遊戯王デュエルモンスターズGX ~新たな道を作る者たち~ 作:shin.
前回から、かなり時間が開いて申し訳ありません。
今回、デュエルもせず少し長めとなっています。
お時間があるときにゆっくり読んでください。
それではどうぞ。
研遊と万丈目のデュエルが終わり、辺りは静寂に包まれていた。いや、正確には波の音と二人の呼吸音のみが聞こえていた。研遊は四つん這いになり項垂れている万丈目にどう声を掛けようか迷っていた。しかし、掛ける言葉など見つかるはずもなかった。それもそのはず。勝者が敗者にかける言葉など、只の情けでしかない。勿論、時と場によっては違う時もあるだろう。だが、今のこの状況では情けを掛けること以外の何物でもなかった。それ故に、研遊は声を掛けることができず万丈目を只々見下ろす事しかできなかった。どうしたものかと研遊が考えているその時、
「なあ、須磨研遊…」
「っ!」
万丈目がポツリと研遊の名を呼んだ。研遊は驚きつつも、万丈目の紡ぐ言葉を待った。
「俺は…どうすればよかったんだ。分かっている。俺がしようとしたことは人として、いやデュエリストとしてやってはいけない事だ。だが、俺は三沢に勝たなくてはならなかった!そうでもしなければ、俺はかつての栄光を!兄さんたちからの信頼を!取り戻すことが出来ながった!!」
コンクリートの地面を叩きながら万丈目が叫んだ。それは万丈目が抱えていた不安や不満。普段はプライドが高く自信に溢れている姿を見せていたが、それはあくまでも表の姿。その裏では恐れていたのだ。兄たちや教師、クラスメイトに見限られたり見放されたりする事に。誰にも吐き出せなかった思いのたけをぶつける様に万丈目は研遊に向かって言い放った。その叫びを聞いた研遊がゆっくりと口を開いた。
「すまん、万丈目。お前がそこまで追い詰められてるなんて思ってもみなかったよ。いや、分かってるつもりだったんだ。だけど、お前の口から本心を聞いて改めて思った。お前の事全然分かっていなかったんだって。そりゃそうだよな。俺はお前と全然関わろうとしてなったんだから」
研遊は申し訳なさそうな表情で自身の思いを万丈目に話した。そう。研遊は今までで万丈目と関わる事をしてこなかった。勿論、それには理由がある。それは研遊が転生者であるという事。前世の記憶を持つ研遊は、それ故にそれぞれのイベントには首を突っ込む事はあるものの、物語の妨げになったり別の物語にならないように細心の注意を払っていた。つまり、主要人物たちへ過度に接触しないようにしていたのだ。それでも十代達や丸藤亮と接点を持ったり制裁デュエルを受けたりと本来の物語とは違うことが起きていたりしているのだが。
そして、これが最大の理由だが、研遊は前世の記憶でこの世界の人物たちの事を知っているからだった。それは使用するデッキの事であったり大まかな性格だったりと、それぞれの差はあれど、大体の事を研遊は知っているのだ。つまり“その人に関わらずとも、どういう人間かを知っている”ということ。だから研遊は主要キャラ達とは物語に影響がないように積極的には関わって来なかった。しかし、この万丈目とのデュエルで気付いてしまった。いや、知ってしまった。研遊自身が主要キャラ達の事を全く知らないという事を。確かに、表面上の事やある程度の性格などは分かる。だが、それでは本当の意味で“その人の事を分かっている”と言えるわけではない。本来、人は人と関わっていく中でその人柄や性格、好みなどを知っていく。そこで友情や信頼関係が芽生え共に成長していくのだ。
