遡行禍殃 東京惨劇編   作:天ヶ瀬 趙世(早川 脩司)

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第二章 魔妖絢爛四番勝負
第八話「かの騎士王が掲げた」


 

 過去の歴史を改竄する事は禁忌に値する。 それは時間遡行、複製体の生成も同じ。

 魔術や妖術、呪術や奇術、錬金術などに適応される大まかな規則であり、秩序を乱さぬ為の布石でもある。

 錬金術に関しては、また別の禁忌が存在する。

 

――― 『可逆魔術』の所有者である "八重垣 肇" は、戦国時代を代表する武将の一人 "織田信長" にその術を気に入られ、常に幾度も傍に置かれていた。

 少しの時間が空けば、八重垣の得意である『並行世界』を映し出し、その行く末を見ている。

 八重垣からすればそれの何が面白いのか全く分からなかった。ただ似たような世界を眺めるのは中々に飽きる。

 しかし、信長は見るのを辞めなかった。

 

「……信長様、どうしてそんなに『並行世界』を覗くのですか?」

 

 八重垣は遂に我慢出来ずに聞いてしまった。四六時中眺める姿を見て、聞かざるを得なかった。

 この薄暗い座敷牢の中で、信長は見続けていた。

 

「………そうだな、この鏡を少し傾けるだけで様々な面が見える。未来で俺が戦に勝利する面、民が裕福に暮らす面、過去に起きた騒動が見える面。 そして―――、俺が死ぬ面 」

 

 並行世界のは、世界中の人間の指を借りても数えられない程に存在している。いつ以下なる時に生成され、いつ以下なる時に抹消されるのか把握する事は不可能。

 故に、並行世界の管理は人類の身に余る権限。

 

「その面が、凡そこの世界でも同じように起きるのは薄々勘づいている。……肇よ、お前はこれからどうしたい?」

 

 そう言って、信長は持っていた手鏡を地面に伏せて、八重垣に問う。

 信長に付き添えば、十中八九、八重垣は死に至るだろう。逆を言えば、今ここで信長と袂を分かてば寿命を全う出来るかもしれない。―――正直、死ぬのは怖い。

 折角、この世に生を受けて産まれてきたのに、まだ成人になるよりも前に死ぬのは恐ろしい。

 しかし、それよりもっと恐ろしいのは『自身の本当の気持ち』を裏切ることだ。

 

「………っ私は、信長様に全てを捧げた身。例えどのような結末を迎えようと、私は信長様について行きましょう!!」

 

 目から大粒の涙が溢れ出す。遠の昔に無くしたはずの、悲しいと言う思い。―――この誓いは生涯永劫消える事は無いだろう。例え、先の先に繋ぐ未来で何が起きたとしても。

 

「……はっ。この馬鹿者が、その答えを待っていたぞ!!―――どうせお前の事だ、ずっと悩んでいたのだろう?」

 

 この主は、八重垣 肇の唯一の主である "織田信長" はやはり、君主として申し分のない存在。

 民を思い、部下を思う。 こんな完璧な武将が天下統一を前に敗れる事は、絶対にあってはならない。だから、その面を、その未来を。

 

「っ私が、信長様を導きます!!なので…!!私も!!正しい道へと導いて下さい!!」

 

 木製で出来た牢獄が焼け落ち、中から一人の君主がニヤリと笑みを浮かべながら歩き出す。

 その瞬間から、この世界の進む道は確定した。

 かの八重垣 肇がどのようにしてその道を選ん だのか。何故、魔術師と妖術師が決別したのか。そして八重垣 肇の過去、織田信長の結末とは。

 残念ながら、この物語ではその全てを語ることは出来ない。 だがもし機会があれば、

 また別の物語にて。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「……行っちまったな」

「あぁ、行ってしまったね」

 

 空間転移の人数制限で弾かれ、その場に残された氷使いと晃弘。 動けなくなってしまった一般人の手当をしつつ、周りの安全を確保する。

 偽・魔術師が一人とは限らない。もしかしたら協力者の一人や二人居てもおかしくない。

 

「………創造系統偽・魔術師(フォージャー)に協力者は居ない。彼はずっと単独で行動しているからね」

 

「………している?それはどう言う意味だ」

 

「簡単な話さ、私は千里眼持ちでね。未来が視えるのさ」

創造系統偽・魔術師(フォージャー)はこの戦いの後に単独で行動している。その先も、その先の先も、誰かと合流して何かをする様子は見当たらない」

 

 あれほど隠れてコソコソ会話していた内容をあっさりと、晃弘の前で千里眼の事をバラした。

 それを聞いた晃弘は、驚いた顔ひとつせずにそのまま治療を続ける。

 氷使いの方も予想済みなのか、それとも先に視たのか。どちらかは分からないが、晃弘の反応に対して驚いたりもしなかった。

 

「つまり、お前さんはこの状況に陥る事を知っていたって訳か。………いや、わざとこの状況を作り出したの方が正しそうだな」

 

「鋭いね、錬金術師」

「その通り、私は君達と出会う前から視てたのさ。電車の中で出会う事も、その後の移動も、創造系統偽・魔術師と出会う事も全部」

 

