織斑一夏はSAO生還者   作:明月誠

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プロローグその2です。次回よりは現実の世界、つまりはIS本編の時間軸へとなりますので、よろしくお願いします。


プロローグ2

「ふぅ」

 

「お疲れ様です、織斑先生」

 

「あぁ、そちらこそお疲れだな。山田先生」

 

ある学園の職員室にて、織斑千冬は同僚である山田真耶と会話をしていた。

 

「それにしても、週末なのに職員会議なんてついてないですよね」

 

「週末だからこそやるのだ。ISは今だ発展途上の存在だからな。常に状況の確認を行い、現場に反映せねばならん」

 

ここは、IS学園。

あらゆる兵器を凌駕するといわれるその存在は、現在軍用というよりも競技用の意味合いが強い(表向きにではあるが)。

このIS学園は各国のIS操縦者を教育、育成する場である。

この学園の設立の詳しい経緯は今回省くとして・・・。

 

「しかし、思ったよりも会議が長引く様子だな」

 

「そうですね、15分後に再開ですからね」

 

だが、思ったよりも長引く会議に千冬は若干頭を悩ませた。中学に上がったばかりに弟が心配になってきたのだ。昔から、家を出ていることが多く家事などのほとんどは一夏がやっている。

いくら、稼ぎ処が自分しかいないとは言え、その点に関しては申し訳なく思っていた。

・・・前に料理をしたときは、土下座して止めてほしいと懇願されたが・・・。

 

「ん?」

 

そんな時だ、彼女が携帯にメールが来ているのに気付いたのは。会議中のため、マナーモードにしていたのだ。

 

「あれ? メールですか?」

 

「あぁ、どうやら弟からだ」

 

千冬はメールの内容を確認する。その内容に、彼女は思わず溜息を吐く。

 

 

『冷蔵庫に、夕食を置いてます。レンジで温めて食べて下さい。

 

PS.とうとうSAOが届き、ログインします! 絶対に、ナーヴギアを外さないでください!!』

 

 

「(いくら楽しみにしていたとは言え、レンジで温めろとは)」

 

「どうしたんですか?」

 

「いや、大した内容じゃない。ゲームをしてるから邪魔するなだとさ」

 

姉をなんだと思っていると、愚痴る千冬を見て真耶は何だか微笑ましく感じていた。そんな視線が気になってしまったのか、千冬は立ち上がり廊下へと歩いていく。

 

「織斑先生?」

 

「まだ、再開まで時間がある。コーヒーでも飲んでくる」

 

「はぁい」

 

そう言い、若干早歩きでスタスタと歩いていった。職員室から、少し歩いた先に目的の自販機を見つけ、千冬は小銭を出しコーヒーを買った。

 

「(しかし、一夏の奴は本当に大丈夫か?)」

 

彼女は、思わずメールの内容を思い出す。成績は下がらないようにと約束したが、その約束が果たして達成されるのかが心配になってきたのだ。

 

「(念の為、帰ったらもうひと押し言っておくべきか・・・)」

 

そんな事を考えていると、不意に職員室の方が騒がしくなっているのに彼女は気付いた。

 

「(ん、まさか職員会議が早めに再開したのか?)」

 

そう思い、彼女は残っていたコーヒーを一気に飲み干し、空缶を回収ボックスに入れ職員室へと戻っていく。

 

しかし、待っていたのは異様な空気である。妙にざわめかしく、一部の職員は電話対応に追われていた。彼女は、その異様な空気に若干戸惑いつつも、何故かアタフタとしている真耶へと近づき事情を聞くことにした。

 

「何かトラブルか?」

 

「お、おお織斑先生!!!?」

 

「どうした、落ち着け。何があった?」

 

「あ、あの! 弟さん! ナーヴギアを持ってましたよね!?」

 

「あ、あぁ」

 

確か話題の一つに出していたか。そう思いだしながら、彼女は怪訝な顔をして真耶に言う。

 

「だが、それがどうした?」

 

「まさかとは思いますけど、ソードアート・オンラインってゲームしてませんよね!!?」

 

「ん?」

 

