遡行禍殃 東京惨劇編   作:天ヶ瀬 趙世(早川 脩司)

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第十二話『京都』

 

 

 別空間から帰還して目を覚ました時には、体のありとあらゆる場所に激痛が走り、俺は思わずその場に倒れ込んでしまった。

 あの空間に飛ばされる前、陰陽師と戦っている最中に俺たちは戻ってきた。

 

 と言っても、ここに陰陽師は居ない。戻されたのは場所だけであり、時間は変わらず進んでいた。

 

「こ……これは、やべぇ……」

 

 死にかけている俺の真横で、横たわっていた氷使いが遅れて目を覚まし、俺の体を見て驚き飛び上がった。

 

「ど、どうなってるんだい!?さっきまで普通の状態だったのに――― まさか敵襲!?」

 

「い…や、狂刀神のとこ……に飛ばさ…れる前………に……ちょっとな………」

 

 陰陽師の件は未だ不明なことが多く、確信が持てない部分が多い。

 そしていまこの瞬間に、誰が何処で俺たちを見ているか分からない以上、ペラペラと喋る訳にもいかない。

 

 陰陽師についてはまた今度、安全で全員が揃った時に話すとしよう。

 

「そ、そうだ……!!晃弘さんに創造系統偽・魔術師(フォージャー)は……!!」

 

 他の術の使用を全て遮断し『治癒の術』に専念していたおかげか、 少し体は楽になり、膝を着いて座れるまでには回復した。

 俺は満身創痍の体で無理やり立ち上がり、二人を探そうとヨロヨロな足で歩き始める。それを見ていた氷使いは俺の肩に手を伸ばし、倒れそうな俺をなんとか支えた。

 

「そんな体では無理……と言いたいが、私も捜索するのには同意だ。いち早く状況を理解しなければ」

 

 そう言って俺と氷使いはゆっくりだが一歩一歩確実に歩き出し、この辺りにある少し開けた地点を目的地に移動を開始する。

 今は日暮れが近付いてきた頃、太陽が完全に沈んだ後だと探すのは難しくなる。なるべく早めに二人を見つけたい………と、思っていた矢先。

 

「………なにか、聞こえるぞ」

 

 ここから少し離れた地点から、何者かが超高速でこちらに接近して来ている。この速度で、この距離で感じる魔力の圧。偽・魔術師で間違いない。

 そして俺たちを狙う偽・魔術師となれば、京都の魔術師の手下の可能性がある。

 

「下がれ、氷使い。俺がどうにかする」

 

 氷使いの支えを振り切り、俺は影から『太刀 鑢』を取り出して正面に構える。未だ接近する気配が止まる様子はない。このままの速度を維持したまま、俺に攻撃を仕掛けるつもりだろう。

 

「………やれるか」

 

 俺は『太刀 鑢』の先端を目線の先にし、突き攻撃の体勢へと移行する。この方がスピードの出ている敵に対して、致命傷を負わせ易い。

 速度を計算。到着まで残り、3、2、1―――。

 

 

「―――っ妖術師さん、惣一郎さんから伝言です!!」

 

 その時、木々の影から飛び出して来たのは敵ではなく、俺が探していた人物の一人。『創造系統偽・魔術師』であった。

 俺は突き攻撃の体勢を辞め、スピードを出しすぎた創造系統偽・魔術師を受け止める。創造系統偽・魔術師は慌てた表情で息を切らしながら、体に引っ付いていた葉っぱを急いで落としていた。

 

 いや待て、この創造系統偽・魔術師は今何と言った?誰の名前を出した?誰が何をしたと?

 

「その顔的に疑問を感じているかもしれませんが、それどころじゃないです!! ―――存在しないはずの、 もう一人の妖術師が現れました!!」

 

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

 

「…………………は?」

 

「…………………え?」

 

 ―――俺と氷使いはほぼ同じタイミングで疑問の声が漏れ出し、それを聞いた創造系統偽・魔術師は真剣な眼差しでこちらを見つめていた。

 まず第一に創造系統偽・魔術師の口から『惣一郎』の名が出たのに驚きだが、それ以上にもっと重大な『もう一人の妖術師』と言う情報に困惑が隠せない。

 

「僕も最初聞いた時は頭おかしくなるかと思いましたよ!!でも本当なんです!!」

 

 もしこれが嘘だとしても、 今更になって創造系統偽・魔術師が俺たちを 裏切るメリットが無い。信じ難い事だが、周りの状況が何一つ分からない以上、信じるしかないのだろう。

 

「………それで、俺は何をすればいい」

 