「………兄ちゃんが攻撃を防ぐ方法がある事もか?」

 

「勿論。私の千里眼で能力を覗き見した時に、面白いモノが見えてね。少し賭けてみたのさ」

 

 妖術師が能力に目覚めると信じての行動。

 その後、創造系統偽・魔術師への対抗手段を確保する事も含め、氷使いは全てを見通していた。

 

「………魔術師、それは "嘘" だな」

 

 と、語っていた氷使いの言葉をバッサリと晃弘は一言で切り捨てた。

 そう、晃弘には他の錬金術師には無い、もうひとつの能力を持っている。それは『嘘を見抜く』という能力。

 

「……嘘だって?私は嘘をついていないさ。視た通り、そして辿った通りの事を話してるだけで―――」

 

「―――お前さん。創造系統偽・魔術師が剣を抜いた時、焦って防御体制を取ったな。一般人から見れば平然としていた姿に見えただろうな」

「………本当は千里眼で未来が視えなかったんだろ?」

 

 氷使いの顔が引き攣る。どうやら晃弘の言葉は的中していたらしい。

 ほんの一瞬、魔力を練り、場の空気を凍らせて剣撃を防ぐ準備をしていただけで、晃弘の能力に引っかかったのだ。

 氷使いは少し俯いたまま、本当の事を語る。

 

「………攻撃を防ぐ話は余計だったかな。その通り、私は視えなかった。視えなかったんだ」

「プツリとテレビの電源が切れたのと同様、私の視ていた先は真っ暗で、何も存在しなかった。道は絶たれ、どう行動すればいいかも分からなくなった」

「生まれて初めてさ、こんな経験をしたのは」

 

「………それで、お前さんの千里眼とやらは使えなくなったのか?」

 

「いや、その後に妖術師が出した黒い霧が周囲の人間を包み込んだ瞬間。真っ暗だった未来が突然、電源が入ったかのように続きが映し出された」

「ほんの数秒、未来視が未来を予測出来なかった世界が元に戻り、私の脳内に情報を伝達しようと魔力が巡った」

 

「その影響で動けなくなってる間に、妖術師の氷技を食らったと言う訳か。つまり未来視が復活した後の未来は正常に視れたんだな?」

 

「あぁ、それが最初に言った "他に仲間はいない" だよ」

 

 氷使いは溜息をつき、改めてこの妖術師と錬金術師がどれ程の実力者なのかを実感した。

 その後は無言が続き、互いに少し気まずい空気が流れ出した頃、ようやく警察が到着して場は収まった。

 

「………所でお前さん、魔導書はどうした」

 

 と晃弘の言葉を聞いた氷使いは少し固まった後に、全身のポケットの中身を探し始める。そう、服に付いていたはずの魔導書(リボン)がいつの間にか無くなっていたのだ。

 氷使いは焦った表情をしながら周囲を見渡し、全てを理解した顔で大きく息を吐く。

 

「…………また落としてしまったみたいだ」

 

 この場に妖術師が居たら絶対に「お前は学ばないな……」と言われていただろう。―――正直、私も思った。

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

「俺の中にある全ての妖力を千里眼に回し、己の肉体と勘のみで場を切り抜ける必要がある……」

「んな事、何度もやって来たわ!!ど阿呆ォ!!」

 

 氷使いの話が本当なら、千里眼が完全に開眼し、選択肢が与えられるのは『必要な魔力の上限に達している』状態のみ。―――赤ん坊なら、初期魔力量はコップ一杯程度。なら完全開眼に必要な消費魔力も丁度、コップ一杯位だ。

 

「もし俺の千里眼が、まだ完全開眼していなかったら?複製しただけで、本質を見抜けていなかったら?」

 

『もっと強い力を得られるのは間違いない。そして今のお前は、代わるはずだった俺の妖力を垂れ流し続けている状態に、惣一郎から渡された例の本の妖力も補充可能』

『………だが考えてみろ。お前、まだ完全開眼してないなら、何故―――』

 

 何故、俺は既に鑑定能力を持っている。

 それに、俺はどうやって父親の千里眼を複製した。妖力を使った能力の具現化?そんなものは出来るはずが無いし、聞いたことも無い。

 まず俺は千里眼を自らの手で複製したのか。一体俺は―――、

 

「………父さんの千里眼の能力?」

 

 千里眼そのものを与えた。複製の移植。または最初からそこに有ったかの様に、時間を改変する。―――世界の事象を書き換える。

 この何れかを使用し、俺の眼に力を与えた。

 天然の千里眼とは違う、成長途中の人間に与えられた人工の千里眼。 そして、鍛錬や妖術の練習等で、妖力上限と 必要な妖力が釣り合わず………不完成な形として開眼した。

 

「俺は過去に、とっくの昔に選択肢を与えられていたのか……?」

 

『思い出せぬ………か、あれ程長く一緒に居た俺も同じだ。あの瞬間と、千里眼の部分だけがどうもあやふやでな。俺も思い出せぬ』

 

「俺が選んだ能力ってのは………一体、何なんだ」

 

 まず一つ目の選択は『人物の鑑定』で間違えないだろう。妖の件も魔術師の件も役に立っていたから。そして二つ目の選択は―――

 

