遡行禍殃 東京惨劇編   作:天ヶ瀬 趙世(早川 脩司)

7 / 18
第六話「死には慣れない」

 

 

 

 妖術師と空間支配系統魔術師の戦いから月日が経ち、新たな魔術師の発見情報を入手した僕は、再び戦地へと赴くことになった。

 場は呪術誕生の聖地 "京都府"。その中心である、"京都市"。

 勿論、魔術師と戦うのに単独での先行は自殺行為。 魔術師と対等に殺り合える仲間が必ず必要だ。

 この京都に潜む魔術師を討伐するべく集まった仲間は三人。少数とは言え、戦力は圧倒的。そして何より、呪術界で五本指に入る程の実力を持つ『呪術師』が居る。

 土地の把握能力と対呪術戦闘、妖術による攪乱と魔術師を仕留める一撃。 この二つが組み合わされば負け知らずと言っても過言では無い。……過言では無いのだが、

 ―――この戦いで一番油断してはならないのが『偽・魔術師』の存在。

本物の魔術師に負けず劣らずの攻撃力と、人数の多さ。この戦いで最も重要な『妖力不足』を引き起こしやすい原因の一つ。

 対処する方法は簡単で、妖術師以外の術師が『偽・魔術師』の相手をし『妖力』を確保する事。しかし、味方の呪術師は『偽・魔術師』を葬れる程の技を持ち合わせておらず、なにより相性が悪い。

 ならどうすれば良い、どうすればこの問題を解決出来るのか。深く、そして長く考えた末に導き出した答えは、

 

「お久しぶりです、あの森の時以来ですね」

 

「………すまねぇ、人を覚えるのが少々苦手でな。兄ちゃんと俺、どっかで会った事あるか?」

 

 鋼鉄の錬金術師『晃弘』を仲間にする。

 

 

 

「――― と、こんな感じです。覚えてないのも無理ないですよ」

 

 家から最も近場の駅の休憩室にて、俺はあの森で起きた出来事全てと『遡行』の事を全て晃弘に話した。惣一郎にも伝えてない、"未来の事" も。

 惣一郎に伝えなかった理由に関しては、まだ『惣一郎』と言う人物を完全に信用出来ていないからである。……この話はまた後にしよう。

 どうやらあまりピンと来てない様な顔をしているが、大凡の把握は済んだらしい。

 

「……なんだ、大体分かったっちゃ分かったけどよ。それを今、俺に説明したって事は相当な要件なんじゃないのか? 」

 

「………実は、これから僕の所属する組織のメンバーと共に『魔術師』を倒しに行きます。その間、邪魔をしてくる輩が確実に現れるかと 」

「強力な銃と乗り物を錬成出来る貴方に、力を貸して欲しいんです 」

 

「…………そうだな、遡行前の兄ちゃんを気に入って「頼れ」って俺は言ってたけど。今の俺は兄ちゃんの事は話だけでなにも知らないし、助ける義理がねぇ」

 

「………。」

 

「それに俺は『魔術師』と戦える程の武器は創れねぇ、あの銃はほぼ一日中一回限りの大技だ。同行しても逆に俺が足を引っ張るだろうよ」

「………けどまぁ、助ける義理が無くても、困ってるヤツが居るなら助けてやらねぇと漢じゃないよな?

――― いいぜ、俺もその『魔術師』狩りっての手伝ってやる 」

 

 拳を前に突き出し、満面の笑みで晃弘はそう言った。手を貸してくれる、仲間になってくれると。

 舞台を盛り上げる為の役者は揃った、残るはその舞台に登るだけ。僕達が目指す場所、京都府京都市へと向かう。 と、その前に、

 

「晃弘さん、一応…一応なんですが、この刀見て貰えませんか? 」

 

「………刀、か。どれ、見せてみな」

 

 そっと、周りの客にバレない様に影から刀を取り出し、晃弘に渡す。『太刀 鑢』、僕が一番初めに手にし、それ以降ずっと愛刀として使用している武器。

 空間支配系統魔術師『沙夜乃』との戦いで僕は感じた、まだ "この刀を使いこなせていない " ……"この刀の本質を見抜けていない" と。

 故に、武器造りに特化した専門家なら、この『太刀 鑢』の本当の姿を見抜けると僕は予想して、晃弘に預ける。

 

「――― こりゃ驚いたな。幾多の刀を見てきた俺ですら、こんな刀を見るのは初めてだ」

「太古の昔通りの造りな筈なのに、現代の技術じゃ再現不可能な程の強度。それに刀身の手入れをしているとは言え、刃こぼれや少々の錆が出来るはずなのにそれも無い。………兄ちゃん、こんな業物一体どこで手に入れたんだ……? 」

 

 実家の蔵で雑に置かれてました、なんて言える訳が無い。

 それにしてもやはり凄い、晃弘は一目見ただけで武器の構造や手入れの度合いなどの全てを把握した。鋼鉄の錬金術師の名は伊達じゃない様だ。

 

「他にもあと二本あって、見せたいのですが……そろそろ来ますね」

 

「………そうだな、残り二本は向こうに着いてからにさせて貰おう」

 

