遡行禍殃 東京惨劇編   作:天ヶ瀬 趙世(早川 脩司)

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第七話「創造系統偽・魔術師」

 

 

 魔術の概念と可能性は幅広く、様々である。

 魔術は邪なるモノ、魔法は聖なるモノ。そうして魔術と魔法は別物として扱われてきたこの現代にて、その法則をねじ曲げる存在が突然現れる。

 それが皆が知っている『魔術師』であり『妖術師』でもある。

 魔術と魔法の混合、妖術と魔法の混合。歪な組み合わせ、有り得ないはずの混ざり。

 

 魔術と魔法の混合『可逆魔術』が日本で初めて観測されたのは西暦1570年、姉川の戦いが始まった時と同刻。

 可逆魔術持ちは、特別偉い地位の生まれではなく、凡下の家にてポッと生まれ出た胎児である。

 その胎児は魔術を扱えると言う点を除いて、ただ周りの人間と同じように育ち、人の年齢で言う5歳を迎えた。

 魔術と言えど、使えるのは簡単な火を起こしたり水を生成したりする程度の……魔法に近い魔術であった。

 貧しいが子想いの両親は、5つを迎えた可愛い我が子に何か欲しい物を一つ与えようと少しの間だけ、家を留守にしていた。―――その思考、行動によって時代は大きく傾き、正しい歴史『通史』から外れる事になってしまう。

 留守にしていたその数分、数十秒の間で5歳の幼児は何者かによって連れ去られ、行方を晦ましてしまう。果たして幼児を攫った理由が『魔術』を視たからなのか、それともただの人攫いなのかどうか分からない。

 両親は酷く悲しみ、残りの人生の殆どを幼児の捜索へと捧げた。

 その結果。言うまでもなく、両親は幼児を見つけることが出来ず、そのまま捜索中で力尽きてしまう。

 

 一方、行方を晦ませた幼児は人身売買へと売りさばかれ、あの地この地を転々と移動していた。

 その幼児……否、少年の行き着いた先は。

 

「―――得意の呪術で俺を楽しませてみろ。そうすれば褒美をやる」

 

 自らを第六天魔王と名乗り、天下統一を目指した武将。織田信長の元だった。

 相手は戦国に名を馳せる大武将。もしつまらぬ魔術を見せようものなら即刻、少年の首が飛ぶのは間違いない。

 

「その前に一つ、この世界には様々な面が存在します。私が居る面、私が呪術を使わない面、そもそも私が居ない面など。それを私は、人生の未来と引き換えに、数多の面を扱う権利を得ました 」

 

 少年は懐から取り出した鏡に触れ、反射して写し出されたモノを見せる。

本来ならば映るは鏡を見ている織田信長のみ。

 しかしそこに写し出されたのは、織田信長の向ける視線と全く同じ角度の景色。その景色は赤く染まり、焼け野原と化していた。

 

「これは有り得たかもしれない面の、一部分です。"並行世界" と、私は呼んでいます」

 

 ―――並行世界の管理、運用。それはただの人間、魔術師に許される行為では無い。神が扱うレベルの魔術である。

 それを、この少年は許されている。

 織田信長はあまりピンと来ていない顔をしていだが、少年の魔術に少しばかり興味を持ち始めた。

 

「知っての通り、俺は神や仏を信じぬ。ましてや呪術など以ての外。……だが、気に入った。もう少し活気のある呪術を見てみたいと思ったのは初めてだ」

「―――童、名は何と言う」

 

 少年は、ゆっくりと口を開き、ハッキリと言う。

 

「八重垣 肇でございます」

 

 

 

 


 

 

 

 

―――京都府、某所。

 

 魔術師を名乗る人物が一名、特殊対魔術師殲滅組織『Saofa』の社員三名と接触。その後、社員一名が重症。社員二名が行方不明。

 戦闘が起きた形跡無し。―――二名は無抵抗で連れ去られたか、魔術師による攻撃で抵抗する間もなく殺害されたか。

 事の詳細がまとめられている書類は、既に永嶺 惣一郎様に送信済み。現在は惣一郎様の指示待ち。

 

「………犯人は間違いなく、妖術師である彼が追っている人物で間違いないだろう。特徴も性格も全て資料と同じ、治療中の社員一名の証言が正しいものならね」

 

―――妖術師様は今どちらに ?

