TSお嬢様はミスター味っ子の料理を食べ尽くす!【完結】   作:寛喜堂秀介

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31 みんなをもっと知りたくて

 

 

 貴彦のパーティから数日。場所は商店街の喫茶店。

 歩夢は仕事を中抜けした一雄と、エロ本同盟議長にして弁護士の卵、久保マモルと集まっていた。

 マモルの前にはカフェオレ、一雄はホットコーヒー、歩夢はミックスジュース。この面子となれば、話題はもちろん。

 

 

「──ドラクエ3を買ったんだ」

 

「えっ、マモル。アレ買えたのか?」

 

「ああ、ニュースでもやってましたわよね!」

 

 

 マモルの宣言に、二人はそれぞれ反応した。

 

 もはや社会現象となっているファミリーコンピューター。

 その超名作として人気を博しているドラゴンクエストシリーズの最新作、ドラクエ3は、2月10日(水)発売。つい先日のことだ。

 買うために「物売るってレベルじゃねーぞ!」ってレベルの行列が出来たり、不人気ソフトと抱き合わせで買わされたり、小学生が仮病を使ってゲームを買いに行ったり、ドラクエ狩りが横行したりと色んな意味で話題になっているのだ。

 

 

「自分で仲間を作れるのが目玉のひとつですわよね。マモルさんはどんな仲間をお作りになりましたの?」

 

「勇者まもる、戦士ごりお、魔法使いたかひこ、僧侶あゆむ、遊び人かずおかな」

 

「オレ遊び人かよ」

 

 

 マモルの答えに、一雄が突っ込む。

 

 

「まあまあ一雄さん。遊び人も、レベル20まで上げたら賢者になれますのよ」

 

「えっ、ほんとに?」

 

 

 歩夢が擁護すると、擁護されたマモルが驚きの声を上げた。

 まだダーマ神殿*1にたどり着いていないか、着いていても知らなかったらしい。

 

 

「本当ですわ。未来知識ですわ」

 

 

 一雄もマモルも、歩夢が未来から来たと知っているので、遠慮なく語る。

 

 

「36年後でもドラクエ3やってる人居るんだ……」

 

「定期的にリメイクされてますので、案外身近なんですわ」

 

 

 歩夢の説明に、2人は「さすがドラクエ」と感心する。

 だてに社会現象にまでなっていない。

 

 

「ちなみに、歩夢ちゃん。賢者って強いの?」

 

「いい武器が装備できる、魔法使いと僧侶のいいとこ取りって感じですわね」

 

「うわ、それなら貴彦を遊び人にしといたほうがよかったかも」

 

「オイ」

 

「まあまあ。さとりの書ってアイテムを手に入れたら、だれでも賢者になれるので、そこまで気にすることはないと思いますわ」

 

 

 マモルに目を眇めたが、歩夢の賢者トークに、一雄はちょっと得意げだ。

 

 

「……まあ、他の面子のレベルが18前後の中、遊び人かずおはまだレベル6なんだけどね」

 

「おいマモル! それほぼパーティに入れてもらってないよな!?」

 

「ルイーダの酒場*2が定位置ですわ……」

 

「うん。ぴったりだと思って遊び人にしたのはいいけど、思ったより使いにくくて、サブで作ったはずの歩夢ちゃんが一軍に……」

 

 

 マモルが言い訳になってない自己弁護をする。

 おなじエロ本同盟メンバーなのに、あまりといえばあまりの扱いである。

 

 と、思いついて、歩夢は手を打つ。

 

 

「そういえば、商人は1人登録しておいた方がいいと思いますわ。商人を引き渡して進めるイベントがありますので」

 

「へえ。そんなイベントあるんだ」

 

「商人が町を作っていくんですけれど、町の名前が商人の名前+バーグになるんですわ」

 

「なら、商人の名前はハンだね」

 

「隙あらばハンバーグ師匠」

 

 

