織斑一夏はSAO生還者   作:明月誠

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やあやあ、皆様お久しぶりです(汗
いや~、中々時間もとれず、セシリア改心イベントが上手く纏まらず遅くなってしまいました。
どれだけ待っている方がいたか分かりませんが、申し訳ありません。

セシリア編もコレ含めてあと3話。もうすこし、お付き合いをよろしくお願いします。

あと、関係なんですけど、この前車の運転中に鹿が道路にいたんですよね。夜という事もあって気付くのに遅れました。(幸い、ぶつかりませんでしたが)
ちょーびっくりですが、モンハンってあれを雑魚扱いですよね。
自分は、あの世界にはトリップできないなと、改めて思いました(笑


第十四話・SAO被害者

「すごいすご~い!! かんちゃん、見て見て~!! ブリュンヒルデだ!! SAOのブリュンヒルデだよ~!!」

「うん、本当に……」

 

観客席で本音と、SAOではクシナと呼ばれていた眼鏡をかけた少女はセシリアと一夏の戦いを見ていた。

彼は否定するかもしれないが、彼女達にとっては、例えここがSAOの世界でなくても一夏は、SAOのブリュンヒルデ・チナツであった。自分達を助け、救ってくれた憧れの存在。それが彼だ。

 

「今の、今の!! ヴォーパルストライクだよね~! やっぱり、攻略組のソードスキルはなんか違うよ~!!」

「ほ、本音。お、落ち着いて」

 

結果は一夏の負けだが、今の結果を見て誰が負けたと思うだろうか。少なくとも、彼女達の中では勝者は間違いなく一夏……否、チナツであった。

 

「えへへ~。ちょっと不安だったけどIS学園に来て良かったね! かんちゃん~」

「う、うん。分かったから、落ち着いて」

 

周りは試合結果が今一理解できず呆然としているのに、一人だけではしゃいでいる幼馴染が少し恥ずかしいクシナであった。

 

「けど、本当にすごいな……私なんかとは全然違う……」

 

そして、彼女は決めた。

 

「(やっぱり、償ってもらおう)」

 

彼女はそう、何かを決意した瞳で一夏を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

「さ、試合は終わりだ。降りようぜ」

「な、お、お待ちなさい!!」

 

ゆっくりと降下していく一夏を、セシリアは慌てて追いかける。彼女は納得していなかった、先ほどの決着を。

先ほど、自分は確かに敗北を覚悟した。にも拘らず、結果は自分の勝ち。原因は一夏が攻撃を外したことにあった。それが納得いかなかった。あれを勝利と言うほど、彼女は安いプライドを持ってはいなかった。

 

「ど、どういうつもりですの! 先ほどの攻撃は!!」

「あ~、と。それはだな……」

 

さらに言うのであれば、一夏の煮え切らない態度がさらに腹が立っていた。

 

「そ、それよりもIS解除しようぜ! いや~、なんでか馴染むけどやっぱり肩凝ってさ~」

 

そう言いながら、一夏はISを解除する。因みに、任意ではなく話を誤魔化そうとしての勢いからである。そのため、後日任意での展開・解除に苦労するのだが、それはまた別の話だ。

 

「この!まったく、良いですわ! 話は、ピットに戻ってからでも……」

「追ってくる気か!?」

 

セシリアのその言葉に、若干驚愕しつつも一夏はこれを機に話をする事ができたらなぁと考えていた。

そして、セシリアがISを解除した瞬間。

 

「へ?」

 

ペタリと地面に座り込んだ。

 

「えっと……?」

 

行き成り座り込んだセシリアに対し、一夏は困ったような表情を浮かべる。

 

「ちょ、ちょっと疲れただけですわ!」

 

そう言いながら、一生懸命にセシリアは立とうとするが立つ事ができなかった。俗に言う、『腰が抜けた』である。

 

「大丈夫か?」

「け、結構ですわ! 敵の施しなど受けなくてよ!!」

「いや、もう試合も終わったしさ……」

「うるさいですわ!!」

 

一夏はセシリアに手を伸ばすが、彼女はそれを頑なに拒否する。とは言え、一夏も困っていた。

 

「そんな事言っても、ほったらかしで帰れないしな……」

 

ここで、鬱憤を晴らすかのように嘲笑い見捨てるという行動ができない辺り、彼が誠実な人間である事を表していた。だからこそ、箒も、チンクも、本音、その他の人達も彼に惹かれているのだろう。