しかし、研遊は関われない理由があるとはいえ、その部分を疎かにしていたのだ。それなのに万丈目のことを分かった気でいる等、有り得ない事でしかないのだ。
「万丈目。お前は必死に色んなものを取り戻そうとしていただけなんだな。タラレバに意味はないけれど、俺がお前と関わりを持っていたら、お前の苦しみを少しでも軽減できていたのかな。もし、それが出来ていたら“デッキを盗んで捨てる”なんてことをさせずにすんでいたのかな」
研遊は空を仰ぎながら呟いた。目の前に広がる空は、どんよりと灰色の雲が広がっており、まるで研遊の心を映しているようだった。そして、そして、研遊は目を瞑り深く深呼吸をして呼吸を整え万丈目の方を向いた。万丈目は研遊の呟きが聞こえていないのか、それとも聞こえていないフリをしているのか、只々項垂れていた。研遊はゆっくりと口を開け、万丈目に話しかけた。
「万丈目。お前はデュエリストしてやってはいけない事やった。相手のデッキを盗むなんて言語道断だ。それを捨てようとしていたのなら尚更だ。勿論、デッキを放っておいた三沢にもある意味問題はあるけどさ。でも、お前はまだ引き返せる。余計なプライドなんか捨てて、ちゃんと三沢に謝罪するんだ。デッキを盗むなんて、そんなことしなくてもお前が強いのは皆知ってる」
研遊の話を聞いても万丈目は未だに項垂れていたままだった。その様子を見て、研遊は万丈目の胸倉を掴み、グイっと顔を近づけた。胸倉を掴まれた万丈目は突然の事に驚いた表情をしていたが、研遊はその様子を気にすることなく言葉を続けた。
「十代に負けたからなんだ!俺に負けたからなんだ!十代をあそこまで追い詰めれるデュエリストがこの学園に何人いると思ってんだ!正直、沢山いる訳ねえだろ!負けたから周りのやつらに笑われた?そんな奴らに言い返したのか!“お前らは十代に勝てるのか”って!言い返しもせず、何言われっぱなしになってんだ!それがエリートであるお前なのか!」
叫ぶような研遊の言葉に、万丈目はハッとした表情を浮かべた。
「一度負けて終わりなら、俺だってとっくに終わってる。十代にもカイザーにも負けてるんだ。だけどな、俺は絶対あの二人とまたデュエルをする。そして、絶対に勝つ!もし負けても、勝つまで戦い続けてやる!お前は……お前はどうなんだよ、万丈目!!」
研遊の叫びが終わり、周りは静寂が包み込んだ。万丈目はと言うと、胸倉を掴まれたまま顔を伏せていた。その様子を見て研遊が手を放そうとした時だった。その研遊の腕を万丈目がガシッと力強く掴み、研遊は驚きの表情を浮かべた。
「…さっきから黙って聞いていれば。目上の人間には“さん”を付けろ!」
万丈目は伏せていた顔を上げ、研遊を睨んだ。その眼には闘志のようなモノが宿っており、何かを決意したような表情だった。
「お前のような奴に説教されるなんて、俺も落ちぶれたものだ。だが、俺はもう迷わない!負けたくらいで無くなる栄光や信頼など、元々無いも同然だ!だから俺は新たに手に入れる!更なる栄光を!そして、万丈目準の名を世界に轟かせてやる!」
万丈目は掴んでいた腕を振り払い、研遊に向かってビシッと指を差した。
「須磨研遊!今回は貴様の勝ちだが、次の勝負では俺が勝つ!仮にお前に…いや、お前以外に負けようとも俺は勝つことを諦めない!その様をしかと目に焼き付けておくんだな!貴様は…俺のファンなんだろう?」
「!!」
万丈目の言葉に研遊は目を見開いた。そして、悪戯っぽくニヤリと笑う。
「ああ、そうだ。俺は万丈目のファンだよ。でも、ファンに負けているようじゃ世界に名前は轟かせることなんて出来ないんじゃないか?」