 

「今は……丁度、京都に着いた頃かな。魔術師の特徴等は全て彼に送っているから連絡はしなくていい」

 

―――承知致しました。

 

「さて、じゃあ向こうが頑張ってくれてるんだ。こちらも早々に終わらせなきゃいけないね」

 

―――はい。しかし『偽・魔術師』の動きは未だにありません。こちらの様子を伺っているのかと。

 

「………なら、自ら出向くとしよう。ここに居座っていても、街の人に迷惑が掛かってしまうからね。―――『superbia(開け)』」

 

 妖術師とは別の戦場で、錬金術師の英雄譚に続きの文字が綴られる。………それは執筆されることの無い物語。

 彼の物語を綴る者は誰も居らず、語る者は誰も居ない。

 

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

 『妖』との戦闘から暫く経った後、乗り換えの駅へと到着した俺たちは、『偽・魔術師』である氷使いと『妖術師』である俺の2人のみで 、1-1で対話をする事になった。

 対話する事も要因ではあるが、合流予定の呪術師が渋滞等に巻き込まれ、身動き出来ない状態になってしまったらしい。

 故に、京都の魔術師の計画実行の時間を少し遅らせることに決まった。

 氷使いは駅内にずっと居座るのは嫌な様で、氷使いが所有するアジトへと向かう。

 ……対話の件で、"晃弘も俺達の仲間だ、聞く権利はある" と言っても、氷使いはそれを承諾しなかった。

 余程誰かに聞かれたくない話なのか、錬金術師の彼についてなのか―――、

 

「私の魔導書を知らないか?」

 

「………?………??…魔導書?」

 

 アジトに着いた瞬間、氷使いは俺と晃弘を分けて別の部屋へと誘導。俺と氷使いの対話が始まる。――― 魔導書、と言えば魔術や呪術に使われる『魔術書』。魔術の使い方や使い魔の召喚の仕方等が記されている黒い本。

 "私の魔導書" となると、恐らく氷使いである彼女は、魔術を使用する際に用いる魔導書を無くした、と………。

 それも、電車内ではなく人々が通る道端に。

 

「ちが〜う!!無くしてない!!落としただけだ!! 」

 

「いやもうそれは無くしたと同然じゃねぇか!!……… 魔術師にとって魔導書って相当大事な物じゃないのか?それを無くすって……」

 

「だから無くしてない!!落としただけ!!無くすと落とすは違ぁぁぁぁぁぁあう!!」

 

 氷使いの甲高い声が耳元でキンキン響く。 ………いや、今はそんな話してる場合じゃなくて。

 

「で、どうなんだ?魔導書って大事な物なんだろ?」

 

「あぁ、魔術…言わば魔法に分類されるモノの全般は魔導書を源に、展開や使用が認められている。例えば君が倒した『空間支配系統魔術師』も持っていたはずさ」

 

「沙夜乃が、か?いや魔導書と呼べる本みたいなモノなんて持ってなかった様な気がするけど………」

 

 キョトンとした顔で、氷使いは俺を見つめる。何かおかしなことでも言っただろうか。

 

「君は、魔導書を『本』だと思っているのかい?………魔導書ってのは本だけでなく、様々な形で形成されているのだよ」

 

「様々な形…? 」

 

「そう。それに、魔導書を使用する時の条件は『必ず相手の視界に魔導書が移る事』だ」

「この2つを知った時、君は『空間支配系統魔術師』の姿見を思い出せばいい。必ず視界に入り、かつ魔導書として肌身離さず持ち歩けるモノ」

 

 目に見える場所に必ず有り、沙夜乃が離さなかった物。―――沙夜乃の持っていた、扇。

 

「正解。と、まぁそんな感じで『本』と呼べる魔導書を持つ術師は数少ない。そして私の魔導書は『リボン』。ほら、私の服に沢山ついているだろう?」

 

