織斑一夏はSAO生還者   作:明月誠

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ようやくセシリア編はあと一話で終わりです。
うん長かった。
これから、リンリン、シャルシャル、チンク、クシナと出していかねば。

まぁ、のんびりやっていきます。


第十五話・分かり合いたい理由

75層・ボスの間。

そこでは、攻略組プレイヤーとフロアボスとの激しい戦闘が始まろうとしていた。

 

「上よ!!」

 

誰かの声で、全員が一斉に天井を見上げる。そこにはムカデのようにたくさん足のある大鎌を二本携えた骸骨のモンスターがいた。プレイヤーたちがその存在に気が付くとほぼ同時に、スカルリーパーはその巨体を地面へと向けて進撃した。

 

「固まるな! 距離を取れ!!」

 

その号令と共に、一斉にプレイヤーがその場を離れる。だが、明らかに他のフロアボスと一線を引く存在に体が固まってしまうプレイヤーもいた。

 

「走れ! 早く!!」

 

その呼びかけに、我に返り慌てて駈け出す逃げ遅れたプレイヤー達。だが、それはあまりにも遅すぎた。

一閃。

鎌のその一振り。その一撃だけで、プレイヤー二人が切り裂かれガラスの散るエフェクトを放ちSAOから、現実から永久退場してしまった。

 

「一撃で……」

「無茶苦茶だ」

 

逃げ遅れたとはいえ、彼らもこの階層までの激戦を生き残ってきたトッププレイヤーである事には違いはなかった。だが、その彼らがたった一撃でHP全損してしまったのだ。

呆然とするプレイヤー、恐怖するプレイヤー。様々な思いが巡る中、スカルリーパーは更なる追撃をする。

まずは、血盟騎士団・団長が鎌の一振りを防いだ。だが、大鎌は二振りある。その残った一振りで防御が空白の箇所に薙ぎ払う。

スカルリーパーも一カ所にいるという訳ではない。すぐに移動して更なる獲物を狩ろうとする。

 

「うわ!? こっちに来るぞ!!」

「さがれ!!」

 

あるプレイヤーをかばって、黒服の男が二本の剣を携え前に躍り出る。

キリトだ。

彼はその二本の剣で鎌の一振りを受け止める……が、あまりにもその攻撃は鋭く、そして重かった。

 

「はぁ!!」

 

潰されそうになるキリトであったが、アスナの攻撃で鎌は弾き飛ばされ事無きを得る。

 

「二人でならいける。私達ならいけるよ!」

「あぁ!」

 

彼らは思う。互いの存在があれば、できない事など何もないと。そして、だからこそ思う。互いを絶対に護ると。

激戦は続く。未だに、まともに攻撃を当ててすらいない状況であっても。

 

「チンクちゃん!」

「くっ! こちらに来たか!!」

 

眼帯の少女へと次の魔の手が忍び寄っていた。彼女は、ステータスダウン狙いの小剣と攻撃重視の大剣の二つのスキルを上げていたが、この場で大剣を携えてきたことに内心舌打ちをする。

そして、その事を知っているからこそアスナも悲痛の声で名を呼んだ。

 

「(防ぎきれるか!?)」

 

半場、死を覚悟した時だ、彼女の体が強引に後方へと飛ばされた。

 

「さがれ、チンク!!」

「チナツ!!?」

 

白銀の鎧を纏った少年が、彼女を後方へと押しやり、自身は前へと出た。

 

「うぉおおお!!」

 

彼は一振りの剣でその攻撃を防ごうとする。だが、キリトのように筋力重視のステータスでもない、ましてや一人で受けていた彼がいつまでも耐えきれるはずもなかった。

 

「(だめだ、やられ―――)」

「うぉらあぁあ!!」

 

背後から赤いどこか和風じみた鎧を纏った男性が彼に合わせるかのように刀を振るい、チナツは彼と協力して鎌をはじいた。

 

「クライン!!」

「キリの字が夫婦コンビなら、俺達は男の友情コンビだ! いくぜ、チナツ!!」

「タイミングを間違えるなよ、クライン!!」

「あたぼうよ!!」

 

彼らの後ろには、チンクの他にクラインのギルドメンバーである風林火山の面々がそろう。

 

「今から、サマーラビッツと風林火山は行動を共にする! 鎌は俺とクラインで防ぐ!!」

「おめーらは、気にせずガンガン攻めまくれ!!」

「「「「おう!!」」」」

 

ようやく鎌への対抗手段が見つかり始め、プレイヤー達は反撃へと行動を移していった。

 

「いくぞ!!」

「てめぇら、気合入れろぉ!!」

 

ここに、アインクラッド始まって以来最も絶望したボス攻略戦と言われたスカルリーパーとの戦いが、本格的に開始となった。

 

