TSお嬢様はミスター味っ子の料理を食べ尽くす!【完結】   作:寛喜堂秀介

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39 歩夢やります!

 

 

 4月30日。

 この日は、陽一の父、下町の庖宰*1と謳われた味吉隆男の命日だ。

 実はご存命で、26年くらい後に中国雲南省で発見されることになるのだが、陽一や法子が知るはずもない。

 

 

 ──中国に行く機会もありますし、それまでに一度、人を使って調べておいてもいいかもしれませんわね。

 

 

 雲南省はあくまで最終的に落ち着いた場所なので、そこに居るとは限らないが、確認くらいはしてもいいだろう。

ちなみに、中国に行く機会とは、陽一の中国での劉虎峰や味仙人との勝負に立ち会うために、無理やりついていくことである。

 

 それはさておき。

 法事が終わって、墓参りに行った時、陽一たちが偶然出会ったのが、青森で駅弁の店を営む菊池屋。

 ライバル店おいかわに客を奪われ、経営危機に陥った菊池屋を助けるために、陽一は一路青森まで突撃するのだ。

 

 これはいつもの戦闘脳ってわけじゃなく、父隆男が手伝って出来上がった思い出の弁当がなくなってしまうことに、黙っていられなくなったという、立派な動機がある。

 

 というわけで。

 中林寺から帰り、臨時休業の準備をしていた味吉母子に、安生歩夢はざざっ、と足を滑らせてポーズを取った。

 

 

「やはり青森ですか……いつ出発いたします? わたくしも同行いたしますわ*2

 

「歩夢さん!?」

 

 

 ちなみに。

 ネタ元となったジョジョの奇妙な冒険第3部の時代設定は1988年。連載開始は1989年である。

 あいかわらずジャンプの話しかしていない。

 

 どうやって聞きつけたのって顔してる陽一に、歩夢が満面のドヤ顔を向けた、そのとき。

 

 

「お嬢様ー!」

 

 

 と、執事の毛利が、声を上げながら駆けてきた。

 どうも急な用事らしく、ずいぶんあわてた様子だ。

 

 

「毛利さん、いったいどういたしましたの?」

 

「お嬢様に、味皇様からの招待状です!」

 

 

 そう言って、手紙を差し出す毛利。

 手紙は、味皇の名で歩夢宛に送られている。

 都合のいいときに味皇ビルに来てほしいという内容だが、味皇様の召喚である以上、早い方がいいに決まっている。

 

 歩夢は身をぷるぷると震わせて。

 

 

「……後から、後からぜったい行きますわ!」

 

 

 毛利とともに、涙目で帰路についた。

 それを見送りながら、陽一と法子は顔を見合わせる。

 

 

「……歩夢さんのああいう行動力だけは見習いたいよね」

 

「そんなこと言って。陽一もたいがいよ」

 

 

 

 

 

 

 帰宅後速攻アポを取って、翌日、味皇ビル。

 

 

「わたくしが、参りましたわこんちくしょう!」

 

 

 ものすごい勢いで推参した歩夢は、顔パスで味皇の待つ応接室に通された。

 顔パスなのは、一度見たら忘れられない美人なのと、一度見たら忘れられない奇行でみんなに覚えられてしまっているからだ。

 

 

「──おお、歩夢くん。君の活躍は耳に届いているよ」

 

「お恥ずかしいですわ! ですが、わたくしのやりたいことが形にできて、うれしい限りですわ!」

 

 

 応接室。

 相好を崩し出迎える味皇に、褒めて褒めてと笑顔を向ける歩夢。

 味皇は歩夢に着席を促して。歩夢がソファに掛ける様子を見ながら、言葉を続ける。

 

 

「それに……なかなか大がかりなことをやっているようだ」

 

「悪だくみ、ですわね! そろそろ表にお出しできそうですわ!」

 

 

 クッキングフェスティバルのことである。

 料理に関することなので、味皇の耳に入っているとは思っていたが、やはり耳が早い。

 まあ、歩夢も隠すつもりはない。なんなら味皇料理会の主任たちにも参加してほしいと思っているので、いい機会である。

 

