TSお嬢様はミスター味っ子の料理を食べ尽くす!【完結】   作:寛喜堂秀介

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27 安生歩夢でございます

 

 

 新年は、松の内*1から大忙しだった。

 各所へのあいさつ回りや顔つなぎ、明けてからはイベントに必要な人員の手配、配布するパンフレットやチケットなどの校正、実行委員会での会議……

 

 その間にも、考えておくべきことがある。

 年末の有馬記念で稼いだ、24億円の使い道だ。

 もう額からしておかしいが、元がサクラスターオーを救うために捨てたつもりで賭けたもの。

 結果儲けてしまったからには、ありがたく頂戴するが、やはり競馬にもすこしは還元したい。もちろん収める税金のことも考えないといけないが。

 

 といっても、まだ馬主にはなれない。

 年収だの資産だのは余裕でクリアできるが、提出する資料に2年分の納税証明が必要なので、来年まで無理だ。

 かといって一口馬主*2というのもピンとこないし、引退馬関係は窓口が行方不明だし、牧場に関しても同様だ。

 

 考えた結果。

 

 

「競走馬総合研究所……ここに寄付とか出来ませんかしら」

 

 

 JRAが設立した機関で、競走馬の生産や育成、病気の治療や競争能力の分析など、競走馬に関する様々な分野の研究を行っている所らしい。

 

 

「とりあえずお馬さんの医療の発展を願って、1億くらい寄付させていただきましょうか。残りは先生に投げて……ダメですわ。金銭感覚がザルになってますわ。一度税理士様に相談してからにいたしましょう」

 

 

 その後、いろいろと相談して、ちゃんと寄付できることになった。

「できれば匿名……」と言いかけたところ、税理士が半ギレしかけた*3ので、結局歩夢名義になったという。

 

 

 

 

 

 

 そして1月下旬。

 2月6日から始まる、稲荷町と岡本町の下町グルメ合戦も間近となった。

 メディア関係は、昨年末から一雄が動いていたが、キー局のひとつが、夕方のニュースで特集を組んでくれることになった。

 

 そうなると歩夢も出ざるを得ない。歩夢と一雄、それに両商店街の組合長がインタビューを受け、それから商店街を周り、事前に許可をもらった飲食店を撮影。

 各町内会の、決起集会の映像なんかも撮ったりして、なんだかんだで撮影は日をまたいだ。歩夢はなぜか、追加でいろいろ撮影された。

 

 そして数日後、イベントを目前に控えた夕方。

 ニュースが放映されるということで、歩夢たちは日の出食堂に集まった。

 

 

『特集です。東京の下町、関陽地区で、いま熱い戦いが始まろうとしております』

 

「はじまったわ!」

 

 

 ニュースで下町の話が出て、味吉法子が目を輝かせる。

 テレビ画面に映し出されたのは、関陽地区の、手書きの地図。

 その中で、岡本町と稲荷町が画面中で光り、紹介される。

 

 

『この両自治体、とにかくライバル意識が強い。合同で催される運動会では野次怒号が飛び交い、草野球で相手町内のチームに勝てば、煽る、煽る、煽る!』

 

「ちょっとまてオレは煽ってない! 煽ってるのはウチのオッサンども!」

 

 

 オッサンどもの煽りを背景に、大写しにされている自分の姿を見て、陽一の同級生の野球部エース、仲田は泣いた。

 

 

『対抗意識は、飲食店に関しても同じ。岡本町では、年に一回、ラーメン祭りが開かれているのですが、これに対抗意識を燃やした稲荷町は寿司握りコンテストを開くという……このようにライバル関係にある両自治体に、ついにグルメ戦争が起こる!』

 

「なあ、これニュースと言うかバラエティ特番……」

 

 

 だれかが突っ込んだが、みんな同感だった。

 画面では、岡本町商店街組合長、吉本哲が、商店街をバックに説明している。

 

 

『岡本町商店街の売りは先進と独創! なにをするにも真似ばかりの稲荷町商店街とはわけが違う!』

 

『稲荷町商店街の売りは伝統と革新。ただ新しければいいという岡本町商店街とは違いますよ』

 

 

 続いて稲荷町商店街組合長、松竹学が、やはり商店街をバックに語る。

 

 

「松竹さん、なかなかイヤミったらしく映されてますな」

 

「吉本さんこそ、なかなか刺してくる……テレビの編集って怖いもんだ」

 

 

 両組合長が顔を見合わせる。

 当然どちらも現場に居たので、「おたがい切磋琢磨」とか「相手のいいところを学ばせてもらいつつ」とか、もっといいこと言ってたことを知っている。まあ嫌味を言ったりチクチク刺したりもしたのだが。

 

 

『こうして起こった岡本町VS稲荷町の下町グルメ合戦。だがどうやって戦うのか、どうやって勝敗を決めるのか、それを決めたのが、今回の仕掛け人……』

 

 

 そうやって、商店街を進んでいくカメラに、女性の後ろ姿が映される。

 画面はそのまま、女性にどんどんフォーカスされていって……ぽわわん、としたムーディな画面効果と音声とともに、女性が振り返った。

 

 

『テレビの前の皆さま、はじめまして わたくし安生歩夢と申します!食い道楽ですわ!』

 

「歩夢さんですよ! すっごいキレイ!」

 

 

 画面で自己紹介する歩夢の姿に、仲居さんが両手をぱたぱたさせながら指差す。

 マッチョたちをはじめ、男どもは後方兄貴面して腕組み、うなずいている。

 

 

『この安生歩夢さん、実は以前にも当番組に登場しているんです』

 

 

 ナレーターがそう言うと、流れる過去の報道の映像。

 記憶喪失で無戸籍状態だった歩夢が、人情深い下町の人々に助けられながら、戸籍を取得する。そんな姿が映し出される。

 