 即答するマモルに、一雄がツッコんだ。

 商人の名前がハンなら、町の名前はハンバーグとなるのだ。

 

 意味がわからない歩夢は「あの……」と口を挟む。

 

 

「ちょっと気になってたんですけれど、ハンバーグ師匠ってどなたですの?」

 

 

 当たり前だが 例のネタ*3はこの時代にはない。

「ああ、身内ネタだったよね」と苦笑して、マモルは説明する。

 

 

「僕たちの先輩でさ。エロに関しての師匠みたいな人。トロイメライってお店のだんなでさ。振られた女と持ってるエロ本は数しれずという歴戦の猛者なのさ」

 

「つまりはマモルの上位互換だな」

 

「いまの僕はニューマモルだから……それはさておき、一雄の上位互換でもあるよね」

 

 

 視線で鍔迫り合いを演じるマモルと一雄。

 ふたりの説明に、歩夢はちょっと感心してしまう。

 

 

「まあ。そうなんですのね。素敵な先輩ですわね」

 

 

 とんかつ勝一の康介といい、味っ子で語られていない関係性はなんだか面白い。

 この分だと【磯源寿司】の【タクちゃん】あたりも変なつながりがありそうだと、歩夢は期待してしまう。はたして期待していい関係性なのかという問題は脇においておく。

 

 

「素敵の言葉の意味がわかんなくなる……」

 

「歩夢ちゃんの許容量が無限すぎる……」

 

 

 歩夢のおおらかすぎる反応に、マモルと一雄はおののいた。

 

 

 

 

 

 

 それから、しばらくドラクエの話を続けて。

 マモルは思い出したように手を打って、話題を変えた。

 

 

「そういえば、親父が気にしてたけど、歩夢ちゃん、住民票とかに閲覧制限かけてたよね?」

 

「はいですわ。マンションに住居を移した時に、久保先生のご助言で」

 

 

 歩夢の返答に、一雄が感心する。

 

 

「へえ。そんなことできるんだ」

 

「まあ、なにもしてないと親族以外も閲覧できるし、親族でも、家裁案件で見れたらマズいケースとかあるから……現住所とかわかっちゃうし」

 

「うわ、そりゃ問題だな」

 

「この時代のプライバシー……」

 

 

 歩夢はたそがれた視線を虚空に向けた。

 ちなみに、このあたりに規制がかかり始めるのは、平成も半ばになってからである。

 

 

「で、当時と比べても歩夢ちゃん、有名人になっちゃってるし、なにか問題あったらすぐに連絡してくれって。今年の納税額を考えると……僕もボヤかして聞いただけだけど、高額納税者のリストに載っちゃうらしいし」

 

 

 ちなみに約7億円である。もちろん住民税は別だ。

 

 

「すごいな、それ」

 

「ほぼノーガードだからですわよ。他の方々は、ちゃんと税金対策とかした上で載ってるわけですから……資産で言えばマジで桁が違いますわ」

 

 

 ノーガードに関しては、小細工する時間的余裕のないド年末にどデカく稼いだ歩夢が悪い。

 

 

「今年はいろいろ準備したほうがいいかもね。いとこも張り切ってたよ」

 

「今年はここまで派手に稼ぐ予定はないのですけれどね……税理士先生にはほんっとーにお世話になりましたので、よくよく相談させていただきますわ」

 

 

 歩夢は感謝感謝と手を合わせる。

 税理士が成仏したわけではない。やりきった顔で真っ白な灰になってはいたけど。

 

 

「オレの方も、今年は売上やらなにやらで出入り大きくて母ちゃんがわたわたしてたな」

 

「君もわたわたしなよ一雄。店拡大するなら経理関係わかってたほうがいいでしょ」

 

「あ、そういえば一雄さん。大叔父様との味だめしはどうでしたの?」

 

 

 気になっていた話になったので、歩夢は横から尋ねる。

 

 

「大叔父様って……【真船和也(まふねかずや)】さん? 有名な美食家の」

 

「ああ。料理の腕を見て、出来次第では一等地に店を出させてやるって」

 

「ならよけいに早く覚えとかなきゃじゃない」

 

「いや、ちょっとずつは覚えてるんだけどね……これに関しては、いままでサボってたツケを払ってる状態というか……」

 

 

 マモルが一雄に忠告しているが、歩夢はそれどころじゃない。

 

 

 ──え、真船和也様って、おでんの話の時に出てきた味見役の一人でしたわよね?

