織斑一夏はSAO生還者   作:明月誠

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今回は、えらい間が空いたなぁ。申し訳ないです。

特に理由は書かないけど、気楽に待ってもらえたら幸いです。




第三十二話・アイツの休日。コイツの休日。

「(誰もいないな?)」

 

箒はIS学園の図書館にて、いくつかの本を手に持ちながらキョロキョロと周りを見渡しながらカウンターまで向かっていた。

あの無人機戦から早一週間。あんな事があったというのに不気味なほどに平穏な日々が過ぎていた。

 

とは言え、この一週間なにもなかったわけではなかった。一夏のALOプレイを賭けた学力診断テストがあった。無人機戦時の負傷もあり、一夏は丸一日勉強が出来ない日ができてしまったが、箒、セシリア、本音、そして仲直りした鈴の協力の元、何とか全国平均点をギリギリとることに成功した。因みに簪は自身の専用機完成に向けて再度動き始めたため協力は出来なかった。

(もっとも、IS学園の勉強は進んでいるし、ISの専門知識の診断テストまでは受けてないので、今後も勉強は必須なのだが)

 

そんな事があった次の休みの日、箒は一人IS学園内の図書館を訪れていた。

現在箒は自室謹慎こそ解除されたが、未だに訓練機使用の許可は下りていなかった。そんな彼女であるが、ある事を思いつき、この場所を訪れていたのだ。

キョロキョロ周りを見渡す彼女はまるで万引き前の少女のようにも見えたが、決してそんな事はない。万が一にも友人達に見られるわけにはいかなかったのだ。

まぁ、自分の友人達はこんな場所を訪れなさそうではあるが、簪などは来そうなので要注意であった。普段ならともかく、クシナモードだとからかわれるのは確定しているように感じたからだ。

 

「すみません、これを借りたいのですが」

 

箒は、知り合いに見つかることなくカウンターに到着した。ほっと息を吐きながら貸し出しの申請を行い始めた。

 

「ずいぶんと多いな。貸出期間は一週間だが構わないな?」

「構いません」

 

随分と偉そうな係の人だな。そう思いつつも周りを見渡す。最後まで油断は出来ないのだ。

 

「それと、いらんおせっかいかもしれんが、他人と話すときは目を合わせろ」

「あ、すみませ……」

 

そう言われ、相手の顔を見た瞬間箒は固まった。

 

「しかし、IS競技戦の教本か。どうにも、戦法関連の本が多いのだな」

「ち、千冬さん!!?」

「織斑先生だ」

 

そこには、我らの織斑千冬がデンと構えていた。道理で誰も遠巻きに見るだけで本を借りようとしないわけだ。

 

「な、なぜここに!?」

「担当の教員が留守で、替わりだ。それと、図書館では静かにしろ」

「あ、すみません……」

 

当たり前の事を千冬に言われるのに何か違和感を覚えつつも、素直に謝罪をする箒であった。

 

「あとは、近接戦関連の本が多いな」

「そ、それは……」

 

千冬はじろじろ……という訳ではないが手続きをしつつも、どういった本を借りに来ているかを見ていた。

 

「いや、別に詮索しようという訳ではない。だが、何か悩みがあるのなら聞くが?」

 

これでも教師だからな、と言い千冬は箒にそう尋ねた。箒としても、知られたくない対象に千冬は入っていなかった。そのためこれも自身のためになるかと思い口を開く。

 

「前回の事件の時、簪は的確に一夏のサポートをしていました」

「…………」

 

おもむろに口を開いた箒の話に千冬は黙って耳を傾けた。

 

「それを見て、私は少し悔しかったんです。もし、セシリアとの戦いの時、私がもっと的確に一夏のサポートができていれば……と」

「あれは、アイツの馬鹿さ加減が原因の敗退の様も気がするが」

「ですが、もっと私がしっかりサポートできていれば試合はまだ続いていた。そうすれば一夏の勝利も可能だったはずです」

 

しかし、箒の考えもあながち間違えではなかったため千冬は特に反論する事なく話を聞き続けていた。

 

「そ、それと……ですね」

「なんだ?」

「き、謹慎中に自室で見ていた過去の世界大会を見ていると……その、欲がでてきまして……」

「欲?」

 

映像を見てみると、試合中の選手たちは一人で試合に挑んでいるように見える。だが、実際には違う。選手たちを支える者は多くいる。機体の整備班、そして実際の試合中にもサポートするセコンド。

エネルギー残量の報告だけとは言えセシリア戦で箒は一夏のオペレートをした。

そして最近ではあの事を思い出すたびに、ある考えが彼女の中では浮上するのだ。

一つは、先程話題に上がった通りもし簪の様に知識を持ってオペレートをできていればと言う後悔。

もう一つは……。

 

