原作主人公が死んだ。ヒロイン達が爆発した   作:ちぇんそー娘

9 / 10
ヒロイン蠱毒/彼女もまたヒロイン

 

 

 

 

 図書室でレアとくっちゃべっていたら、突然天井が崩れてきた。

 

 わけもわ駆らず押しつぶされると思ったら、車椅子で爆速で駆けつけてきた希月先輩が大量のロボットアームでレアを助け、俺の方は突然湧いてきた巨大な骸骨とその肩に乗った烏城に助けられた。

 

 そしてなんやかんやでレア(中身おっさん)が希月先輩(美人高校生)にガチ恋した。めちゃくちゃキショい。

 

 

 

「烏城さん。準備出来ましたか?」

「OKです。学校各所に『仔』は仕込んできました。あとは結界を起動するだけでいつでもいけますよ」

 

 

 そんなわけで、風通しが良くなった図書室の端っこで体育座りしながら、何やら怪しい会話をしている二人を俺とレアは眺めていた。

 空の色がおかしいし、図書室が崩れているのに誰も騒いだりしている気配がないあたり既に結界やら何やらが貼られているのだろう。

 

 問題は、それをやったのが悪霊の類なのか、希月先輩達なのか、だろう。

 

「おいレア。希月先輩達ってヒロインなんだよな? どういうヒロインなんだ?」

「見ての通り絶世の美女」

「真面目に」

「大真面目だよ。なんだろう、この体の影響なのかな? 年上の先輩に助けられたって思い返すだけでもう胸がドキドキして正確な思考が出来ない……」

 

 ただでさえ役立たずだったレアは、希月先輩に助けられてなんかめちゃくちゃおかしなことになってしまった。そもそもコイツ、助けられるまでもなく瓦礫くらい自分でどうにか出来るだろ。

 

「とりあえず、助けてくれたみたいだしこっちに危害を加えてくる感じもないし……これって大丈夫なんじゃないのか?」

「指矩希月お姉様がそんな酷いことするわけないだろ! もう顔立ちから世界の正しさが滲み出てる……誰があんな美人に彼女をデザインしたんだ? 神か? 私って神だったんだ……」

 

 まぁたしかに指矩先輩は美人だけど。

 車椅子だし体が弱いらしいんだけど、そういうのを感じさせない芯の強さみたいなのがあるまさに高嶺の花って感じの人。俺も彼女が悪いことをするところなんて想像がつかない。

 

 

「あとはこの結界が起動すれば……」

「はい。学校を中心に街を呑み込み、全ての生命を妖力に変換する『蠱毒』の完成です」

「さすが烏城さんですね。きっと衆生の嘆きと苦しみがこの街に新たなる呪いの花を咲かせてくれるでしょう」

 

 今めちゃくちゃやばいこと言ってない? 

 もうセリフのチョイスが悪役だよ。一般市民のことを衆生とか呼ぶの、やばい思想を持った感じの悪役くらいからしか聞いたことがないもん。

 

「おいどうすんだよ。お前のお姉様、このままじゃ大殺戮おっぱじめそうなんだけど」

「いや。きっとなにか深い事情があるはずなんだ……。お姉様は心優しく清く美しい人間だから……そ、それに最悪私の『小夜子vs加奈子大作戦』で選んだ悪霊には彼女は絶対に勝てないから指矩希月お姉様だけは止められるからセーフ!」

「止めなきゃいけない時点でアウトなんだよ」

「大丈夫大丈夫。方法ももう考えているから今から急いで『七ッ谷送り狼』をこの学校に誘導して……」

 

「指矩先輩の方は、あれ持ってきてくれたですか?」

「もちろん持ってきましたよ。封印するのは加減しなきゃならないので少し手こずりましたが、『赤服令嬢』、『七ッ谷送り狼』、『迷ノ宮地蔵』。全ては封印処理をして手元にありますとも」

「『疵騙り』は回収前に祓われてしまったので、これでこの街のめぼしい悪霊や怪異は全てですね。まったく、貴重な悪霊(バッテリー)を祓うなんてとんでもない、です」

 

 ダメじゃねぇか。

 

 もう前提からひっくり返されてる。レアが言っていた悪霊が、緋鞠に祓われた『疵騙り』を含めて全員祓うか捕まるかしてるんだけど? 

