遡行禍殃 東京惨劇編   作:天ヶ瀬 趙世(早川 脩司)

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第十五話『白銀に輝く伝説の剣』

 

 

 直近の『遡行』から二時間が経過し、妖術師である俺と晃弘は『京都の魔術師』を探しに行動を開始した。

 目指す地点は京都の中央付近。ビルやマンションなどの建物が立ち並ぶ箇所に、景観条例に違反するほど、大きなビルがひとつ存在する。

 街中の監視を行う偽・魔術師の巣窟となっている場所。情報共有の要となる地点だ。

 

 そこを、俺と晃弘で 一気に攻め落とす。

 そうする事で監視塔を失った魔術師側は、分かれたSaofaのメンバーを追跡出来ず、こちらは楽に移動が出来る。

 

「………晃弘さん、見えました。例の監視塔です」

 

 一見するとただの超高層ビルに見える建物。しかしその中は大勢の偽・魔術師が居る魔境。俺と晃弘は捜索の目を避けながら建物の影に隠れ、暗闇の中で監視塔の様子を見る。

 遠く離れている場所からではあるが、感じる魔力は弱く、強力な偽・魔術師があの場にいる可能性は低い。

 

「なら惣一郎の作戦通り、俺の『双縄猟銃』で入口を破壊。そこに妖術師が乗り込んで 、俺が遅れて合流する。いいな?」

 

「はい、お願いします!!」

 

 晃弘が小声で惣一郎から伝えられた通りの動きを再確認し、『双縄猟銃』を背中の筒から取り出して構える。

 晃弘が注意深く狙うは超高層ビルの一階入口付近。 ―――ではなく、その真逆。

 

 ガチッとトリガーが力強く引かれ、 偽・魔術師が監視を続けている最上階に向かって、大砲と同等の速度と威力を持つ銃弾が放たれた。

 轟音が鳴り響き、ソレはいとも容易く強化ガラスを突き破りって建物内部の障害物と接触する。

 

「行け、妖術師!!」

 

 晃弘の合図と同時に、放たれて障害物と接触した弾丸が大きく爆ぜた。 窓ガラスは爆風で割れ、中で保管されていたであろう書類の山が外へと吹き飛ばされている。

 

 大半のガラスが地面に落ちた瞬間を見計らい、俺は全力疾走でビルへと近付いて周りの様子を伺う。

 付近に偽・魔術師の姿は見えない。好都合だ。

 

 一階部分を支えている柱に足を乗せ、俺は物理法則を無視して超高層ビルの側面を駆け上がる。

 足元に伸びる影を『黒影・深層領域』でガッチリ掴み、一歩一歩力強く踏み出す事で走れる仕組みだ。

 

 ビルの中階層から数人の偽・魔術師が顔を出しているのが見えた。晃弘の攻撃に困惑しつつ、周囲の状況確認しようとしているのだろう。

 

「邪魔ァ!!」

 

 強く振るわれた『岩融』の刃が偽・魔術師の首を綺麗に切断し、俺の身体は鮮血で染まる。 俺は止まらない。

 

 俺の声と異変に気付いた偽・魔術師が窓から上半身を出し、手に持っている拳銃を発砲する。

 偽・魔術師の中には小さな火の玉を作り出す者、大きな岩を生成している者もいる。

 

 ビルの側面と平行に突き進む弾丸が、俺を捉える。 駆け上がる速度と弾丸が落下する速度が合さり、一瞬で俺の真正面まで近付いた。

 これは回避出来ない。例え回避したとしても、同じような弾丸が無数に降り注ぎ、蜂の巣にされて終いだ。………ただ、この場にいるのが人間だった時の話。

 

「『月封』!!」

 

 俺が手を翳した瞬間、その先で空間が捻れて小さな孔が開く。

 その孔に吸い込まれるかの様に、魔術と弾丸は軌道をズラして中心付近に集まり、ほぼ全ての攻撃が俺の真正面へと移動した。

 

 一箇所に集まった弾丸を、影から取り出した『岩融』で全て弾いて再び走り出す。

 俺の妖術を見た偽・魔術師は驚愕し、急いで拳銃のトリガーに指を掛けた。だがもう遅い。その時点で、勝敗は決まっている。

 

 窓から出ている無数の腕を真っ二つに斬りながら、猛スピードで最上階を目指す。

 恐らくここは二十七階辺りで、この超高層ビルの最上階は六十階。速度を維持しつつ、偽・魔術師の攻撃を全て回避すればものの数分で最上階 へ到達出来る。

 

「………ここで合図を!!」

 

 脚を止めずに、腰に装着していた発煙筒を取り出して点火する。そのまま発煙筒を手放して地面まで自由落下させる。

 次第に落下中の発煙筒の先から紅い煙が吹き出し、晃弘に向けての簡易的な狼煙が上がる。

 

 この赤い発煙筒は『二発目求む』という意味を持ち、事前に晃弘と話し合って決めた合図だ。

 

