遡行禍殃 東京惨劇編   作:天ヶ瀬 趙世(早川 脩司)

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少々読みにくい箇所がありますが、ご容赦ください。


第一章 新旧魔術師戦
第一話「開幕」


 10年前、僕が小学生2年生の頃。

 魔術師3人組による大規模魔法にて、東京都に住まう人間の大半が死亡し、姿を消した。

 突然、何の前触れも無く。

 

 僕の父親は当時、対魔法術師の1人。『日本最強の妖術師』として小さな集落から東京都まで行き、政府 警察と共に調査を行った。

 本来、妖術師は妖 ―――妖怪と戦う術師の事だが、対人戦も可能だ。

 

 父親の話によると東京都に着いた瞬間猛烈に嫌な予感がしたらしい。そして渋谷駅から出て区内を歩き回ったが、渋谷区内はもぬけの殻だったそうだ。

 当然だろう、大規模魔法による死者は563万人、行方不明者は819万人。東京都内の人口は1,396万人、大半が死亡、又は行方不明になっている。

 

 死亡と言っても、死体が転がっていた訳では無いらしい。 灰に近い砂状の何かになっていたと父親は言っていた。行方不明と言う事は恐らく…風に吹かれて消えてしまったのだろう。

 

 そして時は進み、2年前。僕が高校入学した頃。

 

 父親は病気で、母親は老衰で亡くなった。

 

 一応、先程も話した通り父親は政府公認の妖術師として、全国の術師を集めた組織が行う東京大規模魔法事件の調査に参加していた為、中学の頃に父親の妖術を継ぎ、中学卒業後は僕が代わりに調査をしていた。どちらかと言えば、「手伝っていた」の方が正確だろう。

 

 勿論、そう簡単に魔術師3名についての情報は集まらず捜査は難航。組織は解体されてしまった。僕はただの妖術が使えるだけの高校生になってしまった。東京大規模魔法事件の調査に参加していた為、余裕で一人暮らし出来る程の金は貰えていたから生活に不自由はなかった。

 

 しかし、今現在の僕は実質無職。そして高校入学直後と言うのもあり、すぐにバイトをしたりは出来なかった。

 

 

 

 それから少し経った日のこと、貯金していたお金で都心の一角にあるマンションに僕は住んでいた。住み心地は良く、隣人さんも優しい人ばかりだ。

 だがどうしても、どうにもならない問題があった。

 

「お金が……無い……」

 

 貯金も底を尽く寸前。高校は現在冬休みに入り、僕はバイトの許可が降りなかった為、家でゴロゴロしていた。

 このままではいずれ食料も全て無くなり、餓死してしまう……。そうなる前にどうにかしてでもお金を手に入れなければならなかった。

 

 かと言って犯罪に手を染めるのだけは流石に良くない。そう思い、僕はベッドの上で考える。

 

 そんな時、ふと実家の事を思い出した。父と母が暮らしていた家だ。

 もしかしたら何か金になる物があるのではと思い、僕はすぐに向かった。

 

 住んでいたマンション近くの駅から電車で約2時間半。ようやく実家に到着した。

 

「ここに帰ってくるのも久しぶりだな」

 

 中学校以来一度も帰ってきたことがなかった実家。なんだか懐かしく思えてくる。でも今はそれより先に優先すべき事がある、

 

「すまんな父さん母さん!家にある金目のモノは全て僕が―――!!」

 

 結果、家の中を探し回ったが金になりそうな物は何も無かった。父親の事だ、死ぬ前に金になりそうな物は全て売り払ったのだろう。

 

「何も無かった……!!いや待てよ、あと一件ある」

 

 諦め半分、僕は母親と父親が住んでいた家から離れた場所にあるもう1つの家に行った。家中をくまなく探したが案の定、何も無かった。家の中は。

 

「ここもかよ!僕の父親はどこまで用意周到なんだ……いや待て、そう言えばあそこに―――」

 

