九「戻るの?」白「戻らん」   作:けし

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こうしてアニメで見ると心にくるものがある。それが彼らのアオハルなんだ。だからこういう話が頭をよぎって、だから指が動いた……っ!



九「戻るの?」白「戻りたくない」

 

「ふぉぉぉ……!」

「見て見て夏油、五条が宇宙人見つけた小学1年生みたいになってる」

「ここまでとは……」

 

 高専のある田舎からそう遠くない町で開かれた縁日。規模こそ大きくないが、ただでさえ目立つタイプの人間だ。このくらいの規模の方が騒ぎにならなくて有難い。

 

「終わる頃にまたこの鳥居のところに集合で。高専まで送ってやるよ」

 

 そう言って、未だに未知を味わい続けている5歳児五条悟らを置き去りに、俺も縁日に飛び込んだ。たこ焼き焼きそばかき氷。ちょーっと高いけどここで食べるのがなんか美味しいんだよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行っちゃったけど、どうする硝子?」

「五条叩き起こして行くよ。ほら戻ってこーい」

 

 どすっと容赦ない肘打ちを悟にかます硝子に苦笑い。珍しくテンションが高いらしい。浴衣姿の硝子は普段の倍増しくらいで可愛く見えた。

 私も悟が用意した甚兵衛に身を包んでいる。私が黒、悟が紺青。私たちはこう見えて意外と着痩せするもので、甚兵衛を着るとガタイの良さが目立つものだ。

 

「なにこれすげぇ……」

「おう縁日は初めてか? 肩の力抜けよ」

「硝子、もうちょっと言葉を選びなよ……」

 

 ネタ要素満載じゃないか硝子……。あとタバコはやめようかせめて今だけでも。

 

「ちぇ、仕方ない。ほら目ぇ覚ませクズ」

「はっ! ……何だよコレ、めちゃ美味そうな匂いするし……」

「縁日の出店って妙に高いくせしてなんか思い出深い味するんだよなぁ」

 

 術師になってからは財布もかなり大きくなった。悟は御三家当主で、私や硝子とは桁違いの金を動かせるけど、ある一定のラインを超えると多寡はほとんど変わらなくなってくる。

 そういうわけで、前に縁日に来た時と違って金に糸目をつける必要がない。いわゆる大人買いが出来る。フフフ……。

 

「さ、行こうか悟、硝子」

「全部五条の奢りでいい?」

「いいんじゃないかな」

「おい待て、硝子はともかく傑にまで奢る気はねぇぞ」

「……五条家の懐って浅いんだなぁ(煽り)」

 

 そういえばなぜかあっさりキレてあっさり財布になった。当然だがカードは使えないので、実は悟にはあらかじめデカい金額を細かくおろしてもらっていた。当然、こうすることを想定して、である。

 

「夏油、何が得意だった?」

「型抜きとかかな。硝子は?」

「金魚掬い。型抜きもまあまあ。射的だけは下手くそだった」

「的の裏にたまーに蠅頭隠れてるんだよねあれ」

 

 術師として呪いを知る前の、ただの不気味なものを見ていた時代を思い出して、硝子と2人で苦笑い。一方悟はというと。

 

「カタヌキ? キンギョスクイ? シャテキ?」

 

 首を傾げていた。……まさかここまでとは。御三家は歴史ある一族と聞いてはいたから、てっきり地域伝統とかに関わりがあって、その縁でこういう祭りに顔を出すことがあるのかと思ったのに。今の悟はまるで、田舎から東京に出てきたおのぼりさんのそれだ。あと精神年齢が何歳か下がってる。

 

「硝子、どこから行く?」

「とりあえず何か食べたいし、まずは焼きそばとかから」

「ん、おーけー」

 

 私と悟で硝子を挟んで、3人で巡る。男2女1ならこんなものだろう。相変わらず悟はきょろきょろしている。硝子がちゃっかり悟の財布をくすねてるのには何も言わず、私たちは適当な屋台に足を向けた。

 

「おっちゃーん、焼きそば3つ〜」

「あいよ!」

 

 硝子が手慣れた感じで注文し、私が出来たての焼きそば3つが入った袋を受け取る。至って普通の焼きそばのはずなのに、雰囲気に当てられていつもの倍増しで良い匂いに感じる。

 

「なんかすげ〜美味そうなんだけど。食っていい?」

「ああ、ほら」

「さんきゅ」

「夏油、私のぶん」

 

 はいはいと2人に渡せば、揃ってもぐもぐと焼きそばを味わっていく。私もそれにならって箸を進めていく。

 こういう祭りは1周目で屋台の場所を把握し、2周目で迷わず行きたいところに行くってのが鉄則だと思うけど、さっきから悟の目が忙しなく動いているのが分かって面白い。

 

「モグ..ん。傑、あの白いふわふわしてそうなやつ何?」

「あれはわたがしだよ。砂糖で出来てる」

「甘い?」

「そりゃもう」

 

 ちょうど機械が動き始めたのを見て、悟が足を止める。ザラメが機械の真ん中の穴に入るのを見て目が輝いていた。

 

