織斑一夏はSAO生還者   作:明月誠

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気が付けば一か月か……。

色んな事があった。七次元先の嫁と結婚したり、七次元先の世界を嫁と一緒に救ったり、嫁を本来の世界に返したり。

皆にも分ってほしい。娯楽よりも優先すべきことがあるのだと…………。



嘘です。普通にリアルが忙しい状況が続いています。交代制の担当を連続で俺とか馬鹿じゃないの? 俺ならできるとかヘラヘラ笑いながら……っと、いけない。ここは愚痴を言う場所じゃありませんね。すみません。


まぁ、チマチマ続き書いてますので気長に待ってもらえたら幸いです。


第三十三話・妖精の世界へ(ALO編)

※運営よりのお知らせとお詫び

プレイヤーの皆様、いつもアルヴヘイム・オンラインをプレイして頂きありがとうございます。

プレイヤーの皆様に、システムの不具合のお知らせと、お詫びを申し上げます。

この度、一部のプレイヤーがログインする際、セーブポイントとは全く別の場所へと転送されてしまうシステムの不具合が発生していました。

既に、不具合は改善されていますが、プレイヤーの皆様には多大なご迷惑をお掛けした事を深くお詫びいたします。

今後は、このような事がない様にスタッフ一同徹底していきますので、今後もVRMMO・アルヴヘイム・オンラインのご利用をよろしくお願い致します。

 

 

 

 

このお知らせの通り、セーブポイントから離れた場所へと転送されたプレイヤーは本当にごく僅かであった。殆どのプレイヤーは笑い話で済ませていた。

しかし、誰も知らなかった。この時、ALO初回プレイのビギナーが一人、この不具合に巻き込まれていた事を……。

 

 

 

 

 

「ハァッ! ハァッ!!」

「リーファさん!! 追跡してくるプレイヤーが8名!? このままだと追いつかれます!!」

「分かってる!! ユイちゃん、しっかり掴まってて!!」

 

ここは、ALO内の中立地帯ジャングルエリア。リーファはユイと共に何かから逃げていた。

そもそも、今日は、かつてSAOをともに駆け巡った仲間の一人がようやくこの世界へとやってくる……つまりは、ALOに初ログインする日であった。そのため、ALO内にあるエギルの店へと仲間達が集まる予定だった。

 

リーファは兄であるキリトと共にログインして先ほどまで一緒にいた。しかし、彼はその仲間を迎えに行くため一人スプリガン領へと向かったのだ。

ユイはその時、リーファと一緒に先にエギルの店へと行くことになっていたのだが……。

 

「ごめんね、ユイちゃん。私なんかと一緒に来た所為で、怖い思いを」

「いえ! それよりも、もうすぐ追いつかれますよ!?」

「はぁ、いつまでも逃げてられないか」

 

リーファは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 

「こうなったら!」

 

そう言うと、リーファは腰に掛けてる剣を抜き、その場に止まりクルリと反転するのであった。

 

「返り討ちにしてあげるわ!」

「だ、駄目ですリーファさん!? 敵のプレイヤースキルは高レベルです! いくらリーファさんでも一人じゃ!?」

「大丈夫、ユイちゃんは茂みに隠れてて!」

「リーファさん!?」

 

リーファは強引にユイを隠すとその場で構える。次第に、プレイヤー達の近づいてくる音は大きくなっていった。そして……。

 

「は! もう鬼ごっこはおしまいかよ!」

「へぇ! シルフの女!! しかもレアアバター持ちだぜ!!」

「今日は幸先が良いな!!」

「ちげぇねえ!」

「ッ!? サラマンダー!?」

 

そこには目立つ赤い髪を持つ男性のプレイヤーがいた。彼らはサラマンダーと呼ばれる種族である。

ALOには全部で9つの種族がある。サラマンダー、ウンディーネ、シルフ、ノーム、インプ、スプリガン、ケットシー、レプラコーン、プーカ。

プレイヤーは必ずこの種族の中から一つ選択してこのゲームをプレイする事になり、種族にはそれぞれ特化した性質、或は特異な魔法がある。

更に言うのであれば、殆どのプレイヤーのアバターは、その種族の特徴を持っている事が多い。サラマンダーなら真っ赤な髪、シルフなら緑の髪、ケットシーならば獣耳が生えている……等である。

