以前に上げたGGO編の続きになってます。本編待ってた人はすみませんです。
書いた理由は……シノンが可愛くて仕方なかったんや。
けど、一夏とくっつくのは想像できない……そうだ! じゃぁ、チンクとの友情話の疑似百合で満足するしかねぇ!!
と言う感じです。
俺の中で、この二人が名コンビすぐるんや……。
「で、俺にGGOで死銃(デス・ガン)に接触してほしいって事でいいのか。菊岡さん」
「うん。そう言う事になるね」
東京のとあるカフェ。その場所でキリトこと桐ケ谷和人は総務省・仮想課に所属している菊岡誠二郎と対話をしていた。
内容は、GGO……<ガンゲイル・オンライン>と呼ばれるゲーム内で死銃(デス・ガン)と名乗るプレイヤーがKILLしたプレイヤーがリアルでも死亡しているという事件に対する調査である。
尤も、キリトも半信半疑で、ほぼそれらの事はまったくの偶然と考えていた。
キリトはテーブルに置いてある紅茶を一飲みすると溜息を吐きながら話を続けた。
「GGOは飛び道具メインのゲームだ。俺なんかよりチナツの奴に依頼すればいいだろう」
アイツ、リアルで銃弾を斬る馬鹿だからな、と付け加えつつも彼はそう答えた。
「確かに、彼も君と同じでボクのお気に入りだ。正直初めは彼に依頼しようと思っていたんだけどね……」
いつお気に入りに俺はなったんだ。キリトは内心愚痴りながらその話を聞いていた。
「君も知っての通り、彼は先の事件でSAO時代から続く因縁の一つに決着をつけたばかりだ」
「そうだな……」
キリトは思い出す。IS学園の学園祭から始まった一連の事件を。実際、その時内心弟のように感じていたチナツこと、一夏は命の危険に晒されていた。それを救ったのは、彼が紡いできた絆を持つ少女達。
まぁ、女の子だらけな事に思う所がないわけでもないが、IS関連なので女の子だらけなのは仕方のない事なのかもしれない。(というか、人の事も言えなかった)
「まぁ、正直言うと。僕はかなり千冬君に警戒されているみたいでね。前回の事件の兆候を知らせていたのも僕だったし」
「それは初耳だな……」
思いもよらぬその言葉に、思わずギロリと睨むキリトであった。そんな彼に対して、菊岡は慌てた様子で弁解する。
「まぁまぁ、おかげでチナツ君も初動から迅速に行動できていただろう?」
「一声掛けてくれたら良かったんだ。チナツもチナツだ」
若干不服そうに言うキリトに対して菊岡は咳払いをしながら話を戻し始めていた。
「それで、どうだろう? 引き受けてくれるかな? 今なら、報酬も増額だ」
「……」
キリトは考える。別に報酬が目当てではない。だが、VR関連は今発展途上である。ここで何かしらの問題があると世間にとらえれたら、その発展の妨げになる様な法規制が取られる可能性だってあるからだ。
ただでさえ、IS技術と二分する技術などと言われているのだ。VR技術を目の敵にする輩もゼロではなかった。
結局、キリトの答えはYESであった。99%デマ、あるいは偶然と思っているが、それでも1%の可能性が彼の頭に強くこびりついていたからだ。
―同時刻・GGO内、砂漠エリア―
「ほぅ。どうやらスコードロン抗争の真っ最中みたいだな」
「と言うか、狩られている最中って言うのが正しいわね。片一方は明らかに対モンスター用の装備ばかりだし」
ある岩陰でチンク、シノンは、スコードロン同士の戦いを観戦しながらそんな会話をしていた。
「さて、どうする? 我々は正義の味方という訳ではない。抗争の中に乱入して三つ巴を楽しむのもありだが?」
「あんたって、良い性格してるわ」
「ふ、折角のゲームだ。何でも楽しまねばな」
そう言いながら、チンクは腰に装備している二刀のナイフを取り出し両手に持ちながら構える。
「さぁ、パーティーの開始と……」
「ッ!? 待って、チンク!!」
だが、シノンはある事に気付き、思わずチンクの肩を押さえて止めた。
