織斑一夏はSAO生還者   作:明月誠

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序盤有利→劣勢→逆転勝利。

王道で使い古しと分かっていてもつい使ってしまうんやぁ……。




第二十六話・伝えたい想い

試合当日。かつてセシリアと戦った時とは明らかに違い、アリーナは満席であった。

 

「休みなのに、よく来るなぁ……」

「それは仕方無いよ~。新年度最初の大イベントだもん~」

 

ピット内で準備をしている一夏に付き添っていた本音は、一夏の言葉にそう返していた。

 

「て、言うか。のほほんさん。いつの間に潜り込んだんだよ? ここ、今はクラス代表しか入れないんだけど?」

「にへへ~」

 

現在、このピットは試合を行うクラス代表しか入る事は出来ないはずである。しかし、本音はなぜかこの場に潜り込んでいた。

 

「この一週間、おりむーの邪魔をしないようにしてたんだから、大目に見てよ~」

「そう言えば、このところ必死だったからあまりクラスの娘と話をしてなかったよな」

 

昼休み、放課後すべて返上で特訓をしていた。必然的にクラスメイトとの会話は少なかった。例外は、セシリアと箒。そして、他クラスの簪だ。

 

「クラスで浮いてないと良いけど……」

「そんな事ないよ~。皆おりむーの事応援してくれてるよ~?」

「だと嬉しんだけどな~」

 

そう言いつつ、一夏はチラリと対戦表を見る。

 

「一戦目から、鈴が相手か……」

 

クラス代表戦はトーナメント形式で行われる。そして、一戦目の対戦相手がお目当ての鈴であったのだ。

それ故に、現在その鈴は一夏とは別のピットに待機していた。

 

「大丈夫、おりむ~?」

 

緊張した顔つきの一夏を心配しているのか、本音は不安そうに見つめていた。

 

「どう、かな? 正直分からないな」

 

しかし、一夏は握り拳を作り、軽くそれを上げて見せて宣言した。

 

「だけど、俺の想い全部。鈴にぶつけてみせる」

 

戦えば、想い全部が伝わるなど漫画みたいな事は言わない。

それでも、ほんの一部でも感じてもらえたら、俺がどれだけSAOでの二年半を大事に思っているか、そして同じくらい鈴との思い出を大事に思っているか伝えたい。一夏はそう強く願っていた。

(※恋愛感情は微塵もありません)

 

『それでは、一戦目の準備をお願いします。1組代表、並び2組代表。準備をお願いします』

「時間だ」

 

そう言うと、一夏は白式を展開するイメージをする。未だに、展開を呼吸の様に行えない彼は脳内でステータス画面を作り、まるで装備を設定するかのように頭の部分から次々と展開していった。

 

「相変わらず、順序がでたらめだね~」

 

本来、部分展開はそれなりに高度な展開方法だ。少なくとも、素人には出来ない。だが一夏は、一斉展開が出来ず、このように部分展開を繰り返すことで完全展開を行なえれた。

この事は、千冬も呆れている事でもある。

(因みに、一番早い部分展開箇所は武装だったりする。これだけは、まるで呼吸の様に行えれるのだ。)

 

「それじゃぁ、行ってくる」

「あ、おりむー!!」

「ん?」

 

歩き出す一夏を本音が不意に呼び止めた。

 

「がんばれ~!!」

 

本音の精一杯のエールに彼は何も言わず、軽く右手を上げてそれに答えたのであった。

 

 

 

 

 

 

「いよいよ、始まりますわね」

「そうだな」

「う、うん」

 

観客席の一角、それも最前列にてセシリア、箒、簪が並んでいた。

 

「それにしても、簪さん。今日はモニター越しではないのでしてね」

「あ、あう……」

 

セシリアはこの一週間クシナのアバターを使っていた簪に弄繰り回され続けていた。その仕返しをするかのように悪戯気味にそう言っていた。

 

「あ、あのアバターを使ってたのは、織斑君の訓練を円滑に進めるためだったから……」

 

元々簪はリアルでクシナである自分を頼るつもりはなかった。もはや癖になってしまっているからVRMMOをする際には嫌でもあの性格になるが、一夏と仲良く(意味深)なるためには、『クシナ』に頼るわけにはいかないと思っていたのだ。

 

「セシリア、それぐらいにしておけ」

「まぁ、箒さんも思う所はあるでしょうに」

「別に……」

 

余談だが、箒は日本人にしては歳不相応の胸のサイズだ。(大きめという意味で)

それに対して、若干のコンプレックスを持っているのだが、この一週間ネタにされまくっていた。

彼女はふとその事を思い出し、不敵に笑いながら言った。

 