しかし、例外はあり、必ずしも種族の特徴を持つアバターを誰もが持つという訳ではない。

現にリーファはシルフ族でありながら金髪の髪を持っていた。それらはレアアバターと呼ばれており、一部のプレイヤー間では高値で取引をされている例だってあった。

そして、時にはPKの対象になる時だってある。

 

「ひゅ~、ラッキー!! こりゃ、仲間内で自慢できるな。レアアバター持ちをKILLできたってよ!!」

「ばっか、止めを刺すのは俺だって!!」

 

ここはSAOではない。デスゲームではない。だからこと、ヒールを演じる事だって悪い事ではない。兄だってそう言っていた。だが……。

 

「黙ってやられるかどうかは別よ……」

「おいおい、やる気かよ。この人数を一人で?」

「勝気の強い姉ちゃんだな!!」

「―――ッ!! うるさいわね、貴方達もどうしてこんな事をするの!? 対人がしたいなら、デュエル競技場にでも行けばいいでしょ!? もう、グランドクエストは無いのよ!?」

 

グランドクストとは、かつてこのALOに実装されていた最終クエストである。かつてのALOは種族間競争を前提としたゲームであり、その大きな要因の一つとして存在していたのがグランドクエストである。

グランドクエストは高難易度であり、一つの種族が全体で立ち向かってもクリアが出来ないものであった。そのため、他種族を踏み台にしてもクリアしようとする姿勢が見られるようにいつしかなったのだ。とりわけサラマンダーはその傾向が強く、一度シルフの領主をPKしてシルフ領からかなりの財を奪った過去だってある。

しかし、それももう昔の話。このALOは元々レクトの子会社レクト・プログレスによって運営されていた。しかし、レクト・プログレスはとある事情により解散。現在は親会社によって運営されている。また、その際に色々とプレイヤーの要望に応えシステムの一部変更が行われていた。

 

細かな点は色々あるが、大きな点と言えば他VRMMO同様のコンバートシステム、ソードスキルの導入、時間制限のあったフライト時間の解除。そして、グランドクエストの廃止。

一時はアインクラッドの導入も検討されていたが、レクトは会社としても大きくVR分野のみの会社ではないため冒険は出来なかったようで見送られたのであった。

 

「はっ! それがどうしたよ!!」

「グランドクエストなんて関係ねぇよ。ただ、楽しいからしてるだけだっつの」

 

だが、グランドクエストが廃止になったとはいえ、このゲームの種族抗争が全くなくなったという訳ではない。確かに、コンバートシステムの導入もあり、他種族混合のパーティは増えたが、このゲームの基本スタイルは同種族でのゲーム攻略であった。

しかし、どうやら目の前のプレイヤー達は単純なPKパーティらしい。SAOでは他プレイヤーを傷つければオレンジカーソル持ちのプレイヤーになってしまうペナルティがあるが、このゲームでは特に目立ったペナルティもないためPKはそれなりに多かった。

 

「おら! 分ったら……」

 

PKプレイヤー達が武器を構え始めたその時だ。

 

「…ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!?」

「あん? なんだ?」

 

上空から声が聞こえたため、この場にいた全員は顔を上げた。すると……。

 

「ぐへぇッ!!?」

「な、なんだ!?」

「上から落ちて来やがった!?」

 

上空から一人のプレイヤーが落下して地面に激突したのであった。突然の出来事で、その場にいた誰もが目を白黒させるのであった。

 

「い、いてて……。ていうか、どこなんだよココ?」

 

そこにいたのは一人の少年であった。顔は若干中性的で普通にしていれば女性に間違われる事はないだろうが、上手くメイクすれば化けそうにも見えた。

というより、長い髪を後ろで束ねている姿を見ると狙っているようにも感じた。

 

「おっかしいな。初めは各種族の街にログインするって聞いてたんだけどな……」

 

だが、問題はその装備だ。明らかに初期設定の装備である。それはこのゲーム初心者を意味していた。

 

「チッ、驚かせやがって。カモが一人増えただけかよ」

「しかも、スプリガンかよ。だっせー」

「ん?」

 

