TSお嬢様はミスター味っ子の料理を食べ尽くす!【完結】   作:寛喜堂秀介

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12 彼女が水着に着がえたら

 

 

「海ー! ですわーっ!!」

 

 

 両手を大きく広げて、水着姿の歩夢は叫ぶ。

 

 場所は相模湾(さがみわん)葉山(はやま)大浜(おおはま)海水浴場。

 夏本番の砂浜は、大勢の人でごった返している。

 

 

「海なんてマジいつぶりかって話ですわ! 人と熱気がすっげーですわ!」

 

 

 近距離パワー型お嬢様の歩夢でも気圧されてしまいそうな盛況だ。

 

 

「歩夢ちゃーん!」

 

 

 と、更衣所から出てきた一雄が手を振りながら駆けてきた。

 歩夢が振り返ると、一雄は手を振った、そのままの姿勢で固まってしまった。

 

 

「一雄さん、どうしたんですの?」

 

「い、いや……大胆な水着だね歩夢ちゃん。てっきりワンピースとかだと……」

 

「わたくしみたいなクソ貧乳だと、ワンピースは寸胴に見えてしまうんですわ!」

 

 

 歩夢は胸を張る。

 ピンクのビキニに、胸の部分にはフリルで、貧乳を誤魔化している。

 元々お尻は形がよく、大きめなので、フリルのおかげでとんでもなく均整がとれたプロポーションに見える。

 

 世はハイレグを筆頭に、ワンピースの隆盛期。

 とはいえ、素材がいいだけに、非常に魅力的だ。

 浜辺の男性の視線を集めてしまっているが、歩夢は頓着していない。

 

 

「で、でもお腹が見えて……」

 

 

 一雄の顔は真っ赤だ。

 歩夢はまったく気にしない。

 気にするとしたら太陽の光だけだ。すでに日焼け対策は万全な歩夢は、自信たっぷりに胸を張る。

 

 

「なんら恥ずべきものではありませんわ! でも一雄さんが気になるなら、パレオ*1を巻いておきましょう! 一応用意してきましたので!」

 

「う、うん。オレの心臓のためにも、そうしてくれるとありがたいよ……それにしても早かったね。女子更衣室は混んでなかったの?」

 

「似たりよったりですわよ。早かったのは、服の下に水着を着ていたからですわ!」

 

 

 胸を張って衝撃発言する歩夢。

 道中着ていたワンピースの下がビキニだったと知ったからだろう。一雄は思い切り悶えている。

「試されてるのか、試されてるのかオレは」と小声でつぶやいているが、誰もなにも試していない。

 

 

「あ、歩夢ちゃん、小学生じゃないんだから……」

 

「待ってくださいまし一雄さん! これはやむにやまれぬ事情あってのことなんですわ!」

 

 

 たまりかねたような一雄の言葉に、歩夢はばっと手を前に出し、弁解する。

 

 

「事情? どんな?」

 

「ありていに言えば、女子更衣所で他の方の着替える姿を見るのが恥ずかしかったからですわ!」

 

「恥ずかしがる対象がおかしい!? それなら帰りはどうするのさ!?」

 

「帰り、帰りは……ハッ!?」

 

「いま気づいたの!?」

 

 

 指摘され、気づいた歩夢はなおも揺るがない。

 とんでもないミスだが、大丈夫だ。まだ致命傷じゃない。

 

 

「だ、大丈夫ですわ……午後からは海に入らないようにすれば乾いて服も着れますわ!」

 

「なんで頑なに更衣室使おうとしないの!?」

 

「着替えようにもそもそも下着がないんですわ!」

 

 

 不毛すぎる言い争いである。

 二人は、遅まきながら、周りから注目を集め放題な現状に気づいて。

 

 

「まずは、泳ごうか」

 

「ですわね。エンジョイスイミング! ですわ!」

 

 

 海に向かっての逃避行を開始した。

 水中で待ち構えていたエロ本同盟の連中によって、一雄が水中に引きずり込まれるまで、あと30秒。

 

 

 

 

 

 

 大浜海水浴場の昼下がり。

 苦労して、のびた焼きそばとフランクフルトを確保した歩夢たちは、人混みで蒸す海の家で肩寄せあって昼食をとることになった。

 

 

「それにしても皆さま奇遇ですわね! 海水浴場でいっしょになるなんて!」

 

「はっはっは、なにしろ俺様たちは親友! だからな!」

 

 

 その言葉に、うんうんとうなずくエロ本同盟。

 そんな連中に、一雄はジト目を向けた。

 