 そしてその合図が無事伝わった様で、再び最上階に向けて音速を越えた弾丸………というより、砲弾が撃ち込まれた。轟音を立てて建物は揺れ、元々燃えていた最上階が更に熱を増す。

 暫くして、駆け上がる俺に向かってガラスや壁の瓦礫が降り注ぐ。俺はそれを『月封』で一箇所に集めては避け、集めては避けを繰り返す。

 

 次第に偽・魔術師の攻撃回数が少なくなり、窓から人の顔が見えなくなった。今までの攻撃が全て無駄だと察しての行動だろう。

 

「………攻撃が止まった、か。最上階まではあと少しだが―――、嫌な予感がするな」

 

 戦闘に夢中で気づかなかったが、最上階へと近付く度に、魔力の濃度が高くなっている。

 地上からの魔力探知では捉えきれなかったのか、一歩踏み出せば物凄い威圧感が俺の全身を襲う。

 

「異様なほど魔力が濃い。まさかとは思うが、偽・魔術師の中に桁違いのヤツが潜んでいるとか無いよな……」

 

 そのまさかは、十分に有り得る。

 そもそも魔術師の情報元となる場所が存在すれば、妖術師は第一に監視塔を攻め落とそうと考える。

 それを見越した上で、京都の魔術師は監視塔に何人か強い偽・魔術師を配置していてもおかしくない。

 

「………念の為にもう一個、合図出すしかねぇな」

 

 ガラスの上を高速で駆け抜けながら、俺は影に『岩融』を仕舞い、腰に装備しているポーチへと手を伸ばす。

 その中には『赤の発煙筒』と『青の発煙筒』、『黄の発煙筒』が入っている。

 

 『赤の発煙筒』は、最上階に向けて二度目の狙撃。

 『青の発煙筒』は、最上階の下辺りに向けて狙撃。

 『黄の発煙筒』は、異常が発生した為撤退。の意味を持つ。

 

 そして俺が今取り出したのは、『青の発煙筒』だ。 最上階より下に、強い偽・魔術師が居る可能性が高い。

 故に、晃弘の『双縄猟銃』で可能性を潰す。

 

「………穿て」

 

 俺が呟くよりも早く、晃弘が撃ち込んだ弾は窓ガラスを突き破り、部屋内部の天井へと着弾した。

 その弾丸はさっきと同じモノ。部屋全体を埋め尽くす程の炎が内部を包み込み、激しい音を立てて爆ぜる。

 

「………魔力の濃さが変わらない。いや、それ以上に濃くなってる」

 

 最上階まであと少し、妖力の減りも想定内。 この魔力の圧は想像系統偽・魔術師と出会ったとほぼ同じ、下手するとそれ以上だ。

 このままただの勘違いで終わって欲しいところだが―――、

 

「―――まぁ、そんな訳がねぇよな」

 

 俺の目線の先、最上階より数個下の階層。 先端が尖った何かが窓ガラスを貫通し、機械の様なモノが突然現れる。

 機械全体、と言えるほどは窓から露出してないが、一目見ただけで分かる。

 

「またまた厄介な奴が現れたな」

 

 俺の台詞に合わせる様に、ソレは大きくガラスから身を乗り出し、その全体像が露になる。パッと見はバレリーナに似た格好だが、全身が装甲に覆われていて全体的に先端が鋭くなっている。

 あの巨大な機械で構成されている身体。本当なら重さで地面へと真っ逆さまなはずだ。

 

「………魔術で物理法則を 無視してんのか?」

 

 それに、あの脚。魔術的な何かを感じる。

 そしてさっき窓ガラスを突き破ったモノの正体は脚だ。 強化ガラスは一点の衝撃に弱いと知りながら、脚で勢い良く貫いたのだろう。

 

「だとすれば………見た目は機械だが、ある程度の知能があるって事か」

 

 喋りながら駆け上がる俺を認識したのか、“ソレ”は華麗に踊る様にビルの側面を動き回る。

 強化ガラスの上で動けば割れてしまうと知ってる“ソレ”は、綺麗にガラス部分を避け、柱となるコンクリート素材部分のみを足場にしている。

 

「………攻撃を仕掛けて来ない、のか」

 

 “ソレ”は突然現れ、圧倒的な魔力で威圧したかと思えば、コンクリートを足場に踊り続けていた。

 俺に対しての敵意は見せず、踊りに夢中になって戦う事を忘れているのか分からない。

 

 ―――戦闘にならないのなら、好都合だ。

 

 このまま“ソレ”を避けるように突っ走り、最上階まで一気に駆け上がれば、すぐに到着する。

 俺はなるべく音を立てずに再びビル側面を走り出した。その間も“ソレ”は踊り続け、攻撃を開始する雰囲気は全く無い。

 俺は“ソレ”とほんの数メートルの距離まで近付き、真横を素通りして駆け抜ける。

 

 そのまま何事も無く、“ソレ”は踊りに夢中のまま―――、

 

 

命令承認(オーダーコンプリート)。妖術師排除プロトコルを確認、違反無し』

 

 

