遡行禍殃 東京惨劇編   作:天ヶ瀬 趙世(早川 脩司)

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第二話「死の先」

 太陽の光に照らされ、僕は自然と目を醒ます。

体を起こそうとするが力が入らず、そのまま数分間寝たままの状態だった。 恐らく、昨日の戦闘で無茶しすぎたからだろう。

 

 暫くして、体を動かす程度まで回復した僕は体を起こして辺りを見渡す。

 一番最初に目に入ったのはやはり―――彼女の死体だ。

 

 上半身と下半身が絶たれ、頭部は刀が貫通した痕が残っている。この場に普通の人間が居たら間違いなく嘔吐していただろう。惨たらしい死に方だが、こいつは僕を殺そうとして来た奴だ。

―――お似合いな最期だよ、全く。

 

「……死体どうするか、このまま放置しておく訳にも行かないし、かと言って回収した後どうするんだって話になるし」

 

 勿論、宿に持っていくなど以ての外。有り得ない。

 僕は頭を抱えて考え込む。殺したのは良いが処分に困る事を戦う前に考えておけば良かったと今になって後悔している。

 さてどうした物か―――

 

 

「え?死体?燃やして埋葬してあげればいいじゃん」

 

僕の隣でポケットに手を突っ込みながら簡単そうに言ったのは古くからの友人であり同期でもある元妖術師『夜市路 雅人』。

 彼は昔所属していた組織で共に活動…手伝いをしていた。そんな彼は組織解体後、普通の高校に行き普通の大学に通っている。

 

 刺客との戦闘後、僕の身を案じて様子を見に行った彼は、血塗れで倒れている僕+女性の死体を見て気絶しそうになったらしい。

 そして、今現在に至る。

 

「燃やすって、妖術で?」

 

「それしか無いだろ?大きな火を起こせる物をここまで持ってこれねぇし、なんなら持ってきたくねぇし」

 

「……ほんと面倒くさがり屋だな、お前は」

 

 バリアを貼るかのように手を前に出して詠唱を開始させ、体の中が少しづつ熱くなっていくのを感じながら、僕は詠唱に意識を集中させる。

 

「―――焼炙(フレア)!!」

 

 手をかざしたもの触れたものに熱を加える術、発動。

 焼炙は、鉄を変形させるだけの超高温も出すことが可能。発動中は腕が黒く硬化し、棘も生えてくる。

 それは自身の熱で火傷しないためなのか、妖術師としての潜在能力を引き出すためなのか、或いはその両方か。

 

「焦げ臭いな…人が焼けた時の匂いってこんな感じなのか、二度と匂いたくないな」

 

「それは同感だ」

 

 僕と雅人はそのまま何も言わずに、焼け終わるのを見届けて埋葬した。

 

 

 

「そう言えばお前、千里眼とか蛇戰心眼とか使えないのか?」

 

 千里眼、それは周りに存在する生命と視界を共有する術。

 蛇戰心眼、それは人がなにかをしようとする時、邪気の流れとなって現れる術。

 

「無理だな、そんな大層な術使えねぇよ」

 

 生憎だが、僕はまだこの二つを扱える域にまで達していない。父親のように全ての術が使えるようになるにはまだ―――

 

「ふぅん、そっか。じゃ俺のやるべき事も済んだし、そろそろ帰るわ」

 

 雅人はポケットから手を出して頭の後ろで組む。そのままだるそうに振り向き、歩いて帰って行った。

 ここまで手伝ってくれた友に僕は感謝する。

 

「さてと、宿に行きますか…」

 

 出来ることなら、宿のふかふか布団で眠りたい。

 こんな硬い地面じゃなくてちゃんとした布団に。

 

 

 


 

 

 

昼の10:00。

 

 僕は太陽の光に照らされ、自然と目を醒ます。あの時とは違って体は全回復し、幾らでも動かせるようになっていた。

 昼食は宿で食べる予定だったが…、

 

 自らの命を絶ってループした為、次また誰かに襲われそうになっても察知出来ずにそのまま殺されてしまう可能性があった。もし尾行されていて、昼食を食べてる時に襲われたら―――

