それもこれも、全部『謎の会長』ってのがわる…くないです、物投げないで。
そんなこんなで、本編をどうぞお楽しみください。相変わらず、全く進んでいませんが……(汗)
鈴とのいざこざの所為で、ものすごく落ち込んでウジウジしていた一夏であったが、箒の叱咤により再びやる気を取り戻していた。
そして、箒は訓練機の使用許可を得てISの実戦訓練に付き合ってくれていた。更にはセシリアも手を貸してくれている。
一夏がまず行おうとしたのはISの能力の把握であった。セシリア戦までの間の訓練ではISの操作になれるので手一杯であった。
そのため、どういった事ができるか? 或は、どういった機能があるのか? 等を理解するには時間が足りなかった。
だから、次のクラス代表戦までの間に一夏はISの機能を一つでも多く引き出すことができるようにと考えていた……のだが。
「敵が近づいたら、きゅぴーんとなって、ビー! と赤いラインが出てきてな!」
「まずはその擬音を止めてくれ、箒」
「武器を使う際には、ISは脳波から操縦者の思考を読み取りますの! まず、イメージとしましては、武器を掴むための手を40度ほど傾け、親指をやや緩く、薬指を浮かせて、小指を……」
「セシリア、その細かい所は省いて説明してくれると分かりやすいんだけど……」
この二人、人に物を教えるのが壊滅的に向いていなかったのだ。
箒は内容が感覚的過ぎて、セシリアは論理的過ぎたのだ。仕方なく、教本片手に何とかしようと一夏は考えていた訳なのだが……。
「ええっと、センサーリンクってのは……あぁ、銃を使う時のヤツか。今は気にしなくていいか? 次は、ワン・オブ・アビリ……? 駄目だな、機能が多すぎて何を優先したらいいのか分からん(汗)」
結局、これだという機能を見つける事ができなかった。それほどまでに、ISとは多彩とした存在であったのだ。
そして、
「はぁあ!!」
「でやぁあ!!」
「箒さんの動きにばかりに気を取られ過ぎでしてよ!!」
現在、一夏は箒と接近戦をしつつ時折降り注ぐセシリアの銃撃を防ぐという変則的な二対一を行っていた。
「ぐぅう!?」
「エネルギー0か。ここまでだな、一夏」
「またエネルギーが再チャージされるまで待っていませんと」
「あぁ、そうだな」
当然、今の一夏に複数戦がこなせるはずもなく、あっという間にエネルギーが0となり起動不能となってしまっていた。
「やはり、この訓練は些かご無理が……」
「分かってる。だけど、普通の訓練じゃ間に合わない」
相手は幼馴染かもしれない。だが、自分と違って環境によってISを与えられたのではない。実力で与えられていたのだ。その彼女に届くためには今の一夏には無茶な方法しか思いつかなかった。
「やはり、この私! セシリア・オルコットが一夏さんに手とり足とり指導を!!」
「何を言う! 同門の私が行うべきだ!!」
「あら、フェンシングならいざしらず、ISでは同門も何もないでしょう?」
「剣道だ!!」
「いや、それはもういいって」
二人が口喧嘩を始めた瞬間、一夏はげんなりとした様子でそれを見ていた。仲が良いのか悪いのか分からないな、この二人。そう思う一夏であった。
「何よアイツ、やる気になっちゃって」
一方その頃、鈴はそんな一夏の様子を覗き見していた。ほとんど喧嘩別れをしたようなものだが、それも彼への恋心から生まれてきた物。
鈴は今だって一夏の事が好きで、そして気になっていた。
「他クラスの偵察か? あまり関心はせんな?」
「え?」
不意に自分以外の人の声がして鈴は其方へと顔を向ける。そこには……。
「ち、千冬さん!?」
「そう驚かんでも、別にとって喰いはせん」
「あ、いえ!別にその!?」
とは言え、鈴は動揺していた。昔から千冬の事は苦手であったのだ。そんな人がいきなり目の前に現れたら動揺の一つでもするだろう。
一夏の見舞いの際には何度も会ったが、どうしてもこの苦手意識は抜けなかった。
「しかし、何とも効率の悪い訓練だ。そうは思わんか?」
「は、はぁ……」
淡々と話を進める千冬に対して鈴は生返事をする。
