織斑一夏はSAO生還者   作:明月誠

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これにてセシリア編も完結。
作中イッピーがよく分からない事言ってますが、ちょっと作者も何を言ってるのか混乱気味。おかしい、自分なりに納得して書いたはずなのに。
とりあえず、イッピーの主人公パワーでセッシーをコロッとしたのねと思っていただいても良いかと(笑)

最後はちょっと駆け足になりましたが、楽しんでいただけたら幸いです。

それにしても、SAO時代のイッピーはほんま駄目駄目やなぁ……。


第十六話・罪の決め方

あれは、3年前の事である。当時セシリアは国家代表候補生ではなく、その候補生候補(少しややこしいが)の一人であった。

そんな頃である。自分と同じ代表候補生候補は日本のある事件を話題にしていた。

 

『ねぇ、聞いた? 日本でゲームが原因で死者が出たらしいわ』 

『え~? ゲームで死人ってどういう事なの?』

『たまにあるじゃない? ご飯も食べずにゲームして倒れちゃう人のニュース。きっとそんな感じの……』

『ううん、そうじゃなくて何でも最新鋭の技術を使った……』

 

あの頃のセシリアは必死であった。両親が事故で急死してしまい、残された遺産を守ることに必死であった。今でこそ誇りを持っているが、当時の彼女にとってISは遺産を守るための手段であった。

別にお金を守りたかったわけではない。ただ両親が遺してくれた物が、守りたい物がお金であっただけの話。しかし、それは未成年の彼女には難しい話でもあった。

しかし、IS操縦者ともなれば子供と言えど、ある程度の権利を持つことができる。なぜなら、国が彼女を守ってくれるからである。

そんな時であったからだろうか? 彼女は他の候補生候補が会話をしていても、その会話に参加しようとは思わなかった。周りは全員敵なのだから。

だが、この日はほんの少し違った。死人が出たという話は、両親を失ってまだ少ししか経っていない彼女にとってどこか気になる物であったから。

 

『何がありましたの? その話、詳しくお聞かせ……』

 

そこまで言いかけた時だ。

 

『はいはい、もう今日の訓練始めるわよ。もうすぐ候補生選抜なんだからね!』

 

当時セシリア達を指導していた教官が部屋に入ってきてそんな事を言った。

 

『は、はい!』

『す、すみません』

 

話をしていた少女達は次々と会話を止め、立ち上がった。

 

『まったく、そんな“くだらない事”を話している暇があったらIS理論の一つくらい覚えなさい』

 

当時はまだ情報規制もあり、さらに言うのであれば国外の事件であった。死者の数も公表されておらず、さらに言うのであればVR技術もイギリスにはそう浸透していなかった。

そのため、当時のイギリスではニュースを軽く見ただけでは“ゲームのやりすぎで死人が出た”と言う、時折みられる話の一つととらえられてしまっていた。

ようはこの教官も、最近時折VRMMOプレイヤーに見られる『飯も食わずにゲームをして、栄養失調で倒れてしまう人がいる』程度の認識しかなかった。

だからこそ、今では完全に失言となってしまう言葉を口にしてしまった。だが、セシリアにはこの言葉がストンと胸に落ちた思いであった。

 

『そんなくだらない事を気にしてはいられない』

 

そこから、セシリアはSAO事件を深く知ろうとは思わなくなった。詳しい詳細がニュースで流れている頃には、丁度選抜決定が近いという事もありニュースを見ることはなかった。彼女は正式に国家代表候補生になった頃には、イギリスではSAO事件をニュースで取り上げる事はすでになかった。

 

 

 

 

 

そして、話は未来へと進む。クラス代表決定戦後の話だ。

 

『少し、話がある』

 

一夏達がいなくなった後にセシリアは千冬に呼び止められていた。

 

『オルコット、お前が一週間前に発言した内容を覚えているか?』

 

正直、ほぼ無意識に勢いから出た一言であったためセシリアは詳細は覚えていなかった。だが、自分が腰が抜けても紳士的に対応してくれた一夏が、あれほどまでに激怒してしまう事を口にしたのだと今更ながら彼女も理解しつつあった。

 

『今更咎めるような事はせん』

 

だが、それでも、と彼女は言う。

 

『それでも、SAO被害者の家族として、教師として決して看過できないのは事実だ』

 