 

 そう考え、僕は近く…ここから8km離れた場所にあるのコーヒーショップに行って昼食を食べることにした。

 

 

 お店に入って、一番奥の席から二番目の場所を選ぶ。人が全然居らず空いている場所にいる方が僕は落ち着く。

 店内にはポツポツと客が居て、中には警察官の格好をした客まで居た。恐らく昼休憩時間なのだろう。

 

 コーヒーとサンドイッチを注文して、その待ち時間で僕は襲ってきた彼女について考える。

 

僕を襲った理由は何なのか―――快楽の為、否。

僕の居場所が分かった理由―――特定した為、否。

妖術師を知っていた理由―――元組織の人間、否。

太刀 鑢を使わせた理由―――公平な戦闘の為、否。

 

 ここから先の考えが出てこない。何も思い浮かばない、疑問が増える一方だ。本当に目的は何だったのか、彼女は一体何の為に僕と戦ったのかそもそも僕と戦う意味があそれにしてはおかし僕は僕を彼女はそれでも辻褄が昨日の妖術僕は斬ったなのに情報が居場所組織分かった死体ちゃんと二度となんなら僕は―――

 

「こちらコーヒーとサンドイッチです、ごゆっくりどうぞ〜」

 

 気付かない内に注文したコーヒーとサンドイッチがテーブルに置かれていた。どうやら深く考えすぎて周りが見えなくなっていた様だ。

 

「もしかしたらもっと単純な理由とかなのか…」

 

 僕はサンドイッチにかぶりつきながら頭をフル回転させる。だが、何も思いつかない。

 

「あの時の戦い方、僕が妖術師だと知っていての攻撃だった。一体どこで僕の情報を…」

 

何処からか漏れていたのか、それとも僕を尾けていたのか―――

 

 

 

「へぇ、君妖術師なんだ」

 

「―――っ!?」

 

 驚きのあまり、僕は素早く振り向いてバッグの中に入れていた刀を握る。

 周りの客が驚いた顔でこちらを見ているが、今はそれどころでは無い。

 そいつは椅子に座りながらこちらを見ていた。

 

 声からして恐らく体の性は男、座ってて分かりにくいが身長は約180cm位はあるだろう。この男が何者か分からないがもし命を狙っているのだとしたら。

 僕は店の中であろうと躊躇わずこいつを殺す。

 

「待った待った、別に君を殺そうとなんかしてないよ。取り敢えずその刀から手を離してくれないかな?」

 

 男はその場で低く両手を広げて敵意がない事を示した。

―――攻撃する素振りを見せない。本当に戦う気が無いと僕は悟り、バッグから手を引き抜く。

 

「こんな所でそんなもの振り回されたら困っちゃうからね。まぁここ、座りなよ」

 

 男は笑いながら同じ席に座るよう要求する。

 少し警戒しながらも僕は椅子に座った。

 

「突然後ろから声を掛けられたら誰でも敵だと思うだろ」

 

「そりゃ私が悪かったね、申し訳ない」

 

 男は頭を下げて本気で謝罪していた。敵なのか味方なのか分からないが―――調子が狂う。

 

「まぁ……良いよ。僕も攻撃しようとして悪かったな」

 

「ってそれより、お前が僕に声を掛けた理由はなんだ。何が目的だ?」

 

「だからそんな警戒しなくても良いよ、私は君の味方なんだからさ」

 

 男は胸ポケットから一枚の紙を取り出して僕に渡す。

 そこには名前と所属する組織の名前が書かれていた。これは―――

 

「その名刺に書いてある通り、私の名前は『博多 惣一郎』。君と同じ術師さ」

 

 名前を聞いて僕は思い出した、昔所属していた術師を集めて結成された組織のナンバー3的な存在。組織内では日本最強の錬金術師と呼ばれていた。

 惣一郎には申し訳ないが、僕は名前だけを知っていて一度も顔を見た事が無かった。

 

「博多 惣一郎…日本最強の錬金術師が味方についてくれるってのか?」

 

「その呼び方…なんだか懐かしいね、君の父親を思い出すよ」

 

「僕の…父親?」

 