「………多すぎてどこのリボンが外れたのか分かんねぇよ。―――取り敢えず、それを探せばいいんだな? 」

 

「そう、それをお願いしたくて君を呼んだのさ」

 

 たったそれだけの頼みなら、こんな畏まった場を設けなくても良い。

となると、疑問がひとつ。

 

「―――晃弘さんに聞かれない様にしたのは何故だ」

 

 わざわざ俺と氷使いの対面会話。 ただの頼みに、錬金術師である晃弘を除いた状態である必要性がない。

 ただ俺を信頼しているのか……、それとも。

 

「………まさか視たのか。その眼で」

 

 氷使いの持つ『千里眼』。

 それは俺の妖術で模倣した眼とは比べ物にならないほどの性能。氷使いの持つ千里眼は、敵の能力や術が分かるだけで無く―――

 

「……視えてしまった、が正しいかな。不可抗力ってやつだよ。私も、こんな覗き紛いの事はしたくなかったんだけどね」

 

「………何を、視たんだ?」

 

 暫く黙り込んだ後に、氷使いは口を開く。

 

「―――魔術師に成る、最悪な結末だよ」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「で、なんだったんだ?」

 

 氷使いとの対話が終わり、晃弘の居る部屋へと移動した。魔導書である『リボン』を探しつつ。

 

「氷使いの魔導書ってのが無くなったらしいです。大事な物だから探してくれないか、と」

 

「魔導書、グリモワールか。兄ちゃん達の言う『偽・魔術師』も必要なんだな」

 

 恐らく、偽・魔術師も魔術師と同じ様に分類されるのだろう。 魔導書を媒体とした魔法の発動。―――今思い出して見れば、今まで戦った魔術師も何かしらを肌身離さず持っていた。

 

 第一戦、少女の偽・魔術師。

 氷使いとほぼ同年代。武装せず、ただ武力のみでの戦闘と得意としていた少女。…… 俺が始めて『太刀 鑢』を所持した時。

 少女の髪型はポニーテールだった。 となれば、髪留め等が魔導書で間違いない。

 

 第二戦、空間支配系統 "偽・魔術師" 。

 見た目からして現役大学生と同じくらいの年齢。格好は偽装した警察官の服。……俺が始めて『千里眼』を使用した時。

 元からなのか、それとも奪った物なのかは分からないが―――、恐らく彼の魔導書は拳銃だろう。

 

 第三戦、三宅正智。

 身体上限突破の魔術保持者であり、俺たちの戦いに参戦してくれた人物。―――戦った訳では無いが、一応魔術師なので。

 魔導書は、彼を捕らえた時に出てきたナイフで間違いない。

 

 そして、第四戦。

 これまでに無いほどに苦戦した戦いだった、空間支配系統魔術師『沙夜乃』だ。彼女の持っていた扇子が魔導書の可能性が高い。

 

 第五戦では無いが、氷使い。

 千里眼持ち、唯一魔術師に叛逆を試みる偽・魔術師。何を企んでいるのか分からないが、一応仲間として動いてくれる様だ。

 少女の魔導書は服の至る所に付いているリボン。

 

「魔導書ってのは色々な形がある物なんだな。必ず俺たちの視界に入らないとダメな物、か」

「なら 最初から魔術師の魔導書を奪えば勝ちじゃないのか?」

 

「………確かに…ですね」

 

 俺たちの目的地である京都、そこに住まう魔術師を討伐する前に見つけてしまった必勝法。それが通用するかどうかはさておき―――、

 

「京都まではあと少しですけど、氷使いの魔導書を見つける時間は沢山あります。それまで晃弘さんはどうします?」

 

「俺は愛銃の手入れがまだ終わってない。終わり次第、氷使いの魔導書探しを手伝ってやるよ」

 

 そう言って、晃弘は更に別の部屋へと足を進める。 ひとつ隣の部屋の扉を越えるその瞬間、俺は無意識的に声を発した。

 

