織斑一夏はSAO生還者   作:明月誠

45 / 55
PSVITAのメモリーカードの容量がそろそろヤバ気味です。
32Gあるのになぁ……。調子に乗って、安いゲームをDLしすぎたか……。

ていうか、カグラのアップデートの容量が多すぎるぅ!!


第三十六話・あの人は二人目の……?

「ふぅ……」

 

篠ノ之箒は朝から溜息を吐いてしまっていた。

 

「…………」

 

チラリと隣のベッドを見る。そこには同室の生徒が未だに寝息を立てていた。どうやら自分は少しばかり早めに起きてしまっていたようだ。

 

「…………はぁ」

 

そして、その同室の生徒を見て再び溜息を吐いていたのであった。若干、失礼なのだが彼女の心情を察してやって許してやってほしい。

何故なら同室の生徒は女子なのだから。

つまりは、一夏ではないのだ。

そう、昨晩寮室を訪れた真耶から勧告された引っ越しによって、箒は一夏と共有していた部屋を出る事になったのだ。

彼女が溜息を吐いてばかりなのは、何を隠そう一夏と違う部屋になってしまったから……でもあるが、一番の理由は……。

 

「眠い……」

 

そう、眠いのだ。そもそも、真耶が来室したあの時間は『そろそろ眠いな』『少し早いけど、明日は学校だし早めに寝るか』的な時間帯であったのだ。そこから、箒一人分の荷物を纏め、移動させたのだ。そりゃ眠くもなる。

現に隣のベッドで寝ている少女はギリギリまで起こさないで、と半ギレで就寝している。

だが、しかし、そんな中何故箒が目を覚ましたかと言うと。それは―――。

 

「(何故私はこんなに早く起きてしまった。生活習慣の所為か)」

 

元より彼女の父は厳格な存在であった。娘とは言え、剣の道を行く我が娘に対して不健全な生活を許す親ではなかったのだ。

そんな父でも、箒に厳しくする以上に、自分に対して厳しい存在であったため箒なりに尊敬をしていたのだが……。

 

「(シャワーでも浴びるか。起こさないようにな)」

 

とりあえず同性なので、今までよりは気楽にシャワーを浴びる事ができる事に対しては素直に喜ぶべきか?

箒はそんな事を考えながら、眠気覚ましのシャワーを浴びるのであった。

 

 

 

 

 

余談だが、箒と同室になった少女の名は鷹月静寐。IS学園に入学初日に一夏に自己紹介スイッチをかまされ、ワタワタと自己紹介をする羽目になった哀れな少女である。

実はALOプレイヤーでこれをきっかけに一夏とお近づきになろうと考えているのだが、なかなかうまくいかず、そして今日は寝不足で寝坊して、明日千冬に怒られる事が確定している少女であった。

 

だが、後日一夏に学食を奢ってもらってご満悦であった。更には巧みな話術であ~んをしてもらった猛者でもあった。

(けど、次の日にはあ~んしたという事実を一夏は忘れていた。と言うか思い出の一部に昇華された)

 

 

 

 

 

 

「(…………)」

 

ホームルーム直前、箒はただ呆れながら一夏を見ていた。

 

「箒さん、ちょっとよろしくて?」

「ん? セシリアか? なんだ?」

 

そんな中、セシリアに声をかけられ、箒の意識は一夏からセシリアへと向けられていく。そこにいたのは困惑気味に一夏を見るセシリアの姿であった。

 

「その……一夏さんは何か有りましたの?」

「心配しなくても、すぐに元通りになる」

「は、はぁ……」

 

そっけない箒のその回答にセシリアは生返事をするしかなかった。セシリアは再度一夏の様子を伺う。

そこには……やたら、希望に満ちた表情を浮かべる一夏の姿があった。

……何となく、キラキラと輝いているような気さえしていた。

あまりにも希望に満ちたその雰囲気は他者を逆に寄せ付けず、慣れ親しみ始めていたはずのクラスメイトは遠巻きに一夏を見ていた。

箒はそこで再度、昨日の一夏の様子を思い出していた。

あれは、二人目となる男性操縦者の話題が出た時だ。箒の荷物纏めをしながらの片手間であったが、不意に一夏はあるとんでもない考えを口にしたのだ。

 

