TSお嬢様はミスター味っ子の料理を食べ尽くす!【完結】   作:寛喜堂秀介

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NEXT09 翔んでる!安生歩夢

 

 

「みんなで一斉に歩夢ちゃんを呼ぼう! せーの──歩夢ちゃーん!!」

 

「……はーい! ニューヨークからこんにちわ! ですわ! 安生歩夢ですわー!!」

 

 

 テレビ局のスタジオ。

 司会の合図に従い、子どもたちが一斉に声を掛けると、設置された巨大モニターに、安生歩夢が映し出された。

 セミロングの黒髪に、輝くような容貌。お嬢様然とした装いだが、「突っ走るエセお嬢様」の異名通り、動きには勢いしか感じない。

 

 ニューヨークからの衛星中継だ。

 生放送なのでタイムラグがあるのは御愛嬌。

 ひさしぶりに生で映された彼女の姿に、子どもたちが目を輝かせる中、司会が画面越しに声をかける。

 

 

「歩夢ちゃん、全米デビューおめでとう! 日本でも売上絶好調の“ハミング”が、全米チャートで初週56位って話だけど……これピンクレディーの全米デビューシングルの初登場順位より上なんだよね! このままいくと日本人アーティスト歴代2位になっちゃうんじゃないの!?」

 

「だとしたら光栄ですわね! もちろん道なき道を歩み、米国の方々に日本の歌を広めた先人たちの、偉大な挑戦あってのことだと思っておりますわ!」

 

 

 歩夢は画面の中で変なポーズを取りながら答えた。

 ポーズを取るたびに子どもたちはきゃっきゃ言ってる。

 

 

「うんうん……ところで歩夢ちゃん! 本日は、アメリカで活躍してる歩夢ちゃんの話が聞きたくて、全国から子どもたちが集まってるんだけど……」

 

「それは光栄ですわ! もちろん否やはございません! さあキッズたち! なんでも聞いてくださいまし!」

 

 

 司会の言葉に、歩夢が答える。

 このあたりは段取り通りなのだろうが、子どもたちの歓声は本物だ。

 

「じゃあまずは──」と司会が質問する子供を指名する。

 指名された女の子がは元気よく立ち上がると、氏名年齢を名乗ってから質問する。

 

 

「歩夢ちゃん! アメリカって、みんな英語を喋ってるんですか!?」

 

「はいですわ! 基本は英語ですわね! でも中国語とかスペイン語なんかも耳にしますわ! アメリカには、色んな国から来た人がいらっしゃいますので!」

 

 

 歩夢が質問に答えると、次の質問だ。

 子どもたちが次々と指名され、声を上げていく。

 

 

「こ、こんにちは! 歩夢ちゃんの歌大好きです! アメリカで大変だったことってありますか?」

 

「デビュー直後はスケジュールが分刻みだったことですわね! テレビ番組やラジオを、何件もハシゴしましたので! でも同時に最高に楽しい時間でもありましたわ!」

 

「歩夢ちゃん! アメリカではなに食べた?」

 

「ホットドッグとハンバーガーとフレンチとイタリアンとステーキとTボーンステーキと中華料理と寿司とピザとフィッシュ&チップスとジャンバラヤとソフトシェルクラブとロブスターとニューヨークチーズケーキとパンケーキとタコスとお蕎麦とパストラミサンドイッチとクラムチャウダーと……」

 

「多い多い多い! 質問した拓くんには、後でどんな食べ物か説明しておきますね! 次の子!」

 

 

 食事関係の質問で歩夢が止まらなくなったので、司会が必死に止めて、次の質問に移る。

 

 指名された幼稚園児くらいの少年は、純真無垢な瞳でこう尋ねた。

 

 

「歩夢ちゃんちゅーした?」

 

「ちょ、ストップ! 映像止めて! 人形と差し替えて!?」

 

 

 司会が必死に止めようとするが、これは早合点だ。

 画面の向こうの歩夢は、慌てず騒がず笑顔で質問に答える。

 

 

「洋画なんかでよく見る、親愛のキスのことでしょうか? こちらでは挨拶としてしたりもしますが、わたくしはしておりませんわ!」

 

「ごめん、ちゃんと理由のある質問だった! 心が汚れててごめん!」

 

 

 司会は全力で謝った。

 小さな混乱がありながらも、子どもたちの質問は続く。

 

 

「歩夢ちゃん、どうしたらお歌が上手くなれますか?」

 

「若輩未熟の身ながらアドバイスさせていただくと……恥ずかしがらず胸を張って思い切り歌おう! ですわ!」

 