 歩いて10秒で着くすぐ近くに小さな蔵があった。昔ながらのなんだか懐かしい感じの蔵が。

だが蔵には鍵が掛かっていて簡単に開きそうが無かった。しかし―――

 

「―――解錠《アンロック》!!」

 

 例え最強の金庫でさえも開けてしまう術『強制解錠』を発動。

 鍵を外して開けてみると中には何やら難しい字で書かれた本や巻物、触っただけで崩れそうな棚が沢山あった。

 

「ここにある本売れば大金になるんじゃ……」

 

 僕は棚の中に沢山置いてある本の中で一際異彩を放つ、赤い本を手に取った。吸い込まれるかのように。

 

「―――顕現せよ」

 

 その瞬間、僕は無意識的に本を開いて中を詠んだ。声に出して読んだ。最初から最後まで、1文字も残さず。

 異変が起き始めたのは最後の一行辺りだった。本が段々と光り始め、足元に大きな陣が出来ていた。

 だが僕は気にすること無く詠唱を続ける。

 

 最後まで読み終わった僕はまるで夢から醒めるような感覚で意識を取り戻した。

 

「―――なっ!?」

 

 突然の出来事で混乱していた僕は慌てて本を投げ捨てた。本は軽い音を立てながら蔵の奥の方に転がって行ってしまった。すると足元の陣も消え、何事も無かったかのように静寂が訪れた。

 

「今のは……なんだ?」

 

 一体何だったのか。何故、僕は無意識に本を開いたのだろか。何もわからない。

 憶測だが、もしかするとこれは父親が残した妖術の書なのではと僕は考える。

 

 本から微量ではあったが、妖力を感じた。

 

 もしかすると、いや確実にこの蔵にはやばいモノが沢山置いてある。

 僕は少し恐れながらも「父親から教わらなかった術が使えるようになるかもしれない」と、心の奥ではワクワクしていた。

 

 次は蔵の奥、灯りが届かない所にある何重にも鍵が掛かっている扉を見つけた。

 中に何か隠されている様な扉を

 

 

 時々休憩を挟みながら、僕は5日かけて鍵を全て解錠した。この行動が全ての始まりで、間違いだった。

 解錠後、僕は中にあった1冊の緑色の本を手に取った。中を見なくてもわかるほどの禍々しさ、厳重なだけあって危険感がある。

 

「この本だけ他と違うな。どれどれ一体どんな術が―――」

 

 

 

 

「―――永劫の時を視認する」

 

 二度目の無意識詠唱。僕はどこまで愚かなんだ。

 

 

 突然、僕の足元が光り始め、先程とは違う形の大きな陣が生成された。僕は詠むのを辞めなかった。途中で辞めれば何かを失う様な気がして。

 

「これは常世全ての時間を遡行する術であり、常世全ての未来を見据える―――」

 

 詠み始めて数秒後、僕の口から液体が出来た。赤い。血だった。

 

 その血が陣に垂れた瞬間、陣が赤く発光した。僕は詠むのを辞めなかった。どんどん体から血が無くなっていくのを感じた。これ以上は危険だと僕の体は悲鳴をあげていた。

 

 陣が完成していく、僕の体も限界を迎えていた。

 いつの間にか本の色が緑色から黒色に変わっていた。そう言えば昔父親が言っていた。

 

「黒色の本は禁忌の術が書いてある本だ、禁忌の術ってのは妖術師の中で使う事が禁じられた本の事だ。妖術師が使う術ってのは等価交換と同じだ。だから禁忌の術を使うと一生、死より最悪な…地獄が待っているそうだ」

と…。

 

「ぐ……っ!」

 

 この時僕はもう何も考えられなかった。体も精神も限界だった。ここで詠むのを辞めればもしかしたら体の一部を失うだけで済むかもしれない。それでも僕は、詠むのを辞めなかった。

 

「―――術、発動。」

 すると突然、頭の中に何かが、流れ込んで来た。

 

 

 

未来を視た。人間が沢山死ぬ。

 

