織斑一夏はSAO生還者   作:明月誠

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今回は番外編です。今後は時系列を無視したものは番外編として書いていく予定です。

セシリア編も終わってないのに何書いてんだオラァ!って思う人もいるかもしれませんが、せっかくアニメもファントム・バレット編が終わったし、記念と言うか、熱が冷めないうちに書きたかったんです。
というか、本編でチンクの出番がまだ先、シノンはチョイ役の反動がががががが。

コホン、とにかく楽しんでいただければ幸いです。


番外①・ソルジャー&スナイパー

とある仮想世界の荒野。岩だらけの草さえ碌に生えていない、荒れ果てた大地に二人の少女が岩陰に隠れていた。

 

「どうだ、シノン」

「ビンゴ。いたわ、今日のターゲットはアイツらにしましょう」

 

シノンと呼ばれた少女は、ライフルに付属しているスコープを通じて、遠くの景色を見ていた。その視線の先には、プレイヤーの集団が歩いていた。

 

「連中、対人スコードロンだな。雰囲気を見るに、戦闘後と言った所か」

「不服?」

 

シノンはスコープから目を離さずに、共にいる眼帯をしている少女に聞いた。

 

「ここが、SAOならば、な」

 

だが、ここは、この世界はアインクラッドではない。GGO・ガンゲイル・オンラインと呼ばれる今や数多く存在するVRMMOの一つの世界である。

その事から、眼帯の少女は獰猛に笑みを浮かべながら言う。

 

「だが、この世界ならば連中は格好の獲物だ。奴らに教えてやろう、本当の闘争というものを」

「……あんたも、すっかりこのゲームに嵌ってるわね」

「ふん、それなりの楽しみを見出さねば、幾らお前の頼みとは言え、長々とこのゲームをやってはいない」

「そうね、SAOのデータのコンバートはALOにしてるから、1からのスタートだったものね」

「あの頃は大変だったな」

 

しみじみと昔(つい数か月前の話だが)を思い出しながら、彼女たちは渇いた笑いを出していた。

 

「って、こんな事をしていたら折角のチャンスが無駄になるわ。チンク、早く行って」

「ふむ、了解した。頼んだぞ、スナイパー」

「任せて」

 

眼帯の少女、チンクはハンドガンを腰に忍ばせ、手にはナイフを持ち岩から飛び降りた。

 

「本当に軽装備なんだから。あれで、このゲームのトッププレイヤーなんだから、驚きね」

 

半分呆れて、もう半分は感心しながらシノンはチンクを見送った。

 

「さ、私も自分の役割をきっちりしないとね」

 

そう言いながら、彼女はライフルの引き金にそっと指を添える。そして、心を落ち着かせる。冷静に、沈着に、狙いをつける。確実に獲物を撃ちぬくために。

 

 

 

 

 

「大丈夫っすかね、リーダー」

「あん?何がだよ?」

 

岩だらけの荒野で、プレイヤーの集団が談笑をしながら歩いていた。

 

「今日狩った奴らが、因縁をつけてこないかでも心配しているのか?」

「それもですけど、ほら、ここら辺って」

「あぁ、例の美女二人組の噂か。そう言えば、こんな岩だらけの場所に現れるって噂だっけ?」

 

心配そうにその話題を出した男に、リーダーであった者は呆れた顔でそれに答えた。

 

「あ~、俺も知ってる、知ってる。たしか、たった二人で幾つものスコードロンを潰し回ってるって噂の!」

「くっだらねぇ噂だろ。ただでさえ、VRMMOをする女なんてISの所為で少ないのに、この油臭いGGOにそんな女なんているはずないだろ」

「あ~、けど噂じゃ、ニューハードでISを題材にしたVRMMOが出るって話もあるますよ」

「そうだとしても、GGOをやってる俺等には関係ない話だ」

「違いない!」

 

いつの間にか、空気が軽くなり男たちは盛大に笑い始めていていた。こうやって、リアルの顔も知らない相手とでも笑い合えるのが、VRMMOの醍醐味の一つかもしれない。

 

「けど、そんな女の子がいたら、ラッキーだよな」

「おうよ、美少女二人に攻められるなんて、ご褒美じゃねぇか!」

「おー、同士! 分かってるじゃねぇか!」

「ったく、馬鹿な事言ってないで早くねぐらにでも戻って、今日の戦利品の振り分けでも―――」

 

だが、次の瞬間男は何かに貫かれ、一瞬にしてガラスのように砕け散った。

 

「―――は?」

「え?」

 

