織斑一夏はSAO生還者   作:明月誠

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紡がれた剣---チェイン・ブレード

ツッコミしたいと思うけど、細かい事は良いんですよ!!


第三十話・紡がれた剣

「ば、ばばばばば馬鹿じゃないの!! アンタ!!?」

『あらん♪ 結構重要な事なんだけど?』

 

鈴は一瞬、周りの状況を忘れ思わず叫んでしまった。

当然だ。この非常時に何故好きな相手の性癖を知らなければいけないのだろうか?

 

「なぁ、鈴?」

「な、なによ一夏!? 言っとくけど答える必要なんて……」

「Mって、なんだ? 何かのIS用語か何かか?」

「あんたは知らなくて良い事よ!!」

「ぐふっ!!?」

 

彼は疑問に思った事聞いただけなのに殴られてしまった。理不尽な事であったが、ある意味鈴のやさしさとも言えなくもなかった。

織斑一夏。SAO内では一切恋愛ごとが発展するような事はなく、またSAO帰還後も勉強とリハビリばかりだった所為かそう言った色沙汰事に疎い少年であった。

 

『うふふ。まぁ、冗談はこれくらいにしましょうか。あんまりからかいすぎると、後が怖いもの』

 

それはそうだろう。特に、訓練機で無茶をしている箒は怖い。こう、物理的に。

 

『まぁ、変な言い方をすれば……織斑君、すんごく痛いの我慢できるかしら?』

「やるさ。簪が必要って言うのなら必要な事なんだろう?」

 

それは即答であった。先程、不慣れな痛みを伴いながらの戦いの結果、剣先を鈍らせてしまった事への意地もあったかもしれない。

しかし、一夏はクシナ……簪の問い掛けに迷うことなく答えたのだ。

 

『うん。いい返事。ありがとう、信じてくれて』

 

そして、簪も嬉しかった。

憧れだった彼が自分を信頼してここまで戦ってくれて、更に今も信じてくれているのだから。だからこそ、例え言いにくい作戦だったとしても勇気を持って言えるのだ。

 

『良い、織斑君? もうあなたも分かっているだろうけど、あのISは完全にこちらの動きを学習している。はっきり言って普通に戦っても当たらないわ』

「あぁ。それは分かっている」

 

必要なのは、相手の学習した動きを上回る動き。しかし、漫画やアニメではないのだ。

『動きを読まれたのなら、更に早い動きをするまで』等という事は簡単には出来ない……。

 

『なら簡単よ。相手の予測以上の速さを出せばいいだけだわ』

 

……簡単には出来ないはずだ。

 

「けど、どうするんだ? 瞬時加速程度じゃ、対応されるぞ?」

 

すでに先ほどの攻防で瞬時加速を使用した動きは学習されてしまっている。単純な加速では無人機を斬る事は叶わないだろう。

 

『勿論、そのために二人の連携が必要だもの』

 

そう、確かに彼女は二人の協力プレイと言っていた。だからこそ、箒とセシリアが時間を稼いでいるのだ。

 

『いい? それはね―――――』

 

その内容を説明していく簪。だが、次第に鈴の顔色は怒気へと染まっていく。あまりにも、一夏に負担がかかりすぎる内容だったからだ。

 

「ふっざけんじゃないわよ。冗談でも笑えないわ」

『そうね、言っておいて自分を殴りたくなるわ。けど、もう本当にこれが最後のチャンス。代案を考えている余裕はないの』

 

その内容は簪にとっても受け入れがたい物だ。それでも思いついてしまった。

言わない選択肢だってもちろんあった。

嫌われるかもしれない、罵倒されるかもしれない。

そんな恐怖と戦いながらの提案であった。

そんな彼女の想いをくみ取ったのだろう、一夏は徐に鈴の前へと出ながら言う。

 