未来を視た。大きな魔法陣が空に展開される。

 

未来を視た。今度こそ東京都に住む人間全員を消し去ろうとする魔術師3人組が。

 

未来を─── 視た。

 

『2年後、再び惨劇が起こる。大規模な魔法発動により全員が巻き込まれ、死滅する』

 

 

 

 

 気が付くと僕は蔵で寝ていた。先程まで手に持っていた本は無く、陣も消えていた。鍵が何重にもかかっていた扉さえも。

 

「あれ……僕は何をしてたんだっけ…」

 

 僕はその時、夢を見ていたのだと解釈した。色々見ている内に眠くなってしまい、そのまま眠ってしまったのだと。しかし、夢にしてはハッキリしすぎていてまるで現実のようだった。それに、体の痛みがまだ鮮明に残っていて―――

 

「―――違う、僕は眠くなって寝ていた訳ではない…。」

 

 

 妖術師は術を発動させるのに『妖力』を必要とする。術のグレードが上がれば上がるほど妖力を多く必要とする。そしてこの体を襲う強烈な痛み、これは間違いなく『強力な術』を使用した後と同じ感覚だった。

だが、どんな術を使ったのかを僕は覚えていなかった。

 

「クソ…取り敢えずここで色々考えても無駄だな。宿に行ってから考えよう」

 

 僕は体を起こそうと上半身に力を入れたが、ピクリとも動かなかった。沢山の妖力を使用した代償がまだ続いていたのだろう。

 僕はもう一度横になって数分間待った後、再び体に力を入れてようやく立てるようになった。

 

 外はもう暗く、夜になっていた。結構長い間眠っていたのだろう、腹も空いていた。家を離れ、田舎特有の蛙の鳴き声と虫の音を聴きながら歩いて5分。宿の近くまで来ていた。

 

「確かこの道を右だったか…?あれ、道なんて無いじゃないか」

 

と、その瞬間。

 

 大きな何かが横から猛スピードで突っ込んで来ていた。

 熊でも岩でもない。大型トラックだった。

 

 道を探すのに集中していた所為か、いつの間にか道路まで出てしまっていたらしい。

 

「な…っ?!マズイ!」

 

 僕は驚き、咄嗟に術を発動させ、避けようとした。妖術師の中では基礎の基礎、回避の術だ。

 僕は術を使用しトラックを避け―――れた。

 

 顔面スレスレの所をトラックは通過し、どこかへ行ってしまった。

 危うく轢かれる所だった…と安心していたその時

 

「え?」

 

 僕の体は宙に浮いていた。

 なんと、2台目のトラックが来ていた。全身に痛みが走る。今まで体験した事の無いような痛み。そのまま僕は地面に叩きつけられるように落ちた。

 

「ぼはぁッ!!」

 

痛い。

痛い痛い痛い「たすけ」痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い「これは死」痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛「ほんとにまずい」い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 

苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい「嫌だ」苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦し「なんでこんな」い苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい。

 

 これは流石に、妖術師とはいえ厳しかった。呼吸は出来ず、声も出ない。手も足も動かない。回復の術を使うには詠唱が必要だった。何も出来ない儘、僕は死ぬのかと思った。何も出来ない儘…。

 

 まずい意識が

 

 

遠く な っ

 

 

 

こ れは

 

 

 

 

「これは―――どうにも出来ない…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして僕は、死んだ。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

苦しみながら死ぬのは嫌だった。

 

 

 

例えば、溺死とか焼死、出血死とか窒息死とか。もし助からない状態で死ぬなら、苦しまずに一瞬で死んだ方が僕は良い。そう思っていた。

 

 

 

 だけど、僕は苦しみながら死ぬ。諸臓器の破裂・挫滅,大血管損傷による失血。生存は不可能な状態だった。

 

 

 

 もしここで死なずに生きていたら…東京に戻って、蔵で視た未来を頼りに、政府と協力して魔術師を探すはずだった。

 

 

 

 

 

 だけど、僕は苦しみながら死ぬ。自分の成すべき事も成せぬまま。

 