 

「おい……おい! お前……今までなんにも役に立ってないぞ!」

「1回君を助けただろ! 止血もしてあげたし、武器もあげた!」

「なんでそんな物理的なことにしか役に立ってないんだよ! お前の最大のチートは知識だろ!」

「予定調和な作品に面白さなんてあるかァー!!!」

 

 今まで会話してる中で一番マジトーンでレアはキレた。

 そんなふうに大声で喧嘩をしていると、何やら準備を終えたらしい指矩先輩が車椅子でこちらに近づいてくる。

 

「さて……倉木くん達はどうしましょうか?」

「落ち着きましょう先輩。俺達を殺しても何もありません」

「いやいや、殺さないわよ。それはそうとそっちの女の子は誰?」

「前に説明した七不思議ってやつです。汚鳥レア。『裏路地の神様』です」

「へぇ、この子が。ふふ、見た目は私よりも小さな子なのに、すごいんですね」

「そうそう。私は凄いんだよ。何せ実質この世界の創造主みたいなものだし」

「じゃあこれも生贄にしたら効率的なんじゃないかしら?」

 

 指矩先輩は普段と変わらない調子で、口から酷く倫理に欠けた言葉を吐き出している。なまじ普段と変わらないが故に、発言と雰囲気のギャップで頭が痛くなってくるほどだ。

 

「七不思議についてはどうでもいいです。ですが、倉木先輩は安全なとこに退避させておいてくださいです」

「ん〜? あれ、もしかして烏城さんって倉木くんのことが……?」

「私の好きな人はクモリ先輩だけ、です」

 

 そう言いながら烏城は俺に、何かを手渡してくる。

 

「これは?」

「お守りです。持ってないと死ぬので、死にたくなければ絶対に離さないように」

「死ぬって……何をやるつもりなんだ、烏城?」

「簡単なことです。()()()()()()()()()()。それだけ、です」

 

 それが、烏城が愛憎輪界(ヒロインズ・タービン)によって付与された狂気なのだろうか。

 

 クモリを取り戻す、と言っているがクモリは誰かに攫われたりしている訳では無い。

 葬式の時に確かに死体は確認したし、乙葉が俺よりもしっかりと確認したはずだ。

 

 クモリは肉体的に完全に死亡していた。

 悪霊に魂を持っていかれたとか、そういう理由で復活できるような余地もなく確かに肉体も火葬されたはずなのだ。

 

「烏城、どういうことか説明……ッ!」

「指矩先輩。私は儀式の準備があるのでその二人をさっさと置いてきてください。七不思議の方は捨てていいです」

「わかりましたよ。それじゃ、いきますよ倉木くん」

 

 指矩先輩の車椅子から伸びてきたロボットアームが、俺とレアの体をがっちりと掴み、彼女が部屋を出るのに合わせて烏城から引き離されてしまう。

 

「指矩先輩、貴方達は何をしようとしているんですか?」

「倉木くん、愛憎輪界(ヒロインズ・タービン)って知っていますか?」

 

 本来なら彼女が知るはずのないその言葉。

 ただ、緋鞠のように知っている人物が現れたことによって既にそれは俺達以外にも知る人物がいてもおかしくない言葉にはなっている。それでも、いきなりその言葉が出されれば少し驚いて言葉に詰まってしまう。

 

「クモリくんを中心にした人間関係の愛憎の渦。それによって生み出される無限の妖力。人間関係から偶発的に生み出されたものにしても、これを考えた『神』なる存在がいたとしたら、その方は凄い方だと思います」

「えへへ……」

「なぜ汚鳥さんが嬉しそうにしてるんでしょう……?」

「すいません、その子少し頭が残念で……後で叱っておくんで話進めてください」

「おい変な事言うな! 私年上だからな!?」

 

 指矩先輩は頭にはてなマークを浮かべながらも、一旦レアの事を捨ておいて話の続きに戻る。

 

「ですが、私は思いました。……これ、効率悪くないですか?」

「……ふぅん?」

 

 その一言に、先程まで恍惚の表情を指矩先輩に向けていたレアの表情が、一瞬にしてニヤついた笑みに切り替わる。

 怒っていると言うよりは、楽しんでいる。切り込まれることすら、彼女にとっては驚きを与えてくれるスパイスになる。

 

「まず、中心を人物にすることそのものがスケールが小さい。そしてこの輪廻の中で憎悪を回し続けるのも人間同士。これでは人が出来ることを自動で出来る装置程度にしかなりません」

「お言葉だが、人が人を想うという感情以上に強いものは、少なくとも()()()()()()存在しない。故に、人間の感情で回すよりも効率的なものは無いよ」

「あら、なぜそう言い切れるのですか?」

「神だから、かな?」

「なるほど。神様がそう言うならそうかもしれませんね」

 

 指矩先輩の車椅子が停止する。

 階段の目の前に来たそれは、本来は転落防止の為に停止するのだろうが、各部から煙吹き出しながらゆっくりと形を変え、最終的に六脚の戦車のような形になり器用に階段を降りていく。

 