そう言った後に彼女はセシリアにある課題を出した。

その内容は『SAO事件の詳細を調べること』であった。

別にその事に関してレポートを書けとか、感想を言えとは言わなかった。ただ、正しい理解をして真実を知れ。それが千冬の教師としての、そしてSAO被害者家族としての願いであった。

かつてセシリアは『約4000人の被害者』と一夏に言われたことがあった。しかし、当時の彼女はそれをただのはったりと本気で思っていた。

知らなかった、知ろうとしなかったSAO事件は彼女にとっては、国外で起きた小さな事件であると固定されてしまっていた。

だが、今回の模擬戦で一夏に興味を持った彼女は知りたくなった。(無論、千冬に言われた事もある)知ろうと思った、自分をほぼ負かしたも同然の男の一端を。

 

 

 

すぐに後悔した。

 

 

 

自分がいかに何も知らずに、さも知った気になっていたのかを。

調べれば調べるほど、後悔した。涙も流した。過去の自分を縊り殺したくなった。

そして、どうすれば良いのかさえ分からなくなっていた。

いっそIS学園を去る事も考えた。だがそれもできない。そうなれば、両親の遺してくれた物を守る事が困難になる。自分からその行動に出る事はできなかった。

その勇気が彼女にはなかった。

いっその事、イギリス政府に彼から抗議が入れば、代表候補生として不適格とされる可能性もある。

だが、きっと彼はそうしないだろう。するつもりならば、とうにしているはずだ。

ならばどうやって償うか。

分からない。

何も分からない。

それでも彼女は歩く。きっと彼は一番自分にしてほしい事はしない。

それが、何よりも彼女にとっては酷な事でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、大丈夫かオルコット?」

 

引きつって笑みで彼はそう言うしかなかった。昨日での彼女とは全く違った雰囲気を醸し出していたからだ。

 

「織斑さん」

「お、おう」

「この度は、私の不用意な発言で、貴方達を苦しませてしまいました。今更謝ったところで許してもらえるとは到底思いませんが、本当に……申し訳、ありませんでしたわ」

 

セシリアはそう、涙声混じりに行った。仮にも、代表候補生である自分が頭を下げてしまうという行為が何を意味するのか……彼女は正しく理解して行っていた。

そして、一夏は再度彼女の顔を見る。

目を真っ赤に腫らし、目の隈が酷い状態であった。恐らく、涙を流し碌に寝ていないと見えた。

そして、彼女の眼はかつての自分と同様に償いを求める眼であった。

 

「(あぁ、くそ。馬鹿だった頃の自分を思い出す)」

 

一夏は、チナツであった頃を思い出す。かつての事を。25層でキリトと袂を分かつ前にチナツは彼を自分のギルドに入らないかと誘った。その返事は曖昧なものであったが、キリトも満更ではない様子であったと今思い出しても思う。だが、彼がβテスター上がりの『ビーター』と呼ばれる存在であると知った時、チナツは彼を拒絶した。

自分から手を伸ばしておいて、その自分の手を掴もうとした彼の手を叩いたのだ。

そして、50層に上がる少し前にチナツはキリトの身に何があったのかを知った。

ある事がきっかけで中層プレイヤーのギルドに入り、そして彼以外が全滅した事件を。その後、彼が自暴自棄になり無茶なレベル上げを続けてきた事を。

挙句の果ては、蘇生アイテムを手に入れようと無茶な戦闘をした結果、手に入ったのは10秒限定の蘇生アイテムであった事を。

それを聞いたとき、チナツは後悔の念に押しつぶされそうになった。

 

『俺のせいだ』

 

素直にそう思った。もし自分があの時彼を拒絶しなければ、そんな辛い事を体験しなくても良かったのではないか?

