原作主人公が死んだ。ヒロイン達が爆発した   作:ちぇんそー娘

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孤独のヒロイン/魑魅魍魎

 

 

 

 

 

「というわけで、今日からは学校で引き続きヒロインを捜索し彼女達の情報収集を行いつつ、夜になったら対抗出来る悪霊の収集に行くよ。あ、醤油取って」

「吟一は片腕なくて取れないでしょ。自分で取りなさいよ」

「そういう泡白乙葉が取ってよ〜」

「コーンフレークのどこに醤油かけるの? あんたの目玉?」

 

 当然のようにレアと乙葉がうちで朝食を食ってるが、もちろん俺は許可を出してない。特にレア。

 加えて今食べてる朝ごはんも乙葉が作ってくれたものなんだが……。

 

「なぁ乙葉」

「どうしたの? もしかして、口に合わなかった?」

「いや、美味しんだけどさ……」

 

 味噌汁も美味しいし魚の照り焼きも美味しいし、お米すら同じ炊飯器使ってるのにいつもより美味しい気がする。片手がなくて行儀悪い食べ方しかできないのが申し訳なくなるくらいには美味しい。

 

「でもさ、なんでお前うちのキッチンの配置全部把握してんの?」

「…………何度か遊びに来てるし。私用のコップがあるくらい来てるのよ?」

「お客様としてだろ。仮に客のお前をキッチンに立たせた覚えないんだけど」

「そうだ、これお弁当。こっちも私の手作りよ」

「おい誤魔化すな。いつだ? いつ住居不法侵入(はいっ)た?」

「勘違いしないでよね! アンタだけじゃなくクモリの家の台所の食器や調味料の配置も覚えてるのよ! 別にアンタだけの為じゃないんだからね!」

「勘違いじゃねぇよ! 余罪増えてるじゃねぇか自首しろ!」

「よく君らその倫理観で私をどうこう言えるよねほんと」

 

 

 そんなこんなで学校に向かう支度をする訳だが、片腕がないのでかなり不便。着替えとかあれこれをレアに手伝って貰うという屈辱的な時間を過ごし、学校へ赴く。

 

 まずは学校に潜伏している『ヒロイン』を見つけ、状態を確認することが大事だ。

 あれから全く連絡が取れないが、緋鞠のように各ヒロインに変化が起きているのは間違いない。その変化を確認し、キズガミへの影響を予測。そうして改めて獲得した情報をレアに渡して最適な悪霊を捕獲。最後に悪霊をぶつけて弱ってるところをキズガミ破壊で正常化。

 

 一応この作戦自体に穴は見つけられず、無駄に完璧だと思う。

 初回から悪霊が捕獲前にヒロイン本人にやられるというイレギュラーが発生したりしたが、それを話したらアイツ爆笑してたけど。

 

 とにかくまずはヒロインの監視だ。

 俺たちの学校にもいるはずのヒロインを見つけなければならない。うちの全校生徒は1000人近くいるから、これは骨が折れそうだ。

 

「……ふーっ、ふーっ……ふーっ」

 

 とか思って歩いてたら、全身を包帯でぐるぐる巻きにして、松葉杖を付きながら一生懸命登校している身長140cmの白衣を着たしっぽのように長い三つ編みを揺らす、めちゃくちゃ目立つ容姿(キャラデザ)の女の子が現れた。

 

 …………いや、まぁよく考えたらそうだよね。

 緋鞠は転校生だったけれど、学校にいるヒロインなら既に2年生である俺は普通に見つけられるし、そもそもヒロインは明らかに容姿(キャラデザ)の段階で他の人と違い過ぎて一瞬で検討がつく。

 

 烏城などめ。

 ヒロインの一人らしいんだけど、俺は彼女が本格的に物語に関わる所を読む前に死んじゃったんだよな〜。

 

 それでも名前を覚えているのは極めて単純。

 

 俺、烏城と同じ委員会なんだよね。

 図書委員会。週一で放課後の図書室でぼーっとしとけばいいからとりあえず楽そうで選んだ結果、めちゃくちゃ目立つ容姿なのに「私地味で隠れてる感じです」ってオーラ出してて周りの子もそう扱ってたから原作キャラだろうなって思ってた子。

 

「えっと、烏城? お前その怪我どうしたの……?」

「貴方は……倉木先輩、ですね。おはようございます。ちょっと昨日公園で転んで」

 