どうやらPK達もこの少年が初心者だと気づいた様子で各々武器を構えはじめていた。初めは驚いていた彼らもカモが一人増えたと嬉しそうににやけていた。

 

「ッ!!」

 

すぐさまリーファは彼らの間に入り武器を構える。

 

「キミ! なんでここに居るのか知らないけど、早くここから逃げて!!」

「……え?」

 

行き成りの展開に少年はただ呆然としていた。それ様子を感じたのか、リーファは若干苛立ちを感じながら再び警告するのであった。

 

「なにしてるの!? はや「リーファか?」……え?」

 

その声に、口調にリーファは聞き覚えがあった。振り返ってよく目を凝らして彼の姿を見た。するとある人物の面影を感じる事ができたのであった。

 

「チナツ……くん?」

 

確かに現実世界の顔付きとは違う。しかし、もしSAO時代の姿の彼が男らしく成長しなかったらと想定するとまさしく今の姿であろうと思う事ができた。

はっきりって絶妙すぎた。現実の今の彼しか知らないものには彼だとは分かりにくく、SAO時代や昔の彼を知っていれば分かってしまうという加減である。

 

「あぁ! それよりもリーファ。ここどこ……て、おわぁ!!?」

 

のんきに挨拶をするチナツをリーファは手を取り走り始めた。

 

「ユイちゃん!!」

「はいです!!」

「え? ユイちゃん!?」

 

茂みに隠れていたユイも飛び出し、彼らに並列して跳びながらついてきた。

 

「あ! てめぇ!!」

「くそ、待ちやがれ!!」

 

一方PK達も彼らを追い始める。再び逃走劇が始まるのであった。

 

「ど、どうなってるのだ~!!?」

 

もっとも、チナツは訳も分からず困惑するしかなかったが……。

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどな、あれってPKだったのか」

「そう。まったく、初期装備でどうして一人でうろついていたの?」

「俺が聞きたいよ。さっきログインしたばっかりなんだぜ」

「はぁ、お兄ちゃんがスプリガン領に迎えに行っているのに……」

「うわ、マジで……」

 

さて、ここでチナツの選択した種族を説明しよう。彼はスプリガンと呼ばれる種族を選択していた。幻影魔法を得意とする種族で、はっきり言ってサポート要員になる種族だ。

戦闘面で抜き出た特徴も少ないためあまり人気のない種族の一つだ。

とはいえ、幻影魔法は目を欺くのには最適なのでトレジャーハンター等を試みるプレイヤーなどは居た。かつてホロウエリアで出会ったフィリアなどはこの種族を好んで選んでいた。

そして、キリトもこの種族を選んでいるのだが、彼は単純に黒をイメージカラーにしてるこの種族が気にいったからに過ぎない。それでもトップランカーに上り詰めているのは流石としかいないだろう。

チナツがこの種族を選んだのは幻影とか面白そうだからという理由らしいが、実際にはキリトへの憧れだろう。

 

「けど、いつまでも逃げれないんじゃないか?」

「はい、近くのタウンまではまだ距離があります。おそらくたどり着く前に追いつかれるでしょう」

 

今は何とか洞窟に隠れているが、それも見つかるのは時間の問題だろう。ならばできる事は……。

 

「迎え撃つしかないな」

「む、無理だよチナツ君!? チナツ君の装備は初期の物なんだよ!?」

「武器ならリーファのを貸してくれよ。それで何とかなるだろ?」

「それは、攻撃力だけ!! 防御力はほぼ0の紙装甲じゃん!?」

 

もし、ここがSAOならば圧倒的レベル差で貧弱装備を補えれたかもしれない。しかし、ここはALO、レベルの概念の無いゲームであった。

そのためプレイヤー達はスキルを磨き、そして装備を求めるのである。

今回のPK達はリーファの装備でも十分に対抗できる。もし武器を借りれば攻撃はチナツでも通るだろう。しかし、防御はそうはいかない。最悪、一撃でも受ければ即HPが0になる可能性もある。

 

「ま、とにかく俺は行くぜ。どうせゲーム始めたばかりだ。デスペナは怖くねーよ」

「だ、だからって!」

「それにさ」

 