「フン!そう言っていられるのも今だけだ!次は負けん!」
万丈目は腕を組みフンっと鼻を鳴らした。そこには先程まで項垂れていたデュエリストはいなかった。栄光を掴み取ろうとする決意の固まったデュエリストが研遊の前に堂々と立っていたのだった。
「随分とスッキリした表情になったみたいで。ここからまた大変だろうけど、応援してるぞ」
「余計なお世話だ!」
「あと、俺も覚悟を決めたよ」
「なに?」
研遊の言葉に万丈目は首を傾げた。今までの会話で研遊が何を思ったのか。万丈目は口には出さなかったが、研遊が言っていた言葉は少なくとも万丈目を元気付けるような応援しているような、そんな内容の言葉だったのは明らかだった。だからこそ、研遊が何の覚悟を決めたのかが分からなかった。そして、当の研遊は言葉は発さず心の中で決意を固めていた。
「(俺は物語が変わるのを防ぐために、皆と関わって来なかった。でもそれは意味が無い。だって、この遊戯王GXという世界に俺と言う存在が居るんだ。元々居ないキャラクターが主人公と関わりを持ったり制裁デュエルを受けたりした時点で物語は変わっていたんだ。それなのに俺は、そのことに気付かず…いや、気付かない振りをしていた)」
研遊は遠くを見つめながら、静かにフッと自虐的に笑った。
「(俺も、もう迷わない。俺はもっと皆と関わっていく。そして、本当の絆や信頼をこれから作っていくんだ。だから、その覚悟を俺は今日誓う)」
研遊は拳を握り力強く頷いた。この覚悟は研遊にとって、どれほど勇気がいることだっただろう。元々、遊戯王GXの世界や話が好きな研遊は、好きだからこそ物語を壊さないようにと思いながら学園での生活を送っていた。しかし、それは手遅れだったのだ。研遊というイレギュラーな存在が、この物語に登場している事で、もうすでに研遊が知っている遊戯王GXの世界とは違っているのだ。勿論、大まかな話の流れはあまり変わってはいないのだろう。だが、明らかに本来の話とは違う道筋を辿っている。それは研遊という存在が居る事で起きた事だ。まあ、本来の話と違う道筋を辿るのは何も研遊だけの所為ではないのだが…。
「(今後、皆と関わって物語を大きく変えることもあるんだろうな…。いや、きっと大丈夫だ。俺だけじゃ無理なことも『ジェムナイト』の皆や十代達と一緒なら乗り越えて行ける。そのためにしっかりと信頼関係を築かないとな)」
そう心の中で呟いた研遊の表情はどこかスッキリとしたものだった。確かに、研遊にとってその決意は勇気や覚悟がいるものだったことは間違いない。しかし、それはある意味で研遊には枷の様なものでもあった。物語を変えてはならいと考えていた研遊は、自然と自身の行動を押し殺していた部分もある。だが、その枷を取り払った研遊は物語に縛られず、自身の好きなように行動しても良いと言う事。言い換えれば、研遊の第二の人生がここから始まると言っても過言ではないのかもしれない。
「ま、俺の事は良いよ。取り合えず、三沢のデッキを返さないとな」
研遊は万丈目の方を向き、ニヤリと悪戯っぽく笑った。万丈目はバツが悪そうに表情をしかめた。しかし、すぐに首を振り研遊と目線を合わせながら三沢のデッキを取り出した。
「そうだな。俺は…やってはいけないことをした。三沢に謝らなければいけない」
万女目は取り出したデッキを見つめ、三沢や三沢のデッキに謝罪するように呟いた。
「きっと三沢なら許してくれるさ」
「だといいがな」
研遊の言葉に、万丈目は自虐的にフッと笑った。そして、万丈目が三沢のデッキを仕舞おうとした時だった。
「うわっ!」
「なっ!!」