 惣一郎はテーブルにあったコップを持ち上げながら言う。

 

「あぁ、―――君の父親には何度も助けられたしね」

 

 コップの中身を飲み干し、そっとテーブルに置いた後、惣一郎はため息を吐いた。

 

「すまない、話が脱線してしまった。戻そうか」

 

「君を守るように上から指示があってね」

 

「…上からの指示?」

 

「そう。君はあの蔵の鍵を破壊しただろう?あれ実は壊した瞬間、私たちの本部へ連絡が入るようになってるのさ」

 

「………本部?組織はもう無くなったんじゃ―――」

 

「―――前の組織、はね。新しく作られたんだよ、凄く少人数だけどね」

 

「新しく作られた!?」

 

 僕は驚きのあまり椅子から転げ落ちそうになった。魔術師が僕の知らない所で動き始めたのか、それとも―――

 

「そう、魔術師を殺す為だけに作られた組織がね。その理由は君が一番知っているはずだ。君、昨日襲われただろ?」

 

「―――何故それを知っている」

 

 僕は再びバッグの中にある『太刀 鑢』を取り出そうと手を伸ばす。

 

「待った待った、だから私は君に危害を加えない。知っている理由はこれから話すから」

 

「さっきの…鍵が壊れたらって話があっただろう?実は君の父親から『蔵の鍵が解錠された場合、直ぐに新対魔術師用の戦力を集めろ』って言われてたんだ」

 

「そしてその時、蔵の中の秘密を聞いたんだよ」

 

「…って事は、僕の『未来視』について?」

 

「そう、そしてこのタイミングで君を襲うって事は相手に同じ能力者が居るか、君が監視されているか のどっちかだね」

 

「―――僕は監視されてない。それは言い切れる」

 

「確かに、君はあの妖術師の息子だ。監視されていて気づかないはずが無い。となれば……」

 

「後者の『同じの能力を使う人物』が魔術師の中に存在する」

 

「……これからも君を狙う刺客がどんどん送り込まれるだろう。そして、それから君を守る為に私はここに来た―――」

 

「―――言っただろう?私は君の味方さ」

 

 惣一郎は立ち上がり僕の方を見てそう言った。果たして彼は本当に僕の味方なのか、判断する方法は今は無い。だから信じるしかない。

 

「……わかった、それじゃあよろしく頼む―――」

 

 ―――刹那、店の窓ガラスが全て割れ外の雨風が入り込んでくる。突然の出来事に辺りの客が叫び、大混乱が起きていた。

 

「な…なんだ!?」

 

 僕は姿勢を低くして警戒態勢に入る。惣一郎は立ったまま外をじっと見つめていた。

 惣一郎の視線の先には、

 

「あれ、おかしいな……。術師は一人だけって聞いたんだけど…」

 

 片手に三本のナイフを持ち、もう片方の手に銃のような物を持った何者かが立っていた。

 

 轟音と共に姿を現したナゾの人物。

 外見からして身長は約185cm。性別は男。

 

 僕はバッグの中から刀、『太刀 鑢』を取り出して抜刀する。素早く男の懐に入り込んで―――

 

「待て、君はここにいるんだ。あれは私が相手をする」

 

 惣一郎は片手で僕を制止させ、男の方に向かって歩き出す。

 

「なんだ?お前、妖術師じゃないよな?」

 

 男は持っていた銃を惣一郎に向けて威嚇する。だが、惣一郎は歩くのを辞めない。

 

「あぁ、私は妖術師では無い。錬金術だ」

 

 惣一郎は店の柱に触れて武器を作り出す。人間が視認出来ない速度で距離を詰め、男に攻撃を行う。

 作り出した片手剣と男のナイフがぶつかり合い、激しい金属音と共に辺りの椅子とテーブルが風で吹き飛ぶ。

 

 相当なパワーで互いの武器がぶつかり合ったはずだが、男のナイフは壊れず傷一つ入っていない。

 

「錬金術師でその顔って事は……博多 惣一郎か」

 

 男は二本目のナイフを惣一郎の太腿に刺そうとする。だが惣一郎は剣を持っていない左手で男の顔面を強打した。太腿に刺さることは無かったが、ナイフが擦り少し血が出ていた。