「安生歩夢様。わたくし歩夢様の、いわゆるひとつの大ファンなのですが、歩夢様がニューヨークではAA(ダブルエー)と呼ばれたりしているとニュースで見て承知しておりまして……このAAは歩夢様の胸部的特徴を示すものなのでしょうか?」

 

「ニュースかなにかで見たならご存知ですわよね!? 安生歩夢のイニシャルですわ! どうも人によっては“アユム”が発音しにくいようで、愛称としてそう呼ばれたりしてますわ! あとさすがにAはありますわ!」

 

「ストップストップストーップ! 歩夢ちゃん! 言わなくていいから! あといまの女の子はぬいぐるみに変えといて! 次々!」

 

「歩夢ちゃん、AとかAAってなんですか?」

 

「引っ張らないで! 後で教えてあげるから!」

 

 

 質問してるのが子供だけあって、司会も大わらわだ。

 

 

「歩夢ちゃん、うちのおじいちゃんがいつもおせわになってます!」

 

「唐突な飛び道具にわたくし困惑ですわ! どこの馬主様のお孫さんでしょうか? ともあれ、こちらこそ、お世話になって感謝ですわ!」

 

「歩夢ちゃん! 今度ミニ四駆に新しいモデルが出るよ! アバンテJr.っていうんだけど!」

 

「コータ様! 日本に帰ったら速攻買いですわね!」

 

 

 世話になってる馬主のお孫さんだったり、駄菓子屋仲間の小学生だったり。歩夢に縁のある子どもたちが紛れているのはさておき。

 質問に答える歩夢が調子良くぽんぽんと答えるので、質問する子どもたちも勢い込んでいる。

 

 

「歩夢ちゃん、エッフェル塔見えた?」

 

「エッフェル塔はパリですわね! フランスですわ! ここニューヨークの有名な高い建物は、自由の女神やエンパイヤステートビルですわね! もちろん見えましたわ! あとワールドトレードセンターのツインタワーも初めて見ましたわ!*1

 

「歩夢ちゃんアメリカで服とか買った?」

 

「何着かオーダーしましたわ! あとニューヨーカー的な文字が入ったTシャツをたくさん購入しましたので、こちらをキッズの皆さまと視聴者方にプレゼント、ということで、お送りしておきますわ!」

 

「はい、歩夢ちゃん、ありがとうございました! 頑張ってください! 帰国を待ってるよ!」

 

 

 最後に、司会が締めて。

 子どもたちが一斉にお礼と応援をして、中継は途切れた。

 アメリカから次々と送られてくる歩夢の映像に、日本でも人気がすごいことになってるのだが……そのあたりを歩夢が実感するのは、日本に帰ってからのことである。

 

 

 

 

 

 

 12月6日。全米始め、世界各国の初週売上が一通り出揃って。

 近年まれに見る手応えに、予定していたホテルでの慰労会は、祝勝会のごとき雰囲気に包まれた。

 同行した音楽関係者や取材陣だけでなく、米国での関係者スタッフ、仲良くなった現地メディア等いろいろ巻き込んでの大騒ぎだ。

 

 酒に弱い歩夢は、主役ながらほとんどジュースで過ごしていた。

 そのわりに酔っ払ってるのかってテンションだったのはともかく。

 

 これで音楽関係の当初の予定は無事終了。

 翌日はみんな休みということで、歩夢は先にニューヨークに来ていた桜花と会う約束を取り付けた。

 

 落ち合う場所は、桜花のアパートメント。

 正確には鷹ノ宮商事所有のアパートで、ミッドタウンイーストの国連事務所近くにある。

 鷹ノ宮翁が溺愛する孫娘を住ませるだけあって、住民や周囲の治安、セキュリティなど、いろいろしっかりした環境らしい。

 

 歩夢の泊まるホテルとも近く、気軽に会える距離ではあるのだが、なにせ歩夢が忙しすぎた。

 ホテルで電話番やってた仲居さんとは、何度か会っていて、花束とかお土産とか、桜花の痕跡だけが部屋に残ってて、歩夢はちょっと寂しかった。というのはともかく。

 

 歩夢組全員引き連れてアパートに着くと、執事の佐次郎が建物前で待っていたので、案内してもらう。

 桜花の部屋はアパートの最上階。さらに上、屋上のペントハウス*2には、貴彦が住んでいるらしい。

 

 

「歩夢ー! 会いたかったわ!」

 

「おひさしぶりですわ桜花さま!」

 

 

 部屋に入ったとたん、抱きついてきた桜花に、歩夢は抱擁を返す。

 どっちも膨らんでる部分がないため、密着度は高かった。

 

