織斑一夏はSAO生還者   作:明月誠

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何とか投稿完了です。

とーんとん。皆いる~? 
いたらコンコン……しなくても良いので、読んでもらえたら幸いです(笑)


番外編⑥・雪片へ到る道 (後編)

「はぁー、ジュースが美味しいなぁ」

 

一人の白衣を纏った女性が、椅子に座って優雅にトロピカルジュースを飲んでいた。

 

「ん~、これ最高ぅ♪」

 

ジュースを飲み干した彼女はぽいっとジュースの入っていたグラスを投げだす。グラスは地面に叩きつけられ砕け散り、そのままエフェクトを放ちつつ消えていった。

 

「さてさて、そう言えば材料はどうなったのか……ありゃ?」

 

彼女はそろそろ終わっただろうと思いつつ、目的の場所を見つめた。そこには……。

 

「なんだぁ、まだ脳を取り出せてないじゃん。なんだよー、もー! 使えないなぁ!!」

 

未だに、健在のチナツとチンクの姿があった。

もっとも……。

 

「まぁ、良いか! どうせ時間の問題だしねー」

 

クエストボスのHPバー5本の内、4本健在。

そして、チナツ達は……。

 

「チンク、回復アイテムは?」

「安物のポーションがいくつか残っている程度だ。治癒結晶は品切れだ」

「奇遇だな、俺もだよ」

 

すでに劣勢を通り越して、絶体絶命の状態であった。

 

「ふん、だが!」

 

チンクは、ジャキと両手剣を構えながら言う。

 

「まだ、私の闘志は潰えてないぞ」

 

チンクがそう宣言する中、チナツはそんな彼女を頼もしく思いつつも考える。

 

「(だが、根性論ではどうにもならねぇ!)」

 

すでに自分達の命運は尽きようとしている。チナツはそう感じるとせめて彼女だけは助けたいという気持ちに駆られていた。

だが、その方法がどうしても思いつかない。扉は開かず破壊することも出来ない。そして、転移結晶は使えない。クエストフラグそのものであるNPCのマトメを消そうにも、破壊不能のガラスで彼女は守られていた。

クエスト放棄の方法は皆無であった。

 

「くそッ!!」

 

あの時、自分がクエストを安易に受けたばかりにこんな事態になってしまった。過去に戻れるのならこんなクエストは受けないのにと現実逃避染みた事まで考え始めている始末だ。

まるで、あの時みたいだ。まだ自分達が攻略組にすら入っていなかった頃。βテスター上がりのプレイヤーに騙され、MPKされかけたあの頃のように……。自分が浅はかだったばかりに、チンクまで死に掛けたあの時と全く一緒ではないか。チナツは、悔しい思いで押しつぶされそうになった。

だが、そこである可能性に気付く。

このクエストを受けたのはあくまで自分で、彼女はパーティメンバーだからクエストが受けれているのだと。

 

「試すしか、ないか」

 

チナツはすぐさま行動に移る。クエストボス《インフィニット・ドラグーン》目掛けて走り出すと、スタン攻撃を炸裂させる。

 

「チナツ!?」

「来い、チンク!」

 

何の合図もなしにボスをスタンさせた事に疑問を感じ、チンクは思わず彼の名を呼ぶ。だが、チナツはそんな事は気にするなと言わんばかりに彼女の手を引き走り出す。

 

「どこに行く、逃げ場など!?」

「少しでも時間が稼げればいい!!」

 

そう言い、彼らは大きな柱の影に隠れる。モンスターのスタンは既に解けているが、幸いこちらの姿は完全に見失ったらしくウロウロと徘徊を始めていた。見つかるのは時間の問題だろうが、これで時間は稼げるはずだ。

唯一の懸念はマトメの存在だが、面白がっているのかニヤニヤとこちらを見ていた。

 

「何とかうまくいったか」

 

チナツは思わず溜息を吐きながら、ほっと胸を撫で下ろしていた。何とか相談する時間ができたのだ。

 

「い、行き成り何なんだ?」

 

とは言え柱の影はそこまで空間は広くない。チナツはチンクとかなり密着しており、こんな状況だがチンクは顔が若干赤くなってしまっていた。

 

「あぁ、そうだな。時間もない」

 