「モンド・グロッソに出場する一夏のセコンドにで入る事を想像したか?」

「も、勿論一夏の自分の願望を押し付ける気はありません! で、ですが、もしもそんな未来が訪れるのであるのならと備えとして……」

「別に否定している訳じゃない。そう動揺するな」

「は、はい」

 

しかし、と千冬は考える。それは難しい未来だろう。そもそも、IS操縦者は女性である事が大前提だ。必然的に出場者は女性に限る。

確かに一夏は今IS学園に在籍しているが、それも特例だ。

だが、これは良い傾向のようにも見えた。

入学当初の彼女はどこか危うい雰囲気を醸し出していた。仮にも千冬も教師だ。それぐらいの判別はつく。それが、変わった理由と来れば……。

 

「(やれやれ、一々弟の成長を間接的に理解しないといけないとはな)」

 

千冬はどこか寂しい気持ちに晒されるのであった。

 

「千冬さん?」

「いや、何でもない。ほら、貸出許可を通したぞ」

 

千冬はそう言うと、教本を箒へと渡すのであった。

 

「質問事項があるのなら私の所に来ると良い。少なくとも、今日一日はココの係だからな」

「ありがとうございます」

 

しかし、千冬はふとある事が気になり箒に尋ね始めた。

 

「そう言えば、一夏の奴はどうしている? さっそくゲームでもしているのか?」

「いえ、今日は鈴を連れて旧友に会いに行くと言っていました。千冬さんの方が詳しいのでは?」

「……あぁ、アイツか」

 

一夏の病院で何度か会った男子を千冬は思い浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

「しっかし、まさか鈴が日本にこんなに早く帰ってくるなんてなー」

「なによ、私がいちゃ悪いの?」

「いや、感心してるだけだっての!」

「はは、こうしてるとなんか中学時代に戻ったみたいだよな」

「なんで、一夏はそんなに呑気なんだよ?」

「割と昔からこんなもんでしょ?」

「……それもそうだよな」

「なんだそれ、酷いな!?」

 

ここは一夏の友人、五反田弾の家である。食堂を経営している家で、一夏もかつては度々訪れていた。

 

「それにしても、鈴が一夏と仲直りできたなんてなー」

「うっさいわね、色々あったのよ」

 

一夏と弾はそれなりの頻度で連絡しあっていた。その中で、鈴が日本に戻ってきたと聞いた時は動揺した。彼は、鈴のVRMMO嫌いを知っていたからだ。

 

「で? やっぱり鈴もALOするのかよ?」

「……そんなに簡単に気持ちの整理はつかないわよ。せっかく誘ってくれた一夏には悪いけどね」

 

例え自分の心を偽るためとは言え、ずっとVR技術を毛嫌いしてきたのだ。それは仕方のない事であった。

 

「別に無理やりして欲しいわけじゃない。気が向いたらでいいさ」

「(なんであっさり引くのよ)」

 

気を使ってくれるのは嬉しい。しかし、あっさりと引く一夏に若干イラッとするのも事実であった。乙女心は複雑だ。

 

「そう言えば、弾ってALOとかはしてないの?」

 

現在、VRMMOと言うジャンルはとてつもないスピードで普及している。中には否定的な世論も多くあるが、逆に言うのであればそう言った意見が出るほど世間の関心が強いのだ。

 

「あ~、その、だな……」

 

そんな質問を投げかけられた弾であったが、急に言いよどみ始めていた。

 

「? どうしたんだよ、弾?」

「悪い!! 一夏!!」

 

弾は勢い良くパンと両手を叩き、頭を下げた。

 

「きゅ、急になんだよ!?」

 

一夏は当然目を白黒させる。理解が追いつかなかった。

 

「俺、実は今別のVRMMOやっててよ!!」

「お、おう」

 

その言葉に一夏は少し残念に思う。しかし、それも仕方のない事と簡単に割り切れた。デスゲームのような本当に命懸けの物ではない。所詮ゲームなんだ。別に同じゲームをしてないから彼とはもう友達じゃないなんて事は一夏にとってはあり得ないから。

 

「コンバートはしたくないからさ、あれだったら新規でALOに……」

「いや、そこまでは良いって。言い方からしてまだ始めたばっかりなんだろ? もっと、余裕ができてからで良いぜ」

「おぉ、心の友よー!!」

 

一夏の言葉に感激する弾。それを見て鈴は思うのであった。

 

「(うわ、うっざ)」

 

一々リアクションがオーバーなのだ、弾と言う男は。所謂お調子者である。

そんな話をしていると、バンっと彼の部屋の扉が勢いよく開くのであった。

 

「ちょっと、お兄―! もう昼ご飯の時間なんだから、さっさと降りて…………」

 

そこには一人の少女がいた。ドアを蹴り飛ばしたのか若干右足が上がっていた。

彼女の名前は、五弾田蘭。弾の一つ下の妹であり自宅にいるためか、かなりラフな格好をしていた。

彼女は一夏達の姿を見ると固まってしまっていた。

 