 

「親友なら空気読んで絡んでくるなよ……」

 

「否! 我らエロ本同盟! アベック*2の存在を許さぬ者! 親友が女連れであれば、雰囲気をぶっ壊しに行かねば無粋というもの!」

 

「女と申しましても、わたくしですけどね」

 

 

 にこにこ笑顔でそんな事を言う歩夢に、一雄を含むエロ本同盟一同は顔を寄せ合い小声で話し合う。

 

 

「おい一雄よ。この女自己評価がぶっ壊れておらぬか?」

 

「歩夢ちゃんは男女の意識が皆無だから……」

 

「ああ、記憶が……」

 

「記憶というか時代なんかねえ」

 

「なんで急に老け込むのだマモル」

 

 

 歩夢が未来の人間だと知る人間は、一雄とマモルしか居ないので、微妙に理解がすれ違っているがさておき。

 他の人間は、歩夢は記憶喪失で男女関係の機微がぶっとんだ女だということで納得した。

 その上で、同盟の一人、貴彦が、こほんと空咳して忠告する。

 

 

「あのな、安生よ。俺様は優しいから言ってやるが、貴様のように見目麗しい女を、男は皆侍らせたいと思うものだ。あまりトチ狂った距離感でくっつけば、こいつ俺に気があるな、と勘違いされても文句は言えぬぞ。特にそんなエロい……あー、エロいグラビア雑誌のような格好をしていればな」

 

「貴彦ーっ! 相変わらずお前はデリカシーがなさすぎる! だからモテねえんだよ!」

 

「一雄、貴様言ってはならんことを言ったな!?」

 

 

 取っ組み合いを始めた二人だが、いつものことなのか残りのメンバーは食事の手を止めない。

 歩夢は不思議そうに首をかしげ、彼らに尋ねた。

 

 

「そんなにエロいですの?」

 

 

 布面積の常識が違うので、本気でわかっていない。

 

 

「いや、それは貴彦がエロい目で見すぎ。どっちかというと、キレイ?」

 

「オレは健康的でいいと思いますっ!」

 

 

 マモルとゴリ男の答えに、「ですわよねー」と答えて、歩夢はフランクフルトにかぶりつく。

 美味しそうに食べる歩夢に、二人は気まずげに視線を合わせて、妙に無言になった。

 

 

「そういえばここ、アイスクリームコンテストやってるとこなんですわよね」

 

 

 食事中、今年のアイスクリームコンテストは終了しましたの看板を見て、歩夢ははたと手を打った。

 陽一と一馬が対決していた場所だ。陽一のココナッツミルクのアイスと、一馬のファイヤーアイスはどちらも美味しそうだった。

 

 

「ああ。日本中からアイスの名店が参加するっていう……もう終わってるみたいだけど」

 

「不覚っ! ですわ! おのれわたくしとしたことが……来年は絶対来てやりますわ!」

 

 

 ごごごごご、と燃え始める歩夢。

 それを見たマモルとゴリ男は、おたがい目を合わせ、うなずき合って、海の家を飛び出していった。

 

 

「なんだ? どうしたのだ、あやつらは」

 

「歩夢ちゃん、あいつらどうしたの?」

 

 

 首をひねる一雄たちだが、歩夢も困惑しかない。

 

 

「わかりませんわ。急に出て行って……このやきそば、頂戴してよろしいんでしょうか」

 

「待て。さすがに全部食うと太るぞ。女がぶくぶく肥え太るなど見ておれん。1パックだけにしておけ」

 

「先生……」

 

「やめろ! 俺様は貴様の教師ではない!」

 

 

 突っ込まれても意に介さず、「ご指摘感謝ですわ!」と答えてから。

 歩夢はパックに入った焼きそばを割り箸ですくい取って、一気にすする。

 

 

「うん。うまいっ! ですわ! このちょっとソースべったりな食感が夏の浜辺の醍醐味ですわね!」

 

「歩夢ちゃんってどんな料理にも美味しさを見出すよね」

 

「はっはっは、食事は楽しんだもん勝ちですわよ! 不味いと思いながら食事をしてもいいことありませんわ! なにより、楽しく食事してたら、大半のものは美味しく感じられますわ! ゆえにエンジョイ・イーティング! ですわ!」

 

 

 歩夢の主張に、海の家の客たちが感心して拍手を送る。

 そんな様子を見て、財前貴彦は一雄にこそりと語りかける。

 

 

「一雄よ。良い女だな」

 