「分かった。鈴、始めよう」

「はぁ!? あんた正気なの!?」

『言っておいてなんだけど、本当にいいの? 織斑君……』

「あぁ。時間もない。いくぞ!」

 

この声色は何を言っても無駄だ。鈴は、先程からの一夏との会話の中でそれを理解していたため、溜息を洩らすしかなかった。

 

「(ったく、なによ。もう)」

 

ここまで来ると、呆れを通り越してむしろ感心するというものだ。そんな事を考えながら鈴は先ほど簪から説明された作戦を実行に移すべく、衝撃砲のチャージへと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

一方、箒達も一夏達の動きを察していた。

 

「箒さん! 一夏さん達が動きましたわ!!」

「分かっている!!」

 

一夏達の時間稼ぎを始めて、僅か数分。既に箒の限界は近かった。

 

「(いくら専用機を使っているからと言って、一夏はこんな相手をずっとしていたのか!!)」

 

やはり自分では、倒しきる事は出来ない。そう感じた箒はせめてとある考えをする。

 

「(ならばせめて、一夏が確実に決めれるように!!)」

 

その決意と共に、箒は飛び出す!

 

「箒さん!?」

「セシリア、援護は任せる!!」

 

箒は一直線に無人機へと突っ込む。無論、敵も黙ってはいない。すぐさま、腕に装着しているビームを箒目掛けて放とうとするが。

 

「させませんわ!!」

 

セシリアの射撃により腕が弾かれ防がれてしまう。その隙を箒は狙った!!

 

「でりゃぁあああ!!」

 

箒の突き立てるその刃はザクリと無人機の右肩の付け根へと突き刺さる!!

 

「せめて、腕一本はもらうぞ……ッ!!」

 

箒はそのまま力を入れ、腕を斬りおとそうとする。しかし!!

 

「箒さん!!」

「ッ!? うわぁぁあッ!!?」

 

無人機は剣が突き刺さったまま体を勢い良く旋回させ、箒を弾いた。そしてそのまま勢いを殺さずに箒を超スピードで蹴り飛ばしたのであった。

箒はそのまま勢いよく壁へと叩きつけられ、そのまま箒のISは活動不能状態へと陥ってしまった。

 

「(ぐ……腕一本すら取れないのか!!)」

 

本当に時間稼ぎで手いっぱい。箒は、その事を実感して苦虫を噛みしめる思いであった。

だが、その心の中に絶望は不思議となかった。

 

「ッ!!」

 

そう、何故ならば。

 

「(どうやら、最低限の働きは出来たようだ!)」

 

一夏という、光を見たのだから!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にいいわけ!?」

「いいからしてくれ!! 箒達ももうもたない!!」

「分かったわよ!! どうなっても知らないんだからね!?」

 

キツイ事言っているが、鈴は一夏を心から心配していた。ISは絶対防御がある……だが、名前の通り絶対的に安全とは言えない。

一般のミーハーならともかく、ISを真に学ぶ者達にとってそれは常識であった。

 

「(なのに、どうしてコイツはッ!!)」

 

人も気も知らないで、どうして覚悟を持てるのだろうか?

 

「(ううん。違う。本当は分かってる)」

 

自分の知らないSAOと言う世界で彼が学び、体験した日々。それが彼を成長させた。

そんな事、『認めない』と何度も繰り返してきたが、本当は分かっていた。

だけど、認められなかった。認めたくなかった。

そうしないと、本当に悪いのは何なのかが分かってしまうから。

そう、本当に悪いのは……。

 

「(そうよ。本当は分かってたわよ。本当に悪いのは、一夏でも、SAOでもない……)」

 

本当に悪いのは、そう―――。

 

『衝撃砲、規定数値に到達!! 今よ、鈴ちゃん!!』

「―――ッ!!」

 

その言葉を聞いた瞬間、鈴は今までの思考を一気に捨て思考をクリアにした!!