二人に突風の様な潮風が吹き荒れた。その拍子に万丈目の手にあった三沢のデッキが吹き飛ばされ、海へと投げ捨てられた。
「そんな…」
「まさか…こんなことが…」
波に揺られているカードを見て二人は言葉を失っていた。研遊は万丈目の方へ視線を向けると、だらりと両手を下げ呆然と海を、いやカードを見ていた。
「万丈目…」
「っ!」
研遊が万丈目の名前を呼ぶと、当の本人はハッとして研遊の方を見た。泣きそうな表所を研遊の方へ向けたかと思うと、たまらずといった様子でこの場から走り去っていった。
「万丈目!」
研遊は万丈目の方へ右手を伸ばし名前を叫んだが、小さくなっていく万丈目の背中を只々見つめる事しかできなかった。万丈目の姿がほとんど見えなくなった頃、研遊は手を下ろし空を仰いだ。
「カードが海に捨てられて、万丈目が走り去る…か。確かに原作通りだけどさ…」
視線を落とし、波に揺れるカードを見ながら研遊は拳を握りギリっと歯を食いしばった。
「こんな形にしたかった訳じゃ無いんだけどな」
研遊がポツリと呟いた。その呟きに返ってくる言葉はあるはずも無く、波の音だけがその場に響いていたのだった。
そして、暫しの時が過ぎ研遊はあるデュエルフィールドへ向かった。そのデュエルフィールドとは勿論、万丈目と三沢がデュエルを行なうフィールドだった。そのフィールドには原作同様、十代や万丈目たちが既に揃っており、十代が万丈目の存在に驚いているところだった。
「そうか!三沢のデッキを海に捨てたのはお前だな、万丈目!」
「なんですと!」
「………」
十代の言葉にクロノスは驚きの声を挙げたが、万丈目の方は否定も肯定もせず、只々沈黙していた。その様子を見て、研遊はたまらず口を挟んだ。
「十代、待ってくれ!」
「あ、研遊!」
「っ!」
研遊の登場に、十代達は驚いて研遊の方へと視線を向けた。ただ、万丈目は驚いて直ぐにバツが悪い表情を浮かべた。
「一体どうしたんだよ?」
「海に落ちていたカードの事だけど、あれは…」
「俺が捨てた!!」
研遊は今朝の事を説明しようと口を開いたが、その言葉を遮り万丈目がピシャリと言い放った。万丈目の言葉にその場の全員が目を見開き、研遊も何事かと開いた口が塞がらずにいた。
「俺が…三沢のデッキを盗み、海に捨てたんだ!」
「「「「「なっ!!!」」」」」
万丈目が絞り出すような声で全員に向かって叫んだ。その叫びを聞いて、その場にいる全員が驚き目を見開いていた。すべてを知っている研遊でさえ、万丈目が叫んだことに目を見開き驚きを隠せずにいた。暫しの沈黙の後、亮と明日香がフィールドに現れたと同時に万丈目が三沢の方を向き静かに口を開いた。
「三沢。俺は昨日お前の部屋へ行った。そして、廊下に出ていた机からデッキを盗んだ。そして、海に捨てた」
「………」
万丈目の言葉を三沢は黙って耳を傾けた。研遊が訂正しようと口を開きかけたが、万丈目が研遊をキッと睨み言葉を発せないようにしたため、研遊は口をつぐんだ。そして、万丈目の言葉を聞き終えた後、三沢は万丈目に向かって話し始めた。
「万丈目、カードを大切に出来ない奴はデュエリスト失格だぞ」
「………」
三沢の言葉に万丈目は沈黙で返した。その様子を気にすることなく三沢は言葉を続けた。
「だが、デッキを捨てたというのなら、何故わざわざこの場で正直に話したんだ?そのことを否定すれば良かったじゃないか」
「それは…」
三沢の疑問に万丈目は言い淀んでいた。三沢の疑問は当然だった。三沢の知っている万丈目とは、プライドが高く自信が格下と思った相手には見下した発言を浴びせていた。少なくとも、その発言を三沢自体が浴びせられたわけではないが、その場面は何度も見てきていた。だからこそ、正直に謝罪をしてきた万丈目を不思議に思っていた。