「どうした?」
「あれ」
「ん?」
シノンは襲われている側の一団の中の一人を指で指す。
「全身マントか。何かあるな」
「えぇ。少し様子を……」
そうこう言っている間にも抗争は続いていた。とは言え、方やモンスター狩り特化スコードロン。もう片方は対人特化スコードロン。
優勢は明らかに対人特化スコードロンの方であった。
唯一気になる点と言えば、先程シノンが目を付けた全身マントの男。抗争が始まっているにもかかわらず不気味に鎮座していた。
「(あの男ではないな。体格が違う)」
チンクは、以前街ですれ違った骸骨面のプレイヤーを思い出していた。どうしても、あの存在が頭に引っかかっていたからだ。
「チンク?」
「いや、なんでも……ッ!! 動いたぞ!!」
狩る側のプレイヤーが突っ込んだ瞬間、マントの男はその内側から強大な兵器を取り出し、近づいたプレイヤーを一瞬で吹き飛ばした。
「ッ!? M134・ミニガン!!?」
「ほう。現実では見られない光景だ」
それはガトリング・ガンと分類される武器であった。圧倒的連射力と火力を持つその兵器の存在にシノンは驚きの声を上げ、チンクは感心したように呑気にその言葉を口にしていた。
「中々、爽快な光景ではないか。見ろ、人がゴミの様だ」
「笑いながら言うんじゃないわよ。危ない人みたいよ」
チンクなりの冗談であったが、あまりシノンにはウケなかったようで呆れた顔で言い返されていた。
「あっという間に狩る側が、狩られる側に変わったな」
「そうね」
襲った側のスコードロンの殆どはミニガンを持ったプレイヤーに撃ち倒されたか、あるいはログアウトして逃げたかのどちらかであった。
その様子に、シノンは不服そうに言う。
「ゲームの中でくらい、銃口に向かってみなさいよ。根性なし」
「仕方あるまい。連中はリアルマネーが目当ての奴もいるはずだ。撤退も戦略の内だ」
「そうかもしれないけどね」
「だが、まぁ。確かに勝算が0と言うわけではなかったのも事実だな。私は、あぁいった輩と組みたくはない」
「奇遇ね、私もよ」
その言葉にお互いが顔を見合わせ、少し笑いを浮かべていた。
「なら」
「する事は一つね」
その言葉を交わすと、チンクは隠れていた岩陰から跳び出し、現実ではありえない速度で走っていく。目標は当然、対人スコードロンを撃退する事に成功した一団である。
「さぁ、狩るか、狩られるか。ゲーム開始だ」
「さすが、ベヒモスの旦那だ!!」
「あぁ。スカッとしたぜ!!ダインの野郎。ざまぁみろ!!」
今回の抗争で生き残ったスコードロンのプレイヤー達は口々に今日の出来事を嬉しそうに話していた。彼らは対モンスター特化のスコードロン。対人が盛んなGGOではどうしても対人特化のスコードロンのカモにされがちのプレイヤーであった。
因みにダインとは、今回襲ってきたスコードロンのリーダーである。チョビ髭だ。折角のオンラインゲームと言うのに残念な外見のアバターの持ち主だったりする。
実の所、先週も彼らはダイン率いるスコードロンに襲われて稼いだものを根こそぎ奪われていた。だからこそ彼らは、今回秘策を携えてモンスター攻略に出ていた。
その秘策が今回、ミニガンを携えてダイン達を一掃したベヒモスなるプレイヤーだ。彼は、GGO内ではそれなりに知られた用心棒である。
「ふん。報酬はきっちりもらうぞ」
「分かってるって。今後もよろしく頼むぜぇ!!」
「街についたら、すぐに……」
そこまで言いかけた一人のプレイヤーの言葉がピタリと止まった。不審に思った仲間達が、そのプレイヤーを見る。
「どうし……ッ!!?」
そして、そのプレイヤーの惨状を見て息を飲んでいた。そのプレイヤーの喉からはナイフが首裏から貫通していたからだ。
「あ、あがぁああ……!!?」