 背後、俺が通り抜けた後。“ソレ”は人間を不快にさせる程に歪な電子音声を発した。

 俺はその場で脚を止め、ぐるりと振り返って場所を再び確認する。………居ない。さっきまで踊っていた機械が居ない。

 

「………っガラスをまた突き破ったのか!!」

 

 俺が意識を逸らした時、目線を離した時に、“ソレ”は自身が居る階の窓ガラスを破壊し、内部へと戻ったのだ。

 そして、消失のカラクリを見破ったその瞬間、俺が止まっていた階のガラスに大きな亀裂が入った。

 

「………クソ、足元かよ!!」

 

 このビルで扱われているのは強化ガラス。“ソレ”が初めて姿を現した時と同様、一点の衝撃を加えれば、一瞬で粉々になる。

 足場となるガラスが割れてしまえば当然、俺は地面に真っ逆さまだ。

 

「『氷解銘卿』!!」

 

 俺の足元からビル中腹を全て包み込む程の距離。炎上している最上階辺りは避け、崩壊寸前の強化ガラスを凍らせて足場を補強する。

 “ソレ”も『氷解銘卿』に巻き込まれ、鋼鉄で作り上げられた全身が凍結して行動を停止した。

 

「………はぁ、はぁ……」

 

 予想外の妖術使用に、妖力管理の調整が狂う。

 せっかくここまで駆け上がってきたのに、危うく最下層まで落下する羽目になる所だった。………いや、それより今は早く、ソレを止めている間に最上階へ向かわなくては。

 

 

変形機構(トランスフォーム)。エンジンを再始動させ、凍結を解除。………完了。起動します』

 

 

 嘘だろ。

 俺のすぐ足元、あの至近距離で『氷解銘卿』を全身で受けて凍ったんだ。 制御機能は失われ、冷気で張り付いた鋼鉄の身体は動くことすらままならないはず。

 だと言うのに、“ソレ”は。あの化け物は。

 

 

重要報告(パティキュラーレポート)。戦闘対象である妖術師を視認。作戦を開始します』

 

 

 ギリギリと音を立てながら、厚い装甲で覆われた機体(ドレス)が変形し始める。胸部にあった装甲は脚部へと移り、腰部の装甲は頭部の装飾品へと変わった。

 

「………ヴィヴィアン。アーサー王伝説に出て来る『湖の乙女』か」

 

 あの立ち振る舞いに魔力の圧。

 伝承に極限まで似せた機械の形状(フォルム)。そして、俺の所持する『選定の剣よ、導き給え(エクスカリバー)』が微かに“ソレ”に反応を示していた。

 

「………いや、待て。それはおかしいだろ。どうして『選定の剣』が反応してるんだ」

 

 アーサー王伝説に登場する『湖の乙女』は、ペリノア王との戦いに敗北し、剣を折られたアーサー王に対し新しい剣を授けた張本人だ。

 それが『エクスカリバー』であり、アーサー王が手にした二本目の剣。

 

 対して俺の『選定の剣』は、アーサーが石から引き抜いて血筋を証明した剣と称されるモノである。

 アーサー王が持つ一本目と二本目の『エクスカリバー』は別物と扱われているが故に、根本的に湖の乙女は『選定の剣』と関わりが無い。

 

「………お前、創作上の『湖の乙女』なのか?」

 

 アーサー王伝説には多数の話が存在する。だが、目の前にいる『湖の乙女』は、実在するどの伝承にも当てはまらない。

 有り得ない存在だ。

 

「………クソ、歴史補正の性質上。俺の『選定の剣』が『湖の乙女』に引き寄せられる感覚がするな」

 

 歴史補正。簡単に言えば、伝承と関連のある武器や力は、歴史通りの働きを見せる事が度々ある。

 

 この『湖の乙女』が『選定の剣』とどのように関係があったのかは分からない。もしかすると、一本目と二本目が逆だった。もしくはそもそも選定の剣は岩に刺さってなかった。なども考えられる。

 

 故に、別世界線で『湖の乙女』と『選定の剣』は非常に近い関係にあった可能性が高く、俺の『選定の剣』は持ち主である『湖の乙女』を傷つける事が出来ない。

 

「………どこの誰がお前を創ったのかは知らないが、間違った歴史は正す。ポンコツ機械は直さねぇとなァ!?」

 

 俺は足元の影から『岩融』を取り出し、“ソレ”―――。否、ヴィヴィアンは補強された脚先で強化ガラスを包んでいる氷の膜を突き破った。

 

 怒号と同時に二人は動き始め、『岩融』の刀身とヴィヴィアンの脚部が激しくぶつかり合う。

 接触点から凄まじい衝撃波と火花が散って、俺は反動で何階か上まで吹っ飛ぶ事になった。

 

 このまま最上階へ向かう手もある。ヴィヴィアンを完全に無視し、逃げ切り、この監視塔を占拠する。

 全妖力を使用すれば確かに可能なのだが、結局最後はヴィヴィアンとの戦闘になる。

 

「そうなったら、妖力切れの俺は速攻殺されちまうだろう……よ!! 」

 