 

『そんな歩夢さん、戸籍取得後は岡本町のラーメン祭りを手伝うなど、地元のイベントに積極的に参加していたのですが、両自治体のバチバチを見て、こう思ったんです』

 

 

 ナレーションとともに、画面の中の歩夢がかわいくカメラを指差す。

 

 

『この熱量を、“楽しい”に変えちゃいましょう!』

 

 

 宣言とともに、歩夢の背後に、炎の画面効果とともに、「下町グルメ合戦」の文字が浮かび上がる。

 

 

『ルールは単純! イベント期間中各商店街入り口で配られるチケットを、その日食べたお店で投票し、期間中の総投票数を競う! これですわ! 勝つのは岡本町か、稲荷町か! 皆さま、ぜひ両町内のいろんなお店に、食べに来てくださいましね?』

 

 

 画面の中の歩夢がウインクすると、店のいたるところで男どもがズッキューン、とハートを射抜かれる。一雄はキュン死した。

 

 

「……っていうかわたくしの尺長すぎません?」

 

「半分くらい歩夢さん特集みたいになってるよね」

 

 

 歩夢の言葉に、陽一が同意する。

 野郎どももうなずいているが、こいつらはそれでいい、むしろそのほうがいいと思っている。

 

 

「というか一雄さん出てきてなくない?」

 

「一雄さんも30分くらい撮ってもらってましたし、どこかで出番があるはずですけれど……」

 

 

 そんな事を話している間に、主な参加店の紹介が始まった。

 

 ラーメン祭り今年度優勝と準優勝の、「中華なかだ」と「甲来軒」……

 寿司握りコンテスト6回連続優勝の名店「寿司虎」に、町一番の老舗ウナギ屋「鰻浜」、お好み焼きの「岡田屋」……

 

 各商店街の名店が、目玉メニューとともに矢継ぎ早に紹介されていく。

 

 

『そして、大注目! 稲荷町軍筆頭──日の出食堂!』

 

「あ、陽ちゃんですわ!」

 

「すっげー! テレビに写ってる!」

 

「あたしもなかなか、悪くないじゃない?」

 

 

 どん、とテレビに映されたのは日の出食堂。

 厨房に立つ陽一と、給仕をする法子が映って、ふたりはそれぞれ声を上げた。

 

 

『日の出食堂で包丁を振るうのは、なんとまだ少年の天才料理人、味吉陽一くんです!』

 

「年齢を出さないところにテレビの配慮を感じますわ!」

 

「ちゃんと許可はもらってるから……」

 

 

 歩夢の感想に、法子が冷や汗混じりに補足した。

 日の出食堂は合法なのである。

 

 

『うちのおすすめ? 全部おいしいけど、たったひとつ、選ぶなら……これだぁ!』

 

 

 陽一の言葉とともに、どん、とキッチンカウンターに置かれる丼鉢。

 蓋を開くと、あらわれたのは……極厚のカツ丼。

 

 

『──味吉陽一特製超極厚カツ丼! みんなも食べてみてよ!』

 

 

「おおー」と、歓声があがる。

 いつも食べてるメニューだが、こうしてテレビで紹介されると、妙な感慨を覚えてしまう。

 

 

「……いいじゃない陽一!」

 

「素敵ですわ! カツ丼が食べたくなりますわ!」

 

「ほんとにな! 陽ちゃん、カツ丼の在庫は切らすなよ! 俺たちもカツ丼注文するぜ!」

 

 

 周りにチヤホヤされて、照れる陽一だが、放送はまだ続く。

 

 

『続いては岡田町軍筆頭! 奇しくも、こちらも少年料理人のお店です!』

 

「え」

 

「ひょっとして仲田?」

 

「違う違う! そもそもウチはもう紹介されてるよ!」

 

 

 全員から注目された同級生の仲田があわてて否定する。

 

 その時。

 日の出食堂の扉がばーん、と開かれた。

 

 

「そう、オレや!」

 

 

 そこに立っていたのは、陽一のライバル。

 カレーの天才にして天才少年料理人、堺一馬だ。

 

 

「一馬、来たのか!」

 

「ひさしぶりやな味吉陽一! どうやら思ったより早う勝負の機会が来たようやで!!」

 

 

 目を輝かせる陽一に、一馬は挑戦的な言葉を叩きつける。

 岡本町商店街組合長の吉本哲が、陽一に声をかけた。

 

 

「ラーメン祭りや町内会合同キャンプツアー……うちは去年から陽一くんにやられっぱなしだからね。強力な助っ人に来てもらったのさ」

 

 

 まあ仲介したのは歩夢で、いっしょに悪だくみしたのは永田社長なのだが。

 

 

「そういうわけや陽一ぃ! オレが出るからには、岡本町の勝ちは決まったようなもんやで!」

 

「負けないさ! この勝負、オレが稲荷町の勝ちで決めてやるさ!」

 

 

 ともに背後に炎を宿し、視線を交錯させる一馬と陽一。

 そのさらに後ろ、テレビ画面では、歩夢がアップで映された。

 

 輝かんばかりの笑みをたたえて。

 番組の最後に、安生歩夢は両手を広げ、画面越しに語りかける。

 

 

『エンジョイ・イーティング! このグルメ合戦、みんなでいっしょに、いざ、楽しみましょう! ですわ!』

 

「オレの出番……」

 

 

 一雄は泣いた。*4

 

 

 

*1
1月7日まで

*2
法人が持つ競走馬に出資することで間接的に馬主になった人。配当金は貰えるが、馬主が持つ特権はない。

*3
匿名だと控除が受けられない

*4
一応、コメントが全部なくなっただけで画面には出てました。

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