しかし、そこは我らがチナツ師匠。あっけらかんと彼女の言葉に答えるとメニュー画面を開き始める。

 

「ッ!?」

 

若干嬉しい状況に少し舞い上がっていたチンクであったが、目の前に表示された画面に息を飲む。

「こ、れ、は?」

内容は、パーティ解除の申請であった。その意味が理解できずに彼女は思わずチナツに問いかけた。

 

「何のつもりだ、チナツ」

「聞いてくれ、チンク。このクエストは俺が受けたものだ。お前は、パーティ登録しているから受けている状態になっているはずだ」

「だからなにを……ッ!?」

 

チンクはチナツの言わん事は理解した。つまり彼はこう言いたいのだ。

パーティ登録を解除した状態でチナツが死ねば、チナツだけの死でクエスト失敗と見なされ扉が開くかもしれないと。

その事を理解すると、チンクは頭に血が上る感覚を久し振りに感じた。

 

「それでも、もし駄目だったら……その時は御免。キリト達にクエスト詳細のメッセージを……「ふざけるなッ!!」……ッ!?」

 

彼に対して怒りを覚えたのは、実に久しぶりであった。チンクは、長い事チナツに対して見せていなかった本気の怒気を放ちながら彼の頬を引っ叩いた。

 

「貴様は、私を侮辱しているのか!?」

 

昔、チンクは理不尽な怒りを彼にぶつけていた。

それは、尊敬する人物が大切に思っている人間だからと言う嫉妬心からであった。

そして、彼女はその怒りは間違いだという事を今までの日々で理解した。

だからこそ思う。いま、この場で感じた怒りは正しい物だという事を。

 

「私が今までお前と共に過ごしてきたのは! 戦ってきたのは! こんな終わりを迎えるためじゃない! なのに貴様は……貴様は!!」

「これしかないだろ!? 根性論じゃどうにもなんないだろう!?」

 

勿論、彼女の言う事もチナツは理解していた。だが、それでも勝機が見えないこの戦いにせめて彼女だけでも助けたい。そう願うのもまた間違いではなかった。

だからこそ、チナツもまた自分の考えを曲げようとしなかった。

 

「私は諦めない! 絶対に!!」

「チンク!? よせ!!」

 

チンクは、柱の陰から飛び出し再び武器を構える。ソードスキルのモーションを取りつつもボス目掛けて突っ込んで行った。

 

「諦めんッ!!」

 

それを教えてくれたのは、他でもない彼との日々だから。彼女は、絶対に諦めない心を具現化するかのように突っ込んで行った。

 

「はぁああああああ!!!」

 

そして、そのスキルがインフィニット・ドラグーンの腹目掛けて炸裂した!

 

「……くそッ」

 

だが、彼女は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるだけであった。

当然だ、気持ち一つで倒せるようならばとっくに倒せているはずだからだ。インフィニット・ドラグーンは毛ほどのダメージも受けず、獲物を再発見した事により大きな咆哮を放つだけであった。

 

「チンク!!」

 

当然、見つかったとなれば攻撃が再開される。チナツは焦った様子でチンクの傍へと走り出す。

だが、そこである異変に気付く。

 

「なんだ?」

 

不意にドラグーンの動きが止まり、小刻み揺れていたのだ。先ほどチンクが攻撃した場所が弱点か何かだったのだろうかとも考えるが、その割にはダメージが一切通っていなかったためその考えを否定した。

 

「(ならなんだ?)」

 

しかし、彼は先ほど攻撃が当たった箇所に少しずつ罅が入っている事に気が付いた。

 

「ッ!? 一か八か!! チンク!!」

 

諦めかけていたチナツの心に再び火が付いた。その事を感じたチンクは力強くその言葉に答えた。

 

「任せろ!!」

「「うぉおおおおおおおおおおッ!!」」

 

その合図とともに、二人はソードスキルを発動させ、息のあったタイミングで同時に罅目掛けてスキルを放った!!