 明らかに、この世界の科学力の水準を超えた機械。

 恐らくは陰陽術やキズガミを科学と混ぜ合わせた、科学呪術兵器の類。

 

「この学校には車椅子の人間用のエレベーターがあります。ですが私は車椅子にこのような機能を付けました。さて、何故このような機能をつけたか。レアさんは分かりますか?」

「そっちの方が驚きがある」

「ええ。その通りです。車椅子が変形して階段を降り始めたら、カッコイイですものね」

 

 二人の意見が重なる。

 だが、重なっているのに二人は全く交わっていない。そんな奇妙な感覚があった。

 

「そう、かっこいいんです。もしも出来たらかっこいい。理由なんて、そんなものでいいでしょう?」

「なんの理由だい?」

「それは()()()()()()()()()()()ことの、ですよ」

「さ、指矩先輩!? 何言ってんですか!?」

 

 原作での彼女のことは車椅子の先輩ということくらいしか知らないが、少なくとも俺が今日まで一緒に過ごしてきた指矩先輩は、そんなことを急に言い出すような人間じゃない。

 

 愛憎輪界(ヒロインズ・タービン)の悪影響。それが真っ先に浮かぶが、それだと認めるには彼女はあまりに、いつもの指矩希月なのだ。

 

「まず私なら起点は建物にします。正確には烏城さんを起点にして、学校という建物を彼女の外殻と見立てます。下準備の為にちょっと図書室を崩してしまいましたが、まぁ必要経費ですね」

「じゃあさっきの救出マッチポンプじゃないか。乙女の純情を弄んだな」

「お前乙女じゃないだろ佐藤樹」

「汚鳥レアです〜!」

「そしてその状態で学校に結界を貼り、人物の出入りを禁じた上で予め捕獲しておいた高位の霊を三体放ちます。これらの霊は烏城さんに対して逆らえないように、彼女の形代……肉体の一部を体に溶かしてあります。これにより彼女への攻撃は自分にも返るため、攻撃目標は自然と結界内の彼女以外の人間になりますね」

「悪霊による一般人の大虐殺が開始だね」

「そうですね。今は準備段階で皆さんは意識を失っていますし、悪霊も放っていませんが、儀式が始めれば正しく地獄絵図、悲鳴の大合唱ですよ」

 

 サラッと言っているが、まず『七ッ谷送り狼』、『迷ノ宮地蔵』、『赤服令嬢』を捕まえて調伏という時点でこの計画はかなりおかしい。

 本来なら緋鞠クラスの退魔師が、クモリと協力しても相性が良くなければ勝てないレベルの強力な霊。

 しかもそれを捕らえてやらせることが大虐殺。とても正気の沙汰ではない。

 

「この結界の特徴は、閉じ込められた人間が全員主犯が烏城さんであると認知出来るんです。脳に直接情報を叩き込まれます。この秘匿性の低さによってここまでの規模の結界を生み出してるとも言えるのですが」

「なるほど。そうやって効率を上げるのか」

 

 レアは何やらわかったようだが、俺にはやばいことしか分からない。

 指矩先輩はレアを見て少し不満げに頬をふくらませて、それから俺の反応を見て嬉しそうに笑って説明を続ける。

 

「悪霊に理不尽に嬲り殺される。そして犯人もわかっている。そうなれば殺される人間は当然犯人を恨みますよね? しかも、悪霊の妖力に当てられて変質した強い憎悪が烏城さんに向けられます」

「そうすると……どうなるんですか?」

愛憎輪界(ヒロインズ・タービン)で説明されたでしょうが、具体性がなくとも強い感情は他者を害することがあります。その条件は、感情の強さと対象の明確さ。それを満たすために死に際の憎悪と、烏城さんという標的を作り出す」

「強い憎悪は烏城などめへの殺意となり、結界内という閉じられた環境と悪霊により変質したそのエネルギーは致死の呪いとなって烏城などめを襲うだろう」

「そこで出てくるのが、さっきの形代です。烏城さんへの悪意ある影響の約7割は、彼女の肉体の一部を埋め込まれた悪霊達に流れます」

 

 つまり、烏城は死にはせず悪霊達がダメージを負う。

 しかし烏城に攻撃できない悪霊達は一般人を襲ってせめて少しでも魂を補給して己を保つしかない。

 

「だがそれにも限界はある。7割しか流せないこと、そして学校の人間は有限なことだ」

「そこは愛憎輪界(ヒロインズ・タービン)を参考にさせてもらっています。殺された一般人の怨念は烏城さんに流れ、烏城さんはそれを悪霊に流す。悪霊達は自身を弄ぶ烏城さんに強い恨みを感じながらまた一般人を殺す。延々とループが発生し、烏城さんという明確な目標がある分未定着になる呪いは少なくなりますが、それでも多少は未定着の呪いがエネルギーとして抽出できるので、それを利用して順次結界を拡大します」