 

 

 

 

 そろそろだ…。視界が狭くなっていく。これが死。体験した事の無い痛み。

 

 

 

 

 

 怖い。死ぬのが怖い。嫌だ。死にたくない。

 

 

 

 

 

 嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ助け───

 

 

 

 

 

 

 

「あっ………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気が付くと僕は蔵で寝ていた。

 

 先程まで手に持っていた本は無く、陣も消えていた。鍵が何重にもかかっていた扉さえも……

 

「なんだこの不快感は…何かがおかしい。」

 

 その時僕は違和感を感じた。前にも1度経験したような。これから起きることが分かる感じ。

 この後起こる全てを僕は知っている感覚。僕は一度死んで──────

 

 

─────いや、違う。

 

 恐らくこれは禁忌の術を使った時に視た未来だろう。それに、体の痛みがまだ…無い。禁忌の術を使った後に来る反動が無かった。

 やはり何かがおかしい。

 

 だが、違和感を感じるだけで他に何かある訳では無かった。僕はそこで考えるのを辞めた。

 

「難しい話は一度宿に帰ってからまた考えよう。さてと…」

 

 僕は体を起こそうと上半身に力を入れたが、ピクリとも動かなかっ―――

 

「前にもこんなことあったような、これがデジャヴってやつか…?」

 

 僕はそう呟いて数分間待った後、再び体に力を入れてようやく立てるようになった。

 

 外はもう暗く、夜になっていた。お腹も空いている。

 

 宿はすぐ近くの場所にある為、僕は歩いて向かった。田舎特有の蛙の鳴き声と、虫の音を聴きながら歩いて5分。宿が見えてきた。目の前には広い道路、この時間帯の車通りは少ない。

 僕はお腹が空きすぎて我慢の限界だった。僕はショートカットしようとして道路に飛び出した。

 

 その瞬間、僕の脳内で何かが引っかかる。

 

 と、その瞬間。大きな何かが横から突っ込んで来ていた。猛スピードで近づいてくるのは大型のトラックだった。

 

「っ!?やっべぇ!!」

 

 僕は驚き、咄嗟に術を発動させ、避けようとした。妖術師の中では基礎の基礎、回避の術だ。僕は術を使用しトラックを避け………れた。

 顔面スレスレの所をトラックは通過し、どこかへ行ってしまった。

 

「あっぶねぇ…!轢かれる所だった……」

 

 と安心していたその時。

 この光景を、僕は知っている。トラックを避けた後、もう一台トラックが来ることを。

 

「来る―――!!」

 

 僕は咄嗟に術を発動させた。

 

 一台目のトラックが過ぎてから約10秒。恐らく今このタイミングでトラックが来るはずだ。あと数秒、術の発動が遅れていたら僕は死んでいただろう。

 顔面スレスレの所で僕はトラックを回避した。受身を取ろうとしたが、咄嗟の行動だった為、道路に転がるように倒れた。

 

「避け…れたのか…?」

 

 間違いない。僕はトラックが来ることを知っていた。この予知的な何か…少し前にどこかで視ていた気がする。

 

「蔵で目覚める前…僕は禁忌の術を使った。その時に……」

 

 この時、僕は勘違いをしていた。恐らく蔵で視たのは『2年後の未来と死ぬ時の出来事』だと。

 

 宿へ戻り、立て付けの悪いドアを開けて部屋の真ん中に座る。そして僕は脳内情報の整理を開始した。まずは視た未来について。

 2年後、再び東京に魔術師3名が姿を現し大規模魔法を展開。その後、東京に住む人間全員が消滅する。考えただけで恐ろしい。

 

 もしこの未来視が本当で、再び魔術師が現れたら…。間違いなく、大惨事になるだろう。そして、次は死ぬ時の出来事について。僕はトラックに轢かれて死ぬという事を知っていた。