 

《――――――――――――――ッッ!!!!!!!》

 

その瞬間、初めてドラグーンが苦しそうに呻き声を発した。

相変わらず、HPバーに減りはあまり見られない。だが、その罅は完全に砕け散り中から大きな宝玉の姿が露わになっていた。その宝玉が見えると、それ以上は何もさせまいと言わんばかりにドラグーンは鋭い爪で攻撃を繰り出してきた。

二人は同時にその場から離れ、宝玉の正体を見極めようとした。

 

「なんだ、あれは?」

 

異常だった。その宝玉にはドラグーンとは別のHPバーが1本表示されていたのだ。ボスモンスターの武器を破壊出来る事は確かにあるが、それとは違う感じがしていた。

 

「ありゃりゃ。コアが露出しちゃってるじゃん?」

「なに?」

 

不意にマトメの声が彼らの耳に届いた。

 

「うわぁ、白けちゃうなぁ。あれ壊れちゃったら、あの玩具動かなくなるじゃん」

 

彼女は心底不服そうな表情を浮かべながらそうぼやいていた。その言葉を信じるのでれば、起死回生のチャンスだ。もし、彼女が通常のNPCならばチナツ達も素直にその言葉を信じていただろう。

だが、彼女は高度AIを持つNPCだ。それも質の悪い性格の。

 

「それでも、賭けるしかない」

 

このまま素直に戦い続けていても、勝機はない。それならば!

 

「いくぞ、はぁあああああああッ!!」

 

彼はめったに使う事のなかった、片手剣スキルヴォーパル・ストライクのモーションへと入る。鋭い突きの一撃は一見チナツ好みに見えるが、スキル後の硬直時間も長いため、彼は好んで使ってこなかったスキルだ。

だが、キリトが好んで使うだけあってこのスキルの一撃は優秀であった。

だが、その一撃は。

 

「あ、けど言い忘れてた。それってぇ……」

 

 

 

―すっごく、かったいんだよねぇ~―

 

 

 

彼女のつぶやきがチナツの耳に届いた時、すでに彼の剣は弾かれスキル後の硬直が発生していたのであった。

 

「―――――ッ!!!」

「チナツゥッ!!?」

 

急いでチンクがカバーに入ろうとするが、すでに遅い。次の瞬間、ドラグーンは大きな足で地面を思いっきり踏み、その衝撃で地響きが発生する。

 

「ッ!? 広範囲スタンだと!?」

 

そのスタンは彼らにとって致命的なタイミングであった。岩の竜は弧を描くようにぐるりと勢いよく体を回転させ、巨大な尻尾をチナツ目掛けて繰り出してきた!

 

「く、そッ!!」

 

スタン中の彼に避けるすべはなかった。

 

「がはぁッ――――!!?」

 

次の瞬間、彼のHPはあっという間に半分にまで吹き飛び、彼自身の体も宙へと吹き飛んでいった。

 

「(駄目だ……)」

 

吹き飛ばされた直後に見たのは落下するタイミングを狙っているかのように、口を大きく開くドラグーンの姿であった。

このSAOには当然空を飛ぶようなスキルはない。

 

「(ごめん、皆。千冬ねぇ……)」

 

彼は、本当に死を直感してしまい、目の前が真っ暗になってしまうのを感じるのであった。

 

 

 

 

 

同時刻・現実世界。

一夏の病室は騒然としていた。寝たままであるが、息を荒くしてひどく汗をかく一夏。心拍数も上昇しており、このままでは脱水の危険性もある。

しかし、こう言った状態のSAO被害者の大半はゲーム内で極度の緊迫状態にあるという事を表しており、殆どは脱水症などになる前に死を迎えているのであった。

いつからか世間ではこう言った状態の者を『死の前兆』と呼んでいた。

 

「何とか、何とかできないですか!!?」

 

鈴は思わず病院の人間に食って掛かっていた。しかし、どうする事も出来るはずがない。出来るのであればとっくにしているはずだ。

出来る事は、酷く汗をかき始めた一夏の汗を拭いてあげたり、バイタルチェックを続けたり、あるいは親族である千冬を呼ぶくらいだ。

 

「一夏……」

 

鈴は、必死になって考える。自分に出来る事を。

しかし、なにもなかった。何も出来なかった。どうして自分はここに居るのだろうと悔しささえ感じた。

そんな時だ。

 

「鳳さん。手を握ってあげて……」

「え?」

 

不意に、親しくなった看護師が鈴に声を掛けてきた。

 