「まぁ、確かに。同性にセクハラをされるという貴重な体験をさせてもらったがな」

「うぅ……」

 

二人に同時に弄られ思わず縮こまる簪であった。

 

「んん。さて、冗談はこれくらいにしまして」

「(しかし、セシリアも随分と柔らかくなったな)」

 

ちょっとした冗談を言うようになったセシリアを見て箒は何となくそう思いながらも、彼女の言葉に耳を傾けていた。

 

「実際の所どうですの? 一夏さんの勝算は」

「正直言うと、難しい……と思う」

「まぁ、相手は正真正銘の国家代表候補生だ。それも仕方ないか……」

 

以前、確かに一夏はセシリアに対して実質勝利と言っても過言ではない試合をする事ができた。

だが、それはセシリアが一夏の単一仕様能力を把握しきれていなかった事、彼を舐めていた事、気迫に押されて事、奇抜な発想の戦いに翻弄された事……など、うまく組み合わさったに過ぎない。

現に今日までの行われてきたセシリアとの模擬戦での一夏の勝率はかなり低い。

(もっとも、これまで行われた模擬戦は一夏にとって『ほんとの本気』になるべきでない試合であったのも原因の一つであるが)

 

「けど、可能性は0ではない。違いませんこと?」

 

だからこそ、セシリアは確信していた。一夏の勝利する可能性を。

何故なら、今の彼の眼は自分と初めて戦ったあの強い信念を感じさせる眼であったのだから。

 

「あぁ、そうだな。―――っと、出てきたか」

「う、うん。織斑君と、鳳さん」

 

だが、セシリアも必ず勝てると断言はできなかった。出来るはずもなかった。

何故なら、かつて一夏と戦った時の自分とは違い、鈴もまた強い目をしていたからだ。

だが、一夏のそれとは違い、彼女の眼の光は真反対な印象を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅん。どうしたのよ? この前と違って随分やる気じゃない」

「あの時の事を忘れてくれ。柄にもなく悩んだ結果だしな」

 

一夏のしょぼくれた顔は、らしくなくてムカついていた鈴であったが、自分以外の誰かが立ち直させたと考えると、別の意味でムカついていた。

 

「で? アミュスフィアを手放す決意はついたの? 今なら私優しいから、中古店に売っぱらうくらいなら許可するわよ?」

「そりゃ困るな。あれ一応、千冬姉の入学祝なんだぜ」

「あっそ。じゃぁ……」

 

ドスンと、鈴の手に大型の青龍刀が展開する。その大きさに、どこか懐かしい物を感じる一夏であった。

 

「(そう言えば、鈴の店にも飾り物で置いてあったっけ)」

 

結構高かったと、叔母さんがぼやいていたのを思い出していた。

 

「なぁ、鈴」

「なによ?」

 

試合開始直前。もはや語る時間もなければ、語らせてくれる気も鈴にはないだろう。一夏はそれを知りつつもある事だけを伝えたくて、口を開いた。

 

「ほんと言うとさ、いろいろ話したい事があるんだ」

「あたしはないわよ」

「言うと思った。けど、だから……」

 

苦笑いしながらも一夏は信頼する武器、雪片を構えながら言う。

 

「俺の今の全部、ぶつけるからな。しっかりと受け止めろよ」

「―――ッ!?」

 

その真剣な眼差しは、鈴の乙女センサーを直撃した。顔を赤らめ、思わずうなずき返したくなるがぐっと堪えて鈴もキツイ目をする。

 

「ふん。なら、それごと叩き潰すだけよ」

「ひっで」

 

そして。

 

『試合開始、五秒前』

 

試合開始までのカウントダウンが始まりだした。

 

『4』

 

箒たちが息を飲みながら一夏を見守る。

 

『3』

 

ピットのモニター室では千冬と真耶がその様子を見つめていた。

 

『2』

 

鈴は、ぐらつく気持ちを押さえながらも今の一夏を絶対に認めまいとしていた。

 

『1』

 

そして、一夏は今の全部を鈴にぶつけようと体をやや前のめりにした。

 

『0』

 

そして、その合図とともに試合開始のブザーがアリーナ中に響き渡った。次の瞬間、二機のISが弾けるように互いに飛び立った。

 

「はぁあああああッ!!」

「でぇええええいッ!!」

 

二人が持つ武器がぶつかり合い、けたたましい金属音がアリーナ中に響き渡り観客のほとんどは思わず耳をふさいでいた。

 

「は! 良く受け止めたじゃない!!」

「鍛えてるからな!!」

 

一合、更に一合と剣のぶつかり合いは続く。質量的法則から考えると、細い武器を持つ一夏が押されるはずだが、現実には少しづつではあるが鈴が押され始めていた。

 

「くっ!!」

「ペースを上げるぜ、鈴!!」

 

その理由は一夏の剣速の速さにあった。鈴が青龍刀を振り下ろしきる前に、勢いがでる前に弾いていたのだ。

 

「はぁ!!」

「しまっ!?」

 

そして、一夏は鈴の武器を思いっきりと弾く事に成功させ、攻撃をするチャンスを作ることに成功した!