「惣一郎さんは…敵味方どちらだと思いますか」

 

「………敵でも味方でも、使える駒なら取って置くのが得策だと俺は思うな。兄ちゃんはどうしたい?」

 

 どうしたい、か。

 短い付き合いとは言え、共に戦ってきた仲間だ。 嘘をついていたとは言え、俺が迷っている時に声を掛けてくれた人だ。―――出来れば、切り離したくは無い。

 

「ならそれで良いじゃないか。どっちにしろ魔術師を倒す以上、惣一郎の力が必要だ。なら切り離す必要は無い」

「―――それに惣一郎は、お前達を裏切った訳じゃないだろ?」

 

 ………そうだ。 惣一郎は嘘をつき、魔術師と繋がっていたが。俺たちが不利になる状況にはならなかった。

 逆に、俺たちと魔術師が戦いやすい場を設け、そして氷使いと協力する様に手助けしてくれていた。

 やっぱり俺は、惣一郎を切り離せない。

 

「それとも、魔術師関係のやつは全員嫌か?」

 

「嫌は嫌ですけど……惣一郎さんは俺たちの仲間、ですから」

 

 一度仲間と認めた以上、それを覆す事は決してない。俺はそう心に誓う。

 

『だがもし、その惣一郎が寝返ったらどうする?お前はそれでも "仲間" と言い張るのか?』

 

 ………鎌男との戦いで散々傍観者を気取ってたクセに、突然出てきたかと思えばその言葉。キャラ変か?それとも俺と惣一郎が仲良くしてるのに嫉妬でもしてるのか?

 

『……ク。クハハハハハハハハ!!面白い事を言うではないか!!―――それにお前は気づいていないのか? 』

 

 何に。

 

『あの時、俺が "無銘・永訣" の使用を許可していたら死んでいたぞ。あの妖は特別でな、その手の攻撃は効かぬ 』

 

 死の概念が効かない?

 

『奴の妖名は "鎌鼬" 、古くから存在する名持ちの妖よ。有名で名を馳せている妖程、姿形が人間に寄り、強力になる』

じゃあやっぱり、惣一郎と戦った時の妖と今回の妖の強さが違ったのは。そういう事か?

 

『そうだ、それも分からずお前は "傍観者" だのなんだの。礼儀知らずにも程があるぞ』

 

「それはお前が教えてくれなかったからだろ!?もっと早く言ってくれればこんな事には―――!!」

 

 思わず声に出して叫んでしまった俺は、慌てて周囲を確認する。

 幸い、晃弘さんも既に居なくなっていた。部屋も恐らく防音の為、周りに聞かれる心配もなし。氷使いに声が届く事もないだろう。

 

『……話が逸れてしまったが、もし惣一郎が裏切ったらどうするつもりだ。仲間だと言い張って味方が殺されて行くのをただ見続けるのか?』

 

「惣一郎が俺たちを裏切る事は、決してない」

 

『期待か?』

 

「信頼だよ」

 

 そのまま狂刀神は黙り込み、再び傍観者モードへと入っていった。困った神様だ、扱い方が難しすぎる。

 ほんの数分の会話だったが、やはりどこか違和感を感じる。魔術師戦を前にして少々気が立っているのか。それとも―――。

 

 

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 偽・魔術師である氷使いとの対話が終わり、氷使いが探していた『魔導書』を見つけてから暫く経った。

 氷使いとの対話の内容は、魔導書の件と惣一郎の件。だけでなく、彼女の持つ『千里眼』について。

 以下、回想。

 

「言えないなら言わなくても構わないんだが、氷使いの千里眼の詳細を教えて貰ってもいいか?」

 

 俺の紛い物、贋作とは違う、本物の千里眼。それがどのようなモノか、俺は知らない。

 知れば妖力で作り出された千里眼の能力を向上させる何かが見つかるかもしれない。

 