 だから今、ここでヴィヴィアンをぶっ壊す。撤退も一つの案として浮かんだが、ここまで来たんだ、やり切るしかない。

 初めて創造系統偽・魔術師と戦った時、もしかするとその倍以上の速度で、俺とヴィヴィアンは攻撃を行い続ける。

 

『…………。』

 

 隙を見つけては『岩融』を振るい、ヴィヴィアンの胸部を狙う。機械となれば大体この辺りに制御装置があると読んでの攻撃だ。

 だが、ヴィヴィアンは華麗なステップで攻撃を回避し、その勢いを利用して攻撃へと転ずる。

 

「…………うおぉっ!!」

 

 鋭利な脚先がキレイに弧を描き、俺の顔面向かって進み続ける。

 俺は咄嗟に頭を限界まで後ろに引き、体が倒れるか倒れないかギリギリのところで姿勢を維持する。

 

 ヴィヴィアンの攻撃を完全に回避出来た訳では無く、脚先は 頬を軽く掠り、ほんの少しだけ血が流れ始めた。

 

「………正史のヴィヴィアンはここまで戦闘能力に長けて無かった気がするんだがな!!」

 

『…………。』

 

 あくまで仮説だが、この『湖の乙女(ヴィヴィアン)』は正史とは違って自ら『選定の剣』を作り出し、アーサー王へと渡した可能性が高い。

 いやもしかすると、ヴィヴィアン本人が円卓の一員として戦っていたなんて事も。

 

 有り得ない、と思うかもしれない。だがそこまで考えなければ、『湖の乙女』と『選定の剣』が引かれ合い、正史とは違って戦闘能力が高いヴィヴィアンの説明がつかない。

 

 

理解不能(ノットプレファラブル)。妖術師の生存確率は20%弱。これから先行われる攻撃は全て無駄な抵抗と捉えられます』

 

 

「だから何だってだァ!?こっちは最初っから生存確率とか勝率とかはアテにしてねェんだよ!!」

 

 ここで全ての妖力を使うのは流石にマズイ。後々に控えている京都の魔術師戦が苦しくなる。

 妖力の節約………となれば、少ない量でかつ性能を底上げさせる為に、高密度の妖力が必要となる。

 

「もっと、もっともっともっと!!極限まで俺の妖力を『月封』で圧縮する!!」

 

 俺が『氷解銘卿』を使う時と同じ妖力量を、一気に押し潰して小さく。更に『月封』で発生する圧力差を利用して、もっともっと小さく。

 

 

重要報告(パティキュラーレポート)。戦闘対象である妖術師から高エネルギー反応。短期戦へと変更します』

 

 

 俺の動きを読み取ったヴィヴィアンは直ぐに行動に移し、 凍ったガラスに脚を貫通させ、一歩一歩と走り出す。

 さっきまで殴り合ってた距離だ。ヴィヴィアンの脚の長さからして、俺に攻撃が当たる距離に入るまで約十秒。

 

「………妖術師相手に短期戦を挑むたァ、いい度胸じゃねェか!! 」

 

 十、九、八、七……これ以上の圧縮はマズイ。 出来るなら五秒前には圧縮を辞めて妖術を発動させ無ければならない。

 分かってる。命に関わる行為、ヤメ時は俺が一番分かってる。

 

「………分かってるからこそ、まだ行ける。まだ圧縮は出来る!!ヴィヴィアンを壊すには、もっと圧縮しなきゃなァ!!」

 

 俺は自分の胸を強く掴み、妖力の圧縮に神経を集中させる。

 目を閉じ、耳は聞こえず、呼吸を忘れ、感覚を無くし、俺の中。俺の妖力に意識を向ける。

 

 次第に無からひとつ、赤黒い球体の様なモノが俺の内部(なか)で誕生した。………足りない。この程度の密度だと、性能が上がった妖術を二回だけしか扱えない。

 

「妥協は、俺が許さねェ」

 

 そう、無意識的に声が出た。 俺の本音、俺が今一番考えている事が、自然と。目を閉じていても、ヴィヴィアンの位置、動きは濃い魔力の流れで把握出来ている。

 俺のすぐ正面、鋭く尖った脚先が俺の胴体を貫こうと直進し続けている。接触まであと二秒。

 

 接触まであと、一秒。

 

「…………っおおらああああ!!」

 

 胸を掴んでいた俺の片手で、高速で動くヴィヴィアンの脚先を力強く掴む。

 常時発動していた『黒影・深層領域』を解除し、ヴィヴィアンと共にビル側面からの落下を選択した。

 

 俺は決して『遡行』をするために選んだ訳じゃない。落下する事によって、地面と接触する寸前まで、妖力を圧縮する時間を確保する為だ。

 この行動に、機械であるヴィヴィアンも驚いたのか、俺を貫かんと微動だにしなかった脚先が少しだけ揺れた。

 

「………脚を動かしたなァ、ヴィヴィアン!!」

 