 

「まさか私の事を知っているとは…ならば話は早い」

 

「―――日本最強の錬金術師と呼ばれる私と戦える事を光栄に思ってください!」

 

 作り出した剣を分解し、また新しく武器を創造する。男の持っていた銃と全く同じモノを。

 

「はぁ…俺は妖術師に用があって来たんだ。部外者 は引っ込め」

 

「部外者ではありませんよ、私は彼の味方なのですから―――っ今!!」

 

 惣一郎の声と同時に僕は隠れていたテーブルを乗り越えて男に斬り掛かる。

『太刀 鑢』の切れ味は世界最高峰。大きな岩石でさえも一刀両断が可能な刀。

 確実に男の首を『太刀 鑢』が捉える。このまま行けば男の首と胴は泣き別れだ。

 

「―――勝ったッ!!」

 

 無意識にそう声に出した。

 それが間違いである事に、僕は少ししてから気付いた。

 

 気づいた時にはもう遅かった。男は右手に持っていたナイフを手放して腕を利用し刀の斬撃を防ぐ。

 僕の腕に体全ての力を加えて腕ごと首を斬るはずだったが、何故か男の腕で刀は止まり、首まで辿り着かない。

 

 男は左手に持っていた銃を僕に向けて発砲しようとする。ほぼゼロ距離、今撃たれたら確実に当たる。

 万事休す―――だがそれは、僕が普通の人間だった場合の話だ。

 

「雲霞の術!!」

 

 身体全体または一部を気化することで、あらゆる物理攻撃を受け流す術、発動。

 この術は何度でも使用できる訳ではなく、一日2回が限界で、体の中の妖力を半分消費してしまう程の燃費の悪さで妖術界で有名なのだ。

 体を気体から元に戻し再び戦闘態勢に入る。

 

 今ので大体半分の妖力を使用した為、連続して術を発動させることは不可能だった。

 術を使用せず『太刀 鑢』であの男を殺す。そう思い、僕は地面を強く蹴って男との距離を縮めた。

 

 ナイフは地面に放りっぱなしで男の武器は銃のみ。近接戦闘なら刀の方が有利―――!!

 

 

 刹那、男の影がナイフを呑み込んだ。

 

 そしていつの間にか男の手にナイフが存在しており、僕の斬撃は簡単に流された挙句、

 

「アレ?妖術師ってこんな弱かったのかぁ?」

 

 僕の腹部に一本のナイフが刺さっていた。

 急いで距離を取り、僕は回復の術を発動させる。回復の術はそこまで妖力を使わないが恐らくあと一度しか術を使えないだろう。

 

 ここは回復する為の時間稼ぎを惣一郎に―――

 

「なんだ…?この感覚は……」

 

―――刺さっていたナイフから微かに、妖力を感じた。

 

 

 

「どこを見ている、お前の相手は私だ!!」

 

 惣一郎が作り出した…錬成した剣で男に斬り掛かる。

 男はニヤニヤした顔で惣一郎の攻撃をまるでダンスを踊っているかのように全て回避する。

 

 持久戦に持ち込まれたら負ける。そう僕は直感していた。

 惣一郎と男が戦っている隙に、異変を感じたナイフを手に取って隈無く調べる。

 

 やはり、妖力を感じる。もしかしたら男も妖術の使い手か何かなのか。

 だが妖術師の妖力とはまた違う、どこか懐かしい様な、それでいて不快な―――

 

 

 思い出した。どうして僕は忘れていたんだ。

 読者にも説明しなければいけない事を僕は完全に忘れていた。

 

 惣一郎がそれに気付かず油断するその前に、僕は立ち上がって大声で叫ぶ。

 

「惣一郎、そいつは人間じゃない!!」

 

 僕は惣一郎に向かって叫んだ、本人は「え?呼び捨て?」と言いたそうな顔をしていたがそれは後回し。

 そうだ、僕は初めから勘づいていた。だが、冷静になり物事を素早く判断する脳がそれを否定した。

 

 こいつは人では無い、動物でも昆虫でも無い。

 