 駅のホームに電車が到着する。朝早くと言う事もあり、会社に向かう社会人や学生達が多く見られる。

 電車に乗り込んだ僕達は、目的地まで椅子に座って待つ。―――次いでに今、ここで話しておこう。僕が惣一郎に話さなかった理由と、晃弘に全てを明かした理由を。

 惣一郎との出会いは『妖』と戦った時、パッと見の第一印象は "優しさ溢れるクールな大人" だった。 共に戦う事に、惣一郎と言う人物への信頼は大きくなっていた。それは間違いない。

 そして、空間支配系統魔術師『沙夜乃』との戦いも惣一郎の避難誘導や陰からの援護のおかげで勝利を収めた。 "何事も全て上手くいった、順調だ" と僕は思っていた。

 そう、怖い程に "全て上手く" 行き過ぎていた。まるで『最初からそうなる様に仕組まれている』様に。

 そして何より、一番の疑う要素は―――

 

 僕の父である『八重垣 肇(やえがき はじめ)』を、知っている事だ。

 

 八重垣 肇は日本最強の妖術師だった。

 日本各地の『妖』を殺し、他の術師が暴れぬように牽制する程の実力者。例え、錬金術師や呪術師、奇術師に魔術師が束になっても勝てない程に。―――そして運命の刻、『東京大規模魔法事件』が発生し、彼は現場の対応へと急いだ。魔術師三人組の放った魔法が残した魔力など諸々を調査したが、手掛かりなし。

 ただ魔法発動現場へと意図的に残されたモノは二つだけ『太刀』と『古い本』。この二つを持ち帰った彼は自身の保有する蔵の中へと仕舞い、厳重に管理していた。

 捜査が難航し、組織が解体された彼は、自身の実の息子に『妖術』を教え込んだ。長い年月を掛けて、僕を育て上げた。

 ………既にこの時から、彼――― 父は僕がこれを開ける事を予測していたのだろうか。

 

 そんな父はある日を境に、妖術が使えなくなった。徐々に、とかではなくある日突然に。前触れもなく、僕が『妖術』を学んでいる最中に。

 妖術が使えない事を察した父は新しく設立された、現在惣一郎の率いる組織へと一度だけ赴き、『蔵の鍵が解錠された場合、直ぐに新対魔術師用の戦力を集めろ』と言い姿を消したらしい。

 その後、父は僕の目の前で静かに息を引き取った。僕に『妖術』と未来を託して。

 

 ―――惣一郎は確かに、あの時カフェで「君の父親には何度も助けられたしね」と言っていた。

 けれど、よく良く考えれば明らかに時系列が狂っている。

 独自で調べた内容だが……『東京大規模魔法事件』の際と新しく組織が設立されるまで、惣一郎は海外へと留学に行っていた。

 そして何より「初めて出会ったのは『東京大規模魔法事件』の後かな」と、惣一郎は言った。

 

「………あ〜クソ、最悪だ。なんでよりによって今こんな事が分かっちまうんだよ 」

 

 僕の直感にやはり間違いは無かった。

 『東京大規模魔法事件』の捜査以降、惣一郎と父が顔を合わせる場面は存在しない。時間的に不可能なのだ。

 だとすれば、これまでの行動全てが何事もなく上手く行っている訳だ。 もし……もし惣一郎が嘘をついているとして、目的は一体何だ。嘘をつく理由は一体なんなんだ。

 僕に魔術師を殺させて、何がしたいんだ。

 

「――― 証拠が無いにせよ、魔術師を殺せる内は利用するしかないのか」

 

 そうだ、結果では魔術師を殺す事に成功している。なら最大限、このまま惣一郎の策にわざと乗り、魔術師を全員殺す。

 

「…………晃弘さん、あと数分後で駅に着きますよ。もしかしたら降りた瞬間に攻撃されるかも知れないので気をつけてくださいね」

 

「…………。」

 

「………晃弘さん?」

 

「……………。グゥ」

 

 寝てる。一生懸命考えて答えを導き出した僕を他所に、電車の座席でグッスリ寝てる。

 まぁ、まだ駅に着くまでほんの少しだけだが時間はある。このままゆっくり寝させてあげるとしよう。

 と、思っていたのだが―――

 

「………なんか騒がしいな」

 

 僕達の座っている車両から少し遠い、先頭車両で何やら叫び声に似たモノが聞こえてくる。それも一人では無く、大勢の声だ。

 猛烈に嫌な予感がする、こう言う時に限ってこの予感は的中する事が多い。だから僕は慎重に、影から『太刀 鑢』を取り出す。

 寝てる晃弘さんを起こさぬ様に、周りの乗客に悟られぬ様に立ち上がって、先頭車両へと歩き出す。………声が近くなってくる。やはり先頭車両で何かが確実に起きている。

 

「………霞雲の術」

 

 音を遮断出来る程の濃さを持つ霧を発生させ、後方車両に聞こえない様に細工する。

 乗客を守る為と言うのもあるが……この場で最も面倒なのは、パニックになって騒ぎ出す乗客だ。

 