「きっと、彼は今も必死に頑張っている。だから、あなたの想いも彼に届けるためにも手を握ってあげて?」

 

これはむしろ、一夏のためと言うよりも鈴のための助言であった。何も出来ない悔しさに彼女が押し潰れてしまわないようにと。

だが、今の鈴にはその言葉がありがたかった。何も出来ないと思っていたこんな自分であったが、する事が見つかったからだ。

彼女は、ゆっくりと、だがしっかりと一夏の右手を両手で握りしめる。

 

「がんばれ、がんばれ一夏」

 

彼はきっと自分がこんなに近くにいるだなんて知りもしないだろう。だが、それでも彼女は願う。自分の想いがほんの僅かでもいいから届く事を信じて。

 

「(私はここに居るから、最後まで絶対にいるから)」

 

それは祈りでもあった。両親の不仲で不安に満ちた自分に対する祈り。そして、一夏への祈り。

彼女は、それこそ命を掛けるような気持ちで祈り続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

「――――――?」

 

一瞬諦めかけたチナツであったが、不意に我に返り自分の置かれた状況に違和感を感じていた。

 

「(なんだ、これ?)」

 

信じられない事に、自分は宙に浮いて難を逃れていたのだ。だが、そんな事はシステム上不可能である。

しかし、一夏はそこで自分の右手の剣が天井に突き刺さり、それに掴まった状態である事に気が付いた。

無意識に生存本能が動いた……というよりも、まるで何かがそっと腕を押し出してくれた。そんな感覚を感じていた。

 

「(誰かが、俺に言ってるみたいだ)」

 

そう、諦めるなと。

 

「(チンクは? 良かった無事だ)」

 

なら、まだ自分は戦う意味がある。一夏は、再び闘争本能に火を付け敵を睨みつける。

そうだ、戦え!! まだ命運は!!

 

「うおおぉおおおお!!」

 

尽きていないのだから!!!

彼は勢いよく跳び、ドラグーンの頭上目掛けて剣を振りかざす。

 

《―――――――――――――!!!!!》

 

ドラグーンがその衝撃にうめき声を上げる。しかし、減ったHPゲージは微々たるもの。だが、そんな事はどうでもいい。今の狙いはダメージではなく、その衝撃でその場から離れる事。

そして!!

 

「チンクッ!! 行くぞ!!」

「ッ!!」

 

その彼の声で、チンクは何をすればいいのか阿吽の呼吸で理解した。

 

「来い、チナツ!!」

 

彼女は両手剣の刃ではなく面の部分を構えると、チナツが落ちてくる場所へと躍り出る。

そして、彼目掛けて思いっきりソードスキルをぶちかました!!

 

「いっけぇええ!! チナツーーーッ!!」

 

チナツはその面の部分を足場にして、まるで砲弾のように弱点である宝玉目掛けて刃を突き立てて突っ込んで行く。

 

「はあぁあああああああッ!!」

 

次第に刃にはソードスキル特有の発光が現れ、彼はそのまま先ほどとは比べ物にならない速度で真っ直ぐに進んでいった!!

鋭い金属音と衝撃波が辺りを覆う中、チナツは宝玉とぶつかり合っていた。

 

《―――――――――――ッ!!!!!!?》

 

怪物がうめき声を上げ、

 

「ぬぅううううううッ!!!」

 

チナツの苦しそうな声が辺りに響き、

 

「負けるな、チナツ!!」

 

チンクの叫びが辺りに響いた。

そして、そして―――。

 

「ああぁあああああああああああッ!!!」

《ッ!!?■■■■■ッ―――――――!!!!?》

 

今まで以上の苦しそうなうめき声が聞こえると同時に、彼はモンスターの背後へと転がり込んだ。

彼が通ったであろう後には、ぽっかりと空洞が開いていた。

 

「(どう……だ?)」

 

いくらまだ HPに余裕があるとはいえ、精神はもう限界であった。もうこれ以上は戦えそうにない。

だが、モンスターはピクリと動き出し始めていた。

 

「ッ!!?」

 

一瞬焦る、だが!

