性転換要素はそこの楽しそうな原作者です。
「一応キズガミについて補足解説しておこう。キズガミは、一定の強さに達した退魔師や異能者なら誰だって持っているであろうこの世界のあらゆるバトルの根幹にあるものだ」
リビングから庭に、庭から塀に、塀から道に。
とにかく何も考えず乙葉から逃げる俺の隣をふわふわと浮かびながら、レアは聞いてもない解説を始めた。
「色々語りたいが、知識としては……精神の具現。効果は身体能力等の強化効果と、一個の異能を保有する固有武器とでも覚えておいてくれ。精神の具現故に、キズガミが破壊されればどんなに肉体的に優れた存在も戦闘不能になる」
そもそも原作を読んでるんだからそれくらいは誰でも知ってるんだよ。
問題はこのキズガミという異能が極めて強力な代物であり、所有者と非所有者ではそもそも勝負にならないほどの戦力差が発生するということ。
そうでなくても乙葉は素手で野犬くらいならギリギリ殺せるタイプの女子高生なんだよ。
この世界、悪霊のせいで治安悪いから幼い頃から両親に護身術を仕込まれたこの世界では普通によくいるタイプの女子高生だ。世紀末か?
足の速さだけならば、男女の身体能力差もあって俺の方に分がある。だが、そのアドバンテージですらキズガミの『身体能力強化』という特性が埋めてしまっている。
「鬼ごっこって嫌いなのよね。みんなが私から逃げて、それを見せられるなんて普通の精神なら傷つくじゃない。なんで昔、あんな遊びを楽しめたのか自分でも分からないもの」
いつの間に先回りしていたのか、先の曲がり角から鎌を携えた乙葉が現れる。
しかも俺は全力疾走のせいで肩で息をしているのに、乙葉は呼吸をしているのか怪しいほど静かに俺を見据えている。
「射程の長い武器によくある特性だ。遠くの者を狙う、という精神の在り方からか、そういう武器がキズガミの人間は持久力に優れる。加えてあのキズガミ……いや、ネタバレになるからやめとこう」
「ネタバレもクソもねぇだろ! あれ原作にないだろ!?」
「もしも乙葉がキズガミに目覚めたらで考えてたに決まってるだろ! ifの妄想は創作者みんな大好きなんだぞ!?」
「吟一。私、無視されるのが一番嫌いなのアンタは知ってるよね?」
レアが一々言わんくてもいいことを囁いて俺の集中を乱してくるせいで、乙葉は不機嫌そうに大鎌を軽々と振り回し、バットのように肩にかける。
やばい、あれ間違いなく怒っている。でもなんで? 何故乙葉はそこまで怒っていて、何故俺の命を狙ってくる?
レアは『狂ってる』と表現した。
だが、もしも乙葉がおかしくなって殺人嗜好に目覚めたとしても、なんでわざわざ家の遠い俺を狙ったのか。
誰かを殺したくなったなら、俺以外にも誰かいるはずだ。いや、もしかしたら既に誰かを殺してきたのかもしれないがさすがにこんな真昼間から殺人なんてしたらすぐに騒ぎになるだろう。この情報化社会、一秒後の過去は直ぐにネットに存在する。
一体乙葉の『何』がおかしくなって、『何故』俺を殺そうとしてくるのか。
もしも俺が勝てるとしたらそこだけだ。
「なんか、思ったより冷静な顔してるけど大丈夫? もう諦めた感じ?」
「お前ややこしくなるからちょっと黙ってて。おい乙葉、いきなり鎌で斬りかかってくるなんて危ないだろ!」
「鎌……あぁ、まぁ見た目は鎌よね。うん、でも鎌じゃないから安心しなさい。痛みや苦しみがあるものでもないから」
そう言って乙葉が鎌を振り下ろす。
何も無い空間を切り裂く、ただそれだけの動作。
「だから、お願い。クモリみたいに、吟一はどこか遠くに行かないでね?」
いつの間にか、俺のすぐ目の前に乙葉の顔があった。
瞬きの間、なんてものじゃない。突然作画が崩れたかのように、空間がねじ曲がって乙葉が俺の目の前に立っていた
そして、再び振りかぶられる鎌。
パキ、と刃に触れた何かが砕けるような音。直撃したら恐らく死ぬ。しかし突然のことに驚いて対処が遅れる。
ならば───ッ!