 

「いくぜ!!」

 

一夏の雪片は今までエネルギーブレードの状態ではなく、通常武装状態であった。だが、それを瞬時にエネルギーブレードへと変換させ、さらには零落白夜をも発動させる。

 

「うぉおお!!」

 

連続3回の斬撃が鈴を襲う。エネルギーが残留してできるその縦の痕はまるで獣爪の痕の様であった。

 

ソードスキル・シャープネイル。

 

それが今、一夏が繰り出した技の元であった。

だが、鈴も負けていない。咄嗟に後ろに下がり、その攻撃のクリーンヒットを避けることに成功していたのだ。

 

「(咄嗟に後ろに下がって威力を殺したか。やるな、鈴!)」

「(掠っただけなのに、こんなにエネルギーが減ってるなんて! これが零落白夜の力!!)」

 

一夏は今の攻撃を完全でなくても避けた鈴へ賞賛を贈り、そして、鈴は一夏の白式の能力・零落白夜の力に驚愕した。

 

「まだまだ、いくぞ!!」

 

だが、一夏は鈴の力量を実感しつつもその攻撃の手を緩める事はない。すぐさま、再び雪片をエネルギーブレードへと変換して攻撃を繰り出す。若干上空へと逃げた鈴を追撃するかのように繰り出す剣技。

 

ソードスキル・ソニックリープ

 

続けて自身が彼女よりも上空へ行った事から、上段からの振り下ろしの剣技。

 

ソードスキル・バーチカル。

 

次々と一夏は、かつての剣技を模倣して鈴へと放っていった。

 

「(くそ、結構攻撃しているのに、クリーンヒットは無しか!!)」

「(このまま接近戦をしていても押される!)」

 

試合、序盤。一夏は優勢な勝負をしていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「すごいです、織斑君。まさか、零落白夜の理想的な運用ができるようになっていただなんて」

 

ピット内、モニタールームにて真耶は画面を見ながらそんな事を呟いていた。零落白夜は自身のシールドエネルギーを犠牲にする諸刃の剣。

効率の良い使い方といえば、当然攻撃が当たる瞬間に発動させる事。そして、一夏はそれを実践できて……。

 

「及第点だ。あんな物、初心者のする事だ」

「え?」

 

どうやら、千冬的には理想的とは言えないようであった。

 

「た、確かに攻撃の少し前に発動させていますが、十分すごいと思いますけど?」

「まぁ、確かに一週間でよく覚えたといっても良いがな……」

「そうですよぅ。ワン・オブ・アビリティは発動するのにかなりの集中力が必要です。あんな風に呼吸をするかのように発動させるのは並大抵の……」

「まさか。あいつは、まだそこまで零落白夜を使いこなせてはいない」

 

千冬はじっと戦っている一夏を見つめながら言った。

 

「あれは言うならば“型”だ」

「か、た? ですか?」

「あぁ、織斑の奴はあらかじめ、『零落白夜は決められてた動きを条件に発動する』というイメージを脳内に作っているのだろう」

 

そう、一夏にはまだかつての千冬のように攻撃を当てる瞬間に零落白夜を発動させるという呼吸のような発動はできなかった。

だが、セシリアとの戦いの時のように常時発動を続け戦いをしているようではどうしても超短期戦しかできない。そのために、少しでもエネルギー減少を防ぐために覚えたのが型であった。

 

「け、けど。一週間で覚えた割にはなんだか、沢山のバリエーションがありますね?」

「たしかに、な」

 

だが、千冬はある事に引っかかっていた。それは零落白夜を発動させる型の種類が豊富な事。強固なイメージとして持たなくてはならないそれは何度も体に、脳に覚えさせないといけないはずだ。一週間で脳に、体に刻んでいるにしては豊富すぎるのだ。

その答えを知っているのは……。

 

 

 

 

 

 

 