「た……助けてくれ!!鎌を持った男が暴れてるんだ!!早く別の車両に……!! 」

 

 急いで僕の方へと男性が走ってきて、膝をつきながらそう言う。 男性の荒い息がよく聞こえる、絶望から希望の光を見つけた時の、助けを求める目もよく見える。

 

「……一体落ち着いてくれ、向こうで何が起きてるんだ?」

 

「あ……あぁ…さっきも言ったけど、鎌を持った男が暴れてて…気が付いたら一面血だらけで大勢の人が倒れてたんだ…!!」

 

「そいつは今どこに居る?」

 

「……運転席の方に歩いてくのは見えてた…!!多分この列車を乗っ取るつもり―――

 

 男性の言葉が止まる、それと同時に僕の視界もグラりと傾き始める。 そのまま僕の頭は90°回転し、ゴトンと言う音と共に視界が真っ赤に染まった。

 僕の目の前では首から上を失い、鮮血が吹き出す男性の姿と、その男性の頭部らしきモノが見える。―――今すぐにでもこの男性を殺したヤツを殺さないと、更に被害が広がってしまう。

 そう思った僕は脚と腕に力を入れる様、脳から信号を発信する。だがそれは首付近で拒絶され、何も出来ない。

 と言うより、身体全ての感覚が無い。視界も少しづつ暗くなる。何が起きた。すぐに向かわなくては。晃弘さんに伝えて。惣一郎の件も。男性はどうなった。この車両で何が起きてる。術を使用する。早く行かなくては。

早く行かなくて。

早く行かなく。

早く行かな。

早く行か。

早く行。

早く。

早―――

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

!!……んだ !!早く別の車両に……!!」

 

「……………………………………………………………………は?」

 

 この光景を見るのは二度目な気がする。いや、この光景は確実に一度見た。 デジャブ、と言うやつと説明する事も出来るが、僕は同じような体験を何度もしている。

 ……何が起きたのかが思い出せない、あの時の景色と感覚が。なにも覚えていない。けれど、分かる事が一つだけある。

 僕は気付かぬ間に殺され、絶命の数十秒前に戻された。 そう、これは僕に許された唯一の術――― 『遡行』だ。

 首は、有る。目の前の男性も……異常なし。 僕が幻覚を見ていた、なんて事も無い。

 だとすればやはり僕は、あの時に殺された。それも痛みを感じず、一瞬で、命を刈り取られた。

 しかも男性の首が落ちた時に少しだけ見えた肉の断面、相当な切れ味を持つ刀か、それに近しいものでないとあんなに綺麗に切れるはずがない。となれば僕達を殺したのは……

 

「………一体落ち着いてくれ、向こうで何が起きてるんだ?」

 

「あ……あぁ…さっきも言ったけど、鎌を持った男が暴れてて…気が付いたら一面血だらけで大勢の人が倒れてたんだ…!!」

 

 回答も、男性の焦り具合も『遡行』前と同じ。一言の変化も無く、全く同じ。

 そしてこのまま時間が進めば、待っているのは『死』そのもの。『死』までの時間は凡そ数秒、刀を抜いて防御も出来ないだろう。

 

「そいつは今どこに居る?」

 

「……運転席の方に歩いてくのは見えてた…!!多分この列車を乗っ取るつ―――

 

「――― 黒影・深層領域!!」

 

 空間支配系統魔術師との戦いで使用した術の一つ。

 黒影・深層領域。 自分の半径7mの地面が影に占領されて一歩踏み入れるだけで飲み込まれてしまう術。自身の体を影と融合させ、攻撃を回避する事が可能だ。魔術師と戦った時の様に。

 領域は男性の足元へと侵食し、男性の身体全体を黒い "何か" で包み込む。それと同時に、僕も影の中へと急いで避難する。

 斬撃が僕達の居た場所で炸裂する。そのまま僕が来た車両のドアに大きな斬り傷を残し、『霞雲の術』が完全に斬り消される。

 

(どうやら、回避には成功したっぽいな)」 

 

 このまま影から出て確認するか……?

 いやしかし、まだ斬撃が繰り出されていた場合、再び斬られて『遡行』する羽目になるかもしれない。なら影の中で暫く大人しくしておくのが最適なのだが……、

 

(『霞雲の術』が消された…… このままだと後方車両にも被害が出てしまう)

 

 やはり、出ざるを得ない状況。

 生憎、斬撃を防御する術は『回避の術』か『黒影・深層領域』しか所持していない。なんなら『回避の術』は常に使用中だ、『遡行』前の斬撃を避ける事が出来なかった以上、あまり頼らない方がいいだろう。

 

(あぁクソ、出るしかない!!)

 

 勢い良く影から飛び出し、僕は『太刀 鑢』を抜刀して斬撃に備える。着地と同時に、見えない斬撃が横切ったのを少しだけ感じた。

 危険信号を感知した僕の身体は、 自然に第六感(っぽいモノ)を開花させる、―――斬撃が全て見える!!どこから飛んでくるのかが、全て感じる!!

