。パジャマに着替えてなかったな。ちょっと着替え・・・」

「風呂場で着替えろ!!」

「痛い!? だから殴るなよ!!?」

 

やはりデリカシーにかける一夏であった。

 

 

 

 

 

「さて、それではホームルームを始める」

「(2日目の1限もホームルームかよ…)」

 

IS学園、二日目の朝。初日と同じく、再びのホームルームで一夏は内心首を傾げていた。とは言え、委員も何も決まってなかったのでそれが理由かと思っていた。

 

「昨日一日を通してある程度クラスメイトの事を理解しているであろう。そこで、まずはクラス代表を決める」

「クラス代表?」

 

委員長ではなく、クラス代表。少し理解ができず、周りを見渡すがどうやら自分同様に理解できない生徒がいるようで少し一夏は安心した。

 

「クラス代表は、いうなれば国家代表の縮小版のようなものだ。各クラスの中より、代表者を決めクラス対抗戦に出場する役割を持つことになる」

 

早い話、クラスの顔だ。そう、千冬は言った。

 

「(……大丈夫だよな)」

 

昨日の今日でそんな波紋を呼びそうな話題に、一夏は思わず頭を抱える。実際、千冬も躊躇した話題であったが決めない訳にはいかなかった。

願わくは、少しでも騒ぎにならないようと祈るしかなかった・・・。

 

「自薦他薦どれでもいい。まずは候補者を決めろ」

「はい、織斑君を推薦します!」

「あ、私も!!」

「うんうん。昨日もうまく場を治めてくれたし!!」

「なッ!!?」

 

その数人の生徒が発言する内容に、思わず絶句する。どう考えても、昨日の騒動を蒸す返す火種にしか感じなかった。

場の流れがやばい。一夏は直観的にそう感じた。

 

「ほかに候補者は出ないか? ならばこのまま織斑に―――」

「お待ちください!!」

 

案の定と言うべきか、セシリアが声を上げた。一夏はやはり来たかと内心頭を抱えるしかなかった。

 

「そんな選出認められませんわ!! 大体男が代表だなんて恥さらしもいい所ですわ!!」

 

この瞬間、一夏のセシリアの情報に女尊男卑思想が(強)である事が追加された。とはいえ、これに関しては正直疑問も感じた。

彼女が代表候補生と言うのであれば専用機整備の技術者に男性がいるはずだ。ならば、そう言った人間の必要性を理解していても不思議じゃない。それでもそう言った考えを持っているのには、なにか理由があるのかもしれない。一夏は、漠然とではあるがそう感じていた。

 

「こんな島国に来ただけでも耐えられませんのに、物珍しいと言う理由だけで―――」

 

『イギリスも島国だろうが』その言葉を言いそうになるが、一夏はグッと喉もとで止めた。昔の自分・・・あるいは、SAOに行ってなかったら思わず自分は言い返してたであろう。しかし、SAO時代のトラブルから彼も学んできたのである。

と言うか、周りから口を酸っぱくして言われた。そのすぐ言い返す癖止めろと。

攻略会議の際には、複数のギルドが介する中、衝突は多々あった。その中で、無茶苦茶な事を言う所もあるのだが、一夏はそれに反発しまくっていていた。

大抵は一夏が正しいのだが、正しいからと言って、その場で強く反発して良いかと言われれば話は別だ。上手くまとめるのも必要だし、変に軋みを生み出してしまったら、フロアボス攻略の際に支障をきたしてしまう。

 

「実力からして、唯一試験官を倒して、かつ、代表候補生である私がクラス代表になるのは必然でして―――」

 

そんな訳で、一夏の堪忍袋はだいぶ広くなっていた。だが、それも・・・。

 

「そもそも、ゲームで死ぬなど”下らない死に方”をする人達がいる国などで・・・」

「――――――ッ!!!?」

 

許容範囲が過ぎるまでの話である。

 

