織斑一夏はSAO生還者   作:明月誠

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口内炎が超痛い。

具体的にはしゃべるたびに痛ひ。

らめぇ、口を開きたくないから、不愛想になっちゃうぅ!! 上司に怒られるよぉ!!

ホントそうなる前に治ってほしいモノです。皆さんも、物食べるときはゆっくり食べて下さいね!!


第三十五話・新たな火種

日本・某国際空港

 

「ふ、ここが日本か」

 

ガラス越しに飛行機が飛び交う光景を背景として、銀髪の小柄な少女が感慨深い物を感じていた。

 

「そして、教官と……アイツの故郷か」

 

彼女の名はラウラ・ボーデヴィッヒ。ドイツ軍出身のドイツ代表候補生であり、かつて織斑千冬が教官としてIS戦技を教えた娘である。

そして、SAOではチンクと言う名で過ごし、一夏ことチナツの最大のパートナーにして、未来の恋人(自称)であった。

 

「IS学園への編入は明日の予定か。今日一日は時間があるな」

 

とは言え、SAO時代の仲間と連絡を取ろうにも連絡先を知らなかった。となれば、する事は決まっていた

彼女は空港を出ると、道路を走るタクシーに向かって手を上げる。タクシーは彼女の姿を確認すると彼女の前で停車した。

 

「お客さん、外人の子?」

「心配いらん、日本語は話せる」

 

このままIS学園に行くのもありだがそれでは芸がない。ラウラはそう考えると、運転手へとある言葉を言う。

 

「運転手……美味しい味噌カツを食べられる飯屋を知っているか?」

「は?」

 

ラウラ・ボーデヴィッヒ。今日は味噌カツが食べたい気分であった。

 

「あ、あぁ。それならタウン情報誌にも載った事のあるいい店を知っているよ」

「ならば良し!!」

 

良くねーよ。かつての仲間が誰かいたのであれば、突っ込んだだろうが、この場にはいなかったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん~」

 

IS学園整備室にて、簪は難しい顔をしながら画面と睨めっこをしていた。

 

「はぁ……」

 

しかし、徐に溜息を吐きながら視線を上げたのであった。その視線の先にはISが存在していた。その形は明らかに学園に配備されているISとは違う形であった。

そう、この機体こそ彼女の未完成の専用機【打鉄弐式】。彼女が完成させようと躍起になっている機体であった。

 

「(分かってた。困難な事ぐらい)」

 

簪は、内心でそう呟きながら悔しそうにきゅっと唇を噛んだ。この機体をここIS学園に引き取ってから2ヶ月ほど経つ。しかし、預かってから進展はまったくと言っていいほどなかった。もとより彼女はSAOにいた期間、2年半のブランクがある。日本代表候補生になれただけでも奇跡なのに、未完成の機体を完成させようという考え自体に無理があるのだ。

 

「(だけど、決めた事だから……)」

 

しかし彼女は自分の想いを再確認して、近くに散在しているIS関連の専門書を手に取りパラパラと捲る。少しでも自分の今足りない知識を埋めれるようにと。

 

「(やっぱり整備科の先輩に助力を……? けど、今の私にそんな人脈もないし)」

 

思考錯誤を繰り返す彼女。そんな彼女はふと時計を見た。

 

「あ、お昼休みが終わっちゃう……」

 

ちょっと情報整理のために整備室に寄ったつもりだったが、思いのほか時間が経ち過ぎていたようだ。

弁当など用意していないし、今更売店に買いに行こうにも、食堂に行こうにも間に合わないのは明白であった。

 

「お腹空いたなぁ……」

 

そして、考えてしまった。

 

「(篠ノ之さん達は織斑君とご飯食べたのかな……?)」

 

そんな光景を想像してしまうと、羨ましくてしょうがなかった。勿論、彼女がその気になればその輪に入る事は可能だ。だが、そんな時間は彼女にはなかった。

 

「はぁ……」

 

とは言え仕方ない、ここまで来たらお昼ご飯抜きでギリギリまでここで―――。そう彼女は考えていると……。

 

「ったく、本当に飯抜きなのかよ」

「え?」

 

ここに来る筈のない人物の声が聞こえたのであった。

 

「お、おおおおおお!! 織斑君!?」

「お、おう?」

 