「―――そいつは僕の本来の敵『妖』の類だ!!」

 

 

 

 妖。又は妖怪と呼ばれる"人に災いを齎す存在"。

 太古から妖術師と妖は激しい争いを繰り広げており、東京大規模魔法事件以降から姿を見せなくなった。

 

 それなのに何故、今ここに現れた。その理由は何故か、考えられるのは二つ。

 

 一つ、妖術師との闘いに勝利する事は不可能と理解して身を潜めていたが、瀕死の僕を見つけて「これはチャンス」だと思い襲った。

 二つ、東京大規模魔法事件の情報を耳にして、魔術師と妖術師が敵対関係である事を調べていた。

 

 この時、妖視点から見て「確実に妖術師を滅ぼせる方」はどちらだろうか。

 

 一つ目は、返り討ちに遭った場合「ただ殺されに行った無能」として妖界で一生笑いものにされる。

 二つ目は、返り討ちに遭った場合「もし自分が死んだとしても、妖術師と敵対関係で人間を大勢殺した実績を持つ魔術師に頼めば」確実に殺すことが可能。

 

 妖が選ぶ選択肢は一つしかない。勿論、後者だ。

 

「お前ら―――魔術師側に付いたな?」

 

「………。」

 

 全てを察した惣一郎が男に問い掛ける。

 戦闘する事に愉悦を感じていた男の動きが突然止まる。ニヤニヤしていた顔から笑顔が消え、少々怒りが籠った様な顔をしていた。

 

 どうやら正解クジを引いたらしい。

 

 

―――その隙を日本最強の錬金術師は逃さなかった。

 僕が瞬きしたコンマ数秒後には、惣一郎が持っていた武器が剣から槍へと変わっていた。音速を超える速度での分解 +錬成。

 

 惣一郎は持っていた槍を男へ投擲。槍は男の右胸に突き刺さり、抵抗出来ない儘、店の壁に突き刺さる。

 

 男が顔を上げた時には惣一郎の錬成した剣が頭を貫く。相当なスピードが出ていたのだろう、男の頭は弾けて壁一面に大量の血が飛び散る。

 人間じゃないと分かった惣一郎は「殺さない程度の加減」を辞め、全力で戦ったのだろう。

 

だが、

 

「ぁあ〜…今のは結構いい攻撃だったな」

 

 首から筋繊維がどんどん伸びていき、顔を輪郭を作り出す。数秒後には元の顔が形成され、何事も無かったかのように男は喋り出す。

 

「私の全力を以てしてもあの男を殺す事は不可能だろう」

 

 惣一郎は新しく錬成していた剣を分解してその場で静止する。

 何故急に止まった?

 勝てないと悟って自らの命を差し出すのか?

 何か必殺技を残している?

それとも何かを待って―――、

 

                それだ。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 僕は身体に残る全ての妖力を使用して術を使用する。

 この術を発動させた後、僕は数時間動けなくなるだろう。だがそんなことはどうでも良い。あの男を殺せる、最大級の術を使用する。

 

「我らの天に立つ全ての主よ!人ならざる者へ終焉を 齎す、常世全ての妖魔を寂滅させるべく我に力を与え給え!――――狂刀神ノ加護ッ!!」

 

 力の限り叫び、僕は『太刀 鑢』を握り締めて再び詠唱する。

 

 この間、男は僕を狙ってナイフを投擲する。しかし、惣一郎は僕の詠唱を邪魔する者を決して許さない。

 武器を持たず、素手のみで男と応戦してた。

 

「重ねて、我らの天に立つ主よ!狂刀神ノ加護を以て我が『太刀 鑢』に力を!神霊能力付与!」

 

 狂刀神ノ加護。一人で上位の神を10人斬り殺した狂刀神の力を授かる術。

 神霊能力付与。神ノ加護系統の術を刀や槍などの武器に付与する術。

今使用できる最大級の術、発動。

 

「惣一郎さん!これを、受け取って下さい!」

 

 神霊能力が付与された『太刀 鑢』を投げ渡す。それを片手で受け取った惣一郎は、

 

