織斑一夏はSAO生還者   作:明月誠

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サービス業はスタッフが減ると、ただでさえ少ない休みが減って困るぅ。

しかも、スタッフ増えないし本当に勘弁……。

とまぁ、泣き言を言いつつも何とか更新。エターだけはしないようにせねば。



番外編⑤・雪片へ到る道(中編)

62層・ダンジョンにてチナツ達のクエストは進行してた。

 

「はぁ!!」

 

チナツのスタン攻撃がクリーンヒットしてゴーレムモンスターの動きが止まった。

 

「よし、スタンした!!」

「これでラストだ!! スイッチ!!」

 

そのまま流れる様にチンクは両手剣スキルと発動させ、ゴーレムを一閃に切り裂いた。

HPゲージは0になり、ガラスが散るエフェクトと共にモンスターは消滅していった。

 

「うっし。終わりか」

「そのようだな」

 

今まで見た事の無いモンスターだったためか、多少戸惑いはあったがそれだけであった。二人は特に苦戦もなく殆どダメージを負わずに連戦を完遂していた。

そのタイミングを見計らったようにパチパチとNPCであるマトメが拍手をしてきた。

 

「コングラチュレ~ション~♪ お見事!! 依頼達成だよ♪」

「クエストクリアか。最前線のクエストの割に歯ごたえはなかったな」

「まぁ、危険もなくて良いんじゃなかったか?」

 

とは言え、確かに思ったよりも難易度は低かったのは事実だ。高度AIが関わるクエストだったので報酬も期待していたのだがそれも難しいとチナツは感じていた。

だが、ある違和感に気付き首を傾げる。

 

「(クエストクリアの表示が出ない?)」

 

通常、クエストが終了すると空中にでかでかと『Congratulations』の文字が浮かび上がるはずだ。しかしそれはまだ出ていなかった。

 

「(まだ、会話イベントはあるみたいだし。それが終わってからかなぁ?)」

 

何となくチナツはそう考えていた。ごく少数ではあるが、戦闘や報酬よりもストーリーを楽しむクエストは無いわけでもなかったからだ。(もっとも、デスゲームであるSAO内ではあまり好まれてはいないが)

 

「(ん~、ストーリークエストだったのか。キリトの奴が好みそうだな……)」

 

そんな事を考えながら、マトメの話を聞いていた。

 

「うんうん。私の見込んだ通り、素晴らしい戦闘能力だったよ♪」

「ふん。当然だ、私とチナツだぞ」

「お前、相変わらず戦闘関係は自信満々だな」

「教官の教え子だからな」

 

ふふん、と得意げな笑みを浮かべるチンクを、少し呆れながらもチナツは微笑ましく思っていた。

 

「いや~。本当に中々なモノですな~」

「ん?」

 

そう言いながら自分達を持ち上げるマトメ。しかしチナツはその『モノ』と言う発音に何か違和感を感じて首を傾げていた。

 

「これなら良いゴーレムが作れそうだよ♪」

「私達が協力したのだ。当然だな」

「(何時まで得意げになってるんだよ……)」

 

なんだか嫌な予感がする。一夏はそう感じ始め、その予感が外れてくれるようにと早くこのクエストが終わるのを祈り始めていた。

 

「それじゃぁ、最後の仕上げとしてぇ―――」

「む、まだ何か……」

「脳を取り出そっか?」

 

次の瞬間、時間が止まったかのような錯覚をチナツ達はしてしまった。正直、何を言っているのか理解できていなかったのだ。

 

「は?」

「何を言って?」

「んん? 言葉通りだよ? 私自慢のゴーレムを倒した人間の脳を材料にすればいいゴーレムができるだけじゃん?」

 

当たり前の事なのに何を言ってるの? そんなふうに彼女はあっけらかんと言った。

 

「ふ、ふざけるな!! そんなバカな話を受けてたまるか!!」

「あー、あー。材料如きがなんか喚いてるよ。鬱陶しいな、もー。何なんだよ」

 

さっきまでのフレンドリーな態度はなんだったのか。そう思ってしまうほどに今の彼女は無茶苦茶だった。

だが、チナツはそうは思っていなかった。変わったのは彼女ではないと。少なくとも、彼女の視線で見れば、だが。

 

「(彼女にとって変わったのは俺達の方か)」

 

先ほどまでの自分達は彼女の意向に沿って動いていた。だが、いざ肝心な所に来たら急にいう事を聞かなくなったと言う風に捉えられているのだろう。それがチナツの見解であった。

いうなれば、人懐っこかった野良犬の頭を撫でていたら急に敵意剥き出して吠えてきたような感じだ。

そして、もう一つある事に気が付いた。

このクエスト名でもあった《優レシ脳ヲ持ツ者》とは彼女の頭脳を意味していたのではなく……。

 

「(俺達の事だったのか)」

 

チナツは感じていた違和感をすっきりさせるが、じきに目の前の事をどうにかすべきかと片手剣を取り出し、彼女に向けながら言う。

 

「話が決裂したようだし、悪いが俺達はこれで失礼するぜ」

 