 ……と言うのは冗談で、僕の『千里眼』が斬撃の先に居る人物。この騒動の主犯格の姿を捉えた。それと同時に、『千里眼』のおかげで多少だが、斬撃を視認できるようになった。なんとも便利な術だ。

 

「かと言って全部見えてる訳じゃねぇ………視認出来なかった斬撃に気をつけないと…ッ!!」

 

 喋り終わる直前で、斬撃が僕のズボンを掠めた。肉体に傷は付かなかったが、もろに喰らえば脚なんて簡単に真っ二つだっただろう。………それでも、行くしかない。

 この電車は11両編成、そして僕が居るのは一番後ろから4両目。

 

「『強制肉体強化』!! 」

 

 僕は勢い良く一歩を踏み出し、前方車両へと走り出す。床が大きく凹み、周囲の窓ガラスがガシャガシャと揺れる。

 いつもよりスタートダッシュが上手く行き、あっという間に車両1個分を通過した。2個、3個、4個、5個と進んで行く。

 勿論だがその間、絶え間なく斬撃は浴びせられる。見える斬撃のみに神経を全集中させ、刀で軌道をズラす。ズラした斬撃がドアや窓ガラスに衝突し、大きな損傷を与える。

 避けきれなかった斬撃は僕の腕と胸、横腹を抉る。突然の痛みに少々怯みながらも、力強く一歩、また一歩と踏み出して進む。

 ―――常時『治癒の術』を使用しているとは言え、やはり痛いものは痛い。

 

「この先か!!」

 

 速度を維持したまま、奥の車両に見える影を肉眼で捉える。鎌を両手に持ち、此方に向かって斬撃を飛ばして来ている。―――術を使うか?

 否、『列狂・深紅桜』を使用した瞬間、斬撃を回避する為の『回避の術』が解かれ、先に斬撃が僕の体を貫くだろう。

 ならば、相手の拘束が可能かつ妖力の消費量が少ない『月封』を使いたい所だが、この術も致命的な欠陥が存在する。

 

「………速すぎて無理!!」

 

 僕自身の想像以上のスピードで移動していたが故に、『月封』の拘束対象を上手くロック出来ない。

 『氷解銘卿』を使おうにも、敵が居るのは一番前、運転手が居る車両。関係の無い一般人を巻き込んだ挙句、無力化に失敗した敵との戦闘で妖力切れになる未来が見える。

 未来が見えるというか、そんな感じがする。

 なら、どうすればいい? 簡単な事だ、残る選択肢の中で最善の選択を取るしかない。 狂刀神から譲渡され、最強のバフとデバフを付与できる神器の一種―――『無銘・永訣』を解放する。

 

 初めからこの選択肢を取らなかった理由(ワケ)は多い。

 今の僕には"無銘・永訣"の刀身を上手く使いこなせるすべが無く、狂刀神に身を任せなければ妖力上限を超えて『あの時』の様に死ぬかもしれない。

 故に、狂刀神に身体の主導権を握らせるのを避けたい……と言うよりら 出来ることなら『遡行』はあまりしたくない。

 未だに『遡行』の全体を把握出来ておらず、回数制限や遡行の反動があるのかすら分からない状態なのだ。

 もし『遡行』の回数上限が設けられていたら、たまたま次の死が最後だとしたら……。

 

「狂刀神、身体貸すから神器を解放しろ!!」

 

 真っ黒な霧状の何かが腕を覆い、手に向かって収束し始める。

 霧状の何かは刀の様なモノへと変化して行き、 (あおぐろ)く、造形からして死を漂わせる一本の刀が僕の手元に姿を現す。

 勢い殺さず、何も喋らずに鎌を構える人物の急所を狙う。 心臓、首、脳。いずれかを斬れば人間は確実に死ぬ。

 距離は凡そ7m、一振で決着がつくのは間違いない。間違いないのだが………、

 

―――無銘・永訣の鞘が、消えない。

 

 

『断る』

 

 

 残酷にもその一言で、場は一変した。

 突き放す様な声と心が抉れる程の言葉の鋭さ、ほんの少しだけだが信頼していたモノに突然裏切られる気分。

 狂刀神が身体の受け渡しを拒んだ時点で、この勝負は負けも同然。『無銘・永訣』の鞘が抜けなかった以上は、この僕に為す術ない。

 

「ウソだろっ……!?」

 

 『無銘・永訣』の鞘と相手の鎌が接触し、派手に火花を散らす。 相手の鎌を弾け飛ばす事も、急所に一撃を喰らわせる事も出来なかった。

 が、相手はあまりの勢いで迫ってきた『無銘・永訣』の衝撃を流しきれず、構えの姿勢が一瞬崩れる。

 この隙を逃せば勝機は無いに等しい。このまま『無銘・永訣』でもう一撃入れたいが………、

 

「威力が足りねぇ!!」

 

 鎌と『無銘・永訣』が交わり続け、互いの身体に少しだけ傷を与える。

刀身が露出していない。即ち、『無銘・永訣』本来の性能を引き出せる状況では無いのだ。

 先程の一撃も、今までの移動速度と比例して蓄えられたエネルギーで漸く姿勢を崩せた程度。 これじゃまともに致命傷を負わせる事は絶対に無理だ。

ならどうする?

