TSお嬢様はミスター味っ子の料理を食べ尽くす!【完結】   作:寛喜堂秀介

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26 いけいけ!バカオンナ

 

 

 有馬記念が終わった後は、おおわらわだった。

 

 なにせ払戻金の総額が、前代未聞の24億円。

 受け取ろうにも、ざっとトランク24個分。約240kg。まともに運べる量じゃない。ついでに一雄の勝ち分も、2億ほどある。

 馬主用の窓口でもはじめての事態らしく、上への問い合わせやらなにやら慌ただしい。通りがかった馬主も「なんだなんだ」と興味を示す。

 

 結局、額が額だけに銀行から取りに来て貰おうということになり、歩夢が担当の銀行員に連絡すると、この年の瀬に飛んできてくれて、なんとかなった。

 

 貴彦の仲間だという彼は、むちゃくちゃ感謝して帰っていった。

 ついでに貴彦に電話で報告すると、「気安く伝説を作るな!」と頭を抱えられたりした。

 あと、税理士にも報告すると、3回くらい事実確認されて、金額の確認も3回くらいされて、すべて事実だとわかると「なんでこんなド年末に」と泣かれたりもした。

 

 それから。

 なんだかんだで、面白がった馬主の方々の知遇を得たりしつつ、年末の一大イベントは終わり。

 

 そして年が明けた。

 

 

 

 

 

 

「──皆さま、新年明けましておめでとうございますわ!」

 

 

 神社へ向かう道すがら。

 安生歩夢は、振り袖をくるくると振り回しながら、友人知人に挨拶する。

 といっても、行き交う人はだいたい知り合いなので、歩夢は挨拶し通しだ。

 

 同行しているのは、エロ本同盟の4人。

 仲居さんは実家に帰っており、正月は会えない。

 一雄やゴリ男、マモルは私服だが、貴彦はその足であいさつ回りに出るのだろう。紋付袴だ。

 

 歩夢も、初詣のあとはあいさつ回りをする予定だ。

 久保弁護士や永田社長、旅館の女将さんに、稲荷町と岡本町の組合長さん。それに日の出食堂の法子さんや陽ちゃん。

 令和の世では意識していなかったが、お世話になった人のところにあいさつ回りに行く昭和の形式も、季節感があって趣深いものがある。

 

 しみじみと感じながら、参拝待ちの列に加わった、そんな時。

 

 

「──生まれる前から愛してましたーっ!!」

 

 

 小柄な少女が、いきなりタックルかましてきた。

 

 

「え、え、誰ですの?」

 

「一目でビビッときました! 結婚してくださいっ!!」

 

 

 タックルで混乱しているところに、追撃で告白を叩き込まれて、歩夢はパニックになる。

 

 

「え、なんですのこの子? 中学生? 百合っ子? 横島くん? オヌシナニモノ*1?」

 

 

 見れば中学生くらいの少女だった。

 気のせいか、顔にはどこか見覚えがある。

 それに、特徴的な目元の泣きぼくろ……

 

 

「蘭です! 姉咲蘭(あねざきらん)です! 中学二年生です! 結婚してください!」

 

「ってお母様!?」

 

 

 思わず口をついて出たと同時。

 近づいてきた中年男性が、少女の頭をポカリとやった。

 

 

「いったーい!?」

 

「こら、蘭! お前人様になにやっとるんだ!」

 

 

 痛みに悶絶する少女の手を引く男性。

 連れらしき中年女性が「すみませんすみません」と平謝りに謝ってくる。

 

 ふたりにも、やはり見覚えがある。

 おそらくは歩夢の母方の祖父母だ。

 

 

「さあ、もう帰るぞ!」

 

「うちのバカ娘がすみませんすみません……」

 

「待って、せめて、せめてお名前をーっ!!」

 

 

 平謝りの両親に引きずられていく少女。

 その先には、事情が飲み込めてないっぽい少年。

 

 

 ──お祖父様もお祖母様も、お母様も叔父様も……みんな若っけーですわ。

 

 

 当たり前だが、36年前である。

 すでに中年の祖父母はともかく、母や叔父は、変わりすぎてて本気でわからない。

 

 

「歩夢ちゃん、お母様って、ひょっとして……」

 

 

 一雄が小声で尋ねてきたので、歩夢も小声で返す。

 

 

「はいですわ。姉咲蘭。ガチのお母様ですわ」

 

「うわあ、言われてみればどこか似てるような?」

 

 

 たぶん気のせいである。

 整いすぎてて類似点を求めるのは難しいが、顔の系統的には父方のほうが近い。

 

 

「でもその……歩夢ちゃんのお母さんって、女の子が好きな人なの?」

 

