九「戻るの?」白「戻らん」   作:けし

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九「戻るの?」白「戻らん」

 

「お前、あんましテキトー吹き込むなよ九十九」

 

 本当に久々だ。夜蛾さんの頼み──かなり切実なやつ──を受けて、仕事の有休取ってまでこなしたやつの報告がてら、母校を適当に歩き回ってただけなのに。

 

「なんで、ここにいるんだ?」

「そんなに驚くか? ……いや、そりゃあ驚きもするか」

 

 呪術高専の自販機コーナーは相変わらずのラインナップで、ここに補充しにくる業者が可哀想なくらい辺鄙な場所にあって。やっぱり校舎からも遠い。陰鬱とした雰囲気に嫌気がさすし、休める場所じゃない。

 でも、そんな場所に2人の人間がいた。

 

「真白。君は身を引いたはずだ。あの惨劇のあとに……」

「そんな動揺するぅ? なんかいたたまれなくなってきたんだけど」

 

 今でもまだ特級術師として呪いと相対し続ける九十九由基の、その珍しい動揺っぷりは見ていて面白い。今や初手の挨拶が「どんな女がタイプかな」の女だ。変人もいいところなのに、普通に動揺してるあたりが特に。

 そしてそんな光景に、椅子に深く腰掛ける学生らしき青年が当惑気味に声を上げた。

 

「あの、貴方は一体……」

「ん、俺は「彼は如月真白。元呪術師だよ」せめて自分で言わせてくれ……」

 

 ふふん、とドヤ顔を決める九十九にローキックを入れた後、改めて青年と向き合って自己紹介をした。

 

「はぁ。元呪術師が、高専に何の用事だったんですか?」

「夜蛾さんからの頼まれごと。あの人の頼みは断れなくてさ、有休取ってこなした成果を伝えにきたのよ」

 

 それにしても、と座り込む青年と目線を合わせる。

 

「君、名前は?」

「……夏油傑」

「なるほど。お前さんが夜蛾さんのいってた問題児の一端ってわけか。──最近、休めてないでしょ?」

 

 訝しげな表情を見せる夏油だが、その顔には誤魔化せない疲労と焦燥が表れている。一般人なら目で殺せそうなくらい雰囲気が恐ろしい。福耳持ってる奴のオーラじゃないってこんなん。

 

「私は──」

「迷ってる、か?」

「っ──」

 

 五条悟以外は一般人上がりの術師で、だからこそイカれにくい。というより、イカれようとして常識が邪魔した中途半端な思考。

 そりゃあ悩むだろう。──けれど()()()()()

 

「休め」

「は?」

「任務なら九十九が肩代わりしてくれるだろ。お前確か特級だろ? なら適任はコイツか五条悟しかいねーし」

「は、いやちょっとま」

「医者からの忠告だ。──悩むのは心に余裕がある時にしとけ。そして相談しろ。じゃないととんでもない道を歩きかねん。俺はお前じゃないから正解なんて与えられないが、悩み方のアドバイスくらいはできる」

 

 九十九が話したのは恐らく、呪いの消し方とかだろう。祓い方ではなく、消し方。呪いが産まれないようにするためには。それはかつて、呪いを祓うために捧げられるはずだった自ら(星蔣体)の運命を変えるために始めたもの。天元が不要になれば──と考えた果てだ。

 だがその考えは、所詮ただの呪術師以上にはなれない俺や夏油にはよく分からないものだ。呪いがいなくなれば、俺らに残るのは異常な人間であるという事実だけなのだから。

 

「五条悟にだって、すべては救えない。例えばさ、北海道で呪いを祓うのと同時に沖縄の呪霊は祓えないだろ。だから五条悟は助けられる奴だけを助けるし、助かる気のある奴だけを助ける」

 

 最強はただの肩書にすぎない。それは万能でも無敵でもなく、故にその言葉に意味なんてない。

 

「だって五条悟は生まれながらに術師以外の道がなかった。五条だもん。そこがお前との1番の違い。ちゃんと割り切れるってとこもな」

 

 夜蛾さんからの愚痴と文句と現状報告から、そのくらいは分かる。伊達に医者やってないわけで。

 多分、五条悟はそういうやつなんだ。助けられるのは手の届く範囲にいて、なおかつ助かる気のあるやつだけ。そう決めてる。

 

「本当に守るべきは術師か、非術師か。それとももっと大切なものか?」

 

 術師と非術師の境なんて、五条悟はあまり興味ない。多分俺も、九十九も。

 せいぜい同業者ってくらい。弱けりゃ一般人と何も変わらない。

 

「驕るなよ夏油傑。灯台下暗しってな。親友と家族と後輩と先生とエトセトラ。五条でも俺でも九十九でも、守れるのは手元にあるものだけだよ」

 

 ボサボサの頭をひと撫でして再び立ち上がると、すぐ後ろに九十九が顔を近づけていた。少し驚いて距離を取ると、眉根を寄せてこんなことを聞いてきた。

 

「少し血の匂いがする。戦ってきたのか?」

 

 勘が鋭い。隠すほどでもないが、バレないと思ったんだけど。

 

「少しな。どうも案件的にヤバいやつ押し付けられたところに出会してさ。さくっと祓ってやった」

 

 灰原……とかいったか。随分な無茶をしたがまあ()()()()()()ヨシだ。とはいえしばらく養生だろうな。目が覚めるまでにいくらかかるかも分からん。

 

「……出戻るのか?」

「さあね。普通の仕事もあるし、何とも」

 

 ぶつぶつと「大切なものを……」とか唱えてる夏油は、この空間の雰囲気もあってとても怖かった。

 

「というか、私に押し付けるのか彼の任務を!?」

「お前以外だれがいるよ。ついでだし五条悟も休ませろ。2人で仲良く旅行してこい」

「えー!? じゃあ真白もやれよ!」

「やだ」

「殺す気か!?」

 

 わーきゃー騒ぐ九十九に、少し懐かしく覚えてくる。随分歳を重ねてはきたけど、変わってないことにホッとする。

 

「あの、ありがとうございました。少し楽になれた気がします」

 

 さっきよりも雰囲気が丸くなった。やっぱり精神的に追い込むのは良くないってクソ爺どもさぁ。

 

「おう、いい飯食って風呂入ってよく寝ること。あと、一回五条悟とガチで喧嘩しろ。多分それで生きていける」

 

 夜蛾さんの胃に穴が空くだろうけどモーマンタイだ。

 ──さて、帰ろ。

 

「逃がさないよ☆」

「うわキッツ」

「お前を殺す」

 

 さて。俺はこの激重女から逃げ、生きて帰ることができるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




(術式的にも感情的にも)激重
↑九十九さんはそうであってほしい
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