「………千里眼持ちは、生まれた瞬間に選択肢が与えられる。 最初に提示されるのは『未来視』と『過去視』のどちらを取るか」

「その次に『人物の鑑定』と『物体の鑑定』。最後に『視界内なら離れた場所が幾らでも見える』と『心で願って望んだ一部分だけが見える』」

「………その頃の私は勿論、脳がまだ発達していなくて能力の詳細を知らない。ほぼテキトー、私のその場の直感で選んだのだろう」

 

 その結果、氷使いが選んだのは『未来視』『人物の鑑定』『視界内なら離れた場所が幾らでも見える』の3つ。

 

「今の私が、もう一度選び直せるのなら『未来視』はそのままで『物体の鑑定』と『心の中で願って望んだ一部分が見える』を取るだろうね」

 

 氷使いの話が本当なら、俺の千里眼と違うのは………氷使いの千里眼は "生きている" 。 自らの意思を持っているで間違いない。

 

「君の千里眼は、妖力で複製(コピー)した相手の能力が固定されてしまっているのだろう」

 

 俺が複製(コピー)した相手は魔術師では無く、実の父である『八重垣 肇』だ。

 つまり父も……八重垣も氷使いと同じように、生まれた時に選択を迫られた、という訳か。

 

「俺の千里眼は多大な妖力を使う事で視る事が出来るけど、魔術師は千里眼を使ったら何を消費するんだ?」

 

「一般的には魔力。呪術師なら呪力、錬金術師は確か………魔術師と同じ魔力だったかな?」

「と、ここで勘違いして欲しくないのは "魔力を持っているからと言って敵では無い" って事だ。人間は誰しも魔力を生まれながらにして 有している。君も、私も 」

 

 錬金術師の場合は妖力や呪力と言った、消費する時に依代となるエネルギーが存在しない。 故に、誰しもが持っている魔力で補うしかないということだ。

 そして氷使いが言いたいのは『魔力を持っている者全てが魔術師』という訳では無いと言う事だろう。そりゃそうだ、もしそうなら今頃全員、俺の敵になっている。

 以下、回想終了。

 

「で、京都に乗り込むのは決定事項だとして、これからどうする?呪術師の方にはまだ待機して貰ってるから、動くなら早めに動きたい」

 

 一度、駅前の広場にて晃弘と俺と氷使いを集め、京都での決戦に向けての作戦会議を始める。

 と、言いたい所だが既に支度は全て済ませてあり後は京都へ赴くのみとなっている。

 

「こっちの準備は万端だ。その呪術師に連絡を入れて、私たちも京都へ向かうとしよう。それに面白いモノが見れるだろうしね」

 

 氷使いはそう軽く言う。こいつめ、呪術師である間藤さんがどれだけ怖い人か分からないからそうやって軽く言えるんだ。……こほん。

 

「では、俺たちも京都へと向かう為に出発しましょう」

 

 俺の一言で、俺を含める三人は一斉に動き出した。のは良いが、この広場には何故か人が大勢集まっている。

 無理やり押し通るのも良いが、今は争いごとを避けたい。なるべく人と接触しないように移動して―――、

 

「あ、すいません」

 

「おっと」

 

 真後ろ、人混みを通ろうとした青年が俺にぶつかり、謝罪する声が聞こえる。

 俺と同年代かそのひとつ上くらいの年齢だろう。服の上からでも分かるほどの筋肉質な身体、 若々しさが際立って見える。

 そのまま、青年が通り過ぎる。その瞬間――― 氷使いが突然、口を開いた。

 

「……ちょいと、そこのお兄さん。そうそう、カッコイイサングラスを掛けてるお兄さん」

 

 氷使いが声を掛けた青年は振り返り、 付けていたサングラスを外して不機嫌そうな顔をしながらこちらを見る。

 何やら子供とは思えぬ声の掛け方ではあるが……まぁ良いとして。

 

「僕、ですか?すいません、どこか怪我でもさせてしまいましたか……?」

 

 難癖を付けられると思っているのだろう、 俺たちを見て確実に怪しんでいる様だ。

 それもそのはず、青年は腰に刀を帯刀し、老人は背中に袋で覆われた銃を持っており、 子供の女の子の方は、服の至る所にリボンが付いている。

 どこからどう見ても、ぶつかった事に対して根に持ちやすいタイプの怪しい集団すぎる。

 

「あぁいや別に怪我も何も無いですよ 」

 

 俺は青年にそう言い、氷使いの耳元で囁く。

 

「おい、俺にぶつかっただけで喧嘩売るのは流石にマズイぞ。それに避け無かった俺も悪いんだから―――」

 

 言い切る前、氷使いは俺の声を完全無視して、青年に問い掛ける。その目はまるで、全てを見透かしている様な………、

 

「君、偽・魔術師だろう?」

 

………?この氷使いは何を?