「答えられないと言うなら…。万丈目!デュエルだ!俺が勝ったら話してもらうぞ!」
「「「「何っ!?」」」」
「はぁっ!?」
三沢は万丈目を指差しながら言い放った。その言葉にその場に居た全員が驚き、特に驚いていたのは研遊と万丈目だった。
「三沢!そんなこと言ったってお前のデッキは!」
「心配かけて悪かったな十代。捨てられたデッキは調整用の寄せ集めのデッキ。俺の本当のデッキはここにある!」
心配そうな十代の言葉を遮り、三沢は言い放った後に制服を広げホルダーに付けられた六つのデッキが姿を現した。そして、三沢が六つのデッキについて高らかに宣言していた時、研遊はというと…
「(三沢の六つのデッキ紹介…。予想外の展開になってるから生で見ることが出来るとは思わなかったな。そして、三沢と万丈目のデュエルが始まりそうになってる。ある意味、原作通りだけど…)」
“原作で行われたデッキ紹介を見ることができて嬉しい”と言う感情と“自分が捨てたと言い放った万丈目が心配”という感情が入り混じり、複雑そうな表情を見せていた。ただ、この場において研遊が何かを言い出せる雰囲気であるわけが無く、万丈目と三沢を交互に見て成り行きを見守る事しかできなかった。そして、驚いていた万丈目が深く深呼吸をした後、ゆっくりと口を開いた。
「分かった。三沢、デュエルだ。貴様が勝ったらどんな事でも答えてやる。俺が勝ったら…俺はオシリスレッドに降格する!」
「なっ!?」
万丈目の提案に、この場にいる全員がまた驚きの声を上げた。それもそのはず。皆が知っているプライドの高い万丈目が自分から言い放ったのだ。“自分から降格する”と。
「待て、万丈目!お前、自分が何を言ってるのか分かって」
「黙れ!須磨研遊!」
万丈目は、口を開いた研遊の言葉を「お前は何も言わなくていい」と言わんばかりに言葉を遮り沈黙させた。当の本人も言葉を遮られた為、何も言えず表情を険しくする事しかできなかった。
「万丈目。いいんだな、その条件で」
「ああ、俺もデュエリストの端くれ。二言はない。だが、俺も負けるつもりはない!お前のデッキなど、この怒りの炎で焼き尽くしてくれる!」
「ふっ、決まった!お前を倒すデッキはこいつだ!」
万丈目の力強い宣言を聞いて、三沢はニヤリと笑い六つのデッキから一つのデッキを選び、デュエルディスクにセットした。
「「デュエル!!」」
そして…万丈目と三沢。二人の昇格と降格を決めるデュエルが始まった。その場にいる全員が万丈目と三沢のデュエルを見逃すまいとフィールドに視線を向けていたが、ただ一人デュエルを観戦しながらも考え事をしている人物がいた。勿論、研遊である。
「(ついに始まったか、万丈目と三沢のデュエル。ただ、気になる事がいくつかあるんだよな。万丈目の降格宣言。これは原作にない動きだ。多分だけど俺とデュエルしたことで心境の変化があったってことなのかな。これがいい方向に向いてくれればいいんだけど。あと、さっき万丈目は“怒りの炎”って言ったよな?確か原作だったら“恨みの炎”だったはず。『ウォーター・ドラゴン』の話は何回も見まくったから間違いない。一体、万丈目は何に対して怒ってるんだ?)」
そう。研遊は万丈目の発言について考えていた。ちょっとした言葉の違いだが、研遊はそこに引っ掛かり、何度も意味を考えていたが思い当たる節が無く結論を出せずにいた。結局、研遊は結論が出ないまま万丈目と三沢のデュエルを見守っていた。