『もしキリトがいなければ、そのポジションにチナツがいた』かつて、チンクがそう言った事があるが、その可能性を感じてしまう瞬間でもあった。

 

「はぁ、仕方ない」

 

彼は溜息を吐きながら、セシリアに近づく。

 

「な、なんですの?」

「苦情は後で聞くから、あんまり暴れるなよ」

 

そう言いつつ、彼はセシリアを抱きかかえる。所謂お姫様抱っこである。

 

「「「「きゃぁああああああ!!!」」」」

『な、なな!! 何をしているか、一夏ァッ!!!』

 

彼がその行動をした瞬間、試合結果が理解できず呆然としていたクラスメート達が黄色い声援をだした。

そして、箒の怒号が通信越しになり響いた。

 

「な、なななななな!!? 何をするんですの!!?」

「だ、だから暴れるなって!!」

 

暴れまわるセシリアに対して文句を言いながらも一夏はピットまで行こうとして……。

 

「あ、そう言えば、発射口って結構高い所にあるな。どうやって入ろうか?」

「知らずにISを解除しましたの!? 考えなしにもほどがありますわ!!」

「よく言われる」

 

そんな一夏に呆れつつ、半場お姫様抱っこされるのを諦めながら指を指す。

 

「あちらの勝手口から入りなさいな。もうロックは解除されているはずでしてよ」

「お、サンキュー」

「まったく、私を抱えるなど一生に一度あるか無いかでしてよ。感謝してくださいまし」

「そいつは、ラッキーだ」

「気持ちが篭っていませんわ!!」

「どうしろと言うんだ!?」

 

ぎゃあぎゃあと言いながら、一夏はセシリアをピット内へと連れていった。そこには、怒り心頭の箒と呆れ顔の千冬、そして苦笑いの真耶がいた。

 

「どういうつもりだ、一夏!!」

「まぁ、落ち着けって箒。試合に負けたのは謝るからさ」

「それもあるが、どうしてその女を連れてくる!!」

「いや、まぁ、その……ほっとけないし?」

「そ、その女だなんて! 篠ノ之さん!! いくらなんでも失礼でしてよ!!」

「お前なぞ、『その』だの『あれ』だので十分だ!! 今までの言動を……!!」

「そこまでしろ、馬鹿者どもッ!!!」

「「「ひっ!!?」」」

 

言い争いを始める箒とセシリアが千冬の一喝で大人しくなった。ついでに、一夏もビビッてセシリアを落としそうになる。

 

「まったく、どこでも騒がしい奴らだ。一夏、オルコットをそこに座らせてやれ」

「あぁ。じゃぁ、降ろすぞオルコット」

「あ……」

 

ゆっくりと、やさしく一夏はセシリアを椅子へと座らせた。セシリアは若干名残惜しそうに思わず声を出していた。

 

「(なんだか、小慣れしてないか一夏?)」

 

そして、箒は女の勘を働かせていた。そんな微妙な空気が漂う中、真耶が一夏に話を切り出す。

 

「さて、織斑君。試合が終わって疲れていると思いますが、専用機を持つのに必要な事を……」

「おりむ~!!」

 

しかし、その話をぶっちぎるかのように勢いよく扉が開き本音が入ってきた。

 

「試合見たよ~! すごかった~!! さっすが、SAOのブリュンヒルデ!!」

「そう呼ぶのやめてくれ、のほほんさん」

 

若干気恥ずかしそうに一夏は言い、本音は嬉しそうにぐるぐる回る。この子、はしゃぎ過ぎである。

 

「え~、いいじゃん、いいじゃん! ね~、かんちゃんもそう思うでしょ?」

「? 誰の事?」

「え? 何言ってるの、おりむー。かんちゃんなら~……あれ?」

 

キョロキョロと辺りを見渡すが、先ほどまで一緒にここに来ていたはずのクシナこと、かんちゃんがいなかった。

 

「あ、あれ?」

「?」

 

困惑する本音に怪訝な顔をする一夏。だが、ある事を思いつき、本音に質問した。

 

「と、そうだ。ミーナさんは? いっしょにいなかったのか?」

「へ? ギルドマスター? ん~、さっきまで一緒だったけど、もう部屋に帰ったんじゃないかな~」

「いや、それはない」

「「?」」

 

不意に、千冬が本音の言葉を否定した。彼女はミーナと言う言葉に一瞬疑問を感じたが、場の雰囲気から恐らく一夏にIS指導をした上級生だと判断していた。

 