 

「いくわよ、一夏!!」

「おう!!」

 

次の瞬間、鈴の機体の両肩に搭載されている龍砲から衝撃砲が放たれ、一夏の背中に直撃した!

 

「うぉお!!?」

 

その衝撃に一夏は意識が飛びそうになるが、しっかりと意識を保たせようとする。

そして、一夏もまた瞬時加速を発動させると同時に零落白夜をフルパワーで発動させた!

 

「いっくぜぇええええ!!!」

 

その零落白夜のエネルギーはすさまじく、刀身から光が溢れ出していた。

まるで白式を、一夏を覆うように溢れる光は、彼自身が光輝く様でもあった。

彼はその光に包まれると、一気に加速して剣を振りかざす!!

 

「はぁぁああああ!!!」

 

その刹那、彼は思い出していた。自分の強さの憧れの理由を。

千冬は嘗てモンド・グロッソ二連覇という栄光を犠牲にしてまで誘拐された自分を救ってくれた。

キリトは未だデスゲームという世界に誰もが順応しきれていなかった頃に、自分達を救ってくれた。

あの二人に追いつきたい。今は未熟で、一人では何も出来ない自分だが―――!!

 

「(守りたいものを、守れるようになる!!)」

 

そして、その剣が振り下ろされる……だが!

 

「――――――ッ!!?」

『そんな!!?』

「一夏さん!?」

「一夏!?」

 

一夏の振りかざそうとした右腕を敵はがっしりと掴み、その攻撃は防がれてしまった。

策は失敗したのだ。

 

《■■■■■―――ッ!!!》

 

無人機は勝利の雄たけびを上げるかのように機械音を放ち、一夏の腕を掴んだまま、もう片方の腕に装備されてある銃口を一夏へと向ける。

 

「させませんわッ!!」

 

次の瞬間、一夏の真横をレーザーが飛び構えていた腕を弾いた。しかしそれだけだ。すぐに再度構えを取ろうとする無人機。

しかし一夏の目には。

 

 

 

なにか、光る物が見えたのだ。

 

 

 

そのなにかが何なのかを理解するよりも早く、一夏は空いていた片方の手を伸ばした。

それは剣であった。先ほど箒が突き刺したまま放置されていた剣。

一夏はその剣を掴もうと手を伸ばし始めていたのだ。

 

 

「(この剣は―――!!)」

 

 

簪が支えてくれて!

 

 

鈴が背中を押してくれて!

 

 

セシリアが守ってくれて!

 

 

そして、箒が残してくれた!

 

 

皆の想いが紡がれた剣!!

 

「(このラストチャンス!! 紡がれた剣―――チェイン・ブレード!! 必ず無駄にはしない!!)」

 

その光景を、彼を想う少女達はただ見守っていた。

 

「織斑君!!」

 

簪も。

 

「一夏!!」

 

鈴も。

 

「一夏さん!!」

 

セシリアも。

そして―――

 

「いけ!! 一夏ッ!!」

 

箒も。

 

その彼女達の想いに答えるべく一夏は!!

 

「う、ぉおおおおおおお!!!」

 

剣を手にした!!

一夏はそのまま強引に剣を振り落し、無人機の右肩を切り裂く!

 

《■■■■■―――――!!!》

 

右腕の喪失により小規模の爆発を起こしながら、無人機は雄たけびを上げるような機械音を放ち、一夏の右腕を掴んでいた手を放ち残った腕の銃口を一夏に向ける。

だが、その銃口からビームが放たれるよりも早く一夏の雪片が銃口を貫いた!!

 

《■■■■■―――――!!?》

 

その衝撃で爆発を起こしてしまい残っていた腕も吹き飛んでしまう。後退する無人機、だが一夏はその爆発程度では怯まない。何故ならば、彼の後ろには守るべき仲間達がいるのだから。

 

「はぁっぁああああああ!!!」

 

そのまま彼は、両手の剣を流れる様に斬りつけた。

 

斬る!! 斬る!! 斬る!!