「よぉ、蘭。久しぶり」

「あら、蘭じゃない」

「い、一夏さん!!?……と、鈴さん」

「なんで、私の名前だけトーンが下がるのよ」

 

彼女もまた一夏に心を奪われた乙女であった。もっとも、一夏の前では少し猫を被るため一夏本人からは心を開いてもらえてないと思われている哀れな少女だ。

彼女は思い人がいるとは露知らず、はしたない行動を見せてしまったと羞恥心で顔を真っ赤にしていた。

 

「!!!」

「ヒッ!?」

 

その怒りの対象は兄へと移る。彼女は兄をおもいっきり睨みつけるのであった。

 

「(どうして教えなかったのよ!!)」

「(あ、あれ言ってなかったっけ!?)」

 

彼女は兄への抗議を済ませると、シナを作りながら一夏に話掛ける。

 

「あ、あの一夏さんもお昼間ですよね? 良かったらどうですか?……あ、鈴さんも」

「お、良いのか? 弾の家の飯は数年ぶりだな~」

「人をおまけみたいに言わないでよ!」

 

とは言え、逆の立場なら同じ扱いをしてしまいそうなので強くは言えない鈴であった。

 

 

 

 

 

 

 

「ですので、私がIS学園に入学した暁には一夏さんにぜひご指導を!!」

「お、おう。けど、鈴の方が……」

「い、いえ! 一夏さんが良いんです!!」

「そ、そうか?」

 

昼食を皆で仲良くしている中、一夏はIS学園での生活の話をしていた。

早い話が、一夏のハーレム学園生活なのだが、一夏自身は当然自覚がない。弾は、羨ましさのあまり醤油とソースを間違え、そして蘭は青ざめた。

このままでは出遅れると。

気が付いた時には彼女はIS学園への受験を決意して、一夏に宣言していた。

 

「(なるほど、同性の鈴相手じゃライバル心が出るって事か。さっそく燃えているな、蘭)」

 

もっとも、一夏は相変わらず的外れな考えをしていたが。

 

「けど、そうなるのと残念だな」

「え?どうしてですか?」

「いや、蘭の学校ってエスカレーター式だっただろ?受験も成績が良いなら必要ないし、もし蘭が良かったらALOに誘おうと思っていたんだけど……」

「―――ッ!!?」

 

その言葉に蘭は戸惑う。今更出した言葉を飲み込めない。しかし、どちらが良いかと言われれば。どちらも捨てがたい状況だ。

もっとも……。

 

「頑張れよ、蘭! 俺達はIS学園で待ってるからな!!」

「は、はいぃ……」

 

既に、受験一択な状況であったが。

 

「(早まるから、選択肢がなくなってるじゃない。馬鹿ね)」

 

自爆した蘭を見て鈴は呆れるのであった。

 

「(って言うか、蘭~。お兄ちゃんには進路の相談は無しか~?)」

 

そして、シスコンが入っている弾は妹の独断の決意に涙するのであった。いと憐れ。

 

「そう言えば、弾?」

「なんだよ~」

「お前って、何のVRMMOをしているんだ?」

 

一夏は、不意に疑問に思っている事を話題の一つとして上げた。弾も別に隠す必要性を感じなかった事もありあっけらかんと答えるのであった。

 

「GGO、ガンゲイル・オンラインさ。実はさ、プレイ初日にすっげープレイヤーに助けられてさ!!」

「GGOって、お前大丈夫なのかよ?」

「ああ、別に重度の廃人プレイヤーと違ってあれで食っていこうとか考えてねーよ。心配すんな」

「蘭、兄貴に何か有ったらすぐに伝えてくれ」

「任せて下さい!!」

「信用ねえな、オイ!!」

 

この時、一夏はまだ知らなかった。自分の相棒が、そして戦友がGGOというVRMMOと深く関わる事になるのは。

しかし、それは彼の物語ではない。

それはまた、別の……彼女達の物語なのだ。

 

「けど、まあ。すごいプレイヤーに憧れるって気持ちは分かるな。俺もSAOでさ……」

 

今はただ、友人と集まれた事に感謝しながら一夏は交流を楽しむのであった。

 

 




GGO、それは最もハードなVRMMOである。

「うわぁあああああ!!?」

そして、今ここに友人とは違い平凡な青年がログインした。

「なんだよここ!? 人もモンスターも滅茶苦茶だ!!」

彼に待ち受けるは数々の困難! PK集団、バイオモンスター。しかし、彼は出会ってしまう。
この殺伐とした世界で、希望と言う名の存在に―――。

「ふぅ、ビギナーがこんなところ来るんじゃねぇよ」
「あ、アンタは一体……」
「俺の名は闇風。成金野郎に負けた哀れなプレイヤーさ」

GGO・DAN・STORY

始める予定はない。

「お前の事が好きだ!! チンク!!」
「すまんな。リアルでも、ネットでも同一で好きな奴がいるんだ」

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