周りにいた仲間達は、一瞬の出来事に理解ができなかった。普段狩る立場の自分達が、狩られる立場にいる事を理解が出来ていなかったのだ。

続けざまに、赤いラインが自分達に降り注ぎ、ようやく彼らは何が起きたのか理解し始めた。

 

「て、敵襲だ―――グェッ!!?」

「知っているか貴様」

 

いの一番に何が起きたのかを理解した男が、背後から何者かに首を絞められナイフを当てられていた。

 

「白兵戦に置いて、時にナイフは……」

 

銃よりも早く、確実に相手を葬る事ができる。そう言いきる前に、チンクはナイフで男の首を切り裂いた。

 

「ふん、幸運な男だ。チナツ以外に私が抱き着くなぞ、本来はあり得ないのだがな……」

 

なんか、自分からしておいて理不尽な事を言う子であった。

 

「が、眼帯のナイフ使いに、スナイパー……」

「ま、間違いねぇ噂のコンビじゃねぇか!!」

「ほう、私たちも何やら有名になったようだな」

「くそ! 舐めやがって!!」

 

状況を理解した男たちは一斉に、銃を構えチンク目掛けて放とうとする。

 

「あ、おい、お前」

「なん―――ぎゃぁ!!?」

「そこにいると危ないと言おうと……と言うか、二撃目なのだから、予測線は見えているであろうになぜ避けない。馬鹿なのか? 頭が悪いのか?」

 

チンクに集中していた男は、シノンのライフルから出ていた弾道予測線が自分の後頭部にあたっている事に気付く事ができず、一瞬にして撃たれて消えていった。

 

「まったく、これだから本当に緊張のない連中は」

 

チンクは、やれやれと言ったしぐさを見せ男達を挑発する。その様子に彼らは怒りを露わにするほかなかった。

 

「てめぇ!!」

「くそ、数はこっちがまだ上だ!! 予測線に気をつければ、実質カモ一人だ、やっちまえ!!」

「ほぅ、まだやる気か。いいだろう、来い」

 

そう言いながらチンクはナイフを片手に踊るように男達に立ち向かう。

 

「このちょこまかと!!」

 

時にナイフで僅かなダメージを与えつつ、時に岩陰に隠れながら銃弾を防ぎチンクは男達を翻弄した。

 

「くそ! あの餓鬼、AGIがかなり高いぞ!!」

「落ち着け、不意さえ突かれなければ、あんなナイフくらいで何が―――」

「まぁ、確かに正面からは何も出来んな」

「なぁ!?」

 

いつの間にか、自分のすぐ隣に降り立った少女に驚きを隠しきれなかった男であったが、すぐに銃を構える。

 

「だが、蹴る事くらいはできるぞ」

 

そして、男が弾丸を放つよりも早く思いっきり蹴り飛ばした。

 

「て、てめぇ! こんな事をして、何……がぁあ!!?」

 

だが、体勢を崩した先には、自分に受かって真っ直ぐに伸びる赤いラインが存在していた。その事で、男は理解する、自分をこの場所にやるために蹴り飛ばしたのだと。体制の崩れた体では当然、避ける事なぞ出来ず……。

 

「ナイフなど、正直ただのカモフラージュだ。本命は、格闘戦の方……って、もう聞いていないか」

 

すでに、今蹴り飛ばした男はガラスの様に砕けていた後であった。その様子に、彼女は呆れながら言う。

 

「失礼な男だ。折角、極上の女が説明をしてやっているというのに」

 

ちなみに、現実世界でも、仮想世界でもロリ体型なので、極上と言えるかどうかは疑問ではあった。

だが、そんな彼女たちを見て残った男の一人が呟いた。噂の通り名を。

 

「デ、デス・エンジェルズッ!!」

「……相変わらず、恥ずかしい通り名だ」

 

デス・エンジェルズ……死の天使達。それが彼女達の通り名であった。二人組で、天使のような可愛さで、悪魔の様に獲物を狩るプレイヤー。シノンとチンクはGGO内でそう呼ばれていたのであった。

 

「ひ、ひぃ!!」

「あ! おい、待て!!」

 

残る標的は二人だが、仲間が次々とやられていく様を見せつけられ恐怖していた。その感情から、二人は走って逃げていった。

 

「くそ、こうなりゃログアウトして―――」

「ばか、避けろ!!」

「え? ぎゃぁあ!!?」

 

だが、走りながらメニュー操作をしようとしていた男は、あっさりとシノンの射撃によって砕け散った。

 

「馬鹿野郎、だからスナイパーには気をつけろと―――ぐぉお!?」

「そして、貴様は背後にも気を付けるべきだったな、間抜けめ」

「うぉお!!?」

 