「そんなこと聞いたこともないですわ。でも、お父様には完全に一目惚れだったらしいですし、わたくしとお父様は半分遺伝子がいっしょなので……」

 

「衝動的に告白しちゃったと……なかなか飛んでる子だねえ」

 

 

 ふたりでひそひそと会話していると。

 貴彦が上機嫌で一雄の肩を叩いてきた。

 

 

「はっはっは、一雄よ。あんな小娘に先を越されて恥ずかしくないのか?」

 

「ねえどんな気持ち? 中学生の女の子に負けてどんな気持ち?」

 

 

 ゴリ男も全力で煽る。

 それに続いて、マモルがにっこにこの笑顔で顔を寄せてくる。

 

 

「ねえ、一雄」

 

「マモル、やめてくれ。オレは歩夢ちゃんを支えたいんであって、歩夢ちゃんの境遇考えたらそうそう告白なんて……」

 

「へ・た・れ♡」

 

 

 一雄はキレた。

 

 

「こんのクソマモルがあああっ!」

 

「ばーかばーか弁護士になった僕は無敵なんだよ! いわばニューマモル! モテの道が開かれてんだよ! お前らを置いて幸せになってやるから、悔しかったらお前もちゃんと幸せになりやがれバーカ!」

 

 

 激闘を始めた一雄とマモルに、歩夢は首を傾げる。

 

 

「お二人はなんで喧嘩を?」

 

「喧嘩ではない。戯れてるだけであろう」

 

 

 戦うふたりを楽しげに見ながら、貴彦は笑顔でそう語った。

 

 

 

 

 

 

 一行が、神社内をお参りして回って、そろそろ帰ろうとした時。

 ざっ、と、ヒールを滑らして、一人の女が歩夢の前に立った。

 

 年の頃は、20過ぎ。

 ワンレンボディコンミニスカハイヒール。

 おいおい朝っぱらからディスコにでも行く気かいっていう、この時代にしても気合の入った格好の女は、歩夢と背後の4人をじろじろと見て……やおら扇子を向けてきた。

 

 

「あなたが安生歩夢ね! なかなかだけど、わたしが連れてる男のほうがレベルが高いわよ!」

 

 

 いちいちポーズをつけて話す女。

 その後ろには、黒スーツサングラスで統一した長身の男たち。

 イケメンだったり体格が良かったり、外見は様々だが、一様に身だしなみには金をかけている。

 

 挨拶されては、返さねば無粋というもの。

 よくわからないまま、歩夢はポーズを取りながら応える。

 

 

「ご挨拶いただきありがとうございますわ! あらためて、わたくし安生歩夢と申します! しかし、わたくしの無知をお許しくださいまし! わたくし貴方様のことを存じ上げておりませんの! 差し障りなければお名前を教えていただけませんこと!?」

 

「わたしは鷹ノ宮桜花(たかのみやおうか)よ! あなた、ここいらに住んでてわたしの名前を聞いたことないの!?」

 

「すみません! わたくしディスコに行ったことがございませんので……って桜花おば様!? マジですの!? 若っけーですわ!」

 

 

 ノリと勢いで返していた歩夢は、女の名前を聞いて驚く……が、呼び方が悪かった。

 ディスコ女こと鷹ノ宮桜花は、満面に朱を注いだようになる。

 

 

「誰がディスコ女か!? って誰がおば様だ!? 誰が若作りだ!」

 

「若作りではありませんわ! たしかお……桜花さまはいま22歳でしたわよね?」

 

「知らないって言ってて、あなたわたしのこと知ってるんじゃないの!」

 

「いまわかりましたわ!」

 

 

 長々と会話しているが、内容が不毛過ぎる。

 桜花の背後では、黒スーツの男たちがひそひそと会話している。

 

 

「桜花ちゃんよりぶっとんでるなこの女」

 

「でもむちゃくちゃ美人だよな」

 

「しかも若い」

 

「でもおっぱい小さいな」

 

「桜花ちゃんも盛らなきゃこんなもんじゃないか?」

 

 

 声こそ小さかったが、桜花はきっちり聞きとがめた。

 

 

「そこっ! うるさい! あと太郎は懲罰! 誰が貧乳か! やっておしまい!」

 

「うす!」

 

 

 桜花の号令で、黒スーツの仲間にボコられる黒服イケメン(太郎)。

 レベルは高くても、会話もノリもエロ本同盟とあまり変わらない。

 

 

「そういえば、桜花さまはどのようなご用向きでわたくしに?」

 

 

 歩夢が質問すると、桜花は気を取り直してびしっとポーズを取る。

 

 

「あなたが! わたしより! 注目を集めてるのが気に入らない!」

 

 

 一語一語ポーズを変えるのはなんなのか。

 そして歩夢には、桜花の言葉の意味がよくわからない。

 