「原作者ガード!」
「は?」
「え?」
傍らに浮かんでいたレアを引っ掴み、浮いてるせいかスっと乙葉の前にその体を突き出せた。
そうなれば必然、乙葉の鎌は俺ではなくレアの体を引き裂くことになる。
「ッ、『七不思議』!」
レアのことを認識した乙葉は、素早く地面を蹴って後方に下がり、鎌の刃はレアにギリギリ触れずに目の前を通過する。
「あ、危なかった……」
「こっちのセリフなんだけど? え、今君私の事盾にしようとした?」
だって、七不思議ってこれくらいじゃ死なないだろうし。
そもそも元を辿れば全部クモリを殺したコイツのせいといえばせいなんだから、これくらいしても俺の心は全く痛まない。
「それに今のでわかったことがある」
「何? 君が意外と薄情者だってこと?」
「乙葉は俺を殺す気は無い」
「……ふぅん」
乙葉の口ぶりから、どこで知ったかは分からないがレアの『七不思議』としてのルールを知っている様子だった。
基本的にコイツは自分のルールを破った相手、或いは自分に危害を加えてきた相手にしか攻撃できない。そして、先程のように意図的に相手がレアを攻撃するように誘導した場合は……七不思議を
殺すつもりなら、そのまま切り裂けばいいはずなのにレアを避けた。
つまりあの鎌は直接殺す以外の何かの効果を持ち合わせ、その効果を俺に対して発揮することが乙葉の目的。
「泡白乙葉が私のことを知らなければそのまま攻撃していたかもしれないし、殺すつもりなら私ごと切り裂くか、私を切って君を私の攻撃対象にする可能性もあったはずだ」
「冷静になって考えたんだよ。やっぱりこれは
「ああそうだ。既にこの原作は狂ってしまっている。少々ドス黒い感情を抱えながらも、善良な少女として生きるそういうキャラクターであるはずの泡白乙葉が、キズガミの力を駆使し幼なじみを殺害しようとしている。何もかもおかしく、何もかも狂ってしまっている!」
だからおかしいって言ってんだよ。
原作とか云々以前に、幼なじみとしてだ。
「お前が描いた乙葉は、そういうキャラなのか?」
「どういう意図の質問かな?」
「虎落逸軌が描いた泡白乙葉っていう女の子は、狂ったからって誰かを殺すような行動に走る子なのかって、聞いてやってんだよ。読者からの質問だ。お便り返しコーナーのつもりで丁寧に答えてくれよ」
少なくとも、俺が今まで接してきた彼女はそんな人間じゃない。
「乗っ取り、悪霊による思考誘導、肉体操作。この作品全体の傾向としては十二分に有り得る可能性だね」
言葉がきついし素直じゃないし、誰からも好かれようとしているのか、誰かに嫌われようとしているのか分からない。
でも、誰かを傷つけようとする人間では無かった。
「あくまで彼女が泡白乙葉ならば、どれだけ狂ったとしても絶対に人を殺すなんて、そんな楽で手軽で、素直な選択肢取るわけないだろ」
つまり言いたいことはただ一つ。
どんなに狂ったって、乙葉が人を殺すわけねぇだろが!!!
ゴキブリですら捕まえて部屋の外に出すし、蚊ですら箸で捕まえて部屋の外に放り投げるような、性格の悪い人間気取りの、余計な苦労ばっか背負って損してばっかの甘ちゃんなんだぞこの女!