 

「美味しい料理を、より多くの皆さまと共有する祭典! 開催の折には、ぜひとも、味皇料理会の皆さま方にもご参加頂きたいですわ!」

 

「うむ。皆にとっても、よい精進の場となろう!」

 

 

 味皇が力強くうなずく。

 

 

「歩夢くん。この場所できみの夢を聞いてから半年少々……この短期間でよくぞ実現の筋道をつけたものだ」

 

「皆さまの協力あってのことですわ。実務に関しては、秘書の毛利さんが居なければ、今よりはるかに手間取っていたと思いますわ!」

 

「歩夢くんの秘書、というと、ジェネシスの元社長の」

 

「ご存知でしたのね! さすがですわ!」

 

 

 味皇が当然のように知っていたことに、驚きはない。

 味将軍グループ関係の話だから、絶対に味皇室室長が耳に入れているだろうと思っていた。

 

 なので歩夢は、毛利をスカウトした経緯と思惑を説明した。

 室長がどう怪しんだかは知らないが、歩夢に下心などない以上、真実全ブッパが正解だろう。

 説明の過程で味皇が何度か質問して、その度宇宙猫みたいな顔になっていたが、味皇様の顔芸など(アニメで)見慣れた歩夢にとっては違和感なんてない。

 

 ひと通り、話を聞いて。

 

 

「……ふむ。ひとまず、味将軍グループが歩夢くんを操ろうとしているという、わずかな疑念も晴れたか」

 

「毛利さんスカウトに関しては、全部わたくしからのアクションですしね」

 

 

 歩夢の言葉に、味皇が、どこかほっとした様子で息をつく。

 どちらかというと歩夢を心配しての疑念だったのだろうが、毛利が危機一髪すぎて疑惑を差し挟む余地がないから困る。

 

 

「そういえば、話は変わるのだが……実は味皇料理会でも、近々大きなイベントがあるのだよ」

 

「味皇グランプリ──正しくは味皇料理会料理人GPコンテストですわね!」

 

 

 味皇の言葉に、歩夢は秒で反応した。

 味皇料理会の料理研究会の代表と、全国から選りすぐられた腕自慢とで料理の腕を競い、若手料理人の頂点を決める、毎年恒例のコンテストだ。

 

 

「うむ。今年のグランプリには、歩夢くんもよく知る若手料理人に参加してもらおうと思っているのだが」

 

「陽ちゃん、とひょっとして一馬さんも?」

 

 

 まあ参加メンバーは知っているのだが、知っているとおかしいので、歩夢はそんな言い方をする。

 

 

「うむ。それに加えて、うちからは──と、あまり漏らしては怒られてしまうな。こほん。まあ、そのような大会があるのだが……審査員は料理会に属さない、一般よりの選考者なのだ」

 

「わっ、わたくしは適格でしょうか!?」

 

 

 歩夢は全力で食いついた。

 勢いに押されながら、味皇はうなずく。

 

 

「うむ。歩夢くんの味覚であれば問題あるまい。こちらからお願いさせてもらうよ」

 

「あ、ありがとうございますわ味皇さま! ありがとうございますわ!」

 

 

 狂喜のあまり語彙を失って感謝の言葉を重ねる歩夢。

 あまりの喜びっぷりに、味皇はちょっと引いている。

 

 

「う、うむ。こちらこそ、引き受けてもらえて感謝しよう……ちなみに、全3回戦なのだが、どこを受け持ちたいかね。こだわりがなければ決勝の審査を頼みたいのだが」

 

「え……皆さまの料理を、全部食べることは出来ませんの……?」

 

 

 歩夢は急転直下、絶望の表情を浮かべた。

 こんな絶望することある? と言いたくなる曇りっぷりだ。

 

 

「こればかりは規定ゆえな」

 

 

