織斑一夏はSAO生還者   作:明月誠

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はい、そういう訳で、今回は番外編と本編の日本投下でした。

遅れた分、楽しんでもらえたら幸いです。それでは。


番外編⑦・ソルジャー&スナイパーⅢ

「(アスナ。君は今、何をしてるんだ?)」

 

彼は……キリトは、ALOとは違う女性的な顔を持つアバターで呆然としながら現実逃避をしていた。なんて言うか、そうしないとやってられないからだ。

ここは、ガンゲイル・オンラインと呼ばれるVRMMOの中である。彼は菊岡の依頼でこのVRMMO内の調査のためにALOのプレイヤーデータをコンバートしていたのだが……。

 

「(俺は今…………)」

「あっはっはっはははははははッ!!!!」

「(お前の親友に笑われている)」

 

彼の目の前には彼の仲間の一人であるシノンがいた。彼女はキリトとは別の理由でこのゲームをプレイしている。このゲームで出会ったのはまったくの偶然であったが……。

そんな彼女がなぜ、キリトの目の前で爆笑しているか。それは少し時間を遡らなくてはいけない話であった。

 

キリトがこのGGOに来て最初に驚いたのは自分自身のアバターの容姿であった。現実でも若干、若干! 若干!! チナツよりましだが(と思っている)中性的な顔である彼であったが、それに輪をかけての女顔のアバターであったのだ。

途中アバターを売ってほしいという声をかけられたりもしたが、それを避けて彼はBOBに出るべく受付となる総督府なる建物、それに加えて武器を揃えるために武器屋を目指し歩いていた。

とは言え、彼はGGO初日。土地勘もなく、近くのプレイヤーに道を尋ねる事にした。それがシノンであった。

SAOでは仲間とは言え、それぞれ別の姿のアバターをしていた二人は互いに気付く事はなく初対面の様に会話をした。

最初はナンパしたと勘違いされたかと懸念したキリトであったが、自身のアバターの容姿を思い出し、雰囲気的にシノンが自分を女性と勘違いしていると気付いた。

 

本来ならばすぐにでも誤解を解くべきだったのだろう。しかし、まともに道を案内してくれるプレイヤーに会えたのは幸いな事でもあった。キリトは申し訳ないと思いつつも誤解されたまま道案内を依頼することにしたのであった。

総督府に向かいつつも、武器屋を訪れた二人。シノンもBOBエントリーまで、まだ時間があるという事もあり、武器選びに付き合う事にした。

途中、キリトが所持金を増やすためにちょっとした弾除けゲームをクリアしたしたのだが、シノンはこの時点で「ん?」と思い始めていた。銃撃を避けるゲームだったのだが、そのキリトの動きはよく見た事があったような気がしたからだ。

そして決定的になったのは、キリトが光剣・フォトンソードを購入してソードスキルを模倣したものを放った時だ。

 

『……キリト、なの?』

『……え?』

 

そのソードスキルを放つ瞬間、シノンの目には目の前の少女(誤解)に彼の姿がダブったのだ。キリトも目の前の少女の雰囲気がシノンに似ているなーと思っていたが、この時点で彼も目の前の彼女がシノンであると気がついたのであった。

 

『まさか、シノンか!?』

『嘘、どうしてアンタ……。そ、そんな……あ、あ―――』

 

さんざん女顔のチナツをからかっていた彼が、今では彼と同類になっている。これは彼女にはとても耐えがたい事であった。その結果が―――。

 

 

 

『あっはっはっははははははは!!!!』

 

 

 

シノン。キャラ崩壊の大爆笑であった。

こうして、現在まで至るのであった。

 

「ひー! ひー!! お、お腹痛いッ!! あはは!!」

「そ、そんなに笑う事ないだろ!!」

「だって、アンタ! その恰好ッ!! ぷ、くくく!!」

 

何とか笑いをこらえようとするが、我慢できず思わず吹き出してしまっていた。

それにしてもシノのん、笑いすぎであった。そんなに笑いすぎると………。

 

「や、やっぱり無理! あッ!! はっはっはははは―――ッ!!?」

「な!!?」

 

笑い続ける彼女であったが、シノンの姿が次の瞬間には消えてしまっていた。

 

「シノンが、消えた……?」

 

なんて事はない。アミュスフィアの安全装置が危険を感じて強制ログアウトしたのであった。

つまりは。

 

「笑いすぎて、酸欠!? そんなに笑う事ないだろ!!?」

 

その事実に、キリトも流石にショックが隠しきれず打ちひしがれるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「遅いな、シノンの奴」

 

BOB出場者が集まる待機エリア。さらにそこにある控え室にてチンクは一人シノンが来るのを待っていた。

 

