TSお嬢様はミスター味っ子の料理を食べ尽くす!【完結】   作:寛喜堂秀介

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46 馬なり0ハラン劇場

 

 

 1988年6月5日、東京競馬場。

 第11レース、ニュージーランドトロフィー4歳*1ステークスは、オグリキャップの7馬身差圧勝に終わった。

 走破タイムは同じ東京芝1600mで行われた古馬*2混合のG1、安田記念よりも速く、同レースに優勝した「マイルの帝王」ニッポーテイオーを間接的に超えた形になった。しかもまったく追わずにだ。

 

 中央デビューから重賞4連勝。

 笠松時代から数えて12連勝、全レース連対。

 圧巻の怪物ぶりは、「幻のダービー馬」の面目躍如である。

 その際、またしてもオグリキャップが特定少女のほうをガン見していたのはともかく。

 

 

「ダービーはダービーで素晴らしいレースでしたわ! 最終直線、一旦は前に出られたメジロアルダン様を差し返して、レースレコードを叩き出したサクラチヨノオー様!」

 

 

 いつもの喫茶店。

 エロ本同盟のメンバーを前に、歩夢は熱く語る。

 サクラスターオーといい、最高の推し馬であり推しウマ娘サクラローレルといい、妙にサクラに縁がある気がするが、さておき。

 

 

「安生よ。ここは我ら一党の、近況報告の場なのだが……延々語った今の話、貴様の近況に関係あるのだろうな?」

 

 

 エロ本同盟巨乳担当にして天才的投資家、財前貴彦があきれたように突っ込む。

 

 

「関係大アリですわ先生! 最近テレビや雑誌の取材を受けるのが仕事みたいになってるわたくしですが……」

 

「マジですごいよね……まあ歩夢ちゃんが同時多発的に燃料投下しまくったせいだろうけど」

 

 

 エロ本同盟少女担当にしてもうすぐ弁護士、久保マモルが口を挟む。

 

 いままでの積み重ねに加えて、トドメとばかりに長者番付に乗り、報告の席でクッキングフェスティバル発表、馬主目指します宣言である。

 もはやなにから取材すべきかわからない。

 

 

「モデルのオファーとかないんすか!? 写真集出るならオレ欲しいんだけどっ──!?」

 

 

 欲望全開で身を乗り出したエロ本同盟お尻担当、ゴリ男は、エロ本同盟お姉さん担当、真船一雄に成敗された。

 

 

「写真集の話もありますわね。あとは歌を発表しないかとか……みなさま、わたくしをどうしたいんでしょう?」

 

「まあ有名人ってそんなものだよね。歩夢ちゃんの場合マジで売れそうなのがまた」

 

「嫁にしたいです!」

 

 

 一雄の言葉を無駄にぶった切ったゴリ男は成敗された。

 貴彦とマモルが、ゴリ男よりも一雄をあきれたように見ているのはともかく。

 

 

「本題に戻りますわね! わたくし安生歩夢、ご存知の通り馬主を目指すことになったわけですが!」

 

「あれはよかったな。あの場で発表した以上、マスコミが馬主になるまでの絵を撮りたくなるのは必定。加えて馬主とのコネをアピール。山師や詐欺師の類を退けるなかなかの演出であったわ」

 

 

 ふんぞり返りながら、貴彦が評価する。

 無駄に偉そうだが、歩夢は貴彦が偉いと知っているので、当然と受け止めている。

 

 

「歩夢ちゃん絶対そこまで考えてなかったと思うけど」

 

「一応考えてましたわ! そこまでは!」

 

 

 マモルの人物評に抗議する歩夢。

 いろいろ考えてはいるが、最終的にノリと勢いで突っ込むのだから、この評価も仕方ない。

 

 

「で、考えてなかった事態が起こったわけだな?」

 

 

 歩夢の抗議から、察した貴彦が口を開く。

 

 

「──言ってみろ。折角の機会だ。聞いてやろうではないか」

 

 

 腕組み足組みしながら、超偉そうにふんぞり返る貴彦。

 ちなみに、すべてを知ってる一雄は、ちょっと遠い目になっている。

 