VRMMOには痛覚を遮断するペイン・アブソーバ機能が搭載されている。そのため、極端な話をするのであれば腕が吹き飛んでも痛みを感じる事はない。だが、それでも何も感じないわけではなく、不快なものを感じる。
そのためか、彼は身動きが取れずとも呻き声を上げていた。
「街に戻りたいらしいな。どれ、私が送ってやろう」
もっとも、死に戻りだがな。内心そう言いつつチンクは更に手に力を入れ、次の瞬間にはプレイヤーはガラスの様に砕けた。
「さぁ、次は誰だ」
「な!? て、敵だ!!」
次の瞬間、残ったプレイヤー達は急いで銃を構えるが、それをよりも早くチンクは弾ける様に駈け出した。
「(ちっ。思ったよりも遮蔽物が少ないな)」
チンクのGGOでのプレイスタイルは、物陰に隠れながら相手を攪乱しつつ戦う白兵戦をメインとしている。だが、今この周囲には大きな崩壊したビルが一つある程度で、殆ど大岩も存在していなかった。
「(だが、これ以上待っていれば、それこそいざという時は街に逃げられかねん)」
とは言え、すでにタウンも近い。この場で仕掛けるしかなかったのが現状だ。
「(それに、地の利を生かせねば戦えないような安い鍛え方は、現実でも、仮想でも、してはいない!!)」
彼女は両手にナイフを構えながら走っていく。それを追いかけるかのように、ベヒモスはミニガンを構えチンク目掛けて撃ち放つ。
「おらおらおらおらぁああ!!!」
勢いのいい掛け声と共に、ミニガンを撃ち放つベヒモス。その銃弾の雨に追われながらもチンクは止まることなく走り抜けていた。
「現実なら、今頃蜂の巣か」
だが、伊達にAGIを重視に鍛えてはいない。そして、もう一つ彼女には策があった。
「あんまり近場で連射するんじゃねぇ!!」
「あぁ! 味方にも当たっちまう!!」
「ちっ!!」
スコードロンの人間がそう怒鳴るように言うと、ベヒモスは舌打ちをする。
「(ふん。上手くいったか)」
そう、チンクは遮蔽物の少ないこの場所でプレイヤー達を壁としていたのだ。時に蹴り飛ばし壁にして、時に回り込み壁にして。チンクは巧みに翻弄していった。
「あとは……」
後から来るであろうシノンが近くの建物を上がり、上からベヒモスを仕留めるのみ。そのためには自分は攪乱をし続け、気取られない様にしなくてはならなかった。
「さぁ、もうしばらく踊ってもらうぞ!!」
チンクは近くにいたプレイヤーに足払いをして体勢を崩した。そしてそのまま、首根っこを掴みグルンと回す。
「そら、プレゼントだ!!」
「うわぁあ!!?」
そして、ベヒモス目掛けて放り投げる。同時に、ベヒモス目掛けて走り出す。倒せはせずとも、足一本くらいもらい機動性を落とそうと考えていたのだ。
だが、その時だ。ベヒモスはニヤリと笑った。
「ッ!?」
まさか。チンクは次の瞬間、ミニガン特有の巨大な弾道予測線が張られるのを見ると急いで横に跳んだ。
「うぎゃぁあああああああ!!!?」
「くぁッ!!?」
次の瞬間、投げたプレイヤーが無数の火花の前に砕け散り、避けきれなかったチンクの左腕が吹っ飛んだ!!
「こ、コイツ!? 味方ごと!!?」
チンクは、当然驚きの声を上げる。そして、それはチンクだけではなかった。
「な、何考えてんだよアンタ!?」
「味方まで!!?」
「ふん。依頼内容はスコードロンからの防衛だったはずだ」
それ故に、ソロであろう(と思っている)チンクは対象外だ。ベヒモスはそう公言していた。
「ふ、ふざけるな!!」
「くそ! 報酬はなしだからな!!」
「ほぅ。なら……貴様らもターゲットだ!!」
そう叫ぶと、彼はご自慢のミニガンを構え辺り構わず乱射し始めた。
「う、うわぁああ!!?」
「な、なにを!!?」
「ふははははははははははッ!!!」
嬉しそうに雄たけびを上げながらガトリング・ガンを乱射するベヒモス。チンクは左腕を失った事によりバランスを崩してしまったが、何とか走りながら弾丸の雨を避けていた。
「くそ、速度が落ちているか!!」