「ありがとう。おかげで私は全力を出せる」

 

 抜刀。その直後『太刀 鑢』から赤黒いモヤの様なモノが発生する。すると、モヤは次第に惣一郎の身体に吸い込まれていく。

 これは狂刀神ノ加護が上手く発動している証拠だ。

 

「刀一本で戦況が変わるとでも思っているのか?!」

 

 直後、数多のナイフが惣一郎目掛けて殺到した。全てを捌き切るのは不可能な数だ。

 だが惣一郎は顔色一つ変えず、

 

「―――氷解銘卿。狂刀神ノ加護の中に宿るもう一つの術、発動!!」

 

 僕は右手を男の居る方向に突き出して叫ぶ。

 惣一郎の体に入り込んだモヤが爆発するかの様に店内に充満した後、逃げ遅れた客と僕以外の全てを凍結させた。

 

 そして、惣一郎は大きく息を吸って、

 

「あまり錬金術師と妖術師を舐めない事だな」

 

 光とほぼ同等の速度で男の首を穿つ。そのまま体を最大限に捻り、数百回の斬撃が男の身体を切り刻む。

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も―――

 

 

 

 

 

 

「―――そこまで。惣一郎さん、そいつもう死んでます」

 

 僕の一声で惣一郎の腕は静止する。

 本来の惣一郎なら一撃で終わる筈だったが、

 

「……狂刀神ノ加護は使わない方がいいかもね」

 

 どこか具合が悪そうな顔をしていた。

 

 

 狂刀神ノ加護。一人で上位の神を10人斬り殺した狂刀神の力を授かる術とされているが、それは建前上の説明。

 上位の神を10人斬り殺した挙句、自らが生み出した人類さえも惨殺した狂乱の神が術使用者の体内に入り込み、数秒間体を乗っ取ってしまう術。

 

 惣一郎が辛そうな顔をしていたのは、身体の内側に入り込んできた狂刀神との会話で疲れ果てたのだろう。

 日本最強タッグvs魔術師サイド『妖』の戦いは、僕の狂刀神ノ加護と惣一郎の刀技で僕達が勝利を収めた。

 

 

 

 


 

 

 

 

 惣一郎は床に膝を着き、そのまま崩れ落ちる様に倒れ込んで眠ってしまった。体内に狂刀神が入り込んだ事もあってか、相当疲れていたのだろう。

 僕は眠ってしまった惣一郎を引っ張り、来ていたモッズコートを脱いで体の上に被せた。

 

 切り刻まれて粉々になった『妖』は再生能力を失っており、復活する可能性は―――

 

「一応、最後にもう一度ぶちかましとくか……」

 

 僕は刀身が剥き出しになっていた『太刀 鑢』を拾い上げ、『妖』に向かって攻撃を開始する。相手はもう死んでるから…俗に言う、オーバーキルってやつだ。

 

「―――月封」

 

 複数の敵を一箇所に集めて封印する術、発動。

 なぜ、妖力を全て使用した僕が術を使えるのかだって?それは至極当然な事だ。

 

『妖』を倒した事で近くにいた『太刀 鑢』が『妖』から吐き出た妖力を全て回収。『太刀 鑢』を通じて僕の身体に吸収、そして術が使える様になったということだ。

 そして『月封』で封印した『妖』に向かって再び術を発動させる。今度は『月封』ではなく、

 

「焔の神よ、私に寵愛を………―――焼炙」

 

 一人目の刺客を討伐した時と同じ様に『妖』の体を火葬する。流石に室内で火を使うのは危険なので、外に出て焼炙を使用する。

 

「さてと、妖の処分も終わったし…惣一郎さんを宿まで運ぶか」

 

 ちなみに僕がなぜ惣一郎の事を『さん付け』で呼ぶようになった理由は、

 初めから『さん付け』で呼ぶ予定だったが、戦闘中と思考中と言うのもあってか余裕が無く、呼び捨てになっていただけである。

 

「後で惣一郎さんに謝っておこう……」

 

 しっかりと反省した所で、『太刀 鑢』を自らの影の中に収納する。いつもはバッグに入れて持ち運んでいるが、これから警察と合流するのに刀を持っていたら銃刀法違反で捕まってしまう。

 店内に残っていた客を安全な場所に誘導し、全員に『記憶消去』の術を発動させる。

 

「店が男に襲撃された」と言う記憶を「ガスの爆発事故が起きた」と言う記憶に上書きする。

 

 その方が警察に状況説明する時が楽なのと、男(妖)との戦闘が無かった事になる…つまり、刀を使っていない判定になる。捕まる心配無し!!