 顔面まで包帯で覆い、松葉杖を付いてる腕も包帯まみれの怪我を公園でするって、どんなやんちゃをしたらそうなるんだよ。さすがに無理があるだろ。

 というか、図書室で本を読んでる地味キャラみたいな設定じゃないの烏城って。

 

「さすがにその怪我は休んでも誰も文句言わないと思うぞ……?」

「先週は腕があったのに今右腕なくなってる先輩には言われたくないです……。何があったんですかマジで」

 

 そういえばそうだね。

 俺もなんで学校来てんだろ。別に痛くないし、日常生活がめちゃくちゃ困るだけで苦しむことがあんまりなかったからいっかって思ってたけど、よく考えたら片腕無くなるの重傷だよね。

 

「それじゃ私、急いでますので」

 

 そう言って烏城は今にも倒れてしまいそうな足取りではあるが、なんとか松葉杖を付いて学校の方へと向かっていく。

 明らかにやばそうだけど本人がいいならいいのかな……? もしかして、あんな重傷でも学校に行こうとするのが彼女の愛憎輪界(ヒロインズ・タービン)の影響なのか? 

 

 色々思考をめぐらせてたら、ドサッと何かが地面に倒れ込む音がした。

 まぁ視線を音の方に向けると案の定、烏城が地面に倒れて動かなくなっている。

 

「烏城ー!?」

 

 急いで駆け寄って脈を確認するが、全く脈動がない! 

 死んだ? また原作キャラが死んだのか!? とりあえず救急車か、人を呼ぶべきか、業腹だがレアを呼ぶか考えていた俺に、声がかけられる。

 

「落ち着いてください先輩。ちょっと手元が狂っただけ、です」

「烏城……? え、脈が完全に……」

「脈が止まったくらいで人は死にませんですよ」

「死ぬよ!?」

 

 脈については俺が測るの下手なだけかもしれないけれど、この全身包帯まみれの子をこのまま学校に連れていくよりは、家に戻した方がいい気がする。

 

「学校、休んじゃダメ、約束、です」

「烏城。目が虚ろだけど大丈夫か烏城?」

「大丈夫です。怪我の影響で四肢に全く力が入らないだけです。というわけで学校に連れてってくださいです」

「お前が行くべきは病院!」

「大丈夫ですから、お願いしますです。さもなくば死にますよ。私が」

「尚更病院!」

「お願いします。私は学校に行きたいんです。学校は、休みたくないんです」

 

 キラキラと目を光らせてそう頼まれると、断るのが悪い気がするが学校に運ぶにしても、病院に運ぶにしても片腕がないのでどっちにしても俺一人じゃ手に余る。手は余るどころか足りてないんだけど。文字通り。

 

 本人が大丈夫と言っているなら、学校でもいいのだろうかこれは。しかし腕が足りないのでここは救急車を……。

 

「よっ、困ってるかい主人公君」

「うわぁ急に現れんな!」

 

 助けを求める俺の声が神ではなく邪神に通じたのか、いつの間にか横にレアが生えてきていた。何故かご丁寧にうちの制服を着ている。どこで入手したんだ? 

 

「いや、ちょうどいいか? レア、この荷物と松葉杖持ってくれ」

「え、なんで私が雑用やる流れなの?」

「これもお前の作戦のためなの!」

「……まぁいいけどさぁ」

 

 レアに荷物を持ってもらい、俺は烏城を抱える。

 同年代と比べても二回り小さな体の烏城は、片腕がなくても工夫すればなんとか抱えられるサイズだ。

 

「よし、とりあえずこのまま学校に行くぞ!」

「よく考えなくても私が烏城などめ抱える方が良くない?」

「お前なんかやりそうじゃん」

「やるけどさ……」

 

 なら尚更俺が運ぶに決まってんじゃん。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 保健室に着くなり先生に「なんで学校に来たの?」と怒られた。

 理不尽だが全くもってその通りでもある。とりあえず烏城を保健室において、教室に戻ろうとしていた俺の後ろを、誰かが付いてくる。

 

「学校は部外者立ち入り禁止だぞ」

「原作者ぞ私。部外者扱いは失礼じゃないかな?」

 

 制服を着ているとはいえ、髪の毛の色からしてCDの裏みたいな銀色をしているこの女がうちの生徒じゃないことは簡単に気づけるはずなのに、誰も注意する様子がない。

 きっとこれはコイツの能力の一つなのだろう。『七不思議』枠は基本なんでも出来るからね。

 