その単語には聞き覚えがあった。彼女は今までの一夏との会話を思い出す。確か、今日届くので邪魔するなと念を押したメールが届いていたはずだ。

 

「確か今日届くゲームがそうだったと思うが?」

 

その言葉を聞くと同時に、彼女の顔がサーッと青くなった。

 

「ど、どうした!?」

 

「こ、これ!! これ見て下さい!!」

 

真耶はパソコンを操作し、テレビ画面へと切り替える。

 

「お、おい。職員室のパソコンでテレビは・・・」

 

「いいから、はやく!!」

 

千冬は、普段おっとりしている真耶に押されながらも、テレビ画面へと目をやる。どうやら、ニュースの様だが・・・。

 

『ゲームSAO利用者がナーヴギアによって脳を焼かれ、死者の数が200人に上っています。

現在警察では、家族の方にこのゲームを利用している方がいた場合、決してナーヴギアを外さないように呼びかけ・・・』

 

「は・・・?」

 

ニュースの言っている内容が、理解できなかった。何度も、何度も、頭の中で今ニュースキャスターが喋っていた内容を反復させた。

何を馬鹿な話を。彼女はそう思った。弟は、今この瞬間そのゲームをしているはずなのに。

 

「い、一夏ぁッ!?」

 

彼女は、倒れそうになる足をしっかりと踏みしめ携帯を取り出す。そして急いで自宅へとかけた。

だが、幾ら鳴らしても、自宅の電話を取る者はいなかった。

 

「ばかな、メールが来て1時間程度しか経っていないのだぞ!? 何故出ない!!?」

 

彼女はたまらず、誰にもその事を報告できないまま職員室を飛び出した。

 

「お、織斑先生!?」

 

真耶や、一部の教師が彼女を呼び止めるが、彼女はそんな事はどうでも良かった。

この時、学園に配備されているISを使用しなかったのは、まだ彼女が現場を直視していなかったために理性が残っていたおかげかもしれない。

 

 

 

そして、舞台は変わって織斑家前。そこには二人の男女がいた。一夏の友人である鈴と弾であった。

 

「離しなさい! 離しなさいよ、弾!!」

 

「だから落ち着けって!!」

 

「何よ、あんた一夏が心配じゃないのッ!!」

 

「心配に決まってるだろ!? でもだからって、家の窓ガラス割るわけにはいかないだろ!?」

 

「一夏ぁ! 一夏ぁッ!!」

 

涙を流しながら暴れる鈴を、弾は必死に止めていた。近くに大きな石がある所を見るとどうやら鈴は、これを使いガラスを破ろうとしていたようだ。

 

「とにかく落ち着け。きっともうすぐ千冬さんも来る筈だから!」

 

「お前たちは!」

 

そうこうしている内に、彼らの下へ千冬が駆け寄ってくる。

 

「ち、千冬さん! 一夏が、一夏が家から出てこないんです!」

 

「あいつ、今日はまっすぐ帰るって言ったから、もしかしたら・・・!」

 

「大丈夫だ。きっと、買い物にでも行っているのだろ」

 

千冬は二人を宥める様にそんな発言をした。しかし、その姿には全くと言って良いほど説得力が感じられなかった。普段通りに見えるが、彼女の顔は若干青く、焦っている様子が雰囲気から感じられたからだ。

 

「とにかく、家に入るぞ」

 

彼女はそう言い、手に持っていた鍵を使い家の中へと入る。

 

「一夏、いないのか!?」

 

「一夏、お願い返事して!!」

 

扉を開け、千冬と鈴は大きな声を上げる。しかし、返事はなく不気味な静けさだけがそこにあった。

 

「・・・靴があるじゃねぇかよ」

 

不意に弾がその事に気が付いてしまう。それは、一夏がこの家の中にいることを表していた。それに気付いた千冬と、鈴は顔を青くして一夏の自室へと駆け上がる。

 

「「一夏!」」

 

二人が扉を開けた先には、彼がいた。ベッドに横たわっていた。

 

「な、なによ一夏。いるなら返事しなさいよ・・・」

 

呼吸もある、なのに、その声には張りがなかった。

 