「でも私は状況によってはやると思うよ」
「黙れ原作者! 乙葉は絶対そういうことしない! 今のでわかっただろ!」
「しかしそうだね。今回に限って言えば……君の解釈は、私よりもよく泡白乙葉を見ていると言わざるを得ない」
乙葉はレアを警戒してか、それとも俺とレアの会話が図星だったのか。
目尻をピクつかせて不機嫌そうにこちらを睨みつけているが踏み込んでは来ない。
「レア、乙葉のキズガミについて話してくれるか?」
「悪いけれど、ネタバレは禁止だ。それに話す必要も無いだろう?」
「いや話せよ。さすがに幼なじみだからってなんでも知ってるわけじゃねぇんだよ」
キズガミとは精神の形を表す。
熱血系少年なら炎に関する力を持つ、という単純な仕組みであり、だからこそ本人が精神を見つめ直すことによって能力をカスタマイズできる異能でもある。
だがその本質。
本人の精神の在り方、能力の本質そのものは変えることが出来ない。
「泡白乙葉。16歳。身長166cm、体重
「嫌いなものにトマトとスポーツドリンクも追加しておけ。というか、え、きもっ。なんで女子高生のそんな詳細なプロフィールを」
「それ設定したの私だからだよ! しかもケチつけやがって、原作ではトマトが嫌いなんて設定ないんだけど……」
今一度、乙葉がどんな人間だったかを思いだす。
皆の前では猫を被っているが、気を許している相手には素のキツい態度で話しかけてくる。
どうでもいい人間からは好かれたい、近しい人間には本当の自分を見て欲しい。加えて、自分と近しい人間の評価が自分のせいで下がるのを恐れている。素直じゃなく優しいとも、過剰に臆病とも言える。
そして、『遠くに行かないで』という発言と鬼ごっこが嫌いという要素。
恐らくこれが能力の本質に関わってくる部分だ。
昔から寂しがり屋で、暴力は嫌い。けれど素直じゃなくてつい鋭い言葉を吐いてしまいそんな自分が嫌いで、でもそれが自分の本質だからと諦めている。逆にどうでもいいことに関しては猫を被るのは得意。
「見た目と本質は違うようで同じ。そして、距離だな」
距離は間違いなく関わっている。
一度見せた能力は、鎌を振ることで空いていた距離を一瞬にして詰める能力だった。そして、俺のポケットにある全く同じ見た目の二枚のハンカチ。
タチサレ。
立ち去れ? いや、鎌で斬ると言うアクションと、この作品全体のネーミングセンスから多分『断ち去れ』だ。それがあのキズガミの異能を示す言葉のはず。
「メタ読み、か」
「そうでもしねぇと勝ち目ねぇだろこれ!」
何もかもで劣っている俺に唯一ある知識。
それはこの作品が『どういう作品』かを知っていることだ。異能バトル、能力は精神を示す、作者のネーミングと能力の趣味。
そこに加えて、プロフィールや描写以上の、泡白乙葉がどういう人間かという幼なじみとしての知識。
「……わかった。あの鎌の能力が」
「で、勝てる?」
「んなわけねぇだろ。むしろ勝ち目無くなったわ」
予想でしかないが、メタ知識から乙葉のキズガミの能力はわかった。
だからといってそんな特別な力があり、身体能力でも技術でも俺を勝る相手に勝てるかと言われたら絶対無理なんだよなこれが。
「だから負けに行く。俺が負けた後のことは頼んだぞ」
「……君、本当に原作にいなかった? すっごい慣れてるというか……いや、うん。作者としては嬉しい限りだよ」
私には好きな男の子がいた。
私には見えない『何か』が見えていて、その『何か』は時々私達を傷つける。
「危ないから、近づかない方がいいよ」
守ってくれた訳でもない。引き止めてくれた訳でもない。
