TSお嬢様はミスター味っ子の料理を食べ尽くす!【完結】   作:寛喜堂秀介

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NEXT03 安生さんは腕まくり!

 

 1988年9月末。

 場所はいつもの喫茶店。

 メンバーは歩夢+エロ本同盟。

 このメンツで集まりすぎて、もはや歩夢もエロ本同盟のメンバーな趣がある。

 まあ、エロ本同盟本来の目的の集まりには、歩夢が呼ばれることはないのだが。

 いかに歩夢がエロ本やAVに関して理解があるといっても、当たり前である。特に一雄は、最近の趣味が貧乳でお尻の大きな女性だと知られたら死ねる。というのはともかく。

 

 資産運用に関するいつもの会議である。

 

 まずは成果報告。

 不動産担当のゴリ男に関しては、そこまで動きはない。

 なにせ都内の地価上昇は鈍化しつつあり、投機対象は首都から近郊に、あるいは大阪、名古屋などの地方の大都市に移りつつある。

 

 基本的にバブルの不動産投機はババ抜き。

 引くべきタイミングを知識として知っている歩夢が損などしようがない……とはいえ歩夢はそこまでのめり込むつもりはない。

 せいぜい分譲マンションを転がす程度で、あとは保有しているマンションの管理を任せているくらいだ。それくらいの規模なら、売り抜けも短期で出来て安全だし。

 

 証券担当の貴彦は、あいかわらずやばい。

 例のいろいろ危ない橋を渡りながらの投資に加え、成長株を手堅く抑えていたおかげで、歩夢の資産は株式だけで年度初めの倍──30億近くになっている。

 

 弁護士としてロールアウトするのはまだ先のマモルと、飲食店経営者の一雄は賑やかし……なのだが、歩夢のお陰で一雄は無駄に金を持っている。

 その大半を貴彦に預けている一雄の資産は、すでに5億を超えていたりする。あぶく銭だがこの額を使う趣味などあるわけもなし、さりとて事業拡大に使うにも、クッキングフェスティバルの影響で店が多忙すぎるため、そんなこと考えてる余地もない。基本的に増えてくのを見守るだけである。

 

 一通り、報告が終わって。

 

 

「いやー、激動の一ヶ月だったなあ」

 

「特に歩夢ちゃんと貴彦ね。色んな意味で逆だけど」

 

 

 一雄がしみじみとつぶやくと、マモルがつけ加える。

 

 いろいろ全部盛りで成功を収めた歩夢はともかく。

 一同の視線は、いろいろやらかした貴彦に向けられた。

 

 貴彦は深く息を吐いて。

 それから、ソファにもたれかかった。

 見ようによってはふんぞり返っているようにも見えるが、表情には疲れが見て取れる。普段崩れない貴彦にしては珍しい。

 

 原因は、リクルート事件だ。

 9月頭のスッパ抜きからこちら、世間から政権がぶっ飛ぶレベルの猛批判にさらされている政治家や官僚たちの恨み節は、直接は関係ないものの、状況を利用してまんまと儲けた貴彦にまで向けられたのだ。

 

 

「いやあ。別に攻撃されてるわけじゃないみたいだけどさ。貴彦、いろんな場所でチクチク言われてるみたいだよ。そりゃ参っちゃうよねっていうか」

 

「向こうも逆恨みだとは弁えておる。あくまで釘刺しの範疇で実害はないがな。アリバイ作ってなかったら、釘刺しでは済まんかったかもしれんが……ふっ、さすが俺様」

 

 

 マモルの説明に、貴彦がのそりと体を持ち上げ、襟元を正しながら胸を張る。

 

 歩夢としては、そりゃそうなってたでしょうとうなずくしかない。

 自分が全方位批難浴びてるこんな状況を利用して、まんまと儲けた人間に、叩ける隙があったら……たとえ八つ当たりだとわかっていても、嫌がらせのひとつやふたつ、やりたくもなる。貴彦は隙を見せなかったけど、今後も下手に隙を見せられない立場になった。

 

 

「──ま、そんな状況なのでな。鷹ノ宮翁や安生社長からも、足場を海外に移さないかと言われておるのだが」

 

「わたくしもおすすめしますわ!」

 

 

 居住まいを正した貴彦の言葉に、歩夢がばっと手を挙げて発言する。

 以前鷹ノ宮翁や大叔父の安生明徳と相談していたことだ。二人はすでに貴彦に話していたらしい。

 

 