「……やらんからな」

 

「ふっ、親友の女に手は出さぬわ……」

 

「貴彦……」

 

「だがな一雄。高校の時、俺様が見出した良い女との関係を貴様らにぶっ壊されたこと、俺様は覚えているからな」

 

 

 ごごごごご、と、貴彦は殺意にも似たオーラを放出して語る。

 

 

「た、貴彦、あのときのことは謝る! 正直オレらがなにもしなくても潰れてたとは思うが謝る! なんなら相手の子即日別れたがってたけど謝る! だから後生だ! 歩夢ちゃんとの関係だけは!」

 

「友情を深める! アベックは滅ぼす! なにこの俺様なら立派に両立させてやるわ!」

 

 

 と、二人が仲良く騒いでいると、マモルとゴリ男が帰ってきた。

 その手には、それぞれ別のアイスクリーム。

 

 

「お二人とも、そのアイスクリームは」

 

 

 歩夢が尋ねると、二人は笑顔で肩組みながら話す。

 

 

「コンテストをするだけあって、地元にも美味しいアイスクリーム屋が多いんだよ!」

 

「オレが買ってきたのはミルクキャンディーで、ちょっと溶けかけてるけど問題ないよな! ちょっと白い液体が肌に落ちるかもしれないけど!」

 

 

 ゴリ男が粛清されたのはさておき。

 

 

「夏の浜辺らしくふんわりさっぱりした甘さ! こいつはうっめーですわー!!」

 

 

 真夏の浜辺で、安生歩夢は満面の笑顔で声を上げた。

 

 

 

 

 

 

「はあああああっ!? 女! いまなにを抜かした!? 来るときに服の下に水着を着て来て下着を持ってくるのを忘れただとおおおっ!?」

 

「お前、貴彦、落ち着け!」

 

「これが落ち着いていられるか一雄! しかも、しかもだ! そんな子供みたいなことしてきた理由が、更衣室を使うのが恥ずかしいからだと!?」

 

「待ってくださいまし! 誤解がありますわ! わたくしが恥ずかしいのは、裸を見られることに対してではありませんわ! 他所の女性の裸を見るのが恥ずかしいのですわ!」

 

「より問題だわスカタン! 男子中学生か! いや中学生の頃の俺様は興味津々であったわ! そこにおっぱいがあればジロ見しておったわ!」

 

「その主張最高にいらない……」

 

「まあオレらも興味津々だったけどね」

 

「じゃなきゃエロ本同盟なんてやってないしな」

 

 

 吠える貴彦に、ゴリ男たちが小声でつぶやく。

 

 

「とにかく! いい女がそんな小学生女子みたいな真似してるのは、この俺様が許せん! ゴリ男! クルマを貸してやる! こいつの下着を買ってこい!」

 

 

 言って、貴彦はゴリ男にベンツの鍵を叩きつける。

 

 

「ちょっとまて! オレ女物の下着なんてしらねーよ!」

 

「貴様の好みのやつでいい! 金もくれてやるからとっとと行け!」

 

「わかった! 歩夢ちゃん、サイズ教えてくれ!」

 

「えーと、はいですわ。メモしますので、店員さんに渡してくださいまし」

 

 

 勢いに押されながら、歩夢は店で紙とペンを借りて、サイズを書いた紙を渡す。

 なぜかゴリ男は鼻息を荒らげながら、駐車場に向けて駆けていった。

 

 

「おい、ときに貴彦、貴様なぜゴリ男に行かせた」

 

「ふん、一雄、知れたことよ! ゴリ男なら己の欲望にしたがってエロい下着を買ってくると確信しておるからだ!」

 

「貴様ああああああっ!!」

 

「はーはっはっは! 帰り道ちょっと気まずい雰囲気を味わうがよい!」

 

 

 ゴリ男が買って帰ってきた下着は、それはそれはスケベなやつだったという。

 

 そんな事があって、帰り道。

 無事下着に着替えられた歩夢は、助手席でもぞもぞする。

 

 

「なんか半分中身が見えてるような下着を着るのは、防御が心もとない感はんぱないですわね!」

 

「歩夢ちゃん、感想言わなくていいから」

 

「Tバック*3とか初めて履きましたわ!」

 

「言わなくていいから!」

 

 

 悶える一雄を尻目に、歩夢は帰りのドライブを楽しんだ。

 

 

 

 

*1
日本での流行は1990年代後半

*2
男女の二人連れ

*3
後ろから見るとTの字に見える下着

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