 そのタイミングを逃さず、俺は片手で脚先を強く押してヴィヴィアンの体勢を崩す。

 ヴィヴィアンは空中で横向きになり、人間の体よりも重い体で俺の倍早く落下し始める。

 

 俺を見失ったからか、それともこのまま着地すればバラバラなってしまうからか。

 ヴィヴィアンはビル側面のガラスに向かって機械の腕を向け、指先を貫通させて落下の速度を落とした。

 

 勿論、俺もビル側面に映った影から『岩融』を取り出し、タイミング良くガラスに向かって突き刺す。

 

 

『………回避不可(アンナヴォイダブル)。全装甲を頭部に集中させ、防御形態へと移行を開始』

 

 

 全身の装甲が擦れ合い、激しく金属音が鳴って聞こえる。 制御装置がある頭を守る為か、他の部位の守りを捨て、頭部のみに装甲が集中している。

 

「させねェよァッ!!」

 

 全ての装甲が一箇所に集まったのを見計らい、俺は『岩融』から手を離して全身で風を浴びながら落ちて行く。

 ギリギリのギリまで圧縮を続けた高密度な妖力を右手に巡らせる。それはヴィヴィアンの頭部目掛けて、鋼鉄を貫く一撃を与える術。

 

「『衝撃・打(インパクト) 』!!」

 

 俺の右手の拳から、ヴィヴィアン目掛けて一直線に空間が歪み、何層にもなる空気の膜が誕生する。

 その一枚一枚の膜が順番に振動を始め、最終的に全ての膜が共振し、その力は増幅される。

 

 

『―――回避不可(アンナヴォイダブル)。』

 

 

 増幅された空気の歪みは、何枚も重なっている頑丈な装甲を完全に貫き、圧縮し、ただの薄い鉄板へと変貌した。

 同時に、ヴィヴィアンの頭部にも歪みが到達し、まるで耐久度が無い潜水艦が深海に放り出された時と同じように。―――鉄塊へと姿を変えた。

 

だが、

 

 

至極当然(ノープロブレム)。私の核は、そもそも存在しませんから』

 

 

 潰れた頭部、その中から銀色に輝く光が溢れ始める。

 どこかで目にした、

 その眩しく光が

 しい光が

 俺の全身を覆光が

 くし肉体光が

 全て溶かさ光が

 俺を含む光が

 全体光が

 し、光が

 ごと光が

 を光が

 光が

 光が光が

 光が光が光が

 光が光が光が光が

 光が光が光が光が光が

 光が光が光が光が光が光が

 光が光が光が光が光が光が光が

 光が光が光が光が光が光が光が光が

 光がを光が光が光が光が光が光が光が

 光が光が光が光が光が光が光が光が光が

 光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が

 光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が

 光がを光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が

 光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が

 光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が

 光が光がを光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が

 光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が

 光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光がを光が

 光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が

 光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が

 光が光が光が光が光が光がを光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が。

 

 ▇▇が、俺の上半身全てを消し飛ばした。

 

 

 

 


 

 

 

 

 俺の右手の拳から、ヴィヴィアン目掛けて一直線に空間が歪み、何層にもなる空気の膜が誕生する。

 その一枚一枚の膜が順番に振動を始め、最終的に全ての膜が共振し、その力は増幅される。

 

 

『―――回避不可(アンナヴォイダブル)。』

 

 

「………ッ!!」

 

 俺は咄嗟に術を解除し、空気の歪みを取り除こうと試みた。しかし、一度行われた行為が取り消される事は無い。

 増幅された空気の歪みは、何枚も重なっている頑丈な装甲を完全に貫き、圧縮し、ただの薄い鉄板へと変貌した。

 

 同時に、ヴィヴィアンの頭部にも歪みが到達し、まるで耐久度が無い潜水艦が深海に放り出された時と同じように。―――鉄塊へと姿を変えた。

 

「変えちまったらマズイんだよッ!!」

 

 来る、そして考える暇が無い。 『遡行』の感覚が狭くなっている。

 いやそれより、ヴィヴィアンから受けた攻撃はなんだ。

 知らないのじゃ防ぎようがない。一撃だ、一撃で俺は命を失う程の攻撃を受けた。惣一郎の『撤退』の装飾品が反応しなかった?反応するよりも早く攻撃を受けたのか。どうする、どうやって防ぐ。そも光が防げるのかあの攻撃を。光、光だ。ヴィヴィアンの中から溢れ出した銀色の光がマズイ。影は間に合わない霧になったところで消し飛ばされた終わ光が。『太刀 鑢』が無いとな光が、『無銘・永訣』す光が扱うことが出来光が。光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光がを光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光がを光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光がを光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 ヴィヴィアンとの戦闘開始から、二度目の『遡行(やり直し)』。

 

 俺の右手の拳から、ヴィヴィアン目掛けて一直線に空間が歪み、何層にもなる空気の膜が誕生する。

 このまま『衝撃・打(インパクト)』を放てば、またもや真正面からヴィヴィアンの攻撃を食らってお陀仏だ。

 

 なんとしてでも、俺の術を解除しなければ。

 