彼と一緒にいるであろう彼女達が羨ましいと思っていた矢先に、その本命の彼が現れたのだ。彼女は慌てるしかなかった。

 

「へ、ヘルメット!? VR用のヘルメットは!!?」

「いや、アバターを使わなくていいから……」

「あ!? お、織斑君!? 返して!?」

 

あのクシナの性格を否定する気はないが、クシナモードの彼女にからかわれると休み時間が本当に終わってしまう。一夏はその懸念があり、ひょいとVRマシーンを彼女から取り上げた。

 

「簪が手に取るのはこっちだぜ?」

 

そう言うと一夏は片手に持っていた袋を簪に押し付けるのであった。

彼女は目を白黒させながらその袋を受け取る。

 

「……これは?」

「売店でパンを適当に買ってきたから、食べとけよ」

 

もう昼休みも終わるだろ? 彼はそう言いながら朗らかに笑っていた。

 

「な、なんで?」

「ん? あぁ。のほほんさんに話を聞いてさ。ここ何日か昼食抜いてるんだろ?」

「(ほ、本音ぇ……)」

 

脳裏に能天気に笑う幼馴染の姿が浮かぶ簪であった。

 

「べ、別に毎日って訳じゃなくて偶々食べ損ねているだけで……」

「でも、今日食べそこなっているのは事実だろ? ほら」

「うぅ……」

 

嬉し恥ずかしな思いをしつつも、簪は一夏より受け取ったパンの袋を開きモソモソと彼に背を向け食べ始めるのであった。

そんな簪をにこやかに見ていた一夏であったが、その視線は未完成の専用機へと向き始めた。

 

「これ、簪の専用機なんだよな」

「ひゃ!? ふぁい! そふぉで!!?」

「いや、口に物入れて喋らなくて良いから……」

「!!? ―――――ッ!!?」

「案の定、喉詰まってるのじゃないか!?」

 

一夏は一緒に購入していたペットボトルの蓋を開け簪へと渡す。彼女はものすごい勢いで飲み、何とか呼吸を取り戻すのであった。

 

「ぷはぁ! し、死ぬかと思ったぁ……」

「ったく、気をつけろよ」

「ご、御免……。け、けど……これも、リアルならではのトラブルだよね」

「……あぁ、そうだな」

 

それは仮想世界を生きた二人にしか分からない会話であった。彼らの過ごした日々は違うものであったが、同じ世界を生きた存在なのだ。

その事を再度認識した瞬間でもあった。

 

「その、状況はどうなんだ?」

「ん、進展はほぼ0って言っても良い。全く進んでなくて……」

「そっか」

 

気にするな、と言うのが無理な話だろう。直接的ではないとは言え、原因の一端は一夏にあるのだから。

 

「なぁ、やっぱり」

「手伝う事は良いよ。織斑君も大変なんだから」

「いや、けどさ……」

 

女性だけのクラスにも馴染みはじめているし、鈴との問題も解決した。一夏にとしては少し余裕ができてきたつもりだ。しかし、その事を伝えるも、簪は強力を拒むのであった。

 

「織斑君は、まだ自分の状況が分かってない」

「え? それってどういう……?」

「多分、そろそろ色んなところが動くころだと思う」

「色々ってなんだよ?」

「色々は、色々……」

 

そう言うと彼女は空中投影のモニターを出し始める。それには色々な画像があった。

だが、どれも共通点がある。それは……。

 

「これって、俺か!?」

「うん、そう」

 

幾つもの画像には一夏の……正確に言うのであれば一夏がISを纏っている姿が映し出されていた。授業中、クラス代表決定戦、クラス代表戦。様々な写真がそこにあった。

 

「これって」

「各国の情報ページ」

「ハッキングしたのか!?」

 

その言葉に一夏は驚愕する。普通に犯罪行為だから当然だ。

 

「ううん。これはIS学園がハッキングしたデータ。言うなら、ハッキングで得たデータをハッキングで見ただけ」

「結局、ハッキングじゃないか!?」

「それは、大丈夫。多分……と言うか、絶対……」

 

思い出すのはこのデータが入っていたファイル名であった。彼女が見た時、ファイルは『見てもギリギリOKなの♪』、『これは見たらNG♪』としっかりと分別されていた。

どうみても、自分の行動が筒抜けであった。

 

