7月6日、23時。七夕の日に願いが叶うという噂と意識不明の者が続出するという話を聞いて、夏油は呪霊の発生を疑い、山奥に来ていた。明日一日、ここを張るつもりである。
何せ、一年に一回しか見つけられない呪霊だ。逃してなるものか。
意気込みに対して、24時になると、あっさりと呪霊は現れた。
立派な竹の呪霊が、初めからここにいたとばかりにひっそりと佇んでいたのだ。
「ふむ? こういう時、悟だったら術式がわかって便利なんだけど」
とりあえず、すぐに降参してくるわけではないようだ。出方を伺うと、いきなり領域が展開された。
降ってくる短冊。「悟」「あの頃に帰りたい」「会いたい」と書かれ、呪力が凄まじい勢いで減っていく。
それは、私の胸の一番奥底に隠していた願いだった。
短冊で埋もれて、呪力が吸われて、暴れて、もがいて、呪霊を出した。
けたたましい、そして懐かしいサイレンがなる。
「うるせーっ 夜の0時だぞ!」
壁越しに聞こえる声。えっ あれっ 毛布? ベッド。隣にいる悟。
ダダダダダダっと走る音。開けられるドア。
「傑! どうした!」
「すみません、寝ぼけました」
「寝ぼけて術式を暴走させるな、バカもん!」
びっくりして、懐かしくて、私はポロリ、と涙を流していた。
「!????」
「ごめんなさい……呪詛師になってごめんなさい……」
「まだ寝ぼけているのか、傑。もう良いから寝ろ!」
それから、先生に寝かしつけられて、目覚まし時計の音がなって、朝7時に私は目覚めた。
「もう、ほんっといい加減にしろよ、傑」
いつも通り、3人揃って食堂で朝食。悟はぷりぷりしていたが、それも当然だろう。
「悪かったよ、悟。本当に夢見が悪かったんだよ。ねぇ悟。過去に行く術式なんてあると思う?」
「ある訳ねーだろ。なんで?」
「夢があんまりリアルだったから、未来の私が呪霊の力でトリップしたんじゃないかって」
「はぁ? じゃあ未来のこと言ってみろよ」
「灰原が死ぬ。産土神。拍手。理子ちゃんが死ぬ。呪力のない猿。拍手。虐待された双子。悟に会いたい。踏み躙られた。拍手。怖い。悟に会いたい。苦しい。後は戻りたいって書かれた大量の短冊。思い出せるのはこれだけ」
「私はいいのか」
プリプリと硝子が突っ込む。
「硝子にも会いたい」
「まず灰原が誰だよ」
「さあ……?」
「なんか走馬灯みたいだな」
「そうなんだよね。私、負けちゃったのかも。後呪詛師になったのかも。未来でね。昨日、私、呪詛師になってごめんって泣いちゃったらしいんだよ。寝ぼけててよく覚えてないけど」
「は? なんで」
「さあ? なんていうか、すごくリアルな夢だった気がするんだけど、起きたら全部忘れちゃった、みたいな」
今も、思い出そうとすればするほど記憶は解けていく。
「なんだよそれ」
「まあ、灰原って奴と理子ちゃんって奴が現れたら考えればいいんじゃない?」
「そうだね。今日は七夕のお祭りだし、楽しもうか」
「そろそろ時間だな。さっさと授業行こうぜ」
私は、慌てて残りの朝食を掻き込んだ。