「──というか雑談としてですが、明徳おじ様と、その折には資金の供出を、と話をしてましたわ!」

 

「ああ。安生社長が、貴様からも似たような話をされるかもしれんと言っておったが、それでか。示し合わされたようで気に入らんが……正直、日本で官僚の目を気にして大人しくしているのはもっと気に入らん」

 

「それでこそ先生ですわ!」

 

 

 歩夢は貴彦節全開な貴彦の決断を称賛する。

 

 

「──それにアメリカはこれから盛り上がるITの本場! ハイテク大好きな先生が暴れまくる場として、相応しいのではないでしょうか!?」

 

「そういえば、ちょうど貴彦、アメリカに窓口作ってたよね」

 

「ああ……あの紙一重のな……」

 

 

 マモルが思い出したように手を打つと、貴彦は遠い目になった。

 紹介されていた現地の邦人が、客の資金を私的流用するやべーやつだったことに、貴彦が現地に行ったことで気づいたというギリギリセーフだった事態である。

 

 と、一雄が横から口を挟む。

 

 

「じゃあ貴彦アメリカ行きか。いつから行くんだ?」

 

「それがな……伝手や人材など、支援を約束してくれていた鷹ノ宮翁が入院してしまってな。10月頭には向こうに行っている予定だったが、ちと延びそうだ」

 

 

 鷹ノ宮翁の入院に関しては、歩夢も桜花から聞いている。

 味皇に心臓疾患が見つかったことを知って、例のマント医師の名声を知っている鷹ノ宮翁が、便乗して検査してもらったところ、大腸がんが見つかったらしい。

 

 初期の初期で、こんなのよく見つけたなってレベル。

 手術もマント医師的には容易だったらしいが、当主ががん、と聞いて、鷹ノ宮グループは蜂の巣をつついたような騒ぎになったらしい。

 

 次代の鷹ノ宮の長たる桜花の父が、良く言えば温厚。悪く言えばお人好しのボンクラなこともあり、お家騒動まがいの動きまであったようで、病院でその事実を知った鷹ノ宮翁は激怒しているという話だ。

 

 歩夢が知る未来では、バブル崩壊で貴彦が資金繰りやばくなっていたタイミングでこれが起こったんだろうなあと想像すると……大惨事である。

 アメリカでの窓口になるはずだった例の人といい、呪われてるんじゃないかってレベルだ。歩夢がいろいろ関わった影響でほぼ解消されたけど。

 

 

「鷹ノ宮翁には、信頼できる通訳を借り受けることになっていたのだがな……そんなこんなで、予定がめちゃくちゃになっておるのが現状だ」

 

「信頼できる通訳……太郎さまですわね」

 

 

 貴彦の話を、歩夢が補足する。

 

 太郎は桜花の取り巻きの一人である。

 アウトドア好きだが語学に堪能で、鷹ノ宮翁の通訳を務めることもある、と桜花から聞いている。桜花を放っておいて釣りやキャンプを優先しがちだという愚痴混じりで。

 

 

「うむ。こればっかりは、代わりの人間など急には見繕えん」

 

「はいはいはい! わたくし英語ばっちりですわ! 契約書も読めますわ! 法律用語も問題なしですわ!」

 

 

 貴彦の言葉に、歩夢は目を輝かせて元気よく手を挙げた。

 商船会社に務めていたのと実家の関係上、そのあたりは抑えている。

 歩夢としては、いっしょにアメリカに飛んで、貴彦に全面協力するのは望むところだが。当の貴彦が首を縦に振らない。

 

 

「たわけ! 貴様は俺様以上にスケジュールぎっちぎちであろうが!」

 

「先生のためなら全部キャンセルして渡米におつき合いしますわ!」

 

「一雄に勘違いされそうだからやめい! というか一雄は一雄でなぜ納得顔なのだ!」

 

 

 令和の歩夢が貴彦に世話になってることを知っているからである。

 

 ちなみにマモルも知ってるから納得してる。

 ゴリオは「女の敵め」みたいな表情をしているが、貴彦にそんな感情はない。

 単純に胸が守備範囲外なのと、歩夢は一雄とくっつくべきだと思い込んでいるからだ。

 

 

「ちなみに歩夢ちゃん、来月の予定ってどんな感じ?」

 

「えーと、ラーメン祭りは今月末ですし、来月なら……」

 

 

 マモルが尋ねると、歩夢は予定を思い出しながら、指折り数える。

 

 