「吟一くんも腕がなくて大変だろうから、今日一日私が君の面倒を見てあげようと思ってね。ほら、ありがたーく思たまえ」

「助けてくれるのがお前なことを除けばすごくありがたいかな」

「まぁ本音を言うと君の学園生活を見て面白がりたい。茶々入れまくりたい」

「なんで自分からギリギリあったありがたみ捨ててんだ?」

 

 まぁ手伝ってくれる分にはありがたいし、さすがに学校で変なことをしだしたりはしないだろう。

 

「でも、俺の学園生活なんか見ても絶対面白くないぞ?」

「安心したまえ。どんなに面白くない君の灰色の学園生活も、私の手にかかれば驚きに満ちた薔薇色の生活になるだろうさ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつもありがとうございます倉木くん」

「いえ。一応図書委員ですから」

「図書委員になる前からいつもやってくれてるじゃないですか。倉木くん背が高いので、つい頼っちゃうんですよね」

 

 俺が取った数冊の本を抱えている、流れる川のような綺麗な青髪とやけに近未来的な電動車椅子に乗っているのが特徴の彼女は指矩(さしがね) 希月(きづき)。俺達の一個上で、容姿(キャラデザ)からみてわかる通り恐らくはヒロインの一人。多分レアから車椅子どうたらこうたらみたいな名前をつけられてる人。

 

「じゃあこれ借りてきますね」

「わかりました。手続きはもう済ませたんで、誰にもバレないようにしてくださいね」

「ふふ、私がこんな趣味があるなんて知れたら、学園中の噂になっちゃいますもんね。今度美味しいお菓子を持ってくるので、くれぐれも誰にも言わないでくださいよ?」

 

 原作ではなんか退魔師の一人? らしいんだけど俺はそこ読んでないから原作キャラってことくらいしかわかってないが、足腰に病気があって立てないだけで普通の優しい先輩という印象の方が強い。

 クモリとつるんでいたら偶然知り合って、俺は背が高いから図書室で彼女が届かない本を取る時に頼まれたりしている。

 なので、彼女が実は超古いロボット漫画『鉄人グレンガイガー』にハマっていて、うちの図書室でちまちま借りては読み進めていることを知っているくらいで特に深い関係は……。

 

「学園一の美人の車椅子先輩に図書室の本を取る時必ずヘルプに呼ばれる二人だけの秘密を持つ高身長キャラ!?」

「うわ急に叫ぶなよここ図書室だぞ」

「おい! 君自称モブだろ!? なんでそんな面白そうな立ち位置にいるんだよ!? これだけでラブコメ二次創作いけちゃうじゃないか!」

「別に先輩とはそういうのじゃないし……」

 

 確かにちょっと特別な関係ではあるとは思うけど、基本的に図書室でしか話さないし、校内ではすれ違っても挨拶するだけ。きっかけもクモリと話していたところにたまたま先輩が通り掛かって、って感じだ。

 

「そもそも先輩も愛憎輪界(ヒロインズ・タービン)に組み込まれてるんだろ? なら別に俺とそういう関係じゃないって分かるだろ」

「私が許せないのは君が私以外のキャラといい感じの関係築きつつ、それがめちゃくちゃ面白い感じになりそうな事だよ! 私より面白いことを私の作品内でやるな! こんなの全然モブじゃないぞ!」

 

 そもそも俺、別にモブになるつもりとか全くないんだけど……。

 原作に関わったら危ないしクモリの友人として安全圏にいたいと、最初こそ思っていたが長く暮らすうちに霊障にも慣れてきて、原作キャラと関わったりするのも学校生活上仕方ない時もあったし特に気にしたりもしてなかった。

 

「というか、希月先輩すごい普通な感じだったけど、本当にタービンの一部なのか?」

 

 表向きは希月先輩とクモリの関係は先輩後輩以上のものでもないし、気丈に振舞っているだけかもしれないがそれにしたって漫画を借りに来るくらいにはメンタルも安定してそうだし、あんまり暴走という感じはしないのだが。

 

「彼女は間違いなく愛憎輪界(ヒロインズ・タービン)の一部だよ。そもそも、彼女の足腰が弱くなってるのもその呪いが影響しているんだから」

「改めてろくなもんじゃねぇな」

「君がエアプだって聞いたから彼女がヒロインなの!? みたいな反応を楽しみにしてたのに〜! 面白みがないよぉ〜! こんな面白くない展開嫌だぁ〜」

 

 レアは子供のように不機嫌を顔で表している。一見可愛らしい少女の仕草だが、中身がおじさんだと考えるとキツいものがある。

 