しかし、片腕を失った事によるステータスダウンが生じてしまっていた。徐々に弾丸の雨が彼女に追いつこうとしていた。
「ここまでか!?」
チンクはあきらめかけた。しかし、その時だ。
「目を瞑って、チンク!!」
シノンのその声が聞こえた瞬間、辺り一面に眩い光が広がった。
「ぐぅ!! 仲間がいたのか!!?」
「シノン!?」
「こっちよ!!」
未だに目を瞑っているチンクの手を引っ張り、シノンは急いで近くにある建物へと走っていく。途中の階段を上り、建物の真ん中にある広場まで来るとその足を止めた。
「とりあえず、これで一安心かしら。ミニガン使っているって事は、過重ペナルティで足も遅いでしょうし、しばらくは大丈夫でしょう」
「馬鹿な、なぜ出てきた!?」
当初の予定は、自分が囮となってシノンは気付かれない様にこの建物の屋上に上がり狙撃をするという流れだったはずであった。無論、予測線が見えない初撃はベヒモス狙いだった。
ベヒモスさえ撃ち倒せば残りは例え弾道予測線が見えても倒せる雑魚ばかりだった。だが、シノンは姿を見られた。これによって、初撃の不可視の弾丸は出来なくなってしまった。
「あのままじゃ、例え私が屋上に上がれたとしてもアンタがやられていた」
「それが何だ!! 勝利さえ出来れば!!」
そこまでチンクが言うと、シノンはグイッと彼女の胸倉を掴みながら言う。
「それじゃ意味ないでしょ!? 私達はコンビよ!! コンビの勝利ってものはどっちかが生き残るだけじゃダメ!! 二人で生き残って勝たなきゃいけないでしょう!!」
「……!?」
それは以前、自分を囮にしろとシノンが言った時にチンクが言った言葉であった。かつての自分の言葉をそっくりそのまま言い返されチンクは思わず黙り込んでしまった。
それは、例えSAOでは許されなかったPK行為をしようとも、仲間だけは絶対に見捨てないという決意の表れ。
「お前、少しチナツに似てきたか?……いや、キリトに似たといった方が嬉しいか?」
「なんでそこでキリトが出てくるのよ」
お互い笑い合い、二人は拳を作りコツンとぶつけた。
「いくわよ、バディ」
「あぁ。任せろ!!」
そう言ったのを合図にシノンは半壊した建物の壁穴から銃を構え、狙撃の体制を取る。当然、予測線が張りベヒモスも迎撃の体制を取った。
「ちっ。予想以上の予測線の太さね!!」
ミニガンが火を吐く寸前にシノンは建物から飛び上がり、辛くもその銃撃を交わす。
「ははははははははははっ!!!」
しかし、シノンは無傷という訳ではなかった。銃弾の一部が掠ってしまいその綺麗な左足が吹き飛んでいた。その様子を見ながら、ベヒモスは高笑いをしながら銃撃を続けていた。
「あんまり、調子に乗るんじゃ!!」
そう言いながら、シノンは愛銃であるヘカートを片手に持ち、腰に装備していたグレネードを、空いたもう一方の片手を使用して取り出しベヒモス目掛けて投げつける。
「ないわよ!!」
「なにッ!?」
そのタイミングで投げ込まれたグレネードに驚きつつも、ベヒモスは直弾を防ぐべきダメージ覚悟でそれを撃ちぬいた!!
「ぐぉおおおお!!?」
「きゃぁあああ!!?」
ほぼ中間地点、いや若干シノンに近い場所でグレネードは爆発をして激しい爆音と、衝撃、夥しい煙が辺り一面に広がっていた。
「ぬぅうう!!」
ベヒモスも当然ダメージをいくらかくらっていた。しかし、微々たるものである。むしろ問題だったのはシノンだ。空中で足場もなく、もろに衝撃をくらい彼女は勢いよく吹き飛ばされていた。
「ふん!! 無駄な足掻きだったな!!」
ベヒモスは勝利を確信していた。例えこの煙の中で自分を一か八かで狙っても弾道予測線の存在により、撃たれるタイミングは分かる。むしろ自分が、ミニガンを使用してこの煙幕を吹き飛ばしても良い。
そう考えながら、彼はご自慢の兵器を構えた。
その時だ!