「ちょっと、オルコットさん!!?」

「いくらなんでも、それは不謹慎な!!」

 

クラスの数名が、オルコット非難するかのように声を上げる。だが、その声は一夏には届かなかった。一夏の頭の中では、フラッシュバックのようにアインクラッドで散っていった人達の姿が思い浮かんできた。

 

 

『こんなところ、いつまでもいれるかぁ!!』

アインクラッドでの生活に耐えきれず、自ら外壁から飛び降りたプレイヤー。

 

 

『リーダー!!? そんな、やられちまったのか!?』

フロアボスとの攻略戦で散ったプレイヤー。

 

 

『どうして、どうしてもっと早く来てくれなかったの!? もっと、早くあなたが来てくれれば、彼女は死ななかったのに!!』

自分がPK現場に来るのが遅くなってしまい、助けれなかったプレイヤー。

 

 

そして。

 

 

『ありがとう、キリト、チナツ。私ね、皆と過ごせて本当に楽しかった・・・』

―――レアの事を。

 

 

それらの出来事を、記憶を鮮明に思い出してしまった瞬間・・・。

一夏は我慢なんてできるはずもなかった。

 

「……あぁ、そうだな、下らないよな」

 

ポツリと呟くように一夏は言った。その言葉は、小さかったが、何故かとても重く感じた。

 

「アンタの言うとおりだよ。オルコット、ゲームで死ぬなんてくだらない事この上ないさ」

 

一夏のその言葉に、セシリアは更に増長する。

 

「ふん。どうやら身の程を弁えているようですわね。これに懲りたら――」

「だけど!!」

 

一夏は、その場で強く立ち上がりセシリアに向き直って叫んだ!

 

「そんなくだらない死に方を! 誰もがしたかったわけじゃなかったッ!!!」

「なッ!?」

 

そんな一夏の反応が、予想外だったのかセシリアはその様子に絶句した。

 

「SAO被害者は1万人だった。その内、死んでいったプレイヤー凡そ4000人。アンタは、その死んでいった人達に、その家族に、知人に、さっきと同じ台詞が言えるのかよ!!?」

「お、男の癖に私に意見を言う気ですの!?」

「男とか、女とかそんなのは関係ない!」

 

一夏は我慢できなかった。自分の事を貶されても構わなかったが、あの世界で散った名も知らない誰かのために怒る優しさを持っていた。

一夏はセシリアに詰め寄ると彼女の手を強引に掴んだ。

 

「な、なんですの! は、離しなさい野蛮な!!」

 

無理やり振りほどこうとするセシリアであるが、ISさえなければ単純な筋力は一夏の方が上であるため振りほどけなかった。

 

「俺と一緒に来い、気に入らないが俺のバイクに乗せてやる。その言葉、SAO生還者のいる学校で言えるかどうか―――」

 

一夏はその怒りを止めることなく、セシリアの手を引っ張ろうとして―――。

 

「座れ、織斑」

 

千冬の言葉が、その騒動とピタリと止めた。

 

「嫌だね!! こんなこと言われて!!」

「二度は言わん。す・わ・れ」

 

反発する一夏であるが、それを千冬は重い声色で封殺する。

 

「く、そッ!!」

 

その言葉千冬の言葉にセシリアの手を放し、自分の席へと一夏は戻っていく。

 

「ふんッ!」

 

対して、セシリアも髪をかき上げ一夏を見る。一瞬焦ったが、所詮は男の戯言。気にする必要がないという雰囲気であった。

 

「代表候補生ってのは、人の命を侮辱するくらい偉いのかよ……」

 

絞り出すように言いながら顔を背けながら座った一夏を見て、セシリアは心の奥底に重い何かを一瞬だけ感じた。

それが罪悪感と言う感情である事に気付くのは、少し先の話であった。

 




モッピー何でも知っているよ、イッピーのバイク自宅にあるって事を。
モッピー何でも知っているよ、イッピーその事を後で思い出して、顔真っ赤だったって事を。

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