「『贋作(にせもの)を、原作(ほんもの)に変化させる』……」

 

 禁忌の術を除いて、俺が父親から受け継いだ術は殆ど成長済み。長年扱うがそれ以上の変化は訪れず、ただ一定の性能を保っている。

 父親の背中を見て育つ、父親の技を見て覚える。それは真似るだけとは言え、複製・複製(コピー)と同等の行為と表しても間違いでは無い。

 既に完成した技を複製しても、進化はしない。されど、成長途中である複製した技であればどうなる。

 

「………千里眼を与えられた俺は、不十分な形で開眼し、その能力を得た」

 

 本来ならばその時点で止まっていた。複製した千里眼は成長せず、他の術と同じで一定を保ち続ける。

 だが、俺は得てしまった。贋作を原作へと進化させれる能力を、千里眼を与えられた俺はその選択肢を選び抜いた。

 

「…………行ける」

 

 完全開眼に必要な妖力は、ざっと150万。

 それに対し、今現在の俺の妖力貯蔵量は凡そ147万。狂刀神の力と渡された本の追加分も含めて。

 

「なんだ、余裕じゃないか」

 

 息を吸って吐くだけで、妖力は次から次へと溢れ出す。故に、選択肢は動き始める。

 真っ白な部屋、だがそこには何も無く、部屋そのものすら無い場所。いや、部屋と呼ぶことすら出来ない空間。――― "狂想刀・黒鶫" の氷解銘卿を使用し、 創造系統偽・魔術師を行動不能にした瞬間。 俺の意識は此処へと飛ばされた。

 

「外で時間が経過している感じは……無さそうだな。まずこの空間そのものが時空に固定されてる……のか?」

 

 此処に来て何時間経ったかは不明。恐らく時間の定義すら存在しないのだろう。 だから俺は、千里眼の答えを導き出せた。

 此処には俺だけでなく、俺の中に居た "狂刀神" も飛ばされていた。しかしその姿はやはり見えず、声とその朧気な存在を感知出来る程度。

 

『仕方あるまい。俺は既に死人、術とは言え今を生きる存在に加担する事は許されない』

 

 とか言っておいて、こいつはずっと座ってるだけ。そのくらい分かるんだよ、なめんな。……そんな事を言っている内に、貯蔵量が150万を超えた。狂刀神の反応と俺の中で循環する妖力で分かる。

 

「『答えは導き出した。俺は第二の能力を以て、次の段階へと俺は進む』」

 

 それは無意識に、狂刀神と同時に言葉を発した。

 

………そこで、光を見た。 万物を見通し、選ばれた生命に力を授ける。

 

……光を見た。しかし無情にも、選ぶ知能のない瞬間に授ける。

 

…光を、見た。それは理を外れた術師に力を授ける。

 

薄らと輝く、ひとつの光を見た。

 

 

「 "術の複製" と "物体と複製" か、千里眼も嫌なヤツだな。この状況で俺が選ぶのは、このひとつしか無いってのに」

 

 

………希望に答える、光を見た。

 

 

 

 

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「………!!……晃弘さん、氷使いを連れてこの場から離れて下さい!!」

 

「………兄ちゃんはどうすんだ?」

 

 千里眼の選択を終え、再び現世へと戻ったが、 氷が溶けるのも時間の問題。

 ここで氷使いを抱えた晃弘と、創造系統偽・魔術師を連れてどこかへ移動する事は不可能。

 ならば、俺が新たに得た能力に、"狂想刀・黒鶫" に秘められた可能性。それら全てを加味して、俺が出来る事は……!!

 

「―――こうすンだよっ!! 」

 

 俺は凍りついた地面を走り、創造系統偽・魔術師の腰へと手を回して、そのまま妖術を使用する。 魔術師と俺のみ状態限定の、 ………この場から最速で離れる事が出来る妖術を。

 

「…………ッ空間転移(ゲート・オープン)!!」

 

 沙夜乃が最も愛用していた、あの魔術を。 憎く、殺すべきである魔術師の技を。

 俺は千里眼の能力『鑑定』と『複製』を、狂刀神は絶えない妖力。そして"狂想刀・黒鶫" は神が扱う器として大成した『能力の安定化』。

 その全てを使い尽くし、俺は沙 夜乃の魔術の一部を、完全に複製した。

 

「………っここは!?」

 

 開かれたゲートは二つ。俺と創造系統偽・魔術師のみを転移させる入口。

 その出口は極力被害を少なく済ませ、手短に決着を付けれる場所。かつて俺が初めに戦った、あの場所。

 

「………この家はもう取り壊しが決まってな。もう誰も住んじゃ居ねぇし、中には何も無い。そこの蔵も全部回収済みで、意味をなさないただの建造物だ」

「ここは俺の父さんと母さんが住んでた家。そして俺が全てを視た場所だ」

 

「………全てを視た?何言ってるかさっぱり分かりませんが、空間転移の術を使えたのですね」

 

「違う、これは俺の術じゃない。所詮ただの借り物、過去の遺物を漁って使ってるだけだ」

 