「今よ、決めなさい! チンク!!」
吹き飛んだはずの彼女の声がかすかにして、ベヒモスは身構える。例え、この視界の悪い中でも予測線さえあれば避けれる。少なくとも、致命傷は避けられるはず……であった。
「ッ!!?」
次の瞬間、煙幕を吹き飛ばすような速度で何かが彼目掛けて飛翔してきた。咄嗟の事、またあり得ない速度で飛んできたその物体に彼は反応できなかった。
「なん、だとぉお!!?」
それはナイフであった。だが、投擲したにしては明らかにスピードが桁外れであった。彼はそのナイフを避けきれず額に直撃させてしまった。
「ぐぬぅう!?」
だが、幾らハイスピードのナイフとはいえ、まだHP全損は免れる事ができていた。だが、それでも体勢を崩し一瞬ではあるが身動きが取れない状況には変わりなかった。
そして、その一瞬は。
「ナイス。さすが、チンク」
シノンには十分すぎる時間であった。彼女は地面にうつ伏せになったままヘカートを構え、その弾道予測線はベヒモスの背中目掛けて一直線に伸びていた。
「しま……ッ!!?」
分かってはいるが、すぐには動けない。そして、そのまま彼女は―――。
「ジ・エンド」
引鉄を引いた。
「ぐ、ぁああああああああッ!!!?」
対物狙撃銃であるヘカートのその尋常ではない威力の弾丸に彼の上半身は引き跳び霧散した!!
「……~~~ッ!!」
無意識に息を止めていたシノンはベヒモスが砕け散った様子を確認すると、一気に息を吸い込んだ。
もし現実ならば、砂が肺に入り込み咳き込むだろうが、そこはVR空間であるのが幸いした。
「私達の……勝ちよ」
彼女は静かに、だが高らかにその言葉を宣言したのであった。
彼女は立ち上がる気力がないのか、座り込み肩で息をしていた。
「はぁ、何かどっと疲れ……?」
座り込んだシノンであったが、不意に自分の体に影が差し、顔を上げた。
「終わったな、シノン」
そう言いながら、チンクは彼女に手を差し伸べていた。
「えぇ。二人の勝利ね」
悪戯っぽく言いながら、シノンはその手を取った。
「……恥ずかしい事を言うな」
そんな言葉を聞いて、チンクは少し顔を赤らめそっと顔を背けるのであった。
「ん~~ッ! 結構な大物やったし、今日はこの辺にしておきましょう」
「そうだな。私も、この後はALOの方にも顔を出しておきたい」
ベヒモス撃破後、彼女達は雑談をしながらシティを歩いていた。
「あ~。私はどうしようかしら? きっと寝汗がすごいからシャワー浴びてから考えるわ」
VRMMOでの出来事は現実の体と全く繋がっていないという訳ではない。VR空間で息が荒くなれば当然リアルの体も息が荒くなっているし、酷い緊張状態が続けば汗だってかく。
勿論、あまりひどい場合にはアミュスフィアのリミッターが働き、強制ログアウトするのだが。少なくとも、普通に寝ていている時にかく寝汗と同レベルならばそれは動かない。
今は冬場だが部屋は暖房完備でぬくぬくだ。
「そう言えば、今日はお前のファンとやらは見かけんな」
「あぁ、シュピーゲル? 最近しつこかったアイツね」
シュピーゲルとは、シノンのファンを名乗るプレイヤーである。正直少しストーカーが入っているのだが、ネットゲームでは女性プレイヤーに対して時折ある事なのであまり気にしていないようにしている。(実際、チンクにも似たような事はあっている)
当然、そういったプレイヤーの前ではリアル情報は洩れないように細心の注意を払っている。
「ちょっと気になっているのだが……」
「なに? チナツからあんな奴に乗り換えるの?」
「なわけあるか!!!?」
幾らなんでも、それは心外だ。とチンクはなかば本気で怒りながら叫んだ。
「ごめんごめん。それで? 何が気になるの?」
「む、まぁ。そのな、目がなぁ……」
何か危険な目の光を感じる。しかし、それを伝える事はなく、チンクはその言葉を飲み込んだ。ここが、SAOと違って命の危険がある場所ではないという事と、あまり心配させたくないからだ。
命の危険がない以上、さらに言うのであれば一介のプレイヤーが相手ならば、何か起きてから動いても遅くはない。なにより、変な不安を感じさせたくはなかった。
いざという時は自分が動けばいい。それに、ALOと言う逃げ場もある。
シノンにとっても、チンクにとっても、このGGOというVRMMOは愛着がそれなりにあるが、どうしても拘らなくてはいけない世界という訳ではない。