「う~む。まさかと思うが寝坊か? やはり、INする前に電話をすべきだったか?」

 

今、リアルの季節は冬。クリスマス前という事もあり外は寒い。まさかとは思うが、風邪でも引いているのではと一瞬考えてしまう。因みにチンクは現在リアルではドイツにいる。諸事情で少し帰国していたのだ。

 

「ふん。もっとも、体調管理も任務の内だ」

 

別にシノンは軍人でも何でもないのだが。しかし、チンクはその言葉とは裏腹にソワソワした様子で心配していたのであった。

 

「む、メッセージか?」

 

チンクはそのメッセージを開き読み終えると溜息を吐き、その返信をするのであった。

 

「まったく、ようやく来たか」

 

呆れた様子でそう呟く彼女であったが、その呟きには安堵の気持ちが篭っていたのであった。

 

「だが、客一人だと? 誰だ? バレットの奴か?」

 

シノンからのメッセージに少し疑問を持ちながらも彼女は相棒を待つのであった。

 

 

 

 

 

 

それから数分後。

メッセージを受け取ったシノンはキリトを伴ってチンクのいる控え室へとやってきたのであった。

 

「遅かったな」

「ごめん。ちょっと、道中面白い事があって」

「は?」

「おい!」

 

シノンのその言葉に、キリトは非難の声を上げ、チンクは意味が分からないと間抜けな声を出していた。

とは言え、実はあと少しで笑い話にもならない状況になりかけていた。あの後、何とか合流できた二人であったが、受付時間もギリギリまで迫っており、あと少しで二人そろって仲良くBOB不参加になる所であったのだ。

何とかエントリーに間に合ったのも、道中キリトが乗り物アイテムを見つけたからであった。

 

「しっかし、アンタ。よくあんなの運転で来たわね」

「うちの骨董バイクのおかげだな」

「あぁ。あの燃費が悪いってぼやいてアレ?」

「?」

 

シノンとキリトは二人にしか分からない会話をして、チンクは首を傾げるしかなかった。

 

「と言うか、誰だ。ソイツは? シノンの知り合いか?」

「あぁ、いやコイツは……」

 

シノンが説明しようとした、その時だ。

 

「こんにちは。今日初めてGGOをプレイした者です。ここに来る途中の間、シノンさんに道案内をしてもらったんです」

「……は?」

 

そのキリトの言葉に、シノンは絶句する。嘘は言っていない。なに一つ嘘は言っていない。ただ、言葉が足りないだけだ。

 

「ほう、初心者か。BOBには記念参加のようなものか? しかしその割には、装備が……」

「えぇ、まぁ。この装備は途中の武器屋でちょっとしたゲームをして……」

「ほう。あれをクリアしたか。大したものだ」

「あはは。まぐれですよぉ~」

 

しかもちょっとカマっぽい喋り方だ。シノンは録音したい衝動と、笑いたい衝動を堪え、キリトの肩をガシッと掴むのであった。

 

「ちょっと、アンタ!!?」

「なんだよ、シノン。ちょっとした冗談だろ?」

 

シノンの苦言に、呑気に笑うキリト。しかし、彼はまだ気づいていなかった。性別を偽る冗談が、時にとんでもない事を引き起こしてしまう事に。

 

「さて、話し中に申し訳ないが、そろそろ時間だ。準備をした方がいいな」

「え?」

「やっば! ちょっと、チンク!! コイツはキリ―――」

 

シノンが急いでチンクを止めようとする。だが、それは少しばかり遅かったのであった。

 

「ん?」

「んなぁ!?」

 

チンク、装備解除で下着姿であった。いくら現実とは違う姿のアバターとは言え、これは恥ずかしい。

 

「なんだ、どうした?」

「いいから! チンクはさっさと装備をしなさい!! アンタは見るなぁッ!!」

「ぐふぅ!?」

 

シノンはキリトに強烈なビンタをかますのであった。もろに受けた彼はそのまま勢いに耐えきれず倒れ込むのであった。

 

「お、おい! 何をしている!?」

 

張り倒されたキリトを見て、チンクは慌てて駆け寄る。無論、下着姿のままであった。

 

「シノン! 何をしている!? 何があったかは知らんが―――!! ところでお前、なぜ顔を背ける?」

 

シノンを非難するチンクであったが、何故か自分から顔を背けるキリトを不思議に思い尋ねるのであった。

 

「いや、その……! ふ、服を!?」

「ん? 服がどうした?」

 

未だにキリトを初対面の女性プレイヤーだと思い込んでいるチンクは訳が分からずにいた。それを見てシノンは額に手を当て深いため息を吐きながら言うのであった。

 