『キリトの奴だ……』

『は?』

 

我ながら間抜けな声であった。箒はその事を思い出し少し顔を赤らめた。

キリトと言う名を言われて今一ピンと来なかったが、よくよく思い出せば以前一夏と共に行ったカフェで出会った直葉の兄が一夏にそう呼ばれていたのを箒は思い出した。

その事を思い出し、箒はすぐさま否定した。現実的にあり得ないし、国内での男性適性試験は殆ど終わっていたはずだからだ。

しかし、そう言っても一夏はやたらと自信ありげに次の言葉を口にした。

 

『はは、箒は知らないんだな。キリトの奴は少し姿を見ないと思ったらトラブルを背負って現れる男なんだぜ。……かわいい娘付きでな!!』

 

そう言って、サムズアップをする一夏。すでに彼の中では転校生=キリトの図式ができていた。その良い笑顔が少しムカついて脇腹を小突いたが、自分は悪くないと箒は考えるのであった。

 

「(だが、あんな風にはしゃぐ一夏もまた……って、何を考えているんだ私は!!?)」

 

とは言え、恋は盲目の体現者の箒さん。こんな一夏にもキュンと来るようであった。

 

「は~い、皆さん。席についてくださ~い」

 

そしてそうこうしている内にとうとうホームルームのお時間が来てしまった。皆、一夏の様子を気にしつつも言われた通りに席に着くのであった。

 

「あれ? 山田先生~! 織斑先生はどうしたんですか~?」

「お、織斑先生は諸事情で急遽北海道の方へ行ってますので、今日は私一人なんですよ~」

 

北海道。何故北海道なのか?

その事で騒めくクラスメイト達であったが、一夏は我関せず、キラキラと期待に満ちた顔を浮かべるのであった。

大切な姉が北海道にいるんだぞ。何か思えよ。

 

「み、皆さん! 織斑先生が気になるのは分かりますが、静かにして下さい!」

 

騒めく生徒達を宥める様にどもりながらも真耶は言う。そんな一生懸命な姿に感化されたのか、生徒達もいったんは静まるのであった。

その様子を確認すると、真耶は話を進めるのであった。

 

「さ、皆さんよろしいですか? 今日は皆さんに新しい友達をご紹介します!」

 

小学校の先生か。誰もが口にはしなかったが心の中で突っ込むのであった。

 

「それでは、デュノア君。入ってきてください」

「はい」

 

君付で呼ぶことに対して、クラスの皆は怪訝な顔を浮かべる。しかし、その事を追及するよりも早く、ガラリと教室の扉が開き、一人の生徒が入ってくるのであった。

 

「皆さん、始めまして。シャルル・デュノアと言います」

 

その姿に、一同は驚愕を浮かべる。その生徒は一見して華奢な身体つきであったが、女性特有の胸の膨らみが見られなかったからだ。

 

「男の人……?」

 

誰かがポツリとそう言うと、シャルルはニコリと笑いつつも、それに答えるのであった。

 

「はい、こちらには僕と同じ境遇の方がいると聞いて転入いたしました」

 

それはつまり、シャルルは男性であるという事である。その事実に一瞬理解が遅れる生徒達であったが、すぐに理解して騒ぎ始める……よりも前に。

 

「キリトの奴じゃないのかよッッッッッ!!!!?」

「ひゃぁあああっ!!?」

 

一夏が吠えて、真耶は何とも間抜けな声を上げるのであった。

 

すこーん!!!