 突然、声を掛けたと思ったら『偽・魔術師』呼ばわり。相手をボコボコにしたいからって偽・魔術師と決めつけて標的にするなんて……。

 

「ム、何か勘違いしているようだから正しておくけど。難癖を付けるために言っている訳じゃないぞ!!」

 

 だとすれば、何を根拠に。

 

「私の千里眼が、そう結論を出した」

 

 この氷使いは一瞬通り過ぎただけの青年を、なんの動作もなしに視たのか。

なんて恐ろしく早い鑑定、俺でなきゃ見逃しちゃうね。……なんちゃって。

 

「に…せ魔術師ってなんですか?……僕急いでいるのでそろそろ良いですか?」

 

 おい氷使いよ、彼は偽・魔術師を知らないようだぞ。本当に偽・魔術師なのか?

 そう氷使いに問い正したい所だったが、今この瞬間、目の前の青年が偽・魔術師だと判明した。―――俺の千里眼も、同じモノを視た。

 全てを察した晃弘を含め、この場一体に冷たい空気が張り詰める。

 少しでも動けば一触即発。 妖術を詠唱しようにも、声を出した瞬間に命が刈り取られそうな緊張感。―――動けば死ぬ。

 

「………万物を見通す勝利の眼『千里眼』。それは少しズルじゃないですか?」

 

 表情が一気に変貌する。

 目の前に居たはずの青年が消え、 全員が同じタイミングで瞬きをしたそのコンマ数秒。青年は俺たちの行動を予測し、極限まで近づいた上で、全員の武器を封じた。

 右手が俺の『太刀 鑢』の柄に触れ、左手の先2本が氷使いの魔導書であるリボンに触れている。晃弘に対しては純粋な殺意を込めた視線ほみ。

 晃弘が動かないのは、相手が余程の強者だからなのか………手足が動かない。頭からつま先まで、力が入らない。こんなの沙夜乃と会った時以来だ。

 

「錬金術師に……妖術師。それに君は魔術師?おかしな組み合わせですね」

 

 全員の顔を交互に見て、続ける。

 

「それに魔術師と言っても『偽・魔術師』。京都の魔術師と比べれば下の下、一般人レベル」

 

「だとしたら君も私と同じ、一般人レベルの 部類に含まれるけどね」

 

 こいつは怖いもの知らずを通り越してバカなのか?!

 普段の俺なら……しっかりと間合いを取っている時の俺なら、この青年を取り押さえることくらい容易だ。

 けれど、今はその間合いを取る隙がないし、動けない。動いたら即首が飛んでしまうかもしれない。

 そんな状況で、この氷使いは…!!

 

「ふっ、面白いこと言いますね」

「直ぐに全員の首を叩き斬りたい所ですが―――、先程も言った通り僕は今忙しいので、見逃すという形で」

 

 青年が微笑むと、両手は俺たちの武器から離し、張り詰めていた場の空気が少し緩む。

 呼吸すら困難だった俺たちはようやく動けるようになった為、精一杯の呼吸をする。贅沢に深呼吸しちゃったりして。

 

「創造系統偽・魔術師 」

 

 こちらから視線を外したはずの青年が、氷使いの一言で盛大に振り返る。

 

「そしてこれから、私たちと同じで京都の魔術師を殺しに行こうとしている」

 

「……なんだって?」

 

 聞き間違えか。否、間違えではない。

 氷使いは俺が聞き間違えだと疑う事を見越した上で、もう一度言う。

 