 さておき。歩夢に続いて、同行の3人が順番に入室する。

 

 

「桜花さん、お邪魔します」

 

「すみません、ついてきちゃって」

 

「こんにちは! 歩夢さんの友達で、味吉陽一だよ!」

 

 

 仲居さん、一雄に続いて陽一が自己紹介する。

 歩夢の友達という言葉に、桜花が一瞬めっちゃにらんだが、さすがに大人げないと思ったのか、笑顔で流した。

 

 

「こんにちは。いつもうちの歩夢がお世話になってありがとう。歩夢の一番の親友の、鷹ノ宮桜花よ」

 

 

 いやぜんぜん流せてなかった。

 桜花は全力でマウントをとりに来るが、陽のコミュ強である陽一は動じない。

 

 

「うん、よろしく! 桜花さん!」

 

 

 元気よく挨拶する陽一に。

 陰のコミュ障は「なるほど」とつぶやき、すっと手を差し伸べた。

 

 

「……友達、というところでよろしいかしら?」

 

 

 みんな温かい目で桜花を見た。

 以前なら「あなたごときが」と高飛車全開で拒絶して、半日くらいは凹んでたので、これでも成長しているのだ。

 

 ともあれ。

 桜花の部屋は広い。複数部屋あり、応接室も備えている。

 歩夢たちは応接室のテーブルを囲って、お茶を飲みながら近況を語り合った。

 歩夢がいろいろ派手に暴れてるのは、桜花もテレビやラジオでのチェックを欠かしていないので、知っていた。仲居さんとも情報交換しているので、知りすぎているくらいだ。

 

 一方、桜花だが……

 

 

「……貴彦と太郎との間で問題があるのよ」

 

「先生と太郎さまが……?」

 

 

 太郎は桜花の取り巻きのひとりで、アメリカには貴彦の通訳として来ている。

 釣りやキャンプをはじめアウトドアレジャーが大好きで、たまにそのために桜花の招集すら断ったりする趣味人だ。

 

 

「もしかして、桜花さまをお慕いする者同士、ケンカになったり……?」

 

 

 歩夢が尋ねる。

 一番ありそうな可能性だったが、聞いた桜花は、腹の底から吐き出すように、ため息をついた。

 

 

「逆よ逆、仲良くなりすぎたのよ」

 

 

 コーヒーをやけ酒のごとくあおってから、桜花は説明する。

 

 桜花の取り巻きと婚約者候補。

 ふたりの間は、最初はたしかにぎこちなかった。

 最初の挨拶のときには火花が飛び散っていたように見えたし、飛行機の中ではほとんど会話もなかった。

 

 だが、ニューヨークに着いて現地のエージェントを交えて話し、オフィスを整えて。

 一緒に仕事をするようになると次第にふたりはおたがいを認め合うようになり、ある日一晩飲み明かして……一気に意気投合したのだという。

 

 以降はもうマブダチといった風情で、いまもふたりでカリフォルニアに出張中。

 婚約者……ではないけれど、その候補者くらいの立ち位置には居る桜花の立つ瀬がない親密さである。

 

 

「桜花さまを放っておいて、なにやってんですの先生たち……」

 

 

 歩夢は呆れた。

 令和でのラブラブぶりを知っているだけに、もどかしくてたまらない。

 他の面々も「うわぁ……」って表情になってて、貴彦の親友、一雄すら頭を抱えてる。

 

 そんな、なんともいえぬ空気の最中。

 ふいに、部屋の呼び鈴が鳴らされた。

 

 執事の佐次郎が応対に出て、しばらく。

 外から聞き覚えがある、貴彦の声が聞こえてくる。

 

 

「桜花よ! 俺様と親友がカリフォルニアから帰ってきたぞ!」

 

「いやー、西海岸の潮はなかなかよかったよ! 桜花ちゃん、これお土産!」

 

 

 肩を組みながら入ってくる貴彦と太郎。

 その様子を呆れた視線を送っていると──貴彦は一雄の姿をみつけて、焦りだした。

 

 

「か、一雄。これは違うのだ! もちろん俺様の一番の親友は一雄だ!」

 

「なんで浮気が見つかった、みたいな感じになってんの……」

 

「そういうのに俺を巻き込まないで欲しいんだけど……」

 

 

 必死に弁解する貴彦に、一雄が呆れたように突っ込み。

 そのBL的な例え方に、太郎が嫌そうに抗議した。

 