 この場で幾ら暴れようが、周りに被害は出ないだろう。ここは山奥に一件だけ建っている家、他に住民など居ない。だから、

 

「………構わない、という訳ですね?ならば、全力で御相手いたしましょう」

 

「………火以外の妖術は全般使えるな、良いぜ。俺も全力で殺しに行く」

 

 一振りで全てを薙ぎ払う剣を持つ偽・魔術師と、一目で全てを複製する能力を持つ妖術師。

 

 その二人の激戦が、轟音と同時に幕を開けた。

 

 魔術師を殺せるのは妖術師のみ。 他の術師に助けを求めた所で、最後に俺の攻撃が入らなければ、魔術師は死なない。

 それを知っても尚、助けを求めてしまうのは人間の性。どうしようも出来ない反射的な行動である。

 

「………一般人を巻き込まないように転移したのは良いが、俺一人じゃやっぱキツいか…?」

 

 つかぬ間の休息。 遡行前と同じで、妖力と体力を回復することが出来る唯一の時間。

 その間に持っていた携帯端末で仲間の術師、晃弘やその他の術師に救難信号を送る。こんな山奥で送れているかどうか不安だが、恐らく大丈夫だろう。

 

「………二度目の挑戦。今度は死なない様にしねェとな」

 

 遡行する前にも感じた背筋が凍える程の殺気、やはりコレはただの偽・魔術師如きが発せる雰囲気(オーラ)では無い。

 俺は急いで創造系統偽・魔術師と距離を取――― らず、動ける程度の妖力を体全体に回し、黒鶫を振る。

 地面に倒れていた創造系統偽・魔術師は急いで体を起こし、再び聖剣を手にし、俺の黒鶫を正面から受ける。

 

「僕の方も少しくらい休ませて欲しかったですね…!!」

 

「あァ…?微量な魔力しか使ってない奴が何言ってンだ、休みなんて必要ねェだろ」

 

 遡行前は戦闘に夢中で気づかなかった事。 創造系統偽・魔術師は『創造』の時だけしか魔力を回していない。

 道理で魔力切れを起こさずに大技を連発出来る訳だ。

 

「……また千里眼、ですか?」

 

「い〜や?コイツに千里眼は関係無い、俺が戦いの中で導き出した回答だ。何せ『鑑定』にも妖力を使うからな、なるべく控えてンだ」

 

 嘘、遡行前で得た知識をそのまま口にしただけだ。

 それより今は、聖剣の斬撃を躱せる程度まで妖力を回復させなくてはならない。その為に意味の無い会話で、時間を稼ぐ。

 

「お前の『聖剣』は一本だけか?その一本をぶった斬ったらもう二度と作り出せねェのか?」

 

「………本当なら答えたくない事ですが、時間稼ぎをご所望の様なので答えましょう」

「『聖剣(デュランダル)』は一度破壊されれば二度と作り出せません。例えば僕の魔力が幾ら有り余っていたとしても」

 

 この野郎、俺の思考を読んだ上に聖剣の解説をするまでの余裕がある。意図的に煽っているのか、無意識的な煽りなのか。

 だがその余裕が命取りになる事を、俺は自分の身を以て知っている。

 

「そォかよ、そりゃご丁寧にどうも。なら『聖剣』をぶっ壊せば俺の勝ちって事だなァ!?」

 

 余裕にお喋りをしている創造系統偽・魔術師の 隙をついて、片腕で振った黒鶫が(くう)を斬る。

 その行動は創造系統偽・魔術師に攻撃するモノでは無く、空間転移をする為のモノでも無い。

 

「『聖剣』を受けない方法は、あの時に知ってるからな!! 」

 

 初めて創造系統偽・魔術師が聖剣を放った瞬間。"あの時"俺は自分の妖術では無く、外部の力を使って斬撃を防いだ。

 それを利用して、もう一度反撃の機会を得る。その為に 神器である黒鶫を『無銘・永訣』と『太刀 鑢』へと分離させた。

 

『……貴様、我の神器を勝手に使って勝手に放棄するとは、どこまで我を馬鹿にすれば気が済むのだ!!体の主導権を手に入れたら必ず―――

 

 俺と狂刀神が入れ替わっている時だけしか外れない『無銘・永訣』の鞘が解放される。……現時点でその条件を満たせていないこの体で、何故か使える究極の技。

 

「その神器、やはり―――『聖剣(デュランダル)』!!」

 

 想定外の行動だったのだろう。 創造系統偽・魔術師は聖剣を抜き、俺は永訣を使う。ただそれだけの事を。

 一度防いでいるなら、俺が再び永訣を使う事を危惧しておくべきだったのだ。

 

「相手より優位に立っているからと言って慢心のし過ぎたなァ!! 」

 

 永訣から放たれた漆黒の霧は、俺と創造系統偽・魔術師を包み込み、周囲を 黒洞々たる景色へと変貌させる。

 満点の青空を変え、創造系統偽・魔術師の視界を奪う。 この霧の中で動ける者はこの俺一人。

 無造作に放たれる聖剣は永訣が全て無効化、俺はこの霧の中をただゆったりと歩き続け、創造系統偽・魔術師へと歩み寄る。

 