 

 そんな事を言っている内に、現場近くまで警察が到着したと聞いて、避難客を全て警察に任せる事にした。

 何が起こったのかは全て避難客が説明してくれるだろう。まぁ、偽りの情報だけれど。

 

 

 

 店内には僕と惣一郎の二人のみ。惣一郎を起こして宿に帰ろうと思ったが…、今回の魔術師の行動について少し考える事にした。

 ―――二度目の襲撃。やはり惣一郎の言う通り、魔術師が僕の命を狙っている事は間違いなかった。

 

どうして僕の居場所が分かった?

 

 一度目の襲撃の際も人通りが少なく、位置情報が掴みにくい場所に居た。だが襲われた。

 惣一郎が「同じ能力を持つ人物が魔術師側にいる」と 言ったが、ここまで正確に場所を特定できるのはおかしい。

 

 やはり、魔術師側に位置特定魔法を持つ人物が存在する可能性がある。

 そして『妖』と魔術師側は結託している状況。下手をすれば惣一郎と僕は死んでしまう。

 今回みたいに連携出来る仲間が必ず傍に居る訳では無い。いつか一人で『妖』と戦わなければならない日が来る、果たしてその時僕は勝てるだろうか?

 

 暫くは惣一郎と共に行動するはずだ、護られているその微小の時間で僕は誰よりも強くならなくては行けない。

 なぜなら僕は『元日本最強の妖術師の息子』であり『日本最強の妖術師』の名を背負っているから。

 

 勝てるか、では無い。勝たなければならないのだ。

 

 

 

 そう自分に言い聞かせた所で僕は思考ストップさせて 別の最優先事項の事について思考を切り替え、身体を動かす。

 座った状態から立ち上がり、惣一郎の近くへ歩み寄る。こんな硬い床でよくもまぁこんなぐっすり眠れるもんだ。

 

 そんなことを考えながら180cmもある惣一郎を肩に担いで店の外へ出る。流石、成人男性と言うだけあってめちゃくちゃ重たい。

 

 千鳥足で歩く僕を見つけた警察官が走って此方に向かってくる。「変な人物を発見!」と言うよりは「肩に人を担いでる人間が事故現場から出てきた!」って感じだろう。

 

「君、怪我は無い?背負っている男性も無事かい?」

 

 駆け寄ってきたのは2人、どちらも性別は男性。事故現場から逃げ遅れた人達の救出と現場捜査の為に出動した。腰には拳銃と警棒、手錠も持っている。

 

 どこからどう見てもただの警官。怪しい部分など何処にもない―――それなのに、どことなく違和感を覚える。

 

「あ、はい。ちょうど爆発に巻き込まれる寸前の所で店から抜け出したので無傷です」

 

嘘である。

 男(妖)との戦いで身体は傷だらけで満身創痍だったが、月封を発動させると同時に治癒の術も発動させていた。おかげで妖力が残り僅かだ。

 

「無傷とは言え、念の為に病院に行った方がいい。私たちが送って行くからパトカーに乗ってくれ」

 

 そう言って警察官はパトカーの近くまで僕達を案内しようとした瞬間―――

 

 爆音と共に、パトカーや救急車が停まっていた場所一帯が爆発する。避難客であろう人達が宙を舞い、地面は炎で紅く燃え上がっている。

 

 僕は何も出来ずにただ立ち尽くしていた。

 

「な……!?一体何が…!?」

 

 目の前にいた警察官の片方がそう呟く。

 もう片方の警察官は、

 

「クッフフフフフ……アッハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

豪快に笑っていた。

 

 

 

 


 

 

 

 

