とある凡才投手の苦悩   作:鯖太郎

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第10話

「にじさんじ高校、選手の交代をお知らせ致します。ピッチャーの葛葉くんが、センター。センターの江口くんに代わりまして、ピッチャー、夢追くん」

 

「お前にかかってんねんぞゆめおー!」

 

 監督から励ましなのかプレッシャーをかけに来てるのかよく分からない声が飛んでいるが、それよりも楽しみ、という感情が溢れ出して止まらない。

 初めての対外試合での登板、相手は去年の夏負けた相手。9回裏ツーアウト、3点リードの展開。

 

「うらっ!」

 

 ブルペンでも感じていたが、調子は上々。しっかり真っ直ぐが指にかかる。

 スライダー、シュート、パームもなかなか悪くない。

 最後の一球を投げ終えると、早坂さんがマウンドへやってくる。

 

「初登板緊張するかもだけど、大丈夫。楽しんで行こう」

 

「はい!」

 

「あ、それと今日マジでゆめおの球全部良いからどんどん変化球も使っていこう。相手橋本だしなかなか手強いけど、今日のゆめおなら打ち取れるから」

 

「……っ、分かりましたっ! お願いします!」

 

「よし!」

 

 対戦相手は橋本。同じ1年生ながら、夏にはセカンドのスタメンを張り、夏大会では葛葉相手にタイムリーを放った。打率も高く、長打力もある、正直今の久慈第一では一番怖いバッターだ。

 そんな選手相手との勝負。今までなら及び腰になっていたかもしれないけど、今はこの勝負が楽しみで仕方がない! 

 

「5番、セカンド、橋本くん」

 

「プレイッ!!」

 

「いけー! ゆめおー!」

 

「こっからチャンス作るぞー!」

 

 双方の声援が飛んでいる中、早坂さんのサインは……真っ直ぐ。外。

 それに頷き、セットポジションに入る。

 イメージは葛葉を抑えた時のような、ねじ伏せにいく球。

 球速は無くていい。最後の最後まで力を伝えるストレートを……! 

 

「ゥらっ!!」

 

 あたしの渾身のストレートは、鈍い金属音を残して白線の向こうへと転がって行った。

 

「ファールボール!」

 

 早坂さんが頷きながらボールを返してくれる。

 早く、早く次のサインを、早く投げさせてくれ。

 次のサインは同じところにシュート。

 軽く頷く。恐らく少しタイミングをずらして引っ掛けさせるのだろう。

 

「ゥらっ!」

 

「ファールボール!」

 

 少し早いタイミングて捉えたボールが今度は一塁側のファールゾーンへと飛んで行った。

 よし、上手く追い込めた。審判からボールを受け取った早坂さんがグラブでこちらを指しながら投げ返してきた。キャッチャーと意思疎通を取りながら組み立てていく。この作業がたまらない、早く、早く次を! 

 

 3球目のサインは、パーム。これもアウトコース。

 引っ掛けてゴロ、上手く行けば空振り。

 ツーストライクだから最悪ボールになってもいい覚悟で厳しく! 

 

「ォらっ!」

 

 あからさまに体勢を崩したスイングから放たれた打球は一塁戦へ。

 

「アウトッ! ゲームセット!! 集合!!」

 

 堀江さんがしっかりと抑えてファーストライナーに打ち取った。

 

「礼ッ!」

 

「「「「「ありがとうございましたっ!!」」」」」

 

 

 

 

「いい球投げんじゃんゆめおー」

 

「ありがとうございます! 早坂さんのおかげです!」

 

「最後のパーム落ちきらなかったけどアウトになって良かったな」

 

「そうですね……タイミング外して体勢も崩せたんですけど拾われましたね」

 

「ま、反省会は後ですっか! ひとまずデビューおめでとう! ナイピ!」

 

「ありがとうございます! 早坂さんもナイスリードでした!」

 

 初登板を無事終えたあたしの下にチームメイトが集まってくる。

 

「ナイスピー!」

 

「ゆめおナイスー!!」

 

「あざっす!」

 

「良かったぞ、ゆめお!」

 

「ありがと! 舞元もナイスバッティング!」

 

「球、遅いねぇー!」

 

「ありっ……おい葛葉、待て」

 

「100キロ出てた?」

 

「出てたわ流石に!」

 

「ピッチャー陣はさっさとダウン!」

 

「はい、すいません……」

 

「うぃー……てかゆめおダウンいる? 3球しか投げてないのに?」

 

「うるせぇ! アップで結構投げてんだよ!」

 

「ピッチャー!」

 

「「すんませんでしたぁ!」」

 

 この後めちゃくちゃクールダウンした。

 

 

 

 

 さて、そんなこんなで特に大きなイベントもなく新年を迎えた。新年気持ち新たにチーム一丸となって甲子園を目標に打ち立てた。あたしも全体的なレベルアップと葛葉に次ぐリリーフエースに近づく1年に、との抱負を立てた。