 禁忌の術を使った時に未来視と一緒に視たのだろうか…。よく思い出せ、僕が視たのはトラックの件だけだった。もし本当に死ぬ時の出来事を視たのなら、トラックだけじゃないはずだ。

 

 トラックだけじゃないはずなのに───僕の記憶には二度目の死に関する情報が何も無かった。死ぬ時間帯も死ぬ場所も死因も何もかも。

 

「…落ち着け、冷静になれ。こう言う時は一度深呼吸して冷静さを取り戻すんだ…」

 

 そうだ、冷静になって考えてみればいい話だ。もし仮に『2年後の未来と死ぬ時の出来事』の未来視では無かった場合、他になにが出てくる。未来視……。未来、出来事、体験。体験…?

 

 僕は一度死を体験している?だとすればなぜ僕は生きている……。

 

 死ねばそこで終わりのはずだ。蘇り…?だがその場合は死んだ場所で始まるのが基本…。始まる…。死んだ場所、蘇生、もう一度、繰り返し、ループ。

 

「そうか……!!よく良く考えればそれがあるじゃないか、なぜ僕は思いつかなかったっ!?」

 

 そうだ。僕は『ループ』している。詳しく言うとこうだ、自分自身の意識だけが時空を移動し、過去や未来の自分の身体にその意識が乗り移っている。

 

 僕はやり直しをしているのだ。

 

 だとすれば疑問点がまた増える。

・何回まで死ねるのか

 

・二回死んだ場合、始まりの場所はどこなのか

 

・2年後を視たと同時になぜこの力が授けられたのか

 

・どうやったら完全に死ぬ事が出来るのか

 

 

―――試してみる価値はある、今ここで自らの命を絶ち次のスタート地点を確認する。だがもし、ループの限界が二回だったら。

 

 僕はそこで本当に死を経験するだろう。だが、妖術師と言う者は恐怖心より好奇心を優先する。

 宿泊用のバッグに手を伸ばし、中から長い黒色の棒を を出す。自らの身を護るために持っていたこの刀で、僕は、自らを殺す。

 

 自害は初めてだ、だがやるしかない。僕は鞘から刀を抜き、首元へ持ってくる。

 

 この時僕は、笑って───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───気が付くと僕は蔵で寝ていた。

 

 先程まで手に持っていた本は無く、陣も消えていた。

 鍵が何重にもかかっていた扉さえも……この光景を見るのは三回目。

 刀で自らの首を切ったが…痛みは無い。だが心臓の鼓動はあの時と同じ速さ。

 

「やはり僕は、タイムリープしているのか……。死んだ直後の痛みは…少し有り」

 

三度目のループ。やり直し。

 やはり自害は精神的にも肉体的にも少し来る所がある。

 

「さて、それじゃあ宿で立てた計画通り探すとするか」

 

 そう。この蔵の中には禁忌の術が使用できるようになる本が置いてあったのだ。ならば他に、戦闘に役立つ術が書いてある本などがあってもおかしくない。

 だが、古い物が故に読めない文字があったり、途中で紙が破れていたり…。

 

「術系統の本や巻物は見つからないな…。妖術師について書いてある物が多い気がする…」

 

 僕の先祖の話や妖術師が起こした奇跡の話が書いてある本ばかりで役立ちそうな本は見つからなかった。

 

「使えない物ばっかりだな。妖術系の本とか戦闘用の武器とかあれば―――」

 

 続きの言葉を発するより先に僕の目はソレを捉えた。

 禍々しい雰囲気を放つ一本の刀の様なモノを。

 

「なんだこれ、刀…だよな?僕が持ってたやつより随分昔の刀だ…」

 

 刀を持ち上げて重さを確認する。―――自前の刀より長いし、重い。刀身を確認する為に鞘から抜こうとしたが、

 

「固い。全然抜けないぞコレ…鞘に何か仕掛けでもあるんじゃ―――」

 

 

突然、刀が紅い光を放った。

 

 

「なっ?!」

 

 僕は反応出来ず、その光を全身に浴びた。この光が人間の体に有害なのか分からないが、僕は急いでその刀を離して投げた。

 