「……どこだ、何処に居る!!こんな卑怯な手を使うとは…!!騎士としての誇りは無いのか!!」

 

「 "卑怯" だァ!?俺は騎士じゃねェし、 戦いに卑怯もクソもあるかってンだよ!!勝てば良いのさ勝てば!!」

 

 なんとも外道な台詞なのだろうか。

 人としてどうかと思う発言すぎると自分でも思う。―――厳密に言うと妖術師だから人間じゃないけれど。

 

「『聖剣(デュランダル)』!!」

 

 攻撃は通らないのに、それでも創造系統偽・魔術師は聖剣を振り続ける。

 攻撃は通らない、と言っても物理的な攻撃は無効化出来ず、下手に近づいてそのままの聖剣で斬られたら元も子もない。

 

「……っワープで逃げる気ですか!?」

 

 確かに、空間転移でここから移動して仲間を連れて来る事も可能だ。 しかしそれには莫大な妖力を要する。

 『複製』はこれまでの妖術の中で一番妖力を消費し、使用可能時間(クールタイム)があまりにも長い。

 そして空間転移の連発はソレを加味した上で、神器の特性である『能力の安定化』で補っていた。

 故に、黒鶫として、本物の神器としての役割を失ったこの刀は『能力の安定化』を失っている。………次に『複製』が使用できるまで、ざっと二時間。

 

「………空間転移はまだ使えねェ。永訣の霧が消えるまでに策を考えるしか方法は無いな……」

 

 猶予は無い。 今ここで結論を導き出し、行動に移さなければならない。

周囲の霧が段々濃くなって行き、創造系統偽・魔術師は完全に俺の姿を見失い、聖剣を振る事すらしなくなった。―――諦めたのか、それとも俺と同じく作戦を練っているのか。

 どちらにせよ好機。 身を守る行為を辞めた創造系統偽・魔術師を今ここで斬る。

 

 

「……ならば諸共、『創造(クリエイト)』」

 

 

 もう遅い、二度目の判断ミス。

 聖剣(デュランダル)を連発している時に戦えば結末は変わったに違いない。だが俺の慢心がその結末を否定した。

 そしてこれから起きる惨劇を、俺はただ何も出来ずに見る。

 

 

「―――『湖の乙女よ(エクス)

 

 

 その白い輝きを放つ剣は、かの有名な騎士王が選定の岩から引き抜いた、もしくは湖の乙女から手渡され受け取ったとされている伝説の剣。

 激しく放たれる光は永訣の霧を払い除け、邪悪を伐つ為に躍動する。

 

 

 

「―――『導き給え(カリバー)』!!」

 

 

 

 木々も空気も虫も動物も建物も空も地面も人も海も意識も夢も希望も何もかも全てが、蒸発する。

 世界がそれを許した様に、ソレは止まること無く輝き続ける。ただの一度も光を絶やさず。

 創造系統偽・魔術師の創り出した剣が、例え本物の聖剣出なくとも関係ない。その威力は十分に凄まじく、どの術師も適わぬ程の力を見せた。

 

「………まさか切り札を魅せる事になるとは思いませんでした。これ程までに僕を混乱させたあなたに敬意を」

 

 創造系統偽・魔術師の声は届かない。 既に焼け死んでいる訳でも無く、耳が聞こえなくなった訳でも無い。―――もう、居なかった。この世に、この地球に妖術師の姿は無かったのだ。

 『湖の乙女よ、導き給え(エクスカリバー)』は妖術師を存在ごと消し去り、何事も無かったかの様に輝きを失う。

 

「………自滅技ではありますが…楽しかったですよ妖術師。またあの世で会える事を楽しみにし―――

 

 

 

 

 

 体は消え、聴覚器官すら消失した俺は、 既に聞こえなくなったはずの声を認識し、意識が覚醒する。

 空間転移してから二度目の遡行。

 

 原因は明らかなる慢心……では無く、圧倒的初見殺し。初めてであの攻撃を防げる者は誰もいないし、 いるはずがない。

 まさにチート級の技。自らを犠牲にした最後の一本槍、いや一本剣と言った所だろう。

 攻撃無効化が付与された霧さえも蒸発させる程の光量と熱量は、ほんの少し触れるだけで何もかもが消える斬撃となる。

 対抗策は何も無し、永訣の霧が効かない以上、これまでの足掻きが全て無意味と化した。

 

 思考が止まらない。

 死んだはずの、既に失ったはずの思考は回り続けている。 恐らく死しても尚、 溢れ続ける妖力が巡っているからだろう。………間もなく"遡行"が起きる。

 この意識だけの何も無い空間、千里眼が進化した時の空間と似た、身体と言う情報の別の何処かで俺は只管に考え続ける。

 

 恐らく"遡行"地点は変わらず固定だろう。

 未だに"遡行"の回帰地点となる基準や条件が全く分からず、調べようがない。ただ過去に戻るのを待つのみ。

 

 

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

 

 何もかもが消え去った土地、俺の生まれ育った建物でさえも崩壊した場所で、 勝負を勝ち取った偽・魔術師が一人。

 

「………自滅技ではありますが…楽しかったですよ妖術師。またあの世で会える事を楽しみにしています、ほんの一瞬だけ…ですけどね」

 