考えが分かったからと言って、賛同してやる義理はない。そう考えながら、高度AI故に効くであろう脅しを加えながらそう宣言した。

 

「えー、君までそんな事言うわけー? 君には期待していたのにがっかりだよぉ」

 

体の方は綺麗に保存してあげようと思っていたにー。など、自分勝手な事を言うマトメ。しかし、チナツは何となくある人物を思い出し苦笑いをしていた。

 

「希望に沿えなくて悪かったな。行こうぜ、チンク」

「あぁ。勿論だ」

 

二人はマトメに背を向け、扉に向かって歩き出す。そんな二人を見て、彼女は呆れ顔で溜息を吐く。

 

「折角痛くしないように脳を取り出してあげようとしたのに、ばっかだな~」

 

彼女は、いつの間にか手に持っていた結晶を床に叩きつけ砕いた。その音を聞いて、二人は驚き振り返る。

その姿を見て、彼女はニヤリと笑った。

 

「チナツ! 扉が!?」

「なに!?」

 

だが、二人が音に気を取られた瞬間扉が閉まり始めていた。慌てて二人は扉目掛けて走り出すが、タッチの差で間に合わなかった。

 

「くそッ!!」

「どけ、チナツ!!」

 

チンクは、両手剣を振りかざし扉目掛けて斬りかかる。だが、両手剣はあっさりと弾かれ、目の前には《Immortal Object》と表示されていた。

 

「駄目か!!」

 

《Immortal Object》……このSAOと言う世界は本当によくできている。物に攻撃すれば壊れるし、地形を利用した戦闘だって可能だ。

だが、街の建物、あるいは重要なオブジェクトは破壊不能にシステムで保護されてる。そう言った物質を壊そうとすれば、こういった表示が出てくるのだ。

つまり、この扉は破壊不可能であるという事。

それは、この部屋の唯一の扉がなくなったことを意味していた。

 

「まったく、人がせっかく穏便にすませてあげようと思ってたのに、馬鹿な子達だねぇ~」

 

彼女は右手に先ほどとはまた違う結晶を持っていた。彼女がその結晶を砕いた瞬間巨大な光が彼女の前に溢れ始めていた。

 

「な、なんだ!?」

「あはは。これはねぇ、逆転移結晶って言って君達が使う結晶とは逆の作用を引き起こすものなのさ。そう、つまり―――」

 

 

 

―呼び込むものって事さ―

 

 

 

彼女がそう宣言した瞬間、目の前に巨大な岩で出来た竜が顕現した。空気どころか辺り一面を揺らすほどの怒号を発しながら、その巨大な竜《Infinite dragoon》はチナツ達の前に立ちふさがった。

 

「HPゲージが5本だと!?」

「クエストボスか!?」

 

チナツの懸念していた事が起きてしまった瞬間であった。最前線クエストでのボス戦。それは、コンビでしかない二人が挑戦するには危険すぎる事であった。

 

「チンク!!」

「分かっている!!」

 

彼らも、最前線まで戦い抜いてきたプレイヤーだ。引き際を決して間違えたりしない。

チンクはすぐにアイテムストレージから転移結晶を取り出し、手に掲げながら叫ぶ。

 

「転移!」

 

そのキーワードと共に、彼らは62層主街区へと転移する……筈であった。

 

「馬鹿な……」

 

だが、それは失敗に終わった。転移結晶は何も反応せずただ彼女の手の中で鎮座していた。そんなチンクを見てマトメは笑いながら言う。

 

「あ~、無駄無駄。この子の周囲では転移系の結晶は無効化されるから」

 

使いたかったらこの子を倒してね~、と彼女はケラケラ笑いながらクエストボスを指さして笑っていた。

 

「……ッ!!」

 

そして、それを聞いたチンクの行動は早かった。すぐさまスキル欄から武器切り替えのスキル《クイック・チェンジ》を発動させ両手剣から短剣へと切り替る。そして、幼少より軍で教わってきた構えをとる。

 

「お、おい!?」

「こうなっては仕方ない。あのNPCを斬る!!」

 

クエストフラグそのものである彼女を消す事が出来れば、クエストが不成立になる可能性は0ではない。その考えはチナツも当然考えていた。

だが、あのNPCは人と殆ど変わらないと言える高度AIを持っている。おそらくチナツはその優しさから斬る事を躊躇するだろう。そう感じたチンクは自分が行動すべきだと、彼の静止を振り切り走っていく。

 

「くそッ!!」

 

チナツは自分を気遣って行動したであろう彼女に申し訳なさを感じるも、すぐさま自分ができる事をしようと動く。

マトメが居る位置は自分達とは巨大ゴーレムモンスターを挟んで反対側。一直線に走るチンクはボスの真横を通らなくてはならない。

当然、近づいた瞬間ボスはチンク目掛けて岩で出来た尻尾を振りかざす。

 

「させっかよッ!!」

 

その攻撃を剣で完璧に弾いた。システムによりそれはパリィ成功と見なされボスの動きは一時停止した。その隙をついて、チンクは駆ける!!