 

「はて、注目を?」

 

「とぼけないで! 記憶喪失で悲劇のヒロインとか下町の人情噺とかで雑誌や新聞やテレビにまで写って! しかも破廉恥な水着の写真まで!」

 

「ちょっとまって聴き逃がしにできないんですけれど、水着の写真ってなんですの!?」

 

 

 歩夢はそんなもの、撮られた覚えがない。

 一雄がちょっと気まずそうに頭をかきながら、歩夢に説明する。

 

 

「あー、海行った時に誰かに撮られて、投稿雑誌かなんかに載ったんじゃない?」

 

「勝手に写真取られて雑誌に乗るんですの? どこ行っちゃってますの昭和のリテラシー!?」

 

 

 そんなものは無い。

 いや高度成長期からこちら、徐々にマシになってきているのだが。

 

 

「しかも下町の商店街で人気で! 競馬場の美少女とか言われて! わたしより目立ってるのが! 気に! 入ら! ない!」

 

 

 桜花が一歩近づいて、扇子を歩夢の鼻先で止める。

 

 

「あー、競馬場でも撮られてますのね……そう言われましても、わたくしはやりたいことをやってるだけですので!」

 

「なによそれ。目立つための努力なんてしてないとでも言うつもり!?」

 

「目立つことを気にしてはおりませんが、積極的に目立とうとは思っておりませんわ!」

 

「天然で目立ってるって!? 目立つことに興味ないって!? 気に入らない! まったく気に入らないわ! 安生歩夢!」

 

「わたくし桜花さまのこと大好きですわ! 才能があるのに努力を惜しまないし、情が深くて面倒見がよくて……」

 

「やめて! やめなさい! なんで褒めてくるの!? 怖いんだけど! 怖いんだけど!」

 

 

 好意全開の歩夢に、桜花は圧倒されている。

 その様子に、黒スーツたちが小声で会話する。

 

 

「おい、桜花ちゃんがタジタジだぞ」

 

「ド天然だなあの子」

 

「相性がクソほど悪いなこりゃ」

 

「桜花ちゃんのいいとこわかってるのが好感度高いよな」

 

「タジタジの桜花ちゃんもいいよね」

 

「いい……」

 

 

 なんだか収拾がつかなくなってきた。

 そこに、ひょこりと貴彦が首を突っ込んできた。

 

 

「安生よ。こやつ知り合いか? 乳は盛っておるがなかなかいい女ではないか」

 

「そこっ! いちいち胸をあげつらわない!」

 

 

 桜花がツッコむ。

 彼女の素性を一言で説明する言葉があるのだが、貴彦と桜花の前では絶対に言えないので、どうしようか迷う。

 

 そこに、一雄が小声で尋ねてくる。

 

 

「歩夢ちゃん、知ってる人?」

 

「これ、絶対言わないほうがいいんですけど……貴彦さんの未来の奥様ですわ」

 

 

 鷹ノ宮桜花。

 歩夢が知る彼女の名は、財前桜花。

 貴彦の愛妻にして最大の支援者……らしいのだが、くわしい事は、照れくさいのか貴彦は教えてくれなかった。

 貴彦が会社を立ち上げる時、支援してくれた資産家の孫娘らしいので、そのあたりに出会いがあったのだろうが。

 

 

「うっわ、マジ? でも言われてみりゃ貴彦の好みストライクだ。胸以外は」

 

「よし滅ぼす」

 

 

 落ち着けニューマモル。

 

 そして歩夢がエロ本同盟の連中と話をする姿に、桜花がまた怒り出す。

 

 

「ええい、話を聞きなさい安生歩夢! とにかく、わたしはあなたより目立ってやるから、心しておきなさい!」

 

「応援しておりますわ桜花さま!」

 

「なんで応援するのよ! 余裕なの!?」

 

 

 捨て台詞にまで調子の崩れる返しをされて、鷹ノ宮桜花は肩を怒らせ去っていった。

 黒スーツたちは、どことなくほっこりした笑顔だ。

 

 

「……まったく、騒がしい女であったな」

 

 

 去っていく一団を見送って、貴彦がため息をついた。

 あたりまえだが、未来の貴彦と桜花の関係とは違いすぎて、歩夢には違和感がある。

 

 

「先生は、桜花さまにビビッと来たりはしませんでしたの?」

 

「いい女だとは思うが、ビビッと来るには胸が足りんな! まあそれは安生、貴様もだが」

 

 

 からからと笑う貴彦の背後では、久保マモルがぶつぶつとアベック抹殺計画を練っていた。

 

 

 

 

 

*1
競走馬。アイアムハヤスギル




いつもお付き合いいただきありがとうございます。
次回投稿14日を予定しております。
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