 刀は光を放ちながら蔵の奥へと飛んで行った。

 

「今の光は…?体に異常は……無さそうだな、よかった。」

 

 僕は何かおかしな場所が無いか自分の体を確認した。異常は無いが、刀を持っている時に何かが吸い取られる様な感覚はあった。

 

「それよりあの刀、まだ光続けてる…」

 

 まるで空気を吸い込む様に刀の周りで風が起きていた。僕は刀に近づき、ソレを手に取る。

 すると刀は僕に反応するかのように、更に強い風が周りで起きていた。

 

「まさか、僕に反応している?」

 

 そう呟いた瞬間、刀は少しづつ光が小さくなって行く。辺りに風は無かった。

 

「一体なんなんだこの刀は…」

 

 色々起きすぎて頭が爆発寸前だった。一度冷静になり、改めて現状を確認する。

 

「この蔵に置いてあった刀を手に取ると突然発光、そして僕の体から何かが吸い取られるような感覚あり…改めて口にしたけど更に訳分からん」

 

 もっと理解出来なくなったが、僕は刀を置いて物を探す。なぜなら、

 

「この刀について書かれた本があるはずだ…探そう」

 

 僕は急いで辺りに舞った紙や本、巻物の中身を確認した。そして、

 

「これだ…見つけた」

 

 一冊の本を見つけた。僕は手に取り中を読む。

 本を開いて一行目の文字を見る。恐らくこの刀の名前だろう、僕はそれを読み上げる。

 

「太古から存在する名刀…『太刀 鑢』」

 

 本によるとその刀の前保有者は、

 

―――『空木 明花』と言う人間らしい。

 

「空木 明花……この刀の前保有者?」

 

 僕は置いていた刀を手に取り、鞘から刀身を抜こうとする。

 先程は固く抜けそうになかったが、

 

「あれ………?」

 

 先程とは違い、するりと抜けて錆ひとつ無い刀身が露わになる。

 

「なんだこれ…すげぇ……」

 

 蔵の開いた扉から月の光が差し込み、刀を照らす。

 

 刀はボロボロで古びた鞘と柄からは想像出来ない程輝いていた。その輝きは、まるで百万本の星が散りばめられたかのように、眩しく放たれていた。

 

「約500年前の刀って本に書いてあったが、あり得ないほど綺麗だな…先日まで手入れしていたレベルだぞ…」

 

 もっと刀を見ていたいが僕は刀身を鞘に収めて蔵を出る。

 心地良い虫の音が聞こえ渡り、月が照らす光で周囲が少し明るかった。不意に、何かを思い出す。

 

「……今、何時だ?」

 

 僕は慌てて腕時計を見る。

 そう、この時間は確か『一度目のループで死んだ時間』だ。

 

「乗り越えた…って事でいいのか…?」

 

 死ぬはずだった時間を過ぎた後、どうなるのだろうか。何も起こらずただただ死を回避出来るのか、それともまた別の死が近づいて来ているのだろうか。

 もし後者なら油断は出来ない。今すぐ宿に行き再び作戦を―――

 

 

「――!?」

 

 歩き出そうとした瞬間、背後で地面が割れるような激しい音が暗闇に響き渡った。

 音はすさまじい勢いを伴い、弾丸のように速く僕との距離が近くなる。

 

 それは動物でも物でも無い『人間』だった。

 

 手足に鎧の一部の様な装備をつけており、その下には黒くて厚い服を来ている。そして、顔は布で覆われていた。こいつが何者なのか分からないが、敵なのは間違いない。

 

「その刀を抜かないのですか?」

 

「な―――っ!?」

 

 反応が遅れた、刀を抜こうにも距離が近すぎる。

 相手の右腕が僕の頭を正確に狙う。ナイフなどは持っておらずただの殴りで、一発で仕留めるつもりなのだろう。

 

 詠唱させる時間を与えない、一撃でケリをつける。

 