 『太刀 鑢』を影の中に収納し、全身に巡らせていた妖力のほとんどを脚の強化に使わせる。

 妖術師を名乗る人物の殺害か、それとも一時撤退か。今の俺は惣一郎の指示に従うしかない。

 

「………僕と一緒に、京都まで移動します!!」

 

 創造系統偽・魔術師はそう言って俺の肩に手を置き、何か詠唱をし始める。詠唱が少しずつ早くなるに連れて、俺の身体の内側が燃えるように熱くなって行く。

 魔力の譲渡だ。創造系統偽・魔術師の手から、触れている俺の肩に直接魔力を流し込んでいるのだ。

 

 通常、魔術師側から見た妖力は忌々しく、体内に入れば猛毒と化す、一種の呪いの様なモノ。

 しかし、妖術師側から見た魔力は、摂取した所で特に影響は無いし、逆に妖力へと変換出来てしまう。

 ―――空気中で魔力を視認すると、何やら黒いモノが蠢いている感じで気持ち悪いのは確かだが。

 

「魔力の譲渡、か。あん時に氷使いがお前を生かした方法だな」

 

「そうです、コツを覚えるのに結構苦労したんですよ?」

 

 体内に魔力が供給され、俺の中にある妖力と魔力が同時に増幅して行く。

 このくらいの力があれば、妖力切れになる心配……はあるが、ある程度は気にせず使うことが出来るはずだ。

 

「………終わりました。晃弘さんと氷使いは後ほど合流という形で、妖術師さんお願いします!」

 

「『強制肉体強化』」

 

 俺は創造系統偽・魔術師を背負い、ほぼ全ての妖力を脚へと巡らせて力強く踏ん張る。

 時々、脚の筋繊維がブチブチと音を立ててちぎれるが、同時に『治癒の術』も使っているので問題なし。

 

 自傷と回復を繰り返しながら、貯めたエネルギーを使って地面を力強く蹴り、空高く跳躍する。

 

「―――『空間転移(ゲート・オープン)』!!」

 

 『空間転移』の出口を出現させれる地点は、俺がその場所を肉眼で視界に収めたかどうかで決まる。

 脳内の想像のみでもゲートの出口を出現させる事は出来るが、場所が地面より遠く離れた空中であったり、地面の中だったりと失敗する可能性が高い。

 

 そして俺は、京都へ足を踏み入れた事は一回も無い。ならどうするかって?

 

「………見通すならもっと先、先の先の先!!」

 

 氷使いの持つ『視界に写る景色全てを視る事が出来る力』を、模倣する。そこに 『空間転移』の特性と合わせる事で、飛躍的な移動能力を得る事が出来る。という訳だ。

 

 しかし、神器の顕現による恩恵と『疑似創造』する為の解析も済んでいない状態が故に、完全な模倣は時間と技術的に不可能。

 ほんの一瞬、たった数秒間だけ。時計の針が次に進むまでの刹那の時間を利用して、なんとか氷使いの『千里眼』を複製させる。

 

「……………ここだ!!」

 

 叫び声と同時に、俺は正面に手を突き出して『入口』を作り出す。

 ゲートの『出口』の位置は景色と方角からして、京都市中心の上空で間違いないだろう。 俺はゲートに勢い良く突っ込み、何も無い真っ青の空から落下を開始する。

 

 転移した時の副作用か何かが発生したのか、創造系統偽・魔術師は少し体調が悪そうな顔をしていた。

 

「………覚悟は出来てンだな?ここから先の戦いは一回でも選択肢をミスったらマジで死ぬ」

 

 そんな創造系統偽・魔術師を背負いながら、俺は最終確認の為に口を開く。

 

「―――俺は妖術師として戦い始めた頃から、いつどこで死んでも仕方ないと覚悟を決めてる。お前はどうだ、創造系統偽・魔術師(フォージャー)

 

 暫く沈黙が続いた後、創造系統偽 ・魔術師は俺の肩から手を退けて、自らの意思で空中へと離れた。

 

「正直、死ぬ事に対しては恐怖を感じます。たった一度きりの命ですし、何より大切な人を護れなくなるのは辛いです」

 

 創造系統偽・魔術師はそう言いながら、迫る地上を見て『創造(クリエイト)』を構える。

 

「………でも僕はもう決めました。妖術師であるあなたに敗北して、共に戦う仲間を見つけた。覚悟はもう出来ています」

 

 妖術師と偽・魔術師、本来ならば組む事のない歪な関係の二人。京都の魔術師を倒す、その一点のみ利益が一致しているだけ。だが、それでいい。一度だけでなく何度も戦い、その結果で仲間になったとしても。