 

「ぐふぅ!!?」

 

しかし、急に飛んできた教科書の脳天直撃を受け、一夏はあえなく轟沈するのであった。

もしこれが、某ゲームなら服が破けて大破だったかもしれない(笑)

 

「すみません、ウチの馬鹿が。構わず自己紹介を続けて下さい」

「あ、は、はい」

「箒さん! その発言に異議ありですわ!!」

 

篠ノ之箒。さり気無く一夏を自分の物宣言するのであった。因みにシャルルはドン引きであった。

こうして彼らのファーストコンタクトはちょっとばかりずれたものとなるのであった。

 

 

 

 

 

 

「いってぇ、箒の奴何も教科書投げる事ないじゃんかよ」

「あ、あはは」

 

ホームルーム終了後、一夏はシャルルと簡単な挨拶をして一限目の実習のために更衣室へと向かっていた。男性である一夏には指定の更衣室を使用するように通達が来ているのだが、今回は転入生であるシャルルも一緒だ。

彼もまた二人目の男性操縦者だから当然でもあった。

 

「篠ノ之さんって、いつもあぁなの?」

 

急に教科書を投げる彼女を目撃した所為か、シャルルは少し警戒した様に一夏に聞くのであった。

 

「ん? いや、ちょっと小突く位はするけど、ツッコミレベルが精々だぞ?」

「ツッコミって……」

「今日は、なんだろうな? 寝不足気味で機嫌悪いのかもな?」

 

因みに一夏の場合はテンション上がって寝れないまま現在に至っている。

 

「そ、そうなんだ?」

 

どうして彼は寝不足だなんて知っているのだろう? 何となくそうシャルルは思ったが口には出さなかったのであった。

 

「さ、とにかく早めに更衣室に行こうぜ。そうしないと……」

「あ! 織斑君、発見!!」

「噂の男の子もいるわよ!!」

「……あぁ、見つかったか」

 

急に彼らの前に他のクラスの生徒、あるいは上級生たちが現れる。その様子を見て一夏は内心失敗したなと思うのであった。

 

「あー、話すのは更衣室に着いてからにすれば良かったな」

「え? え? なにこれ?」

 

反省している一夏をよそにシャルルは目の前で起きた出来事に混乱するのであった。一人二人現れたと思ったら、彼女達の声で次々と生徒達が集まってきたのだから。

 

「女子は噂好きだからなぁ……」

 

勿論、常に一夏は追いかけ回されているという事はない。多人数から追いかけ回されてはいくら一夏でもノイローゼになってしまう。

しかし、セシリア戦後、或はクラス代表戦後等と言ったイベント後には大抵一夏に話を聞こうと女生徒達が群がっていたのだ。(無論、その話題をきっかけに一夏にお近づきになりたいというミーハーも多いがそこまで気づいていてはいない)

普段は、箒達がブロックするなり、千冬の一喝が彼を守っているのだが、その箒達は別の更衣室にいるし、千冬は北海道だ。今彼を守る壁はなかったのだ。

 

「(って言うか、授業前だぞ。なにしてんだ、この人達)」

 

更に言うのであれば、今回は二人目の男性というビッグゲスト付きだ。多少授業をサボっても無茶をする娘達も多かったみたいであった。

 

「ど、どうしよう!? この人達の相手をしていたら授業に間に合わないよ!?」

「ちっ、仕方ないか……」

 

気が付けば一夏達は少しずつ女生徒に包囲され始めていた。こんなに集まると軽くホラーである。クライン辺りなら喜ぶかもしれないが。

そんな状況を打破すべく、一夏は意を決して叫ぶ!

 

「うわ!!? 織斑先生!? すぐに授業に向かうって!!?」

「「「え!!?」」」

 

その言葉に、この場にいる全員がほぼ全員が一夏の見ている方角を向くのであった。

千冬に幻想を抱いて、学校という現実でその幻想を打ち砕かれた者は多い。

早い話、ミーハー千冬ファンもひとたびこの学園に入れば千冬恐怖症を得るのは必須なのだ。

だって怖いんだもん。

 

「よし、今だ!!」

「何が!!?」

 

一夏がそう叫ぶと、シャルルはまるで意味が分からないとツッコミを入れるのであった。

 

「更衣室までダッシュだ!!」

「え? えぇ!!?」

 

一夏は鬼気迫る表情でシャルルに言うが、当のシャルルは未だに混乱状態だ。そんなシャルルを見かねたのか、一夏はシャルルの腕を掴みそのまま走りだし始めるのであった。

 

「いいから来い!!」

「うひゃぁああ!!?」

 

強引に腕をひっぱる一夏に対して、シャルルは若干顔を赤らめながら一緒に走るのであった。

 