そして、当の万丈目は言うと
「(ちっ。全く、情けない話だ。自分の行いが、返って来てるな。因果応報…というやつか)」
三沢とデュエルをしながら、別の事を考え小さく舌打ちをした。万丈目の視線の先には三沢と三沢が召喚したモンスター達。そして、視界の端には研遊が映っていた。
「(須磨のやつ、余計な事を…。これは俺なりのけじめだ。実際、俺は三沢のカードを捨てようとしていた。そこに須磨が現れて捨て損ないはしたものの、結果としてカードは海へと飛んで行った。どっちにしろ、俺の所為に変わりはない。それなのに、須磨は俺を立ち上がらせようとしたり状況を説明しようとしたり。全く、困ったファンだ)」
万丈目はデュエルをしている為、表に出ている表情は真剣そのもの。だが、心では打って変わって自虐的に笑っていた。
「(だからこそ、俺は自分が許せない。俺はあの岬からも現状からも逃げ出す事しかできなかった。そんな俺自身が情けなくて怒りが湧いてくる)」
そう。万丈目が怒っていたのは自分自身。原作通りならば万丈目はお門違いな恨みを三沢へと向けていた。しかし、原作とは違い、研遊とデュエルをして自身を見つめ直すことができた万丈目だからこそ、三沢ではなく自身への怒りが湧いたのだった。
「(見ていろよ、須磨研遊!俺のデュエルを!そして俺の行く末をな!)」
万丈目はチラリと研遊を見た後、対峙してる三沢やモンスター達へと視線を向けデュエルに集中した。
そして、ターンが進み万丈目のフィールドには身体から炎を噴き出している『炎獄魔人ヘル・バーナー』と二枚の伏せカード。三沢のフィールドには『オキシゲドン』と『ハイドロゲドン』が二体の存在していた。現在のターンは三沢である。
「行くぞ、万丈目!俺は手札から『ボンディング―H2O』を発動!『オキシゲドン』と『ハイドロゲドン』二体を生贄に捧げる!来い!『ウォーター・ドラゴン』!!」
三沢のフィールドに新たに現れたのは竜の姿をした水の化身。そして、その化身が召喚されたと同時に、大量の水が津波となってフィールドに流れ込んだ。
「『ウォーター・ドラゴン』の特殊効果!このカードが存在する限り、フィールドの炎属性及び炎族モンスターの攻撃力は0になる!」
「なんだと!」
三沢の説明を聞いて、万丈目は驚き目を見開いた。万丈目が炎の魔人に視線を送ると大量の水を浴びて力を失っているかのように、身体から出ていた炎はなりを潜めていた。
「これで止めだ!『ウォーター・ドラゴン』の攻撃!アクア・パニッシャー!!」
主人の宣言を受けて水の竜が口から螺旋状の水を魔人に向かって放った。この攻撃で三沢が勝利したと観戦していた全員が思っていた。勿論、原作を知っている研遊でさえも。しかし、その攻撃を魔人が受ける直前に万丈目が口を開いた。
「リバースカードオープン!『砂漠の光』発動!!」
「なっ!?」
「はあ!?」
万丈目が罠を発動したことに三沢だけでなく、観戦していたギャラリーたちも驚きの声を挙げた。だが、一番驚いているのは間違いなく研遊だろう。理由は言うまでも無く、
「(何だこの展開は!三沢の攻撃を受けて万丈目が負けるはずだったのに!)」
そう。万丈目が原作と違う動きをしたからに他ならない。しかし、周りの事など気にせず万丈目はデュエルを続ける。
「『砂漠の光』の効果で、俺のフィールドのモンスターは守備表示に変更される!」
「だが、攻撃が止まるわけじゃない!そのモンスターは破壊させてもらう!」
守りに徹した魔人に構うことなく、水の竜は攻撃を続けた。その攻撃に耐えられるはずも無く魔人は爆散した。