「………ッがァァアアアア!!」

 

 今までの『遡行(そこう)』の場合、敵の魔術に先を塞がれ、その全てを回避する為に何度も『遡行(やり直し)』をしていた。

 だが今回は違う、敵の魔術でもなんでも無い。

 

「まさか俺自身の術に苦しめられるとはなァ―――!!」

 

 ヴィヴィアンの頭部にも歪みが到達し、まるで耐久度が無い潜水艦が深海に放り出された時と同じように。―――鉄塊へと姿を変えた。

 間に合わない。この時間に、ヴィヴィアンの動き、確実に間に合う訳が無い。

 

 次、次の『遡行』でどうにかするしか無い。

 

 潰れた頭部、その中から銀色に輝く光が

 溢れ始め、 どこかで目にした、その眩しく光が

 しい光が

 俺の全身を覆光が

 くし肉体光が

 全て溶かさ光が

 俺を含む光が

 全体光が

 し、光が

 ごと光が

 を光が

 光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光がを光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光がを光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光がを光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光が光―――。

 

 

 

 


 

 

 

 

「こっから間に合うかァ!?」

 

 三度目の『遡行』を行い、目が覚めたその瞬間。俺の腕に全神経を集中させ、妖術の中断に力を注ぐ。

 俺の右手の拳から、ヴィヴィアン目掛けて一直線に空間が歪み、何層にもなる空気の膜が誕生―――、

 

「っさせるかァァアアアア!!」

 

 腕に強く巡らせた妖力を遮断し、供給を完全に断つ。そうすることで、妖術の発動に必要な妖力を無理やり不足させる。

 二度目の『遡行』で同じ事をしたが、既に妖術が発動した後、時間が間に合わずこの様な事は出来なかった。

 

 でも今は違う。発動する前に、妖術がヴィヴィアンを破壊するよりも先に止められた。

 落下の速度を壁に『岩融』を刺して殺し、俺はヴィヴィアンとほんの数十メートル離れた地点で停止した。

 

「………っうぶぅぁ!?」

 

 ―――止められた、が、あくまでも『無理矢理』に過ぎない。強制的に 遮断した事により、腕に巡るはずだった妖力が行き場を失い、脳へと逆流を始める。

 ヴィヴィアンの装甲と頭部を破壊出来る程に莫大なエネルギーを持つ妖力、それが普段『治癒の術』の分しか妖力を扱わない場所に送られた。

 

 例えば、上限1500Wの延長コードに1500W超えの電力を永遠に使用すると発火、放電を始めるのと同じ。

 それは必然的に、拒絶反応を引き起こす。

 

「………ぃッてぇ!!痛えけど、立てない程じゃねェ!!」

 

 頭から湯気が出てるのではと思うほどに脳が熱くなり、あまりの疲労と『治癒の術』の連続使用による負担で 鼻から血が垂れる。

 熱い、と言うより実際に脳の一部は焼き切れていた。そこを『治癒の術』で片っ端から治していく。………我ながらイカれてやがる。

 

 

理解不能(ノットプレファラブル)。あなたは何故、自爆行為を行ったのですか。私には理解出来ません』

 

 

 ヴィヴィアン視点からすれば、妖術を使おうとした奴が突然攻撃を止め、苦しみ悶え始めたのだ。

 不思議で仕方が無いだろう。

 

「あァ? テメェは知らなくていいし、伝える気もねェよ。こっちは色々と考えるのに忙しいからなァ!!」

 

 ヴィヴィアンの頭部を破壊すれば、もう一度あの光が俺を殺す。惣一郎の『撤退』を貫通する力が、俺を殺す。

 

 それに、ヴィヴィアン本人が言っていた通りなら、アイツに『核』は存在しない。駆動に必要な動力源となるモノがそもそも無い。

 となれば、ヴィヴィアンを完全に停止させる方法は無い。全身を砕けば光が来る、だが一部でも残れば装甲で身体を形成し、光を放つ。

 

 簡単に言えば、詰みだ。

 

「………クソ、こっちは京都の魔術師探しで大変だってのによ」

 

 そんな中、一か八か。ヴィヴィアンの頭部を破壊せず、ヴィヴィアンの攻撃手段を完全に潰して身動きを取れなくする方法が、俺にはある。

 

 両脚の関節を『岩融』で斬り、バランスを失って地面へと落下するヴィヴィアンを『黒影・深層領域』の中へ収納する。

 影の中は俺の許可があるまで動くことは許されず、自分の力で抜け出す事は出来ない。

 

「………完璧な作戦なんだがなぁ、成功確率は最っ高に低い。本当にコレしか方法は無いのか………?」

 

 簡単に言ってしまえば、ヴィヴィアンの脚は『エクスカリバー』そのものだ。一振で全てを破壊する白銀の脚。

 そんな世界に伝わり広がる伝説級の剣を、俺の『岩融』で本当に斬れるのか?