 その創造系統偽・魔術師も間もなく消える。 指先から紙が燃える様に、少しづつ体が崩壊して行く。

 

「………僕はただやっと本気を出せる術師を見つけて、ついつい本気を出してしまっただけです。……まさか自滅技を使うまで追い込まれるとは思いませんでしたが」

 

 妖術師は魔術師を殺す為に、魔術師は戦いを楽しむ為に。

 確かに、この戦いに意味は無かった。 創造系統偽・魔術師は妖術師にあまり興味を示さず、妖術師は争い事を避けていた。

 出会った頃の過去に戻ったとしても、この二人が戦闘になる確率は限りなく低く、すれ違って終わる筈だったのだ。

 

 妖術師は運が悪かった。

 別の偽・魔術師『氷使い』を連れていたのが間違いだった。史上最悪の選択肢を選んだ。

 『氷使い』の一言、そして妖術師の行動が "創造系統偽・魔術師と戦う" と言う未来を導き出してしまった。その結果がコレだ。

 創造系統偽・魔術師と妖術師の肉体は消え、その存在ごと抹消された。

 ただ残されたのは創造系統偽・魔術師の『エクスカリバー(湖の乙女よ、導き給え)』のみ―――

 

 

 

 

「―――Confirmation of the disappearance of the sorcerer.As a result of the calculation, the failure of the sorcerer cleanup plan is confirmed as of the present time.」

「The most important person needs to be revived to get the magician cleanup plan back on track.Confirmation of the identification number of the sorcerer : Utugi Yuma. Permission to resuscitate,―――approved.」

「At the same time, the creation system false/magician is allowed to be resuscitated, ―――approved. Re-constructed the body and performed the resuscitation.」

「Until executed, ...3...2...1, confirming the resuscitation of the sorcerer and the creation lineage false/magician. 」

 

Summons both (再構築した両名の)reconstructed bodies(肉体を現代へ召喚します。).」

 

 

 

 

「どうして、どうしてどうしてどうしてどうしてどうして!!なんで……再起動は僕だけの筈なのに、何故あなたが…!!」

 

 消える寸前まで俺と創造系統偽・魔術師が立っていた地面に、再び二人の術師が姿を現す。

 それは紛うことなく、肉体は亡び、存在が蒸発した妖術師と大技を放った代償に消滅した魔術師であった。

 理解が追いつかない、俺は死んだはずだった。そのまま遡行して次の戦いに望むはずだった。なのに―――、あぁ、そう言う事か。

 

 

「………は、ははははは、ははははは!!」

 

 笑いが止まらないとはこの事だったのか。

 魔術師自らの手で屠った妖術師がまさか、自身の能力によって生き返るとは、想定していなかったのだろう。

 

「はぁ〜……本当に滑稽だな、魔術師サンよ」

 

―――肉体の再構築。

 創造系統偽・魔術師の持つ『創造』は、聖剣のような "特異な物質" を魔力で再構築させ、武器として扱う事が出来る。

 彼はそれを生かし、自身の身体を "一つの物質" として認識し、死後に肉体の再生を 実行させた。

 実質的な蘇生概念。歴代様々な術師が "死の克服" を目指し、肉体の蘇生を計ったが叶わなかった理想。

 それを創造系統偽・魔術師は自身の特性を理解し、成し得たのだ。

 

「………再構築する際の条件は "消滅する一時間前の姿" だろ?」

 

 戦闘で魔力を浪費した肉体より、万全の状態で魔力も有り余っている肉体を創造系統偽・魔術師は選んだ。……まさかその選択が仇となるとは。

 

「一時間前と言えば、俺が一度目の空間転移を使った直後…だな。その時なら妖力に問題無し、武器も黒鶫のままで『鑑定』を使っても良い程の余裕があるって訳だ」

 

「………そんな、いや、そうじゃない!!千里眼の鑑定能力なんてどうでも良いんだ!!――― どうして、妖術師まで蘇生されたんだ!?」

 

「………はっ、そんなの俺も知らねェよ!!ご自慢の『創造』様に聞いてみたらどうだァ!?」

 

 足元の影が広がり、創造系統偽・魔術師と周囲の木々を覆う。

 戸惑った創造系統偽・魔術師は急いで影から離れようと試みるが、もう既に遅い。両脚をガッチリと影から伸びた手が掴み、逃がさないと叫んでいる。

 

「『黒影・深層領域』」

 

 伸びた影は上半身までを包み、完全に身動きが取れない状況まで追い込む。

聖剣(デュランダル)』も『湖の乙女よ、導き給え(エクスカリバー)』も使わせない。……だが、創造系統偽・魔術師は俺の予想を遥かに超えて対抗してくる。

 ならば慢心は無し、そして何もさせずに高火力で策を潰す。

 

「―――『創造(クリエイト)』!!」

 

 来る。手足を縛られても尚、 攻撃を続けるその心意気。創造系統偽・魔術師は『偽・魔術師』に収まる器では無い。

 遡行有りとは言え、何度も妖術師を殺し、土地一つを消滅させている。これは完全に純粋な 『魔術師』の領域だ。

 そして、創造系統偽・魔術師の『創造』は微量な魔力しか消費しない。 『聖剣』や『湖の乙女よ、導き給え』を扱う際にも魔力を消費する事は無い。

 一瞬で相手を消し炭に出来る力があり、尚且つ妖力切れを起こさない方法。そんなの、ひとつしかない。

 