「上手くいっているようですわね」

「あぁ。ゲームでの技だと言われた時はどうかと思ったが驚いた」

「ゲームの技だからって侮っちゃ駄目。あの技は、あの世界で私達の命を守ってきた技なんだから……」

 

当然彼女たちである。さらに正確に言うのなら、これは簪の指導の結果の一つだ。

簪が真っ先にどうにかしたかったのは白式の燃費の悪さの改善であった。だが、機体自体を調節するには実戦データが不足していた。

だからこそ、彼女は一夏に『零落白夜=ソードスキル』を覚えさせる事にした。

それには、現実世界でもソードスキルを使う彼の姿が見たいという思いも若干ではあるがあった。

自分にはできなくても、彼があの世界で培った技を駆使して強者と戦う事ができたのであれば、あの世界は意味があったのだと思えるからかもしれない。

 

「だが、いけるぞ。このまま一気に押していけば!」

 

箒は、興奮気味にそう言うが、他の二人の表情は明るい物ではなかった。

 

「それはまだ分かりませんわ」

「うん」

「な、なぜだ!?」

 

二人の不安は、彼女のISが第3世代である事が要因であった。基本的に第3世代のISには特殊兵装が装備されている。セシリアで言うのであれば、6機のビットがそれだ。

だが、鈴は未だにそれを晒していない。それが彼女達には不安要素であった。

 

「か、考えすぎではないのか? そんなものを使わせる事なくこのまま一夏が」

「いいえ! 箒さん!!」

「鳳さんが距離を取った!! 来る!!」

「なに!?」

 

箒はその言葉に、急いで鈴の方を凝視した。そこには、不敵な笑みを浮かべる鈴の姿があった。

 

 

 

 

 

 

「ふぅん。やるじゃない一夏」

 

距離を取った鈴は、一夏に対して不敵な笑みを浮かべながら話しかけていた。

 

「なんだよ、ダンスはもういいのか?」

「は! 良く考えたら、別にアンタに付き合ってあげる義理もないし?」

 

本当の所を言うのであれば、この手で叩き潰したかったのが本音だ。だが、一夏の予想以上の強さに彼女はその考えを断念することにしたのであった。

 

「あんたのISの能力は十分に見たわ。確かに強いわね」

「あぁ、千冬姉とお揃いだからな」

 

若干シスコンと思われても仕方ない発言を自然とする一夏。そんな彼に苛立ちを感じながらも話を続ける。

 

「けど、結局それは接近しないと意味ない物よね」

 

その言葉に、一夏はピクリとある事を感じた。つまり、鈴のISの特殊兵装は……。

 

「今度はあたしの番。見せてあげるわ、あたしのIS・甲龍の力を」

 

そう言った瞬間、彼女の機体の両肩に付属している何かは怪しげな光を放ちながら、機動音を発していた。

そして、次の瞬間。

 

「がぁああ!!?」

 

一夏は、壁まで吹き飛ばされるのであった!

 

「ぐぅ!!?」

 

遠距離攻撃のはずだ。なのに、一夏は反応が一切できず、何が起きたのかさえ理解できていなかった。何故ならば。

 

「予測線が出なかっただと!?」

「驚いた、一夏? さぁ、これからよ!!」

 

―ウォーミングアップは終わり。本当の試合の開始よ!!―

 

一夏にとっての本当の試練が始まる瞬間であった。

 




さぁて、ここでちょっと私の設定講座よ。

この世界のVRの歴史は

SAO事件はPSVitaソフト・ホロウフラグメントベースの世界観……なんだけど、それ以降の歴史は《ザ・シード》の話があって予測はついてるだろうけど、ソードアートオンライン正史の流れをベースにしているわ。

まぁ、理由としてはGGOネタがやりたかったのもあるし、このssを考えた時はロストソングが未発売だったのもあるわね。

それと、ホロウフラグメントはSAO攻略も100層きっちりしている分、捕らわれの期間も長いから設定のすり合わせのためにもSAO開始時期もずらしているわ。(他にも織斑君の誘拐騒動だったり、織斑先生のドイツ教官時期、その他諸々もね)
だから、7月にSAOにログインしたなんて台詞が本編で出てしまっても驚かないでね♪

そんな訳で、ゲーム、正史、オリジナルと、ごっちゃごっちゃしている世界観だけどこれからも、『織斑一夏はSAO生還者』をどうかよろしく……。

「か、簪ちゃん!!? こ、ここで何を!!?」

あん♪ 見つかっちゃった♪ もう、お姉ちゃんってば・イ・ケ・ズ・なんだから♪

「ま、まさかキャラだけじゃなくて、出番まで取るk……」

―プツン―

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