そんな時だ。その事を教えてくれたある情報屋が彼に指摘した。

 

『本当は教えてくれなかったのが寂しかったんじゃないカ?』

 

と。

確かに彼がβテスターであった事はショックであった。だが、それ以上に感じたのは、自分を信じてその事を打ち明けてくれなかった事が寂しい、と言う子供じみた思いが大きかった。

彼は今更になって自分の本当の気持ちに気付いてしまった。

情報屋は言った。

 

『またギルドに誘えなんて言わないけどサ。もう良いんじゃないカ? 昔みたいな関係に戻ってモ。 キー坊には一人でも多く、傍に知人が必要ダ』

 

だが、その言葉をチナツは縦に触れなかった。

今更、どんな顔でキリトに会えばいいのか分からなかったからだ。

だからチナツは強くなろうとした。

今までもキリトへの対抗心から頑張ったレベル上げは、贖罪のためへと変わった。その様子は、皮肉にもギルドを失ったキリトの姿にかぶっていた。はっきり言ってチンクが傍にいなければ、一夏は今IS学園にはいないであろう。そう思えるほどであった。

彼は強くなってキリトに言いたかった。自分はお前よりも強くなった、だからもう……お前は、戦わなくて良いと。

だけど、結局それも無意味であった。それを証明するために50層のフロアボスのラストアタックをとろうとして失敗。結果、チナツは死に掛けた。

それを救ったのはキリトだった。彼は、あんな事をしでかした自分に手を差し伸べてくれた。仲間だと言ってくれたんだ。

それが、チナツにとっては辛かった。いっそ、罵声をあびせてくれる方が楽だった。

そう言えば、IS学園を去った彼女に対しても同じ思いを抱いていたな。と、一夏は考える。そういう意味では、あの頃から成長してないようにも感じた。

多分、今のセシリアもきっと同じだろう。理由は分からないが、今までキチンと理解してなかったSAO事件を理解し、自分の発言に苦しんでいるのだろう。

 

「もし、織斑さんが正式にイギリス政府に訴えるのなら、それでもかまいません。それだけの事を、私はしたの……ですから」

 

彼女は断罪される事を望んでいる。それでも、その思いに答える事はできない。だって、自分がそうしてほしかった時には、あいつは、キリトはそうはしなかったのだから。

 

「どんな罵声も受けましょう。どうか、ご自由になさって……」

「そんな事をする気はないさ」

 

一夏は、そう即答した。半場予想していたその答えにセシリアが尋ねる。

 

「どうして、ですの」

「どうしてって言われてもなぁ……」

 

理由はキリトのようにと言えばそうだし、ちゃんと理解してくれて悩んでいる姿を見たら追い打ちを掛ける事ができないというのもある。そして、何より……。

 

「まぁ、泣いている女の子にそんな事できないしさ」

 

嘘偽りのない理由であった。中性な顔つきだがイケメンで、さらっという辺り本当に始末が悪い。周りのクラスメートの純粋な意見であった。

 

「ふふ、予想通りの答えですわね……立派な、博愛主義ですわ」

「……オルコット?」

 

俯きながら、若干怒気を含ませたその台詞に一夏は怪訝な顔をする。そして次の瞬間、一夏は胸倉を掴まれた。

 

「だったら、私はどうすれば良いんですの!!?」

「―――ッ!!」

 

それは紛れもない八つ当たり。どうすれば良いのかわからず、謝罪すべき存在に対して、食って掛かってしまっていた。

 

「ちょっと、オルコットさん!?」

「お、落ち着いて!!」

 

慌ててセシリアを止めようとする二人のクラスメートがいたが、そんな彼女達の肩を押さえ箒が制した。

 

「篠ノ之さん!?」

 

驚く二人であったが、箒は静かに首を振る。一夏に任せようと。

 

「何も知らずに、知った気になって!! 取り返しのつかない事を言ってしまって!! 私の心はもう、後悔で押しつぶされそうですわ!!」

 

こんな情けない事を言いたいわけではなかった。それでも、セシリアは叫んでしまった。もうどうしたら良いのか分からなくなってしまっていた。

 

「自分でIS学園を去る事も考えましたわ! でも、そんな勇気も持てず……せめて、貴方に裁いてもらおうと思っていましたのに、そんな事を言われたら!!」

 

一夏を掴んでいた拳は少しずつ力が抜けていき、次第に彼女の顔は再び下がっていく。

 

「私は、どうしたら……良いんですの?」

 

そこには小さな少女がいた。代表候補生と言う衣を脱ぎ捨てた一人の女の子がいた。

 

「社会的に許されない罪は、社会のルールが裁くさ」

 

そんなセシリアに、一夏は静かに語りかける。

 

「だけど、今回は社会的に問題があっても、罪ってほどじゃない。罪だというのなら、それはきっと君自身が罪を罪だと思っているだけだと思う」

 