 

「―――『疑似創造(クリエイト)』!!」

 

 

 俺は沙夜乃同様、創造系統偽・魔術師の切り札を『複製』した。

 しかし、複製したとは言え、空間転移とは違い完全的な複製では無い。性能も少し落ち、構築出来るのは創造系統偽・魔術師が作り出した武器のみ。―――それで十分だ。既に創造系統偽・魔術師は俺の目の前で創っている。

 そしてそれを理解した彼は、俺が動く前に仕留めるつもりだろう。ならば、速さ勝負だ。

 

 

「『湖の乙女よ、(エクス)―――!!」

 

「『選定の剣よ、(エクス)―――!!」

 

 

 宇宙(ソラ)から地球に小さく明るい光が見えるほどの輝きを放つ二本の剣。―――片方は剣を授けた湖の乙女に懇願する様に、もう片方は模倣した剣に願う様に、その光は、

 

 

 

「「――― 導き給え(カリバー)』!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………『疑似創造』は偽物。お前の本物とは違い、代償を払う必要も無い。 ―――この勝負、俺の勝ちだ」

 

 俺の生まれ育った街諸共、俺と創造系統偽・魔術師は『エクスカリバー』によって焼き払った。

 俺は最初に使用していた『黒影・深層領域』で自身を覆い、創造系統偽・魔術師は俺の『エクスカリバー』を正面から受け止めた。

 勿論、俺の妖術如きで防げるはずもなく。現に両腕と右半身が持っていかれ、立っているのもやっとの状態だ。

 

「………そう、ですか。でも…僕はこの後に再………構築されるでしょう。それが僕に許された……能力なの…ですから………」

 

 下半身を失い、全身が黒く焼け焦げた状態になった創造系統偽・魔術師。

 確かに、今までの流れ通りなら『創造』の力によって肉体は再構築され、実質的な蘇生として再び現れるだろう。―――だが、

 

「無駄だ、お前の『湖の乙女よ、導き給え(エクスカリバー)』より俺の『選定の剣よ、導き給え(エクスカリバー)』の方が寸秒早かった」

「大技の代償による消滅は、俺の『選定の剣よ、導き給え(エクスカリバー)』によって打ち消された」

 

 そうだ、創造系統偽・魔術師はもうすぐ死ぬ。 魔術師と同等の実力を持つ彼は、複製した俺の攻撃によって簡単に死ぬ。―――ダメだ。俺は妖術師であり、魔術師を殺す存在。

 これまで偽・魔術師は躊躇いもなく殺してきた。どんなに命乞いをしようが、どんなに懇願されようが構わず殺してきた。

 けれど………俺は、

 

「………クソ、誰のせいでこうなったんだ俺は」

 

 創造系統偽・魔術師を仲間にする。

 既に偽・魔術師である『氷使い』を仲間にしている俺は到底許されるはずがない、だがここまで来てしまったのなら、やるしかない。

 

「これも全て、あなたの計算の内ですか?惣一郎さん」

 

 あの男はこれを読んだ上で、氷使いを仲間にさせて創造系統偽・魔術師と戦わせた。

 そんな事が本当に可能なら、それはもう未来視に近しいだろう。

 

「………で、だ。お前には選択肢が二つある」

「一つ、俺の傘下に加わって魔術師を殺す為に『善良な偽・魔術師』として戦うか。二つ、このまま死を選び『邪悪な偽・魔術師』として死ぬか」

 

 そして俺は、戦う前に言おうとして遮られた言葉を口にする。

 

「………俺と協力して、京都の魔術師を殺すのを手伝ってくれ」

 

 最初から、この創造系統偽・魔術師は『京都の魔術師』を殺すために動いていた。 そこに氷使いと、妖術師である俺と出会ってしまったが故に、戦わざるを得なかった。

 だが今はもう、戦う理由が無い。そして、二つ目を選ぶ理由も、無い。

 

「………これはまた……一本取られましたね」

 

 創造系統偽・魔術師はフッと笑い、俺と協力関係を結ぶ事を表明し、長いようで短かった激闘は俺の輝きと戦略勝ちで終結した。

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 戦いが終わった後、俺は残った妖力をフルで回し、再び『空間転移』を使って氷使いと晃弘の居る場所へと戻る。

 妖力切れで少し倒れかけたが、晃弘に支えてもらってどうにか堪えることが出来た。

 

「………氷使い、こいつに魔力を分けて延命させる事は出来るか?」

 

「あぁ、出来るとも。魔力は万物共通の動力源だからね」

 

 氷使いの魔力を創造系統偽・魔術師に渡し、俺の『黒影・深層領域』を使って創造系統偽・魔術師の腕となる部分を補う。

 少し歪な形になってしまったが、腕として成り立つなら特段問題は無い。

 

「いいぞ、氷使い。この辺りをなるべく頑丈な氷で包み込んでくれ」

 