「アハハハハハハハハ!!警察も馬鹿ばっかだな、こんなわかりやすい部外者を仲間だと思っているんだから!」

 

 手を広げながら高らかに男は笑う。何が可笑しくて、何が面白くて笑っているのか僕には理解出来なかった。

 だが一つだけ理解るのは―――

 

「お前…っ!!魔術師の手先だな!?」

 

 そう叫ぶと同時に僕は影から『太刀 鑢』を顕現させる。惣一郎を肩から勢いよく投げ捨て、刀を手に取る。

 このまま斬り掛かれば確実に殺れるが、男の隣には無実かつ無防備な警官が居る。彼を男から引き離した後に戦闘をする必要があった。

 

「―――妖力を利用し我が肉体に力を与えよ。肉体強化(ハーフエンハンス)!」

 

 強制肉体強化とは違い、妖力を代償に肉体の強化する術、発動。

 地面が抉れる程の力を脚に溜め込み、一気に解放させる。少しだけ筋肉が軋む音が聞こえたが今はそんなことどうでもいい。

 

 溜め込んだ力が解放させた事により、僕は世界記録保持者の陸上選手より速いスピードで警官を捕らえて引き離す。

 男は顔色一つ変えずに笑い顔を維持している。気味が悪い。

 

「やっぱり君たちだよね、あいつを殺ったのは。まぁあいつ雑魚だし、勝ったからって図に乗るなよ」

 

 あいつ―――と言うのは恐らく男(妖)の事だろう。

 

「僕達の目的はもう済んだから、死んでくれ。ほいっとな」

 

 男がそう言い放った瞬間、突然辺り一面の風景が変わる。先程までコーヒーショップ前の舗装された道路に居たはずが、何も無い空間に切り替わる。

 

何も無い=地面がない。

僕はいつの間にか空まで移動していた。

 

 いや、移動したのでは無い。恐らくあの男の能力、もしくは『魔術』。『空間移動系統』の魔術だろう。

 何処へでも自由に移動が出来、何処へでも相手を飛ばせる魔術。厄介すぎる、早めに対処しなければならない。

 

 もう少しで地面に到着する、僕は術を使用して着地の準備をする。『灼熱線』を利用して落下の威力を相殺する。

 

『灼熱線』とは、手をかざした先に熱の光を生み出して発射させる術。

 

 これを使用した際、光の発射のエネルギーで身体は後ろに吹き飛んでしまうと言う欠点付きの術なのだが、高所からの着地の際には凄く便利な術である。

 だが、そんな甘えた僕を許さない存在が居る。

 

「その術使われたら厄介だから、えい」

 

 何も無い空間から突然腕が伸び、声と同時に警官が所持している拳銃の銃口が僕の方向に向く。

 

「まずっ―――!!」

 

僕は咄嗟に『灼熱線』の発動を中止して身を守る。

 しかし、その銃口から弾が発射される事は無く。そのまま空間と腕は消えてしまった。

 

 高所からの自由落下という事もあり、落下速度は最速。そして地面までは約20m。

 術を発動させる時間も猶予もない、このままでは地面と激しく衝突してそのまま死んで―――

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――身体は地面に叩き付けられて全身が破裂する。臓器は全て潰れて、身体は人の形を保っていなかった。

 まるでただの肉塊に成り果て、僕は死んだ。

 

四度目の死だ。

 

 

 

 

 

 

「っ―――!!」

 

 想像を絶する程の恐怖に向き合った僕を現実世界に引き戻すのは、酷く最悪な目覚め。

 四度目は無いと思っていた。いや、心の中ではいつか死ぬと分かっていた。それでも僕は目を背けた。

 

 死因は高所からの落下死。敵魔術師の『空間支配』によって誰も知らない未開の地に転移され、死亡。即死とはいえ、潰れた時の感覚がまだほんの少しだけ残っている。

 

「―――……っ不愉快だ」

 

 

 

 

 

 

立て続けに起きた出来事により、僕の精神は崩壊寸前だった。

 

 

 

 




天ヶ瀬です。
『遡行禍殃』を読んで頂き、誠にありがとうございます。

 第二話も1000文字超えちゃいました。
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