「ラジオのゲスト4本。テレビ出演8本──これはレコード売り上げ次第で増えるかもしれませんわね。それからパーティ出席5回、新規のCM収録2本、新曲の準備、各種打ち合わせに、あとは永田社長の馬主業の手伝いで北海道の日高の牧場に挨拶、世界・食の祭典でのトーク&コンサート。毎日王冠、秋の天皇賞の観戦……」

 

「多い多い多い! いや忙しいのはいいが、それ全部ブッチしようとする貴様が怖いわ!」

 

 

 あまりの数に、貴彦が全力で突っ込む。

 

 

「信用はものすごく大切ですが、それよりも恩義! 当然のことですわ!」

 

「重いわ! 貴様はちゃんと仕事しておれ! ほら、あれだ! 困ったら電話で相談してやろうではないか、な?」

 

「承りましたわ! この安生歩夢にお任せあれ! ですわ……あやっべ、この時代の法律確認しとかなきゃですわ」

 

 

 後半は小声でつぶやいているのは、ともかく。

 貴彦の、半ば妥協のような提案に、歩夢は全力で胸を張った。その胸は平坦だった。

 

 

「前世の歩夢ちゃんと貴彦の関係がめちゃ気になる……」

 

「人生の師的な存在だったらしいよ」

 

 

 歩夢の素性を知る一雄とマモルが、二人の会話を聞きながら、小声で話す。

 そのへんの事情をまったく知らないゴリ男は、歩夢と貴彦の会話のほうに口を挟む。

 

 

「そういや歩夢ちゃん、食の祭典って……また飲食イベントやるの?」

 

「世界・食の祭典は北海道札幌市のイベントですわね! 一応飲食も関係してはおりますが、わたくしがやるのはトーク&コンサート──ぶっちゃけ客寄せですわ! すこしでも来客を増やしたいってマジで悲壮な感じでしたので、まあ地域貢献になるのなら、って感じですわね!」

 

 

 正直半分ボランティアみたいなもんである。

 が、成功を収めて圧倒的な知名度があり、人にうらやまれる立場となった歩夢としては、こういう慈善的なことも大事なのだ。

 

 

「地域貢献かあ。そのために北海道まで行くのはさすが歩夢ちゃん! ……そういや馬主業の手伝いって、前に言ってた永田建設?」

 

「はいですわ! 以前からお願いされていたのですが、クッキングフェスティバルも終わって区切りがつきましたので、お手伝いすることになりましたわ! ですので永田建設にも籍を頂戴しておりますわ!」

 

 

 名ばかりとはいえ役員待遇である。

 歩夢の話に、ゴリ男はうほっと歓声をあげた。

 

 

「それでまずは牧場に挨拶か。いやうらやましい。オレも馬に乗ってみてえな」

 

「ゴリラが馬に乗る姿はわりとシュールだよね」

 

「オレは人類だっつーの!」

 

 

 マモルが茶々を入れたせいで、マモルとゴリ男のバトルが始まってしまったのはともかく。

 

 

「めちゃくちゃ忙しそうだけど……馬に関われるのはいいなあ」

 

 

 一雄がしみじみとつぶやく。

 歩夢が布教したおかげで、今では一雄も熱心なウマ娘ファンであり、シンデレラグレイファンであり、競馬ファンだ。オグリの出走するレースが紙面に載った競馬新聞は全部集めている。

 

 

「オグリキャップ様にも間近でお会いいたしましたわよ! お鼻でぶにぶにしていただきましたわ!」

 

 

 歩夢は得意げに胸を張った。

 まじで唯一無二の体験である。

 歩夢の言葉に、一雄もきらきらと目を輝かせている。

 

 

「テレビで見たよ。あれマジでうらやましかった! オレも行きたかったなあ!」

 

「10月には毎日王冠、そして秋の天皇賞! 東京競馬場ですので、いっしょにオグリ様の活躍が見れますわよ!」

 

 

 うらやましがる一雄を、歩夢はそう言って励ます。

 特に10月末の秋の天皇賞は、オグリキャップが初めてG1の舞台に立ち、芦毛対決を演じるタマモクロスとの初対決となる伝説のレース。歩夢としても楽しみで仕方ない。

 

 歩夢にとって多忙極まる10月。

 だが同時に、わくわくが止まらない。

 きらっきらの笑顔で、歩夢はあふれる思いを口にする。

 

 

「ほんっとうに……いまから楽しみで仕方ありませんわ!」

 

 

 

 

 

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