 

「………今ここでやるしか道は残ってねェンだ」

 

 俺は壁に突き刺した『岩融』の持ち手に両脚を乗せ、ヴィヴィアンを見下ろす。

 ここからの落下速度と妖術を上手く組み合わせれば、ヴィヴィアンの身体を切断する事は可能 だろう。

 

「…………す〜、ふ〜ぅ」

 

 深呼吸し、妖術と目の前の敵に集中する。 狙うは脚部のみ。正確に、脚部の関節を一ミリもズラすことなく、斬る。

 

 再び正しく循環を始めた妖力を脚に密集させ、爆発的な一蹴を行う準備段階に入る。

 脚の筋肉がギチギチと音を立て、俺は徐々にちぎれつつある筋繊維を『治癒の術』で治し、またちぎれては治しを何度も行う。

 

 

重要報告(パティキュラーレポート)。妖術師の行動を確認。攻撃に備え、第三段階へと変形を開始』

 

 

 俺の作戦を悟ったのか知らないが、ヴィヴィアンは壁に突き刺した脚を抜いて、空中へと身を投げ出す。

 その瞬間、空中に漂うほんの数秒間でヴィヴィアンの装甲が全身へと移動し、完全防御の形態へと成る。

 

 今度はガラスに指を刺すのではなく、尖った脚でコンクリートの上に乗り、速度を落とす。

 やはり、頭部に装甲が偏ってた時よりも落下の速度が遅い。 ………なるほど、物理法則に反する動きの正体はソレか。

 

「さっきも気になったが、テメェの重力無視は脚部に装甲がねェと魔術的効果が少なくなるのかァ!?」

 

 足元の『岩融』を蹴ってビル側面へと移り、脚に貯めていた妖力を起爆させ、一気にビルを駆け下りる。

 速度が速すぎたのか、俺の身体スレスレの強化ガラスが音を立てて揺れ、次第に割れ始めた。

 

「『疾風迅雷』!!」

 

 本来の用途とは違う使い方だが、爆発的な速度を手に入れる為なら何だって使う。

 

 

命令承認(オーダーコンプリート)。絶対不可侵領域を展開、白銀剣の使用を申請』

 

 

 絶対不可侵領域、白銀剣。何を言ってるのか全く分からないが、使わせるのはマズイ事は分かる。

 

「不可侵だがなんだが知らねェが、使わせる訳ねェだろうが!!」

 

 ヴィヴィアンとの接触まで、十秒。九秒、八秒。 攻撃が届く範囲にまで入った、影から『岩融』を取り出して、

 

「いや、『岩融』は使わねェ!!」

 

 それに『岩融』はビル側面の壁に刺したまま、影による回収は不可能。

 だから俺が今取り出すのは『岩融』では無く。それよりもヴィヴィアンに対して有効な武器。

 

「―――俺の、『選定の剣よ、導き給え(エクス カリバー)』!!」

 

 創造系統偽・魔術師から模倣した『疑似創造(クリエイト)』による『選定の剣よ、導き給え(エクス カリバー)』。 ヴィヴィアンと出会った時、俺の『選定の剣よ、導き給え』は震えて反応を示していた。

 

 『エクスカリバー』を作り出した張本人かも知れない人物相手に、『選定の剣よ、導き給え』が有効かどうかは分からず、戦いの中で見極めていた。

 

 

命令承認(オーダーコンプリート)。白銀剣の使用を許可』

 

 

 来る。白銀剣、いや『エクスカリバー』が来る。俺に何度も『遡行』をさせたあの光、その元となった剣が来る。

 それよりももっと早く、速く、夙く。『エクスカリバー』を使わせるよりも先に、その元を確実に断つ。

 

 不可侵領域と呼ばれる範囲が分からないが、極限まで近付き………脚を狙って『選定の剣よ、導き給え』を振り下ろす。

 

 行動前のヴィヴィアンに近付き、懐へと潜る事に成功。『選定の剣よ、導き給え』の剣先がヴィヴィアンの脚、関節へするりと入った。

 関節とは言え、金属製の身体。剣とヴィヴィアンの身体が激しく衝突し、凄まじく火花が飛び散る。

 

 足りない。速度は十分だけどやはり、『選定の剣よ、導き給え』がヴィヴィアンに対して怯えている。

 

「………ックソがァあああああああ!!」

 

 『強制肉体強化』に『狂刀神ノ加護』を発動させ、俺の剣に更なるブーストをかける。その間も 力強く金属同士がぶつかり合い、ギリギリと音がなり続けていた。

 ―――瞬間、ほんの少し。ミリ単位だが、ヴィヴィアンの脚に切れ込みが入る。

 

「うォおらァああああああ!!」

 

 俺の怒号に合わせる様に『選定の剣』から、強い意志が剣、手を通じて流れてくる。

 望み、期待、歓喜、裏切り、怒り、悲しみが。俺の身体の中へと流れ込む。果たしてこの感情はヴィヴィアンの『エクスカリバー』なのか、俺の『選定の剣』なのかは分からない。

 

ただ一つ、その感情の中に。持ち主に応えたいと言う意志がある。もう二度と、手放さない様に。もう二度と、失わない様に。

 