「彼女は、寮に戻っていない。そして、今後も戻ることはないだろう」

「ど、どういう意味だよ、千冬姉?」

「彼女は、本日付でIS学園を自主退学した」

「「「え!!?」」」

 

その千冬の言葉に、箒、一夏、本音が驚きの声を思わず上げてしまった。

 

「お、織斑先生!!」

 

個人情報でもあるその事を言ってしまったのに対し、真耶は千冬を非難する。だが、そんな事を気にせず千冬は話を続けた。

 

「今頃は、モノレール駅にでも向かっているだろう。走ればまだ間に合うかもしれないな……」

「クッ!!」

「あ、一夏!?」

「お、おりむ~!?」

 

彼は千冬のその言葉を聞くと同時に、急いでその部屋から出ていった。そんな彼を箒と本音は急いで追い掛ける。

 

「い、行っちゃいました。まだ、クラス代表の話もあったのに……」

「まぁ、明日のホームルームにでも決めればいいだろう」

「は、はい。そ、それよりも織斑先生! どうして、あの事を話したんですか!?」

「生徒のプライバシーを配慮するのも必要だが、ここでしこりを残せば後々まで残る傷になる可能性もある」

「そ、それはそうかもしれませんが……」

「なにより、IS学園を去ると言っても、彼女もこの学園の生徒であったことには変わりない。出来る事なら、悔いなく去ってもらいたい」

「……それが、織斑君との会話だとでもいうのですか?」

「さて、な。だが、黙って去られるのも、去るのも、どちらも後で悔いが残る可能性があるのは事実だ」

 

苦情があった場合は、自分が責任を取る。そう、千冬は最後に宣言した。

 

「あ、あの……」

 

一人話について行けず、ポツンと残っていたセシリアが申し訳なさそうに手を上げていた。流石に、教師相手に高圧的な態度はとれなかったようだ。

 

「ん、すまんな。此方だけで話が盛り上がってしまって」

「い、いえ……もう帰ってもよろしいので?」

「そうだな、いや待て。少し、話がある」

「は、はぁ……」

 

この時、千冬はセシリアにある課題を出す。その課題によって、彼女が学生にとっては少し長い間苦しむ事になるのを彼女はまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

「くそ、どうして言ってくれなかったんだ!!」

 

一夏は必死になって走っていた。目的地は、当然ミーナがいるであろうモノレール乗り場である。

正直言って、一夏も追いかけてどうすればいいのか分かっていなかった。何をすればいいのか理解していなかった。だが、それでも体が勝手に動いていた。

 

「いたッ!!」

 

見てみると、旅行鞄を肩に下げたミーナがモノレールに乗る寸前であった。

 

「ミーナさん!!」

「え? きゃっ!?」

 

一夏は慌てて彼女の手を取り、少し強引に引き寄せた。そしてそのまま、若干抱きしめるような形で一夏は彼女を支えていた。

 

「ま、間に合った……」

「……チナツ君」

「はい?」

 

一夏はどうしてミーナが顔を赤くしているのか不思議に思い、首を傾げた。

 

「結構、情熱的なのね」

「へ?」

「無自覚!?」

 

けど、こんな事を無自覚でやっちゃうから箒とか、本音とか、クシナとか、チンクとか、惹かれるんだろうなぁ、と感じつつもそっと彼からミーナは離れた。

 

「ふん!!」

「ぐえ!?」

 

でもなんかむかつくので、脇腹を殴っておいた。

 

「まったく、貴方の所為でモノレールに乗りそびれたわ。次まで少し時間が掛かるのよ?」

「そ、それはすみません。けど、どうしても話したくて」

「……聞いたのね。私の事」

「はい」

 

一夏のその反応に、彼女は気まずげな笑みを浮かべる。

 

「そっか。変に気を使わせちゃったかしら?」

「いえ、そんな……けど、なんで教えてくれなかったんですか?」

「言ってもどうしよもないじゃない? もう私が自分で決めた事だしね」

「そ、それは……」

 

そう言われれば、一夏は何も言い返すことができなかった。彼女の人生なのだ。

彼女は、自分と違ってIS学園に入学して一週間という訳ではない。SAO帰還後のリハビリを終了してすぐに復学していた。そして、復学してから今日まで頑張った結果、自分はこの学園ではもうやっていけないと判断したのだ。

加えて言うのであれば、両親に心配をかけているのも理由の一つであった。2年以上寝たきりの娘がこれからも寮生活とは言え、一人暮らしを続けていく事に心配するのは普通の親ならば当然の意見であった。