「そいつ、キリトよ」

「……なに?」

 

その言葉で、チンクの脳は思考停止をした。

 

「あ、あはは」

 

固まるチンクに、キリトは顔を背けながら笑うしかなかった。

 

「はぁ、ったく」

 

そしてシノンは見ていられないと、未だに固まっているチンクの手を掴み、勝手に動かしてステータス画面を開き、装備を簡単に整えるのであった。

 

「お、おい」

「うっさい。アンタは黙って目を瞑ってなさい」

「はい」

 

勝手に装備を弄るシノンを嗜める様に声を掛けるキリト。やっている事はかつてSAOで行われた睡眠間PKに似ているため、キリトはあまり良い顔はしていないが、状況が状況だったのですぐに黙るのであった。

 

「これでよし。ほら、チンク! アンタもいつまで固まっているのよ!!」

 

顔を真っ白にして固まるチンクに喝を入れるシノン。しかし、当のチンクはと言うと……。

 

「チナツ以外に見られた。チナツ以外に見られた…………」

 

ブツブツとうわ言のように呟き続けるのであった。

キリトは今まで似たような現場に何度巡りあった事がある。(もげればいいと激しく思うが)

だが、そう言った状況でも大抵の相手は何だかんだ言ってキリトに多少なりとも気がある者ばかりであった。

けれど、今回は今までとは少し違う。チンクには別の想い人がいて、キリトはあくまで友人でしかなかったのだ。故にチンクに取って今の出来事のショックは計り知れないのであった。

 

「(と、とにかく謝らないと)」

 

純粋にキリトはそう思った。原因は自分の悪ふざけなのだから当然だ。

……妹分にこんな事をしでかしたとアスナが知った時の反応が怖いというのもあったが。

 

「そ、その。チンク、俺が悪―――」

「―――ぬ、ぬがぁああああああ!!!?」

「おわぁあ!!?」

「キ、キリトッ!!?」

 

キリトの声が掛かるのがスイッチとなり、チンクはナイフを顕現させキリトを何度も切り刻んで行く。現実ならスプラッタな大事件であった。

 

「い、痛い!! いや、痛くはないけど、痛い気がするッ!!?」

「黙れ、黙れ、黙れ!!! キエロ、きえろ、消えろぉッ!!?」

「落ち着きなさいチンク!! 全部終わったら、リアルでコイツをぶん殴っておくから!!」

「さらっと、シノンさん!?」

「あんたが悪いんだから、黙ってなさい!!」

 

こうして、BOB本戦前は混沌に包まれるのであった。

 

 

 

 

 

 

同時刻。ALO

 

「やあぁあああ!!」

 

草原がどこまでも広がるフィールドで、猫耳の少女が巨大な大剣を手に持ちブンブンと振り回して、トカゲのモンスターを岩壁へと追い詰めていた。

 

「よし、追い詰めた!! シャル、セシリア!!」

「うん、任せて!!」

「準備は万全でしてよ!!」

 

猫耳の少女…リンの掛け声とともに、後方に待機していたシャル、セシリアと呼ばれる二人が準備していた魔法を放つ!! 壁で逃げ場のないモンスターは避ける事ができずに直撃を受けた。

 

「直撃! ついでに、バッドステータスになった!!」

「今ですわ!! リンさん!!」

「まっかせなさい!!」

 

三人が息のあった連携でモンスターを倒していくのであった。そんな様子を少し離れた場所で見ていたのは一見女性にも見えてしまう一人の少年……チナツであった。

 

「なぁ、皆。俺も手伝……」

「いらないわよ!! 邪魔!!」

「結構ですわ!!」

「あ、あはは。チナツはアイテム整理でもして待っててよ」

「(´・ω・`)」

 

結構きつい言い方をされるチナツであったが、実はこれを言うのは今日で何度目かである。いい加減しつこいと叱られてしまったのである。

 

「なんだよ、皆して。ちょっと前まで俺に頼ってたくせに」

「いや、私含めてもう初心者じゃないんだ。仕方なかろう」

「お、ツバキ!」

 

いじけながら言われた通りアイテム整理をしているチナツの前に、赤い髪をしたポニーテールの女性プレイヤーが現れる。その和風の衣装からさながら女侍と言った所か。

 

「ここら辺のモンスターはそんなに強くない。お前がいなくても心配はいらん」

「やー、でもなー」

 

それはそれで寂しい。今までは、クエストなり、モンスター狩りなり、チナツやチンクがいてこそだったが、最近ではそれぞれソロで活動する事も多くなっている。

別にギルドメンバーだからと言って常に一緒にいなくてはいけないという訳ではない。種族だって結構バラバラだし、そう考えるとそれぞれバラバラに動くのも良い事だ。だが、やっぱり寂しいのだ。