 

「ありがとうございますわ! 不測の事態というのは……馬主席で仲良くなった皆さまが、わたくしに早く馬主資格を取らせようと、仕事やら顧客やらを山盛り紹介してくださるんですわ!」

 

 

 歩夢は力強く語った。

 いい話じゃないか、と思うかもしれないが、実はそうでもない。

 そもそも歩夢の会社は、クッキングフェスティバルに向けて雇い入れたスタッフが5人居るだけの超零細だ。

 飲食チェーンの経営経験もある毛利は、信頼も能力もあるが、彼1人でなんでもかんでも出来るわけじゃないし、そもそも表に出せない身だ。

 

 要するに完全なキャパオーバー。厚意からなのがたちが悪い。

 歩夢の心境は、餌皿からあふれるほどにカリカリを与えられて、ドン引きしている猫のごとしである。

 

 

「でも、それって本来、あまりいい手段じゃないよね?」

 

「ふむ。どういうことだ? マモル」

 

 

 口を挟んだマモルを、貴彦が質す。

 

 

「馬主資格に関しては、歩夢ちゃんが発表した関係で、僕も調べたんだけど……読み解くと、馬主に求められるのは、第一に馬主業を継続できることなんだ。だから資格に安定した収入を求められるし、そこに投機的な収入は含まれない」

 

「ふむ。ゆえに安生も会社を設立して形式を整えたのだろうが……馬主資格を早期に取得させようとする馬主たちの支援には、なにか下心がある、と?」

 

 

 マモルの説明を受けて、貴彦が疑念を口にする。

 

 

「あ、それに関しては、たぶん理由はわかりますわ」

 

 

 シリアスになりかけた空気をぶち壊すように、歩夢が元気よく手を上げた。

 

 

「結論を先にいうと、わたくしを使って競馬ブームを起こしたいって下心からですわね!」

 

「まて、安生よ。結論だけ言われてもわからん。というか自意識過剰に聞こえるぞ」

 

「ぐはっ、ですわ」

 

 

 貴彦の言葉に、歩夢は無駄にダメージを受ける。

 冷静になって考えるとマジで自意識過剰すぎる言葉である。

 

 

「でも、あながち自意識過剰でもないんだよ」

 

 

 歩夢と同行しているお陰で、くわしい事情を知る一雄が説明する。

 

 

「──好景気も手伝ってか、このところ、競馬場の観客が増えてきてる。注目されている競走馬もいて、武という若き天才騎手が出てきた。現地では、競馬界が盛り上がってきてる実感はあるんだよ。なにかきっかけがあれば、一般にまで知れ渡るくらい人気が爆発しそうな雰囲気がある」

 

「その火付け役として、歩夢が目をつけられたと?」

 

「うん。だからこの場合の下心っていうのは、ブームの火付け役を演出するっていう、一種の功名心……なんじゃないかと思う」

 

 

 貴彦の問いに、一雄がうなずく。

 

 つまりみんな「競馬界はわしが育てた」って言いたいのである。

 なので、歩夢を支援したがっているのは、それなりに馬主歴が長い中堅どころだったりする。

 

 

「だいたいわかった。であれば厚意も受けてしまえばよかろう」

 

「問題は、その量がオーバーキルってところですけれどね……とりあえず全部毛利さんにぶん投げて、手に収まる範囲でお引き受けしようと考えておりますわ」

 

 

 有能で、なおかつ小心な毛利なら、安心して見極めさせられる。

 

 

「なんというか……ハンバーグ師匠の敵だった人だけど、さすがに同情するよ」

 

「毛利さん自身は、歩夢ちゃんの役に立てて、すげーうれしそうだけどね」

 

 

 マモルの感想に、一雄が弁護になってない弁護をする。

 毛利が居なければどうしようもなかったので、マジ感謝である。

 実務に当たっては、増員含め要望にはすべて応えるつもりなので許して欲しい。

 

 

「まあ、処理できそうならよかろうよ。なかなか面白い話だったぞ。俺様も敗けておれんな」

 

「そこで敗けておれんと言える貴彦はすごいな」

 

 

 貴彦の言葉に、一雄は感心する。

 