「美味そう」

「買えばいいじゃないか」

「もうあんな甘いのは食べられねーな」

 

 タバコと酒ばっかり。酒より甘いものは食べられないって意味で辛党な硝子。そうはいっても、飴くらいならたまーに舐めてるだろうに。

 

「口直しだよ。夏油、お前も舐めるか? あの玉絶対ゲロまずだろ」

「まあね。ここで口にするのも憚られるくらいには酷いけど。あと舐めるのは遠慮しとく」

 

 いつのまにかわたがしを買って食べてる悟を見て、次はたこ焼きかなと思いを馳せた。

 

ふふる(すぐる)ひょーほ(しょうこ)〜。ほええあうあ(これめちゃうま)ウマウマ」

「「リスじゃんwww」」

 

 だっはっはと硝子と2人して笑った。いつぶりだろうか、こんなに笑ったのは。眩しい、あるいは暖かい。そんな光を見たせいで、笑い涙の中に少しだけ、感謝が混じったような気がした。

 

 

 

 

 

 ────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 灰原くんが焼きそばを頬張る横で、七海くんはホットドッグ片手にラムネを煽る。どうやら灰原くんはよく食べる子で七海くんはパン系の食べ物が好みと見た。

 家入は金魚掬いとヨーヨー掬い、夏油はお面を頭にかけてくじを引いていた。呪霊に当たりを探させるのはやめろとは思った。五条は灰原くんに輪をかけた食いっぷりを見せていた。リスの如し。

 

「ま、学生らしいっちゃらしいな」

「お陰で私が瀕死だけどね」

 

 全国飛び回って任務を処理した九十九が、賽銭箱前の階段に腰を下ろして隣にやってきた。手にはラムネ2本とたこ焼き、目にクマと不機嫌さを残しているが、まあまあ満喫してるようだった。

 

「これは貸しだよな流石に」

「……仕方ない」

「よっしゃ」

 

 小さくガッツポーズを取る九十九にラムネを1本貰って喉を通す。変わらない味と冷たさ、玉が中で動いて当たる音。感傷するには充分だった。

 

「五条、マージで食い物しか目に入ってないぞ」

「夏油君は呪霊で反則かましてるし」

「家入……、呪力でポイを強化するなよ……。なにその無駄に洗練された無駄な反則技」

「七海君だっけ? 彼、今日3つ目のホットドッグだよ。気に入ったみたいだね」

「灰原くんも食い気しかねーな」

 

 思い思いの楽しみ方がある。そこに浮かぶ笑顔も、思い出も。

 俺らにはできなかった青い春というやつだ。若人の時間を爺どもに持っていかれるのは、退いた今でも腹立たしい。

 

「お、七海くんが型抜きやってるぞ」

「ほほーう、意外と細かい作業苦手なのかな?」

「灰原くんの方が上手なのは面白いわ」

 

 あの2人は一般上がりだから、こういう祭りには行ったことあるのだろうが、型抜きはあまり見ない屋台な気がする。初めてだとしたらまあまあか。あ、割れちゃってる。

 

「五条君リスになってんじゃん」

「わたがし頬張ってああなるのはなんで?」

 

 口に入れた瞬間とけるものでは? どれだけ詰め込んだと。

 一頻り2人で笑った後、ふと我に帰る。安心と不安と、羨望もあっただろうか。

 

「分別と受容ができない。非術師故の弱さ醜さ尊さとを。それが夏油君の悲鳴だったよ」

「アイツは中途半端に弱者の思考が出来る強者だろう。だから弱者由来の『選ぶ』考え方をしてしまう。術師として在る理由目的が、弱者の中の考え方(外付け)なんだよ」

 

 だからこそ欲張りになるべきとあの時に言ったつもりだ。中途半端な正義感ではなく、完璧な自己満足。術師としてやっていくならそれが必要だ。元々弱者に囲まれて醸成された考え方があるなら尚更。

 

「で、何かヤなことあったのか?」

「少しね。やっぱ上は消すべきじゃないかなって思うくらいには」

「いつものことじゃん」

「そうかもだけど」

 

 夏油の件、上への不信。何より夜蛾さんの頼み。そう言うのがあってか、高専に教員として少ない頻度ながら顔を出すことになりそうと九十九に言うと、なんとも呆れたというような顔をした。

 

「やっぱ真白、お前人が良すぎるよ」

 

 引退したはずのロートル術師なぞ、置物にも等しい役立たずなのにな。なんでこんなになったのか、いまいちだ。たまたま休暇の夜蛾さんにたまたま出会してたまたま飲んでしまったのが原因か。

 

「役満だよソレ。アホだなぁ」

 

 九十九に笑われるのも、そう言われれば何とも言い返せなかった。

 

「で、戻るの?」

「戻りたくない」

 

 九十九の問いに対して答えが弱くなってるのを自覚しつつ、俺は希望的観測も交えてそう吐き捨てるように言った。

 

 

 

 





この時点でメロンパンの計画がどうなるのか。
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