ただそれだけ言って、私がそこに近づくのを止めてくれた。彼の忠告を無視した友達の1人が結果怪我をして、みんなが彼のせいだと思うも口にせず、ただ気味悪がって距離を置くようになった。
でも私は、そんな些細な理由で恋をしてしまった。
上宿クモリ。
同じクラスの男子。お父さんと二人で暮らしているワケアリ。友達はおらず、いつも一人で帰っている。暗い顔をしているけれど実はギャグ漫画を読むのが大好きで、読んでる時は少しだけ口角が上がる。嫌いな食べ物はキャベツで、かと言って食べられないほどじゃないから給食ではいつも半分だけ残す。
素直に好きだと言えたらどれだけ良かっただろう。
でも私は臆病だった。好き、って言葉がどうしても口から出ない。出そうとすれば思ってもいない鋭くて、相手を傷つける言葉が飛び出してしまう。
だから毎日彼をこっそり見つめ続けて、みんなが知らないであろう彼のことを知ることでこの気持ちを満たしていた。
これでいいとは思わなかったけど、これがベター。最善手ではないけど悪手では無い。それで満足しろ、って自分に言い聞かせて。
『俺は吟一って言うんだ。お前は?』
『……クモリ。えっと、ごめん。友達とか、そういうのあんまり欲しいとか思わないから』
『んー、突き放すなら「俺に関わると良くないことが起きる……」とか言った方が主人公っぽくない?』
そんな私の小さな満足を斬り裂いたのは、隣の学区で一度もクモリに話しかけたことなんてない、同い年なだけの男の子。
アイツ誰?
何気安くクモリくんに話しかけてるの?
明らかにドン引きしてるし、初対面の人間に話す態度じゃなくない?
「───ちょっとあんた、クモリが困ってるでしょ。いきなり変な感じで話しかけるのやめなさいよ」
イライラして、モヤモヤして、ムカムカして。
私は思わず物陰から飛び出して彼らの会話に割り込んだ。
それが全ての始まり。
臆病な私に恋を教えてくれた人と、臆病な私でも一歩踏み出してしまうような勇気を与えてくれた人。
きっと本人達は何も思ってないんだろうけど、だからこそ私は彼らのことが好きになったんだろう。彼らと一緒にいれる自分を好きになれたんだろう。
なのに。
なんで。
クモリが死んで、私は。
『私の手で殺しておけば、クモリは永遠に私のモノになったのに』
なんでこんなことしか考えられないの?
口に出す言葉も、秘めた言葉も薄汚れていて尖っていて。
自分を嫌いになればなるほど頭に霞がかかったようにゆっくりと、思考が私のものじゃなくなっていくように呑み込まれていって。
私が好きな私でいたい。
好きなものを好きと言える自分になりたい。
だからもう、『私』を誰にも傷つけさせたくない。
間違っている、狂っている、飛躍している、順序が間違っている。
それでも私は、もう置いていかれたくなかったんだ。
彼らが居なくなってしまったら、私はもう私で居られない。そんな恐怖が、どうしようもなく傷つき歪んだ私のキズが、この鎌を呼び出した。
「私が守るから、私が管理するから、私が、一歩踏み出せばいいだけだから!」
「踏み外さない慎重さがお前の美徳だろ!」
こちらに走ってくる吟一に鎌の、慚愧ノ玻璃の能力の照準を定める。パキ、と薄氷を割るような音が響いて、それが準備完了の合図。
私を置いていってしまったクモリ。
私の世界からいなくなってしまったクモリ。いつも私の前を行って、届かないところに消えてしまったクモリ。
もうその手は届かないけれど、でもクモリの一番の親友の吟一は、私の大切な友人の吟一は絶対にそうさせない。
どこに居ようと私の手の届く場所で、永遠に閉じ込めてでも守ってみせる。
「みんな、みんなみんなみんな、断ち去れ! 慚愧ノ玻璃ッ!」
そう叫び、鎌を振り下ろそうとした瞬間だった。