 申し訳無さそうに話す味皇に、歩夢は気力を振り絞って立ち直る。

 最善が不可能な以上、選ぶべきは次善だ。

 

 

「それでは、1回戦の審査員をさせていただきますわ!」

 

「ちなみに、理由を聞いてもいいかね?」

 

「参加メンバー全員の料理が食べられるからですわ!」

 

 

 歩夢は即答した。

 特にメンバーの一人、味皇料理会フランス料理主任、【下仲基之(しもなかもとゆき)】の料理を食べる機会は非常に少ない。

 

 下仲シェフは2回戦で脱落してしまうので、選択肢は1回戦か2回戦。

 正直2回戦の冷やし中華勝負のほうが、1回戦のシーフードカレー勝負より全体的に美味しそうなのだが、コンプリートの魅力には抗えない。

 

 

「あいわかった。そのように計らおう」

 

「ありがとうございますわ味皇さま! 不肖安生歩夢! 味皇グランプリ審査員の大役、務めさせていただきますわ!」

 

 

 鷹揚にうなずく味皇に対し、歩夢はびしっ、と敬礼した。

 

 

 

 

 

 

「──さて、陽ちゃんたちには後から行くって行っちゃいましたけれど」

 

 

 味皇ビルを出た後。

 帰路を歩きながら、歩夢は考える。

 現地について、幕の内弁当の工夫を始めるのが昨日のこと。

 そこから3日後が勝負となる日なので、メニューが出来上がるのは、おそらく明日。

 今日のいまごろは、弁当をいつまでも暖かく保つ工夫を探しているところだろうか。

 

 

「単純に食べ比べるだけなら、明後日に行けばいいんですけれど……陽ちゃん、お弁当に漬物入れ忘れて、お弁当詰め直しになるんですわよね」

 

 

 事前に知っているだけに、放置するのは気がとがめる。

 前日に行って、一声かけるだけの労力だ。それなら。

 

 

「……うん。決めましたわ。一泊することになりますが、勝負の前日に青森に参りましょう! 一人旅はいけませんので、仲居さんと──」

 

「ちょっとまって!」

 

 

 独り言の途中で、唐突に声がかかった。

 

 振り返ると、そこに居たのはよく見知った顔の主。

 お供にグラサン黒背広の青年を連れた、ボディコンワンレンミニスカハイヒールの、スレンダーな美人。

 

 

「あら、桜花さま! ご機嫌麗しゅう、ですわ!」

 

「ご機嫌よう──じゃなくて、歩夢。さっき、たまたま、偶然、通りすがって聞こえたんだけど……旅行に行くなら、わたしと行かない?」

 

 

 いろいろ強調しすぎて怪しくなってるが、歩夢は気にかけない。

 気にかけないってことは、気づいては居るってことだけど。

 

 

「桜花さまと? よろしいんですの!?」

 

 

 ぱあっと、歩夢が目を輝かせる。

 

 歩夢がむっちゃ喜ぶので、桜花が小さくガッツポーズをした。

 その様子を見て、黒背広の執事が密かに主人の健闘を称えているが、桜花は見ていない。

 

 

「うれしいですわ! ご一緒してくださるのなら、ぜひぜひ!」

 

「決まりね……ちなみに歩夢。青森には、なにしに行くの?」

 

 

 旅行の趣旨すら知らずに特攻した女が居るらしい。

 

 

「これから出来る名物の駅弁を食べに行きますわ! 桜花さま、ほかに行きたいところがありましたら、足を伸ばしましょう!」

 

「え、青森? ……お、大間とか?」

 

「マグロで有名なところですね。いまはマグロ漁の時期からは外れますが」

 

 

 桜花の案に、執事が説明を加える。

 

 

「──釣りもできますし、太郎さんが行きたがりそうですね」

 

「あいつは死んでも連れて行かないわ」

 

 

 鋼の決意で桜花が宣言したのはともかく。

 こうして、歩夢と桜花の青森旅行が急遽決定した。

 

 

*1
料理を司る人。名人

*2
「花京院」

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