「悪いけど、君が京都の魔術師を殺しに行く理由も、全て視えているからね」

 

 となると、この青年は氷使いと同じく、京都の魔術師に何らかの恨みを持ち、殺した後にその座を奪う計画を立てているのかもしれない。

 青年は驚いた顔をしていたが、しばらくして笑みの表情へと変わる。

 

「凡そ、僕と協力関係を結びたいと考えているのでしょうが……断ります。いやはや、あまり知って欲しく無かったのですが良しとしましょう」

「少しテンプレートの様な台詞にはなってしまいますが………僕の目的を知った以上、生かしてはおけません」

 

 この流れは相当マズイ。こんな街中で、人が大勢居る場所で戦いなんて始まったらただじゃ済まない。

 出来れば戦闘を避けて話を聞きたい所だが、相手の青年はそう思っていない様だ。

 

「―――『創造(クリエイト)』」

 

 青年の周囲に異変が生じる。 約半径20m以内に居た人間のほとんどが膝を着き、苦しそうにしていた。

 この青年の魔術が原因なのは明らか。ならば被害が広がらない様に、行動に移すしかない。

 

「氷使い、偽・魔術師と俺たちの足元に氷を作れ。そのまま上昇して人間から俺たちを遠ざけるんだ 」

 

「どうして?彼は私の提案を断ったんだ、ここで仕留めればいいじゃないか」

 

 純粋無垢な顔で、さも当たり前かの様な顔で氷使いはそう言った。

 

「周りの人間が苦しもうが関係ないさ。彼を殺すのが先だろう? 」

 

 こいつはやはり魔術師なんだと、改めて実感した。ただの人間の安否なんかどうでも良くて、戦いに異様なほど執着している。

 

「……化け物め」

 

 氷使いが動かないなら、俺が動く。魔術師を殺す妖術師として、正義の味方として戦わなければならな―――、

 

「………『聖剣(デュランダル)』」

 

 青年の放った一言で、場は一瞬にして地獄へと化した。

苦しそうにしていた人間、それを見て離れようとした人間。突然の出来事にカメラを向ける人間、無視して歩き続けた人間。

 そして、魔術師と対面していた俺たち。

 その場にいた総勢100人が、

 

「………この程度の攻撃も避けれないとは。妖術師って思っていたより弱いですね」

 

 創造系統偽・魔術師の攻撃により、死亡した。

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 一瞬の出来事だった。

 反応する事が許されず、生きる事も許されない。そんな一撃が、周囲の人間と俺を切り刻んだ。

 青年の創造系統魔術による武器の『創造』。完成した一本の剣『聖剣』によって。

 膝を着いていた(もしくは座っていた)者は頭を、立っていた者は胴を横薙ぎに一閃。いつもなら死ぬ直前まで意識はあるのにも関わらず、あの剣で斬られた後は、意識すら残らなかった。

 

「少しテンプレートの様な台詞にはなってしまいますが………僕の目的を知った以上、生かしてはおけません」

 

 遡行後恒例、2度目の台詞。

……え?待て待て待て、確かこの台詞の後って―――、

 

「―――『創造(クリエイト)』」

 

「………っ黒影・深層領域!!」

 

 色々言いたい事がある、だが考えるのは後だ、今は何よりも先に人間の安全と次の攻撃に備える事に集中する。

 

「…………ほう?」

 

 深層領域による影の拡大。周囲の人間を飲み込み、地上から地面の影へと引きずり込む。

 しかし、深層領域の範囲は7mが限界。その外にいる人間を護る事は不可能。

―――我らの天に立つ全ての主よ。人ならざる者へ終焉を齎す、常世全ての悪を寂滅させるべく我に力を与え給え。

 

「『狂刀神ノ加護』」

 

 この前は悪かった。後で幾らでも謝ってやる。 だから今は、今だけは俺に力を貸してくれ。

 

『………仕方のない奴だ。良かろう、俺も暇を持て余していた所だ、少しばかり遊んでやる』

 