「ん、とにかく何かあればすぐに連絡しろ」
「了解。まぁ、何かできるようには見えない小物に見えるけどね」
窮鼠猫を噛むと言う言葉ある。だが、噛んだところで急所を狙えるものなどほとんどいない。シノンは、そんな事を考えながらその言葉を口にした。
仲間ができた所為か、気の許せる友人が多くできた所為か、追い詰められた人間がどんな行動をするのかを忘れてしまいつつも、そんな考えを持っていたのであった。
しかし、自分の事を気にかけてくれる友人が目の前にいる所為か、彼女はもう少し一緒にいたくなった。
「やっぱり、私もALOにINするわ。良かったら合流しない? シャワーを浴びて30分後ぐらいにエギルの店でさ」
「ふむ。いいだろう。では、30分後にな」
「えぇ」
そう言いながら、彼女はGGOからログアウトする。チンクはそれを見届け、自身もログアウトしようとするが。
「お、チンクじゃないか!」
「なんだ、貴様か。バレット」
とあるプレイヤーに声をかけられその手を止めた。彼の名はバレット。以前気紛れに潜ったダンジョンで偶然出会ったプレイヤーだ。
「私は、これから落ちて用事があるのだが?」
「あ、そうなのか? 呼び止めて悪い」
だが、彼はソワソワしながら此方を見ていた。その様子にため息を吐きながら、チンクは口を開く。
「要件があるのなら、早く言え」
「わ、悪い。実はさ……シュピーゲルの奴見なかったか?」
実は彼は、先ほどの話に上がっていたシュピーゲルの友人であった。最近、シノンにお熱な彼を心配もしていた。
「いや、私は見ていないが」
「そっか。最近さ、アイツGGOにログインする事が少なくてさ。ちょっと心配でよ……」
「そんな事、ネットゲームではよくある事であろう」
「そうだけどさ……」
彼は言い淀みながらも、少し暗い表情をしながらも口を開いた。
「そうだよな。悪い、邪魔したな。んじゃ!!」
無理やり笑いながら彼はそう言うと、シティの中を走っていった。所詮は、オンラインゲームだ。リアルを知らない相手ならば、こう言った事もあるだろう。
だが、それでも、チンクはシノンとの先ほどの会話があった事もあり、今回の話は少し気になる要素になってしまっていた。
「(とは言え、考えても仕方ないな……)」
彼女はそう結論付けると、メニュー画面を再度開きログアウトするのであった。
この日から、彼女は再びSAOから続くVRMMOの闇に触れる事を、そして、自身の闇に触れる事をまだ、気付けずにいたのであった。
○シュピーゲル
原作と違いシノンとの関係が限りなく薄くなっている不憫な子。リアルではシノンがSAO帰還者用の学校に行った事もあり、またGGOを始めるきっかけも彼の勧められたからではなく、チンクのアミュスフィア購入時にたまたま見たタイトルだったため、仕方のない話であった。
彼が、シノンこと、朝田詩乃がGGOにログインをしていると知ったのは第二回BoBの選手登録時。XeXeeDの現実での住所を調べる過程で、偶然発覚した。
せめて、リアルで偶然会って、偶然を装って自分もGGOをプレイしていると伝えたらよかったのに、気が焦ってGGOで先にシノンに接触してしまった困ったちゃん。
そのため、シノンからはしつこいプレイヤーの一人とカウントされてしまっている。
○バレット
シュピーゲルの友人。AGI重視のプレイヤーで自称・闇風の弟子である。
(確かに、ビギナー時代にレクチャーをされているが、弟子と言われるほど行動を共にしていない)
シュピーゲルとはAGI重視の仲間であるが、最近の彼の様子がおかしいのを心配している。
余談だが、チンクに惚れていたが、一日で失恋した過去がある。
現実では一夏と同じ歳で、実家は食堂を経営している。妹がいて、来年はIS学園を受験予定だとか。
更に言うのであれば、妹は友人に惚れており、友人は世界唯一の男性IS操縦者だとか。
一体、なに反田(兄)なんだ……。
この時代の会長。
「―――さん。いくらなんでも、妹のキャラとっちゃ駄目ですよ」
「―――さん。クシナの様に仮想ならともかく、現実でそういう言動は」
「まぁ。妹さんの真似をされるのはちょっとどうかと……」
「二番煎じってちょっとあれよね」
「あ、あはは」
「パクリと言う奴か」
『んふ♪ 早い者勝ちよ♪』
……………(´;ω;`)