TSお嬢様はミスター味っ子の料理を食べ尽くす!【完結】   作:寛喜堂秀介

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グルメ合戦の日程を曜日に合わせて修正しております。


28 わが征くは飯の大会

 

 

「今回の勝負、オレが圧倒的不利や」

 

 

 グルメ合戦前日。

 出来上がった店のキッチンに立って、堺一馬は語る。

 その対面。カウンター席に座る永田社長が、「ふむ」と相槌を打った。

 

 

「一馬、どうしてそう思うね」

 

「陽一のやつはこの町でずっと店を開いとる。あれだけの腕や、常連も沢山(ぎょうさん)おるやろ。それが全部票になるっちゅうわけや」

 

「そうだね。あの美味しさで、値段設定も安い。客層は褒められたものではないが、一票は一票。これは売上勝負ではないのだから、たしかにね」

 

「対してオレは、岡本町に落下傘、店もイベント当日のオープンや。ひいきの客もおらん」

 

 

 絶望的な不利を語りながら、しかし一馬は不敵に笑う。

 同種の笑みを浮かべて、永田社長は問いかけた。

 

 

「なるほど。しかしそこまでわかっているなら、対策も考えてるんだろう?」

 

「あったりまえやでおっちゃん! オレは天才や!」

 

 

 思い切り吹き上がり、拳を突き上げてから、一馬は語る。

 

 

「普通ならこの常連客の差は決定的や! でもこれはでっかいお祭りや! 普段の何倍も客が集まってくる! そいつらを根こそぎかっさらう! この点においては、イチから店作りしたオレのほうが圧倒的に有利や!!」

 

 

 清潔で目を引く内装。

 それが外から見えるガラス張りの店頭。

 どんな店かわかりやすく、目を引く店頭看板やフラッグ、店頭メニュー。

 

 

「そして、うちの店で出すのはこれや!」

 

 

 永田社長の前に、とん、と置かれたのは、カレーライス。

 牛肉の主張が大きい以外は、なんの変哲もないカレーに見える。

 

 

「なるほど、見るからに美味しそうな正統派カレーだ」

 

「そうやでおっちゃん! この祭りのお客さんの大半は、土地勘のないとこで、美味いか不味いかようわからん店に飛び込むことになる! そこにキーマカレーやタイカレーみたいな、『カレーのようなもん』見せてみい! 店入って食おかゆう気も失せるで!」

 

 

 社長を指さしながら、一馬は意気軒昂に語る。

 ハズレがないことを、店選びの基準にする人間は多い。「味の想像がつくこと」は、ひとつの武器なのだ。

 

 

「せやからうちで出すのは『カレーライス』や! とびきり美味いな!」

 

「うむ!」

 

 

 一馬の言葉を聞いて、永田社長はスプーンでカレーをすくい、味わう。

 

 

「美味い! スパイスの芸術的な配合は、無限の奥行きを感じさせながら、どこか懐かしくもある! ライスはあえて白米で勝負し、大きく自己主張する肉はとろけるように柔らかく、満足感をいや増している!」

 

「どうや! 見た目も匂いも美味そうで、じっさい美味いやろ? これで600円は詐欺やでほんま!」

 

「いやはや、脱帽だ。値段の制約もあったろうに、これほどのものを……」

 

「わはははは、勝ったも同然、ちゅうやつや!」

 

 

 どこかで見たような決め台詞を吐きながら、一馬は笑う。

 

 一息にカレーを平らげて、水を飲んで落ち着いてから。

 永田社長はガラス越しに外の景色をながめながら、ひとり語落た。

 

 

「──岡本町の主力は、ラーメンにカレー。ひょっとすると、面白い勝負になるかもしれないね」

 

 

 

 

 

 

 一方、日の出食堂では。

 陽一は、大好きなアイドルの鼻歌を歌いながら、明日に備えての準備をして回る。

 母の法子も、フロアの床やテーブル、椅子をピカピカに磨いている。卓上調味料に至るまでピカピカだ。

 

 

「いやー、歩夢さん様々だよ!」

 

「テレビで紹介されてから、お店はずっと満員御礼だものね。売上も上々! 明日からのイベントが楽しみね!」

 

「まあ、席に限りがあるから、さばけるお客にも限度があるけどね……もったいないなあ。席数倍にしてもずっと満席になりそうじゃない?」

 

「それは無いものねだりよ。それに、特製カツ丼の注文が多すぎて、ただでさえお客様をお待たせしてるのに、それが倍になったら大変よ」

 

 

 法子の言葉に、陽一はう、と鼻白む。

 超極厚のトンカツを作るには、高温と低温、二種類の油による二度揚げが必要で、そのため時間がかかる。

 普段ならそこまで気にはならないが、来る客来る客カツ丼を頼まれては、かかる時間は馬鹿にならない。汚れた油を変えるとなると更に時間がかかる。

 

 油汚れに関しては、すでに解決している。

 床を掃き掃除する時、使用済みのお茶の葉を撒くと、小さなゴミがすいつく。これをヒントに、油汚れを米に吸い付かせることを思いついたのだ。

 

 

「まあ、町同士の勝負なんだから、あまり混むようなら他のお店にご案内できるようにすればいいじゃない」

 

「ええ、でももったいないよ。みんなオレの料理食べに来てくれてるんだし──」

 

 

 まてよ、と陽一は考え込む。

 なにか企んでいるのか、小鼻がぴくぴくしている。

 しばし、考え込んで。

 

 

「──母さん、オレちょっと組合長さんのとこ行ってくる!」

 

「ちょっと陽一!? んもう……」

 

 

 いきなり飛び出していった陽一に、法子はため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 下町グルメ合戦。