 このやり方、妖術師の特徴を良く知っている人間の戦い方だ。妖術師は術を発動させるのに詠唱が必要、そして攻撃手段が術と刀と言われている。

 その為、詠唱させず刀を抜く隙を与えない。

 

 この相手は賢い、賢いが―――

 

「妖術師舐めんなぁぁぁぁ!!」

 

僕の方が一枚上手だ。

 

 

 

 相手の拳を頭突きで威力を相殺し、横腹目掛けて蹴りを入れる。相手はその場で膝を着いて横腹を押さえていた。

 妖術師は肉弾戦を不得意としている。だが、何事にも例外と言うものが存在するり

 

 僕は例の組織の手伝いをしていた頃、日本最強の呪術師『間藤』に格闘術を教わった。なかなかハードで逃げ出しそうになったが、最後まで教えて貰って良かったと思う。

 体勢を立て直し、次の攻撃へ対応出来るように僕は刀を抜く。

 

『太刀 鑢』、初めて使用する刀。

 

 初めてなのに手によく馴染む。まるで昔から扱っていた刀の様―――

 

「良いですね…楽しいですね…そう来なくては、その刀を抜いて欲しかったんです!」

 

 相手は立ち上がり、顔を覆っていた布を勢いよく取払った。月明かりで相手の顔が良く見える。

 

「っ……女?」

 

 髪は長く、女の子のような整った顔をしている。

 

―――よく見ると背丈も小さい。

 

「まさか子供なのか…?」

 

 だが、子供であろうと関係ない、僕を殺そうとして来たんだ。殺して所で誰も何も言うまい。

 

「子供だからって容赦はしないからな?」

 

「ククククククッ……ははははははは!!!良いね!楽しそうだ!久しぶりに楽しめそうだ!」

 

「……狂人か――っ!?」

 

 僕は助走をつけて勢いよく走り出す。女はまだ空を見上げながら笑っているだけだ。

 殺れる。

 

「さっきのは油断してやられちゃったけど!ボクより遅いね」

 

 僕より遥かに速いスピードで距離を詰められた。女は足で僕の刀を踏んで止めている。

 ここで刀を手放し、肉弾戦に持ち込んでも良いが―――

 

「お前、なんか嫌な感じがするな」

 

「女の子に酷いこと言いますね…結構傷つくんですよ!」

 

 距離を取ろうと刀に力を入れて一気に上に振り上げ、後ろに飛ぶ。―――だが気付いた時にはもう目の前に女が居た。攻撃が来る。

 顔目掛けてパンチが二発、腹目掛けて蹴りが一発。

 

 距離が近すぎてどちらも回避出来ない。

 

「まずい…!!」

 

 刀身を顔に近づけて防御態勢を取る。

 顔二発の攻撃を受け流す事は成功した、だが腹一発はどうにも出来ずに直撃する。

 

「グッ―――!!結構痛えじゃねぇかよ…!」

 

 久しぶりの戦闘故か一発食らっただけで足に力が入らない。このままでは次の攻撃が来る。

 あの速さだ、回避は不可能。ならば―――

 

「生命の力を生贄に我が肉体に力を与えよ…!」

 

 あまり使いたくない術だったが今はそんな事を言っている暇は無い。

 僕が得意とする術、

 

強制肉体強化(エンハンスメント)―――!!」

 

 名前の通り、自らの寿命を代償に肉体の限界を越え、強化する術、発動。

 強化系統の術は妖力の消費が少なく、連発で使用が可能だ。

 

 足に力が入る、今なら先程より速く動ける。

 

「術を使いましたね、つまりあなたは…貴方があの方の言っていた!」

 

 この女の目的は分からない、何故僕を襲ってきたのか。なんの為に戦っているのか。

 何も分からないが、今知る必要は無い。速く戦闘不能にし、後で情報を聞き出す。

 

「俺が遅いと言ったな?じゃあこの速さについて来れるか!」

 

 脚に全身の力を入れ、クラウチングスタートのように走り出す。この速さ勝負に刀は要らない。

 女も走り出す、正面からの1v1。相手より速く一撃を入れた方が勝つ。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

「はあああああああああああああああああッ!!」

 

 速度はほぼ同等、互いの拳が顔に命中する。ここまでの戦闘時間、約40秒。

 お互い拳を食らった衝撃でよろめき、後ろに下がる。

 

「痛ってぇ……やっぱ痛えけど術のおかげで少しは軽減されてるな…」

 

「良いですね…楽しいですね…!」

 

「っなんも楽しくねぇけどな…!」

 

 両者互いに歩いて近づく、再び戦闘が始まる。

 

 女の拳を右手で受け止め、僕の左手が女の顔を狙う。女はそれをいとも簡単に避けて僕が掴んでいた手を引き離し、再び殴り掛かる。僕はそれを受け止め、少し後ろに下がる。

 

 これを何度も何度も何度も繰り返す。殴り殴られ合い、どちらかの命が尽きるまで続ける。

 

「って思ってるだろ―――?!」

 

 相手の攻撃に耐えられず後ろに下がっていたのでは無い、こいつを回収する為だ。

 僕は足元に落ちている一本の刀を片足で拾い上げ、抜刀する。月夜に明るくて眩しく輝く一本の刀。

 

「『太刀 鑢』、まだ一回も斬った事ないから分かんねぇけど」

 

「こいつの一撃は重いぞ―――!!」

 

 女は攻めることばかり考えていた為、防御が取れない体勢になっていた。刀を勢いよく振り下ろす、まるで小さな岩を一刀両断する様に。

 だが、女は間一髪の所で刀を回避する。

 

 外した。これで女は自由に攻撃が可能だ。可能だが―――

 

「一振りで終わる訳ないだろ―――!!」

 

「なっ……!!」

 

 振り下ろした刀を全力で方向転換し、再び加速する。

 

 煌めき美しい一線が暗闇で輝く。

 

「え………っ」

 

 刀が女の胴を横薙ぎに、上半身と下半身が分離する。でも、この女はまだ死なないと僕は感じていた。

 横に斬った時の体の捻りを利用し、回転して勢いを付ける。

 

『太刀 鑢』の切れ味は今まで使用してきたどの刀よりも良かった。いや、これは良いと言うレベルでは無い。あまりにも速く、鋭い一撃。

 

 女は斬られている事に気が付かなかった。

 女の思考と共に、空中に留まっている上半身目掛けて刀を突く。

 

 音を置き去りに、女の頭を刀が貫く。

 

「はっ…お前も遅いじゃないか……」

 

 女は脳天に刀を貫かれた直後、何かを言っていたが聞き取れなかった。もう一度聞こうと女の顔に耳を近づけたが―――もう既に死んでいた。

 女の頭から刀を抜く。遅れて女の下半身と上半身、そして頭から大量の血が吹き出す。一瞬で辺り一面が血の海と化した。

 

「あ……。女から目的聞き出すの忘れてた…」

 

 刀に付いた血を拭い、鞘に戻す。

 瞬間、無理やり体を動かした為か疲労感が一気に襲ってきた。全身の力が抜けて僕はその場に倒れた。

 

「クソ…長く術を使いすぎたか…?」

 

 意識が遠のく、視界が少しづつ狭くなり―――

 

「取り敢えずは……第一関門突破ってところ…か……」

 

 

 僕は明るい月に照らされ、虫の心地よい音を聴きながら眠りについた。




 初めましての方は初めまして。天ヶ瀬です。
『遡行禍殃』を読んで頂き、誠にありがとうございます。

初投稿ということで1000字超えの第一話となります。
実は別の小説サイトで『遡行禍殃』を投稿していたのですが、pcでログイン出来なくなってしまって…ハーメルン様の方に移動してきました。
(今現在 2023/07/06 の時点では再ログイン出来た為そちらでも執筆中)

これからもっと投稿していくと思うので、『遡行禍殃』をよろしくお願い致します。
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