 狂刀神ノ加護により、身体中が妖力で満たされて行く。 それと同時に、深層領域の内部で狂刀神ノ加護に反応するかのように、一本の刀が姿を現す。

 狂刀神から渡され、身体の主導権が渡った時のみ使用が可能な神器。

 

『さて、お前の体を借りるとする……か…?』

 

 俺からは姿形は見えず、顔も見えないはずの狂刀神。しかしその狂刀神が驚愕の表情を浮かべているのが容易に想像出来る。

 なぜなら、俺も今全く同じ顔をしているからだ。

 

『な……なぜだ…!?』

「どうして………?!」

 

 まだ身体の主導権を渡してもいないし、既に入れ替わっている訳でも無い。

にも関わらず、"無銘・永訣"は。永訣の鞘は―――、

 

「………その刀……神器か!! 」

 

 ドス黒い霧が俺たちを含む、周囲の人間を包み込んで行く。 まるで創造系統偽・魔術師から、護ってくれているかの様に。

 

『馬鹿な、俺とお前が入れ替わった時しか消えぬ鞘が―――!!』

 

 暴発の可能性がある狂刀神に身体を渡さず、神器を扱える状態になっている。あんな事を言っておいて狂刀神に申し訳ないが――― 好都合だ。

 

「―――『聖剣(デュランダル)』」

 

 一閃、場を無に返す攻撃が創造系統偽・魔術師から放たれる。 だが、その後の状態は遡行前とは全く違う。誰一人死なず、誰一人として負傷していない。

 無論この俺も無傷だ。

 必殺の一撃を防いだ、食らうだけで致命傷だったあの一撃を。それだけで十分なのだ、時間を稼ぐ事が出来た今、この瞬間を待っていた。

……悪いな、狂刀神。お前の台詞、丸パクリさせて貰うぜ!!

 

『き……貴様ぁぁぁぁぁああああああ!!』

 

「―――陰と陽が分かつ時、終局点に至る数多の神が再び顕現する。"陰"は無銘・永訣。"陽"は太刀 鑢なり。妖術師の名において、俺の前に姿を現す事を赦す!」

 

 狂刀神のみに扱う事が許された、原初(オリジナル)の神器。模倣品が合わさり、一本の完全な刀が再び顕現する。

 其れは"狂想刀・黒鶫"。真の名を口にする事は禁じられた究極の秘具。

 

「やっぱり、俺でも行けるじゃ……ねぇか!!」

 

 訳は分からない。どのようにして完成させたのかは知らない。だが、"狂想刀・黒鶫"は俺に答えてくれた。

 

「―――氷解銘卿。」

 

 "狂想刀・黒鶫"の刀身から黒いモヤが大量に放出され、半径170mの範囲にある全てが氷結する。

 しかしその威力は人間と偽・魔術師のみが動けなくなる様に、極限まで抑えられている。

……また、沙夜乃の時と同じで。妖力の上限越えで死ぬのではないのか。

 その考えが、一瞬頭を横切った。 横切っただけである。 今の俺は、あの時と違う。妖力を自身の力で抑制出来、使う術も全て頭の中に入っている。死ぬことはもう――― 無い。

 

「………!!……晃弘さん、氷使いを連れてこの場から離れて下さい!!」

 

「………兄ちゃんはどうすんだ?」

 

 氷が溶けるのも時間の問題。

 ここで氷使いを抱えた晃弘と、創造系統偽・魔術師を連れてどこかへ移動する事は不可能。

 ならばどうする。どうすればいい?

 

「―――こうすンだよっ!! 」

 

 俺は創造系統偽・魔術師の腰へと手を回し、そのまま妖術を使用する。 魔術師と俺のみの状態限定の………この場から最速で離れる事が出来る妖術を。

 

「…………ッ空間転移(ゲート・オープン)!!」

 

 沙夜乃が最も愛用していた、あの魔術を。 憎く、殺すべきである魔術師の技を。

 俺は千里眼の情報と狂刀神ノ加護。そして"狂想刀・黒鶫"の力によって。沙夜乃の魔術の一部を、完全に複製した。

 

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