 『無銘・永訣』は使い物にならず、『太刀 鑢』でもこの鎌から放たれる斬撃に耐えられる保証は無い。

 それに、僕はこの電車の全乗客を護らなければ ならないと言う使命もある。考える事が多すぎて頭がパンクしそうだ。

 そうして僕が導き出した、選んだ道は "敵を拘束する" 。ほんの数秒でいい、次の選択肢を選べる時間を確保したい。

 移動中は速度の制限で使えなかったが、今は使える。確実に捉える事が出来る。

 

「『月封――――

 

――― しかし、その思惑は既に悟られていた様だ。

 鎌を持つ男……鎌男が鎌を頭上でくるりと回転させたその瞬間。半径5メートルの範囲で無数の斬撃が繰り出される。

 勿論、『回避の術』を常時使用しているとは言え、回避不能なモノは存在する。

 避けきれなかった僕の肩から先、腹部、頭蓋、脚、喉が見事に斬り裂かれた。防御もろくに取れず、ただただ相手を拘束する事だけを考えていた僕を。

 

『………負けだな』

 

 正に、 満身創痍。身体の傷という傷から大量の鮮血が溢れだしている。

様々な人間や神の死に際を見て来た、戦いに狂った神でさえも、この状態はもう死の道を歩んでいるらしい。

 ………目の前が暗くなる。脚に力が入らない。

 

 もう出来ることは無い、この負傷で動ける訳が無い。動けたとしても、再び斬撃が僕の身体を斬り裂く。

 勝てない、僕は再びこの鎌男に殺されて『遡行』をする。あれほど拒んでいたのに、何も成せないまま、死んで行く。

 裏切られ、期待に答えられなかった僕に、希望なんて無い。

 意識が遠くなって行く。瞼も斬られ、目を開けることすら出来ない。少しずつ、死に近づく。何も考えられない。

 

【君は―――、何だ?】

突然の問いかけ、だが今の僕はソレに驚く気力も無い。

 

【何の為に戦っている?】

なんの……為に。それは……、

 

【君自身の為?】

僕、自身の……否、違う。

 

【じゃあ君は何の為に戦っている?】

僕は、人類の、敵となる『魔術師』を倒す為に。この、電車に乗る全乗客を護る為に。

 

【君は妖術師だ】

………そうだ、僕は――― 俺は、魔術師と妖を倒す為だけに戦う、日本最強の妖術師の息子だ。

 

【負けるのか?】

………負ける?………この俺が?東京大規模魔法事件の首謀者の一人である、空間支配系統魔術師『沙夜乃』を討伐した。この妖術師が?

 

「そんな訳、ねェだろォが!! 」

 

 【僕はまだ諦めていない、この身体はまだ動き続けていた】

 確かにこの身体は既に死に体同然、だがまだ心が折れていない。一番大事な信念が、まだ生きている。

 

「そうだ、君は彼と同じ妖術師だ。なら死ぬ間際まで足掻いて見せるんだ。私は見ている、この先も、ずっと」

 

 知らない、一度も聞いた事のない声が聞こえる気がする。

いや、これは全て幻だ。俺はいまどうかしている。死ぬ寸前まで追い込まれて、トドメを刺される一歩手前だと言うのに。

 諦めきれない。

 

「ヴォ"ォ"ォ"オ"オ"オ"ッ!!」

 

 動かないはずの脚に力を入れ、一歩、鎌男の前へと踏み出す。仰け反った体を正し、鎌男の腹部へ手のひらを接触させる。

 殴る訳では無い、その程度の攻撃で鎌男を仕留める事は出来まい。――― 俺は妖術師だ、妖力をケチって負けるなんて、一族の恥。

 

『………ほぉ?』

 

 刹那、俺の手のひらから、鉄をも溶かす程の熱を帯びた閃光が放たれる。

陽動、遠距離攻撃、回避などに使用すると昔から教わってきた妖術を、 まさかこんな形で使う事になるとは思っていなかった。

 手をかざしたもの触れたものに熱を加える術。 鉄を変形させるだけの超高温も出すことが可能で、発動中は腕が黒く硬化する。

 そして、意識を手のひらへと集中させ、一つの赤い球体を生成し、それを放つ。

 

「焔の神よ、私に寵愛を……!! 」

 

 『焼炎』―――発動。

 放たれた『焼炎』の球は鎌男の腹を溶かし、運転手に当たること無く、前方へと貫通して行く。

 『焼炎』を放ったとは言え、致命傷となるダメージは与えられず 。鎌男の腹部がドロドロに溶けてしまっただけである。

 

「やっぱり、普通の人間ならこれで死ぬはずなんだけどな………お前『妖』、だろ? 」

 

 腹部を失ってまで立ち続け、鎌を一度も離そうとしない。そして触れたからこそ分かる、この鎌男の内部から感じられる『妖力』。

 実の所、『無銘・永訣』と鎌がぶつかった瞬間 で何となくそうだろうとは思っていた。

 しかし、確信が持てなかった。『妖』と断言しうる証拠が足りない。―――けれど、今ここで揃った。

 

 ついこの間……と言うほど近くは無いが、俺は惣一郎と共に『妖』と『偽・魔術師』を討った。

 その方法は魔改造された、対妖用に『妖力』が込められた弾丸を放つ銃を惣一郎が錬成し、撃ち殺した。

 その時に俺は術を使って殺せたとは言え、『黒影・深層領域』の使用中で身動きが取れなかった。故に、俺の持つ武器以外で殺す必要があった。

 

 そして今、俺のコンディションはどうだ?