しかし、鈴はどうしても彼女に聞きたい事があった。正直、声をかけるのにも勇気がいるが彼女は徐に千冬に対していて問いかけた。
「千冬さんは……」
「ん?」
「どうして、一夏にアミュスフィアを買ってあげたんですか?」
「ふむ……」
なかば予想していた質問だったのか、千冬は少し神妙な顔をした後に苦笑いを浮かべながらその問いに答えた。
「お前も言われていただろう? 『SAOにいたのは無駄じゃなかった』と。私は、アイツに『お前の2年半は無駄だった』と断言することができなかった。ただそれだけだ」
「それは……」
勿論鈴とて千冬の言いたい事は理解できる。ただ、彼女の場合はその上で認められなかったというだけの話であった。
「あとは……そうだな、せっかく目が覚めた弟に嫌われたくないという浅ましい考えがあったのも事実か……なんだ、その顔は?」
だが、その千冬らしからぬ発言に鈴は思わずポカンとした顔で彼女の顔を見てしまった。
「いや、その……なんだか千冬さんらしくないと思って」
「ふん。私とて人の子だ。唯一の家族に嫌われたくないと思って何が悪い」
「家族、ですか」
だが、千冬のその単語に若干の反応を示し、千冬はある事を思い出していた。
「む、すまんな。思い出したくない事を思い出させてしまったか?」
「いえ、別に……」
鈴の両親は離婚していた。千冬もさほど会った事はなかったが、それなりに良好な夫婦であったと記憶していた。だが、そんな二人も仲互いにより離婚している。家族という言葉は鈴にとってどうしても引っかかる言葉なのだろう。
「ま、覗き見もほどほどにしておけ。ではな」
「あ、はい。私も、もう出ます」
ある程度話をしたら満足したのか、千冬はその場を後にした。すでに目的を果たしたからだ。
彼女がこの場に来た目的は会話の中から鈴の想いを探るのが目的であった。
「(なるほど。私と鳳の違いは感情的か打算的かの違いか)」
千冬は一夏に対するスタンスの違いをそう考えていた。
千冬は一夏との関係に亀裂を作りたくなく、自分の心に落とし所を付けた。(無論、アミュスフィアが絶対安全を謳ってたのもあるが)
対する鈴は、落とし所を見つけきれずに感情的に一夏に接しているのだ。
だが、それも無理もない話だ。自分とて一夏からの要望を聞いた時、すぐには納得できなかった。彼女の歳を考えるとそれは無理のない話かもしれない。
「(……と、こう考えるとまるで私が年寄みたいでいかんなぁ)」
そんな少し平和な思考に苦笑いを浮かべる。
確かに、同年代の女性に比べて並々ならぬ経歴を持っている事は確かだが、年寄り臭くはなりたくないという乙女心くらいは一応持っているつもりであった。
そう思いながら、再度先ほどの会話を思い出していた。
「(だが、鳳のVR技術に対する感情は口で言っている事だけではないな)」
それは千冬が漠然と感じていた事であった。それが何なのかまでは分からない。もし仮にその答えを引き出せるものがいるとするのならば一夏だけであろう。それが彼女の結論であった。
そして、千冬には鈴の感情を知る事の他にも、もう一つある目的があった。
「(お膳立てはしておいたぞ。後はお前次第だ、一夏)」
それは鈴自身に自分の想いを再認識させる事。感情だけで動いている彼女に対しての糸口になればと思っていた。
「しかし、あれだな」
そこでふと、自分の来た道を振り返ってみた。
「一夏の奴め。なにをしている?」
何故自分に相談しない? 今回はクラス対抗なのだから、担任教諭の範囲内ではあるが手とり足とり教えてやるというのに。
そんな不満を弟に感じつつ職員室へと戻っていった。
どうせ、すぐに泣きついてくるだろう……と考えて。
そんな考え事をしていたからであろうか、自分の横を歩いていく大勢の生徒に混じって本音と、水色の髪をした手に扇を持つ少女の存在に気付かなかったのは。
「ふんふん。今の彼はあんな感じか~」
「ん~、大丈夫かな。おりむ~?」
閉じた扇を口に当て、水色の髪をした少女は状況を分析していた。対して、それに付き添っていた本音は心配そうに一夏を見ていた。