 

「私、元々成績も並ぐらいだったの。やっぱり今年から入学のクシナやノンと違って、2年半以上のブランクはきつくてね? 学園に復帰できたのもリハビリ後の、今年の1月からだったし……もっと、せめて半年早かったら違ったかもしれなかったけど……」

 

だから、仕方のない話。そう彼女は締めくくった。その言葉に、一夏はどうしても責任を感じてしまった。

 

「俺が、俺達がもっと早くSAOをクリアできていたら……」

 

その言葉に、彼女はいったん呆けすぐにおかしそうに笑い始めた。

当然、一夏は眉を潜める。そんな彼を見てミーナは笑いながら謝罪をした。

 

「ごめんなさい。けど、まさかあなたがそれを言うとは思わなかったから」

「どういう意味ですか?」

「初めて私が言った言葉覚えてる? 本当は激励だけで終わらせようとしたって」

「は、はい」

「きっと君は、そのために4月までIS学園に残ったのだと思っているのかもしれないけど、違うの」

 

『激励だけでと思ったが、けじめはつけたい』そう彼女は言って、一夏の特訓に付き合った。その真意を彼女は語ろうとしていた。

 

「そう、嘘だった。少なくとも、貴方とオルコットさんの話を聞くまではね」

 

一夏とセシリアの言い争い。その話を聞いて彼女は考え方を変えたのだと言った。ならば、なんのために入学式を待ってまでIS学園に残ったのか? その答えは、意外なものであった。

 

「本当は、さっき君が言った台詞を言おうとしていたわ」

 

その答えに一夏は息を飲んだ。そんな彼を見て、彼女はバツの悪い顔をしていた。つまり、彼女は一夏にこう食って掛かりたかったのだ。

『貴方達がもっとはやくSAOをクリアできていれば私はまだIS学園にいられたかもしれないのに』

と。

 

「恩を仇で返す様な奴って軽蔑したでしょ? けど、わたしは本気だった。どうして、自分はIS学園を去らないといけないのに、男の操縦者と言うだけで簡単に入学できたのかって」

「なら、どうしてそう責めないんですか」

 

今の一夏にとって、むしろそうしてくれる事の方が嬉しかった。攻略は決して楽なものではなかった。だが、仲間との日々は満ちたものであったのも事実だ。

良い事ばかりではなかった、それでも楽しみながら攻略したと言っても差し支えのない日々であったのは事実だ。彼女のような存在を知らずにその日々を送っていたことを、一夏は負い目に感じていた。

知っていたはずなのに、理解していたはずなのに、いざそう言った人間を目の当たりにしてどんな反応をしたらいいのか、彼は分からなくなっていた。

 

「責めてください。憎んでください。でないと、俺は……」

「そんな事を言うもんじゃないわ」

 

そう言い、彼女はそっと一夏の両手を取る。

 

「君は確かに、その手に持った剣で、仲間たちと一緒にあのデスゲームをクリアした。あなたは確かに英雄の一人だったのよ」

 

まぁ、厳密にはアバターの手なんだけどね。と彼女は内心で苦笑いしていた。

 

「もっと言うのなら、私の失敗で死ぬかもしれなかった人達を救ってくれた。私にとっては、ヒーローみたいなものね」

 

そして、そんなあなたを貶そうとして、ごめんなさい。彼女は申し訳なさそうな表情で言う。

 

「きっと私がこれから送るであろう平凡な日常と違って、君のこれからの人生は色々なことがあるかもしれない。けど、忘れないで。あなたがいたから救われた人の存在を」

 

彼女は一夏の手を放し、グッと両腕に力を入れて言う。

 

「それにね。私にだって、新しい目標が出来たのよ?」

 

彼女は語る。ギルド解散後、ミーナは第一層に戻った事を。そこにある教会で、サーシャと言うプレイヤーと共に子供の世話をしていたことを。

そして、その経験からある事を思っていた事を。

 

「本当は、アインクラッドにいた頃から考えていたことだったのよ、小学校の先生を目指そうって。だけど、現実に戻った瞬間IS関連の事を手放すのが急に惜しくなっちゃってね……」

 

でもようやく踏ん切りがついた。彼女は本当に悔いのない笑顔で宣言した。その笑顔に一夏は救われた思いであった。

 

「俺に何かできる事は……」

「ないわね」

「すっぱり!!?」

「だって、私の故郷って九州だし。もう二度と会わないんじゃない?」

「そして、淡泊ッ!?」

 