 

流れる様に切り裂く事によってできるその残像はキラキラと輝く流星の様でもあった。

スターバースト・ストリーム

かつて、75層以降の彼が……キリトが何度も愛用した二刀流スキル奥義。

一夏自身、意識してこの技を繰り出した訳ではない。そして、技を放ち続けている今も、その事に気付いてはいなかった。

 

「ぉおおおおおおおおッ!!」

 

元よりどうでも良かった。自分が何を使っているのか、どんな技を真似しているのかも。

ただ……。

自分を支えてここまで連れて来てくれた仲間達の想いに応えれば、今の一夏は良かったのだ。

その想いと共に、彼の二本の剣は無人機の腹部へと突き刺さり貫通した!!そのまま彼は両手を思いっきり広げるように、内側から敵を切り裂いてく!!

 

「ぬぅううううううああああッ!!」

≪■■■■■■――――――ッ!!!?≫

 

彼が両手の剣に重みを感じなくなった瞬間、無人機は上下真っ二つに分かれ行き場のないエネルギーが大爆発を起こす。

 

「――――ぐッ!!?」

 

その衝撃に耐えきれるだけの力は一夏にはもはやなかった。彼は吹き飛ばされ、ゴロゴロと転がっていった。

何とか止まった彼は、肩で息をしながら力なく顔を上げる。

 

「(勝てた……)」

 

何とか自分は勝てた。誰か一人でも欠けていたら自分は勝つことができなかったかもしれない。

だけど、今自分は生きている。自分は勝ったのだ、守れたのだ。皆を。

 

「一夏さん!!」

「一夏ッ!!」

「ちょっと、大丈夫なの一夏!!?」

『―ま――よ――く、ん!!?』

「(ん?)」

 

そこでふと簪の声がノイズまみれでほとんど聞こえない事に一夏は気付いた。

 

「(さっきの爆発の影響か?……また後で礼を言わないとな)」

 

一夏は短絡的にそう考えていた。正直今の一夏はしんどかったのだ。簪にすぐにでも作戦成功の旨を伝えたかったが、まぁこちら側は恐らく見ることが出来るだろうから気にしなくてもいいだろう。

それよりもまずは、鈴たちと勝利を喜びたい。箒の様子も気になっていた。

そう思いながら、彼は何と体を起こし、視線を声が聞こえた方へと向ける。そこには、安堵した様子でこちらに来る少女達がいた。

 

「(良かった、箒は無事か……)」

 

箒もセシリアに支えながら何とかこちらに来ようとしていた。

一夏はこの時本当に安心していた。そして、安心は油断に繋がる。

一夏は確かに油断していた。いつもなら聞き逃さなかったはずだ。ノイズ混じりでも必死に呼びかける簪の声を―――。

 

「ッ!!? 一夏さん!!?」

「後ろよ!!」

「なにッ!!?」

 

一夏は急いで爆発によって生じた煙のほうを向く。そこには上半身だけが残った無人機が人の口に当たる部分を開き光らせている姿があった。

 

「くそッ!!」

 

一夏は急いで止めを刺すべく突っ込もうとする!!

 

「うぉおおおおおおお!!!!」

 

だが、彼が最後に見たのはその口から放たれる光に包まれる自分であった。

そこで彼の意識は途切る。最後に感じたのは自分の手に握ってある剣が離れていく感触であった。

 

 




スター、バースト、ストリームか。

ふふ、やはり彼はキリト君同様に面白い。あるいは、キリト君ではなく彼が二刀流スキルを獲得した未来もあったのかな。

……さて、そろそろ私は御暇しよう。あまり長いをすると彼女に見つかってしまうからね。

チナツ君、君の活躍を期待しているよ……。




「だから、さっきからなんなの? このメール!?」
「会長、扉のロック解除されました」
「へ? あ、そう?(汗)」

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