 開催日は、2月6日、7日の土日。時間は10時~17時。

 歩夢は土日スタートの土日終わりの9日間を提案していたが、2日に集約して一日の来客数を増やそうという組合の要望で、こうなった。

 

 勝負方法は、一般参加者による投票形式。

 当日各町に設置された窓口で投票チケットを受け取り、食事したお店で投票できる。

 2つの自治体をまたいだ一般参加型のイベントで、テレビで紹介されたということもあり、相当の集客を見込んでいた、のだが。

 

 

 ──やっべーですわ。テレビの影響舐めてましたわ。

 

 

 人、人、人。

 人でごった返す稲荷町商店街に、着物姿で受付に立つ歩夢は、内心冷や汗をかいた。

 

 テレビや雑誌で取り上げられたからには、仕込みを3倍にしとかないと。

 そんなことを言った商店街の店主さんに、内心「すこし大げさでは?」と思ったものだが、歩夢の観測が甘かった。

 情報も娯楽も限られていたこの時代、マスメディアで紹介されたとなると、そこへ人が一気に集まってしまうのだ。

 

 商店街の入り口に立てた仮設テントの受付。

 やることといえばグルメマップの載ったパンフレットと投票チケットを配るだけ、なのだが。

 

 

「安生歩夢さんですね? テレビで見るより美人ですね! サインください!」

 

「ファンです! 花束を受け取ってください!」

 

「結婚してください歩夢お姉様!」

 

 

 なんだか実の母が混じってた気がするが、こういうのも多くて異様にいそがしい。

 というかいっしょに受付に立っているバイトの女の子たちと比べて、歩夢の前だけ異常に列が出来てしまっている。

 これもテレビ効果だろう。ちょっとした芸能人扱いゆえにこんな事になっているのだろうが、ちゃんと並んでスムーズに捌かせてほしい。

 

 ちなみに配っているチケットは複数の複製対策が施されている。

 対策といっても、デザインや紙質を複製しにくいものにしたり、実行委員会の印を押したりと単純なものだが……どちらの組合も、相手側が不正してくることを想定して、防止策を提案してきたのは面白い。

 

 それから。

 最初のひと山が過ぎ、人の流れが少し落ち着いたころ。

 グルメ合戦開始宣言後、自宅兼イベント本部で無線番をしていた組合長が、テレビスタッフを引き連れて、様子見にやってきた。

 

 ちなみに。歩夢のほうにも、テレビスタッフだの記者だのが張り付いているのはともかく。

 

 

「やあ、歩夢ちゃん、精が出るね」

 

「松竹組合長。組合長こそ、そんな格好でお疲れ様ですわ!」

 

 

 組合長は、武田信玄の鎧兜姿。

 グルメ合戦ということで、両組合長は、信玄と謙信の格好をしているのだ。

 どちらが信玄でどちらが謙信か決めるのに、ちょっとした喧嘩になったが、正直どちらも家康である。

 あるいは、おたがい自分が伊達政宗だと思いこんでいる最上義光とか*1

 

 

「アルバイトの皆さんも、忙しいだろうが頑張ってくれたまえ」

 

「はいっ!」

 

 

 アルバイトの女の子たちをねぎらって、組合長はテント奥の椅子に座った。

 籠手が邪魔だろうに、器用に扇子を取り出して。熱くもないのに自分を仰ぎながら、組合長は笑う。

 

 

「しかし、あれだね。この様子だと、歩夢ちゃんが居るだけで、こっちに人が流れて来てくれるんじゃないか? わはは!」

 

「わたくしのせいで来客に偏りが出るなら、日替わりで岡本町の受付に行くことも考えなきゃですわね……しかしご安心を! あちらの受付も、華やかな方におまかせしておりますわ!」

 

「華やかな方?」

 

 

 組合長は首をかしげた。

 

 一方、岡本町商店街、仮設本部。

 アルバイトの女の子とともに、いそがしくパンフレットと投票チケットを配っているのは、着物姿の美女──鷹ノ宮桜花。

 正直ワンレンボディコンミニスカハイヒールのバブリーフル装備より、着物姿のほうが似合っているが、彼女は不満顔でぼやく。

 

 

「まったく。なんでわたしがこんな格好で、こんな雑事をやらないといけないの!?」

 

「そりゃお嬢様が安生さんに、『また一人で目立って』って難癖つけに行ったからじゃないですか?」

 

 

 桜花の後ろで梱包されたパンフレットの束を荷解きしながら、グラサン黒背広の青年が答えた。

 

 難癖つけに行った桜花だったが「なら桜花様もいっしょに受付しましょう! テレビに映って目立てますし、わたくしも、とっても助かりますわ!」と強引に勧誘され、ついつい引き受けてしまったのだ。

 

 

「太郎も弥三郎も士郎も知らんぷりだし!」

 

「お嬢様付きの執事の私と違って、彼らには仕事がありますし……弥三郎さんと士郎さんは午後から手伝いに来られます。太郎さんは伊豆に釣りに行きましたが」

 

「太郎ーっ!? 安生歩夢ともども、覚えてなさいよーっ!」

 

「……まあ、なんだかんだ言いながらも安生さんを手伝ってるあたり、お嬢様も人がいいと思いますよ」

 

 

 文句を言いながらパンフレットを配る手を止めない桜花に、執事は苦笑まじりにつぶやいた。

 

 

*1
大河ドラマ独眼竜正宗の放送は1987年なので、そのイメージで。




歩夢さん、サクラローレルファンで阪神ファンですが、昭和にタイムスリップした後にウマ娘に凱旋門賞シナリオが実装され、阪神がアレしてるのを知ったらどう思うのか……
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