 

『………その力。私の白銀剣とは真逆の存在。別世界―――否、正史の選定の剣!!』

 

 

「あぁ、そうだ。お前は紛い物、所詮造られたイフの存在!!間違った歴史は、正しい歴史へと軌道修正される!!」

 

 切り込みが更に深くなり、亀裂へと変化して行く。斬れるかどうかすら分からない鋼鉄の身体を、本物の『選定の剣』が傷付ける。

 同時に、俺の剣から発している銀色の光が次第に強くなり、光の輝きが変化を始めた。

 

 

『貴公は選定の剣を引き抜き、王として選ばれた存在。それに応える様に、選定の剣も変化する!!』

 

 

 まだ見極める段階にあった『選定の剣』が、俺の『原作生成』で、伝説を創り出した最強の剣へと生まれ変わる。

 

 

「―――『伝説の剣よ、導き給え(エクス カリバー)』!!」

 

 

 勢いが増した、形の無い白銀の光が、関節を真っ二つに斬り伏せた。

 

 切断面が溶けた様に赤くなり、斬られた脚はビルから地面へと速攻で落下する。同時に、重要な箇所となる脚を失ったヴィヴィアンはバランスを崩し、尖った指を強化ガラスへと突き刺した。

 

 

『………まさか、白銀剣の持ち主に選ばれるとは。互いに模造の存在だと思っていましたが、貴方は違ったようですね』

 

 

 俺はビル側面に着地し『黒影・深層領域』でバランスを整える。 そのまま後ろに居るヴィヴィアンの方を向いて立ち止まる。

 

「俺が斬ったのはまだ脚一本だ。テメェは残り一本を斬られずして負けを認めンのか」

 

 

『負け、ですか。えぇ、 この勝負は私の負けです。所詮、偽物は本物に敵わない存在ですから』

 

 

「随分と潔いンだな。お前の世界、ヴィヴィアンは騎士か何かだったのか?」

 

 

『私は戦場で戦う騎士ではありませんでしたが、王の、円卓の一人として戦いました。故に、選定の剣を直接渡して、最期は私がそのまま受け取りました』

 

 

「それで、『選定』のまま終わりを迎えた結果。俺のやつが反応を示したのか」

 

 

『………過去の話は終わりです。貴方は最上階に用があると伺っています 』

 

 

 ヴィヴィアンの装甲が全て剥がれ落ち、ヴィヴィアンは強化ガラスを突き破って途中の階層へと入り込んだ。

 俺もそれに合わせ、ヴィヴィアンと同じ階に入って回収し損ねた『岩融』を引き寄せる。

 

「最上階、って狙撃を受けたとこだろ。あんだけ爆発すりゃ魔術師であっても無事で済むわけが―――、」

 

 

『無事ですよ。彼は』

 

 

「………彼?」

 

 ヴィヴィアンの脚、斬られた箇所に空いていた少し大きな空洞から何かが姿を現す。 剣の形をした、白銀の光を纏った武器。

 『エクスカリバー』だ。分かりやすい特徴を持った剣とかでは無く、どこでもある様な西洋の剣。

 

 ヴィヴィアンは『エクスカリバー』を脚から取り外し、振り返って持ち手を俺に向ける。

 

「―――受け取れってか」

 

 

『私の脚を斬った貴方の剣は、形を持たない光だけの存在。それでは彼を斬る事は出来ません。故に、勝者である貴方には褒美が必要だと判断しました』

 

 

「………使い方は」

 

 

『貴方の白銀剣を、このエクスカリバーに付与すればいいだけです。概念能力付与、とでも呼びましょうか』

 

 

 概念能力付与………なんだか『神霊能力付与』と似ている気がするが。

 俺はさっとヴィヴィアンの手から『エクスカリバー』を受け取り、速攻で影の中へと収納した。

 

 

『それでは――― 行動開始(レディスタート)。最上階へとお進み下さい』

 

 

 ヴィヴィアンはその場でしゃがみ、胸に手を当てて俺に頭を垂れた。まるでこれから出陣する王に、敬意を表すかのように。

 

「じゃあなヴィヴィアン。王は二度も死なねぇ、しっかりと憶えてろ」

 

 そう言って、俺は割れた強化ガラスから飛び出し、ビル側面へと脚を付けて最上階に向かって走り出す。

 

 『氷解銘卿』の効果は切れ、既に氷は全て溶けて無くなっていた。

 

 ヴィヴィアンとの戦闘が終わり、監視塔の最上階に再び向かう。 本来の目的を果たすまでにイレギュラーが発生してしまったが、そこで 思わぬ収穫を得た。

 

 

『………えぇ、信じています。私は王直属の騎士、円卓の一人なのですから』

 

 

 俺が居なくなった階、そこで頭を下げ続ける機械が一つ。 別世界の湖の乙女であり、円卓として戦い続けた騎士。

 彼女は新しく誕生した二人目の王様の帰還を願い、誰もいないガラスの向こう側を向き。

 

 

 

 

 

―――跪いていた。

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