 全身ボロボロで『太刀 鑢』も地面に転がっていて。尚且つ『妖』本人と接触し、ほぼ身動きが取れない状態。

 

「だったら同じ手が通用するよなァ!? 」

 

 鎌男が何かを察し、鎌を振り下ろす。

 振り下ろした手が真正面に達するより先に、俺の頭が男の肘を強打する。地味すぎる、地味すぎる攻撃だが―――、

 

「良く持ち堪えた、妖術師(兄ちゃん)。後はこの爺に任せな」

 

 鎌男の片腕から放たれた斬撃に臆せず、俺の背後で照準を合わせる男が一人。 そこには、―――鋼鉄の錬金術師"晃弘"が立っていた。

 

 俺が『無銘・永訣』を抜くより先に、晃弘は行動を既に起こしていた。

 無数の斬撃を浴びせられ、大破寸前だった電車の強度上限を最大まで引き上げ、 乗客を護る為に斬撃を貫通しない壁と盾を生成。 その後、俺が居るであろう場所まで盾を構えながら猛ダッシュ。―――この間、約一分半。

 短い猶予の中で乗客を護る最善の選択を取り、尚且つ仲間の援護に向かう。組織内のベテラン錬金術師でも難しい動きを、現に晃弘は難無くこなした。

 そして、予め俺が『黒影・深層領域』内にメモを保管し、それを晃弘が回収する。 内容は「敵が『妖』の類」、「既に『妖力』を付与した弾丸を準備済み 」という事。

 『黒影・深層領域』の中に手を突っ込み、メモを回収した晃弘は速攻で錬成を開始。

 ―――あの時、あの森で会った時と全く同じ銃を錬成する。一撃で必ず仕留める事が出来る上物を。

 現場に到着した晃弘は、冷静に照準を合わせ、傷だらけで今にも死にそうな俺の奥、鎌を持つ『妖』の男を捉える。

 最終兵器、化け物も獣も『妖』をも穿つ事が出来る銃。名を『双縄猟銃』。

 空間支配系統魔術師『沙夜乃』を討伐した、日本最強と謳われている妖術師に、『双縄猟銃』を保有し、鋼鉄の異名を持つ錬金術師。

 この瞬間、異様の最強コンビが誕生した。

 

「―――晃弘さん!!」

 

 通常の猟銃とは比べ物にならない程の弾速で、俺の呼ぶ声を合図に『双縄猟銃』が火を吹く。

 前に『妖』との戦闘した際は『黒影・深層領域』で回避したが、今は使えそうにない。体全身が傷だらけで、尚且つ妖力が残り僅かとなった。

 最後の足掻きとして使った『焼炎』で大半が持っていかれたのだろう。………まぁ、使った事に悔いは無い。

 ―――俺の耳元スレスレ、あと数ミリのズレが生じていれば頭が吹っ飛んでいただろう。

 『妖』に対して完全なる特攻持ちの弾丸が、鎌男の胸より下、左上腹部を貫通。人の形をした肉を抉り、爆弾の様に弾が爆散する。

 

「――――ッ!!」

 

 『妖』に隙が出来た。

 予想外の攻撃を食らった挙句、内側から妖力による侵食が始まった身体が耐えきれずに、悲鳴を上げているのだろう。

 

『………あの錬金術師、拡張弾頭の構造を理解しているのか!!それも戦時に扱われていたモノと全く同じ!!………クハッ、面白いではないか!!』

 

 いつもの事ながら、俺は常時『治癒の術』を使用している。ある程度の傷は癒え、辛うじて腕を動かせるまで動ける。――― ならば、取るべき行動はたった一つ。

 負傷し、体が仰け反った鎌男に最高の一撃を打ち決める。

 

「鞘が外れなくても使えるモンは使えるんだよ!! 『無銘・永訣』!!」

 

 鎌男に痛手を負わせる分には 申し分なしの強度、そして『太刀 鑢』より短い刀身が故に振りが速い。

 しかし、鎌男もまだ諦めておらず、晃弘では無く俺目掛けて鎌を振り下ろす。体勢は仰け反った状態ではあるが、謎のバランス力で体勢を維持していたのだ。

 『無銘・永訣』の振りと、『妖』の鎌の振り。どちらが速く攻撃を食らわせれるか、その一瞬で戦いの全てが決まる。―――時間が、スローモーションの様に遅く感じ、俺の『無銘・永訣』がゆっくりと、鎌男の頭蓋を斬る為に動き続ける。

 もしこの攻撃が届かなければ、俺は再び死ぬ。何としてでも攻撃を当てなければ―――!!