勿論、あの発言はSAO生還者からして見れば許されない罪だったはずだ。だが、それでも、そう思われたとしても、セシリア自身がそんな事を気にしていなければ、彼女にとっては罪でも何でもない。

だが、真実を知り、その事に責務を感じてその事を罪と認めたのは、他ならぬセシリア自身である。

 

「だから、償う方法も、償い方も、きっと君自身が見つけないといけない」

「なんですの、それは……」

 

その答えは、セシリア自身にはあまりにも酷い答えであった。

彼女は自分で自分を裁けずに、この場にいるというのに。

 

「けど、まぁ、それでも俺に何かを望んでほしいのなら、そうだな……」

 

一夏は、少し笑いながら言う。

 

「良かったら、友達になってくれないか?」

「……は?」

「折角これから、1年間同じクラスなんだ。今まで見たいにギスギスしたのはキツイしさ」

「正気ですの? 私がどんな事を言ったのか忘れた訳ではないのでしょう?」

「いや、まぁ、そうなんだけどさ」

 

それでも、過去の発言を悔やむ彼女を嫌いにはなれなかった。昔の自分と重なっているのもあるかもしれない。

 

「俺さ、オルコットの事、そんな悪い奴とは思ってないよ。今も悪い奴ならきっとしない事をしているしさ」

「根拠は……? そう思ってくれる根拠は何ですの?」

「うぐ……」

 

縋るようにそう言うセシリアに、思わず一夏は固まってしまった。言ったら絶対に呆れると分かっているから。

 

「か、か……」

「か?」

「勘かな?」

 

とは言え、それ以外が思いつかなかったためそう言うしかなかった。その言葉にセシリアは若干呆ける。

そして……。

 

「ぷ、ふふ。あはははははは!!!」

 

気まずげにそう言う彼がおかしくて、セシリアは思わず笑い始める。

 

「な! わ、笑うなよ! これでも勘は良い方なんだぞ!?」

「だ、だって、ふふふ」

 

懸命に笑いをこらえようとするセシリアであったが、一夏の何とも可笑しな答えに笑いがどうしても止まらなかった。そして、そんな単純な事で自分を信じてくれる彼を見ていると、色々な事を考えていた自分が馬鹿らしくなってきていた。

 

「まったく、久しぶりですわ。こんなに笑ったのは。誇ってもいいですわよ」

「なんだそりゃ。けど、ようやくらしくなってきたな」

「あ、そ、それは……」

 

その一言で、セシリアは我に返る。罪悪感がなくなったわけではない。それでも、先ほどまで感じていた心の重さはもうなかったのだ。

 

「(本当に不思議な人)」

 

飄々としていると思えば、熱くなって、かと思えばどこか温かくて安心して……。彼を思うと、セシリアは上手く表現できない不思議な気持ちになっていた。

だから。

 

「分かりましたわ」

 

セシリアは欲しくなった。

 

「貴方がそこまでおっしゃるのでしたら、今しばらくIS学園にいるとします。そして、覚悟なさい!」

「お、おう?」

「これからみっちりと、貴方に償っていきますわ! もうやめてくれって言うくらい、徹底的に!!」

「はぁ!?」

 

彼の傍にいる口実が、欲しくなってしまったのだ。

 

「精々、自分の発言を後悔なさることですね」

 

セシリアは笑って言った。そう笑顔で言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

その後、結局クラス代表はセシリアが一夏に譲ることで決着が付いた。セシリアが言うには、ISの実戦経験をより詰める機会を得る事ができるとの事である。『償いですわ、償いですわ!!』と満面の笑みを浮かべるセシリアを見て若干後悔する一夏であったが、それは些細な事であった。

この事をきっかけに、セシリアは本音にも謝罪をして、クラスメートにも雰囲気を悪くしたことを謝罪を行い、少しずつ歩み寄り始めていった。それが何よりも、重要な事であった。

 

 

 

 

こうして、一夏はIS学園での初めての騒動を終える事ができたのであった。




モッピー憤慨してるよ!! あの狼に騙されたって事で!!
モッピー怒ってるよ!! 剣一本を湖に捨てればエクスキャリバーくれるって約束していのに!!
モッピーちょっと行ってくるよ!! スリ……何とかの所に!!

―モッピー移動中―


……何ココ!? メッチャさむぅ!!?(ガチガチブルブル)
ここ、こんなとこだったっけ!!?(← 半分くらいコイツのせい)

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