いや、薄氷を割るような音がした瞬間だっただろうか。脳に直接タバコを押し付けられたような痛みと熱に支配された思考が、その一瞬の動きを見逃していた。
吟一は急停止して、身を翻し背後に浮かんでいた『七不思議』を思いっきり引っ張って、自分の前に押し出した。
「え、何すんの君!?」
瞬間、能力が発動する。
私と吟一の間にあった『距離』を鎌が切り裂き、その距離は二分の一に。
さらに二分の一、二分の一、二分の一、二分の一、二分の一。鎌を振り抜く最中に何度もその現象は行われ、私と吟一は『七不思議』を挟んで目の前の距離まで近付く。
またそいつを盾にするつもりだろう。
確かに私は吟一を殺すつもりは無い。正確には『七不思議』に殺させるつもりなんてない。
でも、一度見た技だ。
鎌を素早く持ち直し、斬るのではなく切っ先で吟一だけを貫くように横に振る。
『どんなものでも半分にする』。
その性質を持つこの慚愧ノ玻璃の刃を受ければ、一撃で勝負はつく。
きっと勘のいい吟一は既にこの能力に予測はついていると思う。
だからか、彼はそれよりも早く私を殴りつけようと拳を握りしめこちらに飛び込んでくるが、あくまで常人の速度。
キズガミによって強化された私の速度とは比べ物に……。
いや待て。
待って?
私と吟一の間には『七不思議』が驚愕の表情を浮かべて突っ立っている。
そいつに当たらないように鎌を横薙で吟一に当てることは出来る。出来るけど!
拳はそんなこと出来ない。
吟一の拳は私より先に、その前に突っ立ってる『七不思議』に命中する。そうなれば、あの七不思議───汚鳥レアの『消失』の概念が彼を襲う!
もはやあれこれ考えている余裕なんてない。
もう振ってしまった鎌を体の悲鳴を無視して短く持ち直し、筋繊維が千切れる音と痛みを無視して軌道を変えて、それから鎌の状態を他人が触れるように変更する。
「そういう奴だよな、お前」
「そういう奴だったものね、アンタ」
クモリといい、吟一といい。
私の周りにいる男達は、なんでこうずるいヤツばっかなんだろう。男を見る目を鍛え直した方がいいのかな?
吟一の拳が私の鎌を押し込む。
急な動作でバランスを崩していた私はそれを受け止めきれず、衝撃で一歩後ろに下がり、同時に私の鎌の刃が汚鳥レアに触れる。
──────七不思議の共通法則。
ルールを破らなければ七不思議はこちらに干渉してこない。ただし、そのルールは人間の尺度で測れるものでは無い。
その中でも汚鳥レアのは極めて単純だ。
彼女に会いに行かない限りは、彼女を害する行為を行わなければ決してこちらに関わってこない。それが汚鳥レアのルール。
しかし、関わってしまったならそのルールに則り、報復が発動する。
今回の裁決は、両成敗と言ったところだろうか。
敵意を持って汚鳥レアを殴ろうとした吟一、それを止めない選択肢だってあったのに、無理して止めようとした結果彼女に刃を触れさせてしまった私。
彼の拳と私の鎌。
その二つが全く同時に消滅する。
キズガミは精神の具現。
精神そのものではないにしろ、その破壊は精神を砕かれる程の衝撃を意味する。
一拍遅れて、電流が体を貫くような衝撃が走り、私は意識を失った。
「ぁ、っ、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「発想は悪くなかったね。君が泡白乙葉をよく知っていて、この作品の設定を知っていて、私が何者なのかを知っている。確かに、泡白乙葉はあの状況なら『君に無理やり汚鳥レアを攻撃させられた』ではなく、『君を守るため無理やり汚鳥レアを攻撃した』になる。彼女が庇ってなければ、恐らく全身が消し飛んでいただろうね」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! い、いっづ、ぅぁ───」