「(余計な気を回すのなら、私の話聞いてくれたらいいのに……)」

「えっと、簪?」

 

急に思いにふけり始めた簪を見て、一夏はどう声をかけたらいいのか悩んで居た。そんな一夏に気付いて、彼女は慌てたように答えるのであった。

 

「と、とにかく織斑君気をつけて!」

 

今まで各国は男性操縦者と言う存在に懐疑的であった。ISが世に出てから数年経つ。この短い年月で目覚ましい速度で世に浸透した。しかし、幾ら技術が向上しても男性適合者は存在していなかった。

ニュースや政府の発表のみでは一夏の存在を疑うのも当然だ。

しかし、それも今までのデータから真実であると各国や企業は判断したのだ。

 

「きっと、動くところはそろそろ動くと思うから」

 

とはいえ簪もこう言った世間の動きにそこまで敏感ではない。一夏にそれとなく注意するのがいっぱいであった。

姉に頼ればいいのだろうが、個人的な感情で頼るのも気が引けるのであった。

 

「まぁ、元々千冬姉関係で俺の個人情報は守られていたから、ある程度は問題ないと思うけど……まぁ、そうだな」

 

確かに、自分がISを使用できるという事実は各国が認知したものとなった。だが、一夏の個人的な友好関係の情報までもが流失したわけではない。不幸中の幸い、千冬関係の延長で今までだって情報は守られてきていた。

しかし、楽観的になりすぎて、自分の所為で回りを巻き込むわけにはいかない。そう考えると、リアルでの行動は注意するに越したことはないと彼は感じるのであった。

 

「(頻回に特定の人間に会うのは控えるか……)」

 

一見、行動制限されるも同然なのだが、そこまで一夏は悲観的ではなかった。キリト達とはALOで会えばいいし、中学のクラスメイトも鈴はIS学園にいるし、弾や蘭に会うのも寮生活の今そこまで頻回という訳も行かないだが、蘭に至っては来年の話だがIS学園に来るという事だ。忙しい毎日だ。一年なんてきっとあっという間だろう。

残るは弾だが……

 

「(いっそ、弾の奴がIS学園に来ると良いんだけどな。二人目の男性操縦者とか言って)」

 

織斑一夏。未だに知り合いの男性がISに適合する事を望んでいる男であった。

この時一夏はまだ知らなかった。その二人目の男性適合者……と言われる存在はすぐそこまで来ている事を。

そう具体的には―――。

 

「……あ、授業のチャイム」

「間に合わないな、こりゃあ」

 

織斑一夏。担任に出席簿チョップをくらうのが決定した瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

 

「お引越しです」

「「は?」」

 

寮の自室でゴロゴロしながらVR関連の雑誌を見ていた一夏。そして、一夏から借りた雑誌を見ていた箒は、行き成り訪れた真耶にそう言われ素っ頓狂な声を上げていた。

 

「実はですねぇ、部屋の調節も終わったので、篠ノ之さんのお引越しです! これで篠ノ之さんも今日から異性の目を気にせずノンビリできますよぉ!!」

「(結構小馴れしてきたのだが……)」

 

流石に一か月以上していたのであれば慣れるモノだ。と言うか、一夏も姉との暮らしや、SAO時代の生活から理解もあるし、意外と着替え中にばったり等は一切なかったのだ。

(無論、ラッキースケベが全くなかったと言えば嘘になるが)

 

「では、早速始めましょうか! 私もお手伝いしますから!!」

「は? 今からですか!?」

「そうですよ! さあさあ! 早くしましょう~!!」

 

急かす真耶に対して箒は焦る。いずれそうなるとは分かっていたがいくらなんでも急すぎるからだ。

好いた男とせっかくの同室だったのに、それがなくなる。せめて、心の準備ぐらい欲しかった。

 

「待って下さい! 今からでないと駄目なのですか!?」

「それはもう! 年頃の男女が同室なんて、篠ノ之さんもくつろげないでしょう?」

「(いや、わりと箒くつろいでいたよな?)」

 

今、一夏ほどゴロゴロしていないが雑誌を優雅に読んでいたところだ。

 

「って言うか、山田先生。別に今日じゃなくてもいいんじゃないですか?」

「い、一夏!」

 

箒は一夏の助け舟に感動していた。だが、一夏に色目めかしい他意はない。ただ、単純に平日に慌ててしなくても週末にでもすればいいと思っただけだ。

 

「それこそ、週末にでも……」

「そ、それじゃあ、私が困るんですよ!」

 

しかし、一夏がそう発言すると慌てたように真耶は言うのであった。そんな彼女を不審に思ったのか一夏と箒は顔を見合わせた。

 

「何かあったのですか?」

「うぅ!?」

 

何か聞かれたくない事があったのだろうか?