いつの間にか、背後にはチンクが迫っていた。最後の一人は、彼女に羽交い絞めにされ身動きが取れなくなっていた。

 

「まったく、私はチナツ以外には抱き着きたくないのだが、これが効率の良いのも事実だ。仕方あるまい」

「む、無茶苦茶だ! 別に頼んでねぇじゃねぇかよ!!?」

「ふん、言い訳か。とは言え、貴様の言う事も一理ある。詫びだ、プレゼントをやろう」

 

そう言いながら、彼女は思いっきり男を突き飛ばす。

 

「プレゼントは当然―――」

「う、うわぁあ!!?」

「美女の弾丸だ」

 

最後の標的は、体勢を立て直すことなく弾丸に撃ち抜かれ砕け散った。

 

「正確には、美女の放つ弾丸だが、まぁ、問題はあるまい」

 

チンクは不適な笑みを浮かべながら言う。

 

「ご褒美なんだろ、美少女二人に攻められるのは? ありがたく感謝しろ」

 

少女は、ドロップしたアイテムに一瞥もせずにその場を後にした。

 

「さて、快勝祝いだ。適当に飲むとしよう」

「それよりも、アイテム拾うのを手伝いなさいよ!! いつも、いつも、私にばっかりやらせて!!」

 

いつも何か現場に来ていたシノンは不満げにチンクに文句を言っていた。

 

 

 

 

 

 

「じゃぁ、私達の勝利を祝って」

「乾杯」

 

コツンとある酒場で、少女達がグラスをぶつけあっていた。

 

「ふん、今日のは手応えのない相手であったな」

「そう? あのスコードロン、最近いろんなところから恨みを買ってるって評判だったのよ?」

「負け犬どもの遠吠えなんぞ知らん」

「アンタ、相変わらず口が悪いわね」

「放っておけ。これでも昔に比べたらマシだ」

「はいはい」

 

そんな彼女を呆れた顔で見ながら、シノンは飲み物を口にする。

 

「それにしても、SAOに比べるとやっぱり料理の種類が少ないわね」

「意図的にであろう。最近では、VRMMOプレイヤーの栄養失調が少し問題になってきていると聞いた事がある」

「SAOを生きた私達にとっては、人事じゃないのかもしれないわね」

 

まぁ、私は半年程度だけど。シノンはそう言うと、追加のドリンクの注文をする。

 

「精々、飲み物と軽いつまみで我慢するのが一番ね」

「そうなるな」

 

そんな会話をしていると、ふとチンクがある事を思い出す。

 

「だが飲み過ぎると、体が水分の摂りすぎと誤認して失k……」

「それ以上言うな、この馬鹿!」

 

おおよそ、女性にあるまじき発言をしようとしたチンクであったが、シノンに止められた。

 

「はぁ、まったく。やっぱりアンタ、どこかずれているわ」

「?」

 

シノンのそんな苦言が若干理解できず、思わずチンクは首を傾げてしまった。

 

「まぁ、あんたのその強さは心強いのだけれどね」

「そう言うのは構わんが、BOBではそうはいかんぞ?」

「分かっているわよ。ソロでの戦闘も当然視野に入れているわ」

 

BOB、バレット・オブ・バレッツ。いうなれば、GGO内で最強のプレイヤーを決める大会だ。本戦はサバイバル型の遭遇戦のためコンビプレイをする事も可能であるが、予選は1対1の対人戦である。そのため、普段スコードロンに入っている者も、シノン達のようにコンビを組んでいる者も、その大会においては一人で戦える技能が必要になってくる。

 

「とはいえ、BOBが近いからと言って最近、GGOにINしすぎたな」

「あぁ、チンクもそう思う? 私も学校でアスナに、『最近、ALOにINするのが少ない』って、せっつかれているのよね」

「あれで、アスナも寂しがり屋だからな」

「アンタは? チナツの方はどうなの?」

「……笑って、『時間ある時にでも一緒にプレイしようぜ』と半分流されている……」

 

その回答に、シノンは思わず絶句した。

 

「アイツの唐変木っぷりも相変らずね」

「まったくだ!」

 

そんな時だ、彼女たちの周りが騒がしくなったのは。

 

「ん、騒がしいな」

「そうね……って、あれじゃない?」

 

シノンが指差すと、その先にはスクリーンがありある番組が映っていた。

MMOストリームと言う、VRMMOを題材にしている番組だ。その中で、今日はGGO特集として前回のBOBでの上位のプレイヤーがインタビューを受けていたのだが……。

 