「ねぇ、ちょっと! お客さんが来てるのよ? ちゃんと起きて・・・ぅう・・・」

 

鈴は最後まで言い切れず、次第に涙があふれてきていた。何故なら・・・。

 

「うあぁああああん!! 一夏ぁあ!!!」

 

「一夏・・・」

 

彼の頭にナーヴギアが装着されている姿を見てしまったから。彼は、他のSAOプレイヤー同様に、ナーヴギアを装着し現実世界へ帰ってこれなくなってしまっていた。

そこ事実に鈴は泣き崩れ、千冬はただ呆然とする。

 

ゲームで人が死ぬ? 馬鹿な、ありえない。 彼女は現実が受け入れず、ふらふらと一夏の前へと歩いていく。

そうだ、このナーヴギアを外せば一夏もきっとすぐに起きてくる。『外すなっていったじゃないか、千冬姉!』とでも言って。そして、いつもの日常に戻れる・・・。

 

「だめぇ、千冬さんッ!!」

 

無意識に伸ばしていた右手を、鈴が抱きしめるように止めた。

 

「それを外したら、一夏が、一夏が本当に死んじゃう!!」

 

「ッ!!」

 

その彼女の言葉が、千冬を現実へと引き戻す。一夏は、眠ったままなのだと。自分は、弟を救う手段を持っていないのだと。

 

「二人とも、今警察と救急車を呼んだ!」

 

そんな二人に、弾が報告をする。

 

「ただ、やっぱり被害者が多いみたいだから、時間が掛かるかもしれぇって・・・」

 

弾が何かを言っているが、彼女たちはその場を動けなかった。動いたところで、何もできないことを理解してしまっているから・・・・・。

 

 

 

そして、一夏は・・・。

 

『以上で、ソードアート・オンラインのチュートリアルを終了とする。諸君らの健闘を祈る』

 

そう言って、大きなローブをまとった何かは、SAOプレイヤー1万人が集められた広場から姿を消した。

 

「何がどうなってるんだよ・・・」

 

一夏は今、SAOの創造主たる茅場晶彦の言った言葉を何度も頭の中で繰り返す。

 

曰く、ゲームクリアまでログアウトはできない。

曰く、あらゆる蘇生アイテムは機能せず、HPが全損すればそのまま現実の体もナーヴギアによって脳組織を焼かれる。

早い話が、死ぬ。

ゲームで死ねば、リアルでも死ぬ。

自分がこうしているという事は、リアルの自分は現在もナーヴギアを嵌めたままで、千冬も外したら死ぬと理解しているのだろう。リアルからの干渉で死ぬことの心配はないようである。

 

でも、安心はできない。出来るはずがない。

広場はすでに暴動の渦だ。現実を受け入れず、ただ泣き叫ぶ者、呆然とする者。怒りを露わに叫ぶ者。そして、生き残るべく即座に行動する一部の者。

そんな中一夏は動かない。ただ呆然としている分類の中にいた。

 

「千冬姉、ちゃんと飯食ってるかな・・・」

 

半ば、現実逃避をするかのごとくポツリとその言葉をつぶやいていた。

 

 

 

 

○キャラ紹介その1

 

・織斑一夏

アバター名・チナツ。本人的には姉と自分の名を足して二で割ったとの事。

MMOはビギナーながらも、10層よりは攻略組の一員として名を連ねるプレイヤーまでに成長することができた存在。(と言っても、取り巻き潰し専門であったが)

βテスターに騙され、一緒に組んでいたパートナーもろとも死に掛けるがキリトに救われ、それ以来キリトに憧れ、共に戦いたいと思って鍛え続けていた。

しかし、25層クォーターポイントのボス戦でキリトがβテスターであると知った瞬間、今までの関係を決裂。対抗心を燃やして、とうとうボス本体との戦闘にも参加できるまでに成長した。

しかし、50層にてLAを取ろうとするも失敗。再びキリトに助けられる事となった。その後、デュエルをけしかけ勝手にすっきりして和解。

・・・典型的な痛いキャラじゃねぇか・・・。

 


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