チナツは笑いながらリーファにこう言うのであった。

 

「折角純粋に楽しめるゲームに来れたんだ。こんな状況でも楽しまなくちゃ損だぜ」

 

ま、負けたら悔しいから負けてやんねーけど。彼はそう言いながら笑っていた。そしてその笑顔はどこか彼女の兄に重なって見えたのであった。

 

「はぁ、まったく。お兄ちゃんと言い、チナツ君と言い、立派な廃人プレイヤーだよ」

「失礼な事言うなよ。俺これが二つ目のVRMMOなんだぜ?」

「もぉ、本当にしょうがないんだから!」

 

リーファはアイテムウィンドからサブウェポンを取り出し、チナツへと投げ渡した。

 

「へぇ、良い剣じゃん」

「言っとくけど、貸すだけだからね!! デスペナで取られたら許さないんだから!!」

「はは、おう!」

「それと、私も行くから!!」

 

その言葉に、チナツは目を丸くする。いや、彼女が自分を置いて逃げるなどないとは無いと思ってはいたが、それでも驚くしかなかった。

 

「え? いいのかよ?」

「いいよ! 仲間を見捨てる事は出来ないし。それに……」

 

彼女はチナツの前へと歩き、徐に顔を振り向きながらウインクをした。

 

「箒の代わりに君を護ってあげなくちゃね」

「なんだそりゃ」

 

その言葉に、チナツは笑うしかなかった。

 

「先ほどと同様のプレイヤー反応です!!」

「8対2か。腕が鳴るぜ」

「そういえば、チナツ君とのコンビだなんて地味に初めてかもね」

「そう言えばそうだな」

 

彼らは談笑しながら洞窟を歩き始める。上位プレイヤー達を8人相手にする。チナツがかつてと同様の装備を持っていればあるいは勝てたかもしれない。しかし、彼にその装備は無い。確かにSAO時代から引き継いだステータスは強みだが、絶対的なアドバンテージとはいかないだろう。

しかし、不安はない。信頼できる仲間が隣にいる。それだけで十分なのだから。

 

「いくぜ、リーファ!!」

「うん!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、チナツの奴まだログインしないのか?」

 

一方その頃、スプリガンの主街区にてキリトは一人待ちぼうけをくらっていた。

 

「とっくにログインしている時間のはずなのにな。何かシステムトラブルか?」

 

すでにチナツがログインしている時間のはずである。しかし、一向にそれらしい人物は現れなかった。

ましてや自分は現実の姿に近いアバターを持っている。こちらが気付かなくても、あちらは気付くはずなのだ。

 

「仕方ない、一度落ちて現実のアイツの携帯に電話でも……ん?」

 

そんな時だ。彼が誰からのメッセージ気付いたのは。

 

「ユイ? どうしたんだ?」

 

彼は不思議に思い、そのメッセージを開き読み始める。

 

「ッ!? な、なにぃ!?」

 

そこに書いてあるメッセージに驚き、彼は急いで駆け始めるのであった。

 

「ったく、アイツは! 薄命剣スキルの時といい、厄介事しか起こさないのか!!?」

 

はっきり言ってキリトの方がトラブルばかり持ってきているのだが、自分の事を棚に上げ彼は走り続けていた。街を出るとすぐに羽を広げ空を飛ぶ。トッププレイヤーでもなかなか出せない速度であった。

 

「待っていろよ、チナツ、リーファ、ユイ!!」

 

そうしてキリトは空を飛ぶのであった。大切な仲間を助けるために。

 




「おっっそい!!」
「うひゃぁ!? リ、リズさん!? どうしちゃったんですか!?」
「おっそいのよ、キリトも、チナツも、リーファも!! あと、おまけでクライン!!」
「クラインの奴は仕事で遅れるそうだぜ。気にすんな」
「まぁまぁ、リズ。落ち着いて……今私からキリト君達にメッセージを……って、あれ?」
「どうしたのよ、アスナ?」
「シノのん? うん。 今、私にメッセージが……「よーす、おっまたせ~!! クライン様、ただいま到着だぜ~~!!!」……はぁ」
「クライン、空気読みなさいよ」
「へ?」

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