水面がキラキラと輝く昼下がり。南5番エリアの海岸に位置し、パルデア十景に数えられるひそやかビーチにて、ペパーは想い人とデートを楽しんでいた。
デートと言っても交際関係には至っていない。しかし二人は互いに想いあっており、現状こそどちらも告白に踏み切れていないが、このまま恋仲になるのも時間の問題といったところだった。
「綺麗だね、ペパー」
頬を朱に染めながらはにかむのは先日チャンピオンクラスに至った才女、アオイ。普段は天真爛漫にミディアムヘアを揺らしているが、ことポケモンバトルとなると鍛え上げられたポケモンを使役する姿や冷静で正確無比な指示を繰り出す凛々しい一面を見せる。
そんな彼女はアカデミーで告白されることも少なくない。整った容姿は言うまでもなく、チャンピオンクラスに裏付けられた実力、また誰にでも明るく接する人柄は同世代の男子を釘付けにしていた。
だがアオイが告白を受け入れたことはない。その理由は、言わずもがな隣で赤くなっているペパーが理由。
少し歳上で普段は頼り甲斐のあるお兄さん。しかしひでんスパイスの一件やパルデアの大穴で見せた歳相応の子どもらしい一面は彼女にとって魅力的なギャップに映り、気付けば恋焦がれるようになっていた。
水面は太陽の光を乱反射する。ペパーはその輝きに目を細めた。
「綺麗、だな。……ああ、綺麗だ」
「ペパー?」
「あ!? べ、別に変な意味はないぞ!?」
「……?」
控えめに首を傾げるアオイにペパーは一層顔を赤くする。「アオイの方が綺麗だよ」もしもそう言えたなら。第二次性徴特有の羞恥心を恨みながら、彼は笑顔で誤魔化した。
ざざ、と波が砂浜に押し寄せる。二人は心地良くもくすぐったい幸せな時間に高揚していた。
ペパーは人知れず拳を握る。彼の横顔は覚悟を決めたような真剣な顔付きで、こっそり盗み見ていたアオイはドキリと胸を鳴らせた。
「……なあ、アオイ」
声変わりを終えた大人の男性を象徴する低い声。その声音は割れ物を扱うが如く優しくて。
「……あの、さ」
「……うん」
「……っと、その、だな……」
「……ね、ペパー」
言い淀むペパーに優しく呼びかける。ペパーは心臓が口から飛び出そうな緊張を押し殺して、想い人へ視線を向けた。
「……ゆっくりで、良いよ?」
彼女は目を潤ませながら、それでも安心させようと柔和な笑みを浮かべて、ペパーの手をきゅっと包む。
ペパーはそこで初めて彼女の手も自分同様微かに震えてることを知り、短く息を切った。
(……ここまでお膳立てをしてもらったんだ。次は俺が男を見せなくてどうする)
男から告白をする。前時代的だと笑うだろうか。それでも彼は、自分から想いを伝えることに拘った。
今までアオイには数え切れない程助けてもらい、救ってもらった。ならばお互いがお互いのことを想っていると確信を持てた今、今度は自分が彼女に返したかったのだ。
「アオイ」
その声にもう迷いはない。彼は改めてアオイへと向き直り、初恋を口にしようとする。
……余談だが、パルデアの海には獰猛で有名なギャラドスが生息している。その出現は予測可能なものではなく──
「GYAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
「ワレェ!!! 今ペパーはんが男見せようとしとったやろが!? いてこますぞワレ!!!」
──方言で怒鳴るヨクバリスのすてみタックルにより、突如現れたギャラドスは一撃で沈められたのだった。
飛び散った水飛沫がパタタと二人に降り注ぐ。当然先程までの空気は霧散しており。
「……か、堪忍な二人とも! せやけどおっちゃんしばいたったさかいもう大丈夫や! ほれペパーはん! 続き言うたり!」
「……はぁぁぁぁぁ……タイミング最悪ちゃんかよぉ……」
奈落の底にも届きそうな深いため息をつく。ペパーはお門違いを理解しながら、それでもヨクバリスへ恨みがましい視線を送った。
ヨクバリス。まるまると太った身体をココアのグラデーションのようなふかふかの体毛で覆ったポケモン。ペパーの手持ちの一体であり、何故かキツめの方言を自在に操れる。
このままではせっかくの告白が台無しになってしまう。正真正銘ポケモンだが人並みの心を持ったヨクバリスは慌ててその場を取り繕うとする。
「ペハーはん!? 何言うてんねや! まだ間に合う! せや! もっぺん頭からやり直そうや! いける! 今回はいけるで!」
「……ヨクバリスが悪いわけじゃないけどさぁ……まあでも、助けてくれてありがとうな……」
「……はっ!? そ、そうだね! ありがとうヨクバリス!」
「かまへんかまへん! せやから続きを……」
「流石にそんな空気じゃ……、なあ?」
「そ、そうだね! ……それに、わたしもさっきみたいなロマンチックな雰囲気の方が……」
「? どうした?」
「う、ううん! 何でもない! 気にしないで!」
「アホやなぁペパーはん。ええか? アオイはんはもっとええ雰囲気で……」
「よ、ヨクバリス!? それ以上喋るとパーモットにインファイトしてもらうからね!?」
「堪忍や! おっちゃん死んでまう!」
濁した言葉をわざわざ口にしようとするヨクバリスを弱点タイプを持ったポケモンで口封じしようとするアオイ。効果はてきめんで、ヨクバリスは「お口チャックや!」とお喋りな口を
遠くでカイデンの群れがくーくーと鳴く。ここから仕切り直せるとは、ヨクバリスを除いて二人は考えておらず。
「……アオイ、時間は大丈夫か?」
「へ? ……あ!?」
アオイはパルデア地方でも数少ないチャンピオンクラス。誉れ高い地位は相応の責任を伴っており、今日もこの後はトップチャンピオンであるオモダカに呼び出されていた。
「また今度、な」
「……うん、待ってる!」
最後にぱっと花の咲いたような笑顔を浮かべ、アオイはモンスターボールからミライドンを呼び出す。
その場を後にする彼女の背中を、ペパーは名残惜しそうに眺めていた。
姿が見えなくなる。ペパーは衣服についた砂を払いながら、改めてヨクバリスを心配する。
「怪我はなかったか?」
「……やっぱ自分、ええ男やなぁ」
「へへ。ありがとうちゃんだな」
「まあ根っこはチキンやけどな! かしわなんか
「う、うるせえ! 次は絶対告白してやる!」
5chの例のネタ。他のポケモンが喋るかは未定。