 そして月日は流れ、聖ヴァレンティヌスの殉教した日を起源に持つとされている、何故かキリスト教が国教な訳でもない日本で、これまた何故かチョコレートを親しい友人や異性に送り合うという魔改造をされて広く浸透したとあるイベントの日のこと。

 

「ゆめおー、どうだった?」

 

「は?」

 

「いや、まだ何も言ってねぇだろうが! 怖ぇよ!」

 

「いや、別にいいんだけどさ。なんで聞きたいのかなーって思って。もし仮に舞元があたしの事を笑いものにするために、わざわざあたしが貰ってないことを己の口から言わせて辱めて、それを嘲笑う為に聞いたんだったら、だいぶ今後の付き合い方変わってくるけど大丈夫?」

 

「怖ぇよ!! 普通に気になっただけだって!!!」

 

「あ、そうだったか! あー、良かった! あたしに前科つかなくって!」

 

「お前、やっぱやべぇって……」

 

 そう言いながら後ずさりする舞元の左手には、小さな包みが控えめに主張していた。

 明らかに女物の、舞元の趣味とは言い難い可愛らしい包装がされた包みはこの野球部の部室全体から敵として認められるには十分すぎる輝きを放っていた。

 

「お、お前……ふざっけんなよ!?」

 

「どうした? そんなでかい声出して」

 

「み、見てくださいよ、舞元の、左手を……」

 

「舞元……その袋、な、なんだよ?」

 

「嘘だと言ってよ舞元ォ!」

 

「お前俺と同じ顔の癖にィ!!」

 

「だはは! すまんな、お前ら!」

 

「○す!」

 

「shit!」

 

「あぁぁぁぁあああああ!!!!」

 

「炎上! 炎上!!」

 

 舞元に彼女が出来た。

 

 全くもって許されざる大罪を犯した舞元はこの日以降部で名前を呼んではいけない人扱いをされ、案の定調子に乗りまくっていた舞元は先輩に〆られていた。ざまぁみろ。

 ちなみに江口先輩だけはどうやって付き合えたのかについて事細かに聞いていた。

 

 そんな出来事があったのだが、人を呪わば穴二つとはよく言ったもので、あたしは練習に参加できなくなっていた。

 

「あれ、袖とぷていどこいった?」

 

「お? ゆめおとプティのこと?」

 

「そう、それ」

 

「あぁー、あいつら補習だってさ。あと早坂さんも」

 

「え、マジで? あいつら補習? ゆめお俺に勉強教えといて補習? だっせー! 弱すぎィ〜」

 

「まあ、プティはまだしもゆめお特進クラスだからなー……」

 

「あっ……ッスー……え、てかなにそれ? 特進クラスとかあんの? うちの高校」

 

「あいつたまに練習来んの遅い時あんだろ? あれ特進だけの講座みたいなやつらしい……ってかもう三学期末なのになんで知らねぇの」

 

「いや……俺勉強興味ねぇし……」

 

「いや、お前勉強興味ねぇってレベルじゃねぇぞ!? お前の部活の仲間でポジションも学年も、なんなら帰る方向まで同じやつだからな!? なんつーか、葛葉、悪いことは言わねぇ。もっと周りに興味を持て」

 

「うわっ、くっせー、舞元の発言ジジイ臭ぇー! 臭すぎて鼻取れっかと思ったわ」

 

「誰が説教臭ぇジジイだ。白髪混じっててもれっきとした高校生だぞ」

 

「まあまあ、確かに見た目はおっさん臭さなら俺もそうだかんね」

 

「力一ぃ……やっぱお前だけが俺の味方だよ……」

 

「……いや、力一さんは見た目わかんねぇんだけど?」

 

「んまぁー、でも俺も一緒に外野守ってっけど舞元のプレーに関しては若さを感じたことは無いね」

 

 近くでストレッチをしていた力一も会話に加わってきたのだが、舞元の味方が増えたわけではなかった。

 

「力一!? 嘘だろ……俺の事ずっとおっさんだと思ってたのか……」

 

「いやいや、おっさんとは一言も言ってないじゃないの。ただ若さを感じない、なんつーか、玄人好みなプレースタイルってやつだね」

 

「いや、俺のウリは足と守備だぜ? こんなハツラツとして若さ溢れる選手いないだろ?」

 

「いや、足と守備て。そこがウリの選手ってプロだと打撃の衰えたベテランかレギュラー掴み損ねた中堅選手なのよ」

 

「だめだ、ぐうの音も出ねえわ。わかった。力一、カチ○す」

 

「いや、おかしいでしょ。ガンギマリまで早いって。え、ちょっと待って、舞元さん、目ェ怖いって。ゆっくり近寄んなって! 怖ぇよ!」

 

「力一ぃ……俺の強みは足だからなぁ……走って逃げても無駄だぞぉ?」

 

「練習始めんぞー!」

 

 今日も野球部は賑やかだ。

 

 

 

 

 




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