そんなチナツを見かねたのか、ツバキが溜息を吐きながら言う。

 

「というより、今度実装されるという大型クエストに向けてみんな頑張っているのだ。お前の足を引っ張らないとうに、とな」

「そっか、俺も昔キリトに追いつきたくて頑張ってた事あったけど、似たような物―――ん?」

 

そんな会話の中で、チナツはある事に気が付く。

 

「どうした?」

「や、なんかメールが来てさ」

「ALO内のメッセージか?」

「いや、現実」

 

ALOというよりも、多くのVRMMOに言える事だが、現実のメールやデータをゲーム内に持ち込めるようになっているのだ。現にチナツ達は冬休み中そのシステムを利用して学校の課題をALO内でしてからクエストに出かける事もあった。

 

「弾の奴か……えっと?」

『BOB予選now!! ぜってー、本戦にいくから応援してくれよ!!』

「びー、おー、びー?」

「なんだ? BOBとは?」

 

特に見ても問題のない内容だったからか、チナツはツバキに今のメールの内容を見せていた。ツバキは見覚えのない単語に首を傾げていた。その時、チナツの傍に小さな妖精が……。

 

「ぷ、しらねーでやんの。だっせー」

「イラッ!!?」

「ツバキ、押さえろ!」

 

訂正、妖精の様な羽が生えたナマモノがそこにはいた。名前は、モッピーと言って、現実のツバキ……箒に似ているような気がしないでもない。(本人は全否定しているが)

 

「これ位でキレるとか、ゆとりは……おお哀れ哀れw」

「ぐッ!! ゆとり教育など、何十年前の話だ!!?」

 

ツバキは既に腰の刀に手を当て構えていた。チナツが抑えていなければ、とっくに刀を抜いて斬りかかっていたであろう。

 

「モッピー、何でも知っているよ。BOBはGGOの一大イベントで、本戦はネット配信されるって事を」

「へぇ、そんなのがあったのか、あのゲーム」

 

チナツは、はっきり言ってGGOと言うゲームにあまり良い印象はない。急速に普及していくVRMMOはネット犯罪が増加している場所でもあるのだ。

VRゲームの黎明期ともいえるのが今の時代。そんな中、現実のお金に還元できるあのゲームはあまりにも危険に感じるのも仕方のない話であった。

黒ではないが、グレー……それもかなり濃ゆい色の。それが、チナツのあのゲームに対する印象であった。

勿論、実際に触れたわけではないし、友人の弾もプレイしている理由から全否定はしていないのだが。

 

「けど、そうだな。もし、弾の奴が本戦に出れるようなら応援してやらないとな」

「モッピー何でも知っているよ。今回は海外のサーバーからは参加不可能だからチャンスがあるって事を」

「確かあのゲームってアメリカの会社が運営してたっけ?」

「ザスカーっていうんだよ。モッピー物知りだからはっきりわかるんだねー」

「(まるで話についていけんか……)」

 

ツバキはその話について行けず、少し茫然としていた。とは言え、ALOでも一杯一杯なのにそれは仕方無かろう。だが、そんな様子を察したのか、モッピーがツバキへとフラフラ近寄ってきたのであった。

 

「モッピーに知識で負けて、ねぇ、どんな気持ち? どんな気持ち?」

「……ブチィッッ!!!」

「おわぁ!? ツ、ツバキ!!? 落ち着け!!?」

「えぇえい!! 離せ、一夏!! コイツはここでたたっ斬る!!!」

「ネットゲームでリアルネームを言うとか、おお惰弱、惰弱w」

「ぬがっぁぁぁあああああ!!!」

「うわぁあ!? モッピーもツバキを煽るな!!」

 

相性が良いのか、悪いのか。今日も今日とて暴れ狂うツバキを押さえながら、モッピーを叱るチナツであったのだ。

ALOは……ギルド、サマーラビッツは今日も平常運行であった。

 

「(そう言えば、最近チンクの奴INする回数が少ないな。ドイツで忙しいのか?)」

 

もっとも、この時チナツはSAO時のパートナーがGGOでの騒乱に巻き込まれつつある事実をまだ知らなかったのであった。

 




やっほー。モッピーだよー。
皆が、ALOやってるけど、早く本編でもこう言った描写できると良いのにねー。

モッピー何でも知っているよ。そうすればアイドル妖精モッピーも本編にもっと出れるって事を。
モッピー何でも知っているよ。セッシーはうっかり本名でキャラ作っちゃったベタな人だって事をー。

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