 

《―――――――――――ッッ!!!!》

 

次の瞬間、インフィニット・ドラグーンはズシンと倒れ込み、ガラスの砕けるエフェクトとともに消滅した。

と、同時に彼らの頭上に《Congratulations》の文字がでかでかと映し出される。

 

「……クリア……か」

 

喜びよりも、安堵感の方が勝っていた。彼らは、お互いの無事を確認するとその場にへたり込み深いため息を吐いた。

 

「生きた心地しなかったぜ」

「まったくだ」

 

そんな彼らの前に、ツカツカとマトメが歩いてくる。

 

「まさか、あの子を倒しちゃうなんてなぁ……」

「貴様ッ!!」

 

平然と彼らの前に現れた彼女に対して、チンクは殺意を覚えていた。例えNPCとは言えけじめは付けさせる。彼女はそう思いながら、ゆらりと立ち上がるが。

 

「うん♪ OK、OK!! 材料の確保は出来なかったけど、良いデータが取れてマトメさん! 大満足だよ~♪」

「ふ、ふざけおって!」

 

あっけらかんとしたその態度に、更にチンクは怒気を発する。

 

「おおっと、そんな怖い顔しないの! ちゃぁんと、ご褒美は置いておくから」

 

そう言うと、彼女は胸元から転移結晶を取り出す。豊満な胸から取り出すその仕草に、チンクは思わず固まる。

 

「チナツ、何を見ている!?」

「い、いや別に!?」

「い、今私の胸と比べただろう!!?」

「なんでそうなる!?」

 

チナツ的にはとんでもない言いがかりであった。だが、その隙を見逃がす彼女ではなかった。

 

「それじゃぁ、ばいび~♪」

「は!? しまった!!?」

 

消えていくマトメを追いかけようとするチンク。だが、時すでに遅く、彼女は消え去った後であった。

 

「むぐぁぁ!!」

「何やってんだか」

 

焦り、逃がした事を後悔するチンク。一方チナツは其処までの遺恨を持っていなかった。いくら高度AIのNPCとはいえ、所詮はNPC。例え、この場で斬っても再ポップするだけだろうからだ。

それよりも、とにかく今は帰りたかった。二人のギルドホームに……今の自分達の家に。

 

「と、帰る前にクエスト報酬しっかりと貰っておかないとな」

「む、そうだな」

 

いつの間にか、部屋の中央に宝箱が幾つかあった。彼らは疲れる体に鞭を打ちながら歩く。

 

「さて、さんざん苦労したのだ。さぞ、良い物が入ってるのだろうな」

「だと良いけどな」

 

 

 

 

その後、宝箱を開けた彼らを待っていたのは期待通りの強力な武器達であった。そう言う風にシステムが動いているのか、はたまた偶然か、クエストボスを倒した時点での彼らの武器と同種の物が入っており、二人はこの戦いは無駄ではなかったと胸を撫で下ろしていた。

そして、その中に入っていたのが―――。

 

「嘘だろ」

「【雪片】……か」

 

もしかしたらここから、チナツの、織斑一夏の、IS学園での日々の序章は始まっていたのかもしれない。

この後、扉が開きキリト達がなだれ込み一悶着があったり、他には色々あったりするのだが。それはまたの機会に持ち越そう。

ただチナツは去り際、なんとなく右手を眺めていた。あの時、どうして自分の手は動いていたのか。不思議で仕方なかった。

だが、その答えを彼は一生知る事はなかった。

 

 

 

『良かった、一夏……』

 

 

 

どこか遠く、だけど近い場所で誰かの安堵したつぶやきもまた、彼の耳までは届かない。

だが、彼は無意識にでも感じていたはずだ。その右手に微かに感じる温もりを―――。

 




IS学園にて

「一夏ぁッ!!」
「だ、だめですよぉ! 織斑先生!? 学園のISの無断使用だなんて!!?」
「いま病院から連絡があった!! 一夏の容体が!!」
「く、車の準備をすぐしますから~!」

「あ、織斑先生。弟さんの容体が落ち着いたと連絡が」

「……こほん。こんな時だからこそ落ち着かないとな。私は今日は早退させてもらいます。それでは……」
「(変わり身、早い……)」

うぉおおおおおおお!! 一夏ぁぁああッ!!

「……そうでもありませんでした(汗)」

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