 

「一雄よ。人には分限というものがある。己の能力を見極めて、足りぬなら力を借りて、成果を積み上げていく貴様もまた、一廉の男よ! ……まあ、俺様のような天才は弁える必要などないがな!」

 

 

 相変わらず一雄への評価は激高である。

 呵々大笑する貴彦に、歩夢は思いだしたように手を挙げる。

 

 

「あ、馬主の方々からのお話で、先生のお役に立ちそうなものをまとめておきましたので、お渡ししておきますわ!」

 

 

 言いながら、歩夢は書類の入った封筒を貴彦に渡す。

 馬主という上流社会で交わされる、精度の高いリアルタイム情報だ。

 もちろん貴彦も様々な交流会に参加してアンテナを張ってはいるが、別の角度からの情報はありがたいはずだ。

 

 ついでにリクルート事件なんかの未来情報も混ぜ込んでいたりする。

 正直もう貴彦に、自分が未来の人間だと明かしてしまいたいのだが……

 自尊心が高く、わりとクセのある性格してる貴彦が、未来情報を活かすことを良しとするか疑問だし、なにより桜花との関係を押しすぎた。

 

 事情を知れば、桜花が将来自分の妻になることを予測するのは、難しくないだろう。

 桜花との関係が定まっていない現状、話をこじらせる真似は避けたいのだ。

 

 

「うむ、でかした安生。この情報、俺様が存分に活かしてやろう!」

 

 

 貴彦は上機嫌で封筒を受け取り、アイスコーヒーをブランデーグラスみたいな持ち方して飲んだ。

 

 

 

 

 

 

 その後も、おたがい近況を報告しながら、談笑することしばし。

 不意にマモルが、「そういえば」と話題を切り出した。

 

 

「歩夢ちゃん。馬主資格を取るのはまだ先になるとして、厩舎とか牧場とかも、いろいろ紹介されてるんじゃない?」

 

「ご紹介の話はいただいてますわね! まあ先の話ですし、クッキングフェスティバルのこともありますので、しばらくは永田社長のお手伝い、という形で勉強させてもらおうと思っておりますわ!」

 

 

 歩夢は胸の前でぎゅっと拳をにぎる。*3

 

 もともとつき合いで馬主を始めた永田社長である。

 自分の馬が走るときと、歩夢が見に行く時にはつき合うよ、くらいのスタンスだったのだが。

 

 

「永田社長も、自分の馬が未勝利戦を勝って、ちょっとやる気になったよね」

 

「最初の持ち馬が初勝利ですものね。しかも思い入れちゃいそうなお名前ですし」

 

 

 一雄の言葉に、歩夢は同意した。

 

 ちなみに、永田社長の持ち馬の名前は、ナガタカズマオーという。

 それなりに走る馬で、これまでも1着は逃すものの、掲示板を外したことはなかった。

 永田の冠に一馬から取った名前をつけたせいで、クソデカ感情が籠もってそうな名前になってしまっているが、歩夢たちはあえて突っ込まなかった。たぶん一馬が知った時はすごく複雑な表情になったと思う。

 

 

「ちなみに、歩夢ちゃんが馬を持つとしたら、どんな名前にしたい?」

 

「うーん、実馬を見ないとイメージ湧きませんわ……とりあえずドリームって単語はつけてみたいですわね!」

 

 

 歩夢の夢から取った名前である。

 やけに特定の実馬を連想してしまうが、それは考えないことにしておく。*4

 

 

「オレならカズオノロマンとか?」

 

「僕ならクボハンサムエースとかかな」

 

「ゴリオキングとかいいと思うぜ!」

 

「俺様ならゴージャスザイゼンだな!」

 

 

 みんな勝手に馬名を考え出すが、自分が馬になったみたいな名前になっている。

 

 ともあれ、こんな益体のない話をしながら。5人の休日は過ぎていった。

 

*1
現在の数え方だと3歳

*2
5歳(現在の数え方で4歳)以上の馬。一般的に競争能力のピークが5、6歳と言われている。

*3
目立たないが平坦であった

*4
ドリームジャーニー「やあ」

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