何かしたいという申し出をバッサリと切りながら、彼女は笑う。

 

「そうね、なら日本代表にでもなってくれるかしら? そしたら、教師になった時生徒にこう言えるもの。『あの人にISを教えたのは、この私よ』って!」

「ぜ、善処します」

「うふふ。目指せ、現実世界でもヒーロー君!」

「や、止めて下さい!!」

 

彼らは何時しか笑い合っていた。図らずとも、千冬の判断は正しかった。ミーナは一夏との会話で、貶そうとしていた罪悪感を払拭させる事ができていた。

対する一夏は何も知らずに彼女と別れる事をしなくて済んだ。

 

「で? そろそろ出て来ても良いのだけれど?」

 

ミーナがそう言うと、壁の影に隠れていた箒と本音が顔を出す。二人とも、気まずげな表情を浮かべていた。

 

「す、スマン。途中で帰るつもりだったのだが……」

「た、タイミング見失なっちゃって~。ごめんね、マスター」

 

そんな二人を見て、彼女はおかしそうに笑った。その後、しばらく談笑していたがいつの間にか次のモノレールが来る時間となっていた。

 

「さ、今度こそ行くわね?」

「え、けどマスター! まだ、かんちゃんが!!」

「あぁ、それなら大丈夫よ。あの子には説明をして挨拶していたもの」

「な、なんで~!?」

「だって、本音に言っちゃったら織斑君にも洩らしちゃうでしょ?」

「ひ、ひどいですよ~!」

 

本音はミーナの言い分に、若干ショックを受けた様子で驚きの声を上げた。

 

「じゃあね、皆。私はこれからは応援しかできないけど、貴方達の活躍を祈っているわ」

「はい、ミーナさんもお元気で」

 

一夏はミーナと握手をしながら最後の別れをする。

 

「あの、やっぱり名前を教えてくれませんか?」

「……そうね? 最後だものね。私の名前は―――」

 

彼女は、若干迷ったが最後に自分の名前を告げ、扉から少し離れた。扉は締まり、モノレールが少しずつ動き出し始めた。

最後に彼女は、動き出すモノレールの中で笑いながら一夏達に手を振っていた。

これが、彼女との今生の別れである。それからは互いの道を歩き、決して交わる事はなかった。

それでも、一夏は彼女の事を決して忘れないだろう。

そして、彼女も一夏の事を忘れないであろう。

互いの名前を。決して。

 

 

 

 

 

そして、帰り道。

 

「そう言えば、おりむー」

「なんだよ?」

 

別れを終えた彼らは静かに、寮までの道を歩いていた。すでに真耶から続きは明日と連絡があったからだ。

 

「どうして、最後に一撃、外したの?」

「え!?」

「隠しても、分かるよ~。あれ、絶対わざとだって」

「そうだ、一夏! どうして、あんな真似をした!!」

 

箒も、その件を思い出し問い詰めるように一夏に迫りくる。そんな彼女を見て、一夏は焦るしかなかった。

 

「いや、その……、あれはだな~」

 

必死に誤魔化そうとするが、良い言い訳が思いつかなかった。一夏は、観念したかのように口を開くしかなかった。

 

「……その、なんだ……泣いてる女の子に、ドヤ顔で止めを刺すのはちょっと違うかな~、なんて思ったというか、そしたら、いつの間にか攻撃を外していたというか……」

 

その声に、二人は絶句した。そして……。

 

「ぷっ! おりむーらしい~」

「ば、馬鹿か貴様は!!」

「うわ、やっぱり怒った! 言っとくけど、ほとんど無意識だからな!!」

「なお質が悪いわ、この博愛主義者!!」

「誤解だ!!」

「こら、待て! 逃げるな~!!」

「なら、どっから取り出したか分からない竹刀を振り回すな~!!」

「あ~! 二人とも、待って、待って~!!」

 

逃げ出す一夏に、それを追う箒。さらに二人を追う本音。

騒がしい三人に、先ほどまでの若干重い空気は感じられなかった。そして、その姿こそ今日この学園を去った彼女の願った光景なのかもしれない。

 

 




モッピーひとまず理解したよ。このコーナーの原点にしばらく戻ろうって事を。
モッピー何でも知っているよ。セッシーは日本地図(イギリス地図でも可)を地面に作ってしまう寸前だったって事を。
モッピー何でも知っているよ。この表現が不味かったら即修正するって事を。

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