 

 

 

 

 

 

「……夢で昔の事を思い出すって、本当にあったんだな」

 

クラス代表決定戦の翌日の朝、一夏はかつての事を夢で思い出しながら目を覚ましていた。

 

「あ~、憂鬱だな。今日はクラス代表を話し合うのか……」

 

結局昨日、自分が飛び出した事もあってセシリアとは話し合う事すらできなかった。当然、クラス代表の話もしていない。

 

「アイツを運んで、そのままでいけば、キッカケにはなったんだと思うだけどな」

 

件のお姫様抱っこであるが、一夏は会話のキッカケ程度にしか考えていなかったようだ。とは言え、そのキッカケも一夏の行動の所為で棒に振るったわけだが。

 

「朝っぱらから気が滅入る様な事を言うな、お前は?」

「あ、箒」

 

隣のベッドから、もぞもぞと箒が顔を出していた。この一週間ですっかり同居生活に慣れた彼らがいた。(もっとも、一夏は慣れすぎであったが)

 

「わりぃ、起こしたか?」

「少し早めに目が覚めてしまったぞ」

 

とは言え、文句も言いつつ箒は満更でもない様子である。惚れた男が朝起きたら傍にいるなど、まるで漫画や小説の様な展開であったからだ。

そして、それ故に思ってしまう。部屋の調節が終われば、別々の部屋になるのだと。そう考えると少し憂鬱になった。

 

「どうした、箒?」

 

一夏は、そんな箒に何かを感じ心配そうに話しかけた。

 

「な、なにがだ?」

「いや、その……上手く言えないけど、なんか悩んでいる風に見えたからさ」

「……(肝心な事は鈍いくせに、どうしてそう言う所は鋭いのだ、おまえは!?)」

 

そんな一夏に驚きつつも、若干呆れてしまう箒であった。

 

「別に、ただいつまでお前と同室なのかと思っただけだ」

「やっぱり、男とは嫌か?」

「そうは言ってない。ただの純粋な疑問だ!」

「(やっぱり不機嫌じゃないかよ)」

 

内心そう思うが、口にすると(一夏的には)理不尽に怒られるかもしれないので黙っていた。

 

「それにしても、いつまでか……」

 

先日、一人IS学園を自主退学したが、彼女は2年の部屋を使っていた。自分がその部屋に振り分けられることはないだろう。

あるとすれば、SAO開始時に1年であった生徒の部屋だ。その部屋は未だに当時のまま少なくとも2部屋存在しているという。

だが、一夏は仮に部屋が空くと言われても素直に喜べないのが現状であった。部屋が空くという事はその部屋を使っていた生徒がIS学園に復帰するのは無理と諦める証でもあったからである。

 

「(ま、何も出来ないんだけどな)」

 

責めるなら責めてくれていい。むしろそっちのほうが楽だ。でも、昨日この学園を去った女性は自分にこう言った。

 

“忘れないで。あなたがいたから救われた人の存在を”

 

本当にそうなのだろうか? 自分なんていなくても、きっとキリトが皆を率いて、今と同じ結果を出せていたのではないだろうか。

そこまで考え、一夏は思いっきり自分の両頬を叩いた。

それでも、あの人は自分をヒーローと呼んでくれた。なら、胸を張って今を生きないといけない。

一夏は、心機一転気合を入れ、制服に着替えようと服を脱ぎ……。

 

「着替えるのなら、着替えると言え馬鹿者!!」

「ぐへっ!?」

 

箒の枕が彼の顔面に直撃した。少し良い匂いがしたのは内緒であった。

 

 

 

 

 

 

「何をキョロキョロしている、一夏」

「ん。いやオルコットの奴いないな、と思ってさ」

「ふん、あんな奴の事など気にするな」

 

食堂にて、二人は席を同じくして朝食を摂っていた。だが、一夏はセシリアの姿が見えずキョロキョロとしていた。いつもは離れた場所で一人、朝食を食べていたはずなのに。

 

「第一、内容はどうあれ結果的には負けたのだぞ。それをネタに何を言われるか、簡単に想像が付くではないか」

「いや、まぁそうなんだけどさ」

 

それでもこのまま黙ってクラス代表を決めてしまったら、それこそもうセシリアと分かり合うチャンスは完全に失われるだろう。それが一夏は嫌だった。

関係を修復したいと言うのは、これから一年間同じクラスであるというのもある。そして何より、分かり合えないのが嫌なのだ。

 

「何故そこまで、あんな奴に拘る?」

 

箒は考える。まさかセシリアの様なタイプが好みなのかと。

 

「別にアイツだから拘ってる訳じゃないさ」

 

