TSお嬢様はミスター味っ子の料理を食べ尽くす!【完結】   作:寛喜堂秀介

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53 男はつらいよ 性癖慕情

 

 

 東京赤坂の高級ホテル。

 その最上層、ロイヤルスイートルームに、財前貴彦は居た。

 引き締まった肉体をバスローブで覆い、手にはブランデーグラス。

 傲慢不遜を絵に書いたような、しかし端正な面差しは、眼前に広がる東京の夜景に向けられている。

 

 

「ふ……俺様に乾杯」

 

 

 言って、貴彦は屋内に視線をやりながら、グラスを持ち上げる。

 視線を向けられた当人は、応じて口を開いた。

 

 

「──いやバカだろおまえ!?」

 

 

 久保マモル、渾身の突っ込みである。

 マモルだけでなく、一雄、ゴリ男とエロ本同盟が勢ぞろいしている。

 みんなスイートルームのソファに腰を下ろしながら、マモルのツッコみに全力でうなずいている。

 

 

「なにを言う!? ブランデー片手にバスローブ姿で、眠らぬ街の夜景を楽しむ。これぞ男の夢であろう!」

 

「女が居ねえっつってんだよ!? だいたいなに? かねてからの夢を叶えたいから来てくれって言っといてこれなに!? 僕なに見せられてんの!? ホモなの!?」

 

 

 貴彦の抗議に、マモルが食い気味にツッコんだ。

 お説もっともで、もしこれで同行者が居らず一対一なら迷わず逃げるシチュエーションだ。というかなぜ裸バスローブなのか。

 

 興奮するマモルを、「まあまあ」と一雄がなだめる。

 

 

「まあ待てよマモル。女が居ないのは仕方ないじゃないか。貴彦モテないし」

 

「モテないのは知ってんだよ! だからってなんで僕らを連れてくるのさ!?」

 

「いいだろ。こういうバカやるのがエロ本同盟じゃないか」

 

「非モテ拗らせた奇行を受け入れるんじゃないよ一雄!?」

 

 

 マモルのヒートアップは留まるところを知らない。

 宥めているのが、最近美少女と海外旅行に行った一雄だからかもしれない。

 

 

「貴様ら……黙って聞いておれば人のことをモテないモテないと。この若さで社長で、資産家で、この美貌! 女が放っておくはずなかろうが!」

 

「でもモテないよね?」

 

「モテないというか、理想高すぎな上に童貞拗らせすぎてるだけだけどね」

 

 

 ふんぞり返る貴彦に、マモルと一雄が淡々とツッコむ。

 

 

「バカな! 俺様がどどど童貞だとなぜ決めつける!?」

 

「んなの決まってる! 俺たちエロ本同盟! おたがいのシモの事情などとうの昔に共有されてるっつーの! というか卒業したら貴彦の性格なら自慢しまくるだろうが!」

 

 

 動揺をあらわにする貴彦に、ゴリ男が大声で指摘する。

 完璧すぎる推理に、貴彦はぐうの音も出ない。

 

 

「むむむ……おのれ見ておれ。いまに俺様の嫁になる気っ風のいい知的な巨乳美人を紹介してやるからな!」

 

「僕だってそのうち年下の美少女彼女を紹介するからね!」

 

「俺も! むしゃぶりつきたくなるような桃尻の彼女を!」

 

 

 貴彦の負け惜しみに続いて、マモルとゴリ男が癖語りをする。

 

 

「オレも歩夢ちゃん──」

 

「そこは年上のお姉さんって言っときなよ一雄! エロ本同盟お姉さん担当として!!」

 

 

 続いて言いかけた一雄をさえぎって、マモルが全力でツッコむ。

 

 エロ本同盟の掟からすれば、己の性癖(しんねん)を曲げた一雄は、罰として蒸留酒一杯一気飲みである。

 ちなみに令和の頃の年齢では、歩夢は一雄より1歳年上で、実質お姉さんである。というのはさておき。

 

 

「貴彦、なんで唐突にこんな馬鹿(こと)やろうと思ったのさ」

 

「なに。ちょっと時間が出来たのでな。この際幼い頃からの夢を叶えようと思ってな」

 