 

 互いの信頼関係と強さは、互いによく知っている。

 

「―――『聖剣(デュランダル)』!!」

 

「―――『灼熱線』!!」

 

 術を放った際の反動で、使用者二人は空中で軽く留まり、二階と同等の高さから落下して綺麗に着地する。

 

 創造系統偽・魔術師が放った神秘の輝きは軽く地面を抉り、俺が放った高密度な熱の光は地面を溶かした。

 悲惨な状態になった地面から目線を上に向け、周囲の状況を見渡す。

 

「………まさかとは思うが、初めて訪れた観光客に対しての出迎えがそれか?そっちの魔術師は部下に変な教育をしてンだな」

 

 恐らく俺が動くよりも前に、何者かが魔術師の元に「妖術師が京都に向かっている」という情報を流したのだろう。

 俺と創造系統偽・魔術師の周囲には無数の人影。正確な数は分からないが、影から覗き見ていたり、武器を構えている輩が居る。この人影全てが一般人の可能性は極めて低い。

 

 何せ、偽・魔術師からしか感じない魔力の反応が多数存在する。多すぎて誰がどこに居るのかまでは特定出来ない。

 

「魔術師のことを、知ってる……?お、おい。お前……お前だよ。お前が妖術師……なのか?こ、答えろよ!!」

 

 ひ弱そうな人間が一人、手に武器を持っていない。体内から魔力の流れを感じる。間違いない、偽・魔術師だ。

 少し怯えた様子の男は、俺達を指さして大声で叫ぶ。

 

「よ、妖術師だ!答えないって事は妖術師って事だ!みんな、やるんだ!!」

 

 男が創造系統偽・魔術師の方向に視線を動かした隙を狙い、俺は影から『太刀 鑢』を取り出して素早く抜刀する。

 目にも止まらぬ速さで抜かれた刀を、 未熟な偽・魔術師が反応出来る訳がなく、刀身は一寸のブレも無く男の腕を真っ二つにした。

 

 手首から肘までを、真ん中からスパッと。

 

「ぎ、ぎゃあああぁああぁぁあ!!」

 

 想像以上の痛みに驚き、男は使い物にならない腕を逆の手で支えながらその場に座り込む。

 

「こ……殺せ!!そいつを殺せ!!」

 

 貧弱な男とはいえ、中身は偽・魔術師。流石にこの程度で失神したりしないのだろう。

 

 男の叫び声を合図に、周りに潜んでいた偽・魔術師が一斉に行動を開始した。

 一人は術を使う為に詠唱をし、一人は持っていた包丁で斬りかかり、一人は拳銃をこちらに向けて発砲する。他にも数人、俺に向かって攻撃しようとしていた。

 

「『氷解銘卿』」

 

 その全てを無力化させる為に、半径170mに存在する物体を凍らせる。

 

 俺の足元から地続きで広がって行く氷のフィールド。それにつま先だけでも触れた偽・魔術師は片っ端から全員凍って行き、数秒後には十数人の偽・魔術師を拘束した。

 その際、近くにいた創造系統偽・魔術師はと言うと。地面に『聖剣(デュランダル)』を突き刺し、熱を持つ光で俺の氷を溶かしていた。

 

「ざっと、こんなものか?」

 

 この程度の数、沙夜乃との戦いを超えた俺には余裕過ぎる。あの時は比にならない敵の数、強力だったが故に、『都市専用術』に頼るしか無かった。

 だが今は違う。ここに居るのは訓練もなにもされていない、ただの人間に近しい奴ら。

 

「く……クソ!!こ、このガキどもが……!!」

 

 ……驚いた。ついさっき腕を真っ二つにした男がまだ生きていた。

 出血多量で死にかけ、俺の『氷解銘卿』を近距離で受けたはずなのに、まだ喋れるほどの力が残っている。

 

「も……もうすこし、で。あの方が……きてくれ、るはずだ!!」

 

 男の言うあの方、は京都を占拠している魔術師の事を指しているのか。……向こうからわざわざ出向いてくれるなら好都合だ。

 そんなことを考えながら、俺は『太刀 鑢』に付いた血を払って鞘に収める。

 

 『氷解銘卿』の効果範囲が最距離にまで到達した瞬間、目の前の男を含む偽・魔術師の全員が大きな氷に包まれ、小さな氷片へと粉々に砕け散った。

 一瞬にして多くの偽・魔術師が死ぬ場面を見ていた別の偽・魔術師は、俺たちに恐怖したのかその場から動く事はなく、攻撃する動きを見せなかった。

 

 正直に言って、つまらない。

 