「ふふ、違うわよ。本音」
「え~?」
水色の髪の少女は手に持つ扇を広げる。そこには『指導』の文字が書かれていた。
「わ・た・し・が、大丈夫にしてみせるのよ♪」
「あ、うん~!」
その言葉に本音は安心したのか、笑顔で答えた。
「あ、でも。訓練メニューも考えないといけないし、明日から! 明日からね!!」
「わ~、台無しだぁ~♪」
「(くそ、駄目だ!)」
次の日、一夏はこの訓練の非効率さを感じてしまっていた。そもそも、本来こう言った訓練を行うのは本当の強者だ。
確かに一夏はSAOで培ってきたバトルセンスで何とか戦えているが本来はIS初心者でしかない。もっと言うのであれば同学年よりも知識のない。
元よりこの訓練は無理があったのだ。
しかし、彼には思いつかなかった。クラス代表戦までの短い期間での飛躍的なパワーアップ法は。
「もう一回だ、二人とも」
だからこそ、一夏はこの無謀な訓練にすがるしかなかった。極限に追い込むことで何かを掴めると信じて。
「一夏さん、まだ二日目でしてよ」
「あぁ。あまりオーバーワークなのは感心せん。試合前に倒れてしまうぞ」
「そう、かもしれないけどな」
一夏とて理解している。SAO内では仮想世界ゆえに、精神的な疲労こそ感じても、基本肉体的な疲労はなかった。
だが、ここは現実世界。手足にまるで錘がどんどん載っていく感覚があった。
それでも、それでも彼は立ち止ろうとはしない。こんな疲れ、鈴の2年半の想いに比べれば……。
そんな時だ。
『あっはははははッ!!!』
「ッ!? 誰ですの!?」
急にアリーナ中に笑い声が響いた。明らかにこちらに向けて放たれたその笑い声に、セシリアは警戒の声を上げた。
『駄目駄目、全然、駄目! その訓練非効率過ぎよ!!』
「な!? 失礼だぞ、貴様!?」
そんな事三人とも分かり切っての行動であった。しかし、その謎の声の主はあざ笑うかのようにその事を高らかに指摘していた。その事実に箒が怒りの声を上げる。
『野球選手のピッチャーだってキャッチボールばかりしている訳じゃないでしょう? ちゃんと野球に関するメカニズムを頭に叩き込んで、さらには専属のコーチだって用意をする。 分かる? 今の君はアマチュア以下なの』
「そ、それは」
その言葉に一夏は反論できなかった。
言わばIS学園とはIS競技選手のプロ育成の場。そして自分は専用機持ちの言わばエリート養成コースに入っているのと同義であった。
だが、それは彼自身の環境がそうさせているだけであって一夏自身の努力の賜物ではない。望んでいるか、いないかなど今この場ではさほど重要ではないのだ。
重要なのは、今自分がここに居るという事。そして、一夏の力量はこの場にふさわしい物とは到底言えなかった。
そして、訓練内容でさえ不適切なものであった。
『そう、今の君に必要なのはしっかりした知識を持ったコーチ。だけど、どうやらその二人は君に合った指導は出来ないみたいね?』
「な、何ですって!?」
「き、聞き捨てならんな!?」
「あ、うん。そんな感じ」
「「一夏(さん)!!?」」
「うわ、怒った!? なんだよ、もう!?」
協力してくれる二人には申し訳ないが、分からないものは分からないのだ。
『だ・か・ら♪ 私の力が必要かしら?』
そして、一夏の前に一人の少女が現れる。
その少女は水色の髪をしていて、手には扇を持っていた。
『チ・ナ・ツ君♪』
その少女は、楽しそうな声色で彼の事をそう呼んだのであった。
ふんふん。おーらい、おーらい。
タイトル変更とか言ってたけど……なんだ~。ちゃんと登場するじゃない。
あぁ! 正式な顔出しは次回に持ち越しだからあんな事言ったのね。
もう、皆期待しているから早く正式なヒロイン昇格させてくれればいいのに~。
あ、でも二次創作で早期出演って、その作品でのメインヒロイン率は高いわよね?
いや~ん、次の話ではあっという間に私の魅力に一夏君が……え? ちょっと、カメラさん?
どこ行くの!? まだ私の話は終わっt…………。
―ぷつん―