「ダメージは通らなかったか。しかし、次のターンが来れば」
「三沢!悪いが次のターンは来ない!もう一枚のリバースカードオープン!『ヘル・ブラスト』!」
「そのカードは!」
表になったカードを見て、万丈目以外の全員が驚きの表情を浮かべた。
「このカードは自分のモンスターが破壊され墓地へ送られた時に発動できる!フィールドの一番攻撃力が低いモンスターを破壊し、破壊したモンスターの攻撃力の半分の数値分、お互いにダメージを受ける!」
「なっ!それはつまり!」
万丈目が発動した二枚目の罠の効果を聞いて、三沢は瞬時に理解した。勿論、研遊や十代達もすぐに状況を把握したが、
「えっ、なんなの!どういうこと!」
残念ながら、翔だけが状況が分からずアタフタしていた。その様子を見て研遊がゆっくりと口を開いた。
「今、フィールドには『ウォーター・ドラゴン』のみ。破壊されるのは勿論『ウォーター・ドラゴン』。そして、『ウォーター・ドラゴン』の攻撃力は2800。つまり、お互いに1400のダメージを受ける事になる。翔、二人のライフは今いくつだ?」
「えーっと、三沢くんのライフが600で万丈目くんが1000………えっ!それって!」
状況が理解できた翔は驚きの声を挙げて研遊へ視線を向けた。研遊は頷いて翔に応え、デュエルの行く末を見守るべくフィールドへと視線を戻した。
「とんでもない手を使うな、万丈目!」
「三沢!今回は引き分けだが、次やるときは俺様が勝つ!」
「ふっ!俺も負ける気はないぞ!」
三沢の強気の宣言に万丈目はニヤリと笑った。その表情はどこかデュエルを楽しんでいる子供のようにも見えた。笑った表情の万丈目を研遊たちが確認したと同時に水の竜が爆散し、その衝撃が二人のデュエリストに襲い掛かった。
「ぐああああ!!!」
「ぐうううう!!!」
三沢 LP600→0
万丈目 LP1000→0
ピーーーーー!!!!!!
二人の腕からデュエルの終わりを告げる音が鳴り響いた。音が止んだ後も誰も言葉を発することが出来ず、あの十代でさえ、何も言わず只々成り行きを見守っていた。しばらくの間、静寂がこの空間を支配していたのだった。
そして、時間が過ぎ、三沢と万丈目がデュエルをした日の翌日、万丈目は簡単な荷物だけを持ち、デュエルアカデミアを去ろうとしていた。門の前に立ち、学園の方へ一瞥をくれると
「さらば、デュエルアカデミア」
ポツリと呟いたあと、港の方へと歩き出した。
「よっ、万丈目」
道の途中の林の中から研遊が顔を出し軽く手を振って万丈目に言葉を掛けた。研遊の姿を確認した万丈目は、
「またか、須磨研遊。何故、貴様は俺の行く先に現れるんだ」
呆れたように「はあ」と溜息をついた。その様子を見て、研遊は笑いながら「まあまあ」と手を軽く振り万丈目の方を向いた。
「なあ、やっぱり出て行くのか?」
「………」
研遊は心配そうに万丈目に問いかけ、万丈目は沈黙で返した。昨日のデュエルの後、万丈目はクロノスや三沢に一礼だけしてフィールドを去っていった。三沢だけでなく、研遊たちも万丈目に声を掛けようとしたが、何と声を掛けてよいのかが分からず、只々その背中を見送る事しかできなかった。そして、万丈目はその日、自室から出てくることは無かった。
「多分、三沢は許してくれると思うぞ?」
「…あのデュエル。負けたわけでは無いが、勝つことも出来なかった。これでは、オシリスレッドに降格することも出来ん。俺はここを去る」
悔しそうな表情で研遊に説明する万丈目だった。三沢も「引き分けだったから、万丈目に尋ねる事は出来ない」と万丈目に尋ねようとはしなかった。