 

 

 聞いたことがない関係性だが、思い返してみると、顔の系統は似ている。

 一雄が40年くらい年をとったらこうなるだろうな、と思えるくらいには。親戚だというのなら、納得だ。

 

 

「それで、一雄。結果はどうだったのさ」

 

「ん。問題なく合格」

 

 

 マモルの問いに、一雄は胸を張った。

 味だめしの合否に関しては、もともとそこまで心配していない。

 はじめの工夫は味っ子に手伝ってもらったとはいえ、そこからの細かい調味の工夫は一雄のものだし、最近ではトンカツの揚げ具合も上々だ。

 

 短期間ながら、高いモチベーションを保って磨いてきた一雄の腕は、いまや本物だ。腕以外は、まだまだ要勉強だが。

 

 

「合格……したんだけど。次は、どんな店にするか、ちゃんと考えて相談に来ること、だって」

 

 

 そこが悩みどころだと、一雄は頭をかいた。

 

 

「大事なことですわね。家賃の扱いがどうなるかは存じ上げませんが、一等地となると……料理の単価や席数、回転率。一日にいくら売り上げるかまで、ちゃんと考えないとですわ」

 

「そうだよなあ。向こう3年は家賃は考えなくていいって言ってくれてるけど、そこも考えなきゃこの先手を広げてくなんて出来ないよなあ」

 

「まあ、本店にはお母様がいらっしゃるので、もう一店出すくらいなら、まだ負担も少ないと思いますわ。その先を考えるなら、ちゃんとスタッフを育てていかないと、ですけれど」

 

「やることが……やることが多い……でもやらないと! 男として!」

 

 

 一雄が突然立ち上がり、奮起する。

 ウェイトレスさんに速攻注意された。

 

 

「まあ、お一人で解決しなきゃいけないものじゃありませんわ。わたくしもお手伝いさせていただきますし、マモルさんや、先達に相談するのもよいのではと思いますわ」

 

「先達……それこそ、ハンバーグ師匠とか? 一番相談しやすい先輩ってだけだけど」

 

 

 ──あの、いまその方、経営危機で首くくるしかないって思いつめてらっしゃいますわ。

 

 

 歩夢は心のなかで突っ込む。

 老舗の洋食店トロイメライと味将軍グループのファミリーレストラン【ジェネシス】の、ハンバーグ勝負が行われたのは、2月末から3月初旬の出来事。来週か再来週には始まる計算だ。

 

 

 ──まあ、この勝負に関しては、首を突っ込まなくても両方のお店に食べに行けるわけですけれど。

 

 

 無理に行く理由はない。

 けれど、それは行かない理由にはならない。

 ジェネシスとトロイメライの旧来のメニューも食べ比べてみたい。

 それに。一雄との会話を通して、トライメライの若だんなの新しい側面を見ることができるなら……想像するだけでワクワクしてしまう。

 

 

「行ってみましょう。お話をうかがえば、具体的な課題が見えてくるかもしれませんし……それに、新店舗のメニューに、ハンバーグカレーってのも、面白いかもしれませんわ!」

 

 

 ワクワクに、目を輝かせて。

 歩夢は一雄たちに、そう言って笑いかけた。

 

 

 

*1
賢者含め、異なる職業に転職が出来る場所

*2
最初の町にある、仲間の入れ替えができる場所

*3
「ハンバアアァァァァグ!!」

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