 

「………っなぁんてな!! 」

 

 実の所『治癒の術』の使用を解除すれば、もう一回妖術を使える程の蓄えはある。 ならば、絶対的チャンスの今、ココで使うのがベスト。

 

「―――蹂躙喰者!!」

 

 空間支配系統魔術師『沙夜乃』との戦闘前、偽・魔術師との戦いで使用した術。 腕に黒龍が宿り、手を翳した先に居る者を喰らい尽くす。しかし、妖力が足りない状態で使用したら、術は弱体化される。効果範囲内は精々3m弱が限界。

 鎌男の心臓は既に晃弘が『双縄猟銃』で破壊している。残るは首、脳を直接破壊すれば『偽・魔術師』と同じように身体が崩壊して死ぬだろう。

 だとすれば、黒龍が狙うべきは一箇所のみ。

 

「好きなだけ喰いまくれ!!」

 

 鎌男の頭部に向かって、黒龍が迫る。

 黒龍を鎌で弾くか。――― 無駄だ、弾丸程ではないとは言え、なかなかの速度で移動している黒龍に間に合わない。

 直接、妖術師を斬撃で斬るか。――― 不可能、鎌はまだ振り下ろされておらず、二人の頭上で停滞している。

 残された道は―――、無い。

 

「……っヨウジュツシィ"ィ"ィ"イ"イ"イ"イ"!!」

 

 初めて聞く鎌男の叫び声が電車内に響く。 そのまま俺の『無銘・永訣』と鎌男の鎌が振り下ろされ―――

 

 鎌男の頭部が勢いよく弾け飛んだ。

 

「―――ッ!?」

 

 違う、これは俺の黒龍が喰らった訳では無い。俺の黒龍はまだ、鎌男に届いていない。

 別の何かが、この鎌男の首を吹っ飛ばしたのだ。

首の飛んだ方向はこちら側、晃弘のいる方向へ飛んだ。故に、晃弘が撃った訳でもない。

 けど、鎌男の奥には誰も居ない。

 振り下ろされる寸前だった鎌は地面へと落ち、鎌男の体は勢いを付けたまま倒れ込んだ。危うく俺の顔と鎌男の体がぶつかりそうになったが、ギリギリな所で避けた。

 

「………っぶなぁ、どうにか間に合った……って所かな?」

 

 何処からか声が聞こえる。いや、すぐそこに居る。 俺の立っている場所のすぐ右にある座席で、一人の小柄な少女が座っている。

 二度も経験した俺なら見なくても感じられる程に 鋭い眼に、背筋が凍る様な圧迫感。 あの時と同じ感覚。

 

「………魔術師、なのか!?」

 

「い〜や、私は正式に言うと魔術師じゃないさ、なんたってこの力は借りたモノだからね」

「君たちの呼び方で言うと……『偽・魔術師』だったかな? 」

 

 『偽・魔術師』、この少女はハッキリと聞こえる声でそう言った。天敵である妖術師の目の前で。

 今すぐに『無銘・永訣』を横に振れば斬れる。けど、体全身が動かない。行動を拒絶している。

 恐れているとかの話では無い、現に晃弘も動こうとしているが、足元が固定されているかのように止まっている。

 

「無駄だよ、君たちは気づいてないみたいだけどこの列車内に仕掛けを施して置いたんだ。私が魔法を展開した瞬間に―――、全てを凍らせれるようにね」

 

 そうだ、足元をよく見れば直ぐに気づけたはずだ!!

 まるでソコに存在しないとでも言いたげな程に透明で透き通った『氷』が、俺達を拘束している。

 相手が氷なら炎を使えば対抗出来る。俺の『焼炎』を使えば……!!

 

「だから無駄だって、君の火力じゃこの氷は絶対に溶かす事は出来ない。――― それに、私は君たちと話をしに来たんだから」

 

 目の前の彼女は少女らしからぬ笑顔、まるで悪魔に似た表情で言う。ケタケタと笑いながら。

 

「………偽・魔術師が俺達に何の話があるってんだ」

 

「すんなり聞いてくれる人間は好みだよ。率直に言って、私は魔術師を殺したい。 そして、この話をした理由はもう分かるでしょう?」

「妖術師君。君たちの目的である『魔術師を討伐する事』と私の目的が 一致 している、つまり魔術師を殺す為に協力して欲しいんだ」

 

「………は?」

 

 この少女は今なんと言った。 魔術師を殺すとそして目的が一致している?協力して欲しい?