「そっか、意志は固いんだな」
「ああ」
「………余計なお世話だと思うけどさ、また戻ってきなよ」
「なに?」
研遊の提案に万丈目は眉をひそめた。その万丈目に構うことなく研遊は言葉を続ける。
「だってさ、万丈目って十代にも俺にも負けたままだし、三沢にも勝ててないぞ?なのにこの学園を去るのは、ちょっと勿体ないんじゃない?」
「貴様、何を言って…」
「何より、ファンは自分の推しの様子を身近で見ときたいんだよ」
研遊の最後の言葉に万丈目は目を見開いた。そして、
「く、くくく。アッハッハッハ!!!」
堪え切れないと言わんばかりに大きな声で笑い出した。笑い終ると「ふう」と一息ついて、研遊の方を向いた。
「全く。我儘なやつだな。貴様がそんな奴だとは思わなかったぞ」
「まあ、ちょっとくらい我儘に生きてみようかなーって」
二人は顔を見合わせてニヤリと笑った。そして、研遊の方から口を開いた。
「そうだ。どうせならさ、ノース校に行ってみたら?」
「ノース校だと?」
万丈目の質問に研遊は頷いて答えた。
「そうそう。ノース校は、この学園と交流試合をやったりするし。いい武者修行になるんじゃない?」
「………」
研遊の説明を聞いて、万丈目は「ふむ」と考える仕草を見せた。暫しの沈黙の後、万丈目は顔を上げ口を開いた。
「いいだろう。貴様の案に乗ってやる」
「おっ、いいの?」
「曲がりなりにも、ノース校もデュエルアカデミア。腕を磨くに丁度いい」
目的の場所が決まった万丈目は、港に向かって歩き始めた。その背中を眺めていた研遊だが、万丈目がピタリと歩きを止めた。研遊は不思議に思っていると、万丈目が研遊の方へ向き直り口を開いた。
「須磨研遊!俺は、もっと強くなってここに帰ってくる!その時は、お前だけじゃない!十代も!三沢も!カイザーも!全員俺が倒してやる!俺を武者修行へ出した事を後悔するがいい!」
万丈目は研遊を指差し、力強く宣言した。研遊は万丈目の宣言を聞いてポカンとした表情を浮かべていたが、直ぐにニッと笑みを浮かべた。
「強くなっていく様を見せてくれるなんて、ファンサービスが良いじゃないか」
「フン!精々、首を洗って待っていろ!」
そして、万丈目は再び港の方へと歩いて行った。研遊はその背中を見つめながら大きく手を振った。万丈目の背中が見えなくなる頃、研遊は手を下ろし「ふう」と小さなため息をついた。
「まさか、万丈目と三沢が引き分けるなんてな。まあ、こっちとしては良いデュエルを見せてもらったから良いんだけどさ。万丈目もノース校に行くみたいだし、また強くなって帰ってくるでしょ」
研遊はグッと身体を伸ばした後、デュエルアカデミアの方を向いた。
「さてと、俺も頑張りますか。今日は十代とサルがデュエルする話だったよな。楽しみ楽しみ」
ひとり呟きながら、研遊は学園内へと歩みを進めていった。
研遊は原作で万丈目がノース校に流れ着く事を知っている。だからこそ、デュエルアカデミアを去る万丈目の武者修行先にノース校を指定した。結果として、万丈目はノース校との交流試合の時に帰ってくる。しかし、そのノース校で新たな出会いがある事など、今の研遊には知る由もなかった。
いかがでしたでしょうか。
正直、上手くまとめることができず
この長さになってしまいました。
なので、何処かくどい点や誤字などが
あるかも知れませんが
ご了承ください。
そして、お気に入りが200になりました。
沢山の方に読んで頂いて
とっても嬉しいです。
更新頻度も遅いですが
皆さんが少しでも面白いと
思って頂けたら幸いです。