 周囲を氷で囲い、人間に危害が加わる事無く、尚且つ地面が抉れる程度の最小限の被害に抑えて創造系統偽・魔術師の蘇生を行う。

 方法は至って簡単、分け与えた魔力を全部消費し、あの時に放った光をもう一度再現する。『湖の乙女よ、導き給え(エクスカリバー)』を再び放つのだ。

 

「……いいか?行くぞ?」

 

 補助腕から生成された小さな剣から、微かな光が溢れる。それは二度、俺を焼き殺そうとしたあの光とは思えない程にか弱かった。

 弱々しい光が収まると同時に、創造系統偽・魔術師の肉体がボロボロと土のように消えて行く。

 

「再構築を、開始する」

 

………あの時の様に行くのか不安は残るが、ただ起こる事実を受け止めるのみ。

 その場に残され、光を失った小さな剣が薄緑色に輝く。このタイミングで光出したという事は、間違いなく『再構築開始』の合図。

 

 

 

 

 

 

「―――魔術師の消失を確認しました。演算の 結果、現時点で魔術師殲滅作戦は不可能と判断。 魔術師殲滅作戦を再び軌道に戻すには、最重要人物を蘇生させる必要があります」

「偽・魔術師の識別番号確認:鷹羽真悟。蘇生許可、―――承認。肉体を再構築し蘇生を行います。 蘇生まで、残り180秒。100、60、20………創造偽・魔術師の蘇生を確認」

 

『再構築された肉体を召喚します』

 

 

 

 

 

 

 

 

 足元から徐々に、人間の皮膚と思わしき物体が生成されて行く。

 完全に脚が完成すると同時に、履いていたズボンと靴が一瞬で身を包み、そのまま上半身も同じように元に戻る。―――蘇生は成功したのだ。

 

「………僕の体は一時間前の僕と同じ。この場でもう一度、一般市民を含めたあなた達を一掃出来ますが………僕はあなたに負けた身です」

「これから僕は―――否、私はあなたの剣となりましょう。ご自由に、いつ以下なる時でもお使いください」

 

 騎士道、と言うやつだろうか。なんとも律儀な性格をしているが、少しばかり扱いにくそうだ。

 これで、晃弘に氷使い。そして俺と創造系統偽・魔術師(フォージャー)の四人が揃った。 本来の目的である京都の魔術師と戦う為の戦力は十分。

 

「それじゃ、行くとするか!!」

 

 日が完全に沈むまで残りあと少し。日が昇るより早く決着をつける為に、俺たち妖術師一行は予定より数刻早めに出発することにした。

 

 

 

 

 




 裏切り者には制裁を、裏切り者には訣別を。 我が魔術師の集いに要らぬ存在は排除し、秩序を保つ。
 そうして完全な魔術師達が集まった暁には、真なる支配者がこの世を統べるであろう。だが、まだその時では無い。

 裏切り者は多数存在する。

 他の術師に加担した者、魔術師である事を捨てた者、妖術師と歩む事を選んだ者。そして、自身が魔術師である事を忘れた者。

「その全てを殲滅させるのが、私の役割です。例え如何なる人物であろうと、誰にも邪魔はさせませんよ」

 魔術師にのみ伝わる情報の中で、一時期姿を消し、その行方を眩ませていた人物が一人。
 京都で妖術師を迎え撃つべく、大人数の仲間を各所に配置して待機している魔術師の大将の前に現れる。ゆっくりと、宙を降下して行く。

「………何が言いてぇんだ」

 瞬間、京都の魔術師は、マントを羽織っている魔術師の首に短刀を差し出し、寸前でそのまま停止する。どちらも動揺する事無く、互いに互いを睨み合っている。

「この戦いで、妖術師とその仲間には一切、手を出さないでください。『殺せ』と言ったのは僕ですが、事情が変わりました」

「………へぇ、妖術師の肩を持つのか?」

「仲間になる、言う訳ではありません。少しばかり厄介な相手が出来たモノで、それらを排斥するまで妖術師には手を出さない約束になっているのです」

 魔術師と妖術師のどちらをも壊滅させる程の力を持つ何かが、両陣営に迫って来ている。 油断すれば、どちらもが破壊され、亡きモノにされるだろう。

「約束、ねぇ。俺たちはソレが終わるまで待機って事か?」

「ええ、それが終わったら後はご自由にどうぞ」

 京都の魔術師は首元に差し出していた短刀を仕舞い、そのまま踵を返して闇夜に消えて行く。真っ暗で、何も見えない空間へと消えて行く。
 マントを羽織った魔術師………否、魔術の道化師は高い高いビルの屋上でただ一人、夜空を見上げている。

「最強の妖術師を育て上げた呪術師、彼を殺さなければ………全てが終わってしまいますからね」

 魔術の道化師はそう言い残し、ビルの屋上から飛び立った。自然落下せずに地球の重力に逆らい、スイスイと空中を歩いて行く。
 そのまま京都の魔術師と同様に、魔術の道化師は漆黒の空間へと姿を消した。
………それをたまたま目撃していた一般人は眠たい目を擦り、今見たものが現実か非現実かを必死に考えていたのは、別の話。
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