 

「(許せ……とは言わんぞッ! くたばれッ!!)」

 

彼女は飛び上がりマトメ目掛けてソードスキルのモーションへと入り。

 

「ッ!?」

 

何かに気付き、彼女の位置よりも手前でスキルを発動させた。次の瞬間何もない空間であるはずなのに、何かにぶつかる衝撃を受けチンクは後方へと飛んでしまった。

 

「チンク!」

 

すぐさまチナツがカバーに入り、彼女は問題なく着地した。

後ろから抱きしめられる構図であったが、こんな状況だ。チンクは役得を感じる事もなく礼をチナツに言った。

 

「すまん、チナツ」

「あぁ。それよりも何があった?」

 

その答えをチンクが口で言うよりも早く、マトメが行動で示した。

 

「おー、これに気付くとは。なかなかやるねぇ」

 

彼女は何もないはずの空間をノックする。すると、先ほどの扉と同じ《Immortal Object》が表示される。

その表示を見て彼らは目を凝らす。すると、彼女の周りを囲むようにガラス柱があるのが分かった。

 

「高みの見物というわけかッ!?」

「高い所じゃないけどね~。ほらほら。さっさと諦めて脳をくれよ」

「ふざけるなッ!!」

 

あくまで挑発を続けるマトメ。そんな彼女にチンクは食って掛かっていた。

一方、チナツは冷静であろうと努めていた。

 

「(何なんだ、このクエストは!?)」

 

だが、そうするにはこのクエストは明らかに逸脱していた。急にクリスタル無効化エリアは発生するし、クエスト放棄は実質不可能、さらには高度AIのNPC。はっきり言って異常の一言であった。

ただ分かっているのは。

 

「チンク、もういい。あっちは無視しろ」

「だ、だが!!」

 

チナツは、徐に自身特有の構えをとりながら言う。

 

「どちらにしろ、俺達は……」

 

 

 

―あのボスを倒さなければ、生き残れない―

 

 

 

チナツは覚悟を決めながらそう口にしていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―同時刻・現実世界―

 

「はぁ、遅くなっちゃった」

 

夕方、チナツこと一夏の元クラスメイトの鳳鈴音は一夏の入院している病院へと足を運んでいた。いつもはもう少し早くお見舞いに行っているのだが今日はクラスの用事で遅くなっていた。

 

「今日も行くからね、一夏」

 

彼に惚れていて、かつ未だに恋心を持ち続けている彼女は毎日のように彼のお見舞いに来ていた。

彼がSAOに捕らわれてすぐの頃は彼女だけではなく他のクラスメイトも時折来ていた。

だが、お見舞いに行くのも今となっては彼女と、一夏の姉である千冬。そして、一夏の友達である五反田弾とその妹・蘭ぐらいとなっていた。

学年が変わってクラス替えがあったという事もあるだろうが、学校では一夏の存在は忘れられている。そんな印象を最近は感じていた。

いっそ自分も忘れた方がいいのだろうか? いや実際そうなのだろう。

現に、友達の何人かは『もう、諦めた方がいい』と純粋に心配して言ってくれていた。

だが、それでも彼女は彼の見舞いを欠かす事はなかった。半分意地になっているのかもしれない。

或は、最近両親の不仲からの逃避が混じっているのかもしれない。

けど、彼を思う気持ちに嘘はなかったのだ。

 

「はぁ……」

 

とは言え、もう一年半以上経過している。一夏がSAOに捕らわれてから、最初の2ヶ月で2000人が死んだ。その中に彼がいなかったのはほっとした。2か月後には目に見えて死人が減っていったがそれまで本当に生きた心地がしなかったのは事実だ。

いやそれは今も一緒だ。ゲーム内の情報は一切入ってこず、今彼がどういったか状況なのかさっぱり分からないからだ。

 

「(大丈夫。絶対、大丈夫)」

 

毎日通っている所為か顔見知りになった看護師の方にあいさつをしながらゆっくりと一夏の病室へと足を運んでいた。

そして、一夏の病室のある階のナースステーションの近くを通りかかった時だ。

 

「大変です!!」

「どうしたの!?」

 

ナースステーション内が慌ただしくなっているに鈴は気付いた。さりげなく聞き耳を立てようとして……。

 

「『1015室』の子が心拍数上昇!! 過呼吸状態です!!」

「……え?」

 

その部屋の号数に彼女は聞き覚えがあった。だってそれは毎日通っている場所に他ならないからだ。

 

「一夏ぁ!?」

 

鈴は、ここが病院という事も忘れ駆け出していた。

この日、彼女は今までに感じた事のない長い数時間を経験する羽目になるのであった。

 

 




<とある宿屋にてクシナとノンノン>

「あっはっは~!!」
「な、なにやってるのかしら? 本音?」
「えっとねぇ、昔していたゲームで、ぽわぽわしている子が、どSになってたのを思い出して~」
「え、えぇ」
「私も真似できないかなぁって~。ロールプレイってちょっと憧れてたし~」
「そ、そっかぁ……(と、止めるべき!? け、けど自分の事もあるし……)」


次の日、フィールドにて。

「そらそらそらそら~。ここが良いんでしょう~?」(いつもと変わらない口調)
「(に、似合ってなくてよかったわ……)」

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