「加えて彼女はキズガミ使いとしては一流でも戦闘は二流。まぁ他者を傷つけるのも自分を傷つけるのも苦手だが攻撃性はあるという複雑な深層心理故に、殺傷能力のない武器と、殺傷性の高い能力が……ん? さすがに痛みに耐えきれずに気絶したか。お疲れ様、吟一くん」
右の手首から上が消し飛び、そこから止めどなく血を流す吟一の腕を、レアは軽く指で撫でる。
それだけで傷口は真っ白に染まり、その白が蓋をしたのか流血は止まる。
「一般人でありながら、キズガミの所有者と相打ちに持ち込む。まぁ運が良く、相性がよかっただけだろうが、それでも君は主人公足り得る力を見せてくれたよ」
吟一は一つ、勘違いをしていた。
「いやぁ、本当に困っていたんだよね。主人公が居ない物語なんてつまらない。群像劇も味があっていいが、そうするにはこの世界は混沌とし過ぎているし、私にとって予測が簡単で驚きがない」
虎落逸軌は、汚鳥レアを襲った『精神崩壊』という現象を踏み倒してなどいない。
彼はしっかりとその影響を受け、それどころか汚鳥レアというキャラクターが深層心理に抱えていたとある心象。
即ち、一人の人間への強い興味。執着。その影響も受けている。
汚鳥レアというキャラクターは、
「さぁ始めようか、吟一くん改め主人公くん。1度やって見たかったんだよね、自作の二次創作ってやつ!」
彼女は汚鳥レアでも、虎落逸軌でもない。様々な精神汚染の結果か、それとも本質的にそういう人間なのか。
「『キズガミの縁魔』、ifルート! 本来の主人公が死に、本編にはいなかったその友人から描く別の物語!」
吟一が友人として接した人物、自分が生きていると考えるこの世界。
その全てを創作物として消費することだけを考えた
「面白さは私が保証する。だから今は次の戦いに備えて、しっかり休んでおきな。私だけの
極大の邪悪、生粋のエンターテイナー、形を成した混沌。
汚鳥レアは純粋無垢な幼子のような笑みを浮かべながら愛する主人公の額にキスをした。
《慚愧ノ玻璃》
種別:キズガミ
攻撃性:D
生存性:B
操作性:A
持続性:A
希少性:B++
成長性:B
泡白乙葉の持つ鎌型のキズガミ。
鎌の刃で触れたモノを『半分にする』という特性を持つ。
この半分には分割と裁断の二種類が存在する。
分割は一つのモノをステータスを半分にして二つに分割すること。一つのリンゴを栄養価や耐久性を半分にして二つのリンゴにするようなもの。
裁断は一つのモノを強制的に半分にする。一つのリンゴの50%を虚空へと消し去るもの。生物にも有効で喰らえば肉体の50%が消滅する。もちろん人間なら即死である。
元々は目標と自分の『距離』を半分にする能力で、条件や形も対象を見つめる手持ち望遠鏡であったが、鎌という使いにくい武器にすること、切り裂くという形を取る事、切り裂く前に予備動作を存在させることなどの制限を加えて現在の形になっている。
本来キズガミの能力のカスタマイズは、自身の精神の形を見つめ直すものであり、相当の訓練と経験が必要であるが彼女はこの能力に目覚めて7日で現在の形に仕上げた。
戦闘という点でははっきりいって泡白乙葉は甘い部分が目立つが、キズガミの調整という点では間違いなく天才の部類である。
なお、原作には登場しない。
原作者曰く「自分の精神の在り方と向き合うのが上手く、能力もバランスよく纏まっている。しかし接近戦がしにくい武器である鎌と、接近戦に持ち込む能力は噛み合わせ悪くない?あと名前に遊びがない。私ならもっと遊びのある名前にする」