「あ! 逃げた!?」

「ちょっと! 少しくらい話をしましょうよ!!」

 

逃げる獲物に対して、捕食者とは追いかける習性がある―――と言わんばかりに女生徒達は一夏達を追ってくるのであった。

 

「くそ、追ってきやがったか!?」

「な、なんなのコレ!!?」

 

もうシャルルの頭は混乱の極みであった。急に女子に囲まれ、この展開だ。ある意味当然でもあった。

 

「はは。まぁ、とにかくこれからよろしくな、シャルル!!」

「きゅ、急にまとめに入らないでよ~~!!?」

 

こうして、一夏にとってIS学園初めての男性の友人ができたのである。

もっとも、一夏主観では……であるが。

この時一夏は気付けなかった。シャルルの笑顔に暗い影があるという事を。

そう、なぜならば。

 

「よっし! 更衣室に到着だ……って、うわ!!?」

「一夏!? 皆強引に扉を開けようとしてるよ!!?」

「そう言えば小学生の頃、鬼ごっこで男子トイレに逃げた奴をトイレの中まで追いかける女子っていたよな!? 逆をすると変態のレッテル張られるけど!!」

「そんな事言ってる場合じゃないよ!? 扉押さえて!! 鍵を閉めるから!!」

 

今はただ、この危機的な状況を押さえるのでいっぱいであったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、北海道

 

「まったく馬鹿者め! 教師を単身で北海道に呼び出すとは何事か!!」

「も、申し訳ありません教官……」

「織斑先生だ!!」

 

そう言って、千冬はゴツンとラウラの頭に拳骨を落とすのであった。

 

「んぐっ!!? きょ、教師なら安易な暴力はどうかと……」

「心配はいらん。お前はまだ正式に転入したわけではないからな」

「(さっきと言ってることが違う!?)」

 

なんたる理不尽。これが世界最強の女・ブリュンヒルデ千冬。ラウラは戦慄するしかなかったのであった!!

 

「……」

「む、なんだ?」

 

しかし、ラウラは不意にある事を思いじっと千冬の顔を見つめ始める。

 

「い、いえ……」

 

それは彼女自身の心境の変化。分かっていたつもりだが、かつて崇拝していた千冬を目の前にして、彼女自身がそれを実感してしまっていた事に対する戸惑いであった。

千冬に対する印象が前とは違う。勿論今も尊敬しているが、かつての想いとは何かが変わっていた。その事をうまく表現できず、しかし何かを伝えたくて何とか彼女は口を開くのであった。

 

「教官、私は―――ッ!!」

 

そこで彼女の視界にある物が映ってしまった。

 

「旨そうなカニ……ぐふぅ!!?」

「真面目な話をするか、ふざけるかどちらかはっきりしろ!!」

 

ラウラ・ボーデヴィッヒ、本日二度目の拳骨をくらうのであった。そのコブはまるで二段アイスの様であったという。

 

「な、何故でしょう。このコブを見ているとアイスが食べたく……」

「三段にしてやろうか?」

「ひぅ!?」

 

数年見ていなかっただけで、かつての教え子が食い意地のはった娘に成長してしまった事に対して千冬は深くため息を吐いてしまうのであった。

 

「(まったく、一夏の奴め。ラウラに何をしてきたのだ?)」

 

もし、この場にキリト達がいたならこう言うだろう。

 

『餌付けです』

 

―――と。

 

「ところで、教官。蟹の鮮度の見分け方とは何でしょうか? 買ってチナツの奴に調理させたいのですが……」

「知らん!」

 

こうして千冬は食い意地のはったかつての教え子を伴って学園へと向かうのであった。

 




「シャルル・デュノア……ねぇ?」
「上手く情報操作されてはいますが、シャルル・デュノアなる人物はフランス国内に実在したという事実はありませんでした」
「ん~~。そんな子をフランス代表候補にするとか中々チャレンジャーよね~」
「いかがされますか? 会長? いえ、更識家当主様」
「そうねぇ……」



「とりあえず、ウチの妹の方が可愛いって事でしょ? JK」
「ばっかじゃねぇの」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。