「そういえばだけどさ。お前って中身原作者の虎落なんだよな?」

「一応私はそのつもりだが、それがどうした?」

「つまりお前も死んじゃって転生とかしてるんだと思うんだけど、原作ってどうなったの?」

 

 その質問をした瞬間、レアの顔から表情が消えた。

 喜怒哀楽。どれも表現してないのではなく、どれを表に出せばいいか迷うように。時折少しだけ何かを口にしようとして、やめて。それを何度か繰り返してから、ポツリとレアは呟いた。

 

「どうだっていいだろ、そんなこと」

「漫画家って読者を大切にするものじゃないのかよ」

「私が大切にしているのは幸福だ。驚かされた回数こそ、人の幸せの数値化だと考えている。だからこそ、私は過去なんでどうだっていいんだ」

 

 そう語るレアの口調は、普段のふざけて砕けたものとは大違いだった。

 そこで喋るのは見た目通りの少女にも、何百年も生きた仙人にも思える、今までのどんなレアの奇行や発言よりも、よっぽど人間離れした何かがある。

 

 

「そう、私はこの主人公不在の物語を、最高に驚きに満ちたモノにしたいんだよ。だから、君には私が思い描く最高の主人公になってもらいたいのさ」

 

 

 俺はこの世界で生きて、この世界のことをもうとっくに『漫画の世界』だなんて思えなくなっていた。だがレアは違う……と、思っていた。

 

 しかし違う。

 レアは前世の世界も、今世の世界も別に両方同じ程度にしか思っていない。誰かを驚かせて、彼女にとっての幸せで世界を満たす為。その為に、どんなものも道具にする。

 

 彼が描いていた『汚鳥レア』というキャラクターなんかよりもよっぽど、虎落逸軌は機械的で人外じみた男。

 そう感じざるを得ない冷たさが、彼の言葉には篭っていた。

 

 やはり俺は彼女とは相容れない。

 面白いからという理由だけで、絶対にいつか乙葉やこの学校の、この世界に生きる誰もを破滅への道に誘う悪魔。協力はしても信頼はしてはいけない。

 

 

 この生き物は、創作者(かいぶつ)だ。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 そんな風に思っていた、僅か数分後の事だった。

 

 

 

「うわぁー! わぁー! これが乙女心!? すっごいドキドキする! 見てくれたまえ、私今きっと顔が林檎のように赤いはず! お姫様抱っこまでされちゃって、もうこれ心臓が破裂しそう! こんな気持ち初めてだよ!」

「倉木くん……この子、随分とこの状況で元気だけど貴方の友人なんですか?」

「いえ……他人です……」

「近くで見ると指矩希月って本当に、女の子にモテるタイプの美人だったんだな……。もう私恋愛漫画家になる……女の子同士の恋愛専門の作家になる」

 

 中身おっさんの銀髪美少女原作者が、車椅子に乗る希月先輩にお姫様抱っこをされて瞳の中にハートが浮かぶ勢いで乙女回路全開になっている。

 

「倉木くんなんでしょう、この子女の子のはずなのに、この子にそういう目で見られるのが何故かすごく苦痛なんです。知らない男性に性的な目で見られているような不快感が!」

「それよりもとりあえず俺を助けてくれませんか先輩。そいつ投げ捨てちゃっていいんで」

「心配しないで、です。私は倉木先輩を助けに来ただけです」

 

 そんな指矩先輩とレアのやり取りを俺は巨大な髑髏の怪物の手に握られながら眺めていた。

 そして髑髏の怪物の肩には、図書委員の後輩であり今朝まで包帯ぐるぐる巻きだったはずの烏城が乗っている。

 

「そう。これから私たちの手で……クモリ先輩を取り返すです」

「その間、倉木くんの身は私たちが守りますから、安心してくださいね」

 

 普通に考えればそれは、愛憎輪界(ヒロインズ・タービン)の影響を受けて狂ってしまった二人の妄言。

 特にこの二人は、レアによればテロリストや都市崩壊級の危険度を孕むヒロインのはず。

 

 だが、そう切捨ててしまうにはあまりに二人の雰囲気はいつもと変わらず、どこにも狂気が感じられない。

 

「レア、どういうことだ! ……クモリは、お前に殺されたんじゃないのかよ!」

「さすが私……こんな美人をデザインできるなんて……。指矩希月お姉様マジ尊い……」

 

 ダメだこの原作者本当に役に立たねぇ! 

 

 

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