 少女は『偽・魔術師』であり、妖術師でも錬金術師でも無ければ呪術師でも無い。……まぁ少女が奇術師と言うのならそれはそれで話は別だ。

 しかし 、少女から発せられるオーラは魔術師特有のソレだ。

なによりあの晃弘が、"嘘を見抜ける" 能力持ちが何も言わずにただ黙っているという事は……少女は間違いなく『偽・魔術師』で、本当に魔術師を殺そうと……。

 

「………協力って、どう言うことだよ。俺とお前らは敵同士だろ?それに魔術師が魔術師を殺そうとしてどうするんだよ」

 

「ん〜…なんて言えばいいのかな。京都に居る魔術師とはどうも相性が悪くてね。彼から嫌われた私は京都から追い出されちゃったってワケ」

「だから、彼を殺して私が上に立つの」

 

 今回の討伐対象である『京都の魔術師』。その魔術師を殺し、その地を統べるモノと成り代わる。――― 偽・魔術師による下克上の計画。

 実質仲間割れ、狂ってる。

 

「それに、東京大規模魔法事件を起こせるのは魔術師であって『偽・魔術師』ではない。特に首謀者である彼を殺せば一件落着」

 

 確かに、俺の目的は東京大規模魔法事件の犯人である魔術師を殺すだけ。『偽・魔術師』全員を殺すことでは無い。

この少女、この現状をよく理解している。一体何者なんだ。

 

「………もしも、だ。もしも京都の偽・魔術師を統一できる器になったとして、お前が一般人に被害を与えないとは考えにくい 」

 

「なぁんでそんな事言うかなぁ……、 私は殺しが嫌いなのさ。人殺しが嫌いだから、戦闘狂である京都の魔術師に嫌われたってワケ」

「――― それとさ、チラチラその爺さんを見てるのって何か秘密があったりして……?例えば『嘘か本当かが分かる』能力持ちとか?」

 

「………―――っその眼!!もしかしてお前も!! 」

 

 情報の可視化に、能力の有無や詳細の確認。急所の見分けや居場所の把握。その全てを視る事が出来る力。

妖術師の術のみならず、ごく稀に忌み子として産まれる人物が保有する独特な眼。

 

「―――生まれながらの、『千里眼』持ちか……!!」

 

「ふふっ、ご名答」

 

 千里眼を持つ人物は指で数えれる程に少ない。 俺の千里眼に関しては、妖術で擬似的に模倣した眼だ。

 それに対し、少女の持つ千里眼は正真正銘の本物。俺の千里眼より圧倒的スペックを誇る天眼。

 

「………って、それは今いいでしょ?この案に乗るの?乗らないの?」

 

「…………っああもう分かったよ!!乗るさ、協力してやるさ!!」

 

 少女は嬉しそうに微笑みながら、俺達の足元を拘束していた氷を溶かして見せた。

 このまま『太刀 鑢』を取り出して首を斬る!!なんて事も出来るが、協定を結んでしまった以上、取り消す事は出来ない。

 

「交渉成立っ!!……あ〜それと、『妖』の頭が吹っ飛んだ件だけど。アレやったの、私。貫通した弾丸を受け止めて、再び弾き返した。だから そいつはもう生き返れないよ」

 

「………通りで、全然起きないと思ったら、妖力が残っていた弾丸で貫かれたから死んだのか」

 

 正直、 あのまま黒龍が食いちぎる事も出来た……が、まぁ色んな意味で助けられたのには変わりがない。一応、信用しておこう。

 そんな俺と少女のやり取りを見ていた晃弘が何か良いだけな顔をしている。

 そりゃそうだ、自分の能力が一発で見破られた挙句、言葉を挟む間も無く契約が成立してしまったのだから。

 

「……その、すいません晃弘さん。一人で勝手に色々と決めてしまって」

 

「いや、ここで協定を結んだのは正しい判断だ。無駄に抵抗していたら、俺達が死んでいただろうな」

 

 『偽』とは言え、魔術師と妖術師(+錬金術師)が手を組む事は前代未聞。 互いに利益が出るwin-winな関係な為、裏切りや寝返りする意味が無い。 ―――上手く纏められてしまったな。

 これから目指す場所は変わらない。

 京都府京都市に潜む魔術師の討伐。 現地集合の呪術師を含め、約四名の術師が乗り込む。

 

「……それでお前、名前は」

 

「―――名前?名前なんて別にどうでもいいじゃない。 私のことは『氷使い』って呼んでくれれば良いよ」

 

「いや名前の方が短くて呼びやすいと思うんだけどな……」

 

 なんだかこの言い方だと、是が非でも少女から名前を聞き出そうとしてる学生じゃないか。……これ以上聞くのはやめよう。

 

「あぁ、それと君たちに聞きたい事があったんだ。危うく忘れるとこだったよ」

 

 少女は椅子から飛び降り、スカートに付いているポケットから一枚の写真を取り出した。

 

「この顔の男に、見覚えがあるかい?」

 

 徐に差し出された写真を覗くと、そこには一人の一般男性が写っていた。背が高く、大人感溢れるイケメン男性が―――、

 

「……………氷使い、この人がどうかしたのか?」

 

「実の所、君たちと協定を組む様に提案してくれたのがその男なんだ。いや〜驚いたよ、突然、私の前に現れたと思ったら "京都の魔術師を倒す方法を教えてあげる" って言われたからさ 」

 

「…………マジか」

 

 汗が止まらない。この写真に写っている人物は知り合いとか顔見知りとかそんなモノじゃない。

 それ以上の関係。

 

「………惣一郎さん、じゃねぇか」

 

  俺と共に魔術師と『妖』を倒した、相棒だった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。