ただ単純に分かり合いたいだけ。男だなんだと、そんな理由で険悪になりたくないのだと一夏は語った。

 

「……なんで、そこまで」

 

箒には理解できなかった。セシリアは決して口にしてはならない事を言っていた。それもSAO被害者である一夏に対して。もっと言うのなら、同じ被害者である本音のすぐ傍で。それでも一夏は分かり合いたいと願っているのだ。

一夏はそんな箒を見て、観念したかのようにため息を吐き口を開いた。

「昔……SAO開始から数ヶ月ぐらいの頃だったかな? 俺、死にそうになったんだ」

「な!?」

「あの時は、自分の迂闊さ、力の無さに絶望していた。そんな時だ、俺はある男に救われた」

 

それが、黒の剣士・キリトとの最初の出会い。その時一夏ことチナツは、チンクと共に元βテスターに騙され、『犠牲クエスト』と呼ばれていたクエストで囮にさせられていた。

結果、当時のレベルではとても歯が立たないモンスターに囲まれ死を覚悟していた。

そんな時だ、情報屋・アルゴから話を聞いたキリトがチナツ達を助けたのは。

助けられた後、チナツは怒りが抑えられず自分たちを騙したプレイヤーを探そうとした。だが、それはすぐに無駄に終わった。そのプレイヤーは、すでにHP全損をして消滅していたのだ。

彼はβテストの頃の知識でこのクエストに挑戦したが、結局βテストの頃の変更点に気付けず、クエスト終了間際でモンスターに囲まれ、破れさっていたのだ。

行き場のない怒りは、消えたプレイヤーにではなく、βテスター……それも、その知識から不正行為を行う通称“ビーター”へと向けられていった。そんなチナツに気付いたのだろう。キリトは、自分がβテスターであった事を言えなかった。

 

「俺さ、そいつにすごい憧れて、いつの間にか自分の理想をそいつに押し付けてしまっていたんだよ」

 

始めは、ただ自分を助けてくれたすごいプレイヤーであった。

だが、時折共にフィールドで戦う内に一夏の中でキリトはどんどん自分にとっての理想のプレイヤーとなっていった。

気が付けば、『きっと自分と同じでVRMMOビギナーなのに、とんでもなく強くなったプレイヤー』 と勝手に想像を膨らまし始めていていた。

勿論、本気でそこまで思っていたわけではなかったが、もしかしたら、そうかもしれないと期待していたのは事実であった。

 

「んで、その理想像が崩されたとき、そいつにひどく当たっちまった。本当に、屑みたいな話さ」

 

そして、25層のクォーターポイントにおけるフロアボス攻略時の事だ。その頃には、フロアボスとの戦いのノウハウがそろい死者が目に見えて減ってきていたのであったが、今までの比ではない強力なフロアボスに、多数の死者が出てしまたった。

その結果、当時の攻略組・有力ギルドであった、アインクラッド解放隊が壊滅まで追い込まれた。

そのフロアボスのラストアタックはキリトがとっていたのだが、そのことから因縁をつける奴が出てきたのだ。

曰く『ラストアタック欲しさに、情報の出し惜しみをしたのではないかと』

当然、チナツは怒りキリトを庇った。だが、あるプレイヤーが言った。『そいつは、ビーター野郎だ。そんな事をしてもおかしくはないと』

ここでキリトが、チナツに元βテスターである事を言っていなかった事が裏目に出てしまった。

チナツは叫んだ。

『キリトがビーターなはずがない』

と、自分を助けてくれた彼が、自分を騙したビーターと同じだと信じたくはなかった。

実際違う。彼がビーターと呼ばれた理由はちゃんとある。だが、その事情を知らないチナツは、彼がそう呼ばれるはずがないと信じていていた。

だからだろうか? 周りのプレイヤーはチナツを嘲笑った。

『お前、騙されてるんだ』

チナツは我慢の限界だった。キリトにも詰め寄った。

『お前もどうして言い返さない、こんな奴らに言われて悔しくないのかよ!』

だが、キリトはその言葉に対し無言であった。それが、チナツには答えに思えた。

裏切られた。

何とも自分勝手な考えではあるが、彼は当時本気でそう思った。

そして、その事からキリトと袂を分かつ事になった。(実質、チナツからの一方的なものであったが)

皮肉にもその出来事があったからこそ、キリトへの対抗心から攻略組のトッププレイヤーまで登り詰めたのも事実であった。

そして、50層。再び訪れたクォーターポイントで、チナツは死の危険に晒された。強引なラストアタック狙いの一撃をフロアボスは簡単に防ぎ反撃をしてきたのだ。その時、彼の命を救ってくれたのはキリトであった。前と同じようにである。

 