 

しかし、乙女的(笑)には好いた男との同室を解消させられるにはそれなりの理由が欲しい所であったので、箒は追及を止める事はなかった

 

「その、えっと……」

 

聞かれたくなかった事なのか、真耶は挙動不審にオドオドとし始める。そして……。

 

「ご、ごめんなさ~い!!」

 

急に彼女はわっと泣き題しながら謝り始めたのであった。

 

「ど、どうしたんですか山田先生!?」

「箒、お前の言い方が……」

「わ、私の所為か!? お前だって!?」

 

責任を押し付け合う一夏と箒であったが、真耶はその理由を語りだし始めていた。

 

「じ、実は本当は昨日の内に部屋の移動をしなくちゃいけなかったんですよ~!!」

 

昨日は日曜。どうやら彼女は昨日の内に一夏達に部屋の移動を言っておかなくてはいけなかったのに、それを伝え忘れてしまっていたようだ。

 

「だからって、無理に今日しなくてもいいんじゃないですか?」

「そ、それじゃ駄目なんですよ~!!」

 

その様子に一夏は更に困惑する。彼女の様子からして千冬に怒られるのが嫌と言うだけではないように感じたからだ。

 

「だって、明日には織斑君の新しい同室者が来るんですから!!」

「な!?」

 

その言葉に箒は絶句する。当然だ。別の生徒が一夏の部屋に来るというのなら、自分が部屋を出て行く意味がない。

 

「お、おかしいではありませんか!! 別の女子が入るのならば私が出て行く理由がないではありませんか!!」

 

もしや、国が用意したハニートラップか!?

一夏は恋愛関係には鈍感だ。本人がその気がなくても、決定的な場面を写真などに撮られる可能性は否定できない。

箒は、一夏を庇うように前に出て真耶を威嚇するように睨みつけるのであった。

 

「いや、落ち着けよ箒」

 

急に加熱する箒を見て、一夏は宥めるように口を開く。しかし、今度は一夏を睨みつける箒であった。

 

「一夏は黙っていろ!!」

「(なんだよ、この理不尽)」

 

かつてSAOでは理不尽な理由でキリトが女性に詰め寄られる様を見て、ケラケラとクラインと一緒に笑った事があったが(自分もたまにチンクにされたが)、まさか幼馴染に自分がされるとは思ってもみなかった……。

 

「(こともないか……)」

 

良く考えたら、箒だけじゃなくてIS学園で親しくなった相手にされていたように感じた。(殆どセシリア、鈴、箒だが)

 

「どうなのですか、山田先生!! 何故別の女子が……」

「……じゃないんですよ」

「聞こえません! はっきりと!!」

「ですから!!」

「ッ!!?」

 

詰め寄る箒にやけっぱちになったのか、真耶は一際大きな声を張り上げて言った。

 

「織斑君の!! 次の同室者は!! 男の子なんですよ!!!」

 

とんでもない爆弾を投下したのであった。

 

「「は?」」

 

ちなみにIS学園の寮室は全て完全防音である。情報漏えいで、チッピーに怒られないよ。やったね、真耶ちゃん!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、寮長室では……。

 

「何? 食べ歩きをしていたら北海道まで来てしまったため、明日の転入に間に合わない? 馬鹿か貴様は!!」

 

食い気に目覚めた軍人少女が、とんでもない事をしでかした報告を聞く千冬であった。

 




「会長、このデスクトップの画像は?」

かー! 気付いちゃった!? 簪ちゃんが日本代表候補生に選ばれた時の笑顔の写真よ♪
かー! うちの妹マジ天使だわー!!

「その割にはなかなか、会話をしませんね……」

そ、その心の準備が……。だって、SAOに行く前は、何かギクシャクしてたし、目が覚めてからは何か雰囲気変わって距離感が……。

「……はぁ」

なに、その溜息!!?






壁越し

「(お姉ちゃんの、ヘタレ……)」

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