 

 ブランデーグラスを手に、気取ったポーズを取る貴彦。

「その夢、こんな叶え方でいいのかよ」と、ほかの3人が表情で語っている。

 

 

「仕事暇なのかよ」

 

「暇ではないが、リクルート関連での仕手の動きを変に勘ぐられんよう、しばらくほとぼりを冷ましておってな。いまはその余禄のようなものだ」

 

「貴彦おまえね。あんまヤバいことに首突っ込むのはやめときなよ」

 

「事件での値動きを利用して儲けただけだから大丈夫……と言いたいところだが、正直思っていたよりあの事件、大事になりそうで冷汗かいておる! 安生が大事になると忠告しておったが、わりと半信半疑であったわ!」

 

 

 ちなみに、事件が本気でヤバい大事になるのは、8月になってからなのだが、ともかく。

 

 

「気をつけなよ貴彦。こういうの利用して儲けてると、逆恨み買うよ」

 

「やりすぎであろうと思いつつ、無理にアメリカ出張入れててよかったわ!」

 

「あ、貴彦も海外行ってたんだ?」

 

 

 海外と聞いて、マモルと貴彦の会話に、一雄が割り込む。

 

 

「うむ。ちょうど向こうでの代理人を探しておってな。共に起業した仲間の伝手で紹介されていた井口という男に、いい機会だから会ったのだが……これがヤベーやつでな。そうと知らずにあれに資金を預けていたらと思うと、肝が冷えたわ」

 

 

 地味に貴彦の没落フラグの一つが折れたのはともかく。

 

 

「──ま、そんなことはよかろう。いまはこの夜景をともに楽しもうではないか」

 

「だからそういうのは彼女相手にやれっての!」

 

 

 エロ本同盟議長久保マモルの突っ込みが、だだっ広い部屋に響いた。

 

 

 

 

 

 

 出足のわちゃわちゃはともかく。

 超豪華な部屋で、ソファに背を預けながら、エロ本同盟の4人は酒を酌み交わす。

 酒が進み、酔いがほどほどに回ってきた頃、ホテルを借りた主、財前貴彦が口を開いた。

 

 

「ときに我が同士たちよ。折り入って相談があるのだが」

 

「他ならぬ貴彦の相談だ。聞こうじゃないか」

 

 

 エロ本同盟特攻隊長、お姉さん担当真船一雄が腕を組んで応える。

 マモルとゴリ男が、一雄に同意するようにうなずいた。

 

 そんな3人をみて。

 貴彦は至極真剣な表情で、打ち明ける。

 

 

「実は今度デートすることになった」

 

「なるほど」

 

「処刑してほしいってことか」

 

 

 マモルとゴリ男の殺意が強い。

 

 

「違うのだ。相手は世話になっておる資産家のお孫さんでな。実質見合いなのだが、じわじわ時間をかけて詰められて、下手に断れん雰囲気なのだ」

 

「なにも違わないじゃないか」

 

「むしろ酌量の余地が無くなったぜ」

 

 

 マモルとゴリ男の殺意が強い(2回目)。

 リュックやカバンから道具を出し始めた2人を尻目に、一雄が貴彦に尋ねる。

 

 

「その相手って、ひょっとして鷹ノ宮桜花さん?」

 

「うむ。そうなのだ」

 

 

 それを聞いて、マモルとゴリ男が爆発した。

 

 

「歩夢ちゃんといっしょに居た娘だよね!? 派手めで僕の趣味じゃないけどすごい美人じゃない!?」

 

「資産家の孫娘で、しかも美人!? そんな女が俺を差し置いて貴彦とデートってどういうことだよ! 金か!? 金なら俺も持ってるぞ!!」

 

 

 テーブルを乗り越えて、貴彦の襟首を掴んでぐいぐいと詰め寄る。

 バスローブしか着てないから、いまにもポロリしそうだ。

 

 それから。

 

 

「くそっ! 俺と貴彦でなにが違うってんだ!」

 

「やっぱり人類かどうかの違いじゃないかな」

 

「俺はゴリラじゃねえよ!?」

 

 