「これ以上の挑発は無意味だな。取り敢えず、京都の魔術師より先に惣一郎さん達と合流するとしよう」

 

 俺の提案に創造系統偽・魔術師は「分かった」と言って頷き、互い同時に地面を蹴って走り出した。

 ふと空を見上げると、一機のヘリコプターが飛んでいる。惣一郎さんの組織の一員が空から情報を送っているのだろう。なら安心して、俺はギアを上げれる。

 

 京都といえば観光地が多く、目印になる建物が多数存在している。故に、何ヶ所か建物を巡れば直ぐに合流出来るはずだ。

 第一に目指すは『清水寺』だ。あの場所は観光客が何度も足を踏み入れ、人間が生み出した魔力のたまり場にもなる。

 

 氷使い、惣一郎、晃弘の三人は妖術師ではなく、魔力を使用して術を使っている。なら『清水寺』で魔力を補給し、戦いに備えているに違いない。

 

「………京都の魔術師にもう一人の妖術師」

 

 俺は京都の魔術師のみならず、もう一人の妖術師にも警戒しなくてはならない。

 まだ口頭だけでの情報だけで、実際にもう一人の妖術師についての素性や能力を知っている訳では無い。

 もし戦う事になれば、それは厄介な相手になるだろう。

 

 魔術師との戦闘に使う妖力が足りなくなる可能性もある。出来ることなら、もう一人の妖術師との戦闘は避けたい。

 それに今、俺達と戦うとなると戦力的にも厳しい場面がある。俺の『太刀 鑢』と創造系統偽・魔術師の『聖剣』だけでは対処出来ない。

 かと言って『湖の乙女よ、導き給え(エクスカリバー)』は再構築の欠点がある為、使用は控えめにした方が―――、

 

「……ん……さん…… 妖術師さん!!考え事してる場合じゃないですよ!!」

 

 創造系統偽・魔術師が凄く驚いた表情をしながら、いつの間にか止まっている俺の肩を掴んで揺らしている。

 どうやら結構な距離を移動している最中に、考えるのに集中しすぎて創造系統偽・魔術師の声が聞こえなかったのだろう。

 

 俺は「悪い」と謝って、創造系統偽・魔術師の焦りの原因を探る。

 創造系統偽・魔術師の後ろには家電量販店の看板に、破壊されたであろう扉部分のガラス。そこから少しだけ引っ張り出された小さなテレビ。

 あれは創造系統偽・魔術師が取り出したモノだろう。 そのテレビに写し出されていたニュース、これが創造系統偽・魔術師の焦りの原因。

 

「―――見てください、大変な事になってますよ!!」

 

 何をそんなに焦っているのか、と言いながら見たテレビのニュース。画面に大きく書かれた文字に、目が引き寄せられる。

 俺は、その文字を見るべきではなかった。そもそもこのテレビに目線を向けるべきではなかったのだ。

 

 

 

「京都に妖術師と名乗る男が到着しました!大犯罪テロ組織の一人が、京都に到着した模様です!上空のカメラから生放送でお送りしています!男がテレビを見ています!私たちの番組でしょうか、がっつく様にテレビを直視しています!」

 

「あ、男がコチラを向きました!我々が乗っているヘリコプターを見ています!自身が置かれている状況を理解したのか、とても鋭い目でコチラを見ています!」

 

「既に住民は全員避難済みで、魔術師達が男を待ち構えています!彼らに対抗する為の組織『ATG』のメンバーが居ます!」

 

 

 

 テレビに映っていたのは、俺と創造系統偽・魔術師。その中でも、 アナウンサーは俺に対して『妖術師と名乗る男』と呼んだ。

 いやまて、それより先に処理しなければいけない情報が沢山ある。

 

「大犯罪テロ組織……?」

 

 あのアナウンサーは確かに『Saofa』と言った、その名前を直接口にした。俺は聞き間違えてなんかいない。

 

 『Saofa』が大犯罪テロ組織、俺が妖術師を名乗る男。そして、

 

「………っ魔術師の組織『ATG』!!」

 

 ―――やられた。妖術師という存在を表沙汰にしていなかったのを逆手に取られた。

 

 人々はメディアで報道された情報を鵜呑みにし、嘘か誠かを確かめずに正しいと判断してしまう生き物だ。

 その習性を利用し、メディアに妖術師と魔術師の存在。惣一郎さんの組織『Saofa』をテロリスト集団と嘘の情報を教え、報道させる。

 

 『Saofa』と妖術師の存在を知らない一般人を騙し、『ATG』を名乗る謎の組織まで立ち上げて自分たちが優位に立とうとしている。

 