「荒れてるわね。ゼクシード、少し調子乗りすぎね」

「そうか? 情報操作も、立派な戦術の一つだが?」

「人間、そう簡単には割り切れないものよ。リアルマネートレーディングがあるこのゲームなら尚更、ね」

「ふん、こんなゲームで生計を立てても、保険もない、先も見えない。不安だらけしかない……と、チナツの奴は言っていたが」

「なんでアイツはそんなに所帯じみてるのよ。まぁ、小遣い稼ぎで止めておくのが妥当と言えば、そうなんだろうけどさ」

 

ゼクシードはかつてステータスはAGI型が最強と言っていた。だが、当の本人はそれとは全く別のステータス振り分けを行っていたんだ。彼は、流行をミスリードさせる事で自分が優位に立てるように仕向けていた。それ故に、他のプレイヤーからはひどい批判を受けていた。

 

「あら? どうしたのかしら?」

 

ぼんやりとMMOストリームを見ていた彼女たちであったが、急にモニター越しのゼクシードが悶えはじめた後に、回線切れで消えていった。

 

「あらら、回線切れ? 体調管理が出来ていないのかしら?」

 

アミュスフィアには、一定以上の生理的反応や外部刺激で強制的にゲームを終了する機能が搭載されていた。心拍数の上昇、腹痛など、リアルの体に異変が起きれば強制的に終了してしまう。

 

「ぷ、ゼクシード。だっせー!」

「トイレか!? ざまぁみろってんだ!!」

 

そんなゼクシードを見て、他のプレイヤーは口々に好き放題に言っていた。

 

「本当に嫌われているわね、アイツ。ねぇ、アンタはどう……チンク?」

 

不意にチンクの様子がおかしい事に気が付き、シノンは彼女に問いかけた。

 

「いや、別に何でもない」

「本当に? 体調が悪いなら、ログアウトしなさいよ?」

「あぁ、スマンな」

 

だが、チンクの表情は優れない。それを心配そうにシノンは見つめていた。

だが、チンク自身も分からなかった。なぜ、こんなにも先ほどのゼクシードの様子が気になるかを。

 

「(……今の雰囲気、まるで……)」

 

SAOで感じた、本当の死の瞬間。一瞬そう考えた後、すぐさま自身の中で、その考えを否定した。

 

「(いや、ありえんな)」

 

もう、デスゲームは終わったんだ。ゲームで人が死ぬなどあり得ない。彼女はそう結論付け、席を立つ。

 

「さて、時間もある。もう一狩りでも行くか?」

「それはいいけど、本当に大丈夫なの?」

「ふん、私を誰だと思っている」

「……ふふ、その様子だと、本当に大丈夫の様ね」

 

心配するシノンであったが、チンクの不敵な笑みを見て安堵して席を立つ。彼女たちは、そのままバーを出て、シティの中を歩き始めた。

 

「次はどこに行く?」

「そうだな、偶には遺跡ダンジョンにでも……」

 

次の目的地を相談しながら歩いていると、自分よりも前から全身マントを身に纏うプレイヤーが歩いて来ていた。

チンクはすれ違いざまに、彼の顔を見る。

 

「(骸骨面に、赤い……目?)」

 

何気なしに見てしまったその顔に、違和感を感じ歩きながらも彼女は考え始めた。

 

「(……ッ!!)」

 

そして、ある事を思い出して、先ほどの男が歩いていった道を振り返った。

 

「どうしたの、チンク?」

「いや、気のせいだ」

 

すでに男の姿はそこにはなかった。だが、チンクは睨むように男がいたであろう場所を睨んでいた。

 

「(まさか、な……)」

 

心で否定しても、度重なる嫌な予感に彼女は不吉なものを感じていた。

 

 

 

 

これは、死銃(デス・ガン)の噂が広まるほんの少し前の話である。彼女達はまだ知らなかった、SAOから続くVRMMOのダークサイドに自分達が関わる事を―――。

 




私、色々な事を知りたいです! パパ、ママ!! 赤ちゃんってどうやってできるんですか!?
私、色々な事が知りたいです! パパ、ママ!! 現実での生理現象ってどんな感じなんですか!?
私、色々な事が知りたいです! パパ、ママ!! えっと、ええっと……。

ゆ、ユイちゃん! お、落ち着いて!(汗)
そ、そそそそうだぞ、ユイ。そんなにいっぺんに言われても!?(汗)




モッピー一つ理解したよ。遠くから見るホームドラマほど虚しい物はないって事を。
……けど、リア充ざまぁ。

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