 血を吐くようなゴリ男の独白に、いつものクセでマモルがツッコんだため、今度はゴリ男VSマモルでバトルが始まってしまったのは、さておき。

 

 

「それで貴彦。オレたちに、なにを相談するつもりだったんだ?」

 

 

 盃を傾けながら、一雄が尋ねた。

 

 貴彦はブランデーグラスを傾けて。

 ソファの背もたれに両肘をのせて、ふんぞり返る。

 

 

「正直な、鷹ノ宮桜花──あれもいい女だとは思う。思うのだが……胸がないのだ」

 

「胸か」

 

「胸だ」

 

 

 一雄と貴彦は、一言で分かりあった。

 

 貴彦はエロ本同盟巨乳担当。一雄はお姉さん担当だ。

 お姉さんに求めるものは包容力。つまりおっぱいである。

 

 その点2人の性癖は似通っているといっていい。

 いや、似通っていた、と言うべきだろう。

 なぜなら。

 

 

「……貴彦。胸なんて飾りだよ。いい女かどうか。それが一番大事じゃないか?」

 

 

 一雄は歩夢のせいで、とうに宗旨変えしているからである。

 それはそれとして、趣味としてはお姉さん好きだけど。

 

 

「貴様はそれでよかろう! 貧乳のお姉さんも年下のお姉さんもそれはそれでアリだ! だがこっちの趣味は直球で巨乳なのだぞ!? どうがんばっても平均にも満たない、しかも胸を盛ってるような女が、一生の相手になるのだぞ!?」

 

 

 貴彦は全力で主張する。

 安生歩夢が知る未来において、鷹ノ宮桜花は貴彦の妻であり、なおかつ貴彦は桜花にべた惚れだという事実はさておき。

 

 

「あらあら、ゴリ男さん。財前さん家の息子さん、自分が選ぶ立場だと思ってらっしゃるわ」

 

「いやねえマモルさん。自分がモテるとでも勘違いしてるのかしら」

 

 

 バトルを終えたマモルとゴリ男が、また貴彦に絡んできた。

 

 

「貴様ら……俺様はモテるわ! 貴様らと違ってバレンタインチョコを貰ったこともあるし、女とつき合ったこともあるわ!」

 

「みんな貴彦の性格知らない別学年や他校の子だったけどね」

 

「つき合ったってのも、2日で振られたけどな」

 

 

 モテない男たちは容赦ない。

 あんまり煽られて、貴彦はキレた。

 

 

「おのれ……女とデートしたこともない非モテどもが嫉妬しおって! 俺様が美女とデートしている間、せいぜいエロ本鑑賞に勤しむがよいわ! ふははははははっ!」

 

 

 性癖に関する憂慮もどこへやら。

 開き直った貴彦はブランデーグラス片手に呵々大笑する。

 

 こうなると非モテどもには手札がない。

 たとえ貴彦の性格じゃ速攻振られるだろうと思っていても、美人とのデートって時点でうらやましいのだ。

 

 

「──さあ、今宵は俺様のおごりだ! 非モテどもよ、存分に飲むがよい!」

 

 

 もはや眼前の非モテどもを煽ることしか意識にない貴彦は、将来の問題など放り投げて、ブランデーを一気に飲み干した。

 こうして、馬鹿が馬鹿をやらかしながら。騒がしい夜は更けていった。

 

 ちなみに。

 歩夢の家にも鷹ノ宮桜花が訪れ、同じ問題について相談していたのだが、馬鹿どもに知る由はない。

 貴彦×桜花過激派であり、愛情を疑うほどに貴彦を尊敬してやまない歩夢が、桜花にどんなアドバイスをしたのかは、語るまでもない。

 

 桜花は3回くらい、「歩夢、あなたあの馬鹿のこと好きってわけじゃないのよね?」って確認した。

 

 それから。

 一度目のデートを終えたふたりは、相手についてこう語ったという。

 

 自己主張が強くて口論ばかり。

 結婚相手としてはありえないが……悪友としては、悪くない。

 

 財前貴彦と鷹ノ宮桜花の関係は、いまのところそんな感じだった。

 

 

 

 

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