「だけどあいつは、そんな俺をまた助けてくれた。そして、仲間と言ってくれた」

 

それが、嬉しくて、悔しくて、そんな自分が情けなくて……51層のアクティベートが終わった時に一夏はそんな色々な感情をキリトにぶつけた。そして、和解したのだ。

(結局最後まで一夏の一人相撲に近かったのだが)

 

「だから、あの時からずっと考えてるんだ。その人の一面だけを見て決めつけないで、ちゃんと理解しようって」

「……そうか」

「あと、勘だな! 多分、勢いで言っただけで、オルコットはそう悪い奴じゃないと思うしな」

「なんだそれは」

 

一夏の話を聞いて、若干感心した箒であったが、急に勘とか言い始めて呆れていた。

 

「たしかに、誰とでも分かり合おうとする心がけは立派だ。結果はどうあれな」

「キッツイ事言うな、箒……」

「現実は非情だからな。まぁ、フォローはしてやる、安心するがいい」

「おう、頼むぜ」

 

そう言い、食べ終わった食器を箒は持ちながら席を立つ。

 

「お前も早く食べ終われ。もうHRが始まる時間だ」

「うえ!? いつの間に食べ終わってんだよ、箒!?」

 

会話に夢中だった一夏に対し、話しながら朝食を終えた箒であった。箒は、一夏に早くするように急かすと食器を片付けて食堂を後にした。

 

「……お前の言う通りだよ、箒」

 

一夏は箒の後ろ姿を見ながら呟く。

 

「(現実は、非情で残酷だ。どうやっても、分かり合えない人間もいれば)」

 

気が付けば、彼の眼は鋭く睨むような顔になっていた。俯くその顔に気付けるのは、恐らく共にSAOで戦った仲間ぐらいであろう。

 

「(絶対に、分かり合いたくない奴だっている―――)」

 

彼はその後深いため息を吐き、残っている朝食を急いで口の中へと掛け込んだ。

 

「さて、行くか」

 

若干足取りは重いが、行くしかない。恐らく、セシリアと分かり合う事のできる本当に最後のチャンスだと思うから。

 

 

 

 

 

 

「オルコットはまだ来てなかったのか。てっきり、俺達より先に飯を食ってきていると思ったんだけどな」

 

教室に行った一夏が初めにしたのはセシリアを探すことであった。しかし、教室にはほとんどのクラスメートがいるにもかかわず、セシリアの姿は見られなかった。

 

「織斑君! 昨日の試合見たよ!!」

「うんうん。すごかった、すごかった!!」

「え? そ、そうか? 結局負けたし……」

「あんなの実質、勝ちみたいな物だよ! IS起動時間もちょっとなのにあんなにオルコットさんを追い詰めたんだもん!!」

「あ、ありがとう……」

 

だが、一夏の考えを知らないクラスメートは興奮した様子で一夏に話し掛けて来ていた。そんな一夏を、箒は面白くなさそうな視線で見つめる。

 

「(睨むなら、助けろ!)」

 

助けてくれない幼馴染に若干恨み言を内心で言いながら、何とか話を自分の知りたい情報が聞けるようにと、逸らしはじめる。

 

「そ、そう言えば、オルコットは?」

「え? まだ来てないよ?」

「うん、てっきり意気揚々と来ると思っていたのに」

 

クラスメートも言動には若干問題があったが、基本優等生の彼女がHRが始まる寸前までに顔を出さない事に疑問を感じていた。

 

「……ごきげんよう、皆様」

「ん?」

 

噂をすれば、どうやらセシリアが来たようだ。だが、その声色に一夏は疑問を感じていた。か細い声に、弱々しく小さな声。不審に思い、彼女を見る。

そこには……。

目を真っ赤に腫らし、目の隈が酷い少女がいた。

そこには、いつもの自信たっぷりの彼女の姿は見られなかった。

一夏は、その彼女の目に見覚えがあった。かつては自分も、きっとしていた目だからだ。

自分の過ちに気付き、後悔と、懺悔の念で一杯になって、贖罪を求める目。

 

「(大げさに、自分に責任を感じてないといいんだけどなぁ)」

 

騒めくクラスメイトの中、一夏は、かつての自分をセシリアに重ねながら、頭を抱えていた。

 

 




念願のエクスキャリバーを手に入れたぞー!!
ぬふふ、モッピー何でも知ってるよ、これさえ持てば本編でも大活躍だって事を。
モッピー何でも知ってるよ、モッピーの勇者伝説はこれからだって事を。
モッピー誓っちゃうよ、毎日この剣を磨くって事を。
さて、アイテムストレージに直してっと……。


―モッピーは、偽剣・カリバーンを手に入れた―


…………!!!!!???

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