 

 利用されてるじゃねぇか、乙女の純情弄びタービン。

 

 いやしかし、倫理的人道的に問題があるのは前提として、それでもこのシステムには問題がある。

 

 幾ら順次結界を拡大しようとも、烏城は呪いを受け続けるしそれを無理やり悪霊達に移し、悪霊達はさらに殺戮を繰り返して補給によって呪いを耐えるのならば。

 

 移し続けるにしても限界がきた烏城が倒れるか。

 悪霊か、烏城か。どちらにしてもいつか拡大し続ける呪いによって限界が来てこのシステムは崩壊する。

 

「このシステムの目を見張るべきところは速度です。コンスタントに人間の憎悪を呪いに還元して集めつつ、悪霊達に更なる進化を促す。魂の捕食により進化していく悪霊達は、どんどんと新しい力を身につけてその力で自身を弄ぶ烏城などめを殺そうとします。結果、崩壊するよりも早く、途方もないエネルギーを得られるか、悪霊が新しい形に進化するか……とにかく、『神』と呼んでもいい何かを作れるはずです」

 

 愛憎輪界(ヒロインズ・タービン)は恒常的に廻り続けるからこそ、瞬間的なエネルギーには優れないものの各自恩恵とデメリットが中和され、小さなメリットが残る形になった。

 だが、このシステムはデメリットを全て度外視して、ひたすらにエネルギーを増産し、その果てに生み出したエネルギーで『何か』を作ろうとしている。

 

「なるほど。上手くいけば崩壊と同時に抽出される純粋無垢な呪いのエネルギーは、形を持たない理論上『なんにでもなれる』リソースだ。端的に言い換えるなら、どんな願いも叶う魔法のアイテムだ」

「まさか、それを使って烏城はクモリを!?」

「ん。それは無理ですかね」

「え?」

 

 これはクモリを取り戻す為の大術式。

 そのはずなのに、指矩先輩はあっさりとそれを否定した。

 

「理論上、この大規模術式でも死者を蘇生するだけのエネルギーの抽出なんて無理ですね。烏城さんは可能と考えているようですが、私はまぁ、それよりも先に彼女が廻るエネルギーに耐えられず死亡する、と考えますね」

「じゃあなんで、協力してるんですか……?」

 

 この術式を行っても、クモリは帰ってこない。

 それならば、愛憎輪界(ヒロインズ・タービン)のヒロインの一人であり、クモリのことを愛しているはずの希月先輩に、メリットがない。ただ大量虐殺を行うだけ。

 

 

「そんなの、決まってますよ」

「……なるほど、確かにその通りだ」

 

 

 指矩先輩の笑みに、レアの影が重なる。

 純粋に、妖艶に、笑うその姿は見た目は全く似ていないのに、魂の姿が重なるのだ。

 

 

「呪いの集積の果てに産まれるナニカ。きっとそれは、私たちを()()()()くれますもの」

 

 

 

 この人の思考回路は、あまりにも───。

 

 

「指矩先輩、貴方は何者なんですか?」

「それはきっと、レアさんが知ってるんじゃないかしら?」

 

 そう言われて、俺はレアの方に視線を向ける。

 

「いや知らん。……と、言いたいところだが。推測はつく。というか、私達はお互いに推測がついてしまう」

 

 どんな時もなんだかんだと楽しそうに笑っているレアが、珍しく眉間に皺を寄せて不機嫌そうにしている。

 彼女はとんでもないことを自分から口走るのは大好きだ。だが、誰かに促されて、まるで教師に言われるがままに問題の答えを導き出すのは不愉快極まりないとばかりに、答えを口にする。

 

 

「指矩希月。原作における役回りは悲劇のヒロイン。生来の肉体の脆弱さ故の自由のない生活から、『普通』への憧れと嫉妬を抱き、それを利用されて敵となり、最後は捨てられる。ありふれた悲劇のエピソードでカタルシスの為の下準備。それだけの為に準備した女だ」

「そうそう。だから私には搭載されているんです。どんな些細な『普通』にですら憧れ、自分のモノにしたいという羨望。そして自らが知らない『未知』への絶えることなき興味。私は、驚かされたくて仕方ないんです」

 

 驚きと未知を愛する、どんなものでも楽しみながらどんなものでも一歩引いて他人行儀に接する奇妙な態度。

 

 それは、俺が今日までずっと悩まされてきた彼女と全く同じ。

 

 

「指矩希月の正体は──────虎落逸軌だ」

「さすが創造主様。100点満点をあげられますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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