 歩夢と陽一は呆れっぱなしだし、桜花は汚物でも見るような視線になっているし、仲居さんはちょっと目を輝かせている。仲居さんはもうだめだ。

 

 

「──ともあれだ! 我が街マンハッタンによくぞ来たな歩夢よ! 貴様の活躍は、なんか知らんがカリフォルニアにまで届いておったぞ! いやほんとになぜなのだ? わけわからんわ! だが褒めてやる! よくやった日本代表!」

 

「お褒めに預かり光栄ですわ先生! でも先生、桜花さまを放っておいて出張とか感心いたしませんわ!」

 

 

 ほめられて歓びつつも、歩夢は全力で抗議する。

 基本貴彦全肯定の歩夢だが、この件に関しては見過ごせない。

 

 

「仕方なかろう! パソコン関連で投資する以上、シリコンバレーとは無縁で居られん! 貴様からの情報の裏取りもして置かんといかんしな! だがそうはいっても立ち上げたばかりの会社も放置しておけん! 100%信頼できる役付きの桜花がいてくれて、正直めっちゃ助かっておるのだぞ!」

 

 

 貴彦の主張に、桜花の表情が晴れた。

 ってことはちゃんと自分の意志を伝えてなかったってことだけど。

 

 

「──それに、だ。順調に伝説を築く地歩を固めている俺様だが、こちらで顔を広げようと思えば、パーティとは無縁でおれん。パートナー役を務めてくれる桜花の存在が、どれほどありがたいかという話だ……まあ、俺様も桜花も英語力は微妙なのだが」

 

「こっちに来て一ヶ月でだいぶ上達したのだけどね。やっぱり必要に迫られると覚えられるものだわ」

 

 

 貴彦に言われて、桜花は笑顔で返す。

 最初会ったとき、表情に出ていた不安はきれいになくなっている。

 安心すべきか、先に言っとけと突っ込むべきか。まあ結果オーライだろう。

 

 

「しかし、だ。俺様にも不安があった。パーティに出るのはいい。だが、パーティを主催するとなると──いや、俺様に相応しいゴージャスなパーティを催すにも、これぞ俺様! という目玉料理が見つからんのだ!」

 

「なるほど、そこで一雄さんの手が必要だったわけですわね!」

 

 

 歩夢がポン、と手を打った。

 米国に来る際、一雄は貴彦に頼まれ事をしていたが、このことだったのだ。

 

 

「おうとも! 我が親友にしてカレーの名人たる一雄がパーティの目玉料理を手掛けてくれるなら、勇気百倍! 鬼に金棒というやつだ!」

 

 

 貴彦はこれでもかってくらい一雄を褒めまくる。

 パーティ本番でも同じように一雄を自慢しまくる貴彦の姿が目に浮かぶようだ。

 桜花もまったくおなじ想像をしたのだろう。ふんぞり返る貴彦に半眼を向けた。

 

 

「こいつホモじゃないわよね……」

 

「ちゃんと巨乳好きですわよ」

 

 

 桜花の至極真っ当な疑問に、歩夢は答える。

 

 

「ぶん殴るわ」

 

 

 虚乳の桜花は手をぽきぽきと鳴らそうとする。うまく鳴らなかったけど。

 それから、貴彦と桜花が女性の胸についてそれぞれ譲れぬ主張を始めた傍らで。歩夢たちは顔を見合わせる。

 

 

「一雄さん、パーティの目玉って、どんな料理を考えましたの?」

 

 

 歩夢が尋ねると、一雄は隣の陽一と腕を組んで「へへっ」と笑う。

 

 

「実はこの一週間、ホテルの厨房を借りて、一雄さんが日本で考えてきたメニューを改良してたのさ!」

 

「陽ちゃんはその間に別件で味勝負してたけどね……材料も、ホットドック屋のジェフくんが最高のものを手に入れてくれたしね! 名付けて陽一&一雄式照り焼き風タンドリーチキン!」

 

 

「きめっ!」と、ふたりはピースサイン。

 歩夢が知らない内にまた味勝負が行われていたのはさておき。

 

 

「なら、まずは試食ですわね! 陽ちゃんが味勝負してたやつも、ぜひ!」

 

 

 さておけないので歩夢は全力で主張した。

 

 数日後。

 貴彦主催のパーティが執り行われた。

 陽一と一雄による料理は大好評。貴彦も株を上げた。のだが。

 パーティのインパクトは、サプライズで参加した歩夢が全部持っていってしまったという。

 

 

 

 

 

*1
壊れた当時歩夢は3歳なので無事な姿は見ていない。

*2
この場合建物の屋上につくられた簡単なつくりの家。

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