「この事態、政府の野郎共は何してンだよ……!!」

 

 そう、政府は大規模魔法事件の解決を 目指して『Saofa』と協力している立場だ。表に情報が出ていないとはいえ、これまで長年共に戦ってきた組織がテロリスト扱いされ、黙っている訳がない。

 

 どうにか『Saofa』に着せられた汚名を返上する為の策を練っている筈。俺はそう信じている。………信じていたのに。

 

 

 

「私たち政府側はテロ犯罪組織『Saofa』との関係は一切ありません。今、自称妖術師の男の身柄を確保する為に、各地の警察署から多くの人員を集め、対策チームを結成している段階です。また、本物の妖術師を含めた『ATG』の部隊は現場の対応に向かっています。市民の皆さんはゆっくりと安全に避難してください」

 

 

 政府の裏切り。目の前で永遠に映像を垂れ流しているテレビによって、その事実が明かされた。

 もしここで『Saofa』との関係性を認めて弁明をしたとしても、国民から多くの不満を集め、国を動かす力が維持しにくくなる。

 

「……妖術師さん、早くここから移動しましょう!!ヤツらに捕まったらお終いですよ!?」

 

 切り離した理由は分かっている、分かっているが……… まさか長年共に協力してきた組織を見捨て、優位な魔術師側に縋り付くとは想像もしていなかった。

 

「………妖術師さん!!」

 

 どうする。このまま魔術師の討伐を行えば、俺達の信用は更に下がり、永遠に大犯罪者として扱われてしまう。

 

 とは言え、魔術師の討伐を諦めて雲隠れしたとしても、二度目の『東京大規模魔法事件』が起きてしまったら俺の使命が果たせない。

 

「………あぁもう!!妖術師さん!!」

 

 魔術師の討伐は、必ず遂行しないといけない。

 例え俺達がどう扱われようが、どのような視線を受けようが関係ない。これから起こる最悪に、罪悪を退ける。

 

 『Saofa』は秘密裏に解体され、数多の術師が命を落とすかもしれない。それでも、やらなくちゃいけないんだ。

 

「―――特に効果の無い『聖剣(デュランダル)』!!」

 

「っ痛ぇえ!!」

 

 創造系統偽・魔術師は打撃に特化した『聖剣』を俺の腹部に叩き付け、俺は軽く後ろに吹っ飛んだ。

 骨が折れるまでの威力ではなかったが、俺のグルグル頭を巡っていた思考は完全に消えた。

 

 立ち上がって創造系統偽・魔術師の方を見ると、少し悲しそうな顔をしながら再び歩き出す。

 

「今はゴチャゴチャ考えてる時間は無いんです、早く晃弘さん達と合流してからにしてください!!」

 

「…………すまん」

 

 もう少ししたら、じきに『ATG』の魔術師がここに到着するだろう。

 本物の魔術師ではなく、偽・魔術師だと思うが、相手にすれば確実に体力を消耗する。 なら今は、惣一郎達を探して逃げて走り回るしかない。

 

 そう、思っていた矢先。 突然角から人影が現れ、俺と創造系統偽・魔術師は踵を使って綺麗に急停止した。

 その人影は見覚えのあるシルエットをしていて、どこか懐かしさを感じる姿でもあった。

 

 だが、その懐かしさは偽りで塗り固められたモノと認識するまで、数秒掛かった。

 

「………まさか魔術師より先に、お前を殺す羽目になるとはな」

 

 足元の影から『太刀 鑢』を取り出し、その人影に対して俺は躊躇なく刀を向ける。

 創造系統偽・魔術師も相手が誰なのか思い出したのか、『創造』を構えて『聖剣』を使用する準備段階に入っている。

 

「久しぶりだな、妖術師。いや、今は偽物さんとでも呼べばいいのか?まさかまた会えるなんて嬉しいよ」

 

「………ンなこたぁ思ってねェだろ 」

 

「あぁ、微塵もね―――。じゃあ改めて、俺は『記憶操作系統偽・魔術師』の夜市路 雅人。お前ら二人は名乗らなくていいぜ、何せ有名人だからな」

 

 下劣で邪悪な笑みを浮かべている男、夜市路 雅人はそう言い、腰からピストルと小刀を取り出し、俺たちに向かって構えた。

 勝負三番目、その相手は『妖』ではなく『偽・魔術師』。俺にとって最も重要で、最も決別をしなくてはならない戦いとなる。

 

「妖術師の使命がどのくらい重いモンなのか、見せてみろ」